宵闇ランプは薄暗く

作者:雨音瑛

●少しの光が灯る店
 砂倉・明美は、アルコールランプを吹き消した。
 店内に並べられた、というよりは敷き詰められたランプはどれも少し暗い。ぼんやりと光るランプたちを眺めて、明美はため息をついた。
「この店も、今日でおしまい。……こんなことなら、普通のランプ売れば良かった……!」
 カウンターでほおづえをつく明美。いつの間にか彼女の背後に立っていた第十の魔女・ゲリュオンは、明美へと鍵を突き入れる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 そのまま明美はカウンターへと突っ伏し、意識を失う。
 代わりに立ち上がったのは、黒いエプロンをつけた女性――ゲリュオンによって生み出された、ドリームイーターだった。

●ヘリポートにて
 空の端に、橙色が滲む。その色を目に映し、茶菓子・梅太(夢現・e03999)が口を開いた。
「ええと、俺の警戒していた事件が起きた、って聞いたんだけど……」
「ああ。あまり明るくないランプだけを取り扱う店が潰れ、店主の『後悔』が第十の魔女・ゲリュオンに奪われた。ゲリュオンの行方は不明だが、『後悔』を元にして現れたドリームイーターが事件を起こそうとしている」
 ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が今回ケルベロスに依頼したいのは、新たに現れたドリームイーターの撃破。このドリームイーターを撃破すれば、被害者も目を覚ますという。
「店長のような格好をしたドリームイーターが一体。これが今回戦う相手だ。状態異常が厄介な攻撃を得意としている。そして店長ドリームイーターは店に近づく人を店の中に引き入れ、強制的にランプを見せて買うように促す」
 これを心から楽しんだ場合は見逃してもらえることもあるが、普通の一般人ならば戸惑い、殺されてしまうという。
「この時ランプを楽しそうに選んだり、購入したりすることで店長ドリームイーターは満足する。そうすれば、店長ドリームイータの戦闘力が減少して有利に戦えるというわけだ」
 その他、店長ドリームイーターを満足させてから倒した場合、意識を取り戻した被害者の後悔の気持ちが薄れ『前向きに頑張ろう』という気持ちになれる効果もあるそうだ。
「どのように進めるかは、君たちの判断に任せよう」
「薄暗いランプのお店、か……使いどころをしっかり考えれば売れそうだけど……。ひとまず、店長ドリームイーターの撃破が優先だね」
 藍色を増す空を眺め、梅太はつぶやいた。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
チャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)
茶菓子・梅太(夢現・e03999)
花露・梅(はなすい・e11172)
テトラ・カルテット(碧い渡り鳥・e17772)
アトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)
シエラ・ヒース(旅人・e28490)
マルレーネ・ミオソフィア(リリーマルレーン・e36254)

■リプレイ

●灯
 少しばかり軋む床板の上を歩きながら、シエラ・ヒース(旅人・e28490)が小さく息を吐いた。
「明るいものと、暗いもの。どちらにも良いところがあるわ」
「確かに照明としては弱いですが、夜中に物想いに耽る時には最適かと」
 同意を示すのは、チャールストン・ダニエルソン(グレイゴースト・e03596)。
「そうね。夜寝る前に、もの想いに浸る時、小さく揺れる灯りが良いわね。沈み込むのよ、自分の中に。そんな灯り、好きよ」
 歌うように告げ、シエラはゆっくりと店内を見て回る。歩みに合わせて、腰に下げた携帯照明が揺れた。
「おぼろげな光を放つ揺らめく炎は心の内面をそうっと照らし……その人が忘れていた昔の出来事や思い出を優しく照らして甦らせてくれる……そんな役目がこの子たちにはある気がします」
 チャールストンは目を閉じ、まぶたに弱い光を感じる。
 明るさは控えめながらも、灯る光の色はさまざま。青、白、赤、黄など、珍しいものでは2、3色が同時に点灯するランプもある。
「なるほどー、色々あるのデスな! これもまたロックデス!」
 と、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が感心したようにランプに顔を近づけた。焦点がぼやけるくらいに近づいても、ほんのり暖かさを感じるだけだ。
 顔を離し、シィカは店長に呼びかける。
「店長サン、ロックな感じのランプは置いてないデスかー? あったらぜひとも見たいデース!」
「ふむ、こちらのものはいかがでしょうか」
 偽の店長が示したのは、黄色いアクリルで出来たギター型のランプ。中の電球を通して、黄色い光が弱いながらも周囲を照らす。
「これはまたロックデスねー!」
 シィカの反応に、店長は優しく微笑んだ。アトリ・セトリ(深陰のスプルース・e21602)もまた、店長に声をかける。
「自分も質問いいかな? 猫の形をしたランプの取り扱いはある?」
「では、こちらへどうぞ」
 店長はうなずき、背の低いランプを置いてあるコーナーへ向かう。その一角に、猫の形をしたランプがいくつか。「電気猫の集会」という小さな張り紙もある。
「これは凝ったスペースだね。邪魔しないように、そーっと見させてもらうよ」
 と、猫たちにそっと声をかけ。アトリは上から横から、あらゆる角度からほのかに光る猫たちを眺めた。
 猫のランプに、マルレーネ・ミオソフィア(リリーマルレーン・e36254)も興味を示す。
「とってもすてき、ね。レーネ、よる、まっくらだとねむれない、の。ねえ店長さん、おへやにかざれるかわいいランプ、あるかな?」
 ちょうどいいランプがあったらよく眠れるかもしれないと、マルレーネはママ・シエラにも話しかける。
「でしたら、こちらは?」
 マルレーネはウイングキャット「ママ・シエラ」を抱きしめ、示されたものを凝視した。丸まって眠る猫の中に、青白い光を宿すランプだ。
「ね、このランプ、ママにそっくりだよ」
 マルレーネの言葉に、ママ・シエラはランプに向けて前足を伸ばす。
「……あ、ママ、ランプにいたずらしちゃだめ、だってば!」
 言われ、ママ・シエラは前足をすぐに引っ込めた。マルレーネはくすりと笑い、ママ・シエラを肩に乗せる。
 優しい光を前にしてテンション控えめ、声も小さめなのはテトラ・カルテット(碧い渡り鳥・e17772)。
「やははーっ♪ 癒されるね、あたしの碧色はあるかしら?」
 きょろきょろと見回しながら、テトラは光の中を歩く。気に入ったのを何個か買おうと、目星を付け始める。
 足を止めたのは、硝子の妖精がほんのり光る場所。金色に光る不思議な佇まいに、テトラはすすすと距離を詰める。
「うぅむ納得の気品……あたしの旅のお供にならない?」
 妖精の鼻先に指を近づけ、笑顔で囁いた。まるで、魔法をかけるように。

●探
 薄暗い店内では、離れた仲間の顔は見えない。それでも、動きや声でなんとなく誰なのかはわかる。
「……雰囲気があってよいと思うのだけど、ね」
 実用としては、使いどころが難しい。揺れる光をのぞき込み、茶菓子・梅太(夢現・e03999)がそっと言葉にする。
「……淡い光はこころがやすらいで、すき」
 色や形だけでなく、シェード自体の細工もさまざまだ。目移りしながらも、梅太はランプを眺めては店内を歩く。
 さまざまがランプがある中、目的のものを探すのはなかなかに難しい。
「わたくしは小さめのランプ……腰に下げて足元を照らしたり、ちょっとした時に使える物が欲しいのですがオススメなどはありますか?」
 花露・梅(はなすい・e11172)の問いかけに、店長はこくりとうなずいた。梅は破顔し、小さくはしゃぐ。
「ぜひ、ぜひ、オススメの中から選びとうございます!」
 小ぶりなランプを集めた場所に案内されれば、思わず嘆息が漏れる。
 鞄型やラジオ型や虫かご型といった、腰に下げても違和感のないデザインのもの。ティーポットや本、黒電話などユニークな形のもの。
 さらに小さいものもありますよ、と店長が引き出された引き出しを指差すと、ペンダントとして加工されているものがずらり。ペンダントトップとして輝くのは、小さな電球や宝石のカットをイメージしたもの。
 ランプが大好きな梅にとって、宝箱のような店だ。
「ほんとうに色々なランプがあるんですね……それにしても、ランプは見ているだけで落ち着きますね」
 色ガラスや磨りガラスに閉じ込められた光は、ぼんやりとして温かい。
「夜にこっそり点灯して足元を照らすのも雰囲気が出ますよね。色や形も様々で、とても面白いですね」
 梅が店長に微笑みを向けた。形といえば、と梅太が店長の後ろから声をかける。
「海月っぽいデザインのランプ……ある?」
「はい、海洋生物はこちらです」
 迷うことなく案内されたのは、青い台の上に置かれたランプのコーナー。
 海月の笠は気泡の入った硝子で、笠のふちにはきらきら輝くビーズが下がっている。他にはヒトデや深海魚、熱帯魚を模したものも。
「……これ、撮影していい? 素敵なランプだから、友達にも見せたいな」
「どうぞどうぞ、構いませんとも」
 嬉しそうにする店長に礼を述べ、梅太はスマートフォンを取り出した。海月のランプにピントを合わせ、撮影ボタンを押す。また、海洋生物ランプコーナー全体の写真も撮影する。これでよし、とスマートフォンをしまって、梅太は再度店長に礼を述べた。
「海洋生物コーナーは、青い光のものが多くて落ち着くね。他には海藻の緑に、チョウチンアンコウの黒……光の色も個性的だね」
 そう言いながら、アトリは店内の様子を確認することも忘れない。探しているのは戦闘スペース。
「あっちはどうかな」
 と、ランプを示すふりをして、梅太も比較的開けた場所を示す。
 それは、壁際の一角。バックヤードへと繋がるドアがあり、ちょっとしたカウンターがある場所――すなわち、レジ付近だ。

●誘
 ひととおり見て回ったら、いざ購入。
「これ、に、しよっかな」
「自分もこれにしよう。お土産に、是非とも買っておきたい一品だからね」
 マルレーネとアトリが選んだのは、丸まって眠る猫のランプだ。
「これは熱くならないので、小さめの座布団に乗せてもかわいいですよ」
 にこにこ顔で、店長が会計をする。
「俺は……この、星型のランプにするよ」
 先の二人の会計を待ちながら、梅太はランプの光を一度消す。再び灯せば、星の花が優しく咲く。ランプはじわりと段階的に明るくなり、まるで花のつぼみがゆっくりと開いていくよう。
「それも綺麗ね。私は、これにするわ」
 シエラが手にしているのは、真鍮にいくつもの穴が空いたランプ。穴はすべて、星の形になっている。こちらも灯せば、周囲に星が灯ることだろう。
「みなさん、色々見つけてきますねえ。アタシはこれにしましょうか」
 チャールストンは、すぐそばの卓上ランプに視線を落とす。灯る色は、海の底で輝く淡い光のような青。
「よく一つに絞れるデスねー!? ボクはこんなに選んじゃったデスよー!」
 シィカが、金色や黄色系統のランプを入れたカゴを掲げる。
「自分用にはもちろん、友達の分もあるデース!」
 購入を終えて店長を見れば「満足です」と書いてあるようなわかりやすい表情。
「店長さんと一緒に、ランプの灯りを夜空の下で楽しみたいなぁーなんてっ☆」
 テトラが店長に近寄り、ウインクする。
「ああ、でしたら皆さんでどうぞ。私はここで待っております」
 穏やかに返され、次はチャールストンが進み出る。
「ここのランプはどれも素晴らしい……よし、全部買おう!」
 驚く店長をよそに、チャールストンは可能な限り、ランプを購入する。お代はクレジットカードだ。購入したものは運んで持って帰るため、と見せかけて店の外に出す。梅太も移動を手伝い、いくつかのランプを避難させることに成功した。
 さらに満足そうな顔をしている店長を、シエラが呼び止める。
「私達は貴方を討伐に来たのだけれど、このお店を、ランプを、巻き込むことは忍びないわ。場所を移さない?」
「せっかくすてきなランプ、こわれるの、やだよ」
 マルレーネも、困り顔で懇願する。
 しかし、偽の店長は黙って首を振った。
「ケルベロスだったのですね。……移動している時間すら勿体ない、ここで倒させてもらいますよ!」
 店長は素早く移動し、ケルベロスたちを斬りつけた。
「それならこちらもやるしかなさそうですねえ」
 チャールストンは眼鏡を押し上げ、自身をオーラで包む。しかし、と疑問に思うことはひとつ。被害者の女性は、なぜこの薄暗いランプをうとうと思ったのか。
(「彼女なりの想いはあったんでしょうが、それを上手く結びつけられなかった……のかな」)
 首をひねるチャールストンに続くのは、アトリの鋭い蹴り。着地場所には十分気をつけて、店内のランプを壊さないように気に掛ける。梅太もまた、同じ攻撃を仕掛けては通路に着地する。同じく蹴りを見舞うシエラではあるが、こちらは虹をまとって。
「……壊れないよう、がんばるよ」
 マルレーネはあたりを見回し、店長を御業で拘束する。
「今日はランプの明かりをスポットライトにガンガン、キメてくデスよー!」
 シィカが愛用のギターをかき鳴らし、声を張り上げる。
「さぁ、ここからはボクのロックなステージデスヨー! みんな、ノリノリで聞いてくださいデース! イェーイ!!」
 渾身の一曲は、自身の傷を癒して。高らかに歌い上げ、曲の終わりはまたギターと共に。
 ウイングキャット「キヌサヤ」とママ・シエラが翼で風を送れば、癒やし手として梅が紙の兵たちを前衛にまとわせる。
「うんうん、満足した店長はあたし達の敵じゃないよね。さーて、今回のあたしはちょっぴり大胆前線担当! 乞うご期待! ――ふむふむ、キミはここ斬るとダメそうだね?」
 店内の闇に紛れたテトラが、店長を背後から斬りつける。碧い斬撃は、店長の経路だけを的確に断ち切った。

●訳
 店長の攻撃に合わせてのヒールは、梅だけでなく。ウイングキャットたちも、回復の補助をしてくれる。これならばと、梅も攻撃を仕掛ける。
「忍法・紅筆!」
 紅筆が舞い散り、その花弁が店長に傷を刻んでゆく。シエラのバトルガントレット、その指先も容赦なく店長に一撃を見舞う。
「メジロー、よろしくね」
 梅太がファミリアロッドをメジロの「メジロー」の姿に戻す。メジローに魔力を籠め、真すぐに店長へ。
 マルレーネの召還した氷結の兵は、店長の氷をまとわせて。マルレーネがママ・シエラを見るが早いか、ママ・シエラは尻尾の環を飛ばして店長をのけぞらせる。
「ま、まだまだ……!」
 傷口を拭い、店長は巨大化したシェードを召還した。シェードの包囲を抜け、チャールストンはリボルバー銃≪ Crime Kaiser ≫を構える。
「別の意味でまだまだ、ですね……SHOOT!」
 弾倉が回り、店長の頭、両腕、胴体、両脚にそれぞれ弾丸が命中した。
 アトリもまた、リボルバー銃「S=Tristia」の引き金を引く。
 ここまで優勢でも、油断はせずに。キヌサヤは状態異常への耐性をつけるため、羽ばたきを繰り返す。
「やはっ、援護助かるね♪」
 テトラが駆け出す。跳躍はまるで猫のような身軽さをもって、繰り出す斬撃は一瞬で。
「イェーイ! ボクもやるデスよー!」
 ギターをかきならし、シィカも駆け出す。周囲に気を配り、ランプが破壊されないように気をつけながら。炎をまとったエアシューズで店長の横っ面へ一撃を加えれば、ついに店長はその場に倒れた。
「ば、か……な……」
「やりましたデス! ボクたちの勝利デース!」
 ギターで景気の良い音を鳴らし、シィカが飛び跳ねる。
 ふと店内を見渡せば、床や壁が破損している。しかしランプへの被害は皆無。ケルベロスたちは店内をヒールし、店長の砂倉・明美の元へと向かった。
 事情を説明し終えたところで、励ましの言葉を。
「あたしはこのムーディなランプ、何個か買っちゃうほど大好きでした!」
 テトラが購入したランプを抱え、眩しい笑顔を向ける。
「うん、レーネもこのランプ、すき! ママ・シエラといっしょに、おへやにかざろっと!」
 購入した猫のランプを明美に店ながら、マルレーネが微笑む。
「一回の失敗で諦めるなんてロックじゃないデース! 穏やかな光も、なんだか一周回ってロック、に感じなくもないデスよ!」
「お店が再開したら、また来たいな。その時は人を誘って、ね」
 シィカと梅太の励ましの言葉。
「ありがとうございます。……あの、私、もう一度頑張りたいです……!」
 意気込む明美の言葉を聞いて、アトリは考え込む。
「ううん、素敵なランプの数々、そのまま残すには勿体無いよね。何かいい手立ては無いかな……」
「そうね、ネット販売が中心になれば、範囲が変わるだけに顧客がつくかも。ランプが手元に残るのなら、どうかしら」
「ネット販売はいい手段だね」
 シエラの提案に、アトリはぽんと手を打ち鳴らした。
 明美が今後のことを考え始めたところで、チャールストンが明美に質問する。
「ところで、どうしてこんな店を開いたんですか?」
「……私のおばあちゃん、強い光が苦手で。同じような人がいたら、弱い光のランプを扱ってる店があると助かるんじゃないかな、って――そう思って、この店を開いたんです」
「そうだったのですね。それじゃ、アタシたちはこれで」
「あの、かなりランプお買い上げになったと聞いてますが……」
「置いて行きますよ。破損防止の為の緊急避難措置みたいなものですし……元手と商品がなければまた商売も始められないでしょ?」
 嘯いて、チャールストンは店のドアに手をかける。今度は貴女の未来が、このランプで照らされることを祈って、とつぶやきながら。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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