夏だ! 海だ! 水着狩りだ!

作者:のずみりん

 夏である。
「プールもいいけど、やっぱ海よねぇ」
 海である。
「なーに気取ってんの。それっ、いくわよー!」
「ちょ、ちょっとまだホック……やぁんっ!?」
 そして水着である。
「いいねぇいいねぇ! 素晴らしいねぇ!」
 ここは『房州海開き』の幕が踊る海水浴場。地方都市としては大事な広報イベントでもあり、投資と主催の(個人的)熱意は目を見張るものがある。
「裸じゃあダメなんだよ……この水着のね、見えそうで見えない、脱げそうで脱げない……そういうところに詫び寂びという日本的エロスがねっ」
「ブヒ」
 招待された女性アイドル、モデルたちはいずれもたわわな粒揃い。さざ波の音、弾む肢体、美女美少女の悲鳴、矯正。絡みつく太く立派な、醜い触手……。
「……って、おい!?」
「ブヒッ!」
 乱入したオークたちの収穫作業に、主催は一声あげて気絶した。

「房総の海開きイベントでオークの水着狩りが予知された」
 フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)の警戒があたったようだ……と、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は地図から、内房の一地方都市に丸をつける。
「イベントではPR目的で女性モデルやアイドル多数を招待したそうで、そこを嗅ぎつけてきたらしい」
 女性の一人として心底うんざり、といった様子のリリエ。この敵の厄介な一つは、事前の避難を行うと予知と違う場所に出現して被害を広げてくることだ。
 撃退するには出現後に避難を行うしかない。戦いながら女性たちを守る……あるいは自分たちの方へと誘惑、もとい誘導してやる必要がある。
「イベント会場はほとんど女性のみだ。オークたちも興奮しているのか、少数の男性スタッフには目もくれてないし、気絶している……まぁ要するにだ」
 遠慮なく殲滅してくれ、ケルベロス。

「……それで会場だが、砂浜だけに遮蔽は殆どない。魔空回廊からやってくるオークニ十体と真っ向勝負だ」
 会場の被害者女性たちは十数名。オークたちは数こそ多いが、戦闘力は平均的なケルベロスのやや下程度。守りながら戦っても勝てるだろう。
「オークたちに特長らしい特長はないが……拘りというのかな。服を破るような攻撃はしないようだ。あと、弱いわりに無駄にしぶとい」
 フェティッシュなのか、なんなのか……予知から推測された攻撃は触手攻撃と、触手から分泌されるいかがわしい毒液。自分たちの弱さはオークたちも自覚しているらしく、目を付けた相手を集中攻撃することが多いらしい。
「夏の風物詩のためにも、オークの排除は絶対だな。女性たちを守ってやってくれ」
 リリエはいって、遠く海を見るように目を細めた。


参加者
トルテ・プフィルズィッヒ(シェーネフラウ・e04289)
パール・ネロバレーナ(ガンガンいく狂戦鬼・e05000)
シャルロッテ・リースフェルト(お姉さん系の男の娘・e09272)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)
高天原・瑠璃(蒼き鎧装の纏い手・e34645)
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)
雑賀・真也(不滅の守護者・e36613)

■リプレイ

●美女だ! 水着だ! 水着狩りだ!
 夏の海辺に水着美女、弾む肢体に絡みつく太く立派な醜い触手。
「遅くなってすまない、ここは任せて、避難を」
 ビキニに絡みつく触手を切り飛ばし、駆け付けた雑賀・真也(不滅の守護者・e36613)はオークの群れへと割って入る。
「は……はぃっ」
「拭くといい、多少はマシになるだろう」
 差し出したタオルを抱いて去っていく美女たちをちらと見やり、男は再び戦士の顔へ。
「しかし、本当に聞いたとおりたわわな粒揃いだな……」
「あら、涼しい顔して御盛んなことで?」
「そうだな、ぜひ一人か二人くらいお近づきになりたいものだが、まぁ、それは後のお楽しみだ」
 漏れた呟きははたして本音か軽口か。マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)のからかう声に、真也も飄々と返してのける。
「ブヒィィィィィー!」
 そんな彼らと対照的なのは多くのオーク。集められた美女美少女すら上回るスタイルを晒すマイクロビキニのマイアを前に、我こそ主役とオークたちは露骨に欲望を解放。
「チチ! シリ! 水着ィィィィィィィッ!」
「ドケェェェェ!」
 結果。水着美女の貞節こそ守られたが、公序良俗的には更に大変な事になってきた。
「……これは、防衛は絶対、ですね!」
 色々と大事なものを守るため、神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)は決意を込めてパレオを投げる。
「メッメカッ!?」
「めかむす!」
 露になった銀の腕、レプリカントの肢体を包む水着にも似たフィルムスーツの光沢と作り出される陰影はくびれを強調し、裸以上にも艶めかしくオークたちを誘惑する。古人に曰く、メカ娘はいいぞ。
「ブヒィィィィィー!」
「な、なんて、卑猥な……水着の女性たちを襲うなどという卑劣なオーク、許せません!」
 されど盛り上がるはオークと触手ばかりなり。
 それだけ順調に誘導されているということでもあるのだが……佐祐理に群がるオークたちの欲望へ、高天原・瑠璃(蒼き鎧装の纏い手・e34645)は着慣れぬセパレート水着への気恥ずかしさも吹き飛ばし、怒りを燃やして駆け付ける。
「鎧装装着! サファイア・ドラグーン!」
 駆けだす瑠璃の声に共生者『ドラグーンアーマー』が呼応し、輝く。
「この鎧装の鉄壁の守りを破れるものなら破ってみてください!」
「ブヒッブッヒィィィィィィ……ブヘェッ!?」
 高天原・瑠璃が流体金属製の外装をまとう時間はわずか一戦闘単位に過ぎない。その変身プロセスに割り込もうとするものは、容赦なくパール・ネロバレーナ(ガンガンいく狂戦鬼・e05000)に制裁される。
「戦闘中に余所見のうえ、なんだその攻撃は! この腑抜けた豚野郎!」
「あ、ありがとうございます……!」
 無表情な少女に代わり、怒りの仮面が怒声の本音を説明し、『キャバリアランページ』がオークたちを跳ね飛ばす。
 なお、続いた声は何かに目覚めたオークでなく、瑠璃の清楚な感謝でありご安心いただきたい。

 シャルロッテ・リースフェルト(お姉さん系の男の娘・e09272)は仲間たちの奮戦を縫い、救出した水着少女にタオルを渡す。
 こちらも予定通り、いや予定以上に順調である。少々の、いい意味ではある例外を除いて。
「流石ですね、皆さん……さ、こちらへ。今しばらくの辛抱です」
「予定通りだけどさー……なんか納得いかなーい!」
 フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)と、彼女の相方こと重量級ウイングキャット『まろーだー先輩』とキシャーと咆える。
 この乱戦、大変に多趣味かつ無節操なオークと触手であるが、前衛にしてまだまだ少女は余裕である。
「ぶひっ……ぶひぃぃぃぃ」
「おっぱいなら負けませんよ♪ 立派な触手のオークさん♪」
 純朴そうな顔立ちと自慢の胸を最大に生かし、追いかけっこ……時に捕まり、矯正を上げるトルテ・プフィルズィッヒ(シェーネフラウ・e04289)。
「あんっ、もう……強引なのがお好き? 乱暴なこと……ッ」
 眩しい日差しに直視できない、濃厚な絡み合いを演じるマイア。
 シルエットだけでも、いやその歪んだ曲線と見えないがゆえに想像される、濃厚な二人とサキュバスと触手の絡み合いに、シャルロッテが曰く。
「……大きい方が、お好きみたいですね」
「ふ……踏み潰して、焼き尽くしてやるー!」
 それ以上いけない。フェニックスの背中が不死鳥を背負った。

●オークだ! 触手だ! だが男だ
「45トンキーック!」
「ぶみゃーっ」
 炸裂、怒りの旋刃脚。まろーだー先輩と息を合わせた電光石火の飛び蹴りに、さしものオークも吹っ飛んだ。
 まずは一つ……問題は残りが十九もいるということだが。
「柔らかいのに堅いし、キリがないよぉ!」
「一つ一つ潰してはキリがないな……飛ばしていくぞ」
 仲間の屍を物理的に超えて群がるオークに、真也は異空間より特異な弓と螺旋状の剣を召喚。高く空へと跳躍しながら引き絞る弦に剣をつがえ。
「その力を持って、相手を亡き者にせよ。稲光の螺旋魔剣(カラドボルグ)!」
 発射。稲妻と閃光を纏った剣が矢のように飛ぶやオークたちの中央を直撃、爆発。
「やりましたか……っ?」
 だがしかし半分。シャルロッテの快哉は立ち上がるオークたちに遮られる。
「ぶっふぅぅぅううぅぅぅーッ!」
 咆哮し、いきり立つオーク。傷ついた身体と相反し、触手がみるみる膨張を開始する。
「太く堅くとは卑猥な奴らめ……ケツを引き締め直せ!」
 戸惑いの仮面を瞬かせながらもひたすら無表情。追い打ちしたパールのマルチプルミサイルの爆撃をもかいくぐり、見事なタックルでオークたちがトルテらまで食らいつく。
「一撃とはいかんか……くそ!」
「あぁっ、多すぎですよぉ……!」
 着地するや流れるように切り込む真也だが、敵の守りは無駄に厚い。そうこうしているうちにも、津波と化した触手がトルテの柔肌を歪につぶし、水着の下へと潜り込んでいく。
 なにせディフェンダーの位置に十九人という非常識編成である。
 庇いあいによる被害拡大を考慮しても、威力は拡散に拡散され、追撃など見込めやしない。誰が言ったか、戦いは数だよとはまさにこれ。
「……ぁんっ……無理矢理なんて、いけない子……」
「多すぎですよ! ……ぁっっ……あぁっ」
 一面の触手の海にもノリノリなマイアもいるがあくまで例外。必死に逃れようとする瑠璃こそが正常にして、まさにオークたちの求めるもの。
「ぶふぅぅぅぅぅ……」
「やっ、だめっ、鎧装脱がさないでっ!?」
 ぬめる触手が潜り込み、丁寧にいやらしく装着された鎧装を引きはがす。機能を潰しつつも形を残し、衣装までも粘液をぬめらせ辱めていく匠の手口に十六歳の純真さはひとたまりもない。
「そ、そんな……きゃぁぁぁぁー!」
「変態ですね……どうしようもなく……!」
 レプリカントの身体にむしゃぶりつかんばかりのオークに佐祐理は辛辣に吐くが、それすらもオークにはご褒美らしい。
 ねっちりと抑え込む触手が張りを増すさまは、手練れのトルテも危険を感じるほどにきた。
「さすがにちょっとまずいかも……しれません……っ!」
 手首のスナップで気咬弾を投げつけ、驚くオークを突き飛ばして脱出するも、その間にも魔の手は仲間にのびていく。
「む? ……おい、よせ」
「ぶっふぅぅぅぅー……!」
 勝ち誇ったようなオークの触手は、怯えるシャルロッテの柔肌へ……。
「ちょ、ちょっとやめてくださ……っ……私は……!」
 はらり。というか、ポロリ。
「あっ」
「アッ」
 まさに文字通り、事件の場が凍り付いた。
「オマッ……オト……」
「男ですよ!」
 お見せできないシーン以外、どこからどう見ても乙女な姿でシャルロッテは抗議する。周囲はいうが、彼としてはこれでもれっきとした男のつもりなのだから。
「全機関、出力最大……撃っていいか?」
「どうぞ!」
 バスターライフルの早撃ちがパールを掴んだ触手を弾き、すかさず繰り出される渾身の鉄拳『戦技【神風】』。見事、主犯は空へと消えた。

● 仕置だ! 反撃だ! ケルベロスだ!
「この痴れ者がァ! 歯を食い縛れぃ!」
「ブひぇっ……」
 乱れた衣装を正し、『戦術腕甲【桜花】』を向けるパールに、オークたちが後ずさる。
 細身小柄な身を好きなく包むセーターにしたたる粘液の残滓は、引き締まった体を強調し、戦場ならでは色気があった、が。
「攻撃の波が……引いた……?」
「怖くなったんでしょ、失敬な」
 瑠璃の感じた疑問にマイアは憮然、残念と推理する。
 事件はたかが一度、たかが一人の誤りである。誤りであるが、なまじフェティッシュなる妄想を仕入れたオークには効いた。
「あー! チョコの包み紙噛んじゃったら、次のもついてるかもって考えちゃうアレ!」
「余計わかりにくくなってないか、それ」
 手足は動かしたまま、真也はフェニックスへ冷静に突っ込む。まぁ要するには、だ。
「『他にも女装男子が混ざっているのではないか』……って、すごく失礼なこと考えてましたね?」
「ぶひ……」
「Das Adlerauge!!」
 佐祐理の要約に、思わずうなずくオーク。正直すぎた答えに『鷲の目』の閃光が至近距離から豚を焼く。口は禍の元、である。
「もぅ、見た目の癖にウブな連中ねぇ……すっかり萎えちゃって。そろそろ店じまいね」
「おっけー!」
 先ほどとは正反対の惨状にマイア、ため息一つ。手を拭って引き抜いた『白銀の選定者』、古のヴァルキリーが手にした星辰の剣で、フェニックスが笑顔で起こしたブレイブマインの爆風ごと、オークを一薙ぎ。
「露払い、終わったわよ」
 舞うような軽さに反した重斬がオークの触手を吹き飛ばし、事も無げに一言。
「感謝します! では……」
「……そろそろ幕引きと行こうか」
 数を減らしたオークたちが声の方を見やれば、いつの間にか鎧装を戻した瑠璃の姿。拳を打ち合わせて放たれた絶望の黒光に続き、再びの真也『稲光の螺旋魔剣』が炸裂。
「ぶっひょぉぉぉぉー!?」
 今度こそ、完璧に、多くのオークは消し飛んだ。

「み、みず……ミズ、ギ……」
 残ったオークもわずかながらいるが、悲しいかな。
「あら……逞しいオークさん……♪」
「ぶ、ぶひっ……」
 砂丘に水、もとい水着。差し伸べられたトルテというオアシスにむしゃぶりつくオークの触手。死にかけても、一人でも、会場随一の爆乳の誘惑には勝てない。
 オーク、いや男って悲しい生き物なのね。
「よく頑張りましたね……二人っきりで気持ち良いことしましょ♪」
 絡みつく触手に押しつぶされながら『魔性籠絡の術』がオークの目をとろんと溶かす。痛みなく、激痛の悶死から解放されたオークはある意味幸せな……。
「そこ、頭が高い」
「えぇー」
 物足りなそうなトルテの声。させねぇよ、とマイアの容赦なき『エンプレストランプル』が綺麗な最期を強制終了させた。

●夏だ! 海だ! 今度こそ海開きだ!
「それっ、いくわよー!」
 夏である。
「よーし、こっちこっちー!」
「ぶみゃー」
 海である。
「水着だねー」
「ふにゃー……」
 額に浮かんだ汗を拭うフェニックスに、水着と何処からか拾ったサングラス姿のまろーだー先輩が暑そうに返事する。
 広がる青、白い砂浜に触手とオークの影はない。災難ではあったが、主催のトラブルを凌駕する魂はケルベロスという協力者を得て、何とかイベントは再開にこぎつけたのだ。
「ぶみぃ……」
 催促するように引っ張るまろーだー先輩。先輩のぼでーは熱いのだ。
「ボクたちもいこっ! 佐祐理さんも、ほらっ」
「あ、はい……そうですね……」
 アイドルたち招待客へ羨望の目をした佐祐理を引っ張るフェニックス。二人と一匹は海へと火照った体を飛び込ませる。
 せっかくのお誘い、主催の欲目にしても楽しまないのは勿体ない。
「瑠璃さんの身体、柔らかぁい……」
「きゃっ、と、トルテさぁん……っ!?」
 絡み合う瑠璃とトルテの対照的ボディ。柔らかく形を変える濡れ肌の強烈さに、赤面したシャルロッテが目を逸らす。
「え、ぇと素敵な砂浜で……こ、今度、二人で訪れてみたいですね。その……で、でー……」
「ん、そうだな。トレーニングにはもってこいの地形だ」
 恋人の事を思い出し、さらに募る羞恥。消えてしまった後半をパールが斜め方向に補間して頷く、それすら聞こえているのやら。
「おーい、たすけてくれー……いや俺は、仕事で……」
「そんなツレないこと言わないで、ねっ!」
 そんななかでは、助けたモデルらに囲まれた真也の声が届かないのも、まぁ仕方なし。
「まんざらでもないんでしょ? 願い叶って喜ばしいことで……」
 ダイナミックなボディを砂浜に晒すマイアの脇、どうしてこうなった……と戸惑いの声が遠ざかっていった。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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