梅雨も明けて、本格的に暑い夏がやってきた。
虫好きな少年は、母親とともに近くの公園へと虫とりに出かける。
欲しいのは、蝉だ。
「何処におるんかな~?」
「鳴き声はするのにね、見えんね」
と、少年の前にある木を仰いだときである。
「きゃーっ!」
1匹の蝉が、母親の顔をめがけて飛んできたのだ。
蝉のどアップとか、気持ち悪い以外のなにものでもない。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
必死に振り払う女性の胸を、魔女の鍵が容赦なく貫きとおす。
少年の呼びかけも空しく、ドリームイーターが姿を現した。
「昼は蝉、夜は蛙。夏はとっても賑やかで楽しいのです!」
笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、窓の外へと耳をすませる。
雀や燕も、唱っているようだ。
「けど、今回の事件はあんまり穏やかじゃないのです! みんなには、すぐに現場へ向かってほしいのです!」
ドリームイーターが真っ先に襲うのは、母親と一緒にいた息子である。
助けねぇとなと、ケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442)も意気込んだ。
「寄り道せず急げば、ドリームイーターが少年に襲いかかる前には到着できます! ドリームイーターの狙いを少年から逸らしつつ、逃走も阻止しなければなりません!」
母親はその場に倒れており、少年はいまにも襲われそう。
攻撃範囲外まで運んでじっとしておいてもらうか、公園の前の家で保護してもらうか。
「最初さえ上手く対処できれば、みんなは負けません! 頼みますのです!」
ドリームイーターの攻撃は、鳴き声による魔法攻撃と、体当たりによる物理攻撃のみ。
バッドステータスへの対策さえ怠らなければ、難しい相手ではないだろう。
「広さは申し分ありませんし、お昼ですから灯りも要りません!」
公園にほかの一般人はいないため、人払いもしなくてよいとのことだ。
「今日は暑いですけどお天気がいいので、眺めもばっちりだと思うのです!」
公園からは、穏やか~な瀬戸内海がよくみえる。
夕陽も綺麗みたいですよと、ねむは笑った。
参加者 | |
---|---|
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214) |
千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087) |
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799) |
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548) |
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829) |
エルガー・シュルト(クルースニク・e30126) |
皇・晴(猩々緋の華・e36083) |
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017) |
●壱
公園へと直行したケルベロス達は、すぐに親子の救出へと向かう。
「立派な母親じゃないか。自身は苦手でも、子どもの虫好きに寄り添っている。そんな母から生まれたドリームイーターがその子を傷つけるなど、あってはならない」
虹を纏ったフェアリーブーツで天空高くから急降下して、最速最短で割り込んだ。
エルガー・シュルト(クルースニク・e30126)の姿勢からは、嫌悪は感じられない。
「セミさん、この時季は、とってもにぎやか、ですよね。いきなりぽとって落ちてきたり、すると、ちょっとびっくり、ですけど。夏だな、って、思います」
緊張でガッチガチの、相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)も囮役。
テンパりながらも勇気を振り絞り、美しい虹を蹴り込んだ。
「……コレやるのもひっさしぶりでスねえ。コインさんやコインさん――本日の行方や如何に……初手さえどうにかできればよし、と。じゃ、言われたとおりにしまスか」
コインを1枚、千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)は空中へと弾き上げる。
裏面にほんの僅か表情を緩めて、煌めくエアシューズで以て跳び蹴りを喰らわせた。
「蝉の声が聞こえ始めると、夏が始まったなって気がするよね。蝉が気持ち悪い、って思ったことがなかったから、ちょっと不思議だ。虫が苦手な女性は可愛いからいいんだけどね。気持ち悪いのは迅速に始末、だね」
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)も、檸檬味の棒つき飴を舐めながら。
精度に拘り、愛用のリボルバー銃から魂を喰らう降魔の一撃を放つ。
「うわああぁ! 蝉、気持ち悪い、気持ち悪い! けど逃がさないよ、逃がさないよ!」
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)も、声を上げて注意を惹いた。
補食形態へと変形させた攻性植物に、ドリームイーターの脚へと毒を注がせる。
「蝉は夏の風物詩だが……ものには限度ってもんがあるだろうな。母子ともに必ず守る。準備はいいか? 跳ぶぞ」
怪力無双を発動して、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)が親子を抱え上げた。
そのままドリームイーターを跳び越えて、公園前の民家へと急ぐ。
「いきなりですまない、ケルベロスだ。っと。これは素敵な奥さま。あとで、そこの公園でともにお茶でもいかがかな?」
出てきた女性に、隣人力も発揮してナンパ……親子の保護をお願いした。
(「刀を極めし者は自らも刀と化す……無刀っ!」)
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)は『消音靴』を履き、ひとり背後へ。
己の翼を高速で叩きつけたうえで、頭部から『魚獲り網』を被せた。
「僕も、誰かを護れるくらいには、力がついたかな。今日も気合いを入れていこうか。彼岸、準備はいい?」
愛用の着物の裾を整えつつ、皇・晴(猩々緋の華・e36083)は爆破スイッチを押す。
地雷の爆破の陰で、シャーマンズゴーストには前衛陣へと物言わぬ祈りを捧げさせた。
●弐
第4ターン。
丁寧な対応で親子を預け終えたラジュラムが、戦線に復帰する。
響きわたる鳴き声に耐えながら、全員でドリームイーターを囲い込んだ。
「悪いが、逃がすわけにはいかんのでね」
包囲網に穴がないよう気を付けながら、ドラゴニックハンマーを振り上げるラジュラム。
思い切りの加速力とともに、ドリームイーターへと叩きつけた。
「ちょ、ちょっと怖い、ですけど、が、がんばりますっ!」
えーいっとかけ声をかけて、簒奪者の鎌を放り投げる愛。
絶妙な回転が加わり、複数の切り傷を残してから手のなかへと着地する。
「相川とアイリスのあいだ、もう少し詰めてくれ」
エルガーも、視野を広く意識して、仲間達の位置関係に留意していた。
修正を確認して、バスターライフルから凍結光線を発射する。
「子どもの目の前でお母さんに手を出すなんて許せない! 絶対に助けるよ、助けるよ!」
稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブで、超高速の突きを繰り出すアイリス。
眼前のドリームイーターを倒して母親の意識をとり戻すのだと、意気込んだ。
「願いの力を俺に」
引き金を引けば、折り鶴のドリームイーターの魂を封印した弾薬が飛び出す。
美しい鶴の嘴が、ヴァーノンの狙いどおりに急所を撃ち抜いた。
「あぁ、空が綺麗だね。キミがどんなに攻撃を仕掛けてこようとも、僕達の連携を崩すことは叶わないよ」
言い終わるや否や、晴の生んだオーロラのような光が前衛メンバーを包み込む。
キュアし損ねた味方も、シャーマンズゴーストがフォローしてくれた。
「はぁあぁぁっ!! ったく……やっとローカストの事件が解決したってぇのに、今度は大セミかよ。勘違いされて風評被害が出る前に、始末してやるか」
逃走防止のため、大袈裟に頭を押さえたり受け身をとって地面を転がったりする征夫。
雄叫びをあげれば、冷静だった心もちょっと荒っぽい喧嘩モードへと変化した。
「焦りは禁物でス、久遠さん。貴方も、余所見の暇が与えられるとお思いで?」
無表情の裏で、雉華は自分に、やればできると言い聞かせる。
気持ちを強く持って、将来性を感じる痛烈な魔法を喰らわせた。
●参
戦闘も終盤へとさしかかり、ここが踏ん張りどころ。
ケルベロス達も、残る力を振り絞る。
「わ、わたしが狙われているあいだに、みなさん、お願いしますっ! わ、わたしだって、やればできるんですからっ!」
小さな声で精一杯に叫んで、愛は光の矢を手のなかに具現化させた。
ふらふらと彷徨いながらも確かに進む煌めきは、その先の標的を射抜く。
「さぁ、咲かせましょうか。満開の花を」
一瞬の満開ののちに舞い散る承和色の花弁が、ラジュラムの傷を癒した。
相棒も、ずっと祈りを捧げ続けている。
「はぁ。虫の駆除はサツの領分じゃないんでスけどね……土を、噛め」
雉華の右腕にまとわりつくのは、総ての死の記憶を孕んだ、あらゆる生命体の影。
腹部へ拳を叩きつければ、宇宙中の、死ぬ瞬間の感情と記憶が、流れ込んでいく。
「眼を離した隙に 不思議なことが起きるかもね?」
リズムよくステップを踏むと、足許から癒しの力が湧き出てきた。
アイリスは、ディフェンダーである晴を回復させる。
「お前さんの夏は終わりだ。悪いがこれにて幕引きとさせて頂く……楽しかったぜ!」
ドリームイーターの体当たりを、ラジュラムは納刀状態の斬霊刀で受け流した。
体勢の崩れているところへ、抜刀からの不可避の一閃を放った。
「おぉっと、この期に及んで逃げようたぁ、巫山戯た真似すんじゃねぇよ!」
翅を広げるドリームイーターを、しかし征夫が許さない。
摩擦の炎を纏ったエアシューズで、後ろまわし蹴りを決める。
「問題無い。想定の範囲内だ――シュネールガン・アクティーフ。我が身に来たれ、雷鳴の牙。我とともに咆哮せよ――」
複数の魔術回路を高負荷で並列稼働し、風と雷の精霊を同時召喚するエルガー。
重力も乗せた脚部へ帯電すると、風の導きに従い、蒼い稲妻を纏う蹴りを打ち込む。
ドリームイーターはその場へと倒れ込むが、皆、死んだフリを警戒していた。
「特に恨みなんてないけど……迷惑をかけられる前に、サヨナラだ」
だからヴァーノンは、2丁拳銃を巧みに操り、容赦なく頭部を撃ち抜く。
完全に動くことを止めた器は、霧の晴れるが如く消滅するのだった。
●肆
公園の現状復帰を済ませて、ケルベロス達は民家へ向かう。
意識をとり戻した母親と子どもが、玄関まで出てきてくれていた。
「おふたりとも、ご無事でなによりでした。ですが今日はゆっくりされてください。夕食の準備もたいへんでしょうから、此方をどうぞ」
征夫が『サンプル等保存用ドライアイスボックス』で保存していた食品を、差し出す。
『やまぶき特製黒毛和牛の手ごねハンバーグ』について説明をすると、少年が喜んだ。
「怖い蝉は、ちゃんとアタシ達が倒しまシた。公園ももとどおりですから、安心してくだサいね。貴方も、おふたりを保護していただいてありがとうございまシた」
敬語で丁寧に、雉華は親子を安心させて、家主に礼を述べる。
ケルベロスとして以上に警部補として、住民の生活を守ることができてよかったと思う。
「よくがんばったねぇ。大人しく待ってたご褒美に、飴ちゃんあげる。ところで本物の蝉は捕まえたのかな?」
ポケットからとり出した棒つき飴を、ヴァーノンは少年へと手渡した。
ありがとうと袋を剥いで口へ入れるが、問いかけには首を横に振る。
「じゃあボクも手伝ってあげるよ。空も飛べるんだよ、便利だろ? 折角なら、ボクと楽しい想い出をつくろうよ」
ヴァーノンが翼をちょっと動かしてみせると、少年はおぉ~っと感嘆の声をあげた。
「あ、このおじちゃんが運んでくれたんだよ!」
「そうでしたか。ありがとうございました」
「どういたしまして。蝉とりのあいだ、お母さまもいかがでしょう。公園でお茶でも」
外へ出た少年が気付いたのは、後ろに控えていたラジュラムである。
女性2名と、瀬戸内海を眺めながらの優雅なティータイムへと繰り出した。
夕方でも未だ明るくて、お昼間よりは少しだけ気温も低くなっている。
「あ、暑いので、冷たい紅茶を、ご準備しました」
ドジっことはいえ、メイド見習いとして日々いろいろと練習している愛。
不得手な給仕も見事なものだと、母親達に感心された。
「何処だ何処だー? 声がするよー?」
その周辺を、アイリスは少年とともに走りまわる。
きょろきょろしたり、鳴き声のする辺りをじーっと見詰めたり、忙しい。
「お、見付けたか。俺の肩を踏み台にするといい」
実は子ども好きなエルガーも、蝉とりに夢中。
高所の蝉を捕まえさせて、からだのつくりを観察したあとは逃がしてやった。
「今日は、楽しい時間をありがとうございました。皆様どうぞ、ご健康で。キミは、これからもお母さんを助けてあげてね。素敵な夏休みを!」
それから1時間くらい、公園で一緒に時間を過ごして。
キラキラの王子様スマイルで、お別れの挨拶をする晴。
二手に別れて、それぞれの家まで送り届けた。
「わぁ……ゆ、夕陽が、本当に、綺麗ですね」
公園へと戻った一行は、改めて瀬戸内海からの眺望を堪能する。
愛の指す先から、空がみるみる真っ赤に染まり始めた。
「3度目の共闘か……今回もともに戦えて心強かったぞ、千里。次回も頼む。皆の日常と笑顔、そして地球の自然。これらを護るため、俺は戦い続けよう」
「そうでスね。アタシも、警察の誇りを胸に、前へ進みまス」
造られたイノチへ黙祷を捧げ、エルガーは『牙無き者の牙』の決意を新たに凛と佇む。
くせっ毛の短髪を手で押さえながら、雉華も強く頷いた。
(「それにしても、千里さんの厄介にならずに済んでよかったな……」)
征夫は、暴れすぎたりモノを壊したりしなかったことに、隣で胸を撫で下ろした。
「くぅ~! 夕陽が沁みるねぇ~!」
商店から帰ってきたラジュラムは、沈みゆく太陽を観ながらカップ酒を味わっている。
「彼岸、観てごらん。船も出ているよ。この時季はなにがとれるんだろうね」
視界の絶景を堪能しつつ、晴はシャーマンズゴーストと笑い合った。
「みんな無事だったし、蝉も捕まえてあげられたし。万々歳、万々歳!」
やってきた夜に、早くも次の日を想うアイリス。
どんなわくわくすることが待っているのだろうかと、帰路に就くのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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