ア・デイ・フォール・ウォーターメロン

作者:鹿崎シーカー

 長かった夕方が過ぎ、夜が来る。群青色に染まる空の下、尺八と太鼓が奏でる祭りばやしにはやされて、夏祭りは一層人混みを増していた。
 屋台各所から上がる湯気。漂うソースやチョコの臭い。射的や金魚すくいの屋台には小遣いを握った子供が群がり、我先にと獲物を狙う。そんな提灯に照らされにぎわう会場を、突如地鳴りが震わせた。
 祭りのさざめきが一瞬で引っ込み、人々の目が震源地の方へ向く。そこには、巨大なスイカが地面をへこます格好で出現していた。訝しむ人々の前で、巨大スイカに横一文字の亀裂が走る。それが孵化寸前の卵めいて動いた、その瞬間!
「見ィィィつけたぞおおおおおおおおッ! うらあああああッ!」
 スイカの上半分が吹き飛び宙を舞う! 中から現れたのは海パン姿の鳥人間。腰回りにしめ縄めいてスイカを巻きつけ、羽毛に覆われた上半身を惜しげもなくさらした彼は、近場の男にスイカをひと玉投げつけた!
「ぐぶぁッ!」
「ここかァ納涼花火大会とかいいやがるのは! エエッ!?」
 鼻血を流して倒れる男を無視し、ビルシャナは丸めたチラシを取り出した。これ見よがしに広げ、読み上げる。
「えー何々ィ? 毎年恒例? 夏の風物詩? ホーホーホーホー……」
 スイカを手近な子供に投げる! ついでにチラシを丸めて投げ捨て喚き始めた。
「何が夏の風物詩だコラァッ! スイカ割りの方が夏の風物詩だろうが! 祭りなんぞ春夏秋冬いつでもできるッ! スイカ割りは今しかできねえんだぞ!? なんでスイカ割らねえでこんなとこに集まってんだアァン!?」
 周囲の人々から返事はない。鼻血を流して泣き出す子供の声が重い沈黙に響く。
「夏の風情がわからん無粋な奴らめ……ならその夏祭りごと滅ばんかいィィィィッ! ッハァ!」
 ビルシャナが翼を掲げると同時、彼の周囲に緑色の魔法陣が浮き上がる。直後、お好み焼の屋台が破砕! チョコバナナ、たこ焼き、スパボーの屋台も潰れ、人々が頭にスイカを食らって気絶する。大量のスイカの雨が夏祭りに振り始めたのだ! たちまち巻き起こる大混乱の渦を見ながら、ビルシャナは高笑いする!
「グワハハハハハハハハ! 夏が来たぞォ! スイカを割れスイカをォ! グワハハハハハハハハハハーッ!」


「スイカ、美味しい季節になったねー」
「そうだねえ」
 牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)にうなずきながら、跳鹿・穫は塩を振ったスイカにかぶりついた。
 夏深まり、学生は夏休みに入ろうかという今日この頃に、ビルシャナの活動が確認された。
 現れたビルシャナの名はメローネさん。『夏と言えばスイカ割りだろ!』と主張するスイカ割り狂信ビルシャナであり、夏はスイカ割りをすることが至高と言ってはばからない。そんな狂信ビルシャナたる彼が、とある花火大会の会場に現れ祭りを滅茶苦茶にせんと暴れ回っているようなのだ。
 現地には客も大勢いるため、このまま放置するのは危険だ。今すぐ現場に急行し、メローネさんの暴虐を止めてほしいのだ。
 そういうわけで、今回の戦場は納涼花火大会会場の中心。より多くの人が花火を見物するために設けられた広場にメローネさんはいる。周囲に一般人多数、さらには屋台も多く立ち並んでおり、人混みも多い。加えて、メローネさんが自らの能力により大量のスイカを降らせている状況だ。
 スイカはメローネさんを中心に花火大会会場全域に渡って降り注いでいるものの、メローネさんから離れれば離れるほど降ってくるスイカの大きさや量は減る。逆に言うと、メローネさん近くが一番多く、大きなスイカが降る地点である。
 メローネさんに配下はいないが、先述のスイカを降らせる能力に加え、スイカを触媒にして水の魔術を扱ってくる。自分で降らせたスイカを使っても構わないようだが、スイカを拾えなければ発動できず、メローネさん自身は近接戦闘を苦手としている。また、彼がダメージを受けるごとに降ってくるスイカの雨は範囲・スイカの大きさ共に縮小していく。
「スイカ割りが夏の風物詩っていうのはわかるけど、どう楽しむかは個人の自由! だよね」
「うんうん。無事に終わったら多分花火も見れるよ。頑張ってきてね」


参加者
安曇・柊(神の棘・e00166)
アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)
牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)
カーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)
シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)

■リプレイ

 夏の花火大会会場に、流星群じみて無数のスイカが降り注ぐ。バスケットボール大の実が鉄板を折り鍋をへこませ水風船をまとめて破砕! 恐怖の破壊光景から我先にと逃げ出す人々のうち、浴衣を着た少女が転ぶ。
「あっ!」
「ちょっと!?」
 前を走る別の少女が振り返った。だが転んだ少女の斜め上方、スイカを持って跳んだメローネさんのシルエット。爛々と輝く鳥の目は転んだ少女に狙いを定める。
「どこ行こってんだコラァッ! スイカを割ってけェッ!」
 ダンクシュートめいて構えたスイカが水化する。肩越しに振り向く少女めがけて、メローネさんは水の球を力任せに投げつけた!
「うおらああああああああッ!」
 放たれる槍めいた水流! 鋭い切っ先が目をつぶる少女を貫く直前、銃声。水が軌道半ばで破裂し飛沫を散らした。
「やれやれ……綺麗に着飾った子に水をかけるなんてね。いくらなんでも無粋が過ぎる」
 片手に白煙くゆらすロングライフル、もう片方に転んだ少女を抱え、小柳・瑠奈(暴龍・e31095)は銃口を上向け連続発砲。落ちてくるスイカをまとめて砕く。そして恐る恐る目を開いた少女に微笑みかけた。
「大丈夫かい? 子猫ちゃん」
「へっ……」
 赤い顔で呆ける少女の頭上を二つの影が飛び越える。群青のサーフボードに乗ったアマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)とヨタローにまたがるシュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)がメローネさんめがけて特攻!
「くっそーいいなぁ! かっこよく女の子助ける役やりたかったなぁ!」
「あの鳥頭を叩き割れば実質女子のナイトです。チェンジ・クルセイドモード!」
 シュテルンが光輝きながら跳躍! 黒基調の剛腕アーマー姿に変身し、降り注ぐスイカをパンチで砕く! その下を虹色の波に乗ってアマルガムが疾駆しメローネさんに高速接近。波乗りしながら横転しサーフボードを投げ槍じみて振りかぶる!
「ナンオラーッ! 夏しかない俺の浴衣女子鑑賞たいむ邪魔しやがって! 絶許だタココラスッゾオラーッ!」
「チィーッ!」
 舌打ちしながらメローネさんは投げサーフボードをバックジャンプして回避! 宙でスイカをキャッチしようとsいた瞬間、光のツバメが突っ込みそれを爆砕。さらにイワシの魚群じみて飛翔する大量のツバメ型光線が周りのスイカもまとめて爆破!
「何ィーッ!?」
 スイカ汁を浴びて叫ぶメローネさんに安曇・柊(神の棘・e00166)がスイカを回避しながら飛び蹴りを打つ! 斜め下に吹っ飛ぶ彼をよそに柊は背後を振り返った。
「ま、マリーさん! ええっと……」
「よい。わらわに任せるのじゃ!」
 柊の真横を過ぎる光のワシからマリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)は戦斧を持って跳び降りる。包帯の両腕から溢れた炎で斧を巻き、コマじみて回転しながら高速落下! 行く手に落ちるスイカを斬り裂きメローネさんに突っ込んでいく!
「スイカを粗末にする不届き者め。わらわが成敗してくれるのじゃ!」
「ぬええい、やってみろッコラーッ!」
 メローネさんは地面に手をつきバウンドし、空中後転体勢復帰。着地点のスイカを蹴り上げマリーを狙いビリヤードめいて掌底で突く! 水の槍に変化し飛翔するスイカは紺の三つ揃いスーツを着たゴーストのロッドにジャンプ殴打され霧散。止まらず降ってくる回転斧斬撃をメローネさんはヘッドスライディングでかわし、梟男爵の足元を抜け滑る!
「ぬおおおおおおおおッ!」
 前に転がるスイカに翼が届くその寸前、黒い編み合げブーツがスイカを踏み割る。立ちふさがった太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)は氷じみた無表情で黒白の二丁拳銃を発砲。鳥の背中に弾痕を穿った!
「だッ! あだだだだだだだだッ!」
 たまらず横ローリングするメローネさん。だが軌道上のスイカは全て柊の鳥型光線と瑠奈の狙撃でことごとく粉砕されていく。逃げ遅れた人々が固唾を飲んで見守る中、広場端に立つスピーカーがノイズと牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)の声を発した。
『えーっと、これでいいのかな? あーこほん。みなさーん! 私達はケルベロスですッ! ビジュアル的にはあれだけど危険だからね。早期の避難、お願いします!』
 避難放送に人々が恐る恐る顔を出す。ためらいがちな彼らにサーフボードをジャイアントスイングしながらアマルガムは叫んだ!
「慌てず、落ち着いて避難してください! 俺達が付いてます! ……どおおりゃッ!」
 空に投げ飛ばされたサーフボードがプロペラめいて回転飛行! 降り注ぐスイカを片っ端から切断粉砕殺しながら宙を自在に飛び回る。雨のように降ってくるスイカ片を脱いだコートで振り払いながら、瑠奈は少女達に微笑みかけた。
「さ、ここは危ない。行って」
 こくこくうなずいて走り去る浴衣の背を見送り、逃げていく人々の頭上に落ちるスイカを撃ち抜く。メローネさんは柊の光線を避けながら、広場を全力で駆けまわる。その目前にシュテルン飛び出しボディブロー!
「『隼六花・襲爪』ッ!」
「危ねええええッ!」
 重い拳をすんでのところで飛び越え避けるメローネさんの顔面に雪めいて白い子猫が飛びつく。猫は剣呑な声で一回鳴くと爪を立ててガリガリ引っかく!
「んぎゃあああああ! 離れろッコラーッ!」
 羽をむしられながら転がる鳥にマリーが大斧を掲げて飛び込んだ。千枝の追い風に押されるままに斧を振る!
「篁流回復術、『神渡し』」
「直るがよい鳥頭ッ! せいッ!」
 寸前で猫を引っぺがしたメローネさんは慌てて起き上がって断頭斬撃を回避! 斧が当たった地面が破裂し巻き起こった暴風がメローネさんをつんのめらせる。直後、再びスピーカーがノイズを吐いた!
『みんな、ちょっと鳥から離れて! 行くよリアちゃん、篁流二連撃ィッ!』
 遠くの屋台群から赤い竜巻が空へと伸びた。細く鋭い竜巻は先をメローネさんの方へ向けて一気に直進。紅蓮のドリルじみて回転突撃してくるのは刀を突きの形に伸ばしたカーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)だ!
「見つけたぜ鳥野郎ッ! 覚悟しやがれッ!」
「えええええええ!?」
 目をむいたメローネさんは体勢を崩したまま辺りを見回す。バレーボール大まで縮んだスイカは空中を飛ぶサーフボードに、鳥型の光線に、狙撃によって片っ端から砕かれていく! 恐慌を来して悲鳴を上げるメローネさん!
「す、スイカ……スイカはどこだァーッ!?」
「ねえよそんなもんッ! 食らいやがれッ!」
 カーネリアが言い捨て回転を増し急加速! そのまま槍めいて突撃しメローネさんを貫いた!
「『蝕・金剛輪』ッ!」
「ぎゃああああああ……!」
 胴に大穴を穿たれた瞬間、メローネさんは水と化して地に落ちる。直後、離れた場所にあったスイカが水風船じみて破裂! 透明な飛沫を飛ばしてメローネさんが現れた! 撃ち落とし損ねた大量のスイカを抱えて怒鳴る!
「なんて言うと思ったかァァァッ! ザッケンナコラーッ!」
「うぇっ!?」
 鳥の瞳が動揺した柊を捉えた。手にしたスイカを全て水化し、メローネさんはそのまま回転。勢いを乗せ水を柊めがけて投げつけた!
「水精魔術・『水禍流砲』ッ!」
「え、え、わっ……!?」
 極太ビームじみた激流が柊へ一直線! 千枝はカーネリアと素早く激流の下に潜り込む。
「リアちゃん、わかっていますね?」
「も、もちろんだぜセンパイ! 篁流剣術!」
 同時跳躍した二人が頭上斜めに走る波へ刃を突き刺し、刀に炎と光を流す。剣を奪おうとする激流に逆らい、刃を一気に振り下ろした!
『「潭月」!』
 刃の光と炎が大爆発! 半ばから滅茶苦茶に吹き飛ばされた激流の先端のみが柊に向かう。腕で顔を覆う彼を瑠奈が抱きとめ激流の破片を華麗に回避。頭上に降りくるスイカはシュテルンが拳で叩き割った。
「大丈夫かい?」
「えっ? え、あ……」
 腕の隙間から覗き見る柊を見返し、瑠奈は優しげに微笑んだ。
「無事でよかった。ちょっと間に合わないかと思ったよ」
「いや、あの、その……こ、困ります……」
 頬を染めて目を逸らす柊を下ろすと同時、メローネさんが怒声を上げた。
「畜生ォ! なんだってんだよぉッ!」
 スイカをバスケットボールめいてバウンドさせながら、メローネさんは威嚇する。スイカの雨を挟みにらみ合う両者。
「横合いから出て来てフルボッコにして邪魔してよお! 誰の許しがあって暴力振るってんだ! 俺はスイカ割りを推進してるだけだぞ! エエッ!?」
「黙るがよいわ鳥頭ッ!」
 戦斧を肩に担いだマリーは包帯に巻かれた人差し指を突きつける!
「スイカ割りをする分には構わん。一向に構わん。じゃが、おぬしはスイカを暴力に使い、魔術の触媒にし、武器として消費しておる! それは食べ物を粗末にすることじゃ! 絶対に許せんのじゃ!」
「私達、きっちりスイカ割ってます。怒られる謂れはありません」
「粉砕しろって誰が言ったよ!?」
 さらりと述べるシュテルンにメローネさんは足でスイカを集めながらツッコんだ。だが彼の方へ転がるスイカは銃声と共に弾け飛ぶ。静かな怒りを瞳に燃やしつつ排莢する千枝に冷や汗をかきながら、柊はたじろぎながらも舌鋒を放つ。
「……や、やってることはその、スイカ割り推奨って言うより、食べ物を無駄に落として潰してるだけじゃないですか……! す、スイカ割りを夏の風物詩だって言うなら、きちんと手順に則って色々用意して出直して来てくださいっ!」
「ンだとオラァッ!」
「ひぃっ!」
 怒鳴られた柊はさっと梟男爵背後に避難。瑠奈はライフルに弾を込め、手元に戻ってきたサーフボードをキャッチしたアマルガムは足元に虹色の光を湧かせた。ボードをその上に倒して片足をかけ、三本指を突き立てる。
「さて、お祭りを楽しむ仔猫ちゃん達を怯えさせた罪は重いよ。わかっているね?」
「ついでに教えてやろう鳥。お前を許せない理由は三つ。ひとつ、女の子にスイカをぶつけようとしたこと。ふたつ、浴衣の女の子に襲いかかったこと。そしてみっつッ!」
 地面についた足で地を蹴りスタート。虹の光を海原代わりに高速サーフィンを敢行!
「俺の夏祭りで浴衣姿の女の子眺める機会を奪ったことだ! ビルシャナしすべし慈悲は無いぶっ飛べえええええええッ!」
 急加速するアマルガムの後ろで瑠奈は銃を連射する! 一度に数個を同時に撃ち抜きメローネ周囲のスイカも狙撃! メローネさんが構えたスイカも彼の翼の中で破裂。横合いから飛び出した奏音はアサルトライフルの引き金を引く!
「『青鎌雨』ぇッ!」
 弧を描いて飛ぶ青光線がメローネさんのスイカを次々破壊する。舌打ちして別のスイカを取らんと横っ飛びするメローネさんに虹を広げて急カーブしたアマルガムが飛びかかった。
「拾わせねーよっ! スイカみたいにその汚い顔を吹き飛ばしてやる!」
「鬱陶しい野郎めッ!」
 股間狙いのジャンプパンチをメローネさんは開脚回避! 後方に吹っ飛びながら転がり背後のスイカに手を伸ばす彼の体を複数の銀の針がかすめて斬り裂く。走るカーネリアは籠手に生やしたトゲを連続投射! 獲りかけたスイカは奏音の曲がるビームが破壊!
「へっへーん、足元がお留守だぜ! 簡単には拾わせねえよッ!」
「勿体無いけど仕方ない! その分後でシメてやるッ!」
「畜生ォーッ!」
 体勢を崩し尻餅をつくメローネさんに千枝が高速スプリント! 腕に出したホロパネルにカードを並べて追い風を生み低空跳躍回し蹴りを叩きこむ!
「『横雪』ッ!」
「『水化門』ッ!」
 水化したメローネさんを蹴りが散らす。同時に柊頭上のスイカが弾けメローネさんの姿となった。周囲のスイカをかき集めてまとめて水化。膨大な量の水が伸び、巨大な刃を作り出す!
「水精魔術・『断頭水渦』ッ! 叩ッ斬ってやるッ!」
 メローネさんは水の大剣を大上段に振り上げる! それを見上げた柊は冷や汗を流しつつも意を決し、手の鳥籠を大きく振った。右手のブレスレットと指輪を繋ぐ銀鎖が微かに瞬き、アメジスト色の光を放出! 振り下ろされた水の剣を紫の大翼が受け止めた!
「うんぬぉぉおおおおおおッ!」
「……っ!」
 力任せに押し込む刃を必死で防ぐ。メローネさんの真上にシュテルンが跳びあがった。両手で持った青いサーフボードを限界まで背中を曲げて振り下ろす!
「サーフボードだッ!」
「ちょっと待ってそれ俺の!」
 サーフボードの先端が鳥の背中に突き刺さった。天を向くボードの後端をシュテルンは全力のラッシュで押し込む!
「いくら喚んでも無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄WRYYYYYYYYYYYYY無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
「アバババババババババーッ!」
 ボードが鳥の体を貫通し水の剣が霧散する。半分埋まったボードをつかんだシュテルンは空中で数回転しメローネさんもろとも投げた!
「無駄ァァァァッ!」
「アバーッ!」
 宙を舞うメローネさんめがけ、マリーがぐっと屈んで大ジャンプ! 野球ボールほどまで縮んだスイカをまとめて跳ね返して接近、引っかき傷だらけの顔面に虫よけスプレーを吹きかける。
「夏と言えばこいつもじゃ。ほれ、かけてやろう」
「アババババーッ! シミルーッ!」
 絶叫するメローネさんの頭を踏んづけ、アマルガムはサーフボードの真上に逆立つ。引き絞った拳で、サーフボードを杭めいて打つ!
「てめぇの果汁は……何色だァーッ!」
「アバーッ!」
 サーフボードに射抜かれたメローネさんは高速落下。昆虫標本じみて地面にぬい止められた彼に、肩を回しながら奏音が近づく。
「さーて、良い感じに温まって来たし……食べ物粗末にする輩は直接砕く! 割って良いのは割られる覚悟があるヤツだけだ……!」
「や、やめろ! 一体何をするつもりだ!」
 胴体貫通されたまま、メローネさんはバタバタもがく。刺さったサーフボードの根元に奏音は銃弾を撃ち込んでいく。命乞いをするメローネさん!
「待て! 俺はもう戦闘不能だ!」
「だからどうした! 中止に追い込まれそうになった花火の恨み思い知れ!」
「ヤメローッ!」
 奏音は悲鳴を上げるメローネさんの下、サーフボードの根元を銃撃! 刻まれた銃痕が大爆轟を引き起こし彼をボード諸共夜空に飛ばす!
「瑠奈さん、やっちゃって!」
「いいのかい? ふふ、ならお言葉に甘えようかな」
 小悪魔的に笑った瑠奈は長い銃をくるりと回す。夜空の彼方にすっ飛んでいくメローネさんを照準。
「じゃあ閉幕だ。Hasta la vista!」
 引き金を引き銃を発砲。橙色の閃光に撃ち抜かれ、メローネさんは花火めいて爆発四散した。


「ふぅ……こんなものですかね。お二人とも、ありがとうございました」
 うず高く積もったスイカの掃き溜めを見上げ、千枝はようやく一息ついた。掃除に協力した二人のうちゴスロリ幼女の方にアマルガムが駆け寄る。小脇にはバスケットボール大のスイカ。
「おおっと待った。ミッシェル、花火大会見てかない?」
 こてんと首を傾げる幼女。その様子を見た瑠奈がクスクス笑う。
「中々隅に置けないね、アマルガム君?」
「いや、ナンパじゃないって!」
 慌てて抗弁し、アマルガムは後ろ頭をかきむしる。
「あー、どうせ花火見るなら誰かと一緒に見たいなってさ。花火、上がるかわかんないけど」
「……たぶん、大丈夫です」
 梟男爵の背後から、柊がひょっこり顔を出した。隠れ、目を泳がせながら小さく報告。
「い、一応花火ぐらいは上げるって。お店もヒールして、お店の人達、戻ってきたので……た、たぶん大丈夫……だと、思います」
「お、花火上がるんだ。……で、柊さんはなんでその位置?」
 奏音にツッコまれ、柊は所在なさげに梟男爵の後ろに引っ込む。カーネリアはシュテルンに目配せ。スイカをひとつ受け取り、無造作に放る。
「柊、パス」
「えっ……わっ!」
 梟男爵の頭上を超えたスイカを柊は危うくキャッチ。バスケ選手めいて指先で回転させたスイカを浮かせて手にしたカーネリアは足元でプニプニ跳ねるオウガメタルを連れて屋台へ向かう。
「んじゃ、花火始まる前になんか買いに行こうぜ。リンゴ飴とか焼きそばとかさ!」
「待つのじゃ。わらわはかき氷が食べたいのじゃ」
「私はスパボーで。スイカ切る用の包丁とか借りれますかね」
 スイカを抱えたマリーとシュテルンが後に続き、連なる屋台に駆けていく。一方で、瑠奈は柊に手を差し出した。
「不安なら、私がエスコートしよう。それとも、私では役に不足かな?」
「……だ、大丈夫ですっ」
 逃げるように走る柊に肩をすくめるアマルガム。振り返りつつ、千枝と幼女に呼びかける。
「俺達も行こうぜ。せっかくの夏の風物詩なんだ、みんなで楽しまないとさ」
「あ、待ってください。残ったスイカを……あっ」
 掃き溜められたスイカの山を黒い掃除機がまとめて吸引。小首を傾げる幼女にほんのり苦笑する千枝の背に、奏音が声を投げかける。
「千枝さーん! みんな行っちゃうよーっ!」
「はーい、今行きますよ!」

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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