アタック・オン・イミテイションビーチ

作者:鹿崎シーカー

 光輝く白い浜辺に、青い波が寄せては返す。涼しげな風に揺れるヤシの木。点在するビーチチェアには水着の女性たちがゆったりとくつろぎながら、マッサージや冷たいスイーツを堪能している。
 まさしく南国そのものの光景なのだが、ここはハワイでもメキシコでもない。人気のない山中に作られた高級リゾートの中である。遥か彼方の水平線や、天井を覆う青空も、実際だまし絵。しかしながら完璧に整えられた空間は、特権階級に癒しを与える。だが……。
「ウオオオォォォォォーッ!」
 ビーチチェアが突如吹き飛び、寝転ぶ女性が宙を舞う! 悲鳴を上げ自由落下する彼女を横抱きにキャッチしたのは……醜悪な豚の怪物である! 続いてそこかしこから砂が間欠泉めいて噴き上がり、二足歩行の豚モンスターが次々と現れ出てくるではないか! ビーチは既に下卑て笑う豚によって包囲されてしまっていた。
「ブヒヒヒヒヒ……大当たりだ。上玉の山、宝の山だぜ!」
「いや、宝の海だ! ブヒヒヒヒヒ!」
「なんでもいいから早くしようぜ! 前後したい!」
 粘着質な笑みを浮かべたオークたちがリゾート客ににじり寄る。偽装ビーチに女性たちの悲鳴が木霊した。


「罪もなき女性を欲望のまま襲うとは……なんたる邪悪でござるか!」
「実際かなりアブナイだと思う」
 チャブ台をたたくクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)に、跳鹿・穫は神妙にうなずいた。
 とある高級リゾートのプールに、オークの出現が確認された。
 オークたちはどうやらドラゴン勢力の拠点、竜十字島から魔空回廊を通って現れたらしく、自らの本能に従って女性たちを略奪しようとしているらしい。
 放っておけば女性たちはオークに囚われ、口にするのもはばかられる目に合うだろう。今すぐ現場に急行し、オークの群れを一匹残らず倒してほしい。
 今回戦場となるのは、某高級リゾートにあるプール施設だ。空調や風景に工夫を凝らし、精巧に南国ビーチを再現した贅沢極まる施設であり、足場は砂地になっている。普通の砂浜となんら変わらないと思ってもらって構わない。
 そして現在、計二十名の客やスタッフを、十体のオークが取り囲んでいる。
 幸い、オークは女性達を傷つけるつもりはなく、命を取ろうとはしていない。なので、女性が残されていても殺される心配はない……のだが、戦闘にうっかり巻きこまれればその限りではない。避難させるに越したことはないだろう。
 ちなみに、オークはケルベロスを排除してから女性を連れて行こうとするので、ケルベロスが全滅するか逃げない限り、女性達がさらわれることもない。また、女性がその場からいなくなれば、諦めて撤退するようだ。
 オーク一体一体の戦闘力はそれほどではなく、ケルベロスより少し弱い程度の実力。ただ、首領格の個体は存在しないため、リーダーを倒して戦意喪失させるという手段は使えないのでそこだけ注意。
「いたいけな女性を襲う豚など許せぬでござる! 悪しきオーク、殺すべし!」
「普通の人にとって脅威なのは間違いないしね。ひとつよろしく!」


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
神籬・聖厳(魔法の鍛冶屋ヒエロファニー・e10402)
ヤマダ・タエコ(ボッチなアニソンロッカー・e11869)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
柊・弥生(癒やしを求めるモノ・e17163)
ラッセル・フォリア(羊草・e17713)

■リプレイ

「うーん……いい風」
 作り物ヤシの木の下、ラッセル・フォリア(羊草・e17713)は木陰でのんびりつぶやいた。長い緑髪をポニーテールにまとめ、素肌に緑のノースリーブローブ、下は緩い海パン。砂地に座る彼のそばには螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が木に背中を預けてたたずんでいる。
「ビーチかぁ……今度の休みに行ってこようかな。本物の」
「いいんじゃないか? ……しかし」
 セイヤはビーチをチラチラ眺める。水着姿の女性に視線を泳がせ、居心地悪げに肩を揺らした。
「落ち着かないな、こういう空間は……なんというか、眩しい」
「あはははは。セイヤくん、意外と純情派かい? 目の保養だと思えば大丈夫だよ」
「目に毒だ……」
 げんなりするセイヤをよそに、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は欠伸を放つ。あぐらをかいたまま、頬杖を突く。
「にしてもよ、やっぱりオフで来たかったよなァ。夏だってのにハタ迷惑な話だぜ……豚の相手なんざするよか、ロマンチックな思い出の一つも作りたいモンだ」
 大きな溜め息を吐くランドルフ。背中を伸ばして首を鳴らすと、木陰から離れた場所に敷かれたシートの前で揺れる二本の尻尾に目をやった。
「……ところで、だ。お前、さっきから何やってんだ?」
「むっ?」
 四つん這い姿勢の一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)が振り返る。赤いセパレート水着から目を逸らすセイヤをよそに、茜は両手に持った包丁を掲げる。
「包丁確認です!」
「何する気だよ」
「あ」
 口を開けると、茜はシートに向き直る。並ぶ調理器具を見回し、再び振り向く。
「鉄串忘れてきました!」
「……何する気だよ」
 額に手を当て、ランドルフが呆れ顔で首を振ったその時、女性の高い悲鳴が響いた!
「ブヒーッ! ブヘヘヘヘヘ!」
 ビーチ方面、噴き上がった砂から下卑た笑いと無数の触手が現れる。さらに偽装ビーチの女性たちを囲むように九本の砂噴水が出現、中からオークが飛び出し女性に飛びかかる!
「ブヘヘヘヘヘヘヘ! 人間の女ァーッ!」
 ビーチチェアの上ですくみ上がる水着の女性に迫るオークの一体。よだれを飛ばして走るその顔に、銀のロッドが突き入れられた!
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
 顔面を打たれのけ反るオーク。ロッドを握る神籬・聖厳(魔法の鍛冶屋ヒエロファニー・e10402)はモノクロームのゴスロリドレスをひるがえし、腹に追撃を叩きこむ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 殴打を食らって吹き飛ぶオークと入れ替わり別の二体が走り迫る。背中から生えた触手をうごめかせる二体の前に黒匹に姿の柊・弥生(癒やしを求めるモノ・e17163)が踊り出、前屈みで胸を強調したポーズを決める。
「オークさん、オークさん! 私と一緒に遊びましょ?」
『ブホッ!』
 鼻から蒸気を噴き出し飛び出さんばかりに見開かれる二体の目。色欲に濁る四つの瞳にそれぞれクナイが突き刺さる!
『グワーッ!』
 射抜かれた目を押さえる二体にクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が低姿勢で高速接近! 右腕に巻いた鎖をほどきムチめいて打ち振った。
「イヤーッ!」
『グワーッ!』
「ハリーアップ! エスケープするでござる! イヤーッ!」
 鎖に打たれ吹き飛ぶ二体をクリュティアが追う。逆手にカタナを持って跳躍する彼女の足を、別個体の触手がつかみ引っ張った!
「ブヒヒヒ! ひっ捕らえたぞォォォッ!」
「アイエエエエエエ! 巻きつくなでござる!」
 オークは捉えたクリュティアを吊る。豊満なバストを見据え舌なめずりする彼の触手を飛び来る日本刀が斬り裂き眉間に突き立つ! そこへセイヤが高速滑空。首に回し蹴りを打った。
「ブゲェッ!?」
「彼女達に手は出させん……生きて帰れると思うな!」
 セイヤは眉間の刀を抜いてオークを蹴とばし再飛翔し、転がるオークへ牙をむいたランドルフが疾走! 両手の爪が銀色に輝いて伸び、鋭い刃に変化する。
「お前……クリュに手ェ出すたァいい度胸してるじゃねえか……だがお生憎様だ!」
「ブヒ……!?」
 バウンドし上下逆転して宙を舞う豚の腹。目前まで来たランドルフは高く掲げた両手の爪を振り下ろす!
「地獄に落ちなァッ!」
「ブガァァァアッ!」
 一閃したランドルフは方向転換。背後で爆発するオークを捨て置き女性を抱える彼にオークの触手が襲い来た。
「その女ァ置いていけェェェ!」
「はいはーい。だーめでーすよー」
 割り込んだヤマダ・タエコ(ボッチなアニソンロッカー・e11869)が足無しマイクスタンドをバトンじみて振り回し、女性を奪わんとする触手を次々と迎撃! 全部叩き落とした隙にマイクに叫び音波を発射。踏んじばって耐えるオーク!
「ぬぐおおおおおッ!」
「んんー、意外とねばる……ん?」
 粘つく水音にタエコはちらりと横を見る。そこには飛びかかってくる別個体!
「ブッヒヒヒーッ! その意味ありげなフロントジッパーひん剥いてやるぜェーッ!」
「やらせるかぁッ! ですッ!」
 下卑た笑顔で飛ぶ豚を、茜が錐揉み回転キックで吹き飛ばす。直後、木製天使像型ドローンが二匹に突撃して爆発! 後方ではラッセルが目を潰された豚二匹の首をブレイクダンスめいて蹴り刈り、吹き飛んだ首に天使像をけしかけ爆破!
「道開いたよ!」
「さあさあ皆さん急いでくださいっ! 誘導に従って避難お願いしまーす! そしてそこのオークの皆さん!」
 女性達に声を張り、茜はオークに人差し指を突きつける。
「あの女性達が欲しいのならばッ! まずわたし達を倒してから行きやがれ! です! ただし私達が勝ったらあなた方のお肉を貰います!」
 そしてオークの前に立ちふさがるケルベロス女性陣。わずかに距離を開けてにらみ合いながら、クリュティアと聖厳がアイサツをした。
「ドーモ初めまして、オークの皆さん。クリュティア・ドロウエントでござる」
「ドーモ、ヘドニズムです。フフフッ……仲間や一般の人達には指一本触れさせないわ?」
 その時、バタバタと慌ただしく一体のオークが駆けてくる。彼は水着の女性を横抱きにして飛び去るセイヤを忌々しげに見送ると、荒い息を吐きつつにらんだ。
「お前らァ……俺達の邪魔しやがって……!」
「ふふふふふ」
 笑う聖厳が、ドレスの胸元をはだけてみせる。白い肌を見せつけ、意味深に微笑んで見せる。
「ごめんあそばせ? こうしてあげたら満足する? ふふっ……卑しいこと」
「やだ……こわぁい」
 続けて太ももを強調するポーズの弥生。オークの一体が生唾を飲み込み、隣の個体を肘でつつく。
「ブヒヒヒ……なァ兄弟。よく見りゃこいつら上玉だぜ。ブヘヘヘ……」
「……そう言われればそうだなァ」
「中々、悪くねえんじゃねえのぉ? ブヒッ、ブヘヘヘヘヘヘ……」
 オーク達の押し殺した笑い声がユニゾンし、長い触手がぐねぐねうねる。ダイヤ柄タイツ風水着のフロントジッパーをわずかに下ろし、タエコがスタンドマイクを構える。
「あげられるのは歌くらいなものですけどねー。ステージ上のロッカーにお触りは禁物ですよ」
 五人が各々武器を持つ。一方でオークは豚鼻から血をしたたらせながら、突撃前の闘牛めいて地をかく足を踏みしめた。
「こうなったらしょうがねえ。責任取ってもらおうじゃねーかァアアアアアアッ!」
「ブヒーッヒヒヒヒヒヒ!」
 砂を蹴りつけ七匹が一斉疾駆する! 迎撃に放たれたラッセルの天使像を触手で打ち払う豚に弥生はドーナツ型起爆スイッチを起動。噴き上がる爆炎に飲まれながらも伸びた触手の群れがタエコと弥生に襲いかかる! それらに茜が投げた大量の包丁が突き刺さる!
「こちらは通行止めですよッ!」
「そぉかよォーッ!」
 爆炎を跳ねのけた一体が茜をショルダータックルをかます! 弾き飛ばされた手足を縛る触手をクリュティアの逆手に構えたカタナが切断。同時に右腕に巻いた鎖をほどいて投げつけオークの首を絞めて引っ張る! 飛来する頭部に掌打!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
 オークの鼻から血が噴き出した。だが追撃しかけるクリュティアの腹に別個体の触手が絡まり強制的に引きはがす。引き寄せた側頭部にパンチを繰り出そうとする個体に弥生はドーナツ型の浮輪を投げて妨害。スイッチを押そうとする手を触手が巻き取る!
「ブヘヘヘヘヘヘ……大人しくしろよォーッ!」
「離してッ……!」
 オークは弥生が投げた縫い針を片手で防御し右フック! 脇にヒットした拳はビキニ紐を千切り水着を剥がした。落ちる水着に長い舌を出すオークに天使像が連続衝突、飛び込んだラッセルが鋭い回し蹴りを打ちこんだ!
「せやぁッ!」
「グボッ!」
 横を向いたオークの零距離に着地したラッセルは枝とつる草で編んだロッドでアゴを打つ! ラッセルの足元に翡翠色の陣が浮き、オークが炎上!
「ブヒィーッ!」
「螺堂さん、今ッ!」
 下顎を打たれ浮遊するオークめがけて天井画天空をセイヤが突っ切る。右手にたぎる黒炎じみたオーラを竜の頭部へ変化させ、漆黒の流星と化して一直線に特攻!
「我が手に宿るは邪悪を食らう破壊の龍。打ち貫け!」
 零距離まで飛翔したセイヤが竜の拳をたたき込む!
「魔龍の双牙ッ!」
 次の瞬間オーラが爆発して渦を巻く。オーラは巨大な龍のあぎとに変じてオークを飲み込み噛み砕いた。龍の咆哮の余韻をかき消すように、タエコはギターを左手だけで奏でてみせる。弦を高速で叩いてつま弾いていく。
「さーて、いーきまーすよー」
 演奏に合わせてタエコの指から星が飛び出す。周囲に滞空したそれらはギターのひと鳴らしと共にオークへ飛翔! 触手の防御を打ち破り豚のたるんだ腹を狙って撃ち込まれていく。狙われたオークの一体は触手を振り回すも数発が命中!
「ぐぬおおおおお!」
 腕と触手をクロスし防御姿勢を取るオークの瞳が、タエコの背後で膨らむ異形の物体を捕捉。変形しながら膨張するのは触手の塊と化した聖厳! ウニのトゲめいて生えた大量の触手が防御姿勢オークと隣の個体を捕まえ易々と持ち上げる!
「……おや」
 頭上の触手をあおぐタエコの上で触手をほどこうと暴るオークに、触手塊からエコーがかった聖厳の声が投げかけられた。
『さぁお待ちかね……お楽しみターイム!』
『アイエエエエエエエ!』
 オーク二体が触手塊に引きずり込まれた。一方でクリュティアを捕らえた個体は彼女のマウントをとりパンチ!
「イヤーッ!」
「ンアーッ! これしきの傷……!」
「ブヒヒヒ……」
 下卑た笑いを浮かべたオークが両手を合わせて振り上げた、その時!
「うおおおるああああああッ!」
 咆哮を上げランドルフがパイルバンカーを手にして走る。彼は別のオークが伸ばした触手を回避し接近。パイルを射出し串刺しにした! 動かなくなった一匹を刺したままマウントオークにダッシュ!
「ブヒッ!?」
「この豚野郎がッ! ちっとは無理矢理突っ込まれる気分を味わいなッ!」
 刺さった豚を投げ捨て重厚パイルを引き絞る。刺突の勢いをつけて打ちだされた杭がマウントオークの頭を貫く! 他方、片腕で胸元を隠しながら弥生はオークの魔の手を回避する。
「ブッヒヒーッ! 胸ェ見せろや!」
「うーっ……もっと楽しいことしたいのにぃ……」
 胸の谷間を強調しながらの涙目上目遣い。鼻から熱蒸気を噴いたオークは触手を束ねて振り下ろす!
「ブッヒィーッ! もう我慢ならねえ!」
 触手の束が垂直に立つ。振り下ろしかけたその瞬間、赤い稲妻が走り触手の半ばを消しさった! 千切れて落ちる先端部分。目を見開いて固まるオーク。
「……え?」
「……! えいっ」
 弥生がドーナツ型スイッチを起動しオークの顔面を爆破! 仰向けにひっくり返るオークの頭上に偽太陽を背にした茜が跳びあがる。手に宿る紅玉から赤い稲妻がほとばしる。
「さあ、まとめて焼豚チャーシューにしてあげます! 覚悟しやがれ! ですッ!」
「……え?」
 膨れ弾ける雷の声。茜は紅玉宿る手を振りかぶり、全力で振り下ろす!
「獣の王よ、我が声を聴けッ! おぅりゃあああああああああああッ!」
 紅蓮の轟雷が倒れたオークに垂直落下! 彼の視界を真紅が染め上げ、砂地もろとも消し飛ばす。仲間が死んでいく光景を目の当たりにした残り一体は、腰を抜かした。
「な、なんだと……」
 呆然とつぶやくと同時、激しい上下運動をしていた聖厳触手塊が動きを止める。そして下部の触手を動かし、何かを投げた。放物線を描き、生き残りの前に落下したのは、棒人間の如きミイラと化した二体のオーク。
「アイエエエエエエエエ!」
 泣きながら悲鳴を上げるオークにクリュティアが迫る。それを見とがめた彼は素早くドゲザし、砂に額をすりつける。
「ま、待ってくれ! 悪かった……もう帰る! 二度と来ない! だから命だけは!」
「慈悲はない!」
「アイエエエエエエエエ!」
 泣き叫ぶオークをクリュティアは鋭く蹴り上げる! 偽装の青空を飛んでいく彼に大量のクナイを連続発射! クナイが黒い魚群めいてオークに殺到し、全身に突き立つも高速で連射、連射、連射!
「ハアアアアッ! イィヤアアアアアアッ!」
「アバババババーッ! サヨナラ!」
 空中で、オークは爆発四散した。


 昼は過ぎ、ビーチは夕暮れ時に差し掛かる。修繕されたビーチに立ち、ラッセルは聖厳と夕日にカメラを向けていた。
「夕日も見れるんだ。すごいねえ」
「やっぱりこれも作り物なんでしょうけど……綺麗ね」
 シャッターを押すラッセルの前に、たたんだタオルが差し出される。隣に来たセイヤはタオルを渡すと、沈みゆく夕日を眺める。
「ヒール終了だ。人的被害はなかったが、今日はもうここを閉じるらしい。後は好きに使っていいと言われた」
 ふと砂浜の方を振り返り、聖厳は苦笑いして肩をすくめた。
「言われなくても、もう好き勝手使ってるわよ」
「うん?」
 二人がそろって肩越しにビーチを見やる。近場には、バーベキューを前に垂涎する茜。片手にトング、もう片方にタエコの首根っこをつかみ、焼ける肉をうっとり見つめる。
「さあて肉! お肉の時間ですっ! とれたて新鮮のオーク肉ですよー! タエコさんも食べましょう!」
「ああ……私のフェス、私のロック……」
 ギターとマイクスタンドを手にしたタエコより奥では、ビキニを着直した弥生が四足歩行の子竜とビーチバレーに興じている。それぞれのはしゃぎ方をする彼女達を横目に、ランドルフはクリュティアを呼んだ。
「クリュ」
「なんでござるか」
 青い毛におおわれた手がクリュの腕を握り、そして引っ張った。
「泳ぎに行くぞ! 悪いが返事は聞けねえし待てねえ。夏が終わっちまうんでな!」
「おお? おおおおおお?」
 目を丸くするクリュティアを連れて、ランドルフは走る。欺瞞の水平線に沈む、大きな偽の太陽に向かって。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。