「あなた達に使命を与えます。この街に『レジンクラフト』のハンドメイドクリエイターが居るようです。その人間と接触し、その仕事内容を確認。可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「りょーかいだよ! ミス・バタフライ♪ でも……その、れじんくらふと? って、なぁに?」
「簡単に言えば、樹脂を使った細工物、の事だ……承知致しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの任務も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるでしょう」
「ええ、その通りよ。キシル、エポン、2人共しっかり励みなさい」
螺旋の仮面を着けたマジシャン風の女――ミス・バタフライの前に跪く螺旋忍軍2体。片や堅苦しい雰囲気の青年はフィドルを携え、もう一方の道化師の少年は無邪気そうに小首を傾げる。
「ねぇねぇ、キシル兄。じゅし、ってなぁに?」
「後で、説明してやる……では、ミス・バタフライ、御前失礼致します」
「がんばってくるねー♪」
溜息を吐くキシルに対して、エポンはあくまでも屈託ない。螺旋の仮面を被った彼らは、一陣の風と共に姿を消す。
ミス・バタフライも同じく――無人となった路地裏は蝶の幻が煌くや、すぐ夏の夜闇に沈んだ。
「一口にレジンと言っても、色々とあるのだな」
「レジンクラフト自体は40年以上前から親しまれているそうですので。この頃は手軽に始められる素材も増えて、ブームにもなっているようですね」
興味深そうにタブレット画面を眺めるシャドウエルフの少年と肩を並べ、徐に集まったケルベロス達を見回す都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう。奈良平野での動向が注目される螺旋忍軍ですが、本件はミス・バタフライの案件となります」
ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大事では無い。しかし、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという、ある意味、厄介な事案となる。
「今回狙われたのは、京都在住のハンドメイドクリエイターです。町家で『レジンクラフト』の工房兼教室を開いています」
「レジンクラフトには、オレも前から興味はあったが……案の定、だな」
長い銀髪を揺らし、不敵に翠眼を細めるヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266) 。
「ヴォルフさんの懸念が、私の案件にヒットしましたので、皆さんに集まって戴いた次第です」
ハンドメイドクリエイターの名前は、蔵本・楓子(くらもと・ふうこ)。京都の町家を改造した工房でレジンクラフトの小物やアクセサリーを創作、販売しており、教室も開いている。
「レジンクラフトとは、透明な合成樹脂の液体にフレーム、ビーズ、チャーム、シート等を組み合わせてアクセサリーを製作するクラフトです」
元々は「主剤」と「硬化剤」を混ぜ合わせる事で透明に固まる素材が主流だったが、紫外線の照射によって硬化するUVレジンの普及によって、手軽に工作を楽しめるようになったという。
「標的の蔵本さんは、細やかなアクセサリーチャームが得意で、特に『和』を題材にした作品が多いようですね」
ミス・バタフライの命を受けた螺旋忍軍は、珍しい職業の一般人の所に現れて、その仕事の情報を得たり、或いは、習得した後に殺そうとする。
「この事件を阻止しないと、謂わば『風が吹けば桶屋が儲かる』そのままに、ケルベロスの皆さんが不利な状況に陥ってしまう可能性が高いのです」
勿論、デウスエクスに殺される一般人を見逃す事は出来ないだろう。
「皆さんには、蔵本さんの保護とミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破をお願いします」
基本はターゲットの蔵本・楓子を警護し、現れた螺旋忍軍と戦う事になるが、事前に避難させると敵も標的を変えてしまう。
「蔵本さんには、事件の3日前から接触が可能です。事情を話して技術を教えて貰えば、螺旋忍軍の狙いを皆さんに変えさせる事が出来るかもしれません」
囮になるには、見習い程度の力量を要する。短期間で技術を学ぼうとするならば、相応に努力しなければならないだろう。
「まあ、『見習い程度』の腕前ではありますから、全てを完璧に習得する必要はありません。何かレジンクラフトを1つ、完成させれば十分です。皆さんで合作するのも良いかもしれませんね」
如何に魅力あるレジンクラフトを作ろうとするかが重要だろう。
「囮になる事に成功すれば、訪ねて来た螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が出来ます」
配下の螺旋忍軍2体を分断したり、一方的な先制攻撃などが可能となる。
「デウスエクスにも、ケルベロスと同じく『眼力』はありますが……一芸に秀でた一般人も似たようなものと思い、特に怪しまずに接触してきますので、眼力で見破られる心配はありません」
螺旋忍軍は、歳離れた兄弟という風情。20代と思しき兄はフィドルを携えた楽士、10歳くらいの少年は道化師の格好をしている。
「楽士の青年はバイオレンスギター、道化師の少年は降魔拳士に似たグラビティを使うようです」
楓子の工房は京町家を改造している為、裏庭の方が戦い易いだろう。
「『バタフライエフェクト』か……ミス・バタフライも、性懲りもなく」
苦々しげに吐き捨てるヴィンセント。創は微苦笑を浮かべたようだ。
「彼女の狙いが何にせよ、『発端』の時点で阻止すれば、それ以上の問題は起こりません」
やる事はいつもと変わりない。螺旋忍軍を倒して狙われた人を助ければ良い。
「そろそろ夏本番ですね。今年も猛暑のようですが、レジンクラフトなら涼しげなアクセサリーも作れそうです。折角ですから、『夏』に因んだ作品に挑戦してみては如何でしょうか? 皆さんのご健闘を祈っています」
参加者 | |
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リシティア・ローランド(異界図書館・e00054) |
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186) |
柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681) |
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614) |
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392) |
東雲・黎(昧爽の青・e25224) |
●レジンクラフト工房『透和』
伝統的な京町家並ぶ界隈。この先の路地に、目的のレジンクラフト工房が在る。
レジンクラフト――レジンキャストとも呼ばれる「樹脂」で様々な物を固める工作だ。手軽にアクセサリーや小物が作れるので、特に女性に人気という。
「レジンてキレイだね! 見てるだけでも楽しいよー!」
歓声を上げるゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)。歩きながらネット画像を気軽に閲覧出来るのは、レプリカントの特権だ。
「どうすれば、こんなに綺麗に仕上がるのかな?」
レジンクラフトには馴染みのあるティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)も、基本からしっかり学ぶ機会は嬉しい。ゼロアリエのウイングキャット、リューズを抱き、足取りも浮き浮きと。
「上手くいくコツ、絶対掴みたいな」
「レジンクラフト、ね……」
気のない表情で、リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)はレジンクラフトの書籍に目を落とす。本を見る眼差しは、仄かに熱を帯びている。
「手先は器用な方よ、やるからには全力を尽くすわ」
「普段は立場柄、壊す役目が多いけど……何かを作るのも楽しそうだね」
穏やかに微笑む東雲・黎(昧爽の青・e25224)。捩れた青い角が白髪に映えて人目を引く。
「僕もそこまで不器用じゃない筈だし、頑張ってみようかな」
「素敵なレジン作家さんの命を狙うなんて、許せません!」
必ず守る。人の命も、素晴らしい文化も――チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)の言葉に否やはなかろうが。
「……」
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)は上の空か。
「ヴィンセント兄様?」
「……作品は、しっかり仕上げる」
上の空の理由は、輝島・華(夢見花・e11960)も判っている。何より大切な『宝物』が行方知れずとなれば――だが、淡々とした応えは頼もしい。この一件とて、ヴィンセントが懸念した事案だ。蝶の謀も見過せない。
レジンクラフト工房『透和』――工房の主、蔵本・楓子が今回のミス・バタフライの標的。3日後、手下の螺旋忍軍がやって来る。
(「相手の技術を盗むだけでなく殺すなんて、酷い事を……何としても止めないと、です」)
引戸の前で気を引き締め、柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)は呼び鈴を押した。
「わ、私が……?」
ヴィンセントから事情を聞かされ、蔵本・楓子の双眸が忙しなく瞬く。
「大丈夫! 俺達が絶対守るからさ!」
「私達が囮になれば、1番安全ですけど……その為に、暫く修業させて戴けませんか?」
ニコニコと人懐こく請合うゼロアリエ。対照的にティスキィは、年上の女性相手に言葉遣いも丁寧になる。
「貴方を守りたいですし、レジンについても詳しく知りたいです。どうか技術指導お願い致します」
薄紫の髪を揺らし、華はペコリと頭を下げる。リトルレディの仕草に、楓子は表情を漸く和らげる。
「判りました。宜しくお願いします」
(「ラブフェロモンは……不要かな」)
黙って成り行きを見ていた黎は、静かに金の双眸を伏せた。
●レジンの第1歩
「レジンクラフトは初めてですか?」
楓子の口調は、真面目な教師を思わせた。
「私は経験者ですけど……基本からきちんと学びたい、です」
ティスキィの言葉に頷き、楓子はボトルを幾つか並べた。
「クラフトに使うレジンは、主に2種類。UVレジンとエポキシレジンです」
違いは、レジンを硬化させる方法だ。
「UVレジンはその名の通り、紫外線が固めます」
日光でも固まるが、夜の作業が出来ない故に、楓子はUVライトを使っている。
「エポキシレジンは、レジン液と硬化剤で1セット。2つを合わせて固めます。混合の割合は正確に。でないと失敗します。後は、自然乾燥で……固まりきるまで最低24時間は」
「そんなに長く……UVレジンの方がお手軽ですのね」
チェレスタの感想に、楓子は暫し考え込む。
「期間は3日、でしたね……時間もありませんし、皆さんにはUVレジンをお勧めします。でも、エポキシレジンは透明感ある仕上がりが魅力です。慣れたら是非挑戦してみて下さい」
楓子の作品が、幾つか見本として並ぶ。モチーフや柄に「和」を取り入れ、ピアスやストラップの他に簪や根付も。
「まあ、素敵」
感嘆の溜息を吐くチェレスタ。自分もと思うが、和風のデザインはさてどうするか。
「レジン液に触る時は、必ずゴム手袋をして下さい。眼鏡とマスクも」
(「出来栄えも、色合いを長く保つのも、レジンの品質が重要……ここは、良いものが、揃っていそうだ」)
注意事項を聞きながら、ぼんやりと房内を見回すヴィンセント。教室を開き作品を販売する程だ。材料や道具にも拘りがあるだろう。
特に楓子の机は、職人特有のストイックさも窺える。既にレジンクラフトに親しむティスキィにも、学ぶ所は多そうだ。
「私、は……キューブ型の水中に、赤い金魚を泳がせて、涼しい世界を作りたい、な。ゼロは?」
「猫型フレームの簪に挑戦してみるよ! キィの髪を飾るんだ……もうちょっと勉強してからね」
一方、ゼロアリエは道具を見るのも初めて。1つ1つの使い方を質問しては、メモに余念が無い。
「習うより慣れよ。まず挑戦してみましょう」
興味津々で、材料を収めた引き出しを覗く結衣。
台座となるミール皿や空枠、シリコンモールドは形も大きさも様々。アクセサリーパーツも揃っている。
「……」
リシティアが眺めるのは、レジンに封入するモチーフ。メタルパーツやビーズ、フィルムシートとこちらも種類豊富。やはり和物が多い。
「夏っぽくて、涼しくて……」
イメージを呟き、リシティアは円型のミール皿やビーズ、小さな金魚のモチーフを選んでいく。
「夏に因んだ作品、ですか……」
ヘリオライダーの言葉を思い出し、華が描くデザインは夜空に咲く色とりどりの花火。
「へぇ、夏らしいね」
「去年、友達のお姉様方と花火を観に行ったんです。とても綺麗で……素敵な思い出になりました」
可愛い義妹より年上だけど、碧眼を輝かせて話す華も微笑ましい。思わず唇を緩め、黎もデザイン画に目を落とす。
(「水色からピンク掛かった紫へのグラデーション……夕焼け空の色がイメージだけど、花火模様を仕込んでも良いかも」)
蓮花色の黄昏月――金雲の掛かった月のフレームの中に、色鉛筆で描き加えた。
●試行錯誤
レジンや道具の使い方の基礎を学んだ1日目――2日目以降は反復練習で、細かなコツはその度に実践だ。
「水の中にいる感じを出すには、何層かに分けた方がいいでしょうか?」
「ホログラムシートを敷いたり、ラメをレジンに混ぜても水の揺らめきが表現出来ますよ」
夏らしく涼しげな作品をと、結衣も水中に泳ぐ金魚をイメージした。色々試すのが楽しい。
(「モチーフはバランスよく、すっきりと……配置を少し変えるだけで、全く違う印象になりますね。水はレジンを青く着色してみましょうか」)
青の着色パウダーの瓶を取る結衣。クリアファイル等、平らな場所に薄くレジン液を伸ばし、着色剤を混ぜるのが着色のコツだ。
「……」
リシティアは黙々とピンセットを動かす。円型のミール皿に、ビーズと小型の金魚を散りばめて――泳ぐ金魚の躍動感を出すには配置が重要。1つ1つ、熟考してモチーフを置く。
「あ……」
封入物をより大きく見せるレンズのようにプックリ膨らんだ形が、中々難しい。何度もやり直し、皿からレジン液が溢れぬよう慎重に注いでいく。
チェレスタの作品は、星空をモチーフにした球体のペンダントトップ。夫と結婚前にデートした夜の海辺がイメージだ。
「天に星明り、地に白い砂、さざめく波の音が聞こえて……そんな思い出の風景を閉じ込めてみたいなって」
「星のラメを蓄光パウダーに変えても綺麗かもしれません」
混ぜるパウダー量の見極めや、硬化不良とならないよう何層にも分けてUVライトに当てるなど難易度も上がるが、暗闇で光る幻想的な作品になるだろう。
「何だか……べたべたする」
出来立てを手に首を傾げる黎。月型に花火模様の上から夕焼けの色を重ね、金箔やラメ、和風の花ビーズや金魚のモチーフを泳がせる、中々凝った作り。UVライトから嬉々として取り出したものの……触っている内に、表面に指紋が付いてしまった。
「急いては事を仕損じる、ですよ」
ベースのレジン液を厚塗りすると、底の方までUVライトが届かない場合がある。薄い層を幾つも重ね、じっくりライトを当てて固めるのが基本だ。
「判った、気を付ける」
楓子の教示に素直に頷き、やり直し。
「喜んでくれる顔を想像すると、それだけでやる気が上がるよ」
月も夕暮れも花も可愛い義妹のイメージ――彼女へのお土産の為、頑張っている。
レジンクラフトには換気も大事。楓子は定期的に窓を開ける。通り庭、続き間、坪庭を吹き抜ける風は気持ち良いが、細かなパーツも飛んでしまう。換気中は休憩時間だ。
「うーん……」
唸り声を上げるゼロアリエ。赤い和紙を猫型に敷き、首輪の飾りのように小花をあしらうアイデアは悪くないが……レジン液が和紙に染み込んで、どうしても色が暗くなってしまうのだ。
一方、ティスキィも困り顔。キューブ型のシリコンモールドには、赤い金魚が泳ぎ小さな向日葵が咲く。
「駄目、だよ。この金魚は、食べられないの」
突っつこうとしたリューズを、ティスキィは慌てて止める。その振動で金魚がゆらゆらと――つまり、レジン液が固まっていない。
「ずっとUVライトに当ててるよね?」
「うん……」
頭を抱える2人の前に新しい材料が並べられる。
「ハートさん、レジンは一手間が大事です」
ゼロアリエには木工用ボンドを。ミール皿に背景の紙を直接貼り付け、紙の上からも均等にボンドを塗り付け乾燥させる。要は先にコーティングするのだ。
「イェルさんは……エポキシレジンで再挑戦しましょうか」
分厚い作品はどうしてもUVライトが照射し難い。一方、エポキシレジンは化学反応で硬化するので、埃が入らない状態で安置すれば良い。
「主剤と硬化剤の配合比率はシビアですが……貴女なら大丈夫と思います」
完全に固まるまで夏でも丸1日掛かるが、まだ時間は余裕がある。
「ヴィンセント兄様?」
「……あ、ごめん。何?」
だが、ボンヤリしていては時間が勿体無い。華の心配そうな声に、ヴィンセントはハッと翠眼を瞬く。
「兄様はどんな作品を作るおつもりですか?」
華の作品は花火の思い出。ふと、気泡に気が付き眉を顰める。教えの通り、エンボスヒーターの熱風を当てると、気泡がプチプチッと消える瞬間が爽快だ。
「オレも……桜との夏の思い出を閉じ込めた」
ヴィンセントの思い出は去年は海蛍、今年は蛍――貝殻のフレームに漂う海蛍は蓄光パウダーを混ぜて。花のフレームの蛍灯はビーズで表現した。後は、涼しげな青いチャームと連ね、簪に仕上げる。
「来年も、きらめきを見付けに行きたい……一緒、に」
「大丈夫です。桜姉様が帰ってきたら、又思い出作りましょうね」
一手間で仕上がりも格段に違うレジンクラフト。少しずつ工程を増やしながら、ケルベロス達は試行錯誤を繰り返す。
●螺旋の兄弟
3日間の修業の末、ケルベロス達は(一部徹夜を経て)、作品を完成。努力の結晶は楓子も称賛した。
「自然観察を作品作りに活かしましょう」
果たして、螺旋忍軍を囮が迎え、題材探しと称して裏庭へ――結衣と華のライトニングボルトが、ヴィンセントのドラゴニックミラージュが、暑気を裂いて楽士に突き刺さった。
「キシル兄!」
驚く道化少年に爆ぜるティスキィのサイコフォース。礫を早撃ちしたリシティアが冷ややかに言い放つ。
「自らの正体が白日の下に曝された気分はどうかしら? そのまま、真っ二つよ?」
チェレスタが後衛3人にライトニングウォールを編み、黎が前衛に紙兵を撒く。ゼロアリエのメタリックバーストと同時にリューズも祝福の翼を広げた。
「……問題ない、エポン」
悔しげに歯噛みしながら、それでも強がりを呟き、キシルは勇壮な調べを奏でる。戦意が昂揚したか、エポンは勝気な表情でケルベロスらを睨む。
「まけないぞーっ!」
「……っ!」
鋭い蹴りが黎の鳩尾に入り、刹那息が詰まった。ディフェンダーであっても、その威力は油断出来ない。
すかさずティスキィがハウリングフィストをエポンに叩き込めば、ヴィンセントの拳はキシルへ。
「……駄目か」
生憎とキシルへの攻撃は避けられたが、ティスキィの表情も浮かない。
(「ヒールは同時に……思ったより、道化君は素早いし。エンチャントも、全部砕けなかった?」)
「きっと、道化はキャスター、楽士はジャマー、です!」
ティスキィの掛け声に、ケルベロスの視線がキシルに集まる。
「出来る事をやる……それだけですの」
グラビティの調べは広範囲に渡る。ジャマーの厄を警戒し、前衛へ更にライトニングウォールを巡らせる華。チェレスタの歌声は、身を護る盾ともなる。
「甘い香りにご注意ですよ?」
「その身に呼び醒ませ、原始の畏怖」
漂う蜜のような香り。敵を惑わせんと秘薬入り小包を投げる結衣。ほぼ同時、ヴィンセントより奔る漆黒の雷槌が長身を穿つ。
「じわじわと石になるといいわ」
リシティアのペトリフィケイションは確かに捕えるも、黎の気咬弾は孤を描いたものの回避された。
一刻も早く『全員』の攻撃が敵を捕えるべく、ゼロアリエは再びメタリックバーストを放つ。
螺旋忍軍も逃亡の隙を窺い、黎を狙い続ける。眼力から実戦経験を察し、打たれ弱い所を突く算段か。
だが、勢いは最初からケルベロスにある。ティスキィがエポンを牽制する間に、キシルに浴びせられる攻撃の数々――敵も必死に奏でるも、BS耐性の備えは崩せず。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
華の掌中より舞い上がる花弁は、一片のダメージこそ小さいが確実に刻んでいく。
「キシル兄!」
とうとう倒れた長身に、悲鳴を上げて飛びつく少年。無表情に見下ろし、リシティアは光刃を振るう。
「我が名と共に詩え。魔霧を払う刃群よ。汝ら罪在り――光在れ、と」
飛び退こうとしたエポンに、ティスキィとゼロアリエの轟竜砲が重なる。キシルを下す間に積まれた足止め技の牽制は、キャスターとて的に落とす。ヴィンセントのホーミングアローが、華の達人の一撃が鮮やかに小柄を貫いた。
「もうやだぁぁっ!」
血を啜る鉤爪が、黎の血襖斬りと交錯する――幸いにも、チェレスタがエレキブーストを投げ、黎も事なきを得た。
「技術だけでなく命まで取るあなた達には容赦しません」
退路を断つ結衣の手に、氷結の螺旋が形作られていく。
「技術はその人が年月をかけて磨いてきたもの……簡単に盗めるものではありません!」
断罪の叫びと共に螺旋に射抜かれ、道化はクタリとその身を折った。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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