●ぺんぺん
ふわふわまっしろ、ひやりひやり。
指先に踊る氷の冷たさに歓声を上げると、少年は大きなスプーンを掴まえた。テニスラケットぐらいの大きさのスプーンは軽く、降り積もる雪――いや、氷をふわりと掬った。
「こんなに食べられるかな?」
えへへ、と満面の笑みで見つめる氷には緑のシロップが掛かっている。こんなに大きなかき氷、見たことないし食べたことない!
もうこれはかき氷の氷山だ。その後ろからちょこちょこっと飛び出したペンギン達が、きゅっきゅーと囃し立てると、少年は機嫌を良くして腕まくりをすると気合を込める。
「いっただっきまー……」
『きゅーーー!?』
ペンギン達の悲鳴に驚いて顔を上げれば、巨大なかき氷の氷山が雪崩を起こして――。
飲み込まれる。
そう思った瞬間、少年は真っ暗な部屋の中で目を覚ましていた。慌てて飛び起き、早鐘の様に鳴る心音と見慣れた部屋の様子に、今の光景が幻だったと気が付く。
「夢だったんだ……」
「そうね、私のモザイクは晴れないけれど、とっても可愛い夢」
その瞬間、少年は自身の胸に生える鍵の柄を見ていた。
ああ、なんて綺麗な金の色――その目が閉じた途端、鍵の主が得物を引き抜くとその軌跡を追って煌きが散った。
それはきらきらと光る雪の様――その輝きをぱくんと嘴が食べてしまう。
『きぇええええー!』
「ふふ、いいのよ。たくさん遊んでいらっしゃい」
残念な鳴き声をして答える者――ぺふぺふと両羽を羽ばたかせ、楽しそうに飛び上がったのは、大きなビーチボール程にまあるいぬいぐるみの様なペンギンだった。
楽し気に頷くとペンギンはぺふぺふと窓へ歩き出し、ぺこん、と躓いた。
●ぺんぺん?
「という夢を……」
「行きマス!!!!」
びったーんと机を叩いたカラン・モント(華嵐謳歌・en0097)の勇姿に、ギュスターヴ・ドイズ(黒願のヘリオライダー・en0112)はため息を吐いた。
今回の予知は昨今続いている『驚き』を奪うドリームイーターがらみの事件である。
奪った感情から生まれたドリームイーター――それがペンギンの姿をしていると聞いてからカランは目を輝かせていた。
「ふわもふシットリ……もフ……」
「あの子はもう駄目だ、話を進めるぞ」
ウフフと妄想に飛んだカランをよそに、ギュスターヴは改めて手帳に視線を戻すと、仕事の内容を確認する。
事件を起こそうとしているのは、『驚き』の感情から生まれたペンギン型のドリームイーターだ。敵は単体であり、倒してしまえば被害者も目を覚ますだろう。
ケルベロス達が向かうのは、夢主が被害に遭った夜で、その為にドリームイーターの出現は防げない。その上で、予知の舞台は夢主宅の近所になる。このドリームイーターは誰かを驚かせたくてしょうがないという性質らしく、付近を歩いているだけで向こうからやって来るようだ。
「暗くとも街灯がある場所だ。さらに敵は驚かそうと飛び跳ねながら移動するらしくてな、すぐにわかるはずだ」
その大きなビーチボール程にまあるいぬいぐるみの様な姿は愛らしい。
「もフもフしたい!」
「お前はかき氷まみれになって頭を冷やして来い」
希望に満ちたカランの声を、ギュスターヴは一刀両断する。そう、今回の敵はかき氷を生み出して攻撃するのだ。
「基本は一般的なドリームイーターの技を扱うが、気を付けたいのはかき氷の様な細かな雪を使ったブリザードだな。多数を巻き込む上に切り刻まれると厄介だ」
それは攻撃を受けると避けにくくなると言うもの。
この他にも気を付けたいのは、わっと登場した時に驚かなかった相手を執拗に狙う点だ。ある意味囮として使えそうだが、役割の負担は考えねばなるまい。
「でハ、今回は私も頑張りマス。もフもフしに!」
「仕事だ、仕事」
カランの一言を呆れ顔で諌めると、ギュスターヴは改めて一同へと視線を投げた。黒龍が願うのは一刻も早い事件の解決だ。
「君らは希望だ、よろしく頼む」
「ぺんぺんデスネ!」
いまいち締まらないパンダの顔面に黒龍のアイアンクローが決まった。
参加者 | |
---|---|
アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993) |
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107) |
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435) |
鈴代・瞳李(司獅子・e01586) |
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368) |
フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892) |
●ペンギンどこどこ。
星と月が昇る夜は、ころころと星の瞬く音が聞こえるという。
月光が作る長い影を旅連れに、路地の端に立っていたウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は自慢の付け髭をひと撫ですると、再び腕を組んだ。
今宵彼女が思い浮かべるのは、この場所に現れるというドリームイーターの姿だ。それはまあるい体のぬいぐるみの様なペンギン型ドリームイーター――そこから派生した彼女のイメージはなんか爆発させてはいけない気がするのでそっと自粛するね。
そう、ただ思うのはあのペンギンにはダンディな髭とウィンクがよく似合う気がする事。
そんな異世界の心を受信したウィゼの対面には、フリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)が電信柱の影に隠れて様子を窺っていた。その顔に笑みが溢れているのは今回の敵と会うのが楽しみでしょうがないからだろう。
「ぺんぎん! かき氷! ボクぺんぎん触るの初めてー!」
わくわくを隠し切れずに言葉を漏らせば、同じ様に隠れていた朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)も頷いた。そんな彼女が口に乗せたのはちょっと不思議な問答だ。
「ぺんぎんは何故可愛いのでしょうか? それは白と黒だからです。パンダも可愛いです、そして白と黒なのです」
「なるほど~」
可愛さによる超理論を展開したほのかに、フリューゲルはきらきらと目を輝かせて感心する。確かにパンダは可愛いので仕方がないのだが。そんな彼らの隣ではフォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368)が、別の思考の海に沈んでいた。
「うーん…『しっとり』と『もふもふ』って、両立するのかしら? しっとりしたら、もふもふにならない気がするんだけど……」
「大丈夫デス、もフもフですから!」
フォトナの疑問の声もなんのその。すでに敵をもふる事に意識を飛ばしてしまったカラン・モント(華嵐謳歌・en0097)が根拠のない理由を答えていた。その後に『もフ……』と言いながら手をわきわきした彼女の姿を、鈴代・瞳李(司獅子・e01586)は汗を拭いながら感心する。
「カランの意気込みは非常によいと思う。私も見習わなければ……」
「瞳李?」
「見習っているだけだからな?」
こほん、と瞳李が咳払いをすれば、それを見計らった様に鳴き声が聞こえた。
それは聞いた事がある様な無い様な――慌てて視線を路地の先へと向ければ、月光に照らされた道をぴょんぴょんと飛ぶ黒い影が見えた。それは軽快に、それでいてふんわりと。視線の中で大きく跳躍する姿が見えた後で、黒い影は目の前に現れていた。
「うわ、なにこの丸いの!?」
「わっ、わっ、ぺ、ぺんぎんです、可愛い……可愛いです」
声をあげたフォトナとほのかに、機嫌を良くした影――ペンギン型のドリームイーターはその翼をぱたぱたと羽ばたかせる。
『きゅえっきゅえ!』
ぺぺいと手を振る様に翼を上げたペンギンに、アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)は真顔でガン見していた。彼が見つめるのは小さく円らな黒の瞳――。
「もう我慢できなーいっ!? いいからもふらせて! 四の五の言わずに! ちょっとだけでいいからっ!?」
『きゅえええー?!』
両手をわきわきと動かしながらペンギンに突撃したアマルガムの後では、鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)がプルプルと震えていた。
「わ、わたしもひともふ良いかなー?」
震えるままで両手を広げれば、それをおいでと勘違いしたのかどどどっとペンギンが走っていく。ふきゅっという声の後ですりすり頭を擦り付けられれば、纏の口から黄色い悲鳴が漏れた。そんな仲間の様子に思わず瞳李は口元を抑える。
「っ! なんだこの可愛……いや、なんでもない。なんでも」
『きゅえ?』
「瞳李も触る? かわいいよ?」
ペンギンの頭に顎を載せたフリューゲルがペンギンと一緒に尋ねれば、もはや瞳李に抵抗する術はなかった。モフモフと二人(?)の頭を撫でてやれば、嬉しそうな声が上がる。
そんなほのぼのペンギン体験を遠巻きに見ていた男子ズは、己の内に渦巻く何かに頭を拗らせていく。
「うっ、やはりこのペンギンは水瓶とかに住んでそうじゃ……!」
「くっ……すんげェ昔にさ、あんな感じのまんまるペンギンに滅茶苦茶お世話になった様な気がしてならないンだが……いったい何のデジャヴなんですかねェ……!」
遠い記憶が呼び起された気がして頭を押さえるダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)は、思わずだぁんと壁を叩いてしまう。たぶん前前世ぐらいの記憶泣きもしないでもないでもないが、お腹にモザイクがあるから別物だろうが気にしてはいけない。本当に気にしてはいけない。それ以上はいけない。
もはや色んな意味でダメな様相を呈してきたケルベロス達を眺めながら夢紡ぎの騙り部は、そっとペンギンの足元をブラックスライムで止めていく。
「……ふむ、ペンギンも涼し気で夏だねえ……ところでまだもふもふするかい、カラン?」
「しマス!!」
もふもふするのは仲間内でのローテーションになってきたらしく、自分の順番を待っていたカランは必至の顔で言った。
●ペンギンかわいい。
もにゅもにゅっとほっぺを握るとみょみょんと伸びる。
両手でさわさわとお腹を撫でれば気持ちよさそうに口をもぐもぐし、ぱしぱしとおめめが瞬いていく。
そんなペンギンの全反応を半分口が開いたままで感じた纏はほわわと頬を紅潮させていた。
「しっとりしてるのにこのもふもふ感……。ふわあ、これは子供のペンギンの羽毛なのね……」
「うーん……もふもふ道は、中々奥が深いのね…」
ズバリと当てたペンギンの情報にフォトナは感心しつつ、つんつんとペンギンの頬をつつく。ぷきゅっと凹んだペンギンの頬にくすりと笑ったフリューゲルは、ふわふわな手と握手しながら感想を口にした。
「もふもふしててかわいいね!」
「そうさなあ。しかし、この夏の暑さにヒンヤリと冷たく、モフモフのボディに皆が癒されるのじゃな……」
満面の笑みを浮かべたフリューゲルを見ながら、しみじみとペンギンに感心していたウィゼだったが、はっと気が付いて首を振る。
「い、いかん、今日のあたしは究極の癒し系、負けるわけにはいかないのじゃ!」
「やばいデス……やばいデス」
ウィゼのせっかくの決意を聞いていないカランは、はふはふ荒い息と共にペンギンのお腹をもふもふしていた。そんな獣系女子の締まりのない癒され顔を見たアマルガムは、きらりと笑顔を輝かせると親指を立てた。
「カラン……お前のもふもふ魂、分かるよ! でも、負けないっ俺の方がいっぱいもふってやるんだからねー!?」
そう、こんな可愛い生物を倒すのは乗り気はしない。むしろ家で飼いたい。そうすればも振り倒せるのに――!
そう考えるのはアマルガムだけではなくて。
「ふおぉぉぉ!」
目をまんまるに輝かせて声を上げた纏は、もはや我慢の限界だったらしい。呆れた視線を寄せていたダレンの袖を引っ張ると、きらきらとした願いを張り上げる。
「可愛い! 欲しい!」
「あーもー、嫁が欲しがっててすんげェやりにくいんですケド」
纏に引っ張られるままに、首をがっくんがっくん動かしながら耐える彼の姿は涙ぐましい。
しかし、そんな中でもっふんもっふんともふられっぱなしのペンギンは、急にいやいやと翼を振った。まるで赤ん坊がむずがる様な身の動きに、困っているとそれまで様子を窺っていたほのかが心当たりに突き当たる。
「もしかしてもう飽きちゃったんですか?」
『きゅう……』
ひと声と共にこくりと頷いたペンギンは、もふっていたケルベロス達から逃れるとのっしのっしと歩いて距離を取る。その翼がそのままびしっと真っ直ぐに構えられ、心なし目が鋭くなった気がした。
「や、やる気なんだな?」
こくこくこく。
困惑した瞳李の言葉に、ペンギンは大きく頷いて短い手でしゅっしゅとシャドーボクシングまで始めてしまう。だが、すごく遅いパンチである。でもやばいすごいやる気だ。やばい、その仕草語彙力が無くなる。
「あまりにファンシー過ぎてすんげェやりにくいんですケド!」
『きゅきゅえっ!』
思わず叫んでしまったダレンに、ペンギンはどこかのカンフーマスターの様にくいくいと翼を振った。
●みんなそろそろ落ち着くんだ。
戦い。それは二つの存在があれば、訪れてしまう悲しいもの。
人間はなぜ争うのか――などと意味不明なモノローグを流すにはあまりにシュールな敵の姿に、ケルベロス達は戸惑いつつも得物を準備する。自分達の本来の目的を全うしなければ、被害者である夢主が目覚める事は無い。それだけは回避せねばなるまい。
その意味を熟知していたほのかは、眼前の敵へと意識を向ける。
「戦いを始めます」
月明かりの路地を駆けた黒髪のサキュバスは、己が手に竜の幻影を宿すと遠慮なく解き放つ。
「竜の吐息を」
呟いた途端、爆発した炎の竜――その牙を腹に食らったペンギンは小さく弱く声をあげた。それが可哀そうだとは思ってはいけないものだと知っている。自身の胸に決意を込め、フォトナは身を助けるオウガメタルへと告げた。
「それじゃ……行くわよ、シルヴァーナ!」
その手が編むのは眩いばかりの雷撃の波だ。その一撃が再び腹に落雷するも、ペンギンは焦げただけでめげずに立ち上がってくる。意外なタフさを見届けたケルベロス達は、さらにペンギンが負けないぞうとおめ目をごしごししたのを見ると、胸の奥がほわぁっと暖かくなった気がした。
それはもしかするとペンギンの作戦だったのだろうか。再びきりりとイケペンとなった瞳と対峙した瞳李は、その魅力(?)に耐えられずに眉根を寄せるとくっころの様に声をあげた。
「くそっ、可愛いな!」
悔しい、可愛いって思っちゃう――!
いやいやいや、それではダメな訳で。得物を構えた瞳李は改めて首を振って邪念を振り払い、その手にグラビティを編み上げる。
それは輝きを元に生きる雨。涙の様に流れ、かの身を引き裂こうと後を追う。
「鈴は警鐘。その代わりの私は、私の役割を果たすだけだ!」
『きゅきゅー?!』
降り注ぐ力にペンギンの身がころころんと転がった。ぴいぴいと鳴いたペンギンの前にずしゃあと立ち塞がったのは、両手を広げたアマルガムであった。
「おいでぺんぺーん!」
『きゅ、きゅううう!』
おこったもーんと言いそうな顔のままペンギンが飛び上がるが、アマルガムはその怒りさえも当然だと悟った表情を浮かべていた。そう、彼は『齧る! はたく! 氷漬けおーるかもーん!?』とぺんぺんをすべて受け入れるつもりだったのだ。それは紛れもなく、ディフェンダーの鏡……鏡(?)である心意気だ。
さあ、ペンギンよ。お前の怒りを存分にぶつけろ――!
『きゅーー!』
ぱああんんっぱああんんっとやたらいい音で頬を叩かれ、アマルガムの体力がごりもり削られていくが、それは第一線で活躍するケルベロスである。自身をもりもり回復させながら、もふんもふんとペンギンの下っ腹をモフモフしていた。
「もふもふに惑わされては危ないです、回復はしっかりとしましょう!」
「お、おおう、しかし~かわいいは正義じゃけぇ~」
若干、自己回復に手抜かりを見つけたほのかが声をあげると、も振り天国にいるドワーフはのんびりと答えてぷにっとペンギンの頬を潰す。その瞬間、ペンギンはアマルガムにドロップキックをお見舞いすると、ずしゃあっと着地をして勢いよく振り返った。
その視線は真っ直ぐにほのかに注がれている。
ロックオンされたのか――?!
ケルベロス達の間に緊張が走った瞬間、てふてふてふっと走ったペンギンは、ほのかの前へとやってくると両翼を上にしてぴょんぴょんと飛んだ。
「えっ、えっ、あの」
「抱っこしてあげて、してあげて!!」
フリューゲルの声にあわあわしながら抱っこしてあげようと手を伸ばす――しかし、ペンギンははっと気が付いたらしく。ぺふんと両翼で自身を叩いた。
『きゅえええ、きぇえ!』
「『危ないところだったぜ』って言ってる!」
「纏チャン、ついに翻訳まで可能に……」
はわわと悶える纏の完璧な翻訳に、ほろりと涙を流したダレンだったが、このままペンギンに流される訳にはいかない。ペンギンの前に立ち塞がったのは、守りの要を任されたフリューゲルだった。
「そうだよ、よそみはダメなんだよー! 一緒にあそぼ!」
きらりとした魅力的なお誘い。その言葉にペンギンはきゅっと鳴いて飛びつこうとするが、二、三歩歩いた所で止まった。
『きゅきゅきゅ、きゅーきゅ』
「『お、おれはもふられる誘惑には屈しない』って……あっ!」
纏の翻訳が再び炸裂した瞬間、ペンギン周囲に風が舞った。それは冷たく早く全てを覆う様な凍て付き――ケルベロス達が防御の構えをとる前に、ペンギンの解き放った氷の嵐は猛吹雪として最前列を守る者達を襲った。
「つつつ、冷たい~!」
真夏の夜にはちょうどいい冷たさだったかもしれないが、それが攻撃となればどんどん体力が奪われる。最前列を守っていたアマルガムの目に、いつの間にか彼の相棒であるシャーマンズゴーストの梟男爵が懸命に主を守っている姿が映った。
確かにふざけた敵ではあるが、このままやられっぱなしにはいられない。その意志を告げる様に、己が身にオウガメタルを這わせたフォトナは鬼の拳を振るう。
ペンギンの身が空に舞い、その隙にウィゼの放ったちょっと赤い黄金の果実が仲間達へと癒しを施していく。その癒しを受けたアマルガムは自分の顔に付いた氷を払うと鋭い視線をペンギンへと投げつけた。
「……やっぱり、持って帰って飼っちゃダメかなあ?」
「多分駄目デス……」
えぐえぐし始めたカランの言葉に、ドワーフの青年はデスヨネーとしょんぼりする。そろそろお終いにしなくてはいけない気がした。
●ペンギンたおした。
それからなんやかんやあった。
例えばペンギンの幻影にもぐもぐされそうになったウィゼが、自ら水瓶に入ると叫び始めたり。例えばウィゼが前前世を思い出してしまって『ブレイクしなきゃ』と言ってみたり。例えばウィゼが(以下略)。
そんな調子でなんやかんやあった戦いは、フォトナの放った一撃がペンギンにバリリ当たると、スヤァとその場に倒れていってしまったのだった。
そんなふもふの前で問答を繰り返していたのは纏とダレンだった。
「いくら欲しくてもドリームイーターはお家じゃ飼えません!」
「あ~ん、やだやだ~ぺんぺんほしいようっ……そうだ、もう飼っちゃえばいいんだわっ、ペンギン飼う!」
「高層マンションでペンギン飼うのも無ー理ーでーすー!」
我が侭なお姫様をあやす間に視界の端に現れたのは金色の光だった。驚いて辺りを見回せば、どうやら話している間にドリームイーターの体は光へと変わったらしい。
そんな空へと還る光を望みながら、周辺の破損をチェックしていたほのかが帰ってくると、瞳李は労いの言葉の後に息を吐いた。見ればもうドリームイーターの体は綺麗に消えている。
「割と人気だったわね、今回のドリームイーター……ぬいぐるみにしたら、案外売れるんじゃないかしら?」
「ぬいぐるみいいねー、絶対可愛い!」
フォトナの言葉にフリューゲルが反応すれば、なるほど、と商魂逞しい思いが廻った。一方その隣ではまだもふり足りないのか、指を動かすアマルガムがカランに視線を送っていた。
「……カラン、良く見たらお前様も割りともふもふだね? ……もふらせて~!?」
「ごめんなサイ掌底!」
「ゴフッ!」
カッと目を見開いて飛んだ男子の顔に、熊猫の手がクリーンヒットする。あわやセクハラの案件だったが、すぐに正気を取り戻したアマルガムが謝ってしまえば気にしていないと笑い声が返った。
もうそろそろ撤収である。ふと、ダレンが空を見た後で息を吐くと、その温さに眉根を寄せた。
「しっかし、アレ見てたらアイス的なモノ食いたくなっちまったな」
「ねぇねぇ、ボクはかき氷食べたくなっちゃった! 瞳李一緒に行かない? 他のみんなもどうかなー?」
フリューゲルの賑やかな提案に一同がわあっと歓声をあげれば、コンビニにでも寄ろうと案が出る。公園かどこかで食べてしまうのもいいかもしれない。
「うう、頭冷やす為にかき氷いいね、いこいこ?」
ブルーハワイがいいなというアマルガムがカランには奢ると付け加えれば、くすりと瞳李が笑った。
「かき氷いいな。よし、私が奢るから食べに行こうか」
その言葉にもう一度ケルベロス達の歓声が上がった。やがて好みのかき氷の話題で盛り上がりながら、ケルベロス達は星と月が見える夜を歩いていく。
その一番最後を進みながら纏は隣のダレンへと声をかけた。
「ね、ダレンちゃんは何味にする?」
「おにーさんはかき氷界のグローバルスタンダードのイチゴ味でな」
にっと笑った相手に纏はうんと返事を返すと、そっとその服の裾を掴んだ。今夜はちょっと暑いね、と付け加えればそうかな、ととぼけた声が聞こえてくる。
今日のお月様はまん丸ころり。
出会ったドリームイーターの様だと思えば、少しおかしい気がした。
作者:深水つぐら |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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