螺旋、傘差し、紅を差す

作者:雨屋鳥


「あなた達に使命を与えます」
 奇怪な服装に身を包んだ女性がどこかで告げた。
「この町にいる和傘職人、熟練の工である人間と接触しその技術を確認し、可能ならば修得しなさい」
 グラビティチェインの略取はどちらでもいい。との言葉に傅く二つの影が、命を請け負うと返答する。
「貴女の命、いずれ地球の支配権を左右するのでしょう。必ずや遂げてみせます」
 信仰ともとれる信頼の言葉を発した彼らは闇に消える。


「ミス・バタフライが動きを見せています」
 ダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)が言う。
 かたや、大規模な戦闘の予感を漂わせる螺旋忍軍だが、こちらは関係ないとでも言うようだ。
 起こる事件は、歴史ある街の和傘職人、緒傘という熟練者の情報を狙われ、殺される可能性もある。というものだ。
 それだけであれば、命を落とさない可能性すらある事件だが。
「それだけで終わるものではないでしょう」
 風吹けば桶屋が儲かる。バタフライエフェクトさながら、大きな影響をもたらす事も考えられる。
「それでなくとも、命も奪われる可能性がある以上、放っておく訳にもいきません」
 螺旋忍軍の撃破を。ダンドはそれを乞うた。
「今回狙われる方は判明しています。ですが彼の避難を行ってしまうと他の対象に狙いを変えられてしまう可能性が高いです。
 ですが、今回事件当日まで5日ほど時間があります」
 螺旋忍軍が優先しているのは技術であるようだ。それを扱う人間には頓着しないとなれば、ケルベロスが彼に事情を話、技術を伝えてもらえればおびき寄せることも可能かもしれない。
「とはいえ、伝統工芸の技術。見習いと言える技術を会得するのにも、かなりの努力がいるかもしれません」
 続けてダンドは接触してくる螺旋忍軍について説明をする。
「数は二体。街のどこから来るかは分かりませんが、緒傘さんの工房へ来ることは確実でしょう」
 技術をある程度身に付けていたのなら、技術を教えるという事を口実に明らかに不審でなければ誘導を行うことが出来る。上手く利用すれば戦闘を優位に進めることも出来るだろう。
 近くの大通りへ誘導する。挟撃、奇襲をかける。分断する。取れる手は他にもあるはずだ。
 もし技術の会得が出来ず、接触を受けた場合はケルベロスと即座に勘づかれ戦闘へと雪崩れ込むと予測される。緒傘の避難も必要になるかもしれない。
「傘作りの技術がどう転ぶのか……気にはなりますが、阻止しなくてはいけません。螺旋忍軍の撃破をお願いします」
 ダンドはそう頭を下げた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
森光・緋織(薄明の星・e05336)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)

■リプレイ

「そうか、……なんとも」
 緒傘は、困惑を隠しきれない様子で甚平の紐を所在なさげに弄る。
 デウスエクスに狙われている。の後に、傘造りの技術伝授を乞いに来る、と言われればそうなろう、と説明したフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は、さもありなんと続ける。
「私たちに技術の一端を教えていただいて、囮になろうかとー、考えておりますのー」
「……五日、ですか」
 少し悩んだ後、緒傘は了承を返した。
「有名な行程だけなら、形にはなるかもしれないかな」
「ではー私はこの辺り下見してきますので、お願いしたしますねー」
 とフラッタリーは告げ、風に吹かれるように町へと消えていった。
「自由だなあ」と森光・緋織(薄明の星・e05336)が桃色の瞳に少しの憧憬を滲ませ見送る。
 工房は広いとは言い難いが、七人の作業スペースは確保できた。
「型紙で和紙を裁断、骨組みに糊で貼る」
 口で言うのは簡単だが、とレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)が型を取りながら和紙を切り取っていく。
 赤い作法衣に赤手拭いと、形から入るレッドレークは慣れた農作業とは、全く違う力の使い方に四苦八苦しながらも、楽し気だ。
「鮮麗華美かつ繊細なこの赤!」
 ずっと見ていても飽きない、とその色に向き合う彼の目は異様とも取れる執着を爛々と輝かせていた。
「フィー、まかり間違っても傘の骨を握り潰すなよ?」
「ハル兄こそしっかりな、寝たら尻尾にリボン付ける」
 声を押さえながらもサフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)と天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)は気遣うような、ないような会話を交わしていた。
 集中していないわけではなく、視線は手元に固まって動かない。
 陽斗は、軽口に緊張を解すと、事前に調べていた情報と緒傘の作業とを照らし合わせて、指先を動かす。
 糊を拭う、当て布代わり、と多用に使える懐紙を口に咥えた彼を見たサフィールは、彼の調査に便乗して得た注意点を留意しつつ、作業を進める。
 友人はどうだろう、と視線を向け、微笑ましく見つめると、また集中し始めた。
「又箆、大箆、末箆、嘴に刷毛……」
 新条・あかり(点灯夫・e04291)が複数の木製道具を手に取り、緒傘の説明を反芻していた。
「工程によって道具を変えていく、か。実践以外で伝授するのは確かに難しいな」
 と、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)がその隣で呻く。並び合う二人だが、会話は無く各々の作業に集中しきっている。
「……、箆の力加減か」
 森光・緋織(薄明の星・e05336)が糊に湿った紙を箆が少しばかり破ってしまった感触に、詰めていた息を開放した。
 一瞬、職人の気持ちに思いを馳せただけだが、皺にならぬよう丁寧に押し付けていた箆の力加減を間違えたようだ。少しでも気が逸れれば、すぐさま失敗する。
 と言うのであれば、
「傘、ただ目の前のその一つにだけ」
 全霊で気持ち、思いを向けていた、と言うのが答えかもしれない。と緋織は箆で紙をなぞっていく。
 こういう時、又箆の代わりにもなる爪が便利になる。
「と、思っていたんだがな」
 瑠璃色の和紙を骨に張り付け神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は呟いた。
 道具と言うのは改めて偉大だ、と感じる。生来持つ爪は力加減も慣れてはいるが、道具のように傘造りに特化した形状ではない。だけでなく持ち方によって込める力を分散、集中し、状況によって、用途を変えられる。
「続けるか」
 空はとうに暗く閉じ、更に山の向こうが白んでいる事に気付く事はない。


 陽が傾き始め。
 奇妙なとしか言えない風貌をした人影。
「すまない、貴方が傘職人の緒傘か?」
 その人物が肯定を返すと、腕の袖が地面にまで垂れている片側が質問を重ねる。
「うん、そうですね」
「そちらにいるのは、弟子か何かか?」
 工房の中で傘骨に木製の道具を通す人物が、静かに肯定を返す。
「……我々にも技術を伝授いただきたい」
「それは歓迎です。ただ」
 竹馬にでも乗っているのかと感じるほど足の長い片側が乞う。
 緒傘と名乗る人物は、それを受け入れながら、少し困ったと眉尻を下げる。
 これから買い出しのついでに完成した作品の見栄え確認を外でするのだという。
 つまり、歩きながら話をするという事になる。
「それでいい、まずは話を聞かせてくれ」
 緒傘は弟子に声をかけると、完成していたのだろう傘を手に道へ出る。響く虫音と暮れる陽が騒がしい。
 直ぐ傍の小路地に入ると、弟子から傘造りの説明が行われていた。
 重要な事は多い。有名なのは、骨組みに紙を張り付ける胴張りという手順だ、と説明を行う。
 言葉少なな弟子に緒傘が補足をし、ゆっくり道を行く。細い道だが行き交う人はおらず、問題はない。
「っと、ああ、こっちですね」
 道に張ってあった帯をくぐり緒傘が角を曲がると、以前は家があったのだろう、空き地にでる。ここを通ると早いらしい。
「その際に使うのが箆だ。これは――」
 赤い作務衣に身を包んだ弟子がそこへ踏み入りながら説明を続ける。やはり言葉の少し足りない説明に青い鱗に包まれた尾を振り緒傘は、補足を加えながら彼らの数歩先を行く。
 騒がしい蝉の声が一瞬、止んだ気がした。


 黒い尻尾を揺らし、小さな豹は僅かな悔恨と不安を心中に忍ばせた。
 一瞬の緊迫。
 異形二人が空き地の中へと踏み入った瞬間に、その四方から流星の輝きが閃いた。
 舞う翠の羽の隙間を電糸が縫い、一歩後ろを歩いていた長の螺旋忍者へと四条の蹴撃が軌跡を描く。
 不意を打った攻撃、奇襲、そして挟撃の的になれば、螺旋忍者であっても反応すら難しい。
 だからこそ、脚長がその脚を跳ね上げ攻撃を逸らし、体を反らして、直撃を免れたのは偶然とは言えないだろう。
 あかりと陣内のウイングキャットの補助を受けた攻撃に、サフィールの脚を打ち上げ、陣内の蹴りは軌道から身を躱し、陽斗の攻撃を甘んじて受け入れると、その勢いを利用し緋織の妖精の輝きを纏う蹴りを飛び上がり回避していた。
 そして、その攻撃に即応したのはその一体だけではなく。
「――ガッ、ああ!」
 直後、額から獄炎を滾らせるフラッタリーが鬼の如き狂暴さをもって鉄塊剣を脚長へと叩き付ける。同時に、腕長があかりへと袖に隠れた長い腕を突き放った。
 そこへと割り込んだ晟がオウガメタルの粒子を散らせながら、僅かに見えた剣先にチェーンソー剣の刃を当て威力を弱めつつ、彼はそれまでの穏やかな口調を捨てる。
「騙したことは詫びよう。だがそちらも職人を騙して亡き者にするつもりだったのだろう?」
「はて、どうだろうか」
 脚長は惚けた返しをして、周囲を囲むケルベロスに対し、腕長と背を合わせる。
「誘い込めた」
 あかりが殺気を漂わせて周囲から人を遠ざける。加えて事前に打ち合わせていた警察が動いてくれているはずだ。他の誰かが巻き込まれることは無いだろう。
「しかしいつ気付いた?」とレッドレークが疑問を口にした。自分たちが偽物であると気付かれているとは思っていなかった彼に返る答えに、眉を顰めた。
「気付いてはいなかった」
 あの方が重視する技術を持っていれば、感じる力も当然かとも考えたが、と脚長は言う。
「しかし、警戒はしていた」
 腕長が続ける。
「人通りの無い道、道に引かれたテープ」
 本来護衛役を担うはずだった二人が囮となったので陣内が護衛役を買って出たのだが、道に張られたテープが螺旋忍者に警戒を起こさせるのでは、という不安が首をもたげていた。それを改めて指摘するかのような言葉。
「だが――」
 続く言葉に気付かず、舌打ちをその場に残し陣内は銀閃を奔らせる。胴を切り裂かれた脚長が飛びずさるのをレッドレークが追う。
「猫さん、はしゃいでないで」
 隠れさせられていて解放感に満ちる猫が付与出来なかった翼の加護を繰り返させて、少し呆れた声を出したあかりももう一度電磁の補助を行う。
「ばっちりだと思ったのにな!」とサフィールが奇襲が十全な結果を生まなかった事を敵にぶつける様に石化の光線を射ち、それを追っていたレッドレークが一瞬動きの止まった脚長に赤炎を纏わせたレーキを叩き付けた。
「いやなに、ばっちりだったぞ!」
「ああ!」
 赤いレーキを振り抜いたレッドレークの攻撃に弾かれた脚長が像を翳ませる鋭い蹴りを空に放つ。
 巻き起こる風の暴圧に屈せず晟が螺旋忍者へと肉薄する。その腕を駆けあがり飛び出したボクスドラゴン、ラグナルのタックルに脚を畳み地を這うように避けた脚長へと晟は地面へ突き刺す様に青光を瞬かせる刃の群れを振り下ろした。
 晟へと電雷の如き素早さで腕長が姿を現した。振るわれる剣閃はその胴へと的確に突き刺さる。その傷は浅いものだったが、彼の振るう剣が僅かに乱れた。
 刃は畳んだ足を開放し中空へと舞った脚長の腕に浅い傷をつけ、脚長の体勢を僅かに揺らした。
「そこっ!」
 一瞬の無防備な懐へと陽斗が追いすがり、互いに振るった蹴りが交差し激突、足長の体は地面へと叩き落された。相打ちの衝撃に体を回転させた陽斗の踵が無理な体勢で対応し四肢を泳がせた脚長を強かに撃ち下したのだ。
「……ぐ、」
「潰……スッ!」
 柔らかいはずの地面に体が跳ねるほどの衝撃を受けながらも、跳び起きた脚長へと獄炎の軌跡が奔る。
 水紋の様に揺らめき、歪んだ軌道を描く蹴撃を、前へ進みながらも体を後転させるという人ならざる獣染みた挙動で躱しきったフラッタリーは、金色の瞳を闘争の享楽に歪ませて、鉄塊剣を握る。地獄の焔を纏う武器は、フラッタリーの動きが止まったと思う瞬間に、振り絞られた体を発条に打ち出された。
 豪火はフラッタリーの本能のままに狂荒する。
 胸からその腹までを縦一文字に貫いたフラッタリーの剣炎は、哄笑の様にその身を内から焼き焦がした。


 相方が死んだ瞬間に、腕長は広場から抜け出そうと駆けだした。
「いかせない」
 だが、撃破後の一瞬の油断をついた逃走は緋織が回り込み、阻止する。
「――ッ」
 悪態を吐こうとしたのか、喉の引き攣るような音を響かせて腕長は、刹那身を固めた。危機を察知したように数歩下がると感覚を確かめる様に、腕を振るう。
 緋織の目からは、赤い怪光が薄れていき元の桃色へと戻っていく。
「……面妖な」
 両腕を舞わせると剣閃が光を纏い正円の斬撃となって、腕長へと駆けだしたケルベロス達を斬りつける。
 だが、それは彼らの脚を止めるには至らない。
「……」
 即座にあかりがその傷を癒すために動き、そして猫に指示を与える。温もりを持った雪が静かに降り、傷を隠し、癒す。
 その雪が止めば、溶けた力が癒した者の力を増幅させる。
「貴方達には渡さない」
 あかりが短く告げた言葉は、触れて感じた培われ託されてきた技術の、伝統の尊さ。それを害するための道具を割り切る彼らには渡せるはずはなかった。
「――疾ッ」
 短く、吐き出す息と共に魔力を宿した矢が、あかりに駆けた腕長へと走り、その腕へと吸い込まれる瞬間に、体ごと回転させた腕長の剣がそれを打ち払った。
 だが、第二射。振り抜いたその腕を魔力の矢が貫いた。硬質な破砕音と共に、長い袖から幅広の刃と腕が零れ落ちた。
「ち……っ」
 陣内の狙いすました攻撃に片腕を失った腕長は、それでも足を踏み込んだ。その一瞬で雷光の速度へと達した腕長は、速度のままに残る腕を突き出す。
 その攻撃は、青い竜、ラグナルを貫いていた。
「――!」
 纏う氷にその傷は浅い。だがそれに気付く暇もなく、腕長はチェーンソー剣の刃に引き裂かれ、弾き飛ばされていた。
 晟の攻撃に距離を取った腕長をレッドレークの攻性植物が掴み締め上げると、フラッタリーが鉄塊剣を直撃させる。
 その衝撃に緩んだ蔓の群れを切り裂いた腕長に赤い線が纏わりつく。
 真っ赤な有刺鉄線のように茨が伸びていた。
 サフィールの血に形作られた茨は腕長の体を締め上げ、棘がその体を引き裂いていく。
「ハル兄!」
「応よ」
 腕の傷から茨を伸ばすサフィールの声に陽斗が踏み込む。身に纏うのは狂う獣の力。精強な爪を豪然と振るい、腕長の体を裂くとその肩口へと喰らい付き骨を砕き割り、地へと叩き付ける。
「――っ」
 狂気に飲み込まれる前に、降魔を解いた陽斗はまだ、立ち上がる腕長に驚愕した。
「冥途の土産……というの、だったか」
 諦めた、と呟くそれは、奇襲の失敗についてだろう。体の軸を失ったような覚束ない足取りで陣内へと腕長は近づく。
「異様な程全く気に留まらなかった動物が妙な動きをした」
 陣内の思考が一瞬止まる。
「警戒しただろう、私達とその帯を」
 僅かな警戒の中で、意識の端にしか存在していなかった小動物の異様さが目についた。警戒を押し上げた直ぐ後に襲撃、間一髪失敗。
 ならば。
 気付く瞬間、腕長の砕けていない腕剣が陣内へと突き出された。
「させ、ない!」
 横合いからその腕を如意棒で絡めとった緋織が、腕長の体を流すとその螺旋の面の中心へと鋭い突きを放った。
 突き出された緋織の一撃は、面を砕いて腕長の体を宙に躍らせた。


「無事でよかった」
 現場のヒールも終え、工房に戻ってフラッタリーの用意していた冷茶で喉を潤していた。
 工房も緒傘も無事だったという結果に緋織が安堵の息を吐く。
「いい赤だ」とレッドレークが自分で張った傘を眺める。残りの工程を緒傘が行ったものを貰い受ける事になっている。外に出すものは出来るだけ良いものを、という職人の矜持だろうか。
「他の工程も学んでみたいものだ」と晟が一人ごちると、緒傘は嬉しそうに、人生捧げる事になる、と返す。
 だが、その返事は彼の寝息に阻まれて彼の耳には届かない。ほぼ不眠で技術の会得を行い、戦闘の後だ。それも仕方ないだろう。
 あかりが工房内の作品に目を通す。
「凄い技術だよね……どうかしたの?」
 一つの工程でさえ、至難であった作品に素直な感想を抱きつつ、傍らで考え事をする陣内の顔を覗き込む。
「いや……この前に助けた女性の傘もこの工房の作だったのかもな、と」
 と答えた陣内に、あかりは少し納得して、そうかもね、と言葉を返した。
 フラッタリーは安全の報告と共に最初来た時から気に入っていたという白梅の舞う朱傘を早速買っていた。
「やっぱり、素敵ですねー」
 と傘を差す彼女の言葉に、嬉し気に目を細める緒傘へと陽斗が、聞いてもいいか? と問いかけた。
「緒傘の兄さんは何で職人になろうと思ったんだ?」
「……親がそうだったからっていうのがあるけど」
 と緒傘は気恥ずかしそうに続ける。
「初恋の人が、和傘をよく使ってたんだ」
 とその話を聞いていたサフィールは、自分の作った傘を盗み見て、もどかしく笑みを隠す。
 この話は、もうやめやめ、と手を振る緒傘はそれでもどこか寂しげで、誇らしげだった。

作者:雨屋鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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