眠りし海虫の騒ぐ刻

作者:幾夜緋琉

●眠りし海虫の騒ぐ刻
 夏萌ゆる、夜の一刻。
 千葉県は九十九里浜に近い一軒家。
『はぁ、はぁ……はぁぁ……』
 憔悴した表情で、何度も何度も顔を冷水に潜らせているのは、年の頃10歳位の少年。
『……な、なんだよあれ。すげー、怖かったぁぁ……』
 まだ心臓は、バクバクと鳴っている。
 ……思い出したくも無い、数分前の経験。
 魚を捕りに、岩場に仕掛けて置いた罠。
 石を積んで、魚の進む道を制限し……そこに魚穫りの籠を置いた、という簡単な罠を朝に仕掛け、一度満潮を超えた後には、魚が入っている筈。
 ……意気揚々と深夜に罠の所に向かったはいいが……中にはいっていたのは、沢山のフナムシ達。
 岩をどけると同時に、ワサワサァァっと、少年の手足から上ってくるのを……慌てて振りほどいて、逃げてきた。
 そして……今はその恐怖から丁度逃げ帰ってきた所……という訳である。
『……うぅ……ああ、洗わねえと。あの感触、まだ残ってるよぉ……』
 と、少年は水を腕、足に更に掛けていくと……そんな少年に、背後から……手に持った鍵で、彼の心臓をひとつきする女。
 ……心臓を穿つが、怪我もせず、死にもしない。
 しかし、その女……第六の魔女・ステュムパロスは。
「あはは。私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『嫌悪』する気持ち、わからなくはないわ」
 と笑うと……少年は、その場で意識を失う。
 そして、崩れ墜ちる少年の背後に……大きな大きなフナムシのドリームイーターを産み出す。
 ……フナムシドリームイーターは、そのまま、ウゴゴゴゴ、と町へと出て行くのであった。
「皆さん、集まって頂けた様ですね? それでは、早速ですが、説明させて頂きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼すると、早速。
「皆さんは、苦手な物とか色々あると思います。夏といえば……あの黒い虫は嫌い、という人も多いとは思います」
「今回、この苦手なものへの『嫌悪』を奪い、事件を起こすドリームイーターが現れた様なのです」
「『嫌悪』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消していますが……その奪われた『嫌悪』を元にして現実化された怪物型ドリームイーターによって、事件が起きようとしています」
「そこで皆さんには、この怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターの撃破をお願いしたいと思います。このドリームイーターを倒す事により『嫌悪』を奪われた被害者もきっと、目を覚ましてくれる筈ですから」
 そして、セリカは改めて。
「今回のその『嫌悪』が具現化した怪物型ドリームイーターは、100cm位の大きさまで巨大化したフナムシになります。幸い、巨大化しているのは一体だけで、他に配下が居る、という事は無い様です」
「とは言えこのドリームイーターは、地面をカサカサと徘徊しつつ、足下を掬う様な攻撃を頻繁に狙ってくる様です」
「又、地面を這っている最中については、とても素早い動きで動き回ります。特に攻撃後は、街頭の無い暗闇の部分に逃げ隠れる習性がある様で、ある意味ヒットアンドアウェイの戦法を仕掛けてくる敵である、と言えるかもしれません」
「更にこのフナムシ、逃げられないと分かると、その身を立たせて、立ち塞がる人にのし掛かり攻撃を仕掛けてきたり、毒性のある消化液を噴出し、服破り効果を付与してきたりする様です。逃げられない様にすると狂暴になる様なので、注意して下さいね」
 と、そこまで言うとセリカは最後に。
「この様な生理的に嫌な物は、誰にだってあると思います。でも、それを奪い、ドリームイーターとして利用するのは許せません。余り気持ちは進まないかもしれませんが……どうか、宜しくお願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
龍神・機竜(その運命に涙する・e04677)
伊・捌号(行九・e18390)
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)
月詠・雛(姫向日葵・e28553)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)

■リプレイ

●悪夢に苦しむ
 千葉県は九十九里浜にほど近い町。
 海の薫り漂う、臨海部の町……そこに、突如として現れたのは、第六の魔女・ステュムパロスの作り出しし、嫌悪を具現化したドリームイーター。
 ……超巨大化したフナムシという……現実に見ればトラウマ間違い無しの、嫌悪を具現化したドリームイーターに。
「怖い物、苦手な物は色々あれど、フナムシねー」
「ええ、フナムシですかーぁ……見た目は黒い虫っぽいですが、確かあれ、甲殻類ですよねーぇ」
「そうですね。足の多い虫……それも多数となると嫌悪を抱くのもうなずけますよね」
「うえ……別に虫嫌いってわけじゃねーですが、こうもでけー上に動きがこれだとくるっすね」
 と、リフィルディード・ラクシュエル(集弾刀攻・e25284)と人首・ツグミ(絶対正義・e37943)、イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)に伊・捌号(行九・e18390)らの会話。
 ……あの気色悪いフナムシの姿が苦手だ、という人は多いだろう……多脚がうねうねと蠢くその姿に。
 でも、それは苦手では無い、という人も当然ながら居る訳で。
「昆虫への嫌悪か……理解できんな」
 とハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)がぽつりと呟くと、それに月詠・雛(姫向日葵・e28553)、ツグミにリフィルディードも。
「雛、虫は意外と平気です。海も近かったから、フナムシも大丈夫ですよ?」
「正直な所、エビやカニの仲間なんですよねーぇ、甲殻類。そう考えると、蟲っぽいといえば蟲っぽいですしぃ……そう思うと、自分はそこまで怖くはないですねーぇ」
「そうですね。正直私はそれぞれのモノが良く解らないし、それを見かけたりしないから何ですけど、なんであれ夢は夢のまま終わらせてあげましょうってね」
 と、そんな仲間達の会話にエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)と龍神・機竜(その運命に涙する・e04677)が。
「ま、誰にでも苦手なものはあるさ。言い方を変えりゃドリームイーターの材料はどこにでもあるって事……うう、口にしたけど、中々に厄介だな」
「そうだな。まぁ、そうだとしても被害者がいる事件な訳だ。少年を救う為にも、しっかりと対処しなければな」
「ああ。被害に逢った少年はいきなり倒れて、風邪をひいてやしないのかね。そっちも気になるな」
「……そっちか?」
 エリオットの純粋な心配に対し、小首を傾げる機竜。
 ……まぁ、出来れば少年を助けたい、というのは皆の意思な訳で。
「ま、何にせよフナムシドリームイーターを探さないとな……さぁ、行くぞ」
「りょーかいっす。まぁ何はともあれ、お仕事っすから。聖なる聖なる聖なるかな、気合いいれていくっすよ」」
 と機竜の言葉に、捌号がおいっちに、と軽く準備運動をして……ケルベロス達は、フナムシドリームイーターの徘徊する街へと急行するのであった。

●闇夜の悪魔
 そして、深夜の町を歩くケルベロス達。
 灯は殆ど点されておらず、街角は暗闇に包まれ、不気味な雰囲気。
「……ほんと、暗いっすね。真っ暗闇っす」
 と、どこから持ってきたのか、アイスを口に含みながら、どこか暇そうに歩く捌号……その一方、雛は。
「……ぅ……ぅすぅ……」
 こく、こくっ……とうとうと気味。
「……大丈夫か?」
 と、軽くエリオットが軽く叩くと、はっ、と気がつき、ぶんぶんっ、と首を振って。
「だ、大丈夫です! 雛、高学年になったから少し位……夜更かししても、平気です……」
 ……段々と、言葉に勢いがなくなりつつあるのは、やっぱり……眠い様である。
 と、そんなケルベロス達のやりとりに……人の気配に気づいたフナムシドリームイーター。
『……シィィ……』
 と、何処か甲高い鳴き声を僅かに慣らすと……暗闇に紛れるようにして、近づいてくるフナムシドリームイーター。
 シィィ、と泣いて、その後……カサカサっ、と地面を這って、ケルベロス達の元へと接近。
 そして……ケルベロス達が立ち止った、その瞬間。
『シィィ……!!』
 と鳴き声を上げながら、不意に突撃してくる。
 ……暗闇の中から突如姿を現わしたのに、すぐに。
「居たぞぉぉおおお!! 囲めええええ!!」
 と機竜が叫びながら、割り込みヴォイスで仲間達に伝達。
 そしてその言葉にとっさにハートレスのライドキャリバー、サイレントイレブンがフナムシドリームイーターの横から突撃、力尽くで立ち止らせる。
 ……バイクに跳ねられる様な形になったドリームイーターだが、地面を這う様な動きだから、そこまで飛ばされる事にはならない。
 そして、現れたドリームイーターの退路、進路を塞ぐように、ケルベロス達は次々と立ち塞がる。
 当然、ドリームイーターは、邪魔すんな、と言わんばかりにシィィイ、と声を上げる。
 そんなドリームイーターの気味の悪い動き、唸りだが、それに怯まずに。
「大量のフナムシが出て来たらちょっと嫌だけど、一匹なら大丈夫です!」
 とリボルバー銃を構える雛、そしてリフィルディードやツグミも。
「悪いけど、最初から全力で行かせて貰うですよ」
「そうですねーぇ……もう逃げられませんよーぅ」
 と笑い、そして。
「よ、っと……ほら、これで暗い所も無くなったぜ?」
 持ち込んだ光源を地面に大量に転がすイグノート。
 その結果、フナムシドリームイーターの潜める場所は殆ど無くなる。
 結果として、フナムシドリームイーターは。
『シィィ!!!』
 と、怒りの咆哮を上げて、地面を這い沿う。
 ……それに対し、エリオットが。
「敵のペースにわざわざ合わせるのも、何だか癪に障るのでな。ほら……喰らえ」
 と、破鎧衝の一撃を食らわせると、それに続くハートレスが。
「……そこだ」
 と、『偽・絶空斬』の一閃で切り裂いていく。
 更に続くリフィルディードがクイックドロウを撃ち込むと、捌号が。
「……本当、気色悪いっすね。とっとと死んで貰うっすよ」
 と、言い捨てながら、グラインドファイアで炎を付与。
 更にイグノートがスターゲイザーで足止めを付与し、少しでも命中率を強化していくと、雛もホーミングアローにペイント弾を籠めて放ち、薄暗闇の中でも一層光る様に細工していく。
 ……そして、対するフナムシドリームイーターの行動。
 地面すれすれの所を走り抜ける様にしての、攻撃……が、その攻撃を、捌号のボクスドラゴン、エイトが対峙。
 その後ろで、機竜のライドキャリバーのバトルドラゴンと、ハートレスのライドキャリバーが支えるようにして、その攻撃に耐えきる。
 そして、喰らったダメージをツグミがすぐ、脳髄の賦活。それで不足する分については、更に機竜も重ねてヒールドローンで回復を飛ばして行く。
 ほぼ、全快に近い所まで回復を受けたエイトは、反撃だ、とばかりにフナムシドリームイーターへボクスブレス。
 そして連続して、バトルドラゴンがキャリバースピン、サイレントイレブンがデットヒートドライブ、と続く。
 ……そんなケルベロス達の攻撃に、ドリームイーターの体力はかなり減少。
『シィ……ィィ……』
 悔しそうに唸るドリームイーター、でも……その多足をカタカタと動かしているその蠢き方は、やはり気持ち悪い。
「ほんとう、気持ち悪いっすね……うぇ」
 と明らかな嫌悪感を顔に出しながらも、スターゲイザーを放つ、更にイグノートも轟竜砲で足止めを追加付与。
 ……多少の暗闇ではあるが、雛のペイント団から放たれた蛍光が、暗闇の中にその姿をはっきりと映してくれる。
 そして、蛍光色の部分に対し、エリオットが。
「黒炎の地獄鳥よ、我が敵を穿て!」
 と『幻創像・襲翼のネメシス』で地獄の炎を付与すると、リフィルディードが雷刃突で攻撃。
 更にハートレスも。
「その嫌悪、オレの地獄で焼き尽くしてやる」
 と、チェーンソー斬りで、今迄のバッドステータスを大幅に倍増。
 苦しむフナムシドリームイーターを、ガトリング掃射とキャリバースピンが更に傷付け、エイトがボクスタックルでボディプレス。
 ……と、その一撃を食らったフナムシドリームイーターから、緑色の液体が噴出。
「体液ですね。かなり効いている様です……」
 と冷静に、雛が戦況を分析するも……当然、その攻撃の手数を減らすことは無い。
 そして……経過する事、更に数分。
 体液が更に更に噴出していき、その身体の厚さも、少しずつ、平べったくなり始める……そして、その動きが明らかに鈍ってきた所で。
「ん……そろそろの様だぞ」
 と、イグノートが宣言。
「了解っす」
 と捌号が接近、掬い上げるように戦術超鋼拳を叩き込むと……腹ばいに反転するフナムシドリームイーター。
 そして、そんなドリームイーターに、更に雛がクイックドロウの猛攻、機竜も。
「迸れ! 俺のグラビティ!」
 と『合体、双龍神』にて、バトルドラゴンとの連携攻撃で、その腹へ大きな風穴をかっ裂くと……。
「あなたの全て。余さず残さず有効利用してあげますよーぅ♪」
 と、ツグミが『悍ましき聖人の手』で、フナムシドリームイーターを……文字通り影に喰らい、その闇の中へと葬り去るのであった。

●悪夢の結末
 ……そして、フナムシドリームイーターの姿も消えた後。
「……ふぅ。どうやら終わった様だな」
 と、息を吐くエリオットに、こくりと頷く捌号と……。
「ふわぁぁ……あ、だ、大丈夫、です……眠くないです……」
 大きな欠伸をしてしまう、雛。
 ……もう時間はかなりの深夜な訳で……眠いのもまぁ仕方ない。
 ただ、無事に倒せた事には、取りあえず安心。
「しかし、嫌悪するものってのは人それぞれありますが、いや、まぁ……さっきの大きさで無数にわさわさしてたら、嫌悪感どころじゃなかったかもしれないけど……これ、深夜でよかったような、そうでないような。一般の人に見られてたら、トラウマ物だったかもねぇ……」
 とリフィルディードの言葉に、ツグミも。
「そうですねーぇ……ふぅ。まぁ、あんまり面白く無かったですけどねーぇ……」
 と肩を竦めるツグミ。
 ……何はともあれ、無事ドリームイーターは倒せた。
 後は……被害に逢った少年の無事を確認するのみ。
 セリカから聞いておいた少年の家に向かい……気絶していた少年を介抱するエリオット。
「大丈夫……の様だな」
 と、少年の安らかな寝息に、安堵。
 そして……彼が気を取り戻すまで、その様子をしっかりと観察した上で、ケルベロス達も帰路につくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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