●かわいそうなしゃちく
街はハロウィン一色。ハロウィンパーティーを前に楽しげな人々でごった返し、店も繁盛している。
「……いいねえ、パーティーとか出来る暇な連中は……」
コンビニ袋を手に下げたスーツ姿の男が恨めしそうに、浮かれる彼らを見ていた。
男はとあるシステム開発会社に勤めている。納期が近いのに全く進んでいないシステムの開発に関わっていて、家にも帰れず、外に出られる時といえば食事を買いにコンビニへ行く時くらいだ。
ハロウィンパーティーなど夢のまた夢である。
「くそぉ。俺だって帰って娘とハロウィンやりたいよ! 俺の娘まだ三歳だぞ! かわいい盛りなのに……帰れねえ……畜生ぉ」
と男がとうとう目頭を押さえた時、目の前に赤い頭巾を被った少女が現れた。
少女はおもむろに男の心臓を鍵で突く。
呆然としている男に、少女は告げた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
少女が立ち去った直後、男は声も上げずに崩れ落ちた。彼の隣には黒いマントを羽織った全身がモザイクになっている人間が佇んでいた――。
●フライングハロウィンパーティー
「えらいこっちゃでー」
ヘリオライダーの香久山・いかるは、ドリームイーターの暗躍の予感を告げる。
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたんやけど、ハロウィンパーティーの当日に、ドリームイーターが一斉に動き出すみたいなんや」
ドリームイーターは全て、ハロウィンの祭りに劣等感を抱いていた者から生まれるらしい。
「ハロウィンのせいで生まれたから、このドリームイーターを『ハロウィンドリームイーター』って呼ぶわな。そのハロウィンドリームイーターが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場なんや」
「……どこだ、そりゃ」
アーヴィン・シュナイド(地球人のブレイズキャリバー・en0016)が首を傾げると、よくぞ聞いてくれたとばかりに、いかるは指を突き出す。
「鎌倉のハロウィンパーティー会場や!!」
ドリームイーターが暴れては、ハロウィンパーティーは開催できない。
つまり、ケルベロスは本物のハロウィンパーティーが始まる前に、ハロウィンドリームイーターを倒す必要があるのだ。
ハロウィンドリームイーターは、ハロウィンパーティー開始と同時に現れる。
「せやけど、ハロウィンパーティー始まる前に倒してしまいたいねん。せやから、ホンマモンが始まるより早く、ハロウィンパーティーが始まったように見せかけて、ハロウィンドリームイーターを誘き出すんや!!」
つまり、さもハロウィンパーティーを楽しんでいるかのようにケルベロスが振る舞っていれば、ハロウィンドリームイーターは現れるのだという。
「……つまり?」
アーヴィンは眉根を寄せた。
いかるは、楽しげに猫耳をひくつかせ、尻尾をピンと立てた。
「せやなぁ、とりあえず楽しい雰囲気を作るんや。仮装でワイワイ騒ぐとか、お菓子ばらまくとか……とにかく『おっ、ハロウィン始まっとるやないか』と思わせるんや」
やってくると予想されるハロウィンドリームイーターは、吸血鬼の仮装をした全身モザイクの人間型である。モザイクを飛ばして様々な妨害効果のある攻撃をしてくるだろう。
「とにかく、みんなハロウィン楽しみにしてるから、邪魔はさっさと片付けようやないか。ハロウィンドリームイーター退治、頼んだで! 頑張ってや!」
いかるは弾んだ声でケルベロスを激励する。
そして、渋い顔のアーヴィンの肩を掴み、他のケルベロスに満面の笑みでいかるは告げた。
「皆、この堅物サンも楽しくなるように助けたってや~」
参加者 | |
---|---|
福富・ユタカ(橙陽・e00109) |
アシュリー・ウィルクス(幻異・e00224) |
シグリット・グレイス(夕闇・e01375) |
ハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897) |
シロン・バルザック(トゥインクル・e02083) |
ライラ・アホライネン(爆弾一筋・e09449) |
ルテリス・クリスティ(時護りの礎・e13440) |
エンヤ・レーガン(夜中まで起きて昼まで寝る・e14521) |
●仕込みは上々
鼻歌交じりにハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)は、公園にキープアウトテープを張り巡らせている。町中によくあるタイプの緑化公園をぐるりと囲んだハチは、ふーっと達成感に息を吐いた。
「これで巻き込まれる人はいないっスな!」
公園では何人ものケルベロス達が、ハロウィンを先取りするパーティー準備の真っ最中だ。ケルベロスがウロウロしているところに、わざわざ入ってこようとする者はおらず、テープ張りは何事も無く完了した。
「うっし、次はパーティーの中身の準備っス!」
囮作戦とはいえ、楽しいパーティーの予感に、ハチの足取りは軽い。
公園の中心部では、ライラ・アホライネン(爆弾一筋・e09449)が、持参した簡易テーブルや折りたたみ椅子にハロウィン柄の可愛いマスキングテープでデコレーションをしている。
「ジャパニーズ・ホームセンター、ムテキですネ!」
とご満悦のライラ、彼女の背中のコウモリ翼もマスキングテープも、一切合切『ジャパニーズ・ホームセンター』で購入してきたらしい。
飾り付けの手伝いなら任せろー! ばりばりー! とばかりに、エンヤ・レーガン(夜中まで起きて昼まで寝る・e14521)は、色とりどりの折り紙を細長く切っては輪っかにして、鎖のようにつなげていた。
「もしかして小学生以来じゃね、こういうの。懐かしー」
せっせとエンヤが長くした折り紙の鎖を、アーヴィン・シュナイド(地球人のブレイズキャリバー・en0016)が受け取っては木々や遊具などの高いところに飾っていく。
アーヴィンの反対側では、ルテリス・クリスティ(時護りの礎・e13440)が、アシュリー・ウィルクス(幻異・e00224)の手も借りつつ、たくさんのお化けカボチャランタンや棺桶、蜘蛛の巣等で、本格的なハロウィンの装飾を施していた。
ミリム・ウィアテストも、紙細工のコウモリやオバケで興を添える。
さて、ライラの手ですっかりハロウィン仕様になった簡易テーブルには、シグリット・グレイス(夕闇・e01375)は南瓜パイを並べていた。
パイの隣には、スプーキー・ドリズルが差し入れた南瓜のスープの鍋が湯気を立てている。
加えて、ロゼ・アウランジェが持参した、ハロウィンの伝承をテーマにしたアイシングクッキーやデコレーションカップケーキが、テーブルを彩る。
「お、美味しそうニャ……!!」
白い猫耳をヒクつかせ、同じく白い猫しっぽをゆらゆら揺らし、シロン・バルザック(トゥインクル・e02083)は、テーブルに並ぶ豪華なお菓子に目を輝かせている。
ちなみに、立派な黒マントを引きずるほどに幼い吸血鬼の格好のシロン、手にはバスケットで、トリック・オア・トリートの準備は万全だ。彼のサーヴァントであるボクスドラゴンのメテオも、三角帽子とマントで愛らしい魔法使いの格好で決めている。
シロンのバスケットに気づいたシグリットが、目玉キャンディをバスケットに入れてやる。
「おっ。美味しそうな菓子がいっぱいっスね! 自分もクッキー焼いてきたっス!」
ハチが取り出したるは――炭であった。
「うっ……すごくヤバいにおいがするニャ……」
シロンは思わずバスケットを後ろ手に隠し、後ずさった。
「何故か限りなく真っ黒っスがギリギリ食べられなくもないっス! さあシグリット! 遠慮なく食べるっス!」
お菓子作りも修行のひとつっス! と豪語するハチだが、残念ながら菓子作りはまだまだ修行の身のようである。
「…………ハチ、お前の作るものはいつも個性的な味だな」
ハチに言われるとどうも断れないシグリット、炭(と書いてクッキーと読みたい)を口に入れ、凄まじい味に目眩を感じてふらついた。
●何着る?
「ふふー。先取りパーティーの準備、完了みたいでござるな」
と言いながら、南瓜の被り物をかぶった福富・ユタカ(橙陽・e00109)がやってくる。
「すごい格好だな」
アーヴィンがユタカに声をかけると、
「アーヴィン殿が良ければ、一緒に被るでござ? これも立派な仮装でござー」
とユタカは朗らかに返した。
「そ、れは……ちょっと」
「じゃあ、アーヴィンは仮装どうする?」
アーヴィンの背後から、エンヤが尋ねる。いつのまにかエンヤは、シーツを被って、オーソドックスな白いオバケの姿に変わっている。
「アーヴィンもシーツオバケするか?」
ずいっと白いシーツをエンヤに差し出され、アーヴィンは救いを求めるように周囲を見回した。デウスエクス憎しで硬派に生きてきたアーヴィンは、あまりこういうパーティーのような楽しい格好に慣れていないのだ。
コウモリ姿のライラに、吸血鬼のシロン、シーツオバケのエンヤ、カボチャ頭のユタカだけでなく、他のケルベロスも思い思いの仮装をしていた。
アシュリーは魔女の仮装、シグリットはハートのモチーフを身に着けた女王の姿で、ハチは紅白の衣服に身を包む騎士。
ルテリスはゴシックパンクな帽子屋の格好だし、妹のロゼは同じテイストのエプロンドレスでおめかししている。
手伝いに来た時神・綾も吸血鬼の格好、スプーキーはドラゴニアンの角と翼と尻尾に燕尾服とシックにまとめていた。
「さあさあ、アーヴィンさんもセッティングだよ! メイクも必要ならしてあげる」
アーヴィンに有無を言わせず、ミリムは満面の笑みで大きな姿見を彼の前に設置した。
「自分はミイラ男を推すっス!」
とハチが言うと、それをきっかけに仲間たちが口々におすすめ仮装を提案していく。
「ミスター・シュナイドには狼男がイイと思いマース!」
ホームセンターのパーティーグッズ売り場で確保してきたらしい衣装一式を掲げ、ライラが言う。
「フランケンとかどうだろう?」
南瓜と黒薔薇をあしらった格好いい帽子をかぶるルテリスは、アーヴィンにフランケンシュタインの怪物をおすすめする。
「あ、いや、その……」
おたつくアーヴィンに、エンヤの一言が炸裂した。
「何ならいろいろ混ぜて変な仮装するかー?」
――なるほど!
「な、ちょ、うわあーっ!?」
ミリムをはじめとするケルベロスは寄ってたかってアーヴィンにおすすめ仮装を施していくのだった。
「とてもよく似合うよ。……良い記念じゃないか」
スプーキーが、出来上がったアーヴィンの仮装を褒める。その声はまるで、友人と仲良く遊ぶ息子を見守る父親のように慈愛に満ちていた。
「そ……うか?」
ところどころ包帯を巻きつけた継ぎ接ぎだらけの体に、狼耳の生えている南瓜を被って、シーツをマントにしている……一言では説明しがたい格好になってしまったアーヴィンは、釈然としない様子である。
「ハッ! 折角仮装したし写真も撮りたいっス!」
とハチがスマートフォンを取り出す。
「あ、では拙者がカメラ係をやるでござー」
とユタカが手を差し出すも、
「大丈夫デース! 自撮り棒がありマスヨ! こういうのは皆で撮るベキデース!」
とライラに被写体側へと引っ張りこまれた。
「えっ!? 拙者も入るのかっ!? うわっ……!」
「当然デース! さあ、ミスター・シュナイドも一緒に入りマショウ! 拒否権はないデスヨ!」
「っ!?」
とライラはアーヴィンも引っ張り込み、全員が写真に収まった。
「さあ、写真も撮ったところで、パーティーを始めようじゃないか」
ルテリスがパーティーの開幕を宣言すると、ロゼが笑顔で皆の前に立つ。
「ハッピーハロウィン♪ トリックオアトリート! 皆で歌って踊ってお菓子を食べて、素敵な一日にしましょう!」
そう言うと、シグリットがクラッカーを鳴らす。それを合図に、ロゼは美しい歌声を公園に響かせ始めた。
彼女の歌に、兄も交じる。
和気藹々と楽しいパーティーが始まった。
ならば、楽しい空間を羨む心から生まれたドリームイーターが現れるのも必然――。
「来たね……」
南瓜パイを食べていたアシュリーは、敵の接近に気づき、パイの紙皿とプラスチックフォークをテーブルに置く。
「トリックオアトリート、モザイク吸血鬼、一名ご案内」
ルテリスはニコヤカに両手を広げると、優雅に片手を胸に当てて、腰を折る礼をとる。
ケルベロス達は、一様に吸血鬼姿のモザイク人間に対峙した。
●わびしい心よ左様なら
先手必勝とばかりに、アシュリーは闇色の尻尾でモザイク人間をなぎ払う。
「パーティーを邪魔なんてさせないよ」
たたらを踏んだドリームイーターが、夢を喰らおうとモザイクをアシュリーめがけて飛ばすも、彼女のサーヴァント『ボックス』が主人を庇った。
「いないいない、ばぁ」
前髪で隠していたユタカの瞳が太陽色に輝き、ドリームイーターを竦ませた。
「やれやれ。俺に女王をさせるということは、ちゃんと守ってくれるんだろうな騎士さま?」
などと嘯きながら、シグリットは人ならざる者を呪う銀弾を放ち、モザイク人間を射抜く。
「当然っス! さあ、パーティーはここからが本番っスよ!」
大きく頷くと、ハチは斬霊刀を地面に水平に構え、デウスエクスへと殺到した。
シロンが薬液の雨を前衛たちに降らせる。ふらついていたボックスが、雨を浴びるなり、正気に戻ったかのように、鳥足めいた足でぴょんと小さく跳ねた。
メテオがブレスを吐いて、モザイク人間の行動を縛る力を強める。
「いやー便利だよな、これ。僕自身が動かなくていいってのが」
手に装備した攻性植物から、蔓草を伸ばしてドリームイーターを巻き取っているが、エンヤはパーティーの椅子から動いていない。
彼女のサーヴァントは、ガブガブと身動きが取れていない敵を一生懸命かじっている。
「知ってマスヨ。こういうの『ブラックキギョー』って言うンデスヨネ? アイコトバは『二十四時間戦えマスカ?』でしたッケ?」
ドリームイーターの元になった人間の事情を事前に聞いていたライラは、あやふやな知識を披露しつつ、猫パンチ……というには重たすぎる一撃を放ったが、すんでのところで避けられてしまった。
それを聞いたエンヤ、
「……三歳の娘……僕が今二十五歳だから、二十二歳の時に産ま……うっ……今産んだとして三歳になる頃には僕は……うっ……そもそも僕はまだ結婚してな……うっ。そして社畜……土曜も祝日もない……毎日残業……たまの休みに上司や同僚に食事に誘われ……うっ……責任だけ押し付けられ、手柄はみんなのもの……うっ……」
なんだか自宅警備員としては考えたくないことを想像してしまったらしい。どよ~んと頭を抱えてしまった。
その横を、アーヴィンの鉄塊剣によって生みだされた旋風が通り過ぎる。
「はっ、いけない。僕自身が闇に飲まれるところだった」
エンヤが既のところで戻ってこれたようで一安心である。
アシュリーの胴に巻いていた禍々しい漆黒のスライムが、ぐにょりと悪夢のように広がり、ドリームイーターを捕らえる。
無防備なデウスエクスの真正面に、ルテリスは笑顔で立った。
そしてルテリスは朗々と、『時の礎』という詩を唱う。
「……遥かな星の調べ 愛し恋し時護り。編みて紡ぎて責務を繋ぎ、唄い語りて永遠を断つ――さぁ、そろそろおやすみの時間だよ?」
時空の伝承によって召喚された聖なる泉の水が、ルテリスの頭上から鋭角にドリームイーターを切り裂いていった。聖水はデウスエクスを飲み込み、妬みを洗い流すと、モザイクを美しい水泡に変え、キラキラと陽の光を反射しながら、時の流れのように儚く消えていった――。
●本番の前にちょっとお楽しみ
夢から覚めたように、跡形もなく消えていったドリームイーターを見届け、アシュリーは一同に向き直る。
「じゃ、問題も無事解決したし、皆で楽しもうよ!」
「にんにん! お菓子を配っていくでござるね!」
ユタカがわくわくと、テーブルの上で配布できそうなお菓子を手に取っていく。
「せっかく外に出たし、楽しまなきゃ損だ!」
という言葉を残して、エンヤは一足先に公園を飛び出していった。
「そうだな。パーティーは楽しんでこそ、だ」
シグリットはエンヤの言葉に頷くと、配布用の加護を手に取り、街へと歩きだす。
「女王様ー、自分も甘い物ほしいっスー」
と言いながら、ハチが後を追いかけていく。
「楽しければそれでいいと思うニャー。ハッピーハロウィーンニャ!」
元気な声で、ハロウィンを祝いながらも、シロンは街のどこかに居るであろう、ドリームイーターの元となった哀れな父親を探していた。彼に出会えたら、『ケルベロスから』としてお菓子の籠をサプライズしてあげたいのである。
「あ、その籠に、ミーがレクトしたカワイイ縫いぐるみも入れてクダサーイ。オジョーサン喜ぶと思うのデス」
ライラが可愛いマスコットを、シロンの籠に加える。
「喜んでくれるかニャ?」
とシロンが言うと、ルテリスは美しく微笑んだ。
「きっとね。当日でなくとも父に祝われれば子は喜ぶよ。心は伝わるものさ」
街の人達が、ケルベロスのサプライズトリートに歓声をあげる。
街中がハロウィンパーティーを先取りし、幸せな空気に包まれていった。
作者:あき缶 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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