白い夜

作者:七凪臣

●月光
 しずしずと降り注ぐ月の光に、水辺に咲いた白い花が淡く輝く。
 ひっそりとした静寂は、まるで息を殺すよう。否、「よう」ではなく、この美しき夏夜を眺めに訪れた人々は、その清らかさに汗をかくのも忘れて息を飲む。
 けれど今宵、一つの異音が調和を乱す。
「……」
 白い腕、白い脚、白い球体関節。出来の良い人形の如き白き肢体に、真白の衣を纏わせたダモクレスは、黒衣の女――死神の指が自身に伸びて来るのを、忌まわし気に見つめていた。
「どうぞ、一思いに?」
 居丈高に紡いだ言葉は、強がりであり、本心でもあり。
 逃れ得ぬ運命を悟った白は、黒から下される運命を挑発する。
 けれど、死神の女は眉一つ動かさない。ただ淡々と、睥睨する白とよく似た色の指先で、白い胸部に球根のようなものを植え付けた。

「さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです」
 死神に促され、死神の因子を根付かされた白いダモクレスは夜へ踏み出す。
「えぇ、えぇ! 殺して、殺して、殺して。ありったけのグラビティ・チェインをわたくしのものに!」

●白夜
『白花の園が、血に染まる気がするんです』
 赤い花を頭に飾ったボクスドラゴンを腕に、白花の少女――リティア・エルフィウム(白花・e00971)がそう憂いてから暫し。
 リティアの懸念は、現実という花を咲かせた。
 死神によって『死神の因子』を埋め込まれたダモクレスが暴走するのだ。
「『白夜』は大量のグラビティ・チェインを得る為に、人々を虐殺しようとしています」
 外見から暴走するダモクレスを『白夜』と呼んだリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は事の委細を語り出す。
 もし白夜が大量のグラビティ・チェインを得てから死せば、死神の強力な手駒になってしまうだろうということ。
 そしてただ倒しただけでは、撃破後に骸から彼岸花のような花が咲き、どこかえ消えてしまう――死神に回収されてしまうということ。
「皆さんには、白夜がグラビティ・チェインを得る前に撃破して頂きたいのですが。同時に、トドメは過剰ダメージになるよう調節をお願いしたいのです」
 そうすれば、体内の死神の因子も共に破壊され、骸は死神に奪われずに済む。
 事は口コミで噂が広がりつつある、月明かりを淡く輝き返す白花の園。
 山間深い水辺だが、まばらながらも人影はある。無論、ケルベロスから注意喚起を受ければ皆、即座に避難してくれるだろうが。
「敵は一体。木立の中ですが、戦闘に差し障りはないでしょう。花は一帯に多く咲いていますので、幾らか散ってもまた自然の力で再生してゆくと思います」
 憂いは白夜の動向のみ。
 そう言い切って、リザベッタはケルベロス達をヘリオンへ手招く。
「悲劇が実を結ばないよう……清らかで美しい地に戻る為にも。どうか皆さんのお力をお貸し下さい」


参加者
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)
篠田・葛葉(狂走白狐・e14494)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)
月見里・ゼノア(鏡天花・e36605)

■リプレイ

●白邂
 ぬぅっと二人の間に割って入った白狐の面に、若い恋人たちは静夜に短く叫ぶ。
「なっ」
「何!?」
「びっくりした?」
 弾かれ振り返れば、アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)の悪戯が成功したような笑顔が待っていた。
 月の色に輝く森に突如上がった騒ぎの声に、周辺にいた人々の視線が集まる。が、混乱を来すより先に、ボクスドラゴンのエルレを抱くのとは反対側の手でリティア・エルフィウム(白花・e00971)が掲げた柔い灯が照らす複数の人影が、彼ら彼女を黙させる。
「皆さん、こんばんは」
「我等はケルベロスだ」
 耳障りの良いリティアの挨拶を継いだ目深に陣笠を被った竜種の男――ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)の一言に、夏の宵が凍り付く。
 浮き足立つ、或いは慄き竦む気配は、篠田・葛葉(狂走白狐・e14494)の一喝が払拭した。
「ここは危険です。走って逃げて下さい!」
 サーヴァントを連れた人物を含む、種族性別が入り乱れた一団は、『デウスエクス』を処するケルベロスであるのは疑いようもなく。力を持たぬ人間たちは迫る危機を察して、蜘蛛の子を散らすように走り出す。
「慌てずに、落ち着いて。男性は女性の手を引くのを忘れないように?」
 少し語尾をおどけさせた藍染・夜(蒼風聲・e20064)の忠告に、理性を取り戻した青年が並ぶ女の手を強く握った――その時。
 上流側、二匹の蛍を思わす揺れる淡光。
「来ました」
 氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)が静かに告げると、月見里・ゼノア(鏡天花・e36605)は逃げゆく人らを背に守る位置で二対の光と相対した。
 それは足元に咲く花の蕾を思わせる、内側から仄かに輝く白い瞳。
 そうして瞬く間に輪郭を象る人形へウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)は立ちはだかり優雅に笑む。
「あなたが作ろうとしている静寂を破りに参りました――ここから先へは、行かせません」

●月歌、結夜
 清けし宵に、咲く花色を。
 朱に染めれば、闇に紛う。
 月が望むは、静謐な白花の苑。
 なれば、征かん。
 無粋な陰りを、祓い清めに――。

 淡い光を足元に散らし、月が囁くような涼やかさで夜は白い人形に肉薄した。
 鞘より抜くのは、葬送の刃。刹那、白い夜と藍の闇夜が交錯する。
「白き輝き夜の君が還るのは月か奈落か――さて、どちら?」
「……ほぅ」
 二つの宵を繋ぐ月影の梯が如きまろやかな軌跡に、身を縛られながらも白夜が感嘆を漏らす。
「美しいものは嫌いではないわ?」
 蛍灯の眼が、弓張り月を描いた。
「――でも。残念、還るのはわたくしではなく、あなた方よ!」
 くるり袖を躍らせ手首から露わになった銃口が狙ったのは夜。されど幼き頃より騎士道を歩むウエンがそれを許す筈がない。
「させません」
 舐めればきっと蕩けるように甘い、とろりとした色の瞳で敵を正面から見据え、人の形をとった竜の男は我が身を蜂の巣にして同胞を庇う。
 敵は破壊者。如何に守りに特化したウエンでも、一撃は重く響いた。
「今、癒します」
 腕や首筋から滴る朱に、沙夜が即座に動く。華奢な体躯で星辰宿す長剣をしなやかに捌き、地面に刻む守護の印。花々を凌駕し放たれた光は、ウエンを癒し、ガイストとアルケミアへも余剰で自浄作用を宿す。
「ありがとうございます。それにしても、ただ倒すだけではいけないとは、厄介ですね。心して参りましょう」
「はい!」
 常のように屠るだけでは、死神の狙い通り。それを確認するウエンの発破にリティアは応え、掌の中の軽く押す。途端、巻き起こったカラフルな爆風は最前線に立つ者らを飲み、ウエンの傷を更に塞ぎ、ガイストらへも攻撃の威力を高める加護を授けた。
「ありがたい」
 エルレがウエンへ自らの属性を注ぐのを背に、ガイストが白夜へ向けて加速する。早速の、成果の試し処。されど、鋭い爪での一突きは、軽やかな動作で躱された。
「残念ですこと」
「大丈夫です」
 白夜の余裕に、葛葉が余裕を被せ返す。そこまでは、真面目で礼儀正しい『いつも』の葛葉。
 だが一つの呼吸の後、気配ががらりと変わる。
 肉食獣の獰猛さに光る眼は、狐の金色。アルケミアのように面ではなく、流れる血として獣な葛葉は、白夜の懐へ飛び込んだ。
「さあ、殺し合いを始めよう! この距離に釘付けにする!」
 ガトリングガンの銃身を、白夜へ刺すよう突き出し。斜線を刃に見立て、袈裟懸けに斬り上げる。止め処なく打ち出される弾丸の嵐に、白夜の足がよろけた。
「うん、いいね」
 一足先を行った葛葉を追い、狐面を被ったアルケミアが月薙ぎの太刀筋で人形が纏う白紗の裾を光花の苑へ縫い止める。
「……無粋な真似を」
 纏わりつく歪みに、白夜が眉宇を顰めた。しかし造作の美しい人形は、所作の一つも絵画じみて麗しく。場と相俟って、輝きを増す。
(「噂に聞いた通り綺麗な所ですねぇ……っと、そんな場合じゃないですね」)
 美と美の共演にゼノアが見惚れたのは、瞬きにも満たぬ間のみ。駆ける足が生む風と繰り出される衝撃に舞い上がる花弁に気配を溶かし、月光の導きの侭に袖に隠した仕込み銃を解き放った。
「あはっ、月光に照らされた白い花園だなんて素敵ですよね」
 礼賛の句より疾く翔く弾丸が、人形の四肢へ重い枷を根付かせる。
「そうね、美しさは否定しないわ。あなた達からグラビティ・チェインを貰い受ける最高の舞台だもの」
 増える縛めを笑い飛ばさんと、白夜は口の端を艶やかに吊り上げた。けれど一度もつれた足は元へは戻らない。故にこそ、命中精度はガイストの初手と変わらぬウエンの戦斧二刀の閃きは人形の右肩を捉えた。
「白夜さん――でしたね、素敵なお名前です」
 間近で視る敵を、ウエンは素直に讃える。けれど、その賛辞にデウスエクスは不思議そうに首を傾げる。白夜の名は、ヘリオライダーの少年が彼女を表すに相応しいと付けたもの。しかし直ぐに意味を察した人形は、呪縛を忘れたように艶やかに笑む。
「気に入ったわ」
 居丈高さは、彼女の凛然とした在り様に思え。ウエンは、僅かに惜しむ。
 『悪』でなければ、ゆっくり語らうのも吝かではなかろうが。ウエンらはこの地へ、遊びに来た訳ではないから。
「命はおもちゃではありません。アナタたちの好きにはさせません」
「それは其方の言い分。わたくしはわたくしの心に従い命を刈るのみ。世界を無の白へ!」
 ウエンの宣戦布告に、白夜は哄笑した。だがその矜持を、アルケミアは面の下から否定する。
「お前の白は、死神に穢れてしまった白は白じゃない。漂白脱色御茶の子さいさいのわたしたちケルベロスでも、流石にどうすることもできないから。だから――せめて欠片も残さずここで消えろ」
 洒脱な言い回しであろうと、中身は死の宣告。
 それでも、白夜は笑う。
「穢れようと、くすもうと。わたくしは白。わたくしが言う限り、変わりないわ」

 運命を受け入れる様は潔い。斯様な結末でなければ、ただ美しい人形と愛でられたであろうか?
 解を得られぬ問いは投げず、代わりに夜は青白き花を白夜へ捧げる。
「天藍吟詠、散り逝く極まで惑い続けよ」
 右手に咲いた幻の花は、逃れ得ぬ混沌を生み。天藍の霧と、纏い付く霞柵と成って白夜の視界を惑わせ、精神回路を麻痺させた。
 そして。
「揺蕩う光よ、天駆ける風となりて」
 知己の男が育んだ幻想が溶けるのを見計らい、リティアが謳う。
「その身に力を宿しましょう」
「加勢の効、貰い受けた」
 黎明に立ち込める光霧にも似た風に包まれ、ガイストは冴える意識に鼓動を一つ跳ね上げ、陣笠を放り投げる。
 切り結ぶにつれ、手応えは増す。それでも心折らぬ敵は、相対していて胸がすくもの。
 敢えて伸ばした爪で敵の懐を突くのに成功すると、知らず口角が上がり。無心の攻防に白夜もまた、白磁の頬を耀かせた。
 だが、どうしてだろう。傷を負った同胞へ絶えず癒しを届ける沙夜は、人形の白さに寂寥を感じていた。同じ気配に触れてか、ゼノアも一筋の光も届かぬ闇から飛び出しナイフを振るいながら白夜へ一言、贈る。
「大丈夫、私達に任せて下さい」
「――お断りするわ」
 何をと問わず、人形は白い笑顔を一層華やがす。ただただ、殺め合う今を愉しむように。
(「このダモクレスは戦っている時のわたしだ」)
 覚えのある白夜の風情に、葛葉は白花を散らし戦場を舞う。
(「自分の衝動を抑えられずに、殺すまで止まれない――誰かが、止めないと」)
「あはは、ぶっ殺す!」
 裡なる理性とは裏腹に、獣の少女もまた悦楽を吼えた。

●静眠
「殺す、殺す! 遍く殺す!」
 風雪のように淡光の花弁を散らし、白夜は四肢を損傷してなお嗤う。だが、終焉が近いのは一目瞭然。だからこそ、最良の結末を引き寄せる為にゼノアは得物を収めて呪われし書物を紐解く。その詠唱に、アルケミアは力が漲るのを感じた。
「皆さん、頼もしいです」
 絶望を知らぬ眼差しで仲間を見遣ったウエンも戦斧を下げ、放つオウガ粒子で前線を刺激する。
(「白は、白のままで居られるように。赤い彼岸花が、咲かぬように」)
 迫る瞬間を確信し、沙夜も白夜の縛めを増加させる手を打ち、
「そこに隙あり!」
 狂乱に猛りながら、葛葉は禍つ刃を白夜の損傷個所に深く捻じ込み、呪縛を強めた。
「せめて静かな眠りを――お休み、白夜の君」
「なっ」
 初めて白夜の表情が変わったのは、夜が何をするでなく、走るガイストとアルケミアの背中を見送った瞬間。
「わたくしは、わたくしは……!」
 リティアの仕上げの風に背を押され、ガイストは白夜の自問を一瞥する。
(「哀れは、哀れ」)
 死神に操られる者を見る度、感じる哀れ。だが、同情はしない。
(「綾釣り糸の先を手繰り寄せたくはあるがな」)
「――推して参る」
 此れで終わっても構わない。その覚悟で抜いた刃は冴えに冴え。太刀風を劈いて生まれ出るは翔龍は、鋭い爪牙で白夜の喉笛を掻き切った。
「……っ」
 喉さえ震えさせなくなった人形に残された命の耀きは、風前の灯より僅か。
「さ、逃げ切れるかな」
 元より走る脚さえ儘ならぬのを承知の上で、アルケミアは他人事のように告死の狐と化す。
「12発の弾丸よ、その魂ごと貪りつくせ――っ」
 トゥーハンドなんて時代遅れでしょと嘯き、直接肌に触れさせた銃口から放つ鉛玉は、弾倉を空にする数。ワンハンドの六発装填では、在り得ぬ12。アルケミアのみが繰り出す事が可能な殺人トリック。それは事件解決の糸口を白夜に悟らせることなく、彼女に宿された種子ごと機械の命を木っ端みじんに砕け散らせた。

●清花
 朝顔にも似たその姿は、小さな満月を敷き詰めたよう。せせらぎが耳に涼しく、ほわりと明るい足元が心のガードを緩くする。
(「私と同じ、白い花」)
 清らかな灯りを見つめる沙夜の脳裏に浮かぶのは、家族や学友らが、沙夜を白い花のようだと褒める『日常』。
(「だから、私は」)
 望まれるままで在れるよう、努力しなければならない。この穢れなき白花に、相応しい娘であれるよう。
 でも。
(「……時が経てば元に戻れるこの花園のように。穢れた手が、無かった事になるなんて――思ってはいない」)
「終わったな」
「えぇ。静かに……なりましたね」
 放った陣笠を拾い被りなおすガイストと、取り戻した静寂が悲しい沈黙にならぬよう微笑むウエンの声に背を向け、沙夜はそっと白花の苑へ踏み出す。

 白夜の骸は、粉雪の如く風に浚われ消え去った。
「後は月光が導いてくれます、どうか安らかに……」
 残った一握りの白砂で、ゼノアは弔いの塚を作った。
(「死神……彼女達は一体なにを考えて……いつか分かる時が来るのですかね……」)
 せめて操られた命が、彼岸では囚われる事のないよう。操り糸の先を、いずれ手繰る事が出来るよう。
 その想いは、ウエンも同じ。
(「――僕たちが、全力で」)
 想いの灯さえ残らぬ夜に、静寂を携え、清らかな光花を墓標へ供えた。
 そして祈りを終えれば、ゼノアは今宵の同胞の輪から外れ、流れが洗う岩の上へ。
「月に照らされた白い夜……綺麗ですよね」
 天と地、両方の明かりに影が滲む白い頬を照らし、ゼノアは青い髪を川面を走る風に遊ばせ月を浴びる。

 熱狂の時は去った。
 けれど葛葉の心は、未だに白夜を残し。不可思議な花に重ねて、その姿を想う。
(「わたしと彼女の違うところは、きっとデウスエクスか、人間かの違いしかない」)
 何とか止める事は叶った相手。
 戦っている時の自分と同じと感じた相手。
(「……彼女のように、わたしもいずれ、誰かに止められる日が来るのでしょうか」)
「どうしたの?」
 落ちかける、昏い思考。されど、沈み込む前に、頭に白狐の面を乗せた少女――アルケミアが傍らから覗き込む。
 年は葛葉の方が一つ上。だが小柄な葛葉は、初見なれどかわいらしく思え。何より、面と血の違いはあれど、同じ白狐の奇縁。
「――いいえ」
 峻烈な戦い様も似るアルケミアの、空気を読んでいるような、その逆のような笑顔につられ、葛葉も肩の力を抜き。
 二人の白狐は、白花を愛でる。

 ヒールを施せば、元の形を変える花。なれば自然の回復力に任せた方が良いと言ったのは、誰だったか。ともあれ、踏み荒らした地は軽く整えるに留め、リティアは月に輝く花苑を眺め白く呟く。
「殺される事が目的なんて……敵でありながら物悲しいものです」
 夜の女神の微笑み注ぐ地は、冴え冴えと美しく。だからこそ、散華の寂寥が際立つ。
「何かを愛でたり慈しんだり――せっかく生まれたものなら。そうした感情を宿せればよかったのに……残念ね」
「そうだね」
 肩を並べた白翼の少女の悔恨に、夜は一面の月野原を遠い眼差しで見つめた。
 矜持や理性を抱いた侭、飢え乾く苦しさは如何ほどだったか。いっそ無心の操り人形であった方が、楽やもしれぬ。
(「人でありながら、ただ死を与える為に生きる心の欠けた私と、白夜と。どちらが――」)
 より人形らしくあったのか。
 内側への問いは、夜の芯に触れると言うのに。銀の眼差しには、細波一つたちもせず。
「――ごめんね」
 傷んだ花をそろり撫で、男は天の岸辺を歩き出す。
 空には静月。
 降る光は慈雨となり、この地を浄化してくれるだろう。
 それに白は、何色にも染まり得る可能性の色。
 眩さに目を細め、夜は蛍のように舞った一片を捉え、また風に還す。

 穢れさえ彩に変え、強く強く咲き誇れ。
 輝く命は――。

「美しいものだな」
 二胡の音が似合いそうな宵、月を描き、花をも映し流れゆく水面を金の瞳に眺め、ガイストは嘆息する。
 さほど経たぬ筈なのに、戦いの喧騒は遥か遠く。
 身を浸す静けさは、息をするのも惜しまれるほど。
 だから強さを求むる風来坊も、酔い痴れる。
 ただ、ただ。美しいと思える世界を肴に。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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