街外れにある雑木林を分け入って、奥に進んでその先へと踏み込むと、古びた洋館が静かに佇んでいるのが目に留まる。
この屋敷の住人達は疾うの昔にいなくなり、半ば廃墟と化したその建物は、時の流れる侭に朽ちていくのみだ。
嘗ては豪奢な造りであっただろう建物も、至る箇所が崩れて植物に侵食されており、正にお化け屋敷といった状態だ。
そしてそうした場所だからこそ、様々な噂話が後を絶たないでいる。
例えば、夜中になると屋敷にお化けが集まり秘密の茶会が開かれる。だがもしその茶会を見てしまったら、お菓子にされてお化けに食べられてしまうと云う。
「お化けの茶会なんて面白そーね! そんなのがあったら見てみたいよね!」
一連の話を聞きつけ興味を抱いた一人の少女が、雑木林の中に入り込んでいく。
夏休みになり友達と肝試しをしようと計画したのだが。彼女以外は直前になって怖気づき、結局彼女だけが単身屋敷に向かうことになる。
みんなだらしないねと零しながらも歩を進め、遂に目的の洋館へと辿り着く。鬱蒼とした深い闇の中、薄ら赤く滲んだ月に照らされて、朽ちた屋敷がその姿を浮かび上がらせる。
不気味ながらも存在感を誇示するシルエット。その廃退的且つ幻想的な光景に、少女は身震いしながら立ち尽くしてしまう。
しかし次の瞬間――胸に感じる奇妙な違和感。少女の心臓に、大きな鍵が突き刺さる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
どこからともなく聞こえたのは女性の声だ。声の主、第五の魔女・アウゲイアスが胸から鍵を引き抜くと、少女の身体は糸が切れたように崩れ落ちていく。
そして闇色のローブを纏った女性の傍らで――少女の『興味』が形を成して顕れた。
「人間をお菓子にして食べてしまうとは、何とも悍ましい話だな」
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)は眉間に皺を寄せ、深く考え込みながら小さく唸る。
夏ともなれば肝試しに興味を持って、実際にそうした場所に訪れる者達も多くいる。だがその好奇心をドリームイーターに狙われて、怪物を生み出す切欠となっては本末転倒だ。
「今回の事件は廃虚と化した洋館に纏わる噂話が元なんだ。そこで開かれるお化けの茶会、確かに見てみたいと思うかもしれないね」
気持ちは分からなくもないと言いたげに、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)は十郎の言葉に頷きながら、予知した事件の説明をする。
「興味を元に生まれたドリームイーターの名は『シャルロット』。可愛らしいフリルの洋服を着て、ウサギの耳を生やした女の子の姿をしているよ」
まるで童話の世界にでも出てきそうな見た目だが、それでも相手はドリームイーターだ。油断をすれば手痛い目に遭うだろう。
現場となる洋館で、噂話をすれば敵は引き寄せられて傍に近付いてくる。今は屋敷の中を彷徨っているようなので、戦う際はその性質を利用して誘き出せば良い。
「内部は明かりがなくて暗いけど、外は月が出ているから、中庭辺りに誘導すれば戦い易いかもしれないね」
敵は噂話をしている者に近寄ると、お茶会へ誘うように声を掛けてくる。しかしここでどのように返答しても、最終的には襲い掛かってくる。
ドリームイーターは戦闘になると、鋭利なカードを投げ飛ばしてきたり、お腹を巨大な口に変えて相手を喰らおうとする。
また、甘いお菓子の匂いを漂わせ、嗅いだ者は仲間がお菓子になった幻覚を見せられて、それを食べたくなる衝動に駆られてしまうらしい。
メルヘンチックなベールの中に潜むは残酷なる狂気。異形の少女は笑顔の裏で牙を研ぎ澄まし、獲物が来るのを待っている。
「怖いもの見たさというのは、誰の心の中にもあるものだけど。それを悪意で歪めて利用するのは、許せないと思うんだ」
些細な好奇心が悲劇を生まぬよう――シュリは祈るように思いを託し、全てをケルベロス達に委ねるのであった。
参加者 | |
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アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
楡金・澄華(氷刃・e01056) |
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433) |
アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000) |
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465) |
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339) |
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634) |
鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756) |
●
今宵の夜空を彩る大きな月は、眩しい程に赤く妖しく輝いて。
無明の闇を照らす緋色の光が、廃虚と化した洋館を不気味に浮かび上がらせる。
「良い色の月だな。お化けの茶会には、お誂え向きじゃないか」
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)の藍色の瞳に映るのは、彼の髪と似た鮮やかな赤い色。まるで常世の世界に迷い込んだような異質な光景に、十郎は喉を鳴らして屋敷の中へ踏み込んでいく。
「古びた洋館で開かれる、化け物共のお茶会か。舞台設定としちゃ最高だな」
如何にもお化けが出そうな屋敷の雰囲気に、レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)が胸躍らせながら周囲をぐるりと見渡した。
屋敷の入り口付近では、一人の少女が気を失って倒れているのが目に留まる。彼女をこのまま放っておくのは些か可哀想な気になって、レンカは眠り姫たる少女をひとまず壁に凭れさせ、屋敷の奥へ足を進めるのであった。
赤き月の光と相俟って、外観は怪しげな雰囲気を醸し出しつつも、まるで絵画で描かれたように美しく。この館には退廃的で背徳的な美があると、奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)はランプを片手に小さく唸る。
「お茶会というと可愛らしい響きであるが、目撃者を食べるとは……おそろしい話だ」
――異形共が集うには、正に相応しい夜である。
屋敷の中庭に辿り着き、一十がポツリと漏らしたその一言は、彼等自身も含まれているのだろうか。
「何やら童話を連想させるような情景ですね。秘密のお茶会で、一体どんな風に出迎えてくれるのでしょうか」
アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000)は紳士然と振る舞いつつも、これから待ち受ける事態を内心楽しむかのように、携えた得物に手を添えながら想像を巡らせる。
アルルカンが庭に目を向けると、訪れる者を出迎えるかのようにテーブルと椅子がセットされている。後は花の手入れがされていれば完璧だったが、残念ながら雑草だけが伸び放題の荒れ地となっていた。
「こんな物寂しい廃墟で、お茶会が催されるんですか……? お化けさん達のお茶会……ご興味あります……」
まるでその童話の世界から現れたようなエプロンドレス姿の幼い少女、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が噂の茶会に興味を示す。
「ここではどんなお菓子が出てくるのでしょう。こんなところまでやって来る人間から作られるのですから……きっと勇気と好奇心に満ちた味がするのでしょうね」
こちらはメイド服に身を包んだ鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)が、どこか揶揄うような口振りで、噂話に対する思いを口にする。
そんなエミリの言葉に、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は怖がる仕草を見せながら、話にはしっかり耳を傾けていた。
「夜の廃墟というだけで恐ろしいのに……皆さんは平気なのでしょうか。わ、私はもう大人ですので……ぜ、全然大丈夫です」
微妙にぎこちない態度で答える紺に、楡金・澄華(氷刃・e01056)も相槌を打って話を合わせつつ、警戒の目を光らせることも怠らない。
「赤い月に、廃墟となった洋館か……。お化け屋敷、と呼ばれるのも仕方がないな」
お茶会自体は嫌いじゃないんだが、などと呟きながら淡々と任務をこなす澄華の視線の先に、一つの影が映り込む。それはアリスと似たような、フリルの洋服姿の可愛らしい少女。そしてウサギの耳を生やした彼女こそ――茶会の主たるドリームイーターだ。
●
――ここは狂気に導かれし者が集う世界。血に飢えし惨劇の幕が、今開かれようとする。
「ようこそティーパーティへ♪ アナタ達が今夜のお客さん? これからワタシと一緒にお茶でもどうかしら?」
頭上に輝く月明かりを背に浴びて、夢喰い少女『シャルロット』は来訪者たるケルベロス達を一瞥すると。愛くるしい笑顔を浮かべ、スカートの裾を抓んでお辞儀しながら歩み寄ってくる。
「そちらから誘ってもらえるとは光栄だな。紅茶に合うクッキーを持って来たんだ。お口に合うと良いんだが」
十郎の表情は変わらず無愛想ではあるが。用意してきたお菓子を詰めたバスケットをテーブルの上に置き、少女の誘いに乗ったフリをして相手の反応を見る。
「僕達も混ぜてくれるなら、嬉しいことだ。果たしてどんなお持て成しをしてくれるやら」
一十も同意しながら会話に加わって、少女がこの後どう出るのかその挙動を注視する。
シャルロットは二人の顔を交互に見比べて、それじゃ早速お菓子の準備をしましょうと。口元を吊り上げ舌舐めずりしながら、醜悪な本性を剥き出して早々に襲い掛かってくる。
「一夜の宴をはじめよう――仔うさぎくん、君の為の膳立てだ」
パチンと指を鳴らして弾ける音は、鼓膜を擽り背骨を駆けて、仲間達の闘志に火を灯す。茶会という名の戦場におけるテーブルマナー、それは揮える限りの手を尽くすこと。
お菓子を我慢できない少女への、手厚い待遇をお忘れなきように。彼女に最高の持て成しを堪能してもらおうと、一十が帽子を被り直して宴の支度を整える。
「こんばんは、月に狂ったウサギさん。この『お茶会』に、私達の席はありますか……?」
お姫様らしく淑やかに振る舞いながら、戦闘モードに突入するアリス。全身を包む白金の装甲が、彼女の意思に応えるように光を放ち、仲間の眠れる戦意を呼び醒ます。
「茶会を覗きにいったら茶菓子にされる、まあベタな展開だな。でもメルヘンの世界には、まだ何か足りねーな。ここはやっぱり『魔女』がいねーと」
不敵な笑みを携えて、レンカがドレスを靡かせながら間合いを詰める。身体を捻り脚を撓らせ、刃の如く鋭い蹴りを挨拶代わりに打ち付ける。
「お菓子を用意するには、ちょっと時間がかかるわね。それまでトランプでもどうかしら」
シャルロットの可愛らしい顔が、一瞬だけ苦痛で歪む。しかしすぐに意識を切り替えて、鋭利なカードをレンカ目掛けて投げ飛ばす。
だがその前に、青い毛並みのボクスドラゴン『サキミ』が割り込み、尻尾を振るって敵の攻撃をガードする。
「どんなに愛らしい姿でも、所詮は夢喰い。悲劇を生み出す前に、私達が悪い夢ごと食べてしまいましょう」
攻撃直後に生じる隙を見逃さず、アルルカンが間髪を入れず行動に移る。闘気を氷に変えて螺旋を纏わせて、発生させた渦が巻き上がり、敵を呑み込み氷の檻に閉じ込める。
「さて、一仕事といきますか――そこでじっとしていてください」
表情から笑みが失せた真剣な顔付きで、エミリが指先に魔力を込めて少女に突き付ける。指先からは光の粒子が弾け飛び、集束された電撃の弾丸が、月兎の少女を狙って放たれる。
エミリの手から撃ち込まれた弾丸は、磁力の楔となって相手の動きを鈍らせる。
「どれ程怖い話でも、相手が夢喰いならば容赦はしません」
紺が勇気を振り絞り、手にした槍に力を込めて空に掲げると。刃が雷の霊力を帯び、繰り出される突きは紫電の如く、抉るように少女の肩を突き刺した。
「親睦の為でなく、己の欲望を満たす為だけの茶会なら……この手で終わらせるとしよう」
澄華が気を引き締めて、眼光鋭く月兎の少女を睨め付ける。漆黒の妖刀に空の霊力纏わせ斬りかかり、新たな斬撃痕を重ね合わせて刻み込む。
序盤から積極果敢に攻勢を掛けるケルベロス達。しかし対するドリームイーターも、わざわざ現れた獲物を逃すまいと反撃に出る。
「アナタはどんなお味がするかしら? 肉はスポンジのように柔らかく、滴る血は蜜の味がしそう……だからアタシに食べられて!」
少女の腹部に刻まれた裂傷が、更に大きく広がっていく。否――ソレは牙を生やした巨大な口となり、唾液を垂らして澄華を喰らおうとする。だがそこに十郎が立ちはだかって彼女を庇い、閉ざされかかる異形の口を身を挺して受け止める。
「全く……お転婆なお嬢さんだ。そんなはしたない姿で、食事をするもんじゃない」
牙を防いだ両腕が、月の魔力を浴びて獣化する。十郎は少女の身体を豪快に押し退けて、超重力の拳撃を叩き込む。
「行儀の悪いお子様は、少々躾をしないとな」
追い討ちを掛けるように、槍を構えて突撃する一十。稲妻を帯びた白銀の輝きが、鮮やかな軌跡を描いて少女の脾腹を貫き穿つ。
「化けの皮が剥がれてきてんぜ、お嬢ちゃん。あどけない少女の芝居はもうお終いか?」
レンカが煽るような物言いで、敵の心を掻き乱して動揺を誘う。戦場を駆ける脚が加速によって炎を纏い、燃え盛る紅蓮の蹴りを炸裂させる。
「お願い、白い薔薇さん達……女王様に染められる前に、みんなを癒して――」
祈りを捧げるアリスの髪に咲く白薔薇が風に揺れ。荒れ地であった中庭は、瞬く間に薔薇が咲き乱れる庭園となって、心地良い花の香りが仲間に癒しを齎していく。
ケルベロス達のここまでの戦いぶりは、攻守共に万全の態勢を敷いており、相手に付け入る隙を与えない。そうした彼等の気迫が流れを引き寄せて、尚も手を緩めることなく苛烈に攻め立てる。
●
「――形なき声だけが、其の花を露に濡らす」
アルルカンの両手に握られた二本の刃。陽を喰らい、月を蝕む獣の牙が、獲物を狙って飛び掛かる。
身を翻して繰り出す剣舞は無音の斬撃。白から黄へと移ろい変わる花弁の幻想が、少女を惑わせ斬り刻み。最後に咲かせた血の花弁が、少女の四肢を深紅に染め上げる。
「戦い争う者の宿命です。どこへ行こうと、決してあなたを逃しません――」
紺の周囲を漂う赤黒い思念。彼女が呼び寄せたのは、戦い半ばで散った者の無念の魂だ。現世に未練を残した怨嗟の雄叫びが、おぞましい幻覚を投影させて異形の少女を怯ませる。
そもそも、お菓子は楽しみながら食べるものです、と。少女の存在を否定するかのように紺は付け加えて主張する。
「……だったらアナタには、特別製のお菓子を食べさせてあげるわよ」
ケルベロス達の猛攻を受け続け、シャルロットの疲労の色が濃さを増す。それでも尚抗う少女は、洋服のポケットから小瓶を取り出して、中に詰まった粉を振り撒くと。甘い匂いが風に乗り、その香りを嗅いだ紺の瞳には、大きなケーキのタワーが映り込む。
だがそれは夢喰い少女の魔法によって魅せられた幻だ。目の前にいるアルルカンをケーキと思い込み、一口食べてみたいという堪え切れない衝動が、心の底から沸き起こる。
「惑わされては……いけません……!」
ところがそうはさせじと、アリスが綿毛を連ねた扇子を揮うと。白兎の幻影が敵の魔力を打ち消して、紺の正気を取り戻して目を覚まさせる。
「甘いものを好むのは、愛情不足だからという与太話もありますが……あなたはどうなのでしょうね?」
エミリの惨殺ナイフが赤い月の光に反射して。魔性の煌めき放つ刀身に映された、少女の姿が醜く歪な怪物へと変わり、襲い掛かって少女自身を追い詰める。
――斯く言う私も、愛情を知らない身なのですけどね。
敵が自身の力に苦しめられる様子を憐れんだのか、エミリは自嘲するかのように心の声を呟いた。
「刀たちよ、 私に力を……!」
澄華の声に呼応するように、斬霊刀が蒼く輝き秘めた力を解き放つ。精神を極限まで集中させた澄華の、迷いのない神速の一閃は――敵に躱す余裕を与えることなく、大気を裂いて異形の少女を斬り払う。
「――聞こえるか、森の守り手達の唸り声が」
十郎の足元の影が四方に伸びて、形を成して起き上がる。その姿は闇色の狼となって群れを成し、獰猛な牙で少女を貪るように喰らい付く。
「そろそろ最後の仕上げといこう。宴の時間はもうお終いだ」
一十が冷たく言い放ち、縛霊手から霊力の網を展開させて。月兎の少女に霊糸を絡ませ、逃さぬように捕縛する。
「それじゃここからは、終幕まで一気に魔女の見せ場だ。最高のパフォーマンスでテメーのEpilogを飾ってやるぜ」
深手を負った夢喰いとの戦いに、終止符を打たんとレンカが全ての魔力を注ぎ込む。
フリルの衣装で着飾る少女の姿も、見方によっては洋菓子みたいに見えるだろう。ならば骨の髄までしゃぶり尽くそうと、魔女の秘術を行使する。
「――Ich habe Hunger」
レンカが呪文を唱えると、シャルロットの全身が帽子の形をしたケーキに変化していく。お菓子にされた少女の前に立つのは暴食の魔女。手にはナイフとフォークを握り締め、もう待ち切れないと言わんばかりに食べ掛かる。
人間をお菓子にして食べるドリームイーターが、お菓子にされて食べられるという皮肉。その幕切れは余りに呆気なく、魔女が最後に視せた幻想は、少女の存在自体を破壊して――全てを無に還して消滅させたのだった。
戦場を響かせていた剣戟の音が止み、周囲は再び静寂に包まれる。
幽霊騒ぎを片付け終えた洋館は、不気味さを漂わせているのは相変わらずではあるが。改めて観察し直すと、どこか寂しげな空気を感じさせられる。
「来た時はゆっくり回れなかったが、廃虚の内部というのも実に興味深い」
探究心旺盛な一十は、沸き立つ好奇心を抑え切れなくて。戻る前に少し探索してみようかと、ふらりと寄り道をして屋敷の中を見て回る。
この洋館も今は朽ちて廃れてしまったが、嘗ては人々の営みがあった場所である。
当時の屋敷の主は既にいなくなり、この地に取り残されて風化するのをただ待つだけの建物に、十郎は哀愁の念を抱かずにはいられなかった。
茶会を催す少女の夢喰いも、もしかしたら屋敷自体が誰かを招き入れたくて、そうした想いが招いた結果だったのかもしれない。
「それとも……このまま静かに緑に呑まれて眠るのも、また幸せなのかもな」
宴は終わり、屋敷の眠りを妨げるモノはもういない。
月に見守られ、時の流れに揺蕩う侭に、このまま儚く朽ちていくのを待つのだろう――。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年8月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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