コンフェイトの星祭

作者:柚烏

 夏の夜空に煌めく星々を、てのひらに戴こう――そんな趣旨の夏祭りが、彼の街では行われていた。
『星祭り』と名付けられた夏祭りは、当初町おこしの一環であったようだが、今では街のあちこちを彩る星の洋燈やオーナメント、色とりどりの金平糖やアクセサリーの市が好評を博し、観光客の姿もちらほら見受けられる。
 わあ、と無邪気な笑顔で通りを駆ける子供の手には、金平糖の入った硝子瓶が握られていて。一方で寄り添って歩く恋人たちの胸には、双子星のペンダントが輝いていた。
「あ、流れ星……!」
 その時、歓声をあげたのは誰であったのだろう。粉砂糖をまぶしたような星空を、何かが横切ったと思った瞬間――それはみるみる内に地上へと迫り、賑わう星祭りの市に衝突した。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
 ――大地を穿つものは星などでは無く、禍々しい竜の牙。見る間に鎧兜を纏った竜牙兵に変じた彼らは、騒然とするひとびとに星辰の刃を向け、歓喜の咆哮を轟かせながら殺戮を開始する。
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
 剣戟に悲鳴と絶叫が重なり、星灯りも生命の灯も一瞬にして掻き消されてしまう――やがて地面を濡らす血だまりの上に、哀しげな音を立てて小さな金平糖が散らばっていった。

「……金平糖と夏の星に纏わる祭りだなんて、凄く素敵なのにね」
 仄かに焦げた砂糖の馨りを纏わせ、スプーキー・ドリズル(勿忘傘・e01608)が零したのは灰色の溜息。ひとびとで賑わう場所に、デウスエクスが出現するかもしれない――そんな彼の予感を元に調べてみた所、予知に引っかかったものがあったのだとエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は語った。
「うん、今回現れるのは竜牙兵だね。夏祭りで賑わう通りに彼らは飛来し、ひとびとの憎悪と拒絶を煽ろうと殺戮を行うんだ……」
 夏の星々にあやかったお祭りに、竜牙竜星雨の精鋭が送り込まれるとは何とも皮肉な話だが――彼らの凶行を阻止する為、急いで祭りで賑わう街へと向かう必要があるだろう。
「……でも、竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすることは出来ないんだ。そうしてしまうと、彼らは他の場所に出現してしまうから」
 ――結果、事件を阻止することが出来ず被害が大きくなってしまうので、竜牙兵の出現後に対処して欲しいのだとエリオットは言った。そうすれば避難誘導を警察などに任せて、此方は竜牙兵を撃破することに集中出来る。
「現れる竜牙兵は3体で、戦闘が始まればもう撤退することは無いよ。だから素早く注意を引きつけられると、周囲の被害も抑えることが出来ると思う」
 なお、彼らの全てがゾディアックソードを使い、2体が二刀流で斬り込む後ろで、回復役が守護星座の結界を張り巡らせるようだ。連携を取って戦うようだが、個体としての強さは然程では無く、上手く連携を妨害すれば有利に戦闘を行える筈だ。
「しかし、星祭りだなんて面白いお祭りだよな。夏の夜空に煌めく星々を、てのひらに戴こう……だっけ」
 と、其処で狼の耳をぴくりと動かしたのはヴェヒター・クリューガー(葬想刃・en0103)。街中を星細工の洋燈が照らし、星をあしらったアクセサリーや雑貨、色とりどりの金平糖を扱う出店が軒を連ねる様子は、さぞ見応えがあることだろう。無事に事件を解決出来たら、お祭りを覗いてみるのもいいかもしれないな、と彼は微笑む。
(「……星々の雨、金平糖の雨が降り注いでくれるのなら、傘は要らないかな」)
 眼前にちらつく霧雨のまぼろしを振り切るようにして、スプーキーはそっと懐の銃に手を滑らせる。ああ、そうだ、愛らしくも幻想的なチェレスタの音色に乗せて、金平糖――ドラジェの妖精みたいに、踊るように戦うのも一興だろう。
「それじゃあ行こうか。……星祭りの煌めきを、絶やさない為にもね」


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
来栖・カノン(夢路・e01328)
スプーキー・ドリズル(勿忘傘・e01608)
ミルラ・コンミフォラ(翠の魔女・e03579)
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)
オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)

■リプレイ

●星の守り人
 夜空の星々が、地上に零れて光を放つように――星祭りが行われている街はきらきらと、眩いばかりの灯で溢れていた。しかし、そんな輝きに引き寄せられるように、流星の如く竜牙兵の群れが飛来する――。
「……全く、無粋な来訪者もあったものだ」
 その地を這うような低い声は、祭りの喧騒の中でも不思議とひとびとの耳を打つようだった。気怠げな雰囲気を漂わせる、声の主――ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)はそっと吐息を零しつつ、冷ややかな緋色のまなざしで竜牙兵を見据える。
 全くだね、と同意しつつ肩を竦めるスプーキー・ドリズル(勿忘傘・e01608)の手には、ゆらゆらと色彩を変えるランプが握られており。警察が混乱に対処している様子を見つめる九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)は、怜悧な相貌のまま眼鏡を押し上げていた。
「避難活動は、警備の方々が迅速に行って下さっているようですわね」
 当初はプラチナチケットを用いて依頼をしようと思ったのだが、ケルベロスとして活動を行う櫻子に、彼らは直ぐに気づいたらしい。お任せくださいと敬礼されて、ついでに握手を求められたりもした――その時のことを思い出すと、名声と言うのも案外馬鹿にならないものだと櫻子は思う。
「みんなが楽しみにしている星祭りを守るために頑張らなきゃ、なんだよ!」
「けーさつの指示にしたがえば大丈夫っ! 後はボクらに任せて!」
 賑やかな夜に空色の瞳を瞬きさせつつ、竜の尾をふわりと揺らすのは来栖・カノン(夢路・e01328)。一方で、避難を行うひとびとに声をかけるオーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)は、竜牙兵から皆を守ろうと動き出していた。近くにいる人の前に立つようにして牽制を行う彼に続き、ミルラ・コンミフォラ(翠の魔女・e03579)も壁となって、その橙色の瞳に決意の灯をともらせる。
「……傷付け奪う事は勿論、祭りの一時に水を差した事も許し難いね」
「ふむ。夏祭りを愉しむ為にも、邪魔な連中にはさっさとお帰り頂こう」
 そんな彼へ、微かに口角を上げて応じた巫・縁(魂の亡失者・e01047)は、仮面越しに竜牙兵を睨んで大剣を構えた。その奥で揺らめくのは、地獄と化した両目であり――彼もまた失ったものがあるのだと、ミルラは己を補う炎の熱を感じて瞑目する。
「暗がりに光る星は、遠いからこそ、心を奪うんだって」
 不意に響いた囁きは、何処か瞬く星を思わせた。宵色の髪を夜風に踊らせるジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)のその声には、強く在りたいと願う切実な響きが宿っているようで――後に続くヴェヒター・クリューガー(葬想刃・en0103)は、一瞬夜空の星に目を過ぎらせたようだ。
「――降りてきてしまったら、あの輝きは見えないね」
 剣を抜いて向かってくる竜牙兵たちを捉えながら、ジルカは魔力を解放し、一方でミルラは静かに誓う――もう二度と、悲劇は繰り返さない。だから。
「命も笑顔も、一つたりとも奪わせないよ」

●竜星墜つ
 ゾウオとキョゼツを――忠実な竜の尖兵たちは口々にそう叫ぶと、星辰の力を宿した剣を振りかざす。しかし望む所とばかりに櫻子も、流麗な日本刀を鞘からすらりと抜いて構えを取っていた。
「ルコ、一緒に頑張るんだよ……!」
 先ずは一撃をと、弓を引き絞るカノンが妖精の矢を放ち――続くボクスドラゴンのルコは、虹と草花の属性のブレスで主に続く。一行の狙いは後方で回復を担う竜牙兵であり、遠距離への攻撃が届くよう、スプーキーは巧みに跳弾を操って標的を追い詰めていった。
「悪いがこれからを愉しむ為にも、お前達は邪魔なのだよ!」
 前衛に立つもの達をすり抜け、縁の撃ち出した竜砲弾が一気に炸裂して竜牙兵の足取りを鈍らせる中――オルトロスのアマツは退魔刀を携えて、迫る竜の牙から仲間たちを守っている。
 一方の竜牙兵たちは、盾となる邪魔なサーヴァント達を蹴散らそうと星座の輝きを降り注がせるものの、ウイングキャットのペコラとなるとは毛を逆立てて抗った。凍える煌めきを耐え忍ぶ彼らは主の命に従い、清浄なる羽ばたきで邪気を祓う。
「なるともみんなも、一緒に回復役がんばって、きらきらなお祭り、守ろうねっ!」
 黒鎖を操り守護の魔法陣を描くオーキッドの元気な声に、おーと頷くのはヴェヒターだ。見れば戦いに駆けつけた仲間たちも次々に、回復を行って此方を支援してくれている。
「……どうやら、回復の方は心配しなくても良さそうだな」
 戦に向き合い、僅かにその口ぶりを変えたミルラが黄金の果実を実らせ、その聖なる光で仲間たちに祝福をもたらしていった。それに加え、ヴェヒターも守護星座を描いて、ミルラの付与を補っていく。
 サーヴァントの数が多い為、効果の減衰も考慮に入れてはいたが、今回はどうやら其方の不利よりも、数の利点の方が大きいようだ。
「うん、もふもふにも癒されるし」
 ――と、何やらヴェヒターがしみじみと呟いていたが、それはさておき。集中して攻撃を受ける竜牙兵は、直ぐに自身の回復に追われることとなり、前衛の竜牙兵は其方の対処も行えず、只々攻撃をすることしか出来ない。
(「……敵も戦いも、怖い人も苦手だけど」)
 そんな中、後方から悪夢を見せる魔力弾を撃ち出すジルカは、震える心を叱咤して慎重に狙いを定めていた。
 盾となる仲間に守られながら、後方から残りの者たちが狙撃を行う――近接攻撃が主軸である相手に対し、効果的な布陣で立ち向かっていると理解はしているけれど。傷つく仲間の姿や、殺気に満ちた敵の姿を目にするたび、かつて虐げられていた記憶がジルカを苛むのだ。
(「……でも」)
 ――憧れの人達の隣へ、胸を張って立ちたいから。まなじりを決して立ち向かうジルカの隣で、艶やかに黒翼を羽ばたかせるのはディディエだった。凪いだような無表情を湛えた彼は、厭世的な雰囲気を纏いつつも――その唇が紡ぐ魔術は、何処までも苛烈だ。
「……中々に、血が逸る」
 竜語によって彼の掌に生じた幻影は、瞬く間に標的を焼き尽くし、見切りが生じて苦戦していた櫻子の窮地を救う。其処へすかさず縁が気咬弾を放って、素早く竜牙兵に止めを刺した。
「助かりましたわ、さて……。あなたのお相手は、私がして差し上げますわ」
 ――これでようやく、残る竜牙兵に集中することが出来る。剣と剣の戦いを楽しむべく、地を蹴る櫻子は納刀からの抜刀――神速の居合いを用いて、竜牙兵に斬り込んでいって。その背後からはスプーキーの放つ正確無比な射撃が、紫煙の尾を引いて獲物に吸い込まれていった。
「っ……無事でよかったんだよ」
 その時、重力を宿した十字の剣撃が、雪妖精の幻術を繰り出すミルラに襲い掛かったが――それは庇いに入ったカノンによって防がれて、彼女はゆるりと穏やかな笑みを浮かべて息を吐く。
「怪我をしたなら、ボク達に任せて!」
 しかし、その傷にもオーキッドらが素早く対処し、彼が解き放った気力の合間からは、カノンと仲良しの黒猫の耳が見え隠れしていた。助けてくれる仲間たちに礼を言いつつ、畳みかけるように攻め立てる櫻子の一太刀が、更に一体を塵へと変えていく。
「桜龍よ、我と共に全てを殲滅せよ――」
 ――桜吹雪が舞う中、振るわれる刃に連なるのは古き龍。骨の欠片さえ残さず浄化されていく竜牙兵を見届けてから、ジルカも残る一体目掛けて幻影の大鎌を振り下ろす。
「……現し世へと至れ、妖精王よ」
 一方でディディエは、火力を活かした魔術を展開していっており――魔法陣の描く軌跡が赤みを帯びていく中で、彼は伝承に伝えられた妖精王の物語を諳んじていった。
「……失せろ」
 やがて魔術的な攻撃性を宿した音のひとつひとつが、ディディエの意志の元、標的へと一斉に襲い掛かる。こうして、天妖君主の魔音に呑み込まれた最後の竜牙兵も星屑のように砕け散り、それもゆっくりと祭りの喧騒の中へ消えていった。

●星たちの贈り物
 竜牙兵から祭りを守った一行に、無事だった一般人から次々に拍手が送られる。会場にも大した被害は出なかったようで、ケルベロスの活躍を間近で見られた襲撃事件も、祭りの思い出のひとつになったのかも知れない。
 警察などが事後処理を行う中、特に混乱も無く祭りは再開されて――折角だから楽しんでいって下さいと誘われた一行は、其々に星祭りを見て回ることになった。
(「……祭りとは、人々の活気が交わい、生気に満ち溢れるもの」)
 ゆったりとした足取りで出店を覗くディディエは、良いものだな――と微かに呟き、色とりどりの金平糖の入った硝子瓶を手に取ってみる。
 それを妹への土産にしようと思いながら、たまには外出をしてみるのも良いかと頷いて。ふと思い立った彼はスマホを取り出し、星祭りで見つけたものを写真に収めていった。
「金平糖で街中がキラキラ、本当きれい~」
 甘い砂糖の匂いに目を細めつつ、櫻子が出会ったのは星祭りの衣装を着た子供たち。お星さまをあしらった服がとても可愛らしくて、皆で記念撮影をしましょうと櫻子はシャッターを切った。
「あ、そうだ……これを……」
 と、スマホの操作を終えた彼女はふと、眼鏡に汚れがついていたのに気づいて布で拭き拭き。その拍子に見えた素顔が、普段とは違うあどけないものだったから――親しみを覚えた子供たちが、次々に櫻子へと飛びついてくる。
「わぁ、お姉ちゃんも可愛いよ!」
「やだ……そんなに見ないでください。恥ずかしいですわ」
 お星さまがいっぱいだねえ――そう言ってアネラを見上げるオーキッドの瞳は、煌めく星に負けないくらいにきらきら輝いていて。辺りに漂う甘い香りにうっとりしていたアネラも、彼と同じくらい瞳を輝かせて祭りに魅入っていた。
「ね、お星様とっても綺麗!」
「金平糖も可愛いけれどボク、これほしいっ」
 はしゃいで駆けていくオーキッドから、ふわりと香るのはラベンダーの匂いだろうか。なぁにと覗き込むアネラの前で、鮮やかな星型のロリポップが魔法のステッキのように揺れた。
「今日も素敵な思い出がげっとできますように! ふふ、これはメロンスター!」
 君の瞳の色だと言って、にっこり笑って手渡すオーキッドに、すごいすごいと両手を叩いてアネラがはしゃぐ。
「……私も魔法使いになりたいなぁ」
「アネラはボクを楽しい気持ちにさせる魔法使いだよっ?」
 ソーダ色の星をぺろりと舐めるオーキッドの言葉に、素敵とアネラはすっかりメロメロになって――ふたりは暫し一緒に、魔法のお星様の味を堪能していた。
「お星様、大好きっ。キッドくんは?」
「ボクもだいすきっ。あくせさりーとかもいっぱいみよ~♪」
 あねさま、とカノンを慕って元気に跳ねる綾は、金平糖の乗ったアイスを見つけて早速味わうことにしたようだ。
「綾はバニラ! かわいいのじゃ! あねさまのアイスはチョコで、金平糖の星が天の川みたい!」
「わ、わ、ほんとだ! お星様みたいでとっても素敵なんだよ……!」
 けれどチョコレートの色は、ちょっぴり綾の色にも似てるなあとカノンがぼんやり考えていると――隣からがぶっと、綾の可愛らしい口がチョコの塊をつまみ食いする。
「えへへー、あねさまのアイス食べちゃった! 綾のもあげるー!」
「あっ! って……いいの? じゃあ遠慮なくいただいちゃうんだよ!」
 アイスを食べっこしつつ、ふたり手を繋いで星々の溢れる通りを歩いていると、ふと綾が出店の前で立ち止まった。
「わっ、あねさま! とってもステキなお星さま見つけたのじゃ!」
 彼女の指先に導かれたカノンが目にしたのは、きらきら輝く星屑のキーホルダー。おそろいにどうかのう、と見上げる綾に頷いて、カノンはふんわりと頬を緩ませる。
「わああ、お揃い……! うん、うん……すっごくいい考えなんだよ!」
 ステキな思い出を見るたび思い出せると、ふたりはお揃いのキーホルダーを手に記念撮影をして――それから慌てて、ちょっぴり溶けかけてきたアイスを頬張ったのだった。

●地上に輝く星
 ――星祭りの夜はまだまだ続く。黒地の浴衣に着替えた縁は、同じく浴衣姿のオランジェットと合流し、そろそろと草履で歩く彼女の手を繋いで祭りの中へと飛び込んでいった。
「……そう言えば、素敵なものを撮ってくれと頼まれていたな」
 ふむ、と逡巡する素振りを見せる縁だったが、彼の中でその答えはとうに決まっていたらしい。傍らで、星の小物を大事そうに握りしめているオランジェット――銀の誓いを交わした彼女以外、思い浮かぶものはないと縁は頷いた。
「私達が共有できる時間という奴だ、これがな」
「ええと、自撮り、ですか……?」
 早速スマホを取り出す縁に、オランジェットはぱちぱちと瞬きをして――画面に入るように寄り添えば、と頬を染める彼女の肩を、確りと縁が抱きしめる。
「少し恥ずかしい、です……」
 ――シャッターの音と同時に、ようやくオランジェットの緊張は解けたようだった。しかし、自撮りを送ると言われ慌てて、彼女は写真のチェックを申し出る。
「星ならば祭りでも手に入るが、私の星は目の前にいるのだよ」
「あ……私も、いつまでも貴方だけの星でいたいです……。だって……」
 その先はもう、言わなくてもいいでしょうと――やがて星灯りに照らされたふたりの影が、ゆっくりと重なっていった。
「星を模したものって、何でも惹かれるものがあるよね」
 あちこちに飾られた洋燈や、店に並ぶ星々――星祭りの夜は幻想的で、思わず見入ってしまいそうだと呟くミルラへ頷き、ヒノトは星の数ほどある雑貨に目移りしているようだ。
「悪い。先に行っててくれ、すぐ追いつく!」
 ぶんぶんと手を振る彼へ促されて、ミルラが進んだ先――其処には、色とりどりの金平糖を扱う露店が出ていた。
(「鮮やかな赤にオレンジ、それから金……」)
 店の様子を写真に撮りつつ、彼はきらきらと輝く小さな星たちの群れから、馴染み深い色を探していって。それを瓶に詰めて貰った所で、急ぐヒノトが追いついてきた。
「どうぞ。君らしい色だと思って」
「え、貰っていいのか……!? ありがと!」
 三色の金平糖が混ざり合う瓶をミルラから受け取り、何だか照れるなとヒノトは言いつつ――その狐尾が揺れている所を見るに、凄く喜んでいるらしい。
「どの色もすげえ綺麗。食べずに飾っておきたいぐらいだ……っと、俺もミルラにこれ買ってきたんだぜ!」
 ――其処で差し出した袋から出てきたのは、満天を彩る星屑柄の万年筆。星空を映すような色合いを確かめたミルラは、これならいつでも星が見られるとヒノトに微笑む。
「……あ! 流れ星! 願い事って咄嗟には思いつかないもんだなあ」
「本当、先に願い事を決めておかないとだね」
 一方で、あたたかな祭りの灯の中を歩くジルカとゼレフのふたりは、ちょっとした親子のよう。上空から見たら、こちらが星空だろうと――通りに連なる出店を覗くゼレフに、ふとジルカが声をかけた。
「……あのね、もし世界から電気が消えて、真っ暗闇になっても。あの光は、ずっとあそこにあるんだって」
 そう思うと元気が出るのだと、呟く彼には特別な想いがあるのだろう。炎も、そう――太陽と言う、時に優しく熱い星があるとの彼の言葉に、ゼレフはただ微笑んで。それからぽふりと、星煌めく角の覗くジルカの頭を優しく撫でた。
「……星自身には、自分の光は見えないものだからねえ」
 ――頑張ったご褒美と、お招きの御礼に。そう言って差し出された金平糖の瓶を受け取ったジルカは、優しい色をした星の欠片をそっと口に放り込む。
 甘い道しるべが、自分の中に輝くような――そんな予感を抱いて見上げた空で、彼は一際輝く星を見つけていた。
(「君が誰かさんの星を眩しく思っているように、その星も、ちゃんと君を見ているよ」)
 お疲れ様と声を掛け合ってから、合流したスプーキーとシドは星祭りを見て回る。職人としての性なのか、スプーキーは見目麗しい金平糖の数々に心を踊らせているようで――創作意欲が刺激されているのかな、と彼は微笑んでシドに話を振った。
「金平糖、お前の診療所に来る子供達に配ったらどうだい?」
「うーん、悪くないけど。うちに来る患者さんて、浅ましいか寂しがりのどっちかだからなあ」
 それで居着かれても困るというか、まあいいんだけどね――そう言ってぽりぽりと頭を掻くシドは、其処で隣の友人が、愉しそうな家族連れに己の過去を重ねてしまっていることに気付く。
「……そんな怖い顔で見てると、おまわりさんに連れてかれるよ? まあ気持ちはわからなくもないけどさ」
 ないものねだりは疲れるだけだと軽口を叩くシドによって、スプーキーの意識が浮上していき――直後、次々に鳴り出す携帯の着信音が、彼を現実に引き戻してくれた。
「ああ、皆にお願いしていた写真が届いたみたいだね」
「お、纏めてネットに投稿しようって言ってた奴か? 見せてみ」
 ――さて、折角だし自分たちも一枚加えてみよう。それは金平糖入りのカクテルで乾杯をする、とっておきの一枚だ。

 星祭りの開催者と、警備にあたった警察――そして、祭りを楽しんだ沢山のひとびとへ感謝を込めて。
 竜星雨を優しい電子の星々へと換えて届けるべく、スプーキーは送信のボタンを押した。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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