●ケルベロス大運動会、ケニアで開催
世界経済は、大きく疲弊していた。それというのも、度重なるケルベロス・ウォーが発動されたためだ。
低迷した経済状況を打破するため、愉快なイベントで収益を。そこで開催されることになったのが、ケルベロス大運動会だ。
『ケルベロスたちには通常のダメージは無効である』ということに目をつけた世界中のプロモーターが、危険すぎる故に使用を断念した「ハイパーエクストリームスポーツ・アトラクション」をケニアに持ち寄った。
かくして、ケニアの各地に巨大かつ危険なスポーツ要塞が造り上げられる。
つまり。栄えあるケルベロス大運動会の第2回開催地に『ケニア』が選ばれたのだ。
そして。ケルベロスたちはケニア各地を巡り、アトラクションに挑戦することになるのだ。
ケニアが国際空港、ジョモ・ケニヤッタ国際空港。ケルベロスたちの到着を待ち侘びる人々の中で、「ケニアポスト」の記者たちはレコーダーとカメラの動作チェックをしていた。レコーダー機能を内蔵したマイクはそれぞれ二台体制、カメラのバッテリーも複数所持していることも確認する。
「では、取材内容の確認もしておきましょうか。私は『なぜ、ケルベロスとして戦うのか』をインタビューし、記事にします。ケルベロスはとても危険な仕事です、どういった思いで戦っているのかは誰もが気になることですからね」
「えーと、こっちは『日常の過ごし方』を聞きますね。日々デウスエクスとの戦いに明け暮れるケルベロスたちの日常も気になりますし。ケルベロスに親しみを感じてもらうことで、経済活動を促進させるような効果もありそうですからね」
「自分は『ケルベロス大運動会への意気込み』を。危険なスポーツに挑むケルベロスたちのやる気や意気込み、本当の気持ちなどを聞けたらなあ、と。せっかくこのケニアが開催地になったわけですからね」
それから待つこと、数分。
ついにケルベロスたちが空港に姿を現した。記者たちは、いっせいにケルベロスたちに駆け寄ってゆく。
「ケニアにようこそ、ケルベロスのみなさん! さっそくですが、どうしてケルベロスとして戦うことを選んだのか、その理由を聞かせてください!」
「デウスエクスとの戦い以外では、どのように過ごされているのでしょうか?」
「ぜひ、ケルベロス大運動会への意気込みをお願いします! 率直な意見をお聞かせください!」
さて、マイクとカメラに囲まれたケルベロスたちは――。
●デウスエクスと戦う理由を聞かせてください
少し長い話になるが、と、フィストは記者たちに向けて話し始めた。
「故郷であるスウェーデンの山奥にドラゴンが襲来し、父を失ったんだ。……母もまた、病で亡くなっていてな。両親の代わりをしてくれていた父の戦友が、ドラゴンの足取りを求めて日本に向かった。そしてケルベロスとなった私は、父の戦友と仇たるドラゴンを追って来たというわけだ」
そこまで話して、フィストはウイングキャット「テラ」を空中に舞わせた。
心身を鍛え、日々の困難に立ち向かい、民の心に寄り添うことのできる優しい王様になるため、と語るのはユッフィー。
「わたくしの故郷は、地底世界の小国。ヨルムンドをより良い国とすべく、わたくしのお母様は次の国王をケルベロスの中から選ぶことにしました。未来の夫となる方を探すのも、わたくしの務めなのです」
そうそう、とユッフィーは続ける。
「ローカストの王女、アリアンナ様がケニアにご関心をお持ちのようですの。皆様、よろしくお願いいたしますわ」
そう言ってうなずき、ユッフィーはその場を後にした。
エリオットの口からこぼれたのは『ノブレス・オブリージュ』という言葉だった。
「故国イギリスでは、王侯貴族が国民を守るため自ら志願して紛争地帯へ従軍することも珍しくありません」
家系が代々騎士であるエリオットの中では当然のように刻まれている言葉だ。しかし。
「それ以上に……助けた人やそのご家族の幸せそうな表情を見ると心が安らぎますし、被害者の無念を思うと胸が痛みます。貴族である前に『一人の人間』として、みんなの笑顔を守りたいのです」
一方、自分がそうしたいから、という強い意志を持つのは悠乃。
「ケルベロスとしての力を持たない一般人の方もデウスエクスと戦っています」
これまでの戦いで関わった人々や、ケルベロス・ウォーのことを述べる。さらにケルベロスとして力と役割を持ち、協力を求めることもあると、悠乃は記者たちを見回した。
「でも想いはきっとみなさんと一緒です。大切なものを守りたい、それだけですから」
微笑み、悠乃は力強くうなずいた。
ゆっくりと降りてきたのはうつほ。と、かたわらを歩くカノン。
飛行機が初めてであるうつほは、不思議そうに飛行機を眺める。が、やがて報道陣に気付いた。再び首を傾げてカノンを見れば、どうやら慣れた様子だ。
意外な様子をまじまじと見れば、カノンもうつほを見て笑顔で手を振る。困り顔になりつつも、うつほは狼狽えないようにと深呼吸をした。そして記者たちの質問に、苦笑しながらも答え始める。
「よくある仇討ちというやつじゃ……力の使い方をそれしか知らぬ故、な……」
「ほぅ……仇討ち……か……なるほど……」
カノンが小声で、興味深そうにつぶやいた。
「妾はそんなところじゃの。ほれ、そなたはどうなのじゃ?」
視線を逸らし、うつほはカノンに答えを促す。気付けば報道陣は別のところへと取材へ向かったようだ。
「吾輩は大した理由はないが……聞いてくれるならば、この旅行の最中にでも聞いて貰れるかの?」
「よかろう……ゆっくりと聞かせてたもれ」
うつほはまばたきをして、カノンに微笑みを向けた。
ケルベロスや取材陣で賑わう仲、灯火は緊張しながら歩いていた。
(「海外は初めてだし、ケニアのことは何も知らないし、仲間と一緒の人もいるのに……どうして一人で来ちゃったのかな……」)
そんな灯も、記者たちに呼び止められて困惑する。
「そ、そそそそんなこと聞かれても……わたし、人と関わるのが、その、苦手で……なので、あの……逃げます! 人違いですぅぅ〜〜〜〜〜!!」
と、混乱の極みのような発言をして全速力で逃げ去ったのだった。
「亡き友と誓った、“希望という未来”の為に……」
それだけ言って、藍励もまた逃げるように立ち去った。
初めは妹以外の血族を殺した宿敵を倒すためであったが、今では宿敵も倒して復讐も果たしたというマサムネ。
「それでもかつてのオレみたいに、デウスエクスに家族殺された子どもたちの力になりたいと思っているんだ。それに、冒険仲間から始まった友情や恋愛もある。シャルフィンみたいにね」
と、マサムネが促せば、シャルフィンは余り考えたことはなかったとうなずいた。ならば何故戦うのか。ざっくりいえば生きる為、と答え。
「死にたくなければ戦うしかあるまい。本心としては気楽にのんびりと毎日をだらけて過ごしたいんだがな」
「……そうだったのか。今はなんだか空っぽな感じで気が抜けちゃった」
マサムネはそう言って、シャルフィンとともに空港を後にした。
●どんな日常を過ごされているんですか?
プライベートを問われ、美緒は淡々と答える。
「そう変わったことをしているわけじゃないですよ、ケルベロスと言えども学ぶことは必要です、なのでちゃんと学校に行っています、それと……実家がラーメン屋なので家の手伝いもしています」
記者がメモをするのを確認して、美緒は続ける。
「後は旅団の仲間とおしゃべりしたり自己鍛錬したり、ケルベロスっぽい日常生活と言えばこれぐらいですね、ケルベロスだからって別に雲の上の存在じゃないんです、普段の生活なんてそう変わりありませんよ」
同じく学校に通っていると、その内容を詳しく説明するのはざくろ。
「ケルベロスとしてのお仕事があるから休みがちだけど、皆と一緒に授業を受けて給食を食べて、放課後は校庭で遊んで……帰りには行きつけの駄菓子屋さんでお菓子を買ったりしたりね。休日には友達と遊ぶの、毎日すっごく楽しいわ」
最初の緊張はどこへやら、ケニアのお土産を記者に聞く余裕も見せる。
パトリシアと久遠は、身を寄せて恋人つなぎをしながら記者たちの前へ。普通の人と日常は変わらない、と久遠が答える。
「ええ、ダーリンの言うとおり別段変わらないわよ」
「美味しい物食べれば嬉しいし、気の合う友人と話してれば楽しい」
「恋愛もするし、いちゃいちゃだってする」
「違いがあるとすれば、普通の人より日常ってやつの有り難さを実感する機会が多いって事だろうな」
「そう、こんな風に、ね?」
と、パトリシアは不意打ちで久遠にキスをした。
「んなっ!? いきなり何すんだよ!!」
「ふふ、いいじゃない。見せ付けちゃえば♪」
「嬉しいんだけどさ、人前で大っぴらにやるのは流石に恥ずかしいだろ?」
「あら、シャッターチャンス逃しちゃった? じゃあもーいっかい♪」
「だから止せって! 恥ずかしいって言ってるだろ!?」
くっつきながらも距離を取ろうとする久遠に、パトリシアはぐいぐいと近寄った。
続いて現れたのは、取材陣に驚く万里子。
「そもそも私は文化人類学者でもありますの。モンゴルの遊牧民を中心とした研究活動が主ですわ。チノアとはその縁で結婚いたしましたの、ね」
と、ビハインドの方を振り返る。
「今は両親とは離縁ですが、こうして夫と息子揃っていられるのは幸せです。研究活動の他は、息子に勉強を教えていますの」
万里子は抱き上げた息子を見て微笑んだ。
華麗なステップを踏み、気取った仕草でロゼをエスコートするのは本日マネージャーを務める季由。取材陣の前に出たロゼは、笑顔で挨拶をする。
「『A.A』の名で歌手をしています、ロゼ・アウランジェです!」
自身にとって歌は世界。歌で誰かを癒したい、自身の紡ぐ歌の世界を楽しんでほしいと続け。
「ケニアフェスに参加し歌います、日々の成果をお楽しみに!」
「ちなみに俺はミコトと日夜町内の警備に励んでいる。いついかなる時も油断ならない、食うか食われるかのスリル満点な日常さ」
「季由さん達の警備、どんなご馳走も逃がさぬ凄腕なのです!」
「そんな俺の日常を癒してくれるのが、A.A……ロゼの甘く可憐な歌声ってわけ。CDは毎日聴いてる! 三枚目のCDも出てるんだぞ!」
続いて取材を受けるのは、Tシャツにハーフパンツといった服装の照彦。テレビウム「テレ坊」も一緒だ。
「こっちも盛り上がってるなあ……」
呟くのは陣内。言いつつ、目の端に見覚えのあるテレビウムが。
「普段は空き缶拾ったり野菜育てたり〜遊んだりとか〜……あ、見とき! ターマちゃーん!」
「てーるさぁぁあああん!!!!」
呼ばれ呼び返し、陣内の体が反射的に動く。そして目の前に飛び出した照彦にデコピンをし、調子が良いと拳を握った。
「デコピンがくるねん。普段はオッサンのが勝つんやけど」
ウイングキャット「猫」も陣内の肩から飛び降り、テレ坊にじゃれ付いている。
「それにしても照さん、軽装の上に上着とは用意周到だな」
「タマちゃんじゃ何やスマートやない? オッサンこれしか服ないねんけど」
言われ、陣内はマサイシュカをストールのように巻き付ける。
「こっちは日本よりも涼しいって話だし。そうそう、喫煙所はあっちでしたよ、今度飲みに行きましょう」
「ちゅうか飲みなら今から行けへん?」
あとは取材そっちのけで盛り上がる二人であった。
●ケルベロス特集『デウスエクスと戦う理由』
ケルベロス大運動会に参加するため、多くのケルベロスたちがケニアを訪れている。ケニアポストでは、彼ら彼女らにデウスエクスと戦う理由をケルベロスに尋ねた。
今回の取材で、ケルベロスたちは実にさまざまな思いを抱えてデウスエクスと戦っていることがわかった。
仇討ちや自身の願い・誓い、あるいは思いから。または宿敵を倒すために。宿敵を倒したあとは自身のペースで活動を続けているというケルベロスも。
仇討ち、と答えたのは十六夜氏とフィズム氏だ。
十六夜氏については詳しい内容を聞くことは叶わなかったが、フィスト氏は長くなるが、と詳細を話してくれた。
フィズム氏は故郷をドラゴンに襲われ、そのドラゴンと、親の代わりであった父の戦友を追って日本を訪れたという。
また、園城寺氏は亡き友と誓った「希望という未来」のために戦っているそうだ。
いずれは王になるためと答えたのは、ヨルムンド氏。心身を鍛えて困難に立ち向かい、民の心に寄り添える「優しい王様」を目指しているとのことだ。
代々騎士の家系に生まれたアガートラム氏は「ノブレス・オブリージュ」の思想の元に戦っている。その思想以上に、救出した一般人などの幸せそうな表情を見ると心が和むそうだが、同時に被害に遭った人々の無念に心を痛めてもいた。
ケルベロスだからというわけではなく、自身がそうしたいから、大切なものを護りたいだけだから、とは彼方氏の言葉。一般人もケルベロスとは違う方法で戦っていること、その想いは自身と一緒だとも語ってくれた。
そもそもは宿敵を倒すためにケルベロスとなった、と、ディケンズ氏は述べる。既に宿敵を倒しているため、ケルベロスとしての仕事はマイペースに行っているという。それでもかつてのディケンズ氏のように、デウスエクスに家族を殺害された子どもたちに力になるべく、日々戦っているそうだ。現在は共に戦う仲間がおり、冒険を通じて友人や恋人なることもあると、ディケンズ氏は述べる。
レヴェルス氏は、生きるために戦っているそうだ。デウスエクスが襲ってくる以上、死にたくなければ戦うしかない。それ以上の意味は無く、単純なことであるという。「本心としては、気楽にのんびりと毎日を過ごしたい」とも。この思いは、我々一般人もよくわかることではないだろうか。
ケルベロスに直接取材できる機会はそう多くない。話をうかがうことができなかったケルベロスもいたが、機会があればぜひうかがってみたいところだ。
●ケルベロス特集『ケルベロスとしての日常』
ケルベロスにも、日常がある。当たり前のことだが、なかなか意識しない方も多いのではないだろうか。デウスエクスと戦う以外ではどのような生活をしているのか、ケルベロスたちは快く答えてくれた。
特に変わったことはしていない、と語るケルベロスが多い印象を受けた。
湯島氏いわく、家業を手伝ったり、学校に通ったりしているほか、ケルベロスらしい活動としては旅団の仲間との会話を楽しんだり、自今鍛錬をしているとのことだ。
仲睦まじい様子で現れた戯氏とシランス氏も、ケルベロスの日常は一般人と変わらないと語る。美味しいものを食べれば嬉しい、気の合う友人と話していれば楽しい。そう話す戯氏に、シランス氏は何度も頷いて同意を示していた。また、恋愛もすると、シランス氏が付け足す。違う点があるとすれば「一般人よりも日常のありがたさを実感する機会が多い」ことだと、戯氏が締めくくる。また、戯氏とシランス氏は、取材中は終始仲の良い様子を見せていた。
百鬼氏は、ケルベロスの仕事が無い時は学校に通っているそうだ。学校では一般人と同じように授業を受け、給食を食べ、放課後は校庭で遊んでいる。学校帰りには行きつけの駄菓子屋で菓子を買っており、休日となれば友人と遊んでいると、充実した毎日を楽しげに語ってくれた。
一般人と同じような日常生活を送るケルベロスがいる一方で、アウランジェ氏のように歌手活動をしているというケルベロスもいるようだ。アウランジェ氏にとって、歌は世界であるという。歌で誰かを癒すべく、日夜歌っているそうだ。ある意味ケルベロスよりも大変そうな日々について語ってくれた。
アウランジェ氏のマネージャーをしているという宵華氏は、サーヴァントとともに日夜町内の警備にいそしんでいるというのだから頭が下がる。加えて、アウランジェ氏の活動をアピールするなど、マネージャーとしての仕事もこなして立ち去って行った。
鹿目氏は、ケルベロス活動をする前から研究活動を行っていたそうだ。研究内容は、文化人類学者としてモンゴルの遊牧民を中心としているという。その他は息子に勉強を教えていると、抱き上げたご子息とともに微笑ましい様子で語ってくれた。
気の置けない関係に見えたのは、佐々木氏と玉榮氏。普段は空き缶を拾ったり、野菜を育てたりしているという牧歌的な生活を送っている佐々木氏。話の続きを聞こうとしたところ玉榮氏が訪れ、やがて二人連れ立って話しながらどこかへと歩いて行った。取材陣が目に入らなくなるほどに盛り上がっていたようだ。大人のケルベロス同士、良い関係を築けている二人なのだろう。
以上のように、ケルベロスたちは親しみのある日常生活を語ってくれた。彼らもまた、私たち一般人と変わらない日常があるのだ。彼らの日常のためにも、ケルベロス・ウォーの際はもちろん、引き続き支援を行っていきたいものだ。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月12日
難度:易しい
参加:19人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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