●ケニアで大運動会!
繰り返された、『全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)』の発動。これにより、世界経済は活力を失ってしまった。
この経済状況を打ち破るために、愉快痛快なイベントで収益を生み出そう、という案が提示された。
こうして開催の運びとなった催し、それがケルベロス大運動会だ。
ケルベロス達には、通常のダメージが効かない。そこで、世界中のプロモーター達が、あまりに危険で使えなかった『ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション』の数々を持ち寄って、『ケニア』各地に、巨大かつデンジャラスなスポーツ要塞を造り上げたのである。
――ケニア。
そう、第2回ケルベロス大運動会の開催地は、東アフリカに存在する、赤道直下の国、ケニアなのだ!
●ケニアの食卓にお邪魔しますっ!
「せっかくのアフリカなんだし、本場の料理でランチしたい、そんな皆に朗報だよ!」
アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)が、満面の笑顔と共に切り出した。
「ケニアのテレビ局が放送するバラエティ番組で、『ケルベロス達がケニアの一般家庭に突然お邪魔して、お昼ご飯をいただく』って内容の企画があるんだって! つまり、この企画に参加すれば、ケニアの、本場の家庭料理を味わえるって寸法だよ!」
言ってからアッサムは掌を差し出し、片目を閉じた。アイズフォンによって彼の掌の上に表示されたのは、豆の煮込みのような料理や、ナンのようなパンの画像だ。
「ケニアの家庭料理は大体こんな感じっぽいね。他にも、地域によって、割とバリエーションありそう。……あっ、っていうか、企画の趣旨的に、どんな料理が出てくるか行ってみるまで分からないし、当たりハズレが大きいかも。それだけ押さえといてね!」
アッサムは目を開け、にこにこ明るい表情を崩さずに、こう締めくくった。
「そーいうわけで、本場のランチをいただいて、身も心もエネルギーチャージしよう! 大運動会、最後までめいっぱい楽しもうね!」
●幸運なケルベロス
仲睦まじい様子でケニアを行くのは、真音とメアリベル。【はねとも】の2人だ。
「ごきげんよう、おじゃまするわ」
住宅を訪れ、真音がスカートを摘まんでお辞儀。住民はびっくりした様子だ。
「お友達のメアリさまと、ケニア料理をいただきに来たの」
「お腹がすいたところなの。手作りのお料理をごちそうになりたいわ」
真音とメアリベルが説明したところ、住民は笑顔で歓迎してくれたのであった。
最初に出されたのは、豆料理のギゼリ。
「ほっこりしてとってもおいしい。ヘルシーで滋養のありそうなお味ね」
メアリベルはにこにこ。
「歯ごたえがあって食べ応えがあるわね」
真音も美味しそうに食べている。でもちょっと喉が渇いた様子。
続いて、メインの御馳走だ。焼いたヤギ肉、ニャマチョマが運ばれてきた。
「わぁ、すごい豪快!」
目を丸くする真音。
「いただきます。……ん、おいしい!」
切り分けて口に入れたメアリベルが、初めて食べるヤギの美味しさに驚きの表情。
「やぎさんのお肉って初めて……」
真音も夢中でもぐもぐ。
「あらミスまお、ほっぺが汚れてるわよ」
「って、きゃ! やだ、もっと上品に食べないとね」
メアリベルが真音の頬を拭き、真音は恥ずかしげ。
「これで、将来ケニアの旦那さまができても安心ね」
「そうね。いずれにせよ、ケニア料理のレシピをマスターしたら、未来の旦那さまにふるまうメニューが増えるわね」
未来を夢見て瞳を輝かせる、翼持つ少女ケルベロス2人であった。
「俺、でっかいしゃもじ持ってきた! これ持って突撃しよ!」
「ん? しゃもじ? わ、本格的な!」
雪斗がヴィに大きなしゃもじを渡す。
「突撃ケニアの昼ごはんー」
しゃもじ片手に言うヴィ。
ほどよく2人の緊張もほぐれたところで、いざ突撃!
こちらのお宅で出してもらえたのは、ピラウとニャマチョマだ。
「これがピラウ!」
目を輝かせる雪斗。
ピラウとは、日本で言うところのピラフであり、シナモンやカルダモンといった各種スパイスが効いた、ケニアの炊き込みご飯である。
「中に入ってるのは……ヤギ肉? どんな味やろ?」
こわごわと、雪斗はピラウを口に運ぶ。
「ん、美味しい! 癖もなく食べやすい」
雪斗、ほんわかスマイル。
一方、ヴィは、ケニアの焼肉ことニャマチョマに挑戦しようとしていた。ヴィは羊肉を食べた経験はあるが、ヤギ肉は初めてである。
ぱくりとかぶりついてみたなら。
「おっ、美味しい!」
ヴィにも好評。
丁寧に下処理した、捌きたての新鮮なヤギ肉は、とても美味なのである。
「美味しいよお母さん!」
「お母さんありがとう!」
ヴィと雪斗は親指を立てる。グッジョブのジェスチャーである。料理を作ってくれたこの家のお母さんは、にっこにこ。
「以上、ケニアの食卓からでした!」
「美味しかったよ! ありがとう!」
レポートを締めくくる雪斗とヴィ。さて、他のケルベロスの様子も見てみよう。チャンネルはそのまま!
●ケニアの食卓
「突撃……」
「邪魔するぜ」
豪華そうな家を見つけて中に突撃したのは、天音と地異の2人だ。
企画の趣旨を住人に説明し、ランチが提供されるのを待つ間、天音と地異は周囲をもの珍しそうに見回す。
「地異さん……家が……石造り……」
「そうだな、天音。それに、壁紙代わりに新聞紙が貼ってあるんだな」
日本のものとは異なるケニアの住居は、2人に驚きを与えたようだ。
やがて運ばれてきた肉料理を、天音は頬張る。
「美味しいか?」
尋ねる地異。
「…………美味しい……」
無表情で答える天音。コメントするまで若干の間があったが、ひょっとするとイマイチだったのかもしれない。
だが、食べられない味というほどでもないようで、天音は黙々と食べ進めていく。
「さすが天音、いい食べっぷりだぜ。さて、俺のは……」
地異は天音を称賛し、自分の分の料理、マンダジに手を伸ばした。マンダジとは、甘い揚げパンである。
「ん……ちょっと甘さ控え目か? まあ、ヘルシーで良いと思うぜ。美味い」
地異の方も、少し微妙な味だった様子。
それでも、2人とも綺麗に食べ終えて、揃ってお辞儀し、料理を出してくれた家人へと感謝の意を示したのだった。
「ではではしっつれいしまーす☆」
将来を誓い合った恋人のシャルフィンを連れて、マサムネは住宅にお邪魔する。
家庭料理の出来上がりを待つ間、2人は仲良く言葉を交わし合う。
「もし真似できそうなものがあれば、作る料理のレパートリーが増えるかもしれないな。ケニアの家庭料理にはどんなものがあるんだったか」
シャルフィンに、マサムネが応じる。
「まずチャパティ……これはまだ分かるけど、ギゼリやウガリなんてのもあるね。聞いたことないな? あとニャマチョマ?」
体が強くなるというウガリはまさにケルベロス向け、豆は良質なタンパク質多め、と、楽しそうに一つ一つ説明していくマサムネ。
「ふむ、何の料理だかサッパリ覚えられん。とりあえず、豆料理とパンとおからと焼肉と魚だな」
ざっくりながら、シャルフィンは把握した模様。
「ヤギはちょっと無理だけど……」
「む? マサムネはヤギが食べれないのか? 味が駄目か? まるでヤギみたいなヤギの味だぞ」
マサムネへと、そのまんま過ぎる事柄を述べるシャルフィン。
と、ここで料理が運ばれてきた。
が!
「ごめんなさい! お料理、焦がしちゃったわ~」
食器の上のチャパティとギゼリは真っ黒焦げ。
「さーてと」
メイド服を着たマサムネが。
「おいしくなぁれ☆ もえもえキュン!」
焦げた料理におまじないをかけ。
「実食!」
食べ始めようとした彼に。
「なぁ、マサムネ。その『おいしくなぁれ☆ もえもえキュン!』というのは、まじないか呪文か?」
容赦のないシャルフィンのツッコミ。
「わかった、ケニア流のいただきますだな?」
おや、もしやシャルフィン、素で言っているのか?
これを否定すれば詳細を自分の口から説明せざるを得ないだろうし、うっかり肯定しようものなら、信じたシャルフィンが、いただきますの代わりに『もえもえキュン!』と言いかねない。
果たしてどうする、マサムネ!
●人生色々
ところ変わって、ペテスとメリルディの2人は。
「ケニア料理ってよく知らないけど、どんなものが出てくるんだろうね。ぺてぺて、食べたことある?」
「食べたことないんですよね。どんな味かすごく気になるです!」
と、のんびり会話しながら移動。
そうして、2人仲良くケニアのお宅にお邪魔した。この時、ペテスの手には、スワヒリ語と日本語で、『突撃となりのケニアご飯』と書かれた団扇が握られていた。
さて、運ばれてきた料理は?
「わたしのは豆料理ですね。これがギゼリでしょうか?」
「ああ、ぺてぺて、それはマハラグウェっていうんだよ。わたしのは、ナイルパーチの唐揚げ……サマキの一種かな。嬉しいなぁ」
2人ともほくほくした笑顔を浮かべて、料理を口に入れる。
その時、ペテスとメリルディに衝撃走る!
「……! ……!!」
我を忘れた様子でマジ食いするペテス。
「わぁ、美味しい。表面はカリッとして、中は白身魚特有のあっさりした味わい。塩加減もちょうどいいし……最高」
目を輝かせ、うっとりするメリルディ。
それから2人は、互いを見やって。
「少し食べさせてくださいです!」
「わたしも味見させて」
交換して、ペテスはサマキを、メリルディはマハラグウェを食べてみる。
とろけそうな表情を浮かべる2名。両方とも、とても美味しかったようだ。
残さず完食!
お礼に、と、ペテスは団扇を、メリルディは金平糖を家人にプレゼント。
「嬉しいよ、ありがとう!」
とっても喜んでくれたのであった!
別のお宅にて。
「こんちはー! ケニアの家庭料理が食えるて聞いてやってきましてん」
明るく元気に挨拶し、お家にお邪魔したのは、瀬理だ。
「やー実は、うちも家庭料理は結構自分で作る方やから、色々勉強さしてほしいんよ」
くつろいで、瀬理は語る。
「ちゅうわけで、いただきまーす!」
瀬理の眼前に置かれたのは、穀物の粉を練ったウガリと、焼いた肉である。
「ふむふむ、このウガリっちゅうのは、うちらで言うたらご飯か。こっちはお肉……ニャマチョマ言うん? 舌噛みそうやけど、お肉やんなー」
少し瀬理は思案。
「一緒に食うん?」
「そうよ」
このお宅のお母さんが微笑む。
「あ、やっぱり。ほな」
瀬理はウガリとニャマチョマを、一緒に口へ。
「……」
瀬理の表情が、わずかに曇った。あまり美味しくなかったようだ。
「ちょっち台所お借りしてもええかな?」
「いいわよ」
ウガリとニャマチョマの皿を持って、瀬理は台所へ。
フライパンに油を敷き、平べったく伸ばしたウガリを、軽く、裏表ともに焼き上げる。
そこに葉物野菜を敷いて、その上から肉を巻いたなら。
「……ん! いける」
うまくいったと、瀬理は会心の表情を浮かべる。
「あ、お母さん、一緒に食お」
「あら、いいの? ……まあ! 面白い味ねぇ」
驚きと笑顔を住民にプレゼントした瀬理であった。
「あ、偶然! 良かったらオレと一緒に行かない?」
「いいですよ」
たまたま出くわしたアッサムの誘いを、流されやすい京華はあっさり承諾。
2人は住宅へ入る。
「こんにちは。ケルベロスの月宮京華です。突然申し訳ありませんが、お腹が空いたのでお昼ご飯をご一緒させていただけませんか?」
丁寧にお願いする京華。
「まあ、ケルベロスの方……あまり大層なものは出せないけれど」
「構いません。よろしくお願いします」
住民と京華がやり取りをして、京華達は食卓につく。
「冷めないうちにどうぞ」
京華とアッサムの前に置かれたのは、白い固粥と、ケールや玉ねぎ・トマトを油で炒めた料理だ。
「ウガリとスクマウィキだね。いただきます!」
「いただきます」
嬉しそうに食べ始めるアッサムに、京華も続く。
ジャリッ。
「……」
沈黙する2人。
ウガリはトウモロコシの粉を挽いたものから作られるが、屋外で粉挽き作業をしたウガリには砂が混じることがある。
「……」
京華は黙々と食べ進めている。何を考えているか、表情から読み取ることは困難だが、色々なことを考えながら食べているようだ。
アッサムも何も言わず食べ続ける。
「これもどうぞ」
家人によって、とん、と置かれたのは、瓶入りの黒い液体。
「コーラだ……」
「コーラですね」
日本でも馴染みのある会社のコーラである。
安心する味で一息ついてから、京華達は再び、ウガリとの格闘を再開するのだった。
●キノコの宴
「……ところで、なんで俺はこんな服を着ているんですかね……」
陣内は遠くの風景に視線をやりながら呟く。
彼が身に着けているのは、『ふりふりシッポのメイド服』だ。
彼ら【燕】は、他のメンバーも大胆な服装である。
「四捨五入で30に届く男のメイド服。言葉にするとグロいね」
胸元に抱えた少女人形とお揃いの、ヴィクトリアンメイドの格好をしたアンセルムが言う。
そんなメイド服軍団を、シマウマ着ぐるみ姿のアガサがちらりと見た。あれよりマシ、と自分を納得させているに違いない。
カメラを向けられていることに気づいたアガサは慌てる。
「いやいや、ふざけてるわけではなく、こういった変装もケルベロスとしての任務だから」
そういうことにしておこう。
「メイド服とか可愛い動物の着ぐるみに対抗するなら、これしかないわよね!!」
豊かな胸を張っている淡雪は、脱げそうで脱げない服を身に着けている。この『絢爛淑女』なる服も着ぐるみである。
「ところで、『料理は何でも食べれます♪ 一番の自信作をお願いします!!』なんて言ったけど大丈夫よね……? 庭の周りにキノコが生い茂ってたけど……」
ちょっと不安そうな淡雪。
「ケニアには、『庭でとってきたキノコの炒め物』という家庭料理があるらしいと、以前ケニアに長期滞在していた人から聞いたことがある」
語ったのはアガサ。
「……」
その話を聞きながら、クールな顔つきで、変わらず遠くを見つめる陣内は、何を思うのか。
「いやいや、まさか。初めて来た国の料理を食べるのって、ワクワクするな。どんなのが出るんだろう」
キノコの話を受け流し、アンセルムは楽しみに料理を待つ。
大皿が運ばれてきた。置かれた皿に乗っているのは!
期待にお応えするかのごとく、キノコ炒めだ!
「採りたてよ♪ 沢山召し上がれ!」
笑顔で、小皿に4人分取り分けていく家人。
「……カメラ、少し止めてください」
アンセルムが言って、星型ステッキのようなものを取り出した。中身が空の塩入れである。
人形と一緒に、自分の分の料理の上で振り振り。
「もうどうにでも……おいしくなーれ☆」
アンセルム、無表情に棒読み。
一方、陣内は。
サングラスを装着し、ガバァ、とメイド服の胸元を開いた。
腕をまくり、頭の横の高さに右手を持ち上げ、独特のポーズをとる。
エア塩をファッサアアア……と振りかけるその姿、実にセクシーだ。
「おいしくなぁ~れ♪」
実に、実に渋ーい声で、陣内は言う。
「今のは美味しくいただくおまじないだよ」
アンセルムが説明する。
「キノコグルメの出番ね!」
「初めて役に立つというのか……?」
淡雪が言い、アガサが息を呑む。
「……では、いただきます」
アガサは言い、食器に手を伸ばした。他の3人も続く。
おいしくなあれを自分の分の料理に使用した陣内とアンセルムは、おいしくキノコ料理を食べられることが保証される。ただし、安全かどうかは不明だ。
キノコグルメの恩恵を受けている淡雪とアガサは、安全にキノコをいただける。しかし、味は変わらない。
つまり、全員が賭けに出たと言っていい状況だろう。
一斉にキノコ炒めを口に運ぶ4人。果たして……!?
「……う……」
「っ……」
陣内とアンセルムが小さく声を漏らす。
「これは」
「なんてこと」
アガサと淡雪が口元に手をやって。
「…………」
4人、顔を見合わせて。
「美味くない味の真逆だ」
天邪鬼な陣内は遠回しに表現。つまり美味いのだ。
「……すっごく美味しいね、これ」
ぱくぱく食べるアンセルム。
「美味しいな……このキノコ」
「とってもいいお味ね♪」
アガサと淡雪ももぐもぐ食べていく。
陣内やアンセルムの体調に異変が生じる様子もない。
つまり、彼ら4人が食したのは、『安全だしめっちゃ美味しいキノコ』なのであった。
「ケニアに来て良かったね」
「そうだな」
アンセルムに愛想なく返事するアガサだが、ちょっと嬉しそうにも見える。
陣内の耳と尻尾の動き具合も、幸せそうだ。
「あっそうだわ、布教しなくちゃ!」
キノコに夢中になっていた淡雪がカメラの正面に。
「あら? でも放送の残り時間って――」
この番組は、御覧のスポンサーの提供でお送りしました。
作者:地斬理々亜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:16人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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