白と黒のハーリキン・チェックに身を包んだ女――ミス・バタフライはカードを弄ぶ。
右手から左手へ、パララララララとカードが渡る。
吹き抜ける夏の風にさらわれたりはしない。カードは一枚残らず左手に収まった。
「貴方達に使命を与えます」
そう言った途端、ミス・バタフライの頭上に妖艶な女が現れた。
「どういったものかしら?」
女は宙に浮かんだブランコをゆるり、ゆるりと漕ぐ。それに合わせ、女は見せつけるように白い足を動かす。
「この町にスノードーム職人が居るようです。その人間と接触しなさい」
「その技を確認しろということでいいのかしら」
「ええ。可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは貴方達の好きなように」
「まあ。タテハ、聞いた?」
「聞こえてるよ、アゲハ」
いつの間にか姿を現した男――タテハはブランコの座椅子にぶら下がり、揺られている。
アゲハは金の、タテハは銀の髪をなびかせ微笑んだ。
「意味の無いように見えるこの事件が、地球の支配権を大きく揺るがす事に繋がる。楽しみだね」
「事件です」
河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)はくるり、唐傘を回す。それに伴って長い黒髪がさらりと広がった。
メルエム・ミアテルシア(絶望の淵と希望の底・e29199)の調査で、螺旋忍軍『ミス・バタフライ』の次の標的が判明したのだという。
ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大したことがないのだが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという厄介なものだ。
思惑が読めないという点についてだけで言えば、実に螺旋忍軍らしくはあるのだが。
「遠野・遥さんいう、女性のスノードーム職人が狙われます。仕事の情報と、その技術を得たいみたいですね」
情報と技術。螺旋忍軍はそのどちらかだけでも入手すれば、職人を殺すつもりだ。
デウスエクスに殺される一般人を見逃すことは出来ない。
さらに、この事件を阻止しなければケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性もある。
「せやから、皆さんには職人の保護と、螺旋忍軍の撃破をお願いします」
狙われる職人を警護して、現れた螺旋忍軍と戦うことになるのだが問題が1つ。
事前に説明して避難させてしまった場合、敵は別の対象を狙ってしまう。そうなれば被害を防ぐことが出来なくなるというところだ。
「でも、事件の3日くらい前から遠野さんと接触することが出来ます。事情を話して仕事を教えてもらえば、遠野さんとなり代われるかもしれません。たまに体験教室もやってはるみたいですから、断られることはないでしょう」
そうすれば螺旋忍軍の目はケルベロスに向く。職人を避難させるか、隠れさせることも出来るだろう。
ただし、職人であると見せかけなければならない。その為にも、見習い程度の力量が必要だ。しっかり修行する必要があるだろう。
「遠野さんは公房の他に、歩いて10分くらいのとこにある大きな貸しガレージを使ってはります。どちらも人気がないとこで広さもありますから、どちらを戦場に選んでも大丈夫や思います」
「上手くやれば分断して各個撃破できるかな」
秋野・ハジメ(沈む茜・en0252)の言葉に山河はこくりと頷きを返す。
「そうですね。完全に先手を打つことだって出来るでしょう」
螺旋忍軍は2体。金髪のアゲハと銀髪のタテハ。
空中ブランコの曲芸師のような男女だ。
アゲハはブランコを軸にしたサマーソルトキック。投げキスによる回復。
タテハはブランコから急降下し、螺旋を込めた蹴りを叩き込んでくる。回転しながら宙を舞い、大気との摩擦で生じた炎を飛ばしてくる。
それと、どちらもシュリケンスコールを用いる。
「小さな事が後で大きなことを引き起こすっていうと……えー、なんだっけ。バタフライエフェクトだっけ? 厄介だなぁ」
ぽりぽりと頬をかくハジメだが、すぐになんとかなるかとケルベロスを振り返る。
「折角だ。螺旋忍軍の目論見を阻止するついでに、楽しむだけ楽しじゃえばいいさ」
参加者 | |
---|---|
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552) |
国津・寂燕(好酔酒徒・e01589) |
リーア・マルデル(純白のダリア・e03247) |
比良坂・陸也(化け狸・e28489) |
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635) |
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍ガンナー・e29164) |
レイ・ローレンス(瞬くシンフォギア・e35786) |
白波・竜哉(病竜・e36866) |
●工房の園
歩きながら数人のケルベロスが認識をすり合わせようとしたものの、すぐに止める。
現場ですり合わせたところで遅い。誰かに合わせようとしたところで他の誰かがずれていたらさらにずれていくだけだ。
結局のところ、事前に重ね合わせておくしかないのである。
そうこうしている間に9人は工房に辿り着いた。
「『closed』って、なってますの」
扉を見上げるレイ・ローレンス(瞬くシンフォギア・e35786)の視線の先には小さな木製のプレート。
とはいえ中にはしっかり人の気配がする。微かに機械音が聞こえてくるので無人という訳ではない。
育ちの良さからか、入っていいのか躊躇うレイ。
「大丈夫大丈夫、要件が要件だし気にしなくっていいって」
秋野・ハジメ(沈む茜・en0252)がへらへら笑って言えば、その通りだとばかりに白波・竜哉(病竜・e36866)がギシャギシャと笑い声を上げる。
「それでは……お邪魔します」
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)が工房の扉を開くと、カラコロンとドアベルの軽快な音が鳴った。
それにつられ、作業中だった遠野・遥がハンディサイズの機械を机に置いて立ちあがる。
「あ、ごめんなさい。今日は販売も教室もやってない、の……?」
真っすぐに遥の机の前にやってくる比良坂・陸也(化け狸・e28489)の様子に遥は首を傾げた。
「俺達はケルベロスなんだ」
言って、陸也はケルベロスカードを懐から取り出した。公的機関の証明書などなくともケルベロスカードで十分事足りるというもの。
遥は驚いたまま受け取ったカードをまじまじと眺めた後、顔を上げる。
「えーっと、ケルベロスがなんでうちに?」
「遥さんの技術がデウスエクスに狙われてるのよぉ~。それでお願いしたいことがあるんだけれど――」
柔和な表情のリーア・マルデル(純白のダリア・e03247)が事情の説明を始めた。
ふわふわした口調だが要点はきちんと押さえてあるので遥はふんふんと頷きながら話を聞いている。
「つまりデウスエクスが来る3日後までにあたしが皆にスノードーム作りを教えればいいってことね」
「そういうことじゃな。頼めるかのう?」
夏の強い日光が刺し込んでくる窓から距離を取る藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)が確認をすると、遥は勿論と即答した。
「それと当日は避難してもらいたいんだが」
「うん、分かった。私だって命は惜しいしねー。早めにここ出てネカフェにでもこもっとくよ」
「その費用はこっちで持つぜ」
「あ、マジ? やったね」
陸也のケルベロスカードをひらひらさせて笑う遥。
とことことレイが近づく。その隣にはふわふわと浮かぶボクスドラゴン『ホルス』。
レイは遥かの前まで出ると丁寧に頭を下げた。
「スノードーム興味あったの……作るの楽しいですの。遥おば……お姉様ありがとうございますの」
「はいはい、こちらこそ」
●光芒の園
作務衣に着替えた岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍ガンナー・e29164)は熱心にペンを走らせる。
遥の説明を一言一句逃さずメモに書き留めていく。
だいたいの流れが説明されると次は実践だ。
まずは簡単なものを2、3個作って流れを掴み、その後で本番にしようと遥は言った。
大きな作業台の中央にフィギュアやボタンなどの飾りや液体の入ったボトルがいくつか置かれる。
「物作りって面白いよねぇ」
頭の中で描いている構想に近いモチーフを選び、国津・寂燕(好酔酒徒・e01589)取りつける位置を確認する。
用意した花と松のミニチュアは本番用。モチーフは花札だ。和のテイストである。
イメージを近づける為に試作品用に選んだのは鳥と花。
試しに出来るとこまで学んでみるつもりの寂燕である。
接着剤で取り付けたフィギュアを四方八方から眺め、それなりに満足できたのか次の工程に移る。
「それにしても、この手の螺旋忍軍と戦うのは初めてだけど、どういった目的で技術を習得したがるのやら」
「はてさて。ハンドクラフト展を開催する気やもしれんのう」
カノンの冗談に柚子がクスリと笑みを零す。
手元にはどーんと堂々たる姿を見せる皇帝ペンギンのフィギュア。
ウイングキャット『カイロ』は主の手元を興味深そうに眺めている。
「皇帝ペンギンです。寒い所に住んでいるんですよ」
カイロにゆっくりとペンギンを見せてやる。カイロの名前の由来たる地名とは真逆の雪と氷の世界に住む鳥。
底は乳白色のアクリル板を使い、LED照明を使ってライトアップ出来るようにするつもりだ。
ぱたり、カイロが尾を振ると柚子はペンギンの接着に入った。
リーアのウイングキャット『ダール』も今は作業台。
ただし、主の作業を見てはいるがとりたてて興味がある訳ではないようだ。
饅頭のようにふくよかな体が占有するスペースはなかなかに広い。
リーア自身の作業スペースがなかなか狭そうに見えるが穏やかなリーアは全く気にしていない。
「見た人が自分も作りたくなる様な、素敵なドームにしたいわね~」
「リーア様はネコさんにするのですの?」
「そうよ~。ダルちゃん似の子を持ってきてるの。ダルちゃんがお花畑にいるようにしたいの」
本番では中央に置いたネコをドライフラワーで囲い、キラキラ光るホログラムを使いたいのだという。
ホログラムにするのは風に舞う花びらがイメージだからだ。
こういったセンスはアクセサリー作りや裁縫の経験が生きているのだろう。
「レイはキツネか」
レイの隣は竜哉。
いくら座っているとはいえ身長差はおよそ70cm。
竜哉が覗き込むまでもなく見えてしまうのである。
「キツネさんの親子が遊んでるようにしたいんですの。……キツネさんを雪で白くするにはどうしたらいいんですの?」
努力を惜しむつもりはないが手段が分からないので、ここは素直に遥に聞くレイ。
浮いたままのボクスドラゴン『ホルス』が主を真似て首を傾げた。
「液体のりを多めにしてパウダーがゆっくり落ちるようにしたらいいよ」
パウダーも多めにねと遥は添える。
「いいセンスだな。……あっ、クソッ!」
レイを褒める竜哉だが、手元が狂って接着剤が指についてしまった。渋面を浮かべ急いで接着剤を拭う。
モチーフを決めていなかったので工房に飾られている作品を手本に進めているのだが、不器用なので細かい作業がなかなか進まない。
「中の液体はベビーオイルなのでござるか!」
「グリセリンとか液体のりがメジャーではあるんだけどね。ベビーオイルだと家にあったりするから手軽でお勧めしやすいし、リーアさんみたいにドライフラワー入れる時にいいんだ」
洗剤は中の物が色落ちすることもあるのでお勧めしないと遥。
ベビーオイルは精製水と混ぜずに使える為、ドライフラワーを入れても液体が変色しない。
グリセリンはパウダーが少しダマになりやすいが代わりに透明度が高い。
液体のりは工作用よりも洗濯用だと透明度が良く、何よりも安い。
スノードームを満たす液体の些細な違いも風太郎はほうほうと頷きメモを取っていく。
メモのすぐそばには金色の鶴と松と亀のフィギュア。さらに本番で使う予定のものだ。
皆に麦茶を配っていたハジメも思わずぽつり。
「これで作るとド派手なの出来そうだね」
「ご利益ありそうでござろう?」
「金運とかあがりそうだね」
「お前さんは作らないのかい?」
寂燕の言葉に、ハジメは頬をかいて目を泳がせる。
「あー、女の子が好きそうだからやりたくはあるんだけどさ。俺、センスの神様に見放されてるんだよね」
「そう言われると逆に見てみたくなるんじゃが」
からかうようにカノン。
「ヤだって。画伯とか言われるレベルだし!」
それよりもカノンは桜っぽくするのかと、ハジメは話題転換する。
「桜吹雪が舞う景色にしようと思ってのう。見栄えよくしたいものじゃな」
「プレゼントにでもすんのか?」
「そこは秘密じゃよ。……そちらは随分と暗い感じじゃのう?」
「死の静寂がモチーフだからな。明るい色を入れて華やかにするのも良いけど、俺はなんだ、もっと静かで、寂しい、終わりを表現してぇ」
陸也の作業台には死んだ珊瑚を加工して作った鯨の骨格。
今は深海をイメージにした暗色の液体を用意しているところだ。様子を見ながら食用色素を少しずつ混ぜ、思い描く色に近づけていく。
スノーパウダーを使うつもりだが、雪ではなくプランクトンの死骸に見立てる。
こうして1日、2日と過ぎていき、事件が起きる日の朝が来た。
●攻防の園
遥が見習いとして充分だと評価したのは寂燕、陸也、風太郎、レイの4人。つまり、この4人なら工房の人間に成りすませるという訳だ。
方向性がはきと定まっていたので、自身のスキルをどう伸ばせばいいかを早い段階で悟れたのが大きい。
職人の代わりに囮となるという作戦を成功させるには、技術を習得できるかどうかは非常に重要だ。
工房とガレージの二手に分かるつもりだったので、どちらにも職人の代わり送り込めるのは上々といえる。
遥を送り出し、それぞれが予定の場所につく。
これから体験教室を始めるという風を装う準備を整え、螺旋忍軍が来るのを待つ。
コチコチと時計の音が響き、短針が10を指し示した頃。
「おいでなすったか」
竜哉がそう言った直後、ドアベルが鳴った。
金髪の女『アゲハ』と銀髪の男『タテハ』が入り口から中を覗く。
「スノードームの体験教室をやっていると聞いたのだけれど」
「体験入学希望者かい?」
技術は充分だと言われた寂燕だが体験教室の受講者を装っている。
「そうなんだよ。僕達も参加できるかな?」
「丁度男性枠と女性枠がそれぞれ一人空いているんだよ。工房とガレージの両方で違う技術を教えているからね、男性は工房にそちらの女性はガレージへ行ってみるといいよ」
よくよく工房の男女比を見てみれば。よくよく言葉の意味を考えてみればそこに矛盾を見出したかもしれない。
しかし、『違う技術を教えている』という言葉がアゲハとタテハの速断を促した。
「そうか、一緒に受けたかったけど残念だね」
「吾輩もガレージへ行くよう言われたところじゃ。折角じゃ、案内するとしようかのう」
案内するためにあえて工房に残っていたカノンの申し出はアゲハからすれば渡りに船だったらしい。
「お願いするわ。それじゃあタテハ、また後で。浮気は駄目よ?」
「するわけないだろう、アゲハ。また後で」
言葉を交わす二人に気付かれぬよう、カノンと寂燕は視線を交わし小さく頷き合った。
アゲハを送り出すと、風太郎が自身の作ったものや工房に飾られているスノードームを見せながら流れを説明する。
ひとしきり説明を終え、土台を作ろうかとなった。
タテハは言われるままに作業を始める。
ちらと風太郎は時計を見た。
カノン達がガレージへ向かってから15分が経っている。間違いなく到着しているはずだが連絡が来ない。
連絡を間違いところではあるが、時間をかけすぎて有利性を失っては元も子もない。
「さてと」
おもむろに竜哉が立ち上がる。
それが合図となった。
「初依頼頑張るかね」
工房を出てから20分。ガレージでは丁度説明を始めた頃だった。
「……タテハ?」
ふいにアゲハが立ち上がり、工房のある方を見遣る。
連絡のことを失念していた3人も、これで工房側が戦闘に入ったのだと察した。
「なるほど、そういうこと。私達はまんまと貴方達の罠にかかったというわけね」
「飛んで火にいる夏の虫ってな」
懐からカードを取り出す陸也。
アゲハがひらりと手を翻すとパッと空中ブランコが出現した。
「カイロ、もう出てきても大丈夫ですよ」
小さな羽を広げ、黒弾を撃ち出す柚子の背後からカイロが飛び出した。
ブランコに飛び乗ったアゲハに魔法弾が炸裂したところをカイロの爪が襲い掛かる。
アゲハは手裏剣を投げて向かい来る爪を捌く。
「カミサマカミサマオイノリモウシアゲマス オレラノメセンマデオリテクレ」
陸也の詠唱により、デウスエクスを地に引きずり落としたいという祈りが霧へと変わる。
霧に包み込まれるよりも先に心を貫くカノンの矢が、アゲハの胸に突き刺さった。
けれど、アゲハはそれに構わずブランコを軸に回転した。
サマーソルトキックがカイロに叩き込まれる。ダンッとカイロは壁に叩きつけられた。
「3人と1匹……足止めなのかしら? 見くびられたと怒りたいところだけれど、それよりも早く貴方達を片付ける方が建設的ね」
「出来るものなら。私達はそう簡単に倒れるつもりはありませんよ」
「人の努力を盗むのはいけないの」
レイの流体金属が輝きを放った。オウガ粒子を受け取ったのは寂燕。
空中ブランコを掴むタテハの手は震えている。6人と2体の猛攻によりすでに虫の息。
風太郎に炎を浴びせかけるがケルベロス側には充分な余力がある。
「随分とぬるい炎でござるな! 拙者の炎のほうが熱いぞ! 喰らえ! サンライトォッ! フレイムゥッ!」
巨大な黄金の手裏剣がタテハを裂き、さらに寂燕の一斬がタテハの息の根を断った。
螺旋忍軍は呆気なく崩れ落ちる。
リーアは一先ず攻性植物を収め時計を見上げた。
「ここから歩いて10分……走っても3分くらいかしら? 急いだほうがよさそうね~」
「ハジメ殿、電話はどうでござろうか?」
「……駄目だね、出ない。もう戦闘に入ったと見た方が良さそうだよ」
「こうなったら飛べる面子だけでもさっさと合流すんのがいいか」
戦場を少しでもガレージに近づけたかったが叶わなかった以上、急ぐしかない。
飛行出来る3人は工房の扉を潜るとすぐに翼を広げて空へと飛び上がる。
それを見送りながら寂燕達も走り出した。
「間に合えばいいんだがねぇ……」
「あら……追加のお客様ね」
非常に危ないところだった。
カイロの姿は無く、柚子の体は傷だらけ。
守りを固めていたからこそ耐えられていたと言えるが、相手は余力充分。
少数でアゲハを抑え、タテハを落としてから合流。アゲハを撃破するという作戦だった。
これは工房とガレージの距離がもっと近ければさほど問題は無かっただろう。
しかし現実には距離があった。3分という時間は、戦闘においては長いもの。
今回の場合で言えば戦力を偏らせすぎた。飛行出来る者がいなければ間に合わなかっただろう。
「間に合ってよかったわ~。こっちへいらっしゃい」
「カードイグニッション!カイゼリン、かの者を癒せ!」
温かく優しい風をリーアが呼び、レイが癒しの女帝を召喚する。
3人の傷がたちまち癒えていく。
余力の出来たカノンは回復から攻撃に転じる。
カノンが目にも止まらぬ速さで打ち出した矢を、刃に地獄の炎を纏わせた竜哉が追う。
柚子もまた、それに続く。
立て続けに攻撃を浴びたアゲハは不満そうに唇を尖らせた。
斬りつけ、着地した竜哉はアゲハを見上げた。
「次はどこを狙う予定だ?」
「おかしなことを聞くのね? 貴方達にそれを教えてあげるメリットが私達には欠片もないでしょう?」
3人と2体が加わったことにより勢いづき、形勢が逆転する。
そこからは早かった。
ケルベロス達は一気に攻め立て追い詰める。
さらに工房から3人が駆け付けると、僅かに残っていた螺旋忍軍の勝ち目も潰えた。
重力を集中させた陸也の蹴りがアゲハを空中ブランコから叩き落した。
床の上でアゲハの体がびくり、びくりと痙攣する。
最期に微かな声で先に逝った片割れの名を呼ぶと、女はそれきり動かなくなった。
風太郎はハアッと息を吐き出した。
先日、別件で仲間に最後の手段を使わせてしまったことを悔いているところだったのだ。
もう少しで誰かが倒れていてもおかしくは無かったが、それでもどうにか全員が立っている。
カノンと共にガレージのヒールを終えたレイが仲間を振り返って、言った。
「工房に戻りますの。作ったもの、守ったものを見に行くんですの」
作者:こーや |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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