鎌倉ハロウィンパーティー~かぼちゃなコックさん。

作者:杜野ことり

 とある、深夜の駅前商店街――
 常夜灯が照らす夜道をひとりの青年が、疲れ切った足取りで歩いていた。
 某レストランで働くコック見習いである彼は、毎晩コンビニで買った発泡酒をちびりちびりとやりながら帰宅するのが唯一の楽しみという、侘しい日々を送っている。
 ふと店先の『ハロウィン飾り』に目に止め、つまらなそうに呟いた。
「ハロウィンかぁ……いいよな、皆楽しそうで。俺だって友達とパーティーとかして盛り上がりたいけど、仕事があるしなぁ……」
 ダメもとで店長に休ませて欲しいと頼んだのだが、もちろん良い笑顔で出勤を言い渡された。まぁ、稼ぎ時なので無理もないのだが。
「あーあ。ハロウィンなんて、ちっとも楽しくない――っ?!」
 不意に目の端を赤い何かが横切った。何だと思った次の瞬間、躰に走る衝撃。
 霞む視界の中で微笑む、赤い頭巾の少女。
 その手に握られた『鍵』が彼の心臓を深々と突き刺していた。
「――ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 無造作に鍵が引き抜かれ、倒れる青年。だが不思議と怪我もなく、まるで眠っているかのようである。
 その代わりに出現したのは――着ぐるみっぽい『南瓜コックさん』だった。
 まあるくデフォルメされたジャック・オ・ランタン(お化けかぼちゃ)の顔。白いコックコートに白いコック帽。オレンジ色のエプロンに、同色のコックタイ。左手にはフライパンを持ち、右手にはフライ返しが握られている。
 だが大きく開いた目と口から覗くモザイクを見れば、その正体は自ずと知れよう。
 コードネーム『デウスエクス・ジュエルジグラット』――またもや新たなドリームイーターが生み出されたのだ。
「さあ、お行きなさい。きっと楽しいパーティーになることでしょうね――」
 ――Happy halloween!
 くすくすと愉しげな忍び笑いと共に、赤い頭巾の少女は忽然と姿を消した。
 そして『かぼちゃなコックさん』もまた、何処かへと消え去ったのである。

「大変なのです、ハロウィンパーティーの危機なのですよ!」
 ふかふかのパンダ耳を心なしか逆立てて、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が言った。
 藤咲・うるる(サニーガール・e00086)の調査によって知り得た情報では、どうやら日本各地でドリームイーターが暗躍を始めたらしい。
 出現したドリームイーターは、ハロウィンに対して多かれ少なかれ劣等感を持った人から生み出されたもので、ハロウィンの扮装をしているのが特徴的だ。
「それでですね、そのハロウィン本番当日に『ハロウィンドリームイーター』が一斉に動き出すって、わかったのですよ。何とかしないと、パーティーがめちゃくちゃにされちゃうかも知れないのです!」
 奴等が姿を現すのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場――つまりは、ケルベロスたちが参加する予定であるところの、鎌倉のハロウィンパーティー会場、なのだ。
「みんな、お願いなのです。パーティーが開始される直前までに、ハロウィンドリームイーターを退治してほしいのですよ」
 ハロウィンドリームイーターは、パーティーが始まると共に何処からともなく現われる。
 だとすれば、パーティーが開始される時間よりも早くに、まるでハロウィンパーティーが始まったかのように見せかけることが出来れば、誘き出せる筈だ。
「みんなが盛り上がっていれば、ふらふら~っと寄ってくるに違いないのです。そうそう。コックさんっぽい仮装をしてるから、美味しいお料理とか『お菓子』とかがあると、効果ばっちりなのですよ、きっと!」
 きらきらと、大きな瞳を輝かせるねむ。『お菓子』の部分を力説しているのが何とも彼女らしい。まあ本当に効果があるかは不明だが、余裕があれば用意してみてもいいだろう。
 囮とは言え、せっかくパーティーを開くのだから、楽しまなければ。
「ぜったいにドリームイーターの思い通りになんてさせないのです! ねむいっしょうけんめいがんばりますから、みんなも全力でパーティーを盛り上げちゃって下さいです!」
 元気いっぱいに握り拳を振り上げた少女の顏は、もうすぐ始まるハロウィンパーティーへの期待に満ち溢れていた。


参加者
剣持・白夜(世話焼き兄貴・e00973)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)
ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)
華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)
キアラ・クロシェット(そよぐは風鈴草・e06251)
ゲルダ・グレシャー(アイスエイジからの訪問者・e12692)
ジャック・ランプ(カボチャ頭・e14418)

■リプレイ

●猟犬たちの宴
 鎌倉ハロウィンパーティー開始まであと数刻と迫った頃――。
 会場に張り巡らされた『立入禁止テープ』の向こう側では、天使の翼持つ少女が忙しそうに空を飛び回っていた。
「――ふう、出来ました。ふふん、私にかかればこんなものですね!」
 幾重と天井に交差するカラフルなフラッグガーランド。ぴかぴか光るハロウィンカラーの電飾を眺め、自信満々で胸を張る、華輪・灯(幻灯の鳥・e04881)。
 ふわりと舞い降りた先では、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)お手製の風船アーチが出迎えた。
 キラキラと光を散らすモールに添って吊り下げたオーナメントは、羽を広げたコウモリや蜘蛛の巣。ゆらり揺れる南瓜ランタンの燈に、白いお化けがケラケラと笑ってる。
 仲間たちが待つテーブルに着けば、黒猫の燭台に火が点った。
 ちょっと早めの、パーティーのはじまり。
「「ハッピーハロウィン!」」
「うわー、とっても美味しそうです!」
 テーブルいっぱいの料理に瞳を輝かせる『ほっかむりの泥棒さん』こと、仮装した灯。視線の先では、南瓜をそのまま器に使ったかぼちゃのシチューがほっこり、魅惑的な湯気を立ち昇らせている。
「ごちそう! 楽しみにしてたんだー……って、前が見えないよぉー!」
「ははっ、覗き穴を作ってなかったのか。ちょっと待ってろよ、いま直してやるから」
 目と口を描いたシーツをすっぽり被って『おばけ』に扮する、ゲルダ・グレシャー(アイスエイジからの訪問者・e12692)。じたばたと格闘する彼女の窮地を救ったのは、王子様(の仮装をした)剣持・白夜(世話焼き兄貴・e00973)である。お裁縫セットを常備しているのが、いかにも彼らしい。
「白夜さん! こっちのキッシュ、食べていいですか? いいですよね?!」
「いやだから待て、灯。いま切ってやるから。丸ごと食うなよ。まるごと」
「でしたら、自分がお手伝いしましょう」
 もはや王子ではなくオカンと化している白夜に代わり、キアラ・クロシェット(そよぐは風鈴草・e06251)がナイフを手に取る。凛と礼儀正しいドラゴニアンである彼も、今日ばかりはツギハギメイクに丸眼鏡をかけ、袖や裾の破れたスーツといった出で立ちだ。キッシュを切り分けている様は、実験中の化学教師のようでもある。
「――っと。食う前に、折角だから写真撮ろーぜ」
 へらりと笑ってカメラを取り出したキソラはと言えば、パンクロックなお兄さんに化けていた。いちおう、彼なりに葛藤を経たうえでの『ヒャッハー』なのだとか。そもそもヒャッハーが何であるかは永遠の謎である。たぶん。
「まさか、本番前にパーティーをやることになるなんて思わなかったよねぇ。まあ、僕としては皆の料理も食べられるし、ちょっと得した気分だけどさ」
 この場にいちばん馴染んでいるのは、ジャック・ランプ(カボチャ頭・e14418)かも知れない。愛用のパンプキンヘッドはそのままに、ネイティブアメリカン風の仮装も楽しげだ。大きく開いた目の奥の光が、穏やかに笑っている。
「ハロウィンと言えばお菓子だよね! いっぱい作ったから、たくさん食べてにゃ♪」
 ぱたぱたと忙しく立ち働いていたメイドさん、ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)が大皿いっぱいのマドレーヌを置いた。それからもう一品。レモン風味のメレンゲ菓子はいま焼きあがったばかり。甘酸っぱくて爽やかな香りにキアラも喜んで一口摘んだ。
「……これは美味ですね! 自分も作ってみたので、良ければ召し上がって下さい」
 控えめに差し出したキアラの菓子に歓声が沸いた。葡萄味の『お化けアイス』をはじめ、優しい甘さのココアにメレンゲ蝙蝠を浮かべた『コウモリココア』や、にんまり笑うジャックオーランタンの『南瓜ケーキ』などは、食べてしまうのが勿体ないほど愛らしい。
「キアラちゃんには敵わないかもですが、千紘もお料理がんばっちゃいました!」
 きららら~ん。輝くばかりの笑顔で運ばれてきた生首料理――っぽい着ぐるみ仮装をした、瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)こそ、ある意味いちばん凄かった。
 重箱にみっちり詰まった『目玉入り稲荷寿司』と、『目玉の唐揚げ』。チカチカと目に痛い『蛍光色のフルーツジュース』には、ミルディアも驚きを隠せない。
「こ、これは。今流行りのホラー飯というものですかにゃ?」
「ふふふ~。見た目はアレだけど、味は保障しますの♪ ……もしかして、こわいです?」
「わ、私は平気ですよ!? トリックオアいただきます!」
 そう言われると、つい意地を張ってしまうのが灯だ。目を瞑って頬張るや、雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡る。
「――っ、お、美味しいです。とっても!」
「あ、アタシも食べるー!」
 ゲルダも手を伸ばし、たちまち重箱は空になった。
 シチューは南瓜の旨みがぎゅっとつまっていてとろける美味しさ。南瓜ケーキはふんわりやわらか。優しい甘さが舌でほろりとほどければ、笑顔が零れる。サクサクのメレンゲは雪のよう。口の中であっという間に溶けてしまった。
 あれもこれも美味しすぎて、つい任務を忘れてしまいそうになる。
「――わ、忘れてないからね!?」
「そうですとも。これも大切な任務のうちで……はぁ、幸せー!」
 きりりと表情を引き締める(?)シーツおばけ。ほわんと頬に手を添え微笑む泥棒さん。あちこちに置かれた南瓜ランタンに照らされた此処は、まるでお伽噺の世界のようだ。
 どこからか聴こえる賑やかな音楽に、ひらひらと舞い踊る妖精たちのオーナメント。
 ふっ、と。吹いた風に燭台の燈が消え、キソラが口の端で笑む。掻き消えた煙の向こう側、白とオレンジのまあるい陰影。
「……マダ準備中、なんて野暮は言わねーよ。ヨウコソ。招かれざるお客サン!」
 電光石火の一蹴が空を薙ぐ。ざあっと視界の端を流れ落ちていく黄色と黒の帯。
 千切れた立ち入り禁止テープの雨の中、ヤツが居た。

●Trick or Treat!
「来たな、かぼちゃなコックさん!」
「メインゲストの登場ですか。歓迎しますよ!」
 腹ごなしとばかりに不敵に笑んで、拳士の構えを取る白夜。灯のスイッチで噴き上げたカラフルな爆風を背に地を蹴って、懐へと踏み込んだ。
 流れるように、疾く。拳に集束させた凄まじい『気』を解き放つ。
「その防御、崩させてもらうぜ。――豪破掌!」
 近距離からの強かなる一撃。衝撃で裂けた傷口からは、ドリームイーターの証たる不気味なモザイクが滲み出す。その胸元を狙って、ゲルダが妖精弓を構えた。
「アタシの嫌いなものは3つ! 暑い所、苦い野菜。それから――こういうイベントで悪い事するヤツ!」
 放たれたエネルギーの矢に貫かれ、ずきゅーんと胸を押さえるコックさんは心なしか嬉しそうだ。そんなにも、パーティーに参加したかったのだろうか。ジャックの瞳に悲しげな火が揺れる。
 多かれ少なかれ、誰もが抱える心の欠損。それを利用するなんて、やっぱり許せない。
「パーティーに参加したいって気持ちは悪いことじゃないよ。だから……Happy Halloween!!」
 ジャックの手渡すプレゼント。思わず受け取れば大きく弾けて、カラフルな紙吹雪と共に飛び出したグラビティの衝撃波。慌てて飛び退いたコックさん、ギロリ。大きな目を睨むように吊り上げた。
 ――オマタセイタシマシタ、めしあがれ!
 カッと光を放つフライパン。ぼこぼこと嫌な音を立て膨れ上がったモザイク料理は食べるどころか触れるのも躊躇われるレベルだ。あんなの口に入れたら、間違いなく精神がイカれてしまう。
「そんな料理モドキで傷つけさせません! みんなは、あたしが護りますっ!」
 恐れる事無く、真っ向から迎え撃つミルディア。
 ダメージを受けながらも構えたビームシールドで押し返し、ぎゅっと噛み締めた唇が獣の咆哮を高々と吐き出した。魔力を籠めたハウリング――少女の魂が叫んでる。唯一途に、『護りたい』と。
 その想いはキアラとて同じこと。
 己が身をもって皆の盾とならんと仲間を背に、戦斧を携え空へと手を翳す。
「――陽光の加護ぞ、皆にあれ!」
 声に応え、仲間たちの許へと舞い降りた光の加護。暁光盾(ギョウコウジュン)――それは緩やかに昇る朝日にも似て、眩くも温かい。
「その料理はエンリョしてーけどな。アンタが満足するまで、遊ンで行けよ」
 キソラの振う大鎌の一閃が虚無を刻めば、破れかけたエプロンを引き摺るように、コックさんがフライ返しを振りかぶる。させじと手裏剣を抜き放つ千紘。
(「……仕事も、仮装も、コックさん。きっとお料理が大好きなんですのね」)
 その『気持ち』が、悪事に利用されてしまう前に。
「――ぶっ潰して差し上げます!」
 紅の螺旋が走った。飛来した手裏剣が深々と突き立ち、罅割れるフライ返し。
 たがコックさんは挫けない。ボコボコと沸き立つモザイク料理をフライパンに生み出すや、ぱくぱく、ごっくん。
「……わぁ。食ったよ、アレ」
「うん。食べたねぇ。何かビジュアル的に、僕が食べてるみたいでヤだなぁ」
 思わず顔を見合わせてしまう、キソラとジャックである。こちらにダメージは無い。だが精神的には辛いものがある。これはもう、視覚の暴力だ。
「あら。男子たるものそこは耐えませんと。将来、お料理が苦手なカノジョが出来た時の練習だと思えばいいんですのよ♪」
「「あんな彼女を作る予定は無い!(ないよ!)」」
「あはは。ですよねえ!」
 天真爛漫な笑顔で言う千紘。声を合わせて叫ぶ二人。思わず笑ってしまった灯が、きりりと表情を改め、コックさんを見据えた。
「それでは、私がお二人の仇討ちを! モザイク料理のお返しに、ケルベロスの悪戯をあげましょう!」
 ドオォンッ! 
 灯が起爆スイッチを押すや、コックさんの背で爆ぜる爆弾。衝撃で前のめりになった南瓜頭。ガラ空きの顎を目掛け、獣化した白夜の拳が抉るよう突き上げた。
「もう、飯を食ってる余裕はないぞ……!」
 回復の暇を与えず押し切る、と。彼の意を汲んだ仲間たちが次々にグラビティの猛攻を浴びせ掛ける。ゲルダの石化魔法、ジャックの地裂撃。コックさんも必死に応戦するが、防御は固く、押し切るまでには至らない。
「我が刃、邪を討つ迅雷と成れ!」
 キアラが裂帛の気合と共に神速の突きを繰り出せば、追い打ちに猟犬縛鎖で締め上げるミルディア。もはやボロボロのコックさん。ぽろりぽろりと剥げ落ちてゆくモザイクが、泣いているみたい。
 ――でもね、あなたは間違ってる。だって。
「ハロウィンは会場じゃない。世界規模で起こってるのです!」
 どどーん!
 堂々と告げた千紘が「だから」と悪戯娘の微笑みで。
「……コックさんにしか出来ない、ハロウィンの楽しみ方あると思うのですよ♪」
 ――最後に、珍しいものを見せて差し上げますわ。
 別れの挨拶代わりに放った幾多の手裏剣。それは緋色の蜂群れが如くに空を翔け、真紅の暴風となって敵を吞み込んだ。
 ――隠れ緋蜂の術(プロミネンスホーネット)。
 恐ろしくも美しい妖狐の術に小さく口笛を吹いて、キソラが構えるは星辰の剣。
 どんな愉しい宴でも、いつか、終わりはやって来る。
「――奔れ、アマナギノイカヅチ……!」
 豪快に振り抜いた斬撃に、風が鳴いた。迸る雷撃は風切の音。轟雷の如き一閃に引き裂かれたコックさんへとゲルダが手を翳す。
 賑やかなパーティーの締め括り。ならば、とびきり華やかに散らそう。
「さぁ、フィナーレだよ! 氷河期直送、コックさんアイス!」
 唱える魔術は幾重にも紡がれながら形成されていった。魔力に織り込まれたグラビティが美しくも冷厳たる氷の槍を作り出す。それは決して融ける事無き白魔の槍。
「isa……hagal……thurisaz! 一気に凍らせるよ、永久凍土ノ槍!」
 青白い閃光に貫かれ、凍りつき。まるで見えない槌に砕かれたように粉々に吹き飛ぶコックさん。きらきらと輝く結晶が空へと溶け、やがて視界が晴れる――と。
 ころり。
 そこには、陽気に笑う『かぼちゃのランタン』が転がっていた。

●ハロウィンの贈り物
「……もしかして、パーティーに燈を添えてくれるのかな?」
 そっとランタンに触れたミルディアはどことなく寂しそうに見えた。温かな火を愛おしむように、暫し瞼を伏せて。やがて顔を上げると、いつものように元気に微笑む。
「これで安心して、ケルベロスハロウィンの本番を迎えられますにゃ!」
「ああ、そうだな。俺も楽しみだ。今日は飯いっぱい食ってさ、全力で楽しもうぜ!」
 優しく見守っていた白夜も朗らかに笑み、わしゃわしゃとミルディアの頭を撫でた。
「そう言えば、今日はジャックちゃんのお誕生日ですわよね。千紘、パイ投げでお祝いするのです♪」
「えぇっ?! 嬉しいけど、何でパイ投げ――あたたっ」
 小粒なサクサク南瓜パイ(10個入り包装済み)を投げられた!
「ほんとに、なんでっ!?」
「え? だってパイ投げって、豆まきみたいに投げるのですよね?」
 パイを歳の数だけぶつけられることで厄を祓い、幸福を呼び込むという、ニッポンのありがたいフーシュウなのですよ!
「なんとそんな風習が……っ!? はっ。いえいえ、もちろん、知ってますよ!」
 だったら私は泥棒さんらしく、お菓子をばら撒きます!
 宣言するや、風呂敷の駄菓子をジャック目掛けてせっせと降らせる灯。もはや何からツッコんだらいいのやら。
「トリックアンドおめでとうです!」
「いやあ、楽しそうですな。自分にも是非、ジャック殿をお祝いさせて下さい!」
「あはは。おめでとうジャック!」
 祝い事ならば喜んでと、キアラとゲルダも『豆パイ投げ』に参加。白夜は「仲がいいな」と笑うばかりで止めてくれないし、キソラは楽しそうにカメラを構えている。
「いたたっ。もうみんな、いい加減にしないと僕だって怒るよー!」
「きゃー♪ ジャックちゃんの逆襲ですわー!」
 ぷんすか腕を振り上げ、笑って逃げる皆を追い掛け回し始めるジャック。その目元にぽろりと零れた嬉し涙に、また、微笑んで。
「おめっとさーん! 今日イチの良い顔いっとこーぜ!」
「「お誕生日おめでとう、ジャック!」」
 祝福の言葉と共に幾度も切られたシャッター音。
 キソラは撮ったデータをきちんと、皆に送信してくれた。
 まだ涙目のジャックを囲んで花開いたいっぱいの笑顔。その周囲に描かれた南瓜ランタンの落書きと、踊るような文字で書かれたメッセージを見れば、何度でもこの日を思い出すだろう。

『――Happy halloween&Happy birthday!』

作者:杜野ことり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 0
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