ケルベロス大運動会~ケニアグリーン作戦!

作者:柊透胡

「皆さん、『スパイラル・ウォー』の奮戦、お疲れ様でした」
 都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)の声音はいつもと変わらず沈着だが、表情は心なしか安堵しているようだった。
「しかし……度重なる『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動により、世界経済は大きく疲弊してしまっています。この経済状況を打破する為に、ケルベロスならではのイベントで収益を上げようという事になりました。それが、ケルベロス大運動会です」
 ケルベロス達に通常のダメージは効かない。そこで、世界中のプロモーター達が、危険過ぎる故にお蔵入りとなった「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」の数々を持ち寄った訳だ――この辺りの流れは、昨年と同じく。
「今年の開催国『ケニア』の各地に、巨大で危険なスポーツ要塞を造り上げています」
 そう、栄えある第2回ケルベロス大運動会の開催地は、『ケニア』! さあ、ケニア各地のアトラクションに挑戦しよう!
「……さて、ここからが本題です。ケルベロス大運動会の会場を提供して下さったケニア政府からの要請で、ケニア各地のヒールを行う事になりました」
 有志による活動だが、ケニアの豊かな自然を取り戻し、人々の生活を豊かにするのが主旨となる。
「サバンナの様子が少しファンタジックになるかもしれませんが……動物達は、きっと気にしないでしょうから」
 一瞬、悪戯めいた笑みが浮かぶも、創はすぐ、生真面目な面持ちでタブレット画面をスクロールする。
「皆さんには、『水源が枯れた為、砂漠化しそうな荒地』のヒールをお願い致します」
 かつては、水源である泉を中心に緑豊かな村があったが……泉が枯れて農業も立ち行かなくなってしまった。耕作を諦めた住民が土地を棄てて以降、荒れる一方。砂漠に呑まれるのも時間の問題だ。
「まず、枯れてしまった泉を深く掘って、地下水を掘り当てる作業を行って下さい」
 地下水脈は、固い岩盤に阻まれている。攻撃グラビティを使えば、岩盤の脆い一点を深く穿つ事も可能だろう。
「『脆い』箇所は、ヘリオンの演算により割り出しています。範囲型のグラビティは、威力と攻撃範囲の観点から不向きでしょう。ピンポイントで地下水脈まで、岩盤を鋭く貫いて下さい」
 泉に水が戻ったら、周囲の荒地をヒールして、耕作可能な大地に戻す。更に、荒れ果てた周囲の村の住居等も、ヒールで復旧してあげると良いだろう。
「ケニアは赤道直下の国ですが、高地ですので、比較的過ごし易い気候ではあります。それでも、日中、外での作業となりますので、体調に気を付けて無理なさらないよう。水分とミネラルはしっかり摂って下さいね」
 ちなみに、植物をヒールした場合、『既に収穫されていた木の実等は復活しない』。植物も動物と同様にヒールは可能だが、例えば米の収穫後の水田にヒールを掛けても、再度収穫は出来ないのだ。
「ヒールが終わった後は、元住民の皆さんをご招待するようですね。ケニアのテレビ局の企画で、ヒール前後の違いを元村人さん達に驚いてもらう番組の撮影も行うようです」
 ケニアは雨が少ない為、木が育ち難く石造りの家が主流。キッチン、トイレ、シャワールームは母屋と別に建てられる。原則として大人1人につき家1軒で、家族同士が1つの敷地に隣り合って家屋を建てるという。
「ヒールした後は、アフリカの自然を満喫したり、元住民の方と交流するのも楽しそうですね」
 泉を蘇らせ、土地を耕作可能にまで回復させる。更に住居もヒールするのだから、やむを得ず、この地を去った彼らにも戻ってきて欲しい所。その辺りのプレゼンも――ケルベロス次第かもしれない。


■リプレイ

●水源の確保
 ケニア某所――熱風が砂塵を巻き上げる。泉が枯れ果て、棄てられた廃村は砂に沈むのを待つばかり。
「大丈夫っす! ドワーフの技術とこのシャベルがあれば! 多分何とかなるっす!!」
 始動、ケニアグリーン作戦! 第一段階は、水源の確保。水濡れも万全に競泳水着にラッシュガードを羽織り、シャベルを握るノイアール・クロックス。水源確保の穴掘りに興味津々だ。
 旅団「終末菜園」の4人も枯れ泉を見回す。乾いた土と枯れ草が堆積し、荒涼とした光景だ。
「ここを水で満たす……すごく浪漫かも」
 ウォーレン・ホリィウッドの言葉に否やはない。実際、参加者の半数は主に水源確保に動いている。
 まずは泉の底を深く掘り、地下水脈を阻む岩盤を露出させる。
「よし! お前の出番だ! ベル!」
 八島・トロノイの掛け声に、飛び出したオルトロスのベルナドットは颯爽とここ掘れワンワン。
「俺はじいさんでこそないが正直な医者で通ってる。絶対に水は出る!」
「ベルさん、水の匂いがする? それじゃ岩盤に当たるまで、頑張ろうー」
「俺はサポートします! オウガメタルさんも応援してますよ」
 筐・恭志郎のメタリックバーストが、仲間の超感覚を覚醒させる。
「ふふ、元気百倍です♪ どーんと掘りますよぉ! どーん!」
 ウォーレンが降らせる酒涙雨の中、掛け声も勇ましく大器晩成撃を繰り出す楠木・ここのか。
「ウォーレンさんのグラビティ、文字通りの呼び水ですよ。ここのかさんも、何となく水属性っぽい雰囲気だし!」
「蘇った水は大地を潤して花を咲かせる筈さ。つまり花咲か妖精だな」
「ありがとうございます。妖精になるのは、私の永遠の憧れですから……この世界が水と緑でいっぱいになりますように!」
 仲間を微笑ましく見やり、ウォーレンは再度雨を喚ぶ。
(「デウスエクスをころす力、だけど……その力で得た水が大地を潤して命を育む。戦争でちょっとパサパサした僕の心も、癒される心地」)
 一斉に掘られる泉の底だが、まだまだ土の層は厚い。
「なるほど、これは中々骨が折れそうです」
 旅団「友達ごっこ」担当の一角で、土の感触を確かめるテト・アルカマル。穴掘り技術には自負がある。表情に出たり出なかったりだが、テンションはかなり高い模様。
「道具を使った方がいいのでしょうか?」
 折角、がんがん掘っていい機会。ノリノリのウェイウェイなリティア・エルフィウムだが、一撃拳で穿ってみて……小首を傾げる。
「その方が効率は良いですよ。スコップを、こう……上手く捻って」
 ぐりん、とテトが抉った綺麗な円形の穴はそこそこ深い。
「ね、簡単でしょう?」
「まぁまぁ! 見事ですわね! さすが穴掘りボーイです!」
「……疲れた。ね、テト。ここ、ここ掘って。ダンのぶんも」
 コロンと寝転がるダンサー・ニコラウスの鼻腔を擽る鉄分のにおい。お目当ての水脈からは多分外れている。
(「むむ、ダンのやる気に火がついたかも」)
 徐に起き上がり、少女は秘密兵器パイルバンカーを取り出す。
「いちばん、たくさん。綺麗な水を見つけてあげる。だってダンは環境に優しいトナカイ」
「ああ、こっちには穴堀のプロフェッショナルがいるんだ、水源確保も容易いだろうよ」
 まさか異国で穴堀りとは、なんて肩を竦める柳江・霧賀も、テトの助言を参考にシャベルを握る。
「金や化石も眠っていやしないかねえ」
「ダンは石油が良いかも」
 軽口を叩き、汗を流す事暫し――いよいよ、水脈を阻む岩盤に行き当たる。都築・創が付けた印の真下に、地下水脈が眠る筈。
「……よし、岩盤まで行きましたね。ミチェーリ、お願い!」
 アメジスト・ビームシールドを円錐状に展開させた「アメジスト・ラム」で土を掘り進めたフローネ・グラネットに代わり、ミチェーリ・ノルシュテインは氷のパイルバンカーを構える。
「後は任せて、フローネ。この氷杭の一撃で、水源までを穿ち抜きます!」
 正確な狙いで高速射出された『氷柱』は、岩盤に突き刺さり砕け散る。
「こんな時はこれを使えばよいわ」
 続いて、浦葉・響花が取り出したるは黒い球――その名も「破壊球体」。
 バッコ~ン!!
 無雑作に上から落とすや、岩盤を更に粉砕する。
「ほら、掘り進めましょう」
「狙う場所が決まってるなら、あとはやるだけね!」
 今の空野・灯は、前向きスーパーヒロイン「キュアリンカーネイト」!
「ラブリルブレス! リンカーネイト! クレーターパンチ!!!!」
 地面を殴って天高く! 印目掛けて急降下! ピンクの拳型エネルギーを叩き付ける!
「要は、上手く攻撃当てて地下水掘り当てりゃいいんだろ? ヒールよりも性に合ってらァ!!」
「さあてハニー、一勝負と行こうじゃないか。勝ったら相手に1個お願いを聞いて貰う。判り易いだろ?」
「おし、その賭け乗るぜ!!」
 初の共同作業、というより競争? 楽しげに岩盤に向かうブリュンヒルト・ビエロフカと英・虎次郎。
「アタシは自慢の脚で岩盤ぶち抜くぜ!!」
「ああ、勝負するからには全力だ」
 旋刃脚と虎哮嚇牙、荒ぶる重撃が相次いで岩盤に突き刺さる。
「樒っ! いくのだ!!! 秘奥義っでんぐり返し前転回りぃぃぃぃ」
「ん、では一緒に行くとしよう……ただ、全てを切り裂くのみ」
 手乗りサイズに縮みでんぐり返しを高速で繰り出す月篠・灯音に合わせ、四辻・樒の斬撃が奔る。
「ふぉぉぉぉぉぉぉ、痛いのだー」
「大丈夫か?」
「でも。負けられないのだっ! 再びいざっ!!」「あまり無理をしないようにな。水源も大事だが灯も心配だ」
 岩盤直撃で大きなたんこぶを作った灯音に、四辻・樒が慌てて駆け寄る一幕はさて置いて。
「翼と一緒に、オレはこの土地を蘇らせる」
「あたし達のコンビネーションも、皆に見せてあげようね♪」
 ロディ・マーシャルと頷き合い、神宮・翼はミュージックスタート! まず諦めない決意を込めた「殲剣の理」をBGMに破鎧衝の一撃。更に「ヘリオライト」が希望を奏で、岩盤の亀裂に神業めいたファニングでありったけの弾丸を叩き込む。
「決めちゃえ! ロディくん!」
 すかさずサイコフォースが爆ぜれば、見事に大穴が開く。
「ふむふむ、これは中々、ですわ」
 自らも地裂撃で穿つ一方、ユッフィー・ヨルムンドはデータ収集に余念がない。アスガルドゲートへの直通トンネルを目指す彼女にとって、今回のデータは得難いものとなりそうか。
 その間にも、ケルベロス達は何度もアタックを繰り返す。
「わー……市邨ちゃん、流石の破壊力。アタシも負けられないっ」
 狙い済ました黒木・市邨の一撃に、負けん気を覗かせるムジカ・レヴリス。
「ケニアの皆の為ニ、もうヒト頑張り……そうダ。後で塩飴と干し梅、どっちがいい? 凍らせたお茶とスポーツドリンクもあるヨ」
「じゃあ、干し梅とお茶を有難く」
 唇が綻ぶのも束の間。水と緑の恵みが溢れた幸せな土地を目指し、市邨は愛槌を構え直す。
「ムジカ、往くよ、せーのっ!」
「早くヒール組にバトンタッチしないとネ」
 息の合った2人の得意技が岩盤を貫くも――いよいよケルベロス達は最後の難関にぶち当たる!
「むむ、水の気配はあるのに、この岩盤が一際硬くて砕けません!」
 ラリー・グリッターの声に、不敵に笑む四方・千里。
「とうとう、あれを使う時が来たようだね」
「ん? 千里ちゃん、『あれ』って?」
「……あ! 合体技ですね!」
 ゲリン・ユルドゥスが首を傾げれば、ラリーがポンと膝を打つ。
「ふっふっふ……ヒミツの特訓の成果、今こそ見せる時」
「特訓……ああ! そーゆー『あれ』だね!」
「やりましょう、千里ちゃん、ユルドゥスさん!」
 一斉に身構える3人――まず、ゲリンの『銀色星の十字架』が千里の妖刀”千鬼”に収束。
「水の柱が、銀色の鳥が、人々の祈りが、天に届きますようにっ!」
「わたしの全部を……この一撃に込めます!!」
 ラリーの「Volcanic Star Sabe」と息を合わせ、千里の「千鬼流 伍ノ型」が奔る! ――星の力を乗せて岩盤を穿つ妖刀は星と重力エネルギーを注ぎ、光の爆発力を増幅。星と重力と光の相乗威力は、果たして。
 ドゴォォォッ!
 岩盤に亀裂、一拍遅れて噴き上がる水柱。勢いよく宙を舞う2つの小柄を、光翼を広げたゲリンは空中でキャッチした。

●荒地のヒール
「水源の確保は……無事に出来たみたいですね」
 古より水源は生活の中心。再び一からやり直すべく、妹島・宴はメディカルレインを一角に降らせる。薬液は栄養剤のイメージ。更に土地が耕し易くなるように。
 第二段階は荒地のヒール。滋味豊かな土壌を再生する。
「自然は強大だ。気を引き締めてかからねば」
 フィニクスロッドを掲げ、ビーツー・タイトは相棒のボクスに癒炎操る精霊竜を降ろす。
(「火は、再生と希望の象徴でもある。自然の再構成を全力で支援させて頂こう」)
 順次、ケルベロスの癒しの力を上げていく。
「綺麗な緑を取り戻す為、頑張ろう」
 メディカルレインを降らせるアンセルム・ビドー。グラビティで作物は育たぬが、何かの糧となれば。
「ヒールした所、面白い事にならないかな」
「僕は、なるべく自然に仕上がって欲しいような」
 ワクワクと枯れ木をヒールする親友にクスリとして、霧山・和希は黒白の精霊を放つ。オウガメタルのイクスも、頑張っている。
(「ここで暮らしていた人達が、かつての生活を取り戻せますように」)
 ヒール後の散策を楽しみに――地平線まで広がる大自然なんて、日本では中々見られないから。
(「昔はよく崩壊した地を巡ったなぁ……あの時は独りだったけれど」)
 哀傷の唄声で再生を願う天見・氷翠。フローレスフラワーズのステップに雨乞いも込めて。
「……っけふ? のーちゃん、土埃周りにも飛んでるよ?」
「よし、氷翠に謝れ……いや、わたしが悪かった。ごめん」
 練成したゴーレムで豪快にヒールしていたノーザンライト・ゴーストセインだが、神妙な謝罪の後はルナティックヒールで作業する。
「ケニアとの、友好の証……出でよ、桜!」
 込めた念の成果か、光球に触れた木は忽ちピンクの花が満開に。
(「嗚呼……チェレスタこそ、まるで花の妖精、或いは豊穣の女神のようだ」)
 自らはヒールドローンを展開しながら、リューディガー・ヴァルトラウテは感嘆の息を吐く。煌く星々とオーロラの光に包まれ、花弁を降らせるチェレスタ・ロスヴァイセの豊穣の舞は、夫の目にも神々しい。
「折角だから、ルーディも一緒に踊りましょう?」
「参ったな。そんな柄じゃないのだが……」
「大丈夫、私のリズムに合わせて」
 睦まじい2人の足許から、花の絨毯が広がっていく。
 ――♪
 熱い空気にも負けず「ブラッド・スター」を歌い続ける綾小路・鼓太郎。
(「良き恵みが実りますように、遥か東の異国の巫者より此の国の土を司る貴き方へ……でも、流石に喉が渇くのです」)
「眩暈や痙攣、倦怠感はありませんか?」
 一休みしようと鼓太郎が踵を返せば、金翼之交と慕うアイラノレ・ビスッチカが作業中のケルベロスらに声を掛けている。飛行船であり旅団の拠点である「エフィジェ」は空中停泊中。熱中症対策に冷たい飲み物や塩飴、タオル等を愛船の影に。ウィゼ・ヘキシリエンが休憩所兼医療所を設営した。
「恵みの雨は大地の乾きを潤し、黄金の果実の輝きは大地に実りをもたらすのじゃ」
 砂漠化のヒールは、やはりビジュアル的にメディカルレインが好まれるか。あちこち慈雨が潤す中、ウィゼの黄金の果実は再生の道を照らすよう。範囲ヒールで足りぬ箇所は、ウィッチオペレーションで重点的に。
「なるほど、植物もヒール出来るんですね」
 実際に確認して納得のアウラ・シーノだが、持参した種籾はきっと役立つ。村に人々が戻るなら、将来の為に譲れば良い。
「これでしっかりと根を張る事でしょう!」
 先に植えた苗木に根元からヒール。ケニアの厳しい気候にも負けぬように。
「カッツェ、この写真のように……お願いします」
 バラフィール・アルシクは、古い写真と首っ引き。この水路を直せば一帯の畑も潤う筈。自然と馴染むヒールを心掛け、ウイングキャットと翼を広げる。
「ここが緑の美しい土地になったら、又訪れたいですね」
 アイラノレの言葉に、赤眼を細めて頷いた。
「この地に又、生命が息づく事を……願います」
 荒野に封印されていたジュエル・サーペンドも他人事と思えず、ヒールに勤しむ。
「でき、た、わ……」
 舞う戦乙女はオーラの花弁を振り撒き――緑芽吹き、湧き出たのは水溜りめいた小さな、小さなオアシス。
「水源は増えても問題ないと判断します」
 通り掛ったヘリオライダーは眼鏡の縁を押し上げ、粛々と地図に描き加える。
 せっせとヒールに勤しむ旅団「エルフの森」の面々。徐々に土壌が肥沃となり、緑も増えていく。
「荒れた土地も癒せるのね」
 機械妖精めいたヒールドローンを広範囲に展開するヒメ・シェナンドアー。一部、妙なる音色を奏でる花が咲く。
「少し様変わりするのはどうしようもないけれど」
「大自然を癒すというのは初めてでしょうか。中々に良いというか……シャドウエルフの本能でしょうか?」
 治癒の雨を降らせ、空木・樒の笑顔も殊更楽しそう。
「作物が育つ、ふかふかな土に!」
 ウイングキャットの抗議も構わず、リティリシア・クラウェンスは癒しの花弁や木の葉を撒いて走り回っている。
「そろそろ十分ね……ここだけ、もう少し」
 シフィル・アンダルシアは3人の間隙を埋める。気のない素振りと裏腹に、ヒールが止まらない。
「後で打ち上げというか、ご飯食べに行かない? 果物も美味しいみたい」
「郷土料理とか、日本で珍しい食材を食べてみたいですね」
「サバンナの料理、わくわくです!」
「べ、別に私はどちらでもいいんだけど。ケニアの果物、ね……」
 女の子4人、賑やかなお喋りが豊穣の地にさざめいた。

●村の再生
 いよいよ、村のインフラに着手するケルベロス達。
「この村に花の祈りと祝福を、なんてね」
 フローレスフラワーズで敷地全体をヒール、重点箇所に祝福のレイを掛けるマヒナ・マオリ。アロアロも祈りを捧げてお手伝い。ハイビスカスやプルメリアの鮮やかな彩りに、ピジョン・ブラッドは眩しげだ。
「綺麗だな……こうやって平和に力を使える世界の方が、本当はいいんだろうなぁ」
 マギーとヒールに勤しむ一方、内装のファブリックならお任せ。
「ピジョンはやっぱりこういうの上手だね」
 手際の良さを恋人に褒められて、ココナッツウォーター片手に胸を張るのもご愛嬌。
「離れてしまった人を呼び戻すなら、心躍る内装が良いよね」
 ケニアでは、カラー印刷の新聞を壁紙としているとか。だが、「綺麗なもの」は心を潤す。
「綺麗な色の布とか……断熱や保温も考えるか?」
 カンガの壁紙でカラフルにしたり、花や緑のコラージュや小さな絵を飾ったり。建物自体はヒールで修復しつつ、新条・あかりと玉榮・陣内は工夫を凝らす。
「……アリアンナ達の新居にも、絵を贈りたいな。これからの暮らしが恵まれるように」
 陣内の呟きに、あかりはぴこりと長耳を揺らす。
「じゃあ、僕は……風鈴を贈ろうかな。『誰かがあなた達の幸せを想っているよ』って伝わるようにさ」
(「ヒール……正直、面倒臭いが」)
 記憶が無い故に実感もないが、帰る場所がないのは大変だろうと思うから。御剣・空は廃墟に紙兵を撒く。ヒール復興は初めてで、経験者の意見にも耳を傾ける。後で炊き出ししようと、料理道具も持参。ブイヨンも用意したから多分大丈夫。
「部族毎に家の造りも違うのですね」
 水と塩飴で休憩しながら、随行する翻訳にこの地に暮らしていた部族について尋ねる鹿目・万里子。文化人類学者の性だろうか。丁寧なヒールの成果に満足げに頷き、修復した家をスケッチ始める。
 ヒール第三段階は村の再生――軒数は相当に多かったが、各々の頑張りで緑の大地に小奇麗な村落が完成。
 ちなみに荒れた道は、結城・美緒がオウガメタルを臨時手伝いに、黙々とヒールしたという。

●ケニア・ビフォーアフター
 ――後に放送された「ケニア・ビフォーアフター」は、ケルベロス達の頑張りが大きな反響を呼んだ。
 まず豪快な水源確保のシーン(ユッフィー・ヨルムンド撮影)、続いて炎天下の中、慈雨と花が降り注ぐ荒地と村の再生(都築・創撮影)が。
「なんということでしょう! 水を取り戻した荒地に花が咲くとは、なんてファンタジックな!」
 トリを飾るのはマサムネ・ディケンズとシャルフィン・レヴェルスの案内で、村を再訪した元住人達の驚きだ。
 水を湛える泉に歓声を上げ、緑豊かな肥沃土に数多の笑顔。再建された家々の心尽くしの内装に涙ぐむ者も続出した。
「砂漠化からの再生はケルベロスなら簡単だけど、普通はそうはいかない。大事なのはこの状態を如何に維持するか」
 その実サボる気満々だったのはおくびにも出さず、シャルフィンが真摯に説けば、神妙に聞き入る元住人達。
「今は良くても、いつまでケルベロスが居るか判らない。資源は有限、大事にして欲しい」
「ほら、そこのボク笑ってみせて? うん、いいぞー。子供の笑顔は地球の宝!」
 一転、マサムネの軽口に、子供達の、大人達の笑顔も広がる。
「共にこの星で生きよう」
 ――それは、ケルベロスから地球全体へ、愛を込めたメッセージとなった。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:51人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。