●大阪に潜む南国果実
木漏れ日さえも肌を刺し、体を蝕む七月の日。大阪城近くの雑木林を歩いていた高校生男子が不意に、立ち止まった。
自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたのだと、瞳を閉ざして耳を澄ます。
木々のざわめきに混じり、聞こえた。
自分を呼ぶ女性の声が。
小首を傾げながら、高校生男子は雑木林の中に入っていく。緑の群れをより分け進む先、少しだけ開けた場所へと到達した。
「えっ……」
眩い陽射しを浴びながらも、赤らむことのない白い肌。乾くこともないと言うかのような艶やかさを内包していた。
何よりも、一糸まとわぬ淫靡な肉体が高校生男子の目を掴んで離さない。
彼は胸を飾る手にあまるほどの果実に引き寄せられるようにして、ふらふらと歩みよっていった。
程なくして女性の腕の中、高校生男子も生まれたままの姿の暴かれる。互いに肌を重ねて行き――。
――短針が一つ動くほどの時が経った後、高校生男子は女性の腕から滑り落ちた。
艶かしく微笑む女性が見つめる中、高校生男子は土の中に埋もれる。
女性の……女性が背にするアボカドの木に似た攻性植物の栄養となっていく。
雑木林は、あるべき静寂を取り戻し……。
●バナナイーター討伐作戦
ケルベロスたちを出迎えた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、メンバーが集った事を確認した上で説明を開始した。
「爆殖核爆砕戦後、大阪城に残った攻性植物の調査を行っていたミルラ・コンフォラさんたちから入った新たな情報、知っている人達も多いと思うっす」
調査によると、大阪城付近の雑木林などで、男性を魅了するたわわに実った果実的な攻性植物、バナナイーターが出現している様子。
バナナイーターは十五歳以上の男性が近寄ると出現し、その果実の魅力で魅了し、絞り尽くして殺害することでグラビティ・チェインを奪い尽くしているのだ。
あるいは、攻性植物はこうして奪ったグラビティ・チェインを用いて新たな作戦を行うつもりなのかもしれない。
「みなさんには、出現するバナナイーターを撃破し、誘惑されてしまう犠牲者を救出してきてもらいたいんっすよ」
続いて……と、ダンテは地図を取り出した。
「今回は、被害者がバナナイーターに出会う前に先回りする事ができるっす」
ダンテは雑木林の中に丸を、近くの道路の一角に三角をつけた。
「丸をつけた場所がバナナイーターの出現地点。三角をつけた一角が、被害者となる高校生の少年が歩いてくる道になるっすね」
そして、バナナイーターを出現させるためには、そのまま一般人を誘惑させるか、一般人を避難させた上でケルベロスの男性が囮となる必要がある。
バナナイーターは攻性植物の拠点となっている大阪城から地下茎を通じて送られているようで、囮となった人数に応じた数のバナナイーターが出現するようだ。
もっとも、出現するバナナイーターは、一体目以外は戦闘力が低い。そのため、ある程度の数を出して一気に叩くことも可能だろう。
「注意点として、バナナイーターが出現してから三分以内に攻撃を仕掛けてしまうと、出現した地下茎を通ってすぐに撤退してしまうっすよ」
そのため、囮となった者は三分程度、バナナイーターと戦闘せずに接触する必要がある。
幸い、バナナイーターはケルベロスであっても十五歳以上の男性であれば獲物として扱う様子。
また、その誘惑の力はケルベロスには効果がない。しかし、誘惑されているようなふりをすることは必要かもしれない。
「最後に、相手取ることになるバナナイーターについて説明するっすね」
姿は最初の一匹もそれ以降の個体も、髪型などの違いはあれどほぼ同一。豊穣な肉体を艶やかに輝かせている、白磁の肌を持つ一糸もまとわぬ大人の女性。肌は手触りの良いオイルで満たされており、色々な意味で心を奪っってくるだろう。また、アボカドの木に似た植物を背にして佇んでいるという特徴も持つ。
戦いにおいては妨害特化。
アボカドと思しき樹脂を元に作った石鹸で相手を滑らせ、いわゆるラッキースケベ的なハプニングを起こし攻撃を鈍らせる。アボカドと思しきオイルで満たされた肉体で相手の敏感な場所を刺激し魅了する。木の部分からアボカドに似た実を降り注がせ、複数人に連続したダメージを与える……といったグラビティを用いてくる。
「以上で説明を終了するっす」
ダンテは資料をまとめ、締めくくった。
「色々と大変なことになるかもしれない一件っすけど、人の命がかかっていることに違いはないっす。だからどうか、全力での行動をお願いするっすよ」
参加者 | |
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ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213) |
杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560) |
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288) |
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872) |
メイセン・ホークフェザー(薬草店店主のいかれるウィッチ・e21367) |
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615) |
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017) |
ルカ・エルステラ(優雅なる破壊者・e38371) |
●誘惑する南国植物
「よう! 少年!」
木漏れ日さえも肌を刺す夏の大阪。大阪城近くの雑木林で、高校生男子は出会った。
不敵な笑みを浮かべた、あごひげにつながる口ひげが似合うナイスミドル……コンビニのビニール袋を携えている、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)と。
ラジュラムは戸惑う高校生男子を見つめたまま、軽い調子で続けていく。
「ここにデウスエクス出現の情報が入った。今からたわわに実ったお姉ちゃんに殺られる前に帰宅しな」
「あ、はい」
戸惑いながらも何が起きているのかは理解したのだろう。高校生男子は素直にうなずき、雑木林から遠ざかる進路を取った。
小さくなっていく背中を見送った後、ラジュラムは影に隠れるように同道していた杉崎・真奈美(呪縛は今解き放たれた・e04560)に視線を送っていく。
「うまく行ったな」
「ええ」
「後はマサヨシくんがしっぽりと……いや、問題なく囮ができていることを願うだけだな!」
「……」
豪快に笑うラジュラムを見つめた後、真奈美は盛大なため息を吐き出した。
「全く……男の人は……」
両者正反対の表情を浮かべながら、合流を目指して雑木林の中へと紛れていく……。
アボカドの樹を背に、女は立つ。
たわわに実った二つの果実もぺんぺん草も生えていない双丘を惜しげもなく晒したまま、むしろ見せつけるかのように艶めかしいポーズを取りながら。
正面に立つ青き鱗のドラゴニアン、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)は不敵に口の端を持ち上げた。
「男にはやらねばならぬ時がある。たとえその先が果てない絶望だとしてもな」
これは囮。
力なき人々のため、後ろに控える味方のため、なによりも己の誇りを護るための行い。
故に……。
「と、言う建前の前におっぱいにダァイブ!」
表情をだらしない笑みに変え顔から果実の狭間へと倒れ込み、柔らかくも芳しい魅惑の空間に顔を埋めていく。
流れるようになめらかな両腕に抱き寄せられ……。
「ここが天国ゥ! ふへ、俺、もうここに永住しても良いかもしれんフヒュ」
しなやかな右手が下腹部へと滑っていくのを感じながら、マサヨシは女に……バナナイーターに男のすべてを預けていく……。
マサヨシの尻尾と尻に阻まれ、バナナイーターの右手がナニをしているのかはわからない。
想像はつく。
ルカ・エルステラ(優雅なる破壊者・e38371)は安堵の息を吐きながらもふもふした毛並みで目が隠れているボクスドラゴンを撫でていく。
ターゲットにカウントされる可能性もあったけど、諸々の理由から辞退した。だからこそ……。
「マサヨシには敬意を表するよ、うん」
「……」
一方、メイセン・ホークフェザー(薬草店店主のいかれるウィッチ・e21367)は二人の逢瀬を観察していた。
決して見守りつつ、デレデレしている可愛らしいところをじっくり観察する……などという目的ではない。
ただ、男性を誘惑する知能の高い攻性植物に興味があるだけだ。
自分に言い聞かせるかのようにうんうんと頷いた時、マサヨシの顔が果実から離れた。
圧力を失った果実は元の形を取り戻す反動で、ふるふると揺れ動いていく。
「……それにしても、豊満な体つきは羨ましいですね。私ももう少し背と胸がほしい……」
沈痛な面持ちで、メイセンは何かに遮られることなく地面まで見通せる自分の体を見下ろした。
深い溜め息がざわめく森の向こう側へと消える中、傍らに座っているラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)は忙しなくペンを動かしている。
諸々の事情から撮影……とは行かなかったから、見たまま感じたままをスケッチブックに描き記した。
「高度に人体を模して誘引する攻性植物……ほんと、すごく興味深いですね! どんな構造なんでしょうか!!」
農学部に在籍し、いずれイギリスで農業を継ぐ。その際に参考になるかもしれないのだから。
「……ここからではよく聞こえませんが、明確に言葉も発しているようですね。だったら脳にあたる部分が……いや、地下茎で繋がってるなら大阪城の地下でしょうか……」
時折荷物からバナナを取り出し三口ほどで食べ終わる。
常に糖分を補給しながら、バナナイーターを真面目に観察し続ける。
対象的に、ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)の頬は真っ赤に染まっていた。
視線は常にバナナイーターたちへと向けられていたけれど……。
「……いや、べつにそういうことに興味があるわけじゃないんだ。ただ、戦力的な意味で、威力偵察の一環で、やましいものじゃ……」
「……」
どことなくつながっていない彼の言葉を聞きながら、ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)は時計を眺めている。
おおよそ一分半ほどの時が経過した。
同じくらいの時間が経過した後に仕掛ける手はずとなっている。
少しずつ戦いの準備も始まっていく中、高校生男子を逃してきた真奈美たちが戻ってきた。
真奈美は現場の様子を確認するなり、眉間にしわをよせ自身の胸に手を当てていく。
一方、ラジュラムはコンビニ袋から酒と魚肉ソーセージを取り出した。
「くそう! なんて素晴らしいおっぱいなんだ! 植物にしておくには勿体無い! そこだ! いけ! 押し倒せ!」
各々様々な姿を見せながら、どことなく緩やかな時を過ごしていく。
木々が開け、刺すような陽射しが直接降り注ぐようになっているこの場所で……。
●トラブルバナナイーター
三分経過の時を告げる鐘が鳴る。
いの一番に真奈美が飛び出し、スタスタとマサヨシに近づき――。
「もういいでしょ! 男性はみんな胸か!」
勢い良くハリセンを振り下ろす。
「っと」
軽い調子で避けながら、マサヨシはバナナイーターを引き剥がした。
「さて、充分楽しませてもらったし仕事の時間だ」
尖り並ぶ竜の牙を見せながら、獰猛な笑みを浮かべていく。
一方、真奈美はすぐさまハリセンをしまい刀を抜き、突きの構えを取っていた。
「あなたは、殺す……いくわ……」
短く告げると共に大地を蹴り突きを放つ。
切っ先は気づかぬ間に油がにじみ出てきたバナナイーターの肌を滑り樹の側面を貫いた。
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――我が拳に砕けぬもの無し――我が信念、決して消えること無し――故にこの一撃は極致に至り!」
さなかにはマサヨシが蒼炎を纏い、正拳突き。
同様に肌の上を滑るも、炎は残る。
蒼炎がバナナイーターを焼き始める中、ミツキもまたパイルバンカー片手に踏み込んで――。
「と、っとと!?」
――足を滑らせ、勢いを殺せずバナナイーターのもとへと向かっていく。
慌ててパイルバンカーを地面に刺すも止まることはできずバナナイーターとぶつかりもつれ合うかのようにすっ転んだ。
「っ……いて……て……?」
頭を抑えながら顔を上げる中、柔らかな何かに遮られて動きを止めた。
直後、上の方角から艶めかしい女性の声が聞こえてくる。
頬に伝わる感触から、目の前の何かが果実でないことはわかった。
ならば……。
「え………………ええ!?」
顔を真赤にしながらバナナイーターを押しのけて、真実は確かめず樹にパイルバンカーを突きつける。
トリガーを引きジェット噴射の勢いで貫きながら、深呼吸を。
心を落ち着かせようとしていく彼を横目に、真奈美は深い溜息一つ。
視線を外すと共に、御業の炎弾を発射した。
「早く駆除しましょう。……ね?」
口元だけで笑みを浮かべる中、バナナイーターは炎弾を避ける。
直後、背後に回り込んでいたラリーが背中に輝く粒子を集めた手のひらを叩きつけた。
「感触はあんまり人間と変わらない感じだね。樹の方も、やっぱり樹とあんまり変わらない感じだったし……」
「……人間を惑わそうという擬態ですし、そうなるのも当然といえば当然ですが……」
ルカはちらりとバナナイーターを一瞥しながら、樹の部分に向けて蹴りを放つ。
揺さぶられた幹から葉が落ちる中、シエラはブレスを吹きかけた。
多少のトラブルはあれど、概ね攻撃は継続する事ができている。
ミツキが極力見ないように、けれど好奇心に負けてちら見しながらも、炎のキックをぶちかますことができたように。
「……ほんと、良くできてるよな」
「……」
真奈美は口元に笑みを浮かべたまま、瞳に絶対零度を宿したまま、縄の形をした御業を解き放つ。
軽く体を縛られ、肉体を歪ませてなお、バナナイーターは笑みを消さず……。
バナナイーターがミツキへと手を伸ばした時、マサヨシが間に割り込んだ。
流れるままに抱き寄せられた勢いも乗せて、マサヨシは炎に染めた正拳突きを打ち込み――。
「どうしたおっぱいバナナ!肉体だけじゃなく戦いでも楽しませてくれよ!!」
マサヨシを手放し、樹のもとへと吹っ飛んでいくバナナイーター。
さなかにはのちゆが紙兵を配り、色香の……もといグラビティの影響を受けたものたちを治療していく。
ケルベロスたちが一丸となって猛攻を仕掛けているからだろう。バナナイーターの反撃は徐々に勢いを失い、ノチユ一人でも十分に治療していく事ができている。
何よりも、ノチユにとっては距離を取り続けることができているのは幸いだった。
「……良かったな、この立ち位置で」
樹が降り注がせてくるアボカドを除けば、ノチユへと届く技はない。
万全の状態を保ちながら、今一度紙兵を散布。
受け取り、ルカはシエラと共に距離を詰める。
ブレスが吹きかけられていくさまを横目に背を向け、舞うような回し蹴り!
「痛みは甘く鮮烈に」
告げる中、バナナイーターが地面に倒れ込んだ。
すかさず、メイセンが地面に二重魔法陣を浮かばせた。
「行きなさい、我がしもべ。彼の者の呪縛を増大させるのです!」
杖から解き放たれたファミリアがバナナイーターに飛びかかった。
遅れて距離を詰めたビハインドのマルゾが樹に得物を叩き込んでいく。
両者が消えてなお動けぬさまを見下ろしながら、ラジュラムは笑った。
「どうやら、もう終わりみたいだな。いや、しかし……良いものを見せてもらった!」
脳裏に浮かぶのはバナナイーターの姿。
弾む果実、震える二子山、けしからん動きをするおっぱい。
いくら名残惜しくても、終わらせなければならないことには違いない。
「さ、男心をもてあそんだ罪は重いぞ!」
告げながら、納刀状態の刀を水平に構えていく。
立ち上がろうとしていくバナナイーターを見つめながら、居合一閃。
その体を樹へと叩きつければ、ミツキが距離を詰めていく。
「……!」
強い精神力で見つめたまま、符術の応用で前進を強化。
音速を超えたスピードで駆け回り、バナナイーターに、樹に数多の打撃を刻んでいく。
最後の一撃をバナナイーターの背中に叩き込んだ時、ノチユの炎に染まりし縛霊手が樹の幹に食い込んだ。
「肌出してればいいってもんじゃないでしょ。そういうの、吐き気がするんだよ」
「ま、もう終わりですけどね」
バナナイーターがさらなる炎に抱かれる中、ルカは跳躍。
根に着地するとともに体を捻り、回し蹴り!
「……」
木っ端が散る。
火の粉も舞う。
樹をバナナイーターを包み込んでいく。
その身を焼き尽くす、その時まで……。
●平和を目指して
炭となってしまったバナナイーターを見下ろし、ラリーは小さく肩を落とした。
「サンプルを採取してみたかったけど、この分だとあまり期待はできないかな」
あるいは、炭を拾って調べれば何かがわかるだろうか?
ラリーが小首を傾げながらしゃがみ込む中、メイセンはマサヨシの肩に手を載せていた。
「お楽しみでしたね」
にやりと笑みを向けたなら、曇りのない笑顔が帰ってくる。
冗談を飛ばし合う二人をよそに、真奈美はどこか遠い目で空を仰いでいた。
「色々……参考になったわ……」
何が参考になったのかは、彼女自身にしかわからない。
いずれにせよ……と、ノチユは語る。
「みんな、お疲れ様。概ね無事だったみたいで、何よりだよ」
労いながら、戦場の修復を開始した。
木々が、植物が、再び伸びやかに育っていくことができるように。
雑木林が、あるべき平和を取り戻すことができるように……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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