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度重なる「全世界決戦体制、ケルベロス・ウォー」の発動により、世界経済は大きく疲弊していた。この経済状況を打破する為、ケルベロス大運動会が今年も行われることになった。
ケルベロス大運動会。
それは世界中のプロモーター達が、危険過ぎる故に使用できなかった「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々を持ち寄り、開催国に造りあげた巨大で危険なスポーツ要塞で、ケルベロスたちが超人力を発揮して様々なアトラクションを攻略する世界的なお祭りである。
「ジャンボ! みんな、第2回ケルベロス大運動会の開催地はもう知っているよね? そう、赤道直下のアフリカ大陸は『ケニア』だ!」
いつになくハイテンションのゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)。身にまとうのはケニアの民族衣装、カンガという一枚布だ。布の端をつまんで持ち上げ、くるくると回る。
「いいよね、カンガ。原色同士の組み合わせとか、カシューナッツや果実をモチーフにした大胆な柄とか。布の中央に書かれたジナ = セイイング、 スワヒリ語のメッセージがまたいいんだな。ほら、ここを見て。文字が書かれているだろ UPENDO NI NURU YA MAISHA。愛は人生の光であるって意味なんだって。みんなもお土産に買うといいよ!」
集まったケルベロスたちにさんざんカンガを見せびらかした後で、ゼノはようやく本題を切り出した。
「大運動会の当日なんだけど、『ケニア市民に向けた格安の屋台村』をみんなで運営して盛り上げて欲しいんだ」
『ケニア市民に向けた格安の屋台村』の1人あたりの予算は200円前後。安いけれど美味しい料理、或いは、安いけどボリュームのある料理、安いけど珍しい料理など、安いけど○○という料理が求められる。
「食材はすべて日本から持っていくよ。あ、運送費や光熱費は予算の中に含まれないから……といっても、なかなか厳しいよね」
それゆえゼノは、料理の腕に覚えがあったり、面白い企画を思いつけるケルベロスたちを広く募ったのだという。
「うん、企画大事。みんなに求めるのは日本をアピールする料理を作ることだけじゃないからね。屋台村のロケーションにあった屋台デザインも考えて欲しいんだ」
屋台の作成費は別なのだが、やはり縛りがある。豪華絢爛な内装の店で、たとえば『たこせん』を出されたら、客はと~ても複雑な気持ちになるだろう。出す料理と屋台は雰囲気を合わせる必要がある。つまり、屋台作成予算もそれなりに低く抑えてもらいたい、ということだ。
「たとえばだけど、料理は流しそうめんで屋台は屋根も椅子もなし。ながーい氷で作った水路沿いに立って食べてもらうだけ、とか。ケニアはトマトを料理に使うし、カツオと醤油のつゆのほかに、トマトつゆやフルーツつゆ、なんてのがあってもいいかもね」
箸の使い方や食べ方のレクチャー、あるいはまったく麺をとれない人のフォローをしたりしてコミュニケーションが広がりそうだ。
だが、これはあくまでゼノの「例え話」なので、ケルベロス諸君には想像力を大いに発揮して屋台村を企画、運営して頂きたい。
「そそ、例えだからね。……えっと、この屋台村は日本政府の協賛なので、食材の準備などは日本政府が責任をもってやってくれるよ。店長のケルベロスが競技に出ている間は、日本人の料理人が代わりに仕切ってくれるんだって」
運動会に参加するケルベロスでも安心して運営に参加できるので、ぜひ!!
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男前が台無しになる、と苺柄の半纏を拒否した玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)だったが、ねじり鉢巻きだけは渋々受け入れた。カンガの布で作ったかりゆしウェアを着て、下ごしらえされたイチゴに串を手際よく刺していく。
屋台は後ろに紅白の幕とイチゴ柄のビニール暖簾を張った本格派だ。
「準備OKかな?」
苺柄の半纏を着て、空を飛び回っていた猫が、にゃん、と鳴く。
風で土埃が上がると、陣内は眉をひそめた。
「ほらほら働け、陣」
半被にねじり鉢巻きを締めた比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)が、飴のはいったボールを持って来た。
「もうすぐだよ」
待っていた子供たちに笑顔を向ける。
背中を向けたとたん、イタズラ子に半纏の裾を引っ張られてのけぞった。
屋台の隣で月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)が笑い声をあげる。
イサギは日傘つきの椅子に座ってフルーツジュースを飲んでいた。
「あんたも働く!」
「私に労働を期待する方が間違っている。陣内、そうは思わないかい?」
「思わないな。働け」
仕方ない。働くか。
「お嬢さん、ひとつ如何かな?」
苺柄の半纏からイケメンオーラを全開放出し、ケニアの小さなレディたちに声をかけ始めた。
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マサシャル食堂に看板も暖簾も必要ない。
鉄板の上で黄身を潰した目玉焼きを焼いて大判のせんべいに乗せて割れば、美味なる音と匂いが小腹を刺激する――。
「……果たして食堂と言えるのか、これ」
シャルフィン・レヴェルス(モノフォビア・e27856)は空を仰いだ。屋根ぐらい作るべきだったか。
「しかし、もっと暑いと思っていたな」
「だね。日本の秋ぐらい?」
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)はお好み焼きソースを塗ったたこせんに目玉焼きを乗せた。マヨネーズをかけて、ふたつに折れば完成だ。
「はい、味見してみて?」
シャルフィンの口へたませんを近づける。
「うむ、美味しいぞマサムネ」
美味しそうにほおばる恋人の横顔が、なによりのご褒美だ。
「あっ、シャルフィン、ソース顔についてるよ?」
「ソースが零れていたのか。ありがとな」
ソースのついたマサムネの指を口に含む。
通りかがったゼノが、によによしながら足を止めた。
「ごちそうさま。ボクにもひとつ頂戴」
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ぼっかけうどんを提供するのは、看板にうどんのお椀を持った牛さんが描かれた『ガルコバ』の屋台だ。牛筋肉とこんにゃくを甘辛出汁で煮込むいい匂いがあたりに漂う。
「それじゃ私行って来るよ! 料理任せたからね!」
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)は、牛さんの立て札を持って屋台を飛び出した。
スカーフを巻き、牛の絵がプリントされたエプロンを着けた朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)が青ネギを刻みながら送り出す。
「薬味は好みでトッピングして貰っても良いかもしれませんね」
「そうやね。すり下ろし生姜やら入れて、ダシにとろみつけてもええかもしれへん」
人参柄のエプロンをかけた沙鷹・遊弦(黒ウサウィッチドクター・e22487)が長机を並べながらいう。
「ゆで上がったじゃ」、とアーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)。
「アーさん! うどん追加ァ!」
クロノが子供を連れたケニアのお母さんたちを連れて来た。
「さあ、忙しくなるでぇ」
遊弦は袖をまくり上げると、ほのかが作ったぼっかけうどんをつぎつぎと運んだ。
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「騙されたでござ!」
かき氷器のハンドルを回しながら、浴衣にタスキ姿の福富・ユタカ(殉花・e00109)は叫んだ。
『花ひらり』の屋台でご奉仕するのは日本の伝統かき氷、なのたが……。
赤道直下とはいえ、高原のケニアは結構過ごしやすい。
「むしろ涼しいぐらいでござよ。どれ、手動かき氷機を使って楽をするでござるか」
「手ぬきですか。ユタカさんはもっと真面目に働いたらどうです」
そういう京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)は、紫陽花柄の浴衣にハイヒールブーツとしゃれこんで、椅子に座ってかき氷を食べている。
オルトロスのえだまめと、ふんどし姿で看板を持つ飛猫のヤードがうらやましそうに目を向けた。
ユージン・イークル(煌めく流星・e00277)が、現地の子供たちと一緒に氷の塊を運んできた。こちらは深い青地に星と花火が散る柄の浴衣だ。
「……働かざる者食うべからず、だよ?」
笑いながら、夕雨が座る椅子を氷で囲う。
「氷攻めも涼しくて最高♪」
「だめだ、こりゃ」
そこへアイカ・フロール(気の向くままに・e34327)が空の器を持って戻って来た。緑地に花柄のちょっとレトロな浴衣姿がとても愛らしい。
アイカと一緒に客引きをしていた飛猫のぽんずも、柄揃いの甚平姿だ。
「ユタカさん、いちご味をお願いします! トッピングは練乳で……!」
ユタカは苺練乳を作ると、シロップを補充しているユージンに声をかけた。
「ユージン殿も折角でござるし、ブルーハワイでも食べて休んで下され」
「ブルーハワイも美味しそう……。ぽんずはそれにしますか?」
アイカに頷くぽんずの下で、えだまめも食べたいアピール。子供たちも欲しいと手を出してくる。
「ちょっと待つでござるよ……が、しかし。夕雨殿、てめぇはダメだ」
夕雨のかき氷にたっぷりケニア産の塩が振りかけた。
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神社風屋台をバックに、笑顔でピラウおむすび一つと冷トン汁をテーブルに置く。
「カリブ!」
『選べる定食屋』調理全般の責任者、維天・乃恵美(奉雅駆の戦巫女・e02168)は、スワヒリ語でどうぞ、と勧めた。水着の上に暖色のカンガを纏った姿は、男性客のみならず女性客にもお洒落と評判だ。
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)が冷たい玄米茶を出す。こちらは橙色のカンガに紅いビキニが、ケニアの青い空によく引き立っている。
「お土産に特選メロンパンはいかが? 女神も美味しさを認めた一品よ」
購入した客には、水色のカンガに蒼いビキニ姿のユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)が鳥居に刀と月の絵と『KUROBUSA』のロゴ入り幟をプレゼント。
「夜は衣装を変えて祭囃子を流して、ぐっと日本の屋台っぽくなるよ。また来てね」
ふたりはパンフレットを抱えると、新たな客の開拓へ向かった。
(「これはもう、止められないわね」)
ルベウス・アルマンド(紅卿・e27820)はおいしい水をアイスエイジで凍結し、氷柱をいくつも作っていた。さまよう水晶剣をグラビティで繰り、細かく削いでかき氷にしていく。
人見知りするたちだが、ルベウスは集まったケニアの人々にスマイルを向けた。
「味は、苺、ブルーハワイ……でも、お値段と味は保障するわ……」
同じく接客が苦手なラヴェルナ・フェリトール(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e33557)が、かき氷配りを買って出てくれた。
「苦手なことも……あるけど、お客さん待たせるよりは……良い。折角の運動会……屋台も楽しんで、貰いたい……」
接客の合間に、冷えた濡れタオルをルベウスに渡すことも忘れない。ついでに屋台の衛生状態にも目を光らせる。
(「衛生面も……気をつけないと……。あの腹痛は……ちょっと辛い……」)
ラヴェルナは空になった容器を回収すると、決められた場所へ捨てに行った。
「ええっと、ね……」
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)は、「牛肉巻きおにぎり」をワッフルメーカーでプレスしながら無料オブションの説明をする。
「こっちをワッフル化すると…カリカリジューシーで旨味を増して、ピラウ風は……外カリカリで中はモチモチで堪らなくなるよ」
出来たてをひとつナイフでカット。お客さんに手渡す。
「あっ……リリベットちゃんも……良かったら試食どう?」
お客さんを案内し終えたリリベット・リスト(ドワーフの降魔拳士・e38963)にも勧めた。
「えへへ、それでは、お味見ひとつずつ良いですか?」
あっという間にワッフル焼きのおにぎり二種類が、緑色の地にお花模様のカンガの内に消えた。
「お客さんにお勧めする為のリサーチです、食いしんぼじゃないです」
次はデザートの試食を、と手書きの料理イラスト入りメニュー表をフリフリ去って行った。
「安くて美味しい定食はいかがですか~?」
ソフィア・ベル(色気より眠気・e38689)がハイパーリンガルで道行く人に呼びかける。笑顔の下で休みなく動き回る手のおかげで、周辺はゴミ一つない。と、近くのテーブルから声がかかった。
白のワンピース水着の上から腰に巻いた赤色のカンガをたなびかせ、メモを片手に急いで向かう。
「とん汁ですか? 豚肉と野菜を煮込んで味噌で味付けした日本の料理ですが、大丈夫。豚肉のかわりに山羊肉を使用してます」
宗教に配慮した料理の説明もばっちりだ。
「デザートはどこですか?」
お客さんだと思って振り返ったら、リリベットだった。デザートの試食に来たらしい。
ソフィアは黙ってリール・ヴァン(良物件求ム・e39275)を指示した。
白一点のリールはテーブルの増設移動などの力仕事、および料理とデザートを担当している。
「しかし、こうも美人に囲まれての仕事となると、まぶしい笑顔につい見とれてしまいそうになるな」
「ぼうっとして手を抜いちゃダメですよ」
乃恵美がすかさず釘を刺す。
「無論、調理の手は抜かん。特に自ら提案した日本茶葉のティーケーキは安価で良い茶葉を調べて要請し、型も適切なサイズを用意させた。リスト殿の希望チェックにも目を通している……とご本人の登場だ」
切り分けたティーケーキを差し出したところへ、ルリィもユーロが目を輝かせてやってきた。
「しょうがないな、もう……」
ルベウスもラヴェルナもネリシアもソフィアもおいで。乃恵美は第二部を前に、みんなを集めて夕食をとることにした。
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夜店風の屋台と茶屋風の屋台。どちらにも木の板に墨で『武闘派無名堂』、と力強い雰囲気の筆遣いで書かれた看板を掲げた。屋台の建材は無名堂敷地内の樹を下降して作ったものだ。
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)は屋台の出来に満足すると、団で揃えた法被の袖に腕を通した。食材の準備を始める。
屋台設営を手伝っていた此野町・要(サキュバスの降魔拳士・e02767)と天音・迅(無銘の拳士・e11143)が、遠巻きに眺めている子供たちを呼び寄せた。
屋台で出す品の味見をしてもらおうのだ。
「慌てなくてもいいぜ、ほら」
タンクトップの上から半纏を着た要が、氷を入れたポリバケツに手を突っ込んで、キンキンに冷えた飲み物を取り出し、紙コップに注ぐ。
同じく揃いの法被とタンクトップにハーフパンツ姿の迅は、自分が販売担当するおでんをいくつか鍋から取り出した。
大満足する子供たち。
「手ごたえあり、だな。本番も頑張ろうぜ」
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は蓋の空いたドラム缶を縦半分に切って寝かせ、石で地面に固定した。上に鉄板を置いて、オープンな環境で豪快にお好み焼きを作り、目でお客を楽しませるのだ。
揃いの法被を着たボクスドラゴン『ボクス』も、ドラム缶の火力に問題ないか見張る。
「ドラム缶に潜り込むのは構わないが、煤だらけの体で四季殿に迷惑をかけないようにな?」
荒耶・四季(進化する阿頼耶識・e11847)は、ビーツーがお好み焼きを焼く横で焼きそばを作っていた。
「すまない、ビーツー。ボクスに言って、少し鉄板の火力を上げて貰えないか?」
「ボクス。焼きそば側の火力を少し上げてやってくれ」
「アギャ?」
「アギャ、じゃなくて……って、お前……もう全身煤だらけになっているじゃないか」
さっき注意したばかりなのに、と肩を落とす。
「まあまあ、それだけ熱心に火加減を見てくれているってことさ」
じゅうじゅうと鉄板の上で麺が焼ける音が食欲をそそる。さっそく腹をすかせたケニアの青年たちがやって来た。
(「去年の屋台のように、私が他の料理まで受け持つことにならなければいいのだが」)
隣を見て、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)はひとりごちた。法被の袖をたすき掛けにして、ドラム缶を加工した鍋に揚げ物油を注ぐ。火力調節はドラゴンブレスだ。
「ラグナルは……そのあたりで寝ていてもいいぞ。今年もどうせ味見係になるだからな」
するとボクスドラゴンのラグナルは、迅たちの所へ飛んで行った。子供たちと一緒に試食を始める。
(「やれやれ。しょうがない奴だな」)
隣から流れてきた客に一口サイズの「鶏の唐揚げ」と「とり天」を売りながら、晟は頬を緩ませた。
「お祭りって感じでワクワクするな!」
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が屋台の一角で売るのは、チョコバナナと白玉だんごだ。
バナナにチョコペンで模様かいたり、カラースプレーチョコをかける。法被についたチョコのシミはご愛敬。パフォーマンスを派手にしすぎたせいだろう。
見ると屋台の前で客引きをするオルトロス『チビ助』にもチョコレートがついていた。
あ、一緒に客引きする歯車・巻菜(天穿ツ魔弾・e15522)の法被にも……。
「らっしゃーせー!! ……え? 違う?」
「なんでもない。ほら、前。お客さんだよ」
「あ、はい。えっとねーオススメは全部です! どれも安くて美味しいから、買ってくれるとうれしいな♪」
巻菜の直球トークに苦笑いしつつ品を渡す。
「はい、どうぞ。急いで食べたら喉詰まらすから、あっちでゆっくり座って食べてな!」
藤堂・十字(全ての理は肉体に通ず・e14845)は、座敷に上がった客に飲み物のメニューを持って来た。
「日本茶、味噌汁、ソフトドリンク。……チョコバナナと白玉だんごなら日本茶はどうか。温かいものと冷たいものがあるぜ」
十字は注文をとって屋台の奥へ戻ると、味噌汁の具を刻むヴァジュラの背に声をかけた。
「言うまでも無いと思うが、飲み干すなよ、ヴァジュラ」
「俺よりも――」
クイッとしゃくられたアゴの先に、クレアツィーネ・オルテンシア(尻尾ぴこぴこ・e24088)がいた。アニメキャラのお面が頭に乗せ、浴衣の肩に法被を羽織っている。日本で屋台を冷かして歩き、そのままケニアに来たといった姿だ。
クレアツィーネは駄菓子コーナー係というよりも、もはや試食味見係である。というのも、すでに二巡目……。
「お前な……仕事しろ」
十字はあきれながら、冷たい日本茶のグラスを盆にのせた。
「さっきゼノおにーさんと遊ん……ううん、ツルを折って、屋台の飾りつけしたよ」
だからいいでしょ。と、とと様におねだり。
要がリクエストされたオレンジジュースを、ハインツがチョコバナナをクレアツィーネに手渡す。
ねじり鉢巻きを決めたチェシャ・シュレディンガー(凸凹不偏な能芯套・e27314)が、アタシの『なんちゃってタコ焼き』も味見して、と一舟持ってきた。
「俺も試食しよう」
「ヴァジュラちゃんは……まって、ちょっと食べ過ぎじゃないかしら!?」
山のように盛られていたたこ焼きが、あっという間になくなった。
「とと様、味見で完食は、めっ!」
「あ、いや。つい」
つい、じゃないよ、とチェシャが突っ込む。
ケニアの草原に笑い声か響き渡った。
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カンガ布の天幕の下で、コマキ・シュヴァルツデーン(月と翡翠・e09233)がおにぎりを作る。
「この前の戦争で、師団でずーっとおにぎりを作ってたのだけど、おにぎりって要するに、お米を味わえるお手軽な日本食なのよね」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)に話しかけながら、笹の葉の上におにぎりを並べた。
「腹が減っては戦は出来ぬとはよく言ったもの。先日の戦争時には、コマキさんのおにぎりに救われた。あ、いらっしゃい」
ウルトレスの長髪を束ねるバンダナは、コマキの髪を纏めているシュシュと柄がお揃いだ。ケニアの老夫婦が指さしたおにぎりを、誠心誠意、説明する。
「日本の最もポピュラーなファストフードにして家庭料理。行楽時から緊急災害時まで大活躍する食べ物だ。是非食べてみてくれ。カナリア型の玉子焼きも一緒にな」
コマキがおにぎりの横にカナリアの形に型抜きした卵焼きを添える。
「私たち、金糸雀師団に所属するケルベロスなの。だからカナリア……かわいいでしょ」
ふたりは柔らかな笑みを浮かべて、おにぎりを手渡した。
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ごくシンプルな屋台の上に、現地の言葉で『オウマ式野菜カレーうどん』と書かれた木の板が掲げられている。
ここはカレーの臭いと種族特徴の「隣人力」でスマイル接客する相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)の屋台だ。
「オウマ式野菜カレーうどんだ! 遠慮しないでどんどん食べてってくれ! ゼノ、お前も食べていけよ」
材料費を抑えるため、泰地はカレーうどんから肉を外していた。小さく刻んだ野菜は残念ながらルーに溶けてしまったが、味は折り紙つきだ。
「ちょうど日が暮れて寒くなってきたしな」
寒くなってきた、の下りで萎れたゼノの肩をバシンとどやしつける。
「まあ、オレもケニアは暑いと思い込んでいた口だ。気にするな。 だけ、来年はちゃんと調べてくれよな」
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:36人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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