真夏の雪割草

作者:陸野蛍

●夏に咲いた春を知らせる花
「こっちには、どんな植物が生えてるかな~?」
 少年は、夏休みの自由研究を野山に自生する植物の観察と決め、普段は登らない裏山まで来ていた。
 写真も撮りたかったし、直ぐに検索がかけられるからと、母親に無理を言ってスマートフォンも借りた。
 そんな少年の視線の先、一本の木の根元、そこにだけ、白やピンク、赤や白の花が咲いていた。
「あれ……? なんで、ここにだけ花が咲いてるんだろう? とりあえず、写真を撮って何の花か調べよう」
 少年はスマホで写真を撮ると、ネット検索で目の前の花の名前を必死に調べだす。
 だから、気付かなかった……その色取り取りの花々が少しずつ自分に近づいて来ていることに。
「どう考えてもこの花、今の時期に咲く花じゃないよな~。だって、この花は春を知らせる花って書いてあるし……」
 そこで、少年の意識は静かに途切れた。
 少年に疑問を抱かせた花が少年の身体を全て包み込み、少年を攻性植物の一部としてしまったから……。

●雪割らずの花
「みんなー、集合! お仕事の説明始めるぞー! ……それにしても、あっついよな」
 茹だる様な暑さに大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)も流石に、ばてている様子を見せながら、ケルベロス達に話し出す。
「今回みんなには、山形県の山林で発生した攻性植物の撃破及び攻性植物に囚われてしまった少年の救出をお願いしたい」
 大阪城から放たれ続けている胞子の影響で、山の植物が攻性植物化し、偶然居合わせた少年をその内に囚えてしまったとのことだ。
「で、その植物なんだけど、『この真夏に何で?』って思うんだけど、雪割草の攻性植物なんだ」
『雪割草』その名の通り、雪国に春の訪れを知らせる為に、白い雪から顔を出し花開かせる色鮮やかな可愛い花だ。
「所謂、多年草だから、常緑草として生えているのは普通なんだけど、色取り取りの花を咲かせたって言うのは、攻性植物の胞子の影響だろうと思う。そんな不思議な光景を目にしたら、少年が疑問に思って近づいても仕方無かったのかもしれない。だけど、攻性植物の犠牲にする訳にはいかないし、放っておけば、攻性植物『ユキワリソウ』は、街へ降りて更なる惨劇を生むことになる。何としても、阻止してほしい」
 少年を救った上でユキワリソウを撃破するには、攻撃と共にヒールをかけ、ヒール不能ダメージを蓄積させ、『ユキワリソウ』だけを死滅させることが条件になる。
 それでも、雄大はケルベロス達を信じ、少年の命を救う前提で戦闘に臨んでほしいと言っているのだ。
「攻性植物『ユキワリソウ』の戦闘方法は、蔦部分を鞭のようにしならせての近接攻撃。正確には萼片で花弁じゃないんだけど、まあ花弁ってことにしとくか、花弁部分を手裏剣のように発射する攻撃。最後に体内のグラビティ・チェインを空に放ち、雪を生みだしての範囲攻撃だな。特徴としては、機動力の高い個体って感じだな」
 防御力と体力ははあまり高くないとのことで、過剰なダメージを与えてしまえば、少年の命も直ぐに潰えてしまうかもしれないとのことだ。
 難しいダメージコントロールが要求される上に、戦闘の長期化が予想される。
「ユキワリソウの撃破が最優先だから、最悪、少年の命を諦める結果になっても誰もみんなを責めたりしない。それでも、みんななら、最善の未来を選びとれるって俺は信じてる。頼んだぜ、みんな!」
 言うと雄大は『二カッ』と太陽のような笑みを見せ、ヘリオンへと足を向けた。


参加者
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
ルペッタ・ルーネル(花さがし・e11652)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
簾森・夜江(残月・e37211)

■リプレイ

●助けると言う意志
「小さな個体の救出任務か。早いとこ助けてやらねえとなあ」
 夏の炎天下にも負けず、ぎこちない笑顔でそう言うのは、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)だ。
 傍から見れば、不敵な笑みを浮かべている様にも見えるが、内心は己が護るべき地球の小さな個体『少年』を必ず助けねばと意気込んでいた。
「雪割草、私の住んでいた所にも咲いておりました。厳しい冬を越えた生命はとても美しく輝くんです」
 横に並んで歩く広喜に説明するように、簾森・夜江(残月・e37211)が言う。
 広喜は元旧式量産型ダモクレスだったことから、知らない事柄も少なくない。
 そのことを知っている夜江は、少しでも広喜の知識が広まればと口にしたのだ。
「……だからこそ、その花が人を殺める様は見たくありません。彼を、必ず救い出します」
 言葉を続ける夜江の表情は、ケルベロスのものへと変わっていく。
「けれど、こんな季節に雪割草ですか。攻性植物も慌てているのか、はたまた何か思惑があるのか分かりませんが、事件を解決するのが私達ケルベロスの役目です。 少年を無事救出して、事件解決といきましょう」
 緑の髪に結った赤いリボンを揺らしながら、葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)が静かな声で言えば、アンダーリムの眼鏡を片手で直し、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)も同意する。
「季節外れなだけで無く、場違いな植物でもありますね。こんな所に攻性植物が出没するとは、見過ごせませんよ。少年も必ず助け出してあげましょう」
「それにしても、あっつい。辺り一帯を氷漬けにしたい……しないけど」
 仲間達に続くように歩いている、浅川・恭介(ジザニオン・e01367)は、照りつける太陽の暑さに少々バテ気味である。
 ちなみに恭介の相棒のテレビウム『安田さん』は、体内で冷却機能でも働いているのか、男前たる故か、涼しげな表情をディスプレイに映し、軽快に山道を跳ねている。
「安田さん、僕を置いて行かないで下さいよ。それにしても、夏休みの自由研究……学校に行ってない僕には、関係ないですね。面倒くさいし」
 安田さんに声をかけながらも恭介は小声で呟く。
「みんな、雪割草の攻性植物いました! あの花弁の形に少年の大きさ……間違いありません。ユキワリソウです!」
 花を愛し、植物知識に長けた、ルペッタ・ルーネル(花さがし・e11652)が前方数十メートル先に『攻性植物『ユキワリソウ』』を見つけ声を上げる。
(「植物に興味を持って、自由研究のテーマにしようとしていた少年が、あの中に捕えられているんですね。植物への興味……その気持ち、わたしには、よく分かります……! 見たことの無い花との出会い……とても素敵なことです。こんなことで植物を嫌いにならないでほしいです。だから……」)
「必ず、助けます!」
 強く言葉にすると、ルペッタは、星の聖域を創造する。
「そうやな。始まったばっかの夏休み、満喫させたらなな! 『Zacharias Ida Emil Ludwig Eins=Bahner_06』」
 ルペッタの言葉に続くように、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)は、心を5%ダモクレスに傾ける事でかつての記憶を開放し、命中補正を行うプログラムを持つナノマシンを生成すると、仲間達の得物にグラビティとして、定着させる。
(「今回は、敵のデータも分かっとる。最近は、データの無い戦闘も多かったから……ええな。お膳立ては揃っとるっちゅうことや。せやから、絶対救ったるねん」)
「巌君、回復はオッサンとルペッタちゃんで絶対支えたる。ユキワリソウの中の子は、任せたで!」
「佐々木のおっさんに言われるまでもねェよ。ガキを襲う攻性植物たァ気に食わねェからな!」
 照彦の言葉に答えると、志藤・巌(壊し屋・e10136)は、生来の鋭き眼から、ユキワリソウのグラビティの流れを乱す力を注ぎ込む。
「季節外れ! テメェがいてェのは自業自得だから諦めろ。……オイ、ガキ。聞こえてんだろ? 俺達は諦めねェから、お前も諦めるな。飛び切り痛いが、精々気ィ張れよ!」
 巌の言葉が終ると同時に、照彦の相棒『テレ坊』と『安田さん』のディスプレイが夏の日差しに負けない程に輝いた。

●それぞれの役目
「恭介くん、盾を飛ばします。広喜くんと二人、護りの要として頑張ってください! リルちゃん、恭介くんの援護をお願いっ!」
 ルペッタが光の盾を恭介に向け放ちながら言えば、ルペッタの相棒、碧の瞳のウイングキャット『リル』が淡いオレンジの花冠をユキワリソウに撃ち放つ。
「今日は長期戦ですねぇ。まぁ、救いようがないよりましです」
 少しの気だるさを口にしながら恭介は、天空高く飛び上がり、美しき虹を纏った右足で急降下の踵落としをユキワリソウの頭部に叩きつける。
「まさか敵をヒールする羽目になるとは、不本意ながら回復します。……見極めも重要ですね」
 表情に不快感を出しながらも、タキオンは魔術施術をユキワリソウに向け開始する。
(「少年を救出するのは、全員の総意ですからね。時間がかかろうと必ず成し遂げます」)
「皆さん、私は攻撃を優先します。蓄積ダメージの算出はお任せします」
 青き瞳にユキワリソウだけを映し、風流は因縁のあるシャイターンの少女の遺品である『静炎日本刀『不乱辺流寿』』で月弧を描くと、ユキワリソウの蔦を切り裂く。
「我が刃、雷の如く」
 夜江が刀身に魔術付与することで創りだした光の刃は、死を与える程の大きなダメージは生み出さない。
 その代わり、割れた硝子のように蒼々と散る瞬きがユキワリソウの身体に注ぎ込まれ、戒めの力となって束縛の力を発揮する。
「幼い命がその身に取り込まれているのです。帰してもらいますよ」
「こいつは、動きの素早い個体だったか……。夜江達が動きを鈍らせれば、攻撃は当たる……ってことだよな?」
 変わらない不敵な笑みのまま疑問の言葉を口にしつつも、広喜は大地を蹴り、巨大剣を大きく振り下ろし、重厚な一撃をユキワリソウに与える。
「広喜さん、ダメージの与え過ぎは駄目ですよ。広喜さんにはユキワリソウのヒールも担っていただかないと……」
「分かってるぜ、夜江。中の小さな個体を壊さず、外の個体だけを破壊するんだろ?」
 広喜が一瞬、夜江に言葉をかけた時だった、ユキワリソウの蔦が鞭のようにしなると、広喜、恭介、そして3体のサーヴァントを薙ぎ払った。
「どうした、その程度じゃ俺は壊せねえぞ」
 ユキワリソウの攻撃で着地バランスを崩しそうになりながらも、広喜は好戦的な笑みを湛えたままだ。
「折角修行に向いた夏の山中だって言うのによ、てめェみてェなのが居たんじゃ、ガキ共が山に入れねェだろうが!」
 ユキワリソウが蔦を引き戻す前に、懐に入り込むと、巌は刃の鋭さを得た回し蹴りでユキワリソウの横腹を蹴りつける。
「佐々木のおっさん! 季節外れが体勢整える前に、ダメージ受けた奴等にヒールだ!」
「ほいほい、分かっとるよ、巌君。黒鎖よ、みんなのダメージ回復したってや!」
 飄々と答えながら、照彦は手にした黒鎖で回復の陣を敷き、傷付いた仲間達を癒していく。
(「けど、オッサンには、もう一つ仕事あるもんなあ。ユキワリソウは防御薄めの相手や。万が一大きなダメージが入ったら、中の子がどうなるか分からん。いつもより慎重にダメージを見極めて、辛抱強く……ユキワリソウだけを倒せるようにしないとあかんのや」)
 表情は緩い照彦のまま……けれど、瞳だけは、かつてダモクレスの小隊を率いていた頃の冷たさをほんの少し覗かせ、戦況を見極めるのだった。

●春待ち草からの解放
「理由もなく植物に取り込まれる、痛く苦しい事でしょう……必ず助けます」
 ユキワリソウに影の如き動きでダメージを与えながら、夜江はユキワリソウの『中』の少年に言葉をかける。
「もう少しだけ、我慢できますか?」
「男だもんな、我慢できるよな?」
 夜江が少年にかけた言葉に自身の言葉を繋げ、巌は裂帛の気合を重力震動波に変換し、ユキワリソウだけを葬ると言う意志を込めて拳を叩き込む。
「季節外れの中で一生を、この夏を終わるなんて御免だろ?」
「巌!」
 広喜の叫びが聞こえると、巌は射線を開くように横に飛ぶ。
「まだ、壊れんなよ」
 掌部パーツから広がる青い回路状の光でユキワリソウをスキャンすると、ユキワリソウのダメージを算出、解析し、自身の地獄を修復のグラビティに変換した拳を広喜はユキワリソウの腹部に打ち据える。
「すぐに出してやるからな、もうちょい頑張れよ」
『必ず助けてやる』
 広喜が言葉にしなかった思いを皆が抱きながら、ケルベロス達がユキワリソウと戦闘を開始してから既に15分以上が経過していた。
 ユキワリソウは攻性植物としてもデウスエクスとしても強敵とは言い難かったが、ケルベロス達の強力な攻撃を連続で与えてしまえば、脆い鎧の下に居る少年の命も瞬く間に消えてしまっていただろう。
 ケルベロス達は、ダメージの確保よりも、ユキワリソウのグラビティ・チェインの流れを乱すことに特化した作戦を取っていた。
 一撃一撃は、大きなダメージにはならないが積もり積もれば、ユキワリソウの行動を極端に制限することが出来る。
 ダメージの見極めのミスが少年の命を削り取ってしまうことは皆が意識していた。
 ルペッタと照彦が最後衛から、ユキワリソウへのヒールの指示を飛ばし、タキオンや恭介、広喜が攻撃の合間にユキワリソウの回復を行っていた。
 回復の際に、どうしても付与されてしまう、防御の盾は風流がドレッドノートのパーツから創りだした『弩級機械剣『弩裂怒能屠』』から凄まじい駆動音を放ちつつ打ち砕いていた。
 唯一の懸念は、風流の攻撃ダメージが想定以上だった場合だが――事実、二度大きな傷口をユキワリソウに与えていた――サーヴァント3体への指示が既に済んでいたことと、中衛陣がすぐさま回復行動を行うことで、少年の死には至っていない。
 長期化する戦闘の中、ユキワリソウの花弁が恭介を傷つければ照彦が戦斧のルーンを開放し一気に傷を癒し、ユキワリソウが真夏の空に降らせた粉雪のダメージはルペッタが星剣を地面に突き刺し、癒しの力を放つことで無効化した。
 そして……今、ユキワリソウだけを葬る好機が訪れたとルペッタは判断した。
(「ユキワリソウに囚われている男の子に、これから……もっと色々な植物のことを知ってほしい。わたしが花を大好きな様に、彼にも同じように好きになってほしい。自由研究で好きな花を見つけてほしい……!」)
「楽しい記憶は癒しの力。花よ舞い、どうかみんなに伝えて下さい―!」
 これまで出会ってきた花々を描いたノートの雪割草のページを広げると、スケッチが具現化され、色取り取りの花々となり、ルペッタが雪割草と出会った時の楽しい気持ちが癒しの力となって仲間達を包む。
「みんな、思いっきり回復させました。ユキワリソウの中から男の子を助けだして下さいー!」
「オッサンが注意引くから、中の子は頼んだで!」
 言うと照彦は、身体中からミサイルポッドを出し、ユキワリソウに……いや、ユキワリソウの周囲の大地をも巻き込み土煙を上げられるように、大量のミサイルを発射する。
「攻撃と治癒の繰り返し、辛いでしょう? そろそろ、その子を放しなさい」
 赤茶の瞳を少しだけ細め言うと恭介は、灰の髪に咲いた紫の花から、攻撃的胞子をユキワリソウに放つ。
「少年を開放してください。事件解決の時間です」
 空をも断ずる斬撃を浴びせながら、風流が淡々と言う。
「貴方が命を諦めなかった結果が、今に繋がったんです。今、助け出します。目標捕捉、攻撃準備完了、発射!」
 クォークレベルの素粒子を高速に加速させ、タキオンはユキワリソウを一瞬の下に射抜いた。
 ほんの少しの静寂。
 聴覚に戻って来た蝉の鳴き声。
 ユキワリソウの緑の体表が白い雪のように空へと溶けてゆく。
 そして、柔らかな大地の上には、静かな寝息を発てた少年が横たわっていた。

●夏の一時
『ミーン! ミーン! ミーン!!』
 蝉の鳴き声、聞こえてくる夏の音……少年はゆっくりと瞳を開いた。
 視界に入って来る、緑のカーテンから差す、太陽の日差し。
「何で、俺、こんな所で寝てたんだろ……? そうだっ! 雪割草!」
「お目覚めですか?」
 少年が、記憶の最後に見た花を思い出し飛び起きると、緑の髪の少女が声をかけてくる。
 身長からして同い年くらいだろうかと少年が考えていると、テレビの様な妖精を連れた自分よりも背の低い少年が真っ直ぐに自分の瞳を見つめ聞いて来る。
「植物で怖い目にあって、自由研究の課題はどうするんでしょうか? 虫の研究に変えますか? 僕は、やだなぁ……」
「えっ? えっ? どういうこと?」
 少年が何が起こったのか分からず混乱していると、冷たいジュースの注がれたコップが差し出される。
「暑い中だと、余計に混乱してしまいます。一口飲んで、わたし達のお話を聞いて下さい」
 花のように笑う紫の瞳の少女に渡されたジュースを飲み干すと――正直――男性か女性かよく分からない眼鏡をかけた人が自分の身体を少し触り訊ねてくる。
「大丈夫ですか? どこか痛む箇所とかありますか?」
「えっと……別に無いです」
「それなら良かったです。あなたに何が起こったのか、ご説明しますね」
 黒髪の美しい女性の説明によれば、自分はデウスエクスになった雪割草に捕まり命の危険にさらされていたと言う。
 そう聞いてしまえば、夢で自分が誰かと戦っていたような気もする。
 急に悪寒が走り、身震いしてしまう。
「もう、心配いらんから、悪い奴はオッサンらが倒したったから、自由研究の続きやるとええ。オッサンも自由研究、手伝いたいなぁ。オッサン、キノコとか山菜とかには詳しいねんで。オッサンらと夏の思い出作ろうや」
 妙に愛嬌のある髭のおじさんがにこやかに自分の手を取る。
 少しだけの知らない人達――ケルベロスと言う凄い人達――と過ごす山での時間は楽しかった。
 白髪の見上げる程大きな人は、新しい植物を見つける度に子供のように無邪気に笑って、その植物の名前を教えると『すげえ、よく知ってるなあ』と心底感心したように言ってくれた。
「そろそろ、昼飯喰いに帰らねえとお前の母親が心配するんじゃねェか?」
 遠巻きに自分達を見ながら植物の怪我を治していたバンダナを巻いた人が、ぶっきらぼうに聞いてきた時、思い出した。
「そうだ! 1度、家に帰らないと! 山だから、母さん心配しちゃうや」
 名残惜しかったが、彼等に手を振って、家の方へと足を向けた。
 振り返ると、バンダナを巻いた人の怖そうな瞳が、何故か優しい色を灯しているように見えた。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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