●先輩のお誘い
会社の男に合コンに誘われた。
いや別に合コン自体が悪いものだとは思わない。
いろいろな人と交流するのは良いことだと思うし、その中でウマの合う人と何かしら繋がりが出来るかもしれない。
もちろん、いい男とお近づきに、なんて下心もあったりするわけだけども。
「でも男が全員、妻子持ちのおっさんとかどういうことだよ!」
思わず往来で叫んじゃった。
誘われたのは自分も含めて20代前半の女性ばかり。対して男は皆30半ばの妻子持ちの男たちという。中には当然、まだ生まれたばかりのお子さんを持つ者もいる。
「奥さんがせっせと子育てしてるとこで、若い女と遊ぶとかどういう神経だよッ!」
苛つきのあまり、そこらの壁まで叩いてしまう。
人通りのない路地であることが、唯一救いか。
その男たちの中に、本気で合コンで付き合う相手を見つけようなんて者はいないだろう。
つまり遊びなのだ、奴らは。
遊びたいのならそーゆー店にでも行けば良い。もしくは遊びたいだけの女でも連れて行けばいい。わざわざ同じ会社の後輩なんぞ誘う必要はないのだ。
「私のこと、そーゆー女だって見てるってことでしょ……気持ち悪い」
「あはは。その嫌悪、分からなくもないかな」
「笑い事じゃな……う!?」
「まあ、私のモザイクは晴れないんだけどね」
人のいない路地に、いつの間にか誰かがいた。そう思った次の瞬間には意識が遠のいていく。そして、さらにもうひとつ、人影が増えたような気がしたところで、女性の意識は闇へ落ちていったのだった。
●ニンゲンの価値
ヘリオライダーの茶太は何とも微妙な表情で唸っていた。
「まあ、うーん。そういうのはよくわからないけど……軽く遊ばせてくれる女、って思われていい気のする人は多くないんじゃないかなあ」
少なくとも、この女性はそうだったということだろう。
そんなわけで生まれた『嫌悪』の感情。これを奪い、新たなドリームイーターが生み出され、事件を起こそうとしているというのだ。
夜の住宅街で、人通りはない。
すぐに向かえば被害が出る前にドリームイーターを倒すことが出来るだろう。もちろん、倒すことで感情を奪われて昏睡状態にある女性も目を覚ますはずだ。
「まあ、そういう流れで生まれたドリームイーターですし、気持ち悪いというか、うざいというかうんざりする感じじゃないでしょうかね」
やたらとつきまとって合コン誘って来たり、なにかとふたりきりで連れ出そうとしたり、とかそんな感じだろうか。
「鬱陶しいっていうんですよ!」
なぜか怒る茶太。
「失礼しました。そんなものをいつまでも徘徊させておくわけにはいきませんし、早めの退治をお願いします」
そういって、茶太は最後は簡潔に締めくくった。
参加者 | |
---|---|
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143) |
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214) |
鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420) |
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974) |
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841) |
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360) |
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365) |
水限・千咲(斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・e22183) |
●自己紹介記入タイム
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)がいきなり死にそうな顔してた。
「……死ねよ」
ほんとに死んだ魚のような目をしてる。なんか今回の話の説明を受けてる途中からだんだん心が死んでいったっぽい。思うところは色々あるのだろう。
「えっ、なんですか? 斬っていいですか?」
「いや呼んでない。っていうか、ここぞとばかりにテンション上げないで!」
ノリノリで水限・千咲(斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・e22183)が抜刀した。
「いやあ、私の場合心情が全部『斬る』ですし?」
「うん、知ってる。知ってるからまずは落ち着こうか」
戦闘前から危険な雰囲気。
「合コンか、ふむ……」
腕を組んだアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)は首を捻らせた。
「あのふたりは並々ならない殺気を放っているんだが、合コンとは要するになんなんだ?」
「えっと、それはねぇ」
「……その質問には、私が答えるわ」
「えっ」
説明しようとした鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420)を遮り、アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)が月をバックに颯爽と登場した。
「そう……この、街エルフがね」
なんかどっかのティーン向けファッション誌持ってるけど。
「限られた短い時間のなかで、如何に相手のことを知るか。そして、如何に自分をアピールするか。これで功を奏したものがその夜の合コンの勝利者になる……」
すらすら淀みなく読んでいく。
そして沈黙する。
さらに小刻みに震え出す。
「つまり男女の威信を賭けた戦い……生半可な覚悟で臨めば命を落とすこともあるということ?」
「どうしてそんな解釈に!?」
「都会怖い……」
「ふっ……腕がなるじゃあないか」
「信じちゃった!」
アンゼリカも震えてたりする。もちろん武者震いである。
「お姉様、この世界の合コンは私の知っているものと違うのかしら」
「私は合コンって知らないのだけど、社交界のパーティーみたいなものかしら」
「パーティーで刀は抜かないわ」
うーんと並んで首をかしげるユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)とルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)の姉妹。
「でも、いろいろな感情が渦巻くのは変わらないみたいね」
「そうね、下心も一杯みたいだわ」
「だいたい30代半ばっていったら私たちの両親と変わらないじゃない」
「お父様はお母様一筋よね」
「そんなオジサンなのに若い子と遊びたいなんて……こういうの日本語でエロガッパっていうんだっけ? はっ、だからカツラなのね!」
「さすがお姉様、名推理ね!」
このへんだけ唯一サキュバスっぽい会話してる感じがしないでもない。関係ないけど今回8人中5人がサキュバスという偏り具合。いやちょっと違いそうなのも混じってるけど。
「……はぃ、ちゅうもくー、どきどきマッチング、の時間」
めちゃくちゃやる気なさ気にラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)ぺちぺち手を叩いた。
サーヴァントたちとなんか出会い系みたいなことして遊んでるようだ。
「ぁなたのぉぁぃては、こちら」
お行儀良く正座して待つウイングキャットのぽかちゃん先生さんのまえに現れたのは……ライドキャリバーのちふゆさんとミミックのリリさんだった。
人どころか、無機物が相手。ぽかちゃん先生さんから表情が消えた。
●トークタイム
もう半分ずれてた。ヅラが。
そのうえ、ニヤニヤしながら親指たててイイネをアピールしてくる。
だが、そんなふうに現れたドリームイーターを前にしてケルベロスたちは、緊張の表情を崩さずにいた。うち何人かは何か堪えてたかもしれないけど。
「きょう、はぉぁっまりぃただき……みんなでしんぼく、をふかめ……」
なんかラトゥーニが司会っぽいこと始めたが、所々聞き取れない。
「……」
黙った。
「……ぐぅ」
寝た。
リリさんが引きずっていった。退場。
「くっ……なんという合コン力……これがオモチカエリなのね……」
「正直帰りたい……いやいや、ちはるちゃんがしっかりしないと!」
驚きに声を震わすアリスの傍ら、やる気なくなりすぎてたちはるがようやく調子を取り戻してきた。
「ラトちゃんに変わってMCするよ! サラリーマンな彼に質問のある人いるかなー?」
「まずは軽めの質問で緊張をほぐすわ……」
「おっと、物怖じせず手を挙げてきたね。アリスちゃん、どうぞ!」
「……年収は、いくらほど?」
「それもうジャブどころかリバーブローくらいの一撃だよ!?」
「なん……だと……」
いきなり重い質問にドリームイーターも苦笑い。
「ふっ、なってないわね」
「私たちの実力を見せる時ね、お姉様」
「おっと、お次はルリィちゃんユーロちゃんのふたりからね!」
「歳はおいくつ?」
「趣味は? 最近ハマっておもしろいこととかある?」
「恋愛経験はあるの? ちゃんとエスコートできるのかしら」
「ところでさっきからその頭気になっているんだけど」
「そうね、ズレているわね。隠したいものが見えそうよ」
「もしかしてアレかしら、まだ私のお父様と同年代っぽいのにアレかしら」
「あら、アレな上にオジサンでなれなれしいなんて嫌でしかないわ」
「もしかしたら被害者の……」
「ちょ、まっまっまったー!」
止まらない姉妹をさすがにMCとして止めた。
「答える暇もないスピードで質問投げまくってどうすんの、っていうか後半ただの悪口じゃん!」
「なにか間違ったかしら」
自覚なし。間違ってないだけに如何ともしがたい。
「私からもいいでしょうか!」
「えっ、大丈夫?」
千咲が手を挙げてきたので、若干というかかなり不安げ。
たいていイロモノ扱いされている彼女だが、別に常識がないわけではない。
「どちらで働いているんでしょう。役職とかあります? 仕事の内容も気になります」
「あ、よかったまともだ」
「聞いてばかりもなんですし、私のことも教えますね。私は――」
「この調子ならまあ落ち着いて……」
「斬ります!」
「……いられるわけがあるかぁぁぁぁぁ!!!」
常識がないわけではない。
ただこの世界と彼女の世界にたった1ヶ所ズレがあるだけなのだ。
「それが致命的だっての!」
ちはるの叫びとともに抜き身を携えたまま千咲は連行された。
「えっと……なんか蓮華たちが残っちゃったけど……」
「仕方がないな、私が話をしよう」
「じゃあ、司会っぽくやるねっ」
というわけで、最後にアンゼリカのターン。
「休日は何をしているんだね?」
「おおっ、わかりやすい質問っ」
「ちなみに私はコーヒータイムかな。暇を持て余してばかりでもいいことはないからね」
「さりげない自己アピール!」
「もちろん、素敵な伴侶と、ね」
「って、それ言っちゃいけないやつーッ!」
「そうなのか? だってあいつも……」
そういってアンゼリカが指さしたドリームイーターはわなわな震えていた。
「彼氏持ちが合コン来てンじゃねえエエエエエ!!!」
「どの口でそれいうの!?」
なぜか蓮華の方に突進してくるドリームイーター。戦いが始まったのである。
一方その頃。
ぽかちゃん先生さんはちふゆさんに跨がって周りをちょろちょろ走っていた。
いつの間にか仲良くなってる。
●マッチングタイム
彼女らは大きな思い違いをしていたのかもしれない。
「出会い系じゃねエエエエエエエ!! にゃんにゃんさせろおオオオオオ!!」
そう、合コンとはいっても、どこか業者などがセッティングし、完全に見知らぬ同士で顔を突き合わせるものではなかったのだ。
知り合いのツテで女の子を集め、良い感じになったらお持ち帰り、なんていう不埒な考えだったようなのだから。
「ましてや結婚相談所じゃねエエエエエ!!」
ガチじゃないのだ、最初から。
「でも、お前らは彼氏いたりするのに来てンじゃねええ!!」
「地水火風の魔力をただ1つの裁きの刃と為す……」
迎え撃つはアンゼリカ。
「冷やかしかってんだコラああああ!」
「貴様が言うなッッ!!」
相手の動きに合わせて突進し、光の剣を振り下ろして迎撃。直撃したドリームイーターの肩口に深々と刃が沈み込む。ツッコミのせいでセリフ逃した。
「俺はいいんだああああ!!」
「何っ!」
重い一撃にもかかわらずなにもなかったかのようにドリームイーターは突進を再開した。だが、素早く割り込んだ影がそれを阻む。そしてそのまま繰り出される達人の如き一撃。
「リリばりあー」
ラトゥーニの差し出したリリさんに直撃した。
「最近ディフェンダーの仕事してなぃ気がする……から」
忘れてる? と首をかしげてくるが、いつも最前線にぶん投げられてます。
身体の半分凍り付かせてかわいそうなリリさん。
不憫に思ったのか、ちふゆさんが体当たりで身体を張ってガードしてる間に、ぽかちゃん先生さんがそっと救出。綺麗な連携である。
「そういえば、聞いてみたいと斬ってみたいってなんだか似てますねっ!」
間髪入れずに千咲が飛び込んできた。斬るタイミングを狙っていたといわんばかりに。
「――斬って払って――」
一撃二撃。
「斬って。斬って、斬って、斬って、斬って斬って斬って斬って」
後ろに下がって回避するドリームイーターに、まるで縋るように迫り腕を振るう。気さくに話しかけるような表情で。
「で、今のうちに狙えそうだけど、やっとく?」
「うん!」
ちはるの援護を受けて蓮華が狙いを定める。
誰もが目指して止まない、その頂きへと。
ドリームイーターの頭部で黒い塊が弾けた。
「バレてないと思っていても、周りにはバレてるっていわれてたり……ねっ」
可愛らしくウインクしていうけど、えげつない発想である。
思い当たる節があるのか、トラウマが発現したのか。
「ああああああああああああ!!!」
怒りとも悲しみともつかぬドリームイーターの叫びが響き渡り、さらにその頭を激しく前後に揺らす。
だが、それがいけなかった。
――ぱさり。
落ちた。ふさふさなアレが落ちた。
「きゃっ、まぶしっ」
ユーロがなんかいった。
「……」
しかしみんな沈黙。誰の視線もがそれに奪われた。
「……眼前にうつるもの。それだけが総てではない。こういうことなのだわ」
いつの間にかアリスがドリームイーターにナイフを突き立てていた。
完全に視界の外だった。
そうしてまた注意が集まったところで別の死角が生まれる。
「秘密全部抉り出してあげる……だから」
そこにはちはるがいた。やはり短刀を突き刺して。
「墓場まで持っていけ」
手首を捻り、抉りこんだあと蹴飛ばして距離を取る。
「お姉様、アレをやりたいわ」
「仕方ないわね。合わせなさい」
そんな言い方をしつつもルリィもノリノリの様子で槍を生成。そして放たれた紅に輝く槍をユーロが追いかけながら、その杖に炎を宿らせる。
「せーのっ、焼き尽くせー!」
槍が突き刺さると同時に、炎の剣と化した火柱が振り下ろされる。ふたつの力が同時にぶつかり、エネルギーが行き場をなくし大きく膨張する。
「Rosenheim!」
互いの剣と杖を交差させてポーズを取った後ろで、ドリームイーターが爆発し破壊し尽くされた。
「あっ……」
風圧で飛ばされたヅラが、千咲の足下に転がり込んできた。
「……」
ざく。
●会合のあと
煙が晴れると、そこにはもう何もなかった。所詮は夢、跡形もなく消し飛んだか、覚めて消え去ったか。
「やったわ、お姉様!」
「ええ、見事だったわ、って、ちょ」
飛びかかるように抱きついてきたユーロを、ルリィが照れくさそうにしながらも抱きとめた。
「もう、仕方ないわね」
なんやかんやでかわいい妹なので嬉しいけど、人前なので若干恥ずかしい。
でも受け入れる辺り、やはり仲の良い姉妹である。
ときにはこういう純真さも必要なのかもしれない。
そんなふうに感じたかどうかは分からないが、ぽかちゃん先生さんも少なくとも心境の変化はあったのだろう。
ごめんなさいといわんばかりに小さな花一輪を蓮華に差し出してきた。
感極まった蓮華は思わずその小さい身体を抱きしめた。
「蓮華はぽかちゃん先生がとっても大事! だから、これからも一緒にいて欲しいんだ」
言葉での返事はない。そのかわりにぎゅっと抱き返してくれた。
ちょっとこないだからぎこちない感じになってたみたいだけど、もうすっかり元通りのようだ。
まあ、あっちの方にはリリさんに張り付いた氷を砕いて割ってるラトゥーニの姿があるわけだけども。ヒールしてあげて。
「うーん、これはこれでカップル成立、ということなのかな」
なんだかよくわからないけど良い感じにまとまったならよし。
アンゼリカは深く頷いた。
「こんな世の中だが……1つでも多くの、良い出会いがありますようにと願っておこう」
それはドリームイーターにあてた言葉か、それとも被害者の女性か。すくなくとも嫌悪の元になった男性に対してではないだろう。
でもとりあえず反応したのは千咲だった。
「実は、私も今日は良い出会いがあったんですよ!」
「へえ、そうなのか。いいことじゃないか」
「ええ、ほんとこういうのは初めてで……」
「合コンが?」
「いえ、カツラを斬るのが」
「出会いってそれなのか!?」
「なのでもっとカツラ斬りたいです」
「いいんじゃないかな」
ざくざくずばずばざしゅざしゅ。
思いは人それぞれ。
「ほんとはね、もっといろいろ質問ぶつけて遊んでみたかったんだけどねー」
やや目頭抑え気味にちはるがいう。ちょっと残念そう。
当然だといわんばかりにアリスが頷く。
「……マイペースしかいないからだわ」
「その筆頭って自覚はないんだ!」
「敵からして自由だったもの……」
自分は妻子持ちのクセして、女の子は彼氏持ちを認めない。まともに付き合う気はなく遊びたいだけ。思えばにやにやしたあの目線なんかも気分悪かった。
「本当にさぁ……男に対して偏見持ちそうで怖いわ、こういうの」
「そうね。私達人類には、合コンはまだ早過ぎたのかもしれないわ……」
「さすがにそういう問題じゃないでしょ!」
そういう奴ばかりが男だとは思いたくはない。
「どうしたのかしら」
ちふゆさんが小刻みにエンジン鳴らしながら寄ってきていることにアリスが気付いた。
「あらぁ……ちふゆちゃんも女の子なのかなっ」
ハンドルのところに小さな花が一輪差してあった。
それに気付いてちはるが笑う、ちふゆさんが嬉しそうに吹かす。
出会いも交流もいろいろな形がある。
決して悪いことばかりではないのだと、そう思えたのだった。
作者:宮内ゆう |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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