東京天狗

作者:紫村雪乃


 大都会。コンクリートの森林だ。
 その森林に天狗が出る。そういう噂があった。所謂都市伝説というやつだ。現代においては天狗なる妖怪もコンクリートの森にでるらしい。
 通常伝説にある天狗は人を襲わず、魔道に堕とすという。が、この噂は違った。天狗は己のことを噂する人を襲い、殺すという。
 馬鹿馬鹿しい噂話ではあったが、一人だけ真剣に信じている者があった。飯岡正樹という若者である。
「きっと人を殺す邪悪な天狗はいる。俺は信じているんだ」
 ライトを片手に正樹はつぶやいた。そして都会の闇に足を踏み入れる。もし噂が本当であった場合、正樹は危険な状況におかれることになるわけだが、えてしてこういう人間は先のことを考えないようだ。
 時は深夜。繁華街からはずれているため、すでに人の姿は絶えていた。
 その時だ。彼の背後に人影が現出した。
 黒いフードを被った白い肌の女。無論正樹は知らないが、彼女の名はアウゲイアスいった。第五の魔女・アウゲイアス、と。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にはとても興味があります」
 魔女はいった。そして手にした鍵を正樹の胸に突き刺した。
「あっ」
 呻きをもらし、『興味』を奪われた正樹はその場に崩折れた。その背後には異様なモノが立っている。
 鈴懸に結袈裟。修験者の身なりだ。赤銅色の顔の真ん中には巨大な鼻が屹立している。天狗であった。
 しゃしゃん、と硬い音が響く。その音を響かせたのは手にしている錫杖だ。その先の環が揺れ、音を奏でている。
 しゃらんと錫杖を鳴らし、天狗は空に躍り上がった。

「不思議な物事に強い『興味』をもっている人がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が形の良い唇を開いた。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件は起こるようです。その怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい。そのドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるでしょう」
 セリカはある都市の名を口にした。大都会だ。
「ドリームイーターはその都市に現れます。正確な出現場所はわかりません。しかしドリームイーターは自分の事を噂している人がいると引き寄せられる性質があります。その性質を利用すれば誘い出すこともできるでしょう。噂をする者をドリームイーターは殺そうとします」
 ドリームイーターの戦闘手段は、とセリカは続けた。
「天狗を具現化したドリームイーターらしく錫杖で攻撃してきます。グラビティは如意棒のそれに似ているといえるでしょう。ただ如意棒のように自在にのばすことはできません。代わりに疾風の刃を生み出し、それを飛ばします。さらに動きは俊敏。跳躍力は飛翔しているといっても過言ではないほど」
 言葉を切ると、セリカは信頼を込めた瞳でケルベロスたちを見回した。
「強力な敵です。けれど皆さんならきっと斃すことができます」
 セリカはいった。


参加者
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
藤原・雅(無色の散華・e01652)
草間・影士(焔拳・e05971)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)

■リプレイ


 闇の都会。そこに八つの影が降り立った。
「天狗でござるか」
 女がふうむと唸った。黄昏色の瞳の可愛らしい美少女だ。西洋人であるらしいが、どういうわけか口調は日本の武家言葉であった。
 カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)という名のその少女は棒を振る仕草をしつつ、続けた。
「錫杖を自在に扱うとのこと。これはなかなかの強敵のようでござるな」
「どれほどの強敵かはしりませんが、東京天狗など笑止千万」
 ふん、と八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)という名の若者が鼻を鳴らした。その名のとおり、生まれも育ちも八王子である。美青年といえる顔立ちであるが、どこか人を寄せ付けぬ雰囲気があった。
「高尾山の高尾天狗こそ最強。天狗もどきが本家の評判を落とすような振る舞いをして許せません。八王子市民として引導を渡してやります!」
「高尾山か」
 面白そうにマユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)という名の娘が呟いた。清純そうに見える美しい娘だが、口調はやけにさばさばして荒っぽい。
「最近の天狗は街にも出るだなんて噂があるんだな。ああいうのは山っていうか、世俗と離れた場所に居るもんだと思ってたぜ」
「確かに天狗と言うと誇り高い修験者――つまりは世俗と離れたものむであるというイメージがあるのだが……本当に、噂しただけで人を殺してしまう邪悪な天狗などいるのだろうか?」
 生真面目そうな少女が首を傾げた。煌く金髪の持ち主であるのだが、それが凛とした美しい顔に良く似合っている。名はエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)といった。
「いるかもしれないねえ」
 透けるほど白い肌の若者がこたえた。悠然とした落ち着きをもった人形めいた美しい顔立ちの若者だ。
 若者――藤原・雅(無色の散華・e01652)はどこか感情の乏しい声音で続けた。
「災いをもたらす凶星。外法様。怨霊。或いは山神。謂れは様々で、決して良きものという伝承のみではないけれど……此度はまさしく魔縁の方か」
「ようするに妖怪ってわけだろ」
 飄然とした青年がニヤリとした。朗らかそうに見えるのだが、どこか妖しく仄暗いところがあるのは身から滲み出る妖気のせいかもしれない。
「相手が天狗なら、こっちも化け狸として負けられねえよなぁ。いざ、妖怪大戦争!」
 妖気を自在に操る化け狸のウェアライダーたる青年――分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)は高らかに宣言した。


 闇が凍りついた。凄絶の殺気の仕業である。
「天狗、か」
 殺気の主がいった。雅である。
「噂をすると現れるらしいが……四六時中人の噂に耳を澄ませているのだろうか。はは、地獄耳か暇なのか。もし本当であれば、是非ともお目に掛かりたいものだね」
「人を襲う天狗……陳腐ですね」
 東西南北が忌々しげに吐き捨てた。
「天狗とはもっと誇り高い生き物。天狗もどきとごった煮されたら嘆かわしいです」
「けどよ」
 ククッと面白そうに笑うと、楽雲は暗い空を見上げ、
「夜の街を翔ける天狗、ってのもなかなかカッコいいじゃんか! そういう手合いは高い所で腕組みして、こちらを見下ろしながら登場するって聞いたぞ」
「やはり赤ら顔で鼻が長いのでござろうか」
 真面目ぶった顔つきでカテリーナが首を傾げた。が、すぐにあっけらかんとして笑うと、
「伝承等では、身軽さもさることながら神通力を持ってたりするとも聞くでござるが……どのような神通力を使うか、楽しみでござるな」
「神通力といえば」
 何かを思い出したのか、マユが目を見開いた。
「天狗って言えば姿を消せる蓑とか持ってたんじゃなかったか?」
「それは知らないが」
 草間・影士(焔拳・e05971)という名の男が口を開いた。精悍さをにじませた美青年だ。堂々とした井出達は溢れる自信の表れであった。
 その時、影士の脳裏にはある武将の名が浮かんでいた。京の五条大橋で怪僧を翻弄した武将である。
「天狗といえば、昔天狗に剣術を習った武将がいたとか。俺も手合わせ願いたいものだな」
 誘き寄せるためだけでない、影士の声には真実の響きが滲んでいた。彼もまた武術家であるからだ。
 すると八人めのケルベロスがくすりと笑った。月光で作り上げたような真っ白な髪と青の瞳の持ち主。月の精を思わせる冷然たる美しい娘だ。
「簡単に手合わせしてくれるかしら。随分恥ずかしがり屋みたいだけれど。自分の噂をしたくらいで殺すんでものね。もし本当に居るのなら一度遊んでみたいわね。他の種族の男とどう違うか、気になるの」
 名を凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)というその娘は艶然と微笑った。
 その時だ。ひゅうと風がケルベロスたちに吹き付けてきた。凍てつく殺気の風が。
 はじかれたようにケルベロスたちが見上げた先に気配が一つあった。
 明滅する街灯の上。うっそりと佇む影があった。
 山伏のような格好。そしてその顔には長い鼻の、赤き面――天狗だ。
 くつりと、喉奥で天狗が嗤ったようだった。
「あれが人殺しの邪悪な天狗と言うわけか。成る程、確かに良くない雰囲気だ」
 エメラルドは高らかに歌いだした。英雄を称える歌を。
「彼の者は来たれり! 見よ! 空を穿ち、大地を揺るがし、海を割りて、今ここに凱旋するべく奮い立つ! 我らが英雄の不敗たるを称えよ!」
 響く歌声。それは闇を震わせて仲間を鼓舞した。
 刹那である。天狗が躍り上がった。落下というより、飛翔するように襲いかかる。
「棒術の達人? ボクの如意棒だって負けてませんよ。あちょー! ほわたー!」
 東西南北が飛び出した。振り下ろされる天狗の錫杖を如意棒で受け止める。
 戛然。
 鋼と鋼の相博つような音が響いた。受け止めえたのは東西南北なればこそだ。が、根源的な力量の格差と怪力、さらには落下の加速度により東西南北はがくりと膝を折った。衝撃により彼の足元のアスファルトに亀裂がはしる。
「手合わせ願おうか」
 影士の棍――フレイムロッドが文字通り紅蓮の炎をまとわせて疾った。炎を散らせてフレイムロッドが天狗の胴に叩きこまれる。が、呻き一つ発することなく地を蹴り天狗は跳び退った。
 着地と同時。まるで重さなどないかのように天狗は地を蹴った。疾風の速さで迫り、影士に錫杖の一撃をぶち込む。
 衝撃で影士が吹き飛んだ。肋骨を含めた内蔵はミンチと化している。
「そのお鼻、長いと何かと不便だろ? 叩き切るか、へし折ってやるよ!」
 楽雲が駆け即座に間合いを詰める。天狗の鼻めがけてエクスカリバールを叩き込む。すると天狗の錫杖が旋回した。エクスカリバールをはじく。が、完全にははじききれなかった。狙いを外されたエクスカリバールが天狗の肩を打つ。
 今度こそ天狗は間合いをとるべく跳び退った。錫杖をふる。唸り飛ぶ風刃が楽雲を切り裂いた。
「さあ。あなたが他の男とどう違うのか、私にもっと見せて頂戴?」
 月音が弾丸を放った。ただの弾丸ではない。敵の存在そのものを侵食する影の弾丸だ。
 が、するりと天狗は弾丸を回避した。が、天狗の回避位置にすでに雅が先回りしていた。紫電をまとわせた槍の刺突を放ち、天狗の身を穿つ。
「はっ。天狗相手とは心が躍るぜ」
 千日紅の花や翼を出現させたマユが笑った。普段は回復手として動いている彼女であるが、本当のところは戦闘狂いといっていい。喜々として天狗に踊りかかった。シスタードレス風の戦衣装の裾を翻し、ルーン文字の刻まれた巨斧を天狗の頭蓋めがけて叩きつける。
 ギィン。
 天狗が錫杖で巨斧をはじいた。のみならず錫杖を旋回させ、槍でいえば石突きにあたる部分でマユを下方から打つ。
「ちいっ」
 巨斧をはじかれた衝撃を利用し、マユは上に跳んだ。錫杖の破壊力をわずかながらも逃す。
「やっぱ先の先は取れねえか。あっ」
 マユは愕然として呻いた。彼女の眼前にぬっと天狗が現出したからだ。マユを追って天狗もまた空を翔けたのである。
 天狗が錫杖を振りかぶった。マユの顔が絶望にゆがむ。続けて攻撃されたら絶命は確実だ。
 錫杖が疾った。が、その先端がマユに届くことはなかった。錫杖は別なものを打ち払ったからである。
「そこまででござる。これ以上仲間はやらせぬでござるよ」
 手裏剣を投げた姿勢のまま、カテリーナはニッと笑った。


 エメラルドはライトニングロッドを高く掲げた。
 彼女は元々エインへリアルの戦闘奴隷として、数多くの命を奪ってきた過去を持つ。だからこそ今はまずは殺めた以上の命を救う事で罪を償おうとしていた。
「誰一人、倒れさせはしないぞ!」
 ライトニングロッド先端から迸った紫電雷霆のごとく影士を打った。呪力をおひせた膨大な電力が影士の身体を駆け巡っる。細胞を一時的に賦活化、再生を促した。
 その間、怒りに震えた天狗は即座に身を翻して街灯、またはビルの壁面を蹴りカテリーナを狙う。だが、カテリーナも天狗の狙いは分かっている、迎え撃つべく手裏剣を放った。が、天狗は錫杖を回転させかべてはじいた。
 天狗の放った風刃がカテリーナに迫った。さすがにカテリーナには避けきれない。風刃がカテリーナの脇を切り裂いた。
「くっ」
 苦痛に呻きながらも、しかしカテリーナは豆粒を取り出した。そして、告げた。
「おおっと、動くなでござる。動いたら、お主のベッドの下の秘密のアレをバラすでござるよ?」
 その豆が何でるのか、カテリーナ自身にはよくわからない。が、時事室として天狗は一瞬だが足をとめた。
 真っ先に迫ったのは月音。その顔には依然としてつめたい笑いがういている。暗殺者らしい影のような素早さで天狗を襲った。
「さっきはつれなくしてくれたわね。まだ足りないわ。もっと、私と一緒に踊りましょう?」
 月音の手が動いた。天狗の手も。空で硬い音が響き、火花が散る。次第に月音と天狗の手が速くなった。もはや二人の得物は視認不可能だ。ただ無数の打撃音と火花が空に散った。
「くっ」
 呻く声はしかし、月音の口からもれた。次第におされだしたのだ。このままではもたない。
「天狗とは修験者のなれのはて。修験者崩れだからこそ人心を惑わし魔道に堕とすのを誉れとする、他とは一線を画す山の妖なんです。それをアナタは闇雲に人を襲って傷付けて、高尾の天狗に代わってお仕置きです!」
 東西南北の身から凄まじい熱量が噴出した。二重螺旋を描くそれは自らの熱リロょう故に炎を発生し、天狗へと疾った。さすがの天狗も躱せない。炎に天狗が吹き飛ばされる間、小金井――テレビウムが仲間を癒した。
「まだだよ。いくら速くても私の目から逃れることはできない」
 風を切って雅が天狗に迫った。炎に吹きくるまれる寸前、天狗が跳び退ったことを彼は見抜いたのだ。
 雅は神々しき煌く巨槍を繰り出した。それは稲妻の速さで疾り、天狗の身を穿った。
 すると天狗はその衝撃を利用し、再び距離を取った。かなりのダメージを与えているはずだが、いまだその動きに衰えはないようだ。
「まだあれほど動けるのか。厄介な敵だ……だがやるしかない」
 影士の周囲の空間に炎が巻き起こった。それを掌に収束させ、彼は紅蓮のーに燃え上がる炎剣をかたちづくった。
「いくぞ」
 その声の響きが消えぬ間に、影士は天狗に肉薄した。炎のまとわせた他方の拳を叩きつける。
「技比べをしてる訳じゃない。卑怯とは言わないよな」
 影士はいった。この戦いに勝つこと以上に重要なことはない。
 爆発。そうとしか思えぬ衝撃がばらまかれた。天狗が錫杖で影士の拳を受け止めたのてある。本来ならその衝撃で敵は吹き飛ぶはずだが――。
 逆に天狗の錫杖が翻った。ほぼ同時、影士は炎剣を薙ぎおろした。
 ぎぃん。
 炎が散った。同時に影士と天狗は跳んで離れた。ほっと影士は感嘆の声をもらしている。彼の必殺業である紅牙剣を防いだ相手は初めてだ。さすがは棒術の達人たる天狗というべきか。
 が、今の瞬間時の攻防に、天狗はなけなしの戦力を費やしていた。故にこそ天狗は跳んだ。飛鳥のように空を翔けるとケルベロスの真っ只中に降り立つ。その手の錫杖が風車のように旋回した。一気にケルベロスたちを薙ぎ払うつもりだ。錫杖にまとわりつく風が旋風と化した。エメラルドに刃圏が迫る。
 咄嗟にエメラルドはライトニングロッドをかまえた。が、天狗は錫杖で難なく打ち払った。のみならず加速度をせた錫杖の一撃を叩き込む。
「あっ」
 血まみれの肉塊と化してエメラルドが吹き飛ばされた。が、その背後にマユが迫っている。この瞬間をこそ彼女は狙っていたのだった。
「手前はここで終わるんだよ。逃がしゃしねえ!」
 死の天使のようにマユは巨斧を天狗の顔に叩きつけた。さすがの天狗も攻撃態勢にあっては躱しきれず、巨斧の一撃によろけた。その口からは瘴気まじりの血反吐が噴出している。
「顔が赤いから怒ってんのかどうか分かんねえや、ははっ! モザイクが鼻じゃなくて良かったな」
 高らかに笑う楽雲の手足に光が凝縮した。それは彼の妖力により視覚化できるほど高密度化された食欲熱量だ。
「さあ、鬼ごっこは終われりだぜ」
 楽雲は光珠を放った。それは小太陽ともいえるほどの超高圧エネルギ体である。地を削り、触れるものみな不分解しつつ、破壊珠は疾った。
 呆然としていた天狗であるが、すぐさま立ち直り、咄嗟に錫杖で光珠を払った。これが拙かった。爆発する光に天狗が飲み込まれる。
 世界が白く染まった。爆風が辺りを席巻する。
 やがて世界に色彩がもどった。爆煙が晴れる。後には消し炭と化した天狗が仁王立ちしていた。
 次の瞬間か、天狗の姿は崩れ去った。風に散らされたように。いや、風と化したかのように。
 そして風が一陣、翔けた。どこかの空にむかって。


 ややあってエメラルドたちは被害者である若者を探し出した。飯岡正樹だ。
 夢から覚めたように正樹は呆然と立ち上がった。何があったのか良くわからない。
 事情を説明すると、エメラルドはいった。
「今回は私達が居たから良いものを、危険に態々足を踏み入れようとするのは感心しないな。好奇心は否定しないが、今度からは安全を確保して調査する事。良いな?」
「それに」
 月音がからかうように艶笑した。
「そんなに危険な事が好きならわざわざ探さなくても、女という存在は充分に危険なのよ。それを教えてあげた方がいいかしら?」
 妖しい光を目にため。月音はちろりと唇を濡れた舌で舐めた。正樹が身震する。
 天狗より、なお恐ろしい妖怪がここに、いた。

 正樹たちに背をむけ、孤影寂として東西南北は佇んでいた。
「飯岡正樹。あなたは帰るところがあるからいい。けれどボクは焦土化した八王子にはまだ帰れない」
 高尾山には今もまだ天狗がいるのだろうか。
 いつの日にか帰る。その思いを瞳にやどし、東西南北は遠く暗い夜空を見上げた。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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