●トイレに出たアレ
「ぃやああぁぁ!!」
デッキブラシ片手に走ってきたのは、制服を着た女子高生。彼女は屋外プール備え付けのトイレの方向から校庭に向かって20メートルくらい走って、止まった。その時間、丁度帰りの掃除の時間で、周りには誰もいなかった。他の生徒たちは、恐らく手早く掃除を済ませ、帰ってしまったのだろう。
「ここまでくれば大丈夫……きっと……。にしても、ムカデ……やっぱり、日陰にあるトイレだからかな……」
彼女はぶつぶつ呟きながら、デッキブラシを握りしめた。
「足がいっぱいあるの、やなんだよね……」
そう言った瞬間、彼女の心臓は巨大な鍵で貫かれ、崩れ落ちる。デッキブラシが、カランと音を立て地面に転がる。その隣に身長130センチくらいのムカデが現れた。その胴体の中心は、モザイクで覆われている。
「あはは、私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないかな」
鍵の持ち主は、第六の魔女・ステュムパロス。
「キシャァァ」
ムカデ型ドリームイーターは、足をもぞもぞ動かしながら、唸り声を上げた。
●苦手なもの
「みんなは苦手なものはあるか? ゴキブリとか、ナメクジとか……。マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)の依頼で調べていたら、トイレに現れたムカデに対する『嫌悪』が奪われ、それを元にしたドリームイーターが現れた事がわかった。ドリームイーターを生み出したドリームイーターはその場を去っているが、生み出されたムカデ型ドリームイーターはその場に残り、事件を起こそうとしている。このドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してきて欲しい。また、ドリームイーターを倒せば『嫌悪』を奪われた被害者も目を覚ましてくれるだろう」
雪村・葵(ウェアライダーのヘリオライダー・en0249)は、ヘリポートに集まったケルベロス達に事件の概要を説明をする。
敵のドリームイーターはムカデ型で、歯で噛み付いてきたり、毒を飛ばしてきたりしてくる。また、しっぽあたりから90度直角くらいに立っており、沢山の足の内手のあたりの足で鍵を持っていて、これでも攻撃が出来るようだ。驚くほど足の動きが速いらしいが、特に戦闘に活かしてくる訳では無いらしい。ドリームイーターは一体、配下などは存在しない。
「生理的に嫌なものは仕方ないが、それに対する『嫌悪』を利用してドリームイーターにするのは許せないな。是非、早めに倒してきてほしい」
そう言って、葵はケルベロス達を見送った。
参加者 | |
---|---|
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103) |
ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089) |
卯月・裕平(山籠り・e15650) |
白峰・真琴(いたずら白狐・e16172) |
カティア・エイルノート(蒼空の守護天使・e25831) |
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685) |
●VSムカデ
「それでは、生徒さんたちはプールから離れた所の……そうですね、体育館に集合させて下さい」
不安が広がるのを防ぎ、かつ野次馬の侵入を防ぐため詳細は伝えず、しかしケルベロスの要請である旨はしっかりと説明し、姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)は職員室の教師たちに頭を下げた。
「わかりました。他に何か、ご協力できる事は?」
主任であるという教師の申し出に、マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)は少し考えてから、口を開く。
「生徒達に緊急事態だって悟らせないで貰えると助かる」
その返答に主任は少し考えてから、頷いた。
「わかりました。任せて下さい」
「よろしくお願いするのです。すぐ終わらせるのです。あと……できれば、保健室を空けといて下さいなのです」
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はそう言い残し、他のケルベロス達と共に職員室を後にする。
その後すぐに、臨時の避難訓練で部活中の生徒も体育館に集合するように、という校内放送が校舎内に響き渡る。
「なんだろうね」
「さぁ……取り敢えず行けばわかるんじゃない?」
首を傾げながらも体育館へ向かう中学生達と時々すれ違いながら、校舎を出て、屋外プールへ走る。
「前は『恐怖』を相手にして……今回は『嫌悪」……、どうして負のイメージばかり……。ドリームイーターは、酷いです」
走りながら、楓は呟く。だけど、この恐怖と嫌悪に打ち勝たなければ、と気合いを入れる。
ケルベロス達はプールの横を抜けて、備え付けのトイレへ。そこから、約20メートル。
「大きなムカデ……怖い……」
視界に入った大きなムカデ型ドリームイーターに、カティア・エイルノート(蒼空の守護天使・e25831)が平坦な声でそう零す。
「はぅ……あまり直視したくないです……」
そう言いながらも赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)はキープアウトテープを手にする。この場に他の生徒が近寄らないようにする為に。一応教師たちには先程避難させるよう要請してはいるが、それでも誰か来ないとも限らない。
「ここまでデカくてわしゃわしゃしてるのは……かえってシュールかも……。マスター、私が付いていますよ」
いちごとムカデ型ドリームイーターの間に立つのはピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)。
虫が苦手なマスター、つまりは彼女のメイドとしての主人、いちごの為に、視覚的な盾となる事を決めたピアディーナ。
「ありがとうございます……!」
あんまりピアに頼り切るのも良くはないけれど、と涙目ながら思いながら、いちごは素早くキープアウトテープを貼っていく。
「でかいムカデか……。被害が出る前に害虫駆除といくか!」
気合いを入れて斬霊刀を構えた卯月・裕平(山籠り・e15650)。それに応えるように、ムカデの足がワキワキシャカシャカ動き出す。
「っわ……!! 気持ち悪いから動かないでよ!!」
その足の動きが思ったより気持ち悪く、裕平の隣で同じように身構えていた白峰・真琴(いたずら白狐・e16172)がパニック気味に叫ぶ。武器も放り捨てそうな勢いの真琴に慌てた裕平は、思わずムカデを二度見する。
「お、おい真琴、ちょっと落ち着けって。……そんなに気持ち悪いか?」
裕平の目には然程気持ち悪く映らないようで、彼は平然としながら首を傾げた。
「あっ、居た! 今のうちに……」
現場に着くなりきょろきょろと辺りを見回していたマルレーネが探していたのは、今回の被害者。戦闘に巻き込むのは避けたい、と考えた彼女は、さっと駆け寄って被害者の脇に手を回し、抱え上げる。
「少しの間、敵を頼むよ」
その声に、真理は若干引きつった顔で大きく頷く。
「ひっ……ま、任せてなのです」
真理がムカデの動きを見て小さく悲鳴を上げるのを見て、マルレーネは眉間に皺を寄せた。
「なるべく急ぐ」
申し訳ないというかそばにいてサポートしたいというかなんというか。心の中でそんな様子の真理に後ろ髪引かれる思いはあるものの、被害者の無事を優先しなければ。
マルレーネは急いで被害者を安全な所、具体的にはいちごの貼ったキープアウトテープの外側まで移動させるべく、行動を開始する。
カティアは、ムカデを前にすっと大きく息を吸って、歌う。
「その世界は既に終わりが確定した世界だった……」
カティアの奏でる、朽ちた世界で幸せを運ぶ不思議な道化師の詩が、味方へと不思議な力を与えていく。
「ひぃっ! ウジョウジョお化け!!」
前後左右に微妙に移動し始めたムカデ型ドリームイーターを見て、楓が悲鳴を上げる。あまりの気持ち悪さに嫌悪を通り越して最早恐怖だ。楓は涙目になりながら、祈る。
「私の中の異形の魂……お願い! 嫌悪を司る悪夢を……払って!」
そして、楓は自身の体に宿るデウスエクスの力の一端を解放していく。
「私を……皆を助けてあげて……!」
楓の使用した覚醒・逢魔ノ時により、楓の人格は『カエデ』に代わる。
「古来には巫蠱という蟲を媒体にした術がある。蟲を巨大化する術が実在しても、きっと可笑しくは無かろう……が! やはり嫌なものは嫌じゃ!」
戦うために表に出てきたカエデではあるが、彼女も彼女でムカデは嫌だったようだ。カエデは嫌な顔をしながら、オウガメタルを顕現させ、構える。
「プライドワン! 行くですよ!」
真理の声に応え、ライドキャリバーのプライドワンはドリームイーターにデットヒートドライブで突撃していく。
「あのモゾモゾした沢山の足とか、ツヤツヤした感じとか……嫌悪の気持ち、凄くよく分かるのです……っ!!」
真理はドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形させ、竜砲弾。撃ち込んで行く。
「触らないように……って訳にもいかないし、少しでも早く倒せるよう全力でいこう!」
混乱が一周回ってやる気が出てきたかもしれない真琴は、ケルベロスチェインを操作し、ムカデ型ドリームイーターを捕縛した。
「キシャァァァァ!!!」
締め上げられたドリームイーターはものすごい勢いで足をバタつかせ、ケルベロスチェインを振りほどこうと暴れる。
「うわっ……やっぱり気持ち悪いっ!!」
「だから落ち着けって」
表情筋を痙攣らせる真琴に、裕平は苦笑しながら駆ける。
「でもな、早く倒さないといけないのは確かだ。被害が出る前に害虫駆除といくか!」
そして、裕平は斬霊刀を大きく振りかぶる。
「お前の動き、見切ったぜ」
目を閉じて研ぎ澄ませた感覚の元放った一閃、一葉知秋はドリームイーターの胴体を横に、ついでに足を数本斬り落とした。
「キシャァアアアッッッ!!」
悲鳴のような声を上げるドリームイーターは真琴のケルベロスチェインを振り払う。
「作業、おわりました……!!」
そう言って駆けてきたいちごは、うごうごと悶絶するドリームイーターの姿に小さく悲鳴を上げる。
「マスターこちらに。もし、どうしても無理そうでしたらタイムチェイサーの陰に隠れていても構いませんよ」
ガトリング『ドラゴンパイル』の銃口をしっかりとドリームイーターへ向けて連射しながら、ピアディーナはライドキャリバーのタイムチェイサーを呼び、そしていちごを抱き寄せて目隠しする。
「はわわっ!! でも……だ、大丈夫ですっ!!」
ピアディーナに抱き寄せられて赤面したいちごだが、直ぐに気合いを入れてぐっと両手を胸の前で握り締めた。
「なら、一緒に頑張りましょう」
そこへ被害者の避難を済ませたマルレーネも仲間達の元へと走ってきた。
「ん、待たせた」
武器を構えるマルレーネ。その時、ドリームイーターがぐねぐねと身体を蠢かせて、ぱかんと口を左右に開いた。
「危ないのですっ!!」
「思い通りにはさせないぜ!!」
それを見た真理と裕平がドリームイーターと仲間達の間に身体を割り込ませた。その瞬間、開いた口から放射状に毒が吐き出される。
●転がるムカデ
「くっ……」
「結構……キツイな」
毒を浴び、ぐらりとゆれる真理の身体。その横では裕平ががくりと膝をつく。
しかし、毒はそこだけに留まらず、僅かに他のケルベロス達にも飛び散って少しずつではあるがダメージを与えている。
「今治しますから、少しの間耐えてて下さいね……!! アリカも、よろしくお願いしますっ!!」
仲間達のその様子に、いちごは歌う。
「私の力を貴方に。聞いてください、この歌を」
いちごの歌う「苺の守り人に捧げる、呪いを打ち破る力の歌」は、仲間達の傷を癒す。
そして、いちごと同じようにサーヴァントであるボクスドラゴン、アリカも仲間達の間を飛び回り、回復を施していく。
「うん…………ボクも、手伝う」
カティアも頷き、「ブラッドスター」を歌い上げる。正直、大分ムカデのことを気持ち悪く思っているが、カティアの表情は殆ど変わらない。しかし、なんとなくカティアの歌には、いつもよりもムカデに対する殺気に近い嫌悪が込められているように聞こえた。
「っ……真理、一緒に頑張ろう!」
仲間達を庇ってくれた真理の肩にぽんと手を置き、マルレーネがきっとドリームイーターを見据える。
「マリー……。うん、頑張るです!」
そんなマルレーネに応えるために、真理は立ち上がる。
「キシャア?」
その様子に首を傾げるドリームイーターに、マルレーネは手をかざす。
「霧に焼かれて踊れ」
マルレーネの発した強酸性の桃色の霧は、ドリームイーターを包み込む。
「プライドワン! 行くです!」
そこへ、プライドワンのハンドルをしっかりと握った真理が、プライドワンに乗ったまま炎を纏いながら突進して行く。
「キシャッッッッ!!!」
勢いそのままに撥ねられたドリームイーターは、ゴロゴロゴロゴロ転がって行く。
「早く滅べ」
転がった先に居たのはカエデ。
「キシャァ……」
極限まで冷たくなった視線に、ドリームイーターは力なく呟いた。次の瞬間、カエデの稲妻を帯びた高速の突きがドリームイーターの身体を貫いて行く。
「キシャッ! キシャッ! キシャァッ!!」
ドリームイーターは、今度は自分の意思で転がりながらその殺気を帯びた突きを避けようと試み、数突きされた後なんとか避ける事に成功し、立ち上がる。
「さっさと……消えろ!」
なんとか立ち上がったドリームイーターへ、真琴が走りこむ。拳を握り、圧縮した闘気を雷へと変換していく。そして、その拳をドリームイーターへと。
「喰らえ! 雷龍!」
拳から放たれた雷の龍は、ドリームイーターへと真っ直ぐ襲いかかる。
「キシャァッ!!!!」
しかしドリームイーターはまだ倒れなかった。大分動きの鈍くなったドリームイーター。しかしまだ、足は先程より速度こそ遅くなっているものの、ワキワキと動いている。その内一本の持つ鍵が、辺り構わず振り回され、床を抉り、プールの外壁を削っていく。
「危ないなぁ……さっさと叩き潰してしまいましょう、マスター!!」
そう言って、ピアディーナはタイムチェイサーに跨り、ドリームイーターへと突っ走る。
「ピア!!」
炎を纏って突進するピアディーナに、いちごは意を決してドリームイーターを真っ直ぐ睨みつけ、手を伸ばす。いちごの手から伸びたブラックスライムは、ピアに突き飛ばされたドリームイーターへと真っ直ぐ伸びて、そのまま飲み込んだ。
「捕まえました! ピアさん、今です!」
ピアディーナはいちごからの合図にタイムチェイサーから飛び降りて、リボルバー銃口のレオンを構える。
「Good! マスター、伏せて!」
そして、ピアディーナは引き鉄を引く。
「回り道しても、ゼロ秒だ。悪いけど、見切らせないよ」
ゼロタイム・リフレクト・バレットは、正確にドリームイーターのモザイクを撃ち抜いた。
「キシャ……ァァァ」
ドリームイーターは最後に僅かに呻きをあげ、崩れ落ちた。
「お、終わった……?」
それを見た真琴が、ぽつりと呟く。その一言を合図にしたように、ケルベロス達は避難させた被害者の元へと走っていった。
●さよならムカデ
「じゃあ……この子の事、よろしく」
目を覚ました被害者を連れて、いちごとピアディーナは保健室へと向かった。
「ありがとうございます……!!」
「いえ……私もあまり、虫は得意じゃないので……」
そう言って彼女に背を向けるいちごに、ピアディーナが笑顔を向ける。
2人はプールの方へと帰り、補修作業とトイレ掃除をやっていた仲間達に合流する。
「やっぱり、ちょっとは壊れちゃいましたね……」
悲しそうに言う楓は、丁寧にプールの外壁をヒールで治していく。
「私も手伝うよ!」
ルナティックヒールでそれを手伝っていくピアディーナ。いちごもそれに続き、虫に気をつけながら地面の穴をヒールで埋めていく。
「綺麗にして……帰ろう……」
その横では、カティアもプールの補修作業を頑張っていた。カティアとしては、兎に角ムカデを無事倒せて良かったとほっとしているのだが、その表情は殆ど変わらない。
「別にムカデさんが嫌いとかではないのですが……苦手なものは苦手なのです……」
ゴシゴシとデッキブラシで気合いを入れて、トイレの床を磨く真理に、マルレーネが苦笑する。
「まぁ、仕方ないな」
誰にだって苦手なものはある。取り乱したことを思い出して赤面する真理を、マルレーネは優しく励ました。
「あ、いたいた」
ヒールを終えた裕平は、ムカデを見つけてしゃがみこむ。
「えっ、ムカデ?!」
さっきまで戦っていた巨大ムカデが脳裏を過ぎった真琴が顔を顰めた。
「普通サイズだけど」
そう言いながらムカデを指差す裕平だが、それでもアレを見た後だと少し嫌だ。楓も同じように顔を顰めつつ、なるべくそっちを見ないよう、視線を外す。
「じゃあ……協力いただいた生徒さんや教師の方々に、終わったと報告しに、いきましょうか」
顔を背けたままの楓の提案に、ケルベロス達はそれぞれ頷き、体育館に向かって歩き出した。
作者:あかつき |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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