羊羹、大福、餡蜜、御萩……。和菓子職人を守りきれ!

作者:ハッピーエンド

●螺旋忍軍の企み
 月が優しく煌く夜。古びたアパートの一室に、螺旋が描かれた仮面を被る女性の声がひびいた。
「あなた達に使命を与えます。この町に星果の宝石という2つ名で、和菓子の作成を生業としている人間が居るようです。忍……、鬼……。その職人と接触し、その仕事内容を確認・可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
 日本刀を握るサーカス団員のような姿をした忍。螺旋手裏剣を握る道化師のような姿をした鬼。指示を受けた2人の男たちは静かにうなづいた。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」
 忍と鬼はそう言うと、音もなく姿を消した。彼らの信じるミス・バタフライのために――。

●バタフライエフェクトを阻止しよう
「鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)様から頂いた情報をもとに捜査した結果、星果の宝石として名を馳せる和菓子職人がミスバタフライに狙われる事件が予言されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の緊張を含んだ声音に、郁とハニー・ホットミルク(シャドウエルフの螺旋忍者・en0253)は小さく息をのんだ。
「ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大した事は無いのですが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないバタフライエフェクトというものになります。今回の事件は、星果の宝石として名を馳せる和菓子職人様の所に2人組の螺旋忍軍が現れ、仕事の情報を得たり習得した後に殺そうとしてしまいます。この事件を阻止しないと、風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高いのです」
「そんなことは、俺たちがさせない。そうだろう?」
「ありがとうございます。具体的には職人様の保護と、螺旋忍軍の撃破を、お願いしたいのです」
 仲間に語りかける郁に、セリカはペコリとお辞儀する。
「では、螺旋忍軍との接触方法について、説明いたします。狙われる職人様を警護し、螺旋忍軍と戦う事になります。警護するよりも、職人様を逃がしてしまえばいいと思われるかもしれませんが、職人様の姿が見えなかった場合は、螺旋忍軍が別の対象を狙ってしまいます。その場合は被害を防ぐことができなくなってしまいますので、ご注意ください」
「螺旋忍軍が別の対象を狙わないように、作戦をたてるわけだな」
「そのとおりです。例えば、職人様に事情を話すなどして仕事を教えていただき、和菓子職人を装い囮となる方法もあります。技能を教えると提案して螺旋忍軍を生徒とし、無茶ぶりで隙を作り不意打ちするというのも手です。幸い郁様のおかげで余裕のある予言ができています。頑張って修行をしていただければ、見習い程度の力量になれることでしょう」
 郁のするどい指摘にセリカはうなづくと、一例を提示した。
「無茶ぶりか……」
 真面目な顔で目をつむる郁。その手に、羊羹、大福、餡蜜、御萩……、ハニーが次々と和菓子を乗せてくる。驚く郁に、人懐っこく笑うハニー。
「一緒に頑張ろ~」
 最後にお茶を渡したハニーは、とことこと歩いて他のケルベロスたちにも和菓子を配った。糖分と水分で集中力を高めるケルベロスたち。セリカは満足そうにうなづくと事件の概要について説明をはじめた。
「螺旋忍軍は、日本刀と螺旋手裏剣を使う2人組のようです。襲いに来るのは夕方。戦闘場所は庭となります。私有地での戦闘ですので、人払いの必要はありません。囮が成功した場合は、有利な状態で戦闘を始める事が可能となるでしょう」
 セリカが説明を終えると、郁が手を上げた。
「セリカ。無茶ぶりについてなんだが、どの程度なら問題ないんだ?」
「螺旋忍軍の方たちは仕事に紳士です。相当無理な修行でなければ、挑戦するでしょうね」
 まっすぐな瞳で質問をしてくる郁に、セリカはイタヅラっぽく笑う。
「郁様のおかげで、余裕を持って事件を予言することができました。ケルベロスの皆さん、最初の羽ばたきさえ止めてしまえば、バタフライエフェクトも恐るるにたりません。どうか、よろしくお願い致します」
 セリカは真面目な顔に表情を戻すと、丁寧にお辞儀をした。
「作戦を成功させたら、お茶会しようね♪」
 ハニーもニッコリと微笑んだのだった。


参加者
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
暁・万里(レプリカ・e15680)
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)

■リプレイ

●邂逅
 蝉時雨に、夏の風。我が物顔に熱を発散する太陽の下で、3人の端正な顔立ちをした青年たちが、年輩の男性と真剣な表情で話をしていた。金色の瞳に正義感を湛えた鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)、漆黒に統一された衣装に身を包む、人に限りなく近い機人ジェミ・ニア(星喰・e23256)、忍装束に身を包み、影となりて悪を討つ樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が職人に事情を説明していた。真摯な3人の、危機を告げる説明に、職人の顔も深刻なものへと変わっていく。
「貴方は狙われている。俺達が必ず守り抜くので協力してほしい」
 レンの力強い瞳、郁とジェミによる身振りを交えた熱心な説明。職人は3人の顔を暫し見つめた後、頷くとケルベロスたちへと扉を開けた。3人は安堵の表情を浮かべ、互いを、そして後ろにいるケルベロスたちと頷き合った。
「しっかり修行して、必ずやお守りいたしましょう」
 飴色の髪をふわりと揺らし、柔和で礼儀正しい百鬼・澪(癒しの御手・e03871)はたおやかに微笑むと、ニーレンベルギアを体中に纏うボクスドラゴン『花嵐』と並んで扉をくぐった。年代を感じさせる漆塗りの板戸をくぐると、和菓子の甘いにおいが流れてきた。腰に青い剣を帯刀する、元騎士であり今は面倒見のよい女医であるノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)と、その横を離れないようにトコトコ歩いていく、手に除細動器を付け、耳が心電図のテレビウム『ディア』。ウイングキャットに負けないくらいもふもふな、虎型獣人ウェアライダー八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)、赤い小さなマントを風になびかせたウイングキャット『ベル』、猫のように気まぐれで浅黒い、元ヴァルキュリア型ダモクレスだったレプリカントのカタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)、黒装束に身をつつみ、イタヅラな笑みを浮かべる暁・万里(レプリカ・e15680)、ハニー・ホットミルク(シャドウエルフの螺旋忍者・en0253)、郁、ジェミも澪に続く。そして最後にレンが扉をくぐる。
「蝶とやらの奇怪な企みか。引きずり出して決着をつけたいところだが……、今は無辜の民草を守り抜くのが先決だ。この忍務、必ず成し遂げる」
 その思いを空に馳せながら。

●修行の成果
 台所から甘い匂いが漂いだす。
「和菓子は五感の芸術じゃ。今回はその中でも触覚を大事に作ってみようかのう。『口溶け』という、口の中でさらっと解けてしまうような感覚なのじゃ。餡などが特に、そういう独特の舌触りを持っているんじゃ。まずはワシが餡子と練り物を作るの技を盗むがよいぞ。わからないことがあったら何でも聞くのじゃ」
 職人はケルベロスたち見回し、満足そうに頷くと仕事を始めた。――そして、修行も終わり襲撃当日。調理場の中央では、カタリーナ、あこ、万里、ノルンがお土産を包んでいた。職人の作業を参考に作り上げた大福を包んでいるのはカタリーナ。
「瑠璃さん好きだって言ってたから、こしあんの大福を作ろうかな……」
 思い人の笑顔に胸を膨らませ、こしあんと、桃に白こしあん混ぜた餡を詰めて作った、2種類の大福。
「もぐっ……。んっ、これなら瑠璃さんも喜んでくれそう」
 味見を終えたカタリーナは、恋人へのプレゼントを意識し練り物で山梔子の花を模した飾りを添え満足そうに微笑む。その右隣では、あこがベルの絵が描かれたドラ焼きを包んでいた。
「和菓子に欠かせないあんこ……、あんこの材料は豆……、つまり穀物……、穀物を狙うのはネズミ、すなわちにゃんこの出番です!」
 あこの主張に微笑む職人と、穏やかな空気の中修行をし、あん類製造業の許可を取るための基礎と、豆からあんこの煉り方を勉強していた。さらに左隣で、こだわりの小豆を使ったドラ焼きを包んでいるのは万里。
「短期間で身につけるとなれば一点集中だよね」
 その主張のもと、皆と小豆の練り方から勉強した万里。
(小豆って思ったよりも膨れるんだね。幾つかの豆を指で潰して煮え具合の確認……、これはまだもう少し? もういいのかな? 次に蒸らして……。手間かかるんだなあ、和菓子って)
 額に汗し頑張る万里。途中めげそうにもなるが、真剣な仲間たちの姿などに励まされ、何とかドラ焼きを作り上げる。
「一華、喜んでくれるかなあ」
 そうつぶやく万里の表情は、穏やかだ。そして。その後ろで水饅頭を包んでいるのがノルン。味見をするたびに残るダマに、ディアと顔を見合わせ困っていたが、
「材料は水を入れる前によく混ぜておくと良いのう。そして、煮る時は水を数回にわけて入れる。これがダマを作らないコツじゃ」
 職人からコツを聞くと、ダマの無い口溶け爽やかな水饅頭の制作に成功する。一方、ジェミ、郁、レン、澪は練り物を使った和菓子を戦闘中、適切に保管してもらうため、職人へ手渡していた。ジェミは材料の質、保存、加工方法、配合、火加減、生地のグラデーションなどなど……職人の技を見逃さず、繰り返し根気良く練習し季節の花を模した練り菓子を作りあげた。基礎をしっかり予習してきた郁も、分からない所は都度職人さんに確認しながら練り物を進める。ベタベタする練り物に苦戦するが、ジェミとあこから水分を十分飛ばすよう、温かいうちに練り上げるよう助言を受け満足の行く練り物を作り上げることに成功した。活き活きと花を咲かせる向日葵に見えるよう練り上げた練り切りに『太陽の花』と名付け、花の向こうに見える恋人が太陽のように微笑んでくれることを願う。レンは、涼し気で透明感のある青い寒天で作った海の中を、煉切製の色鮮やかな魚たちが泳ぐ、涼し気な琥珀羹を職人の指導のもと作り上げた。
「……壊れやすくも美しい静かに在る世界、か」
 守るべきものへの思いを込めて作成された、透明感のある青い和菓子の宝石とも言える琥珀羹。その箱には、達筆で『竜宮遊戯』と記されていた。澪は、夏らしく涼し気な見た目の琥珀羹を作り上げていた。涼し気で透明感のある青い寒天の池に、ニーレンベルギアの練り切りを沈めた琥珀羹。職人さんに積極的に質問し、レンや郁たちの作品も参考にして作った和菓子を手に、澪は足元で食べたそうにすがりつく花嵐へ穏やかに微笑んだ。

●急襲
 太陽が闇に沈み行く黄昏時。2人の男が扉を叩いた。
「こちらにご高名な星果の宝石様がいらっしゃると聞き、訪ねてまいりました。是非とも私たちに和菓子作りを教授していただけないでしょうか?」
「はい。ただいま」
 扉を叩いたのはサーカス姿の忍。まずは隣人力のあるノルンと郁が対応。ジェミ、澪、カタリーナ、レン、万里は愛想の良い表情を作りながら待機している。身を狙われている職人はというと、ディアとハニーに護られ、部屋の奥に身を隠している。
「ところで、星果の宝石様は何処に?」
 問い掛けと共に、道化姿の鬼の顔が、郁の瞳を覗き込んだ。触れそうなほど近づく2人の金色の瞳。そこへ近所に住む常連のような感じで後ろから現れたあこがまじめを装いながら声をあげた。
「またお弟子さん希望を発見なのです! 今日は宝石さんに会えるのか心配なのです!」
 あこは敬語が苦手なため、多少喋り方は特徴的になっている。鬼は、郁の瞳を覗き込んでいた顔を180度回転させると、ジッとあこを見つめ首を奇妙に傾けた。そこに、今度はカタリーナが注意を引き付ける。
「星果の宝石は昔気質の職人だからね。だからまず、わたしたちから教えを受けて、その中から本物の星果の宝石が誰だか見極めることができたら、ようやく深い教えを受けることができるって仕組みなんだよ」
「仕方がないですね。では、私たちは何をすればいいのですか?」
 作り物の声と笑顔を張り付かせる忍。ジェミと澪が応える。
「和菓子はイメージも大事なんです。今丁度、夕日が庭に落ちてるでしょう? 人を感動させるような和菓子は風情のある情景から生まれてくるんです」
「実際の自然をモチーフにした和菓子も多いんですよ」
 作成した和菓子を見せながら説明する2人に、忍は大げさに感動した様なため息をつき、鬼は興味深そうに首を90度折り曲げた。
「少し、外でイメージを膨らませてみませんか」
 微笑む澪に促され、忍と鬼は庭の散策へと連れ出された。郁をはじめ、ケルベロスたちは不意打ちを狙い2人の挙動に注視する。
「イメージ通りに作るのも大変です。イメージと同時に、形も良く把握して。集中して見て下さい! じっと見て……次は目を閉じてイメージを」
 ジェミが和菓子を忍に渡すと、忍びは目を瞑り、意識の世界へと没入していった。
「和菓子の道は厳しいぞ? 和菓子はこの地球の自然の移ろい、四季を小世界として具現化したもの。まずは庭に出て自然を感じる事から始めるのが良いだろう。自然の代表と言えば太陽。雄大な姿をしっかとその眼に焼き付けるんだ!」
 レンは目を閉じ頷くと、鬼を夕日へと誘導する。嬉しそうに口元を歪ませる鬼。
「ありがとうございます。有能な友よ……。私はこの優しさを生涯忘れないのデス!」
 鬼は勢いよく後ろをふりむくと躊躇無く太陽を見、あまりのまぶしさに目を瞑った。そして、ケルベロスたちは鬼の隙を見逃さない。
「皆! いまだ!!」
 郁は真っ先に飛び出すと、鬼の顔に重い跳び蹴りを浴びせ、よろめかせる。
「まかせて!」
 間髪入れず、郁の呼びかけに堪えたジェミが、今度は鬼の足に重い飛び蹴りを炸裂させた。鬼は堪らず足を押さえてうずくまる。そこに、澪が容赦なく重い跳び蹴りを加え、花嵐が体当たりで衝撃を与える。体勢が崩れたその背中を、ノルンが更に重い跳び蹴りで追撃し、ついに倒れた所を、家から飛び出したディアが凶器で滅多打ち。ボコボコになった鬼を、カタリーナが痛烈な一撃で破壊した。 鬼が倒れた隙に、あこ、ベル、万里は仲間を強化するため動き出す。
「横まっすぐ!」
 あこは、九尾扇を仰ぎ、ベルは翼をはためかせる。そして万里が、千年経た花桃に清浄なる青玉を輝かせ、仲間の前に雷の壁を構築した。
「こ、これは!」
 和菓子に意識を集中させていた忍が不意打ちに気づき目を開けた瞬間。
「夜鳴鶯、只今推参。覚悟!」
 レンは心を無にし、大自然の息吹を感じながら深呼吸をする事により舞い散る葉や花びらの幻像を具現化し、鬼を弾き飛ばした。忍の目の前に倒れ伏す鬼。
「殺してやる……ッ!」
 忍は今までの柔和な仮面を引きはがし、鬼の形相でレンを睨んだ。
「只命じられるまま命を蔑ろとは醜き事よ。今、涅槃へ送り届けてやる。覚悟!」
 レンはそんな忍の視線を軽く受け流すのだった。

●戦闘
「鬼いさん。まさか今ので倒されるほど無能ではありませんね?」
「ニンニン……。何を言ってるのデスか? 当然デス! 有能なる私にとって、あんな攻撃は蚊にさされたようなものなのデス!」
「気をつけてくださいよ? あなたが倒れてしまったら、忍と鬼のコンビでニンキ者! という私の持ちネタが出来なくなってしまうのですから」
 忍は軽口を叩きながらも、鬼には一瞥もくれずレンの瞳を見据えていた。
「夜鳴鶯ですか……。その鳥は、墓場鳥ともいいましたね……。皆さん、墓場の鳥にならないといいですね?」
 風が吹き、木々がザワメク。忍は唇の端を吊り上げて笑うと、鬼と共に印を結び分身を纏った。すかさず、澪と花嵐が鬼へと襲い掛かった。バトルオーラに気合を乗せた澪の攻撃に、花嵐の碧く澄んだ吐息。しかし、その攻撃は忍の体にはばまれた。忍のポジションを確信した澪は、ケルベロスたちへ目で合図を出す。かくして忍への集中攻撃が始まった。郁は澪に頷くと、隣に並ぶジェミに視線を送る。うなずくジェミ。そのやり取りを見た万里は連携を悟り、生命を賦活する電気を放ち郁の体を優しく包む。
「ありがとな、万里」
 親指をたてる万里の前を、電撃を纏い光る郁がジェミと駆ける。郁の蹴りが忍の足を払い、よろめいた忍の顔をジェミが蹴り上げた。
「みんな、流石だわ」
 ノルンは仲間たちの頼もしさに目を細めると、大の字になって倒れる忍に、ディアと共に襲い掛かった。
「っぐ」
 忍はノルンの疾風をまとった蹴りを腹に、ディアのめった打ちを肩にくらい顔を歪めた。
「やりますね……」
 顔をふりながら、おきあがる忍。その瞳が後ろで仲間を強化している3人をとらえる。
「ななめ」
 かけ声と共に扇を仰ぐあこ、赤いマントを風にたなびかせ翼を羽ばたかせるベル、半透明の鎧に味方を守護させるレン。目を細め強化役を凝視し、手裏剣を構える忍と鬼。そこへカタリーナが、仄かに白く輝く鎗を手に超加速、忍の左肩をつき注意をそらした。
「あああああ……。有能デス! お嬢さん!!」
 鬼は体をのけぞらせると、突撃してきたカタリーナに螺旋手裏剣を疾らせた。
「っち」
 忍も舌打ちすると、氷結の螺旋をカタリーナへと放つ。直撃を覚悟して目をつぶるカタリーナ。しかし、その体に衝撃は訪れない。目を開くと、そこには澪と花嵐の姿があった。
「助かったわ。ありがとう」
「どういたしまして」
 澪が微笑み、花嵐が頷く。郁、ジェミ、ノルン、カタリーナ、あこ、ベル、万里。足の止まった忍を皆が攻撃する隙に、澪とレンが傷ついた2人の治療を開始する。
「花車、賦活」
 澪が掌底を打ちこむと、白い花びらのような電流が舞い上がり花嵐の傷をみるみる癒していった。いっぽう、レンが放った魔法の木の葉が、治療中の澪を包み、さりげなくその怪我を癒す。
「いまいましいデス! 有能なものたちよ!」
「なかなかバランスがいいパーティのようですね」
 鬼が地団太を踏み、忍が忌々しげに舌打ちをする。郁、ジェミ、ノルン、カタリーナが削り、あこ、ベル、万里が補助。鬼、忍の斬撃と手裏剣を澪、花嵐、ディアが防ぎ、レンや手が空いたものが回復……。幾度となく打ちこまれる攻撃、そして、ついにその時がやってきた。
「お前達の動きももう見飽きたし、終わりにしようか忍者共」
 燃えるような赤い瞳に決意をたぎらせ、カタリーナは静かに告げる。体に異常をためこまないよう戦ったケルベロスにたいし、体に異状を蓄積させられた螺旋忍軍。戦略の差が勝負を決めた。
「倒れてしまうとは……。あなた、無能ですねえ……」
 鬼は感情の感じられない声で倒れた忍に語りかける。そして――。
「ですが、あなたを失った私も、有能ではいられないでしょう」
 螺旋を掌に篭め、鬼は襲い来る。
「無能! 無能! 無能! 無能! 無能!」
 小さく、しかし、よく通る声で呟く鬼。だが、その拳はディアに阻まれ届くことはなかった。螺旋手裏剣を手から落とす鬼。ケルベロス達はその隙を逃さない。鬼の足を澪が払い、倒れた所を花嵐が碧く澄んだ吐息で包み込む。体を炎でつつまれ、鬼が苦しむ隙に万里が電撃でジェミを強化。
「この一撃で決める……!!」
「餮べてしまいます、よ?」
 鬼の体を、郁が鉄槌の如く重い一撃で地面に叩き伏せ、輝くジェミは矢を放ち、鬼がたちなおる暇も与えず地面に釘付けにした。
「十八番、いくわよっ。――颯壊旋撃っ!!」
 体力を吸われ動きが鈍る鬼。ノルンはその隙を見逃さない。体内のグラビティ・チェインを放出し、それを回転させ高密度な球状を形成し放つ。放たれた弾は、着弾すると鬼を後ろの木まで吹き飛ばし。倒れた鬼を、ピンクの看護服に身を包んだディアがめった打ちにする。
「ああ……。皆さん本当に有能デス」
 うめく鬼に、もふもふなあこが絶望の黒光を照射し、赤いマントを風にたなびかせるベルがその鋭い爪で切り裂き、レンが花びらの幻像を具現化し鬼を弾き飛ばす。
「流星きたり、我らは闇夜に願いを謳う。誓り結びて黒穹を裂け」
 土まみれで転がる鬼に、カタリーナは白く輝く鎗を向ける。夜の女神に由来する流星の名を冠する鎗による攻撃……。輝く槍は闇を切り裂き、刹那の軌跡を空へと描く――。
「蝶の手駒として殉じたとは哀れ、魂の安らぎと重力の祝福を願う」
 瞑目し片合掌するレン、かくして、事件は解決されたのであった。

●お茶会
 ヒールが終わったケルベロスたちの鼻腔を、爽快な若葉の香りに、心安らぐほのかな甘い香りがくすぐった。熱い緑茶に、口解けのよい葛菓子。職人お手製の極上和菓子に澪、レン、ノルン、ジェミ、あこは、幸せそうに口元を緩めた。すっかり日も落ち、星々が輝く日本庭園で、ディア、花嵐、ベルが楽しそうに追いかけっこをしている。
「彼女の眼鏡にかなうといいんだけどね」
 お土産のどら焼きを見つめる万里の口から想いが零れた。このどら焼きには彼女の名を表す花の焼印が押してある。郁とカタリーナもそれぞれのお土産をみつめた。恋人の喜ぶ姿を思い浮かべながら。むこうでは、レンが職人とシシオドシの横で話し合っていた。
「これからも美味しく美しい和菓子で沢山の人々を笑顔に幸せにしてほしい。それが何より俺達の力になる。この世界は必ず守り抜く」
 握手を求めるレンの手を、職人がシッカリと握りしめる。今日もまた、かけがえのない人物を護り抜いた。情緒溢れる日本庭園に腰掛けながら、ケルベロスたちは和菓子と緑茶に舌鼓をうつ。柔らかな口溶けの仄かな甘さを口内で感じながら。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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