巨大うなぎ襲来

作者:天木一

「今日のごはんは何かなー?」
 ランドセルを放り捨てた少年が元気にリビングに入り込み、4人座席のテーブルに座る。その上にあったのは重箱。パカッと蓋を開けると中から醤油の甘辛い香りが漂う。白いご飯の上に覆い尽くすようウナギの蒲焼が丸々一匹分乗っていた。
「うわーーー! ウナギだーー! やったー大好きー!」
 少年は喜び早速箸を手にした。
「いただきまーーす!」
 がっつくように口に頬張り、ふっくら焼き上がったウナギを味わう。そしてご飯をかき込む。
「もうちょっとタレが欲しいかなー」
 そこで少年がテーブルの上に置いてあったウナギのタレに手を伸ばす。ウナギの上にたっぷりととろりとしたタレを掛け、はやくはやくと箸を突っ込んで口に運んだ。
「んーーーーやっぱり美味しー! タレだけでもごはん食べれるよー!」
 あっという間にウナギを平らげ、残ったご飯もタレと一緒に一粒も残さず食べ尽くした。
「はー食べた食べた……ごちそうさまー」
 ずずっと麦茶を飲んで少年は満足そうにお腹を撫でた。
『毎年毎年鰻を食べて……たまには食べられる気分になってはどうかね?』
「だれ!?」
 声に反応して周りを見渡しても誰も居ない。照明の光が大きな影に遮られ少年は天井を見上げる。すると宙に巨大なウナギが飛んでいた。
『虐殺される鰻の恨みを思い知れ!』
 ウナギは大きな口を開け、パクリと少年を丸呑みした。
「わーーーーー!」
 叫び跳び起きた少年が目を見開くと、見えたのは薄暗い部屋だった。
「ゆ、ゆめ?」
 明りをつけるとそこはいつもの自分の部屋。
「あー昨日ウナギ食べたからかなー。でも美味しかったなー。夢に出てきたウナギで作ったらスーパービッグうな重ができちゃうかも!」
 そんな想像をして顔をにやけていると、その胸に鍵が突き立てられた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 少年の目の前に突如として現れた魔女がその手にした鍵を突き刺していた。ゆっくり引き抜くと少年が意識を失いベッドに倒れる。そして最初から居なかったように魔女が消え去った。代わりに現れたのは全長7mにもなる巨大なウナギだった。
『では始めるとしよう、鰻を食べたものに罰を!』
 宙を飛び窓を突き破るとウナギは泳ぐように外へと飛び出した。

「新たなドリームイーターの事件が発生するようです」
 ケルベロスに向けセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が新たな事件の説明を始める。
「少年から奪った『驚き』を元に、第三の魔女・ケリュネイアがドリームイーターを生み出し人々を襲うようです。その前に現場に赴き、被害が出る前に敵を撃破してもらいたいのです」
 今なら人々が襲われる前に現場に到着し、敵と遭遇する事が可能だ。倒せば眠りに就く少年を目覚めさせる事も出来る。
「敵が現れるのは東京の街で、暗い夜道に浮かんで通行人を待っているようです」
 通りがかった人を驚かせ、それから殺してしまうようだ。
「ドリームイーターは巨大なウナギの姿をしていて、己の蒲焼にした身を食べさせたり、タレを撒き散らしたりといった攻撃をしてくるようです」
 非常に美味だが、食べた者は心惑わされてしまうだろう。
「それと戦闘前に人を驚かせようと行動してくるようです。そこで驚かない者を優先して攻撃する性質があります」
 驚くことによって敵の標的から外れ、平静でいることによって敵の注意を引き付けられる。
「夏バテ対策に食べるウナギは、スタミナ料理として有名ですね。そんなウナギが巨大化して襲ってきますが、逆に食べられないように気を付けてウナギを退治してきてください」
 よろしくお願いしますとセリカが頭を下げ、ヘリオンを出発させる為に動き出す。ケルベロス達も必要な物を揃え、ヘリオンに乗り込んだ。


参加者
シヲン・コナー(清月蓮・e02018)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)
ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)

■リプレイ

●空を泳ぐ
 夜も遅くなり始め、人通りの少なくなった住宅街にケルベロス達が降り立つ。
「道路は危険だ。暫くは外出は控えて貰いたい」
 シヲン・コナー(清月蓮・e02018)は一般人に呼びかけ、早く帰宅するように告げる。
「巨大スイカを食ったと思ったら、今度は巨大ウナギかよ。しかも、ウナギの姿してんのに中身は蒲焼? やっぱ夢喰いの生態はわっかんねぇなぁ……」
 想像してみると何とも不思議な存在に、音無・凪(片端のキツツキ・e16182)は首を傾げる。
「……ま、やることは変わんねぇ。斬って焼いて食べt……っと、始末するだけだ」
 鰻らしく始末してやろうと食欲を湧かせた。
「愛らしい他愛ない夢から夢喰いさんが生み出されてしまうなんて、酷い話です」
 土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は子供の夢を利用する相手に憤慨する。
「鰻は美味しいね! 敵は体が蒲焼らしいけど完食されたらどうなるんだろう……討伐完了?」
 胴体が食べ尽くされすっからかんになった鰻を想像し、狼の獣人の月島・彩希(未熟な拳士・e30745)は楽しそうな笑みを見せる。
「鰻かぁ……まだ食べたことがないかも」
 ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)は価格の高さに気軽に手が出せないと鰻を思い浮かべる。
「黒くてにゅるにゅる……果たして美味しいのだろうか?」
 どんな味なのだろうとイメージを広げていく。
「世間では絶滅危惧が騒がれておるが我はまだまだ食べたいのう」
 鰻の味を思い出し、レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)は口元を緩める。
「しかし、実際のところはどうなんじゃろうか? 深刻の極みとは思えぬがなぁ。ちなみにドイツでも鰻は食される、ウナギパイも美味じゃぞ! どうでもよいが腹が空くのじゃ、さっさと倒してウナギ飯とゆこうぞ」
 蘊蓄を語っていると余計に腹が減ってきたとお腹に手をやった。
(「うなぎを食べたのは、まだおかあさんとおとうさんが居た時が最後パオね……」)
 最後に鰻を食べた時の事を思い出し、象の獣人であるエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)は今は亡き両親の事を思い浮かべる。
(「なんだかちょっと、寂しいのパオ」)
 暗くなりそうな気持を抑え、今は事件解決に集中しようと周囲を見渡した。
「鰻の驚かせには動じないぜ。いや、つぅか、まぁ、普通に美味そうだよな。デカい鰻とかって」
 大きな鰻が楽しみだと、モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)はその美味しそうな姿を探す。するとぬうっと影が過ぎる。見上げれば頭上から何かが泳いでくる。蛇のような細長い体に、ぬめっとした体表。それはこの時期よく食べられる鰻、だがそのサイズはとんでもなく大きく、7mにもなった。

●巨大鰻
『君たちも、鰻を食べようというのかね? 土用の丑の日などという言葉に踊らされて!』
 ケルベロス達を見下ろす鰻から紳士的な声が響く。
「な、な、なんじゃー!? デカい! このウナギはデカいんじゃあー!」
 その驚きを表現するようにクルクルと回転しながらレオンハルトは叫ぶ。その隣でオルトロスのゴロ太は呆れたような視線を向けながら、泰然自若としていた。
「でけぇ……」
 目の前の鰻とは思えぬ大きさに、凪は感嘆の声を漏らす。
「おっきい……びっくりしたパオ!」
 素で驚いたエレコは思わず絶句してぽかーんと鰻を見上げた。
「すごく大きいね!……うな重何人前になるかな?」
 鰻に驚いてみせた彩希は、本音では既に食べ物にしか見えていなかった。
「巨大なウナギだとぉ?!! ポラリスは驚かないんだな!」
 大袈裟にシヲンは驚き、その隣でボクスドラゴンのポラリスが涎を垂らそうとするのを、口を押えて防ぎ無反応を演じさせる。
「こんな大きくて美味しそうな鰻さんがいるなんて! びっくりです!」
 目をぱちくりさせて岳が驚いてみせる。
「美味そうなウナギじゃねぇか」
 驚くどころか逆に喜んでモンジュは鰻を見上げ、精神統一して海を照らす月のような光を身に宿す。
『貴様! 私を食べ物だと思ったな!』
 鰻の体がパカッと開くと、中はジュージュー焼けた鰻の蒲焼となっていた。その身をモンジュの口に押し付ける。だがその誘惑に抗い顔を背ける事に成功した。
『ほれ、食ってみろ! このほろっと柔らかく焼けた蒲焼を!』
 そこへボクスドラゴンのアカツキはブレスを放ちながら割り込むと、蒲焼の身を口に押し込まれた。
「味、どんなのなんだろうな……って、食べちゃダメなんだった! 見た目はぬるぬるできもちわるいけど……味は、気になる……」
 そんな疑問を思い浮かべながら、ティティスはハンマーを砲に変えて砲撃を行い、鰻の体に爆発が起きた。
「竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 扇子をパチンと鳴らしたレオンハルトが口を開けて咆哮を発すると、竜の猛々しい声が仲間達の本能に響き破壊衝動を呼び覚ます。
「スイカの時もそうだったけど、こんなふざけた奴らに被害出されたら堪らないからね」
 凪は剣をその場で振るい、光が走り周囲に星座が描かれる。その力で仲間の傷を癒し敵に抗する力を与えた。
「いくら他者を驚かせても決して満たされる事はないですのに、貴方の心から生まれた自然な感情ではないのですから」
 岳はロッドを振り、電撃を飛ばしてアカツキをビリビリと活性化させ自己治癒力を高める。
「……そう生まれ落ちさせられた貴方にはそれを変える術はないのしょうね。お可哀想に」
 憐憫の情を覚えながらも手は抜かないと、仲間達の支援を続ける。
『食わないのなら、お前らを食ってやろうか!』
 巨大鰻が大きな口を開けて突っ込んでくる。
「今年はまだ鰻食べてないなぁ~……って今はそんな事を考えてる場合じゃないよね!」
 彩希はステップを踏んで突進を躱し、拳を敵に打ち込むと同時に腕に装着した巨大な杭が打ち出され、胴に突き刺して伝わる凍気が身を凍らせてゆく。
「鰻に魅了されるなよ?」
 呼び掛けながらシヲンはポラリスの手に似たロッドを振るい、雷の壁を作り出して敵の突進を防ぐ。ポラリスは任せてと尻尾を振ってブレスを放った。
「鰻は食うもんだ、食われるもんじゃねぇんだよ」
 下へ潜り込んだモンジュは蹴り上げ、ぬるっとした感触と共に敵の体を押し上げる。
「表面がぬるぬるしてても、これで捕まえるパオ!」
 エレコが沢山のゴーレムを地面から錬成し、鰻に殺到させて圧し掛かって手にした塩を表面に擦り込んでぬめりを取っていく。そこへテレビウムのトピアリウスは手にした凶器で鰻を殴りつけた。
「これで丸焼きにしてやる! ……ってもう焼けてるんだっけ?」
 ティティスは御業を呼び出し、炎を放って鰻の表皮を焼き付ける。
『これ以上火を通すな! 今がちょうどいい焼き加減なのだ!』
「危ねぇ!」
 鰻は口から甘いタレを飛ばすと、庇おうと割り込んだモンジュの口にタレが飛び込む。するとモンジュは操られるように体を開いた鰻に近づき、噛み千切りる勢いで蒲焼を喰らい始めた。
「うめぇ……うめぇえ!」
 ふんわり口の中で広がる蒲焼がタレの味と相まって舌を蕩けさせる。同じくタレを受けたゴロ太はペロペロとタレを舐め始めた。
「ゴロ太よ、たまにはちゃんと働かんかい!」
 叱咤しながらレオンハルトは薬液の雨を空から降らし、ゴロ太含め仲間達のタレを洗い流していく。
「炎で焼かれていい香りがするな……いや、食べたらだめだめ!!」
 思いを振り切るように飛び込んだティティスは、回し蹴りを浴びせて鰻を吹っ飛ばす。
「みなさん鰻さんの香りに釣られちゃダメですよ!」
 岳はグラビティのモグラさん達を地中に這わせ、大きくかに座を描いて仲間達を包み込み敵の力を退ける加護を与える。
「そんな蒲焼の姿をして、タレの香りまで……そんなもんであたしを魅了できると思うなよ!」
 首をブンブン振って煩悩を追い払った凪は、すれ違うように鰻の傍を通り、真白い鳥の様な刀を抜き打って大きく胴を斬り裂いた。傷口からむわっと美味しそうな香りの湯気が周囲に漂う。
「食べたら危ないみたいだね」
 虜にされた仲間を見ながら、彩希は棍をヌンチャクへと変化させて振り回し、敵の視認できない角度から幾度も殴打するが、途中でつるっと粘液に滑って外れる。
「つるつると滑る、まさにウナギだね」
 シヲンは雷を落とし、続けて落ちる雷が鰻を檻のように閉じ込めた。
「凍らせたらぬるぬるが無くなるパオ!」
 エレコは氷の騎士を召喚し、その手にしたランスで鰻を串打つ。貫かれた場所から凍り始め、ぬめりを失った。

●ふっくら蒲焼
『鰻は旨かろう? さあ冥土の土産にもっと食らっていけ!』
 タレが薙ぎ払うように吐き出され、近くのケルベロス達を濡らしてく。仲間を庇ったアカツキはタレで全身を甘く染め、直撃を受けたポラリスは涎をダラダラ垂らしてすっかり魅了されていた。
「しっかりしろ! ポラリス!! そんなにドリームイーターのうなぎが良いのなら今日はもう飯抜きだな」
 シヲンが叱咤するとポラリスは目を覚まし、飛び上がって敵に体当たりでぶつかる。それに続いて跳躍したシヲンも飛び蹴りを叩き込んだ。
「うなぎのタレで汚れるのは勘弁願うのじゃ」
 レオンハルトはメタルを鎧の如く纏い、タレを弾いて接近すると拳を叩き込んでタレを止める。
「美味しそうでも、食べたりしませんから!」
 駆け出した岳は地を蹴り鰻を蹴って更に高く舞い上がり、身体をぐるぐる回転させながら敵にロッドを叩きつけた。
『なら私が食らってやろう!』
 鰻が大きく口を開いて突進してくる。
「よくもやってくれたな、お前の相手は俺だ……うわああああ!」
 頭を振り正気に戻ったモンジュが目の前に鰻を見、今度は丸呑みにされてしまう。そこへトピアリウスは画面を眩く光らせて敵を怯ませた。
「十分ぬめりも落ちたなら、捕まえられるパオ!」
 その隙にエレコは御業を呼び敵に掴み掛からせ鰻を捕えた。
「……ぁー、やっぱダメだ、食わせやがれ! 食い供養だ!!」
 刀に猛る炎を宿らせ、凪は鰻に刃を入れジュっッと焼ける音と共に身を切り取る。そしてその甘く香る蒲焼に抗えず口に頬張った。
「ふんわりとした身に、深いタレの味が沁み込んで、口の中で蕩ける!」
 そのまま凪は夢中で蒲焼を切り取っては食べ続ける。
「どんな味なのか気になるの……」
 仲間が美味しそうに食べているのを見た彩希は、今は戦いに集中しなくてはと跳躍して敵の胴を蹴り落とす。だがぐにゃりと鰻の体は柔軟に曲がって衝撃を逃し、彩希に巻き付くと蒲焼が口へと押し込まれる。
「……すごく美味しいね!」
 目を輝かせてた彩希も食事に加わる。
「僕は誘惑になんて負けないぞ! 皆も負けないように! あれは、うなぎじゃなくて敵だ!」
 鼻と口を塞いで香りを退けながら、ティティスは砲撃で爆風を起こし敵を薙ぎ倒す。すると腹から刀が突き出る。
「酷い目にあったぜ」
 中から刀を振るって身を斬り裂き、タレ塗れのモンジュが鰻から脱出した。
『鰻を食らい死ぬがいい、食らえ食らえ』
「パオッ!? うなぎが口に入っちゃったパオ……でも美味しいパオ」
 もぐもぐと味わってしまうエレコに向け、トピアリウスが応援動画を流して正常に戻す。
「危なかったよ、もう少しでうなぎを食べ続けてしまうところだったパオ!」
 口の中に残る旨みを出来るだけ意識しないようにして、エレコは水のように溶けたメタルで腕を覆い硬化すると、鰻の腹に思い切り殴りつけた。
「食べてるんだから、大人しくしててね!」
 彩希は魂食らう拳を打ち込み黙らせて蒲焼をむさぼり食う。隣ではアカツキも一緒になって鰻に牙を突き立て味わっていた。
「これ以上は食い過ぎると危険だ。あたしは学んだんだ、夢喰いであろうと食べれば腹にたまる……と」
 懸命に視線を逸らしながら、凪は刀を突き立て振り払って鰻を斬り裂いた。
「電気ウナギにしてあげようか」
 シヲンは手製の手榴弾を投げつけ、敵の眼前で閃光と共に電撃が迸り、流れる電流が鰻の体を麻痺させた。
『鰻はタレこそ命、秘伝の味を食らえ』
「クソッ、全身タレ塗れだぜ……って、うぉっ!」
 粘つくタレを払ったモンジュに、飛んできたタレが命中する。
「……許さねぇぞコラ!」
 刀を幾重にも振るって蒲焼を切り分け、ただの大きな蒲焼にしてしまう。
 その隣ではゴロ太が蒲焼を食べお腹を膨らまして寝そべっていた。
「ゴロ太よ、食っちゃ寝しておる場合ではないぞ、最後くらい活躍してみせんか!」
 レオンハルトはゴロ太を振り回して、銜えた刀を無理矢理当てて鰻を斬りつけた。そして投げつけると、ゴロ太の銜えた刀は鰻に突き刺さり、落下しながら地面へ串刺しにした。
「鰻さん、どうか安らかに眠ってください」
 岳が願うと大地が割れ橄欖石の柱が敵を包む。まるで地球に抱かれたような安らぎと共に、鰻の魂が重力に誘われ力を失っていく。
「全てを見据え全てを統べる、我が愛しの友へ歌おう。永遠にして一瞬の瞬きに想い込め、降り注ぐは星の涙。――君の涙は、何色だろう?」
 ティティスは甘く蕩ける毒の詩を紡ぐと、流星が降り注ぎ敵を撃ち抜いて爆ぜる。鰻を粉々にしながらその場に花のような煌き残した。
「……催眠にさえかからなければ、食べたかったな、鰻」
 消えゆく鰻をティティスは名残惜しそうに見続けた。

●鰻の味
「ああっ! 夢のように消えてしまった……! 今日は鰻を買って帰ろう。地球の文化だ、学ぶのも悪くないな」
 絶対に鰻を食べようとティティスは戦い以上に意気込む。
「本物の美味い鰻でも食いに行きてぇなぁ」
 モンジュは旨い鰻が食べたいと甘くベタつく体にクリーニングを掛ける。
「何処かでうな重とか食べたり出来ないかな?」
 彩希も普通の鰻が食べたくなったと、口の中で先ほどの味を反芻する。
「もう店は閉まっておるかのう。ならば明日食べに行くのはどうじゃ」
 明日の予定を決めるレオンハルトに、さりげなく自分も付いていくのが当然のようにゴロ太た足元でゴロゴロしていた。
「がんばったご褒美に、本物のうな重を食べさせてあげるからな」
 シヲンがそう告げると、ポラリスは目をキラキラ輝かせて胸へ飛び込んできた。
「鰻さんを美味しくいただく……それが何よりの餞ですよね。明日は皆で鰻を食べましょう!」
 冥福を祈った岳が顔を上げ明日は鰻だと満面の笑みを見せる。
「……そーいや、土用丑の日って、夏の痩せたウナギを売るための商売文句が起源だったっけな?」
 まあなんであれ旨ければいいやと、凪は満足そうに笑った。
「うなぎで思い出す記憶はこの巨大うなぎになりそうパオね」
 仲間と一緒に楽しい思い出が出来たとエレコは朗らかに笑みを浮かべた。
 今日はうな重を食べる夢を見そうだと、そんな思いを共通させながらケルベロス達は帰途についた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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