アンティークを守ろう!

作者:ハッピーエンド

●螺旋忍軍の企み
 月も出ない闇夜。古びたアパートに、螺旋が描かれた仮面を被る女性の声がひびく。
「あなた達に使命を与えます。とある山奥の一軒家に、アンティーク職人というアンティークな機械の作成を生業としている人間が居るようです。マ……、ヌケ……。その人間と接触し、その仕事内容を確認・可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
 日本刀を握るサーカス団員のような姿をしたマ。螺旋手裏剣を握る道化師っぽい姿のヌケ。指示を受けた2人の男は神妙にうなづく。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」
 マとヌケはそう言うと音もなく姿を消す。心酔するミス・バタフライのために――。

●バタフライエフェクトを阻止しよう
「天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)様から頂いた情報をもとに捜査した結果、話題のアンティーク機械職人がミスバタフライに狙われる事件が予言されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、隣で神妙にたつカノンと、話しかけ始めた。
「ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大した事は無いのですが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないバタフライエフェクトというものになります」
「つまり、小さな芽のうちに潰したほうがいいということですね?」
「はい、そのとおりです。今回の事件は、アンティーク機械職人という珍しい職業をしている職人様の所に2人組の螺旋忍軍が現れ、仕事の情報を得たり習得した後に殺そうとしてしまうのです。この事件を阻止しないと、風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高いのです」
「そんなことは、私たちがさせません」
「ありがとうございます。そのために、皆様には職人様の保護と、螺旋忍軍の撃破を、お願いしたいのです」
 セリカの説明に、首をふりながら応えるカノン。セリカは微笑み、カノンたちケルベロスへとお辞儀をする。
「それでは、螺旋忍軍との接触方法について、説明させていただきます」
 セリカは、接触方法について伝えだした。
「狙われる職人様を警護し、螺旋忍軍と戦う事になります。かといって、警護が大変だからと事前に職人様を避難させてしまった場合、螺旋忍軍が別の対象を狙ってしまいます。被害を防ぐことができなくなってしまいますので、ご注意ください」
「となると、きちんとした対策が必要になりますね」
「そのとおりです」
 カノンの指摘に、セリカは応じる。
「なので、皆様が職人様に事情を話すなどして仕事を教えていただき、アンティーク機械職人を装い、囮となる方法などもあります。幸いカノン様のおかげで、今回は余裕のある予言ができています。頑張って修行をしていただければ、見習い程度の力量になれることでしょう」
「気合で習得します。根性です!」
 両手を握りしめるカノンに、ハニー・ホットミルク(シャドウエルフの螺旋忍者・en0253)が微笑む。
「うん、お姉さんなら大丈夫! 力をあわせて頑張ろ~♪」
 アンティーク機械職人が作った作品の1つなのであろう精巧な時計。ハニーから手渡されたソレを眺めつつ、カノンもニッコリと微笑む。
 セリカもそんな2人に微笑むと、事件の概要について説明をはじめた。
「螺旋忍軍は、日本刀と螺旋手裏剣を使う2人組のようです。襲いに来るのは夕方。戦闘場所は庭となります。私有地での戦闘ですので、人払いの必要はありません」
 セリカは言葉を切ると、ケルベロスたちから質問が無いことを確認し話を続ける。
「囮が成功した場合は、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が可能となるります」
 セリカは、そうケルベロスたちへと伝えると、説明を終えた。
「ところで、セリカさん。技術を教える修行は、どのような修行でもかまわないんでしょうか?」
「螺旋忍軍の方たちは仕事に紳士です。カノン先生が相当無茶な修行を提示したりしなければ、挑戦することでしょう」
 カノンの質問に、セリカはイタヅラっぽく答える。
「カノン様のおかげで、余裕を持って事件を予言することができました。ケルベロスの皆さん、最初の羽ばたきさえ止めてしまえば、バタフライエフェクトも恐るるにたりません。どうか、よろしくお願い致します」
 イタヅラっぽく微笑んでいたセリカは真顔に戻り、丁寧にお辞儀したのだった。


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
小鞠・景(冱てる霄・e15332)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)
楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)

■リプレイ

●修行の記憶
 照りつける太陽を受け、すくすくと育った草花が、風に揺れている。草花の生い茂る庭では、ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)、アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)の3人に事情を説明され、囮作戦に協力した、白い髭を生やした職人が螺旋忍軍を迎え撃つために準備をするケルベロスたちを見守っていた。数日をかけ、アンティーク機械を作ったケルベロスたち。庭の中央では、ロマンティックチュチュに身を包んだ楠木・ここのか(幻想案内人・e24925)の姿があった。螺旋忍軍に自分たちが職人であると信じさせるため、ここ数日、皆がんばって職人から手ほどきを受け、各々アンティーク作品を作り上げたものだ。飾り付けられた作品を眺めれば、職人との修行の記憶が蘇る。
「短時間で作れるようになるには、組み立てじゃな」
 目をつむり白髭を弄る職人にうながされ、ここのかは青い紫陽花色のガラスを時計本体に選ぶと、緋色の針で文字盤を作り、碧色の歯車で動力を組み立て、金色の鎖を通した。
(あ、あの人は私を特別に見てくれてるわけじゃありませんし、私だって別に……もう、どうして頭から離れないの!)
 いつか自分の下に王子様が現れるのを夢見ながら作った懐中時計。
 ここのかは修行の日々を思い出しながら『mon amour』と名づけたソレを首もとで揺らし、足元にいるテレビウムと踊るように準備を進めていた。
 その隣では、銀髪を風に揺らすちょっぴり天然な天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)と金髪をフードに包み、翠の瞳にて真理を追い求めるヴィルベルに、灰色の髪と瞳が儚げな、旅の終わりを探す小鞠・景(冱てる霄・e15332)が、それぞれ自作したアンティーク機械を机の上に並べていた。
「職人さんに感謝ね」
 カノンのタイプライターは、胴体部分はサファイア色の透き通ったガラス。キーボード部分にエメラルド色の濁りガラスが草のように繁茂している。その草の中には走るオニキスやルビーの色に塗られた金属の棒、それに胴体部分に詰まったガーネット色の歯車が、まるでしなやかな植物の茎のように張り巡らされている。カノンは『Art Nouveau』と名づけたタイプライターを机の上にのせると、笑みを零した。ヴィルベルも自作のタイプライターを机の上に置く。
「素晴らしい響きだよね、アンティーク。百聞は一見に如かず、宿した歴史が当時の情景の一欠片を見せてくれる。そしてそれを作る技術も紡ぎ繋がれてきた歴史の一部だ。そうやすやすと奪わせてあげる訳がないよね」
 落ち着いた声で……、しかし、強い意志をもって語るヴィルベルに、職人が見せたのは1900年代初期くらいに流通したモデルに手を加えた、赤胴色のタイプライターだった。職人の技術の結晶を目の当たりにして、ヴィルベルの瞳の深淵に、光が灯った。職人から知識と技術を引き出し、自分好みのタイプライターを緻密に組み立てていく。くすんだ赤銅色の胴体に、タイプするためのキーボード。そして、中央に刻印した金文字が調和している。キーボードと金文字に使われたフォントは、ヴィルベルが最もこだわり抜いた彼自身の文字だった。
『タイラー』と職人に名付けられたタイプライターを、ヴィルベルはどこに置くのが最も相応しいか思案を巡らすのだった。景はため息を零しながら、目の前で手本を見せてくれる職人を真似、アンティーク機械を組み立てた。
「1つ1つ異なるパーツを一つも欠かさずに順序よく組み立てていく、というのは意外と難しいですね。一流になるには何年何十年という修行が必要と聞きますが理由がわかった気がします」
 手のひらサイズで折りたたむことの出来るくすんだ木箱に、職人を真似てつめたルビー色の歯車と動力を、サファイア色のガラスで閉じ込め、彗星の流れる星空が蓋の裏側に描かれたオルゴール。中には、旅の途中に聞いた、懐かしいあの音が込められている。
『箒星の歌声』と職人が名付けたそのオルゴールを、景は机の上。『Art Nouveau』と『タイラー』の間に愛し気に置いた。
 一方、今回のおびきよせに使う大きなノッポの古時計の周りでは、赤い髪と瞳を燃やす、小江戸系娘、赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)と、白髪褐色肌の天真爛漫娘、アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)に、ピンク髪小柄な、自称天才美少女の付け髭ドワーフ娘、ウィゼが準備をしていた。
「ひゃっふー。アンティーク機械だー! 頑張って習ってこー!! 作るのはギアデザインの置時計とかがいいかな。前にキットで作ったことあるし」
 張り切る緋色に、職人が教えてくれたのは希望通りギアデザインの置時計。ギアを組み合わせて作られた胴体に、緋色に染まった2本の短針と長針とが時を刻んでいく、ブラスカラーの歯車が見えるデザインがワクワクさせる置時計。
『小江時計』と職人が名付けた自作の置時計を、緋色は古時計の右隣に設置した。
「見てくださいレンチも新調したんですよ」
 やる気満々なアイヴォリーに、職人は白い髭を弄びながら笑い丁寧に指導をしてくれた。
 パーツを磨いて、嵌めて、ネジを回す。不思議と苦にならないのは、ずっと欲しいと思っていたからなのだろう。
(眠れない夏の夜、暗い壁に幻を映し出すことが出来たならたちまち輝く夢の世界へご案内なんて、とってもロマンチックですもの!)
 職人の動きを真似、アイヴォリーが作り上げた幻灯機は、黒漆色の胴体から、象牙色の筒を伸ばした物であった。
『白髪のロム』と職人が名付けた幻灯機。アイヴォリーは職人が作ったガラス板を幻灯機に差込みウキウキと古時計の前に設置した。
 古時計の前では、職人の指導により古時計の調整を習得したウィゼが、古時計の中をいじっていた。
「よしよし、ちょっとの間だけじゃが、辛抱するのじゃぞ」
 チクタクチクタク……。ウィゼは規則正しく動いていた古時計の針が止まるのを確認し、その扉をとじると優しく古時計を撫でた。
「日頃からあんまり機械類には触らせてもらえなかったから、基礎の基礎からお勉強を頑張るね!」
 ピンク髪に白い羽根を生やした好奇心の申し子、ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)は職人に一から丁寧な機械の仕組みを教わっていた。
「ミューシエルには点検を頼もうかの」
 職人の指示に従って、ミューシエルは破損が無いのを確認していくと、ニッコリと笑った。
「かんぺき!」
 ミューシエルは両手と翼を広げ、ポーズを取ると仲間達に笑いかけた。
「それでは、紅茶でも飲みながら奥に隠れているとするかのう」
 満足そうに髭をなでる職人は、ハニー・ホットミルク(シャドウエルフの螺旋忍者・en0253)と家に入る。
「安心して隠れていてください」
 美味しそうに紅茶を飲みながら呟く職人に、ケルベロスたちは頼もしげに断言したのだった。

●真夏の夜の夢
 日が暮れ、夕焼けに空が赤く染まるころ、呼び鈴が鳴った。窓から外を覗くと、サーカス団員のような姿をした男と、道化師っぽい姿をした男が立っていた。明らかに不審者である。
「一から作るにはまだ早いから庭の修理品を修理することで構造を学ぶ。ということで庭に連れ出すのじゃ」
 髭をなで得意気なウィゼにケルベロスたちは頷くと、扉を開けた。出迎えるのは、隣人力のある緋色と景だ。
「こんばんは!」
「何か御用でしょうか?」
 丁寧な対応をする緋色と景に、マ、ヌケはたちまちデレッとした。
「あ、兄貴……。可愛らしい女性が……、2人もいるっす!」
「お、弟よ……。焦るでない。凄腕の職人のことだ。弟子の1人や2人いてもおかしくはない。きっと住み込みだ」
 焦るヌケを諭すマ。慌てる2人に緋色と景は用件は何かと自然に尋ねた。
「これは失礼。私の名前はマ、連れはヌケと申します。じつはアンティーク機械の作り方をご教授して頂きたく、お訪ねしたのです」
 衣装をただし丁寧にお願いするマ。そこへ奥からカノン、ウィゼ、アイヴォリー、ヴィルベルが姿を現す。
「えーと……? どなたが職人様でしょうか?」
 ずらっと並ぶケルベロスたちに、困った顔を浮かべるマ。しかし、ケルベロスたちは不敵に笑う。
「あたしらは職人とその愛弟子、アンティークマシン5人衆。略して安心衆! 教えを請うというなら、おまかせなのじゃ!」
 エッヘンと胸を張るウィゼ。じつは技能習得が順調にいき、囮役を出来る人数が6人となったために急遽作られた設定だった。
 しかし、それでは職人がわからず困るマ、ヌケの顔は歪む。
「失礼ながら、職人様はどなたでしょうか?」
「貴様たちはマヌケか。弟子の身であるとはいえ安心衆の実力は本物。それとも、名の知れた職人の教えしか聞かないというのか? それでは、無礼千万だろう!」
 暗殺の標的を露骨に知りたがるマ、ヌケを、ヴィルベルが叱りとばす。
「で、ですが……」
「なーに、別に修行をしないとは言ってないのじゃ。そうじゃろう?」
「まじめにやれば、最後に師匠が誰なのか教えてあげます、それでどうでしょうか?」
 食い下がっていたマ、ヌケを、ウィゼと景が余裕で諭す。
「そういうことでしたら、是非お願いします」
 姿勢をただし一礼をするマ、ヌケに緋色はアンティーク機械の基本的な説明を開始した。
「なるほど……、深いな」
「凄いっすね兄貴。平歯車、内歯車、はすば歯車にやまば歯車などなど……。歯車の組み合わせだけでもこんなにあるとは思わなかったっす!」
 腕を組み頷くマに、手帳を取り出し熱心にメモを取るヌケ。
「庭で大型機械の修理をしているんです、見学どうでしょうか?」
「そうそう。大物の修理の依頼があって、庭で作業してるんだ。折角だから見せてあげよう」
 軽く世間話やら手ほどきをしていた景とヴィルベルがマ、ヌケを誘う。
「あれは、本当に凄い大物だよ。絶対見るべきだね!」
「特別な修行をするそうですから、外へ行きましょうか」
 緋色も力いっぱい肯定し、カノンもニッコリ微笑む。
「では、是非お願いします」
 皆の熱意におされ、マ、ヌケは嬉しそうに庭へついていった。
「これは、素晴らしい。古いものですね」
「タイプライターは映画で見たようなヤツとアール・ヌーヴォーの2種類あるんっすね! ギアデザインの置き時計に、スケルトンの懐中時計も素晴らしいっす! イギリスモデルの幻灯機に小型のシリンダーオルゴールもオシャレでいいっすね!」
 表情を変えないマと、饒舌なヌケ。作品を前に講師そっちのけではしゃぐ2人。その前に生徒役のミューシエルとここのかが現れる。
「お勉強したばっかりの事だから簡単だよね」
「先生。今日は何から学べばいいのですか?」
 楽々と歯車を組み立てていくミューシエルと、目を輝かせ講師役に質問するここのか。マ、ヌケは、熱心な2人を見、ばつが悪そうに咳をすると、講師役へと向き直った。
「美女ばかりで緊張してしまったようです、本気だしますよ」
「そうっすね。男たちの絆、見せてやるっすよ!」
「それでは、実際に触れてみましょう。指先の感覚のみで機械を感じる訓練です。目を閉じ、古時計の歯車やネジの感触を試してください」
 カノンに導かれ、マ、ヌケは大時計の前で目をつむった。
「この感触、流石ですね」
「歯車が組み合わさっているのを感じるっす。この繋がりが動力を伝えてるんっすねぇ」
 ケルベロスに後ろを向け隙だらけなマ、ヌケ。ケルベロスたちが、その隙を見逃すはずもない。
「その格好で教わりに来るってどうかと思うよ」
 ヴィルベルの呆れ声を合図に、奇襲が始まる。
「私は撫子、冷たい撫子。名前は教えてあげないわ」
「当てれば、当たるよ!」
「――出番ですよ、箒星」
「斬ります!」
 切れ込みのある淡い赤紫色の花を生じさせたカノンの氷河が、ミューシエルのルーンを刻んだ一撃が、景が落とした箒星が、ここのかが放った斬撃が。目をつむり、夢中でネジを確かめていたヌケの急所に直撃した。
「!?」
 悲鳴をあげることもかなわず、地に伏せるヌケ。
「忘却は蜜の味、どうぞ心ゆくまで」
 その上をアイヴォリーが放った黄金の生地が幾重にも包み込み、芳醇なバターの馨りがあたりにただよった。
「ふははははー! アンティーク機械の講師と見せかけて、実はケルベロスだったのだ! 螺旋忍者どもは小江戸の緋色が退治してあげる!」
 甘美な一皿となったヌケを踏みつけ、とどめを刺した緋色は、右手をまっすぐにあげてマを指差すと高らかに宣言した。かくして戦闘がはじまった。

●ヌケ抜けしたマとの戦闘
「そうですか。ケルベロスだったのですね……」
 マは無感情な声でケルベロスたちをふりむき仰いだ。
「私たちは文字通り間抜けだったということですね……しかし、まさかヌケからやられてしまうとは……」
「次はマさんの番でしょうか?」
 目から光が消えたマを、景は静かに見つめた。そんな景を無視し、マの呟きは続く。
「倒されるときは絶対オマエからだな! マが抜けて間抜け、おまえらそのものだろ? そう言われていたものです。しかし、まあいいでしょう。ヌケが抜けてヌケ抜け――」
 語るマの目に殺意が宿る。
「――それなら私は、あなた達を殲滅し、ぬけぬけと職人を殺して帰るとしましょう」
 マは、はじかれたように走り出すと、景めがけて刀をふりおろした。
「!?」
 しかし振り下ろした刀はテレビウムにはばまれ、景には届かない。傷ついたテレビウムをウィゼが治療するのも意に介さず、マは懐から螺旋手裏剣を取り出した。
「みなさまをお守りいたします!」
 構えるマに、カノン、ミューシエルが放った矢、アイヴォリー、景、緋色の蹴りがぶつかる。
「甘美であれよ、愛しき御敵」
 ヴィルベルのウイルスカプセル、ここのかの黒い弾丸も吸い込まれるかのように命中するが、マは傷ついた体に顔色を変えることなく景へと氷結の螺旋を放つ。間一髪、カノンがその体をすべりこませて防ぐが、マはすぐに刀をふりかぶった。大急ぎで治療するウィゼには目もくれず、再び駆けるマ。カノンの如意棒から生じた炎が顔を焼き、ミューシェルが放った魔法の光線が左手をはじき、アイヴォリーのゾディアックソードから生じた斬撃が左肩を薙ぎ、景のドラゴニックハンマーから生じた竜砲弾が左胸を焼き。ヴィルベルの知恵の実を喰らう左の掌が傷口を広げた。――満身創痍なマ。しかし、それでもマは止まらない。
「死になさい!」
 マの渾身の一撃が振り下ろされた。しかし、代わりに弾き飛ばされたのは、ディフェンスに割り込んだここのかだった。限界まで無茶をしたマの目に、寂しげな光が宿った。
「いちげきひっさーつ!」
 緋色が渾身の力で放った武器が命中すると同時に、グラビティチェインが開放され大爆発をおこす。地面を転がり大時計まで弾き飛ばされるマ。
「ヌケ……、どうやら私もそちらに行けそうですよ……」
 苦しそうに肩を落とすマを、慈悲の瞳で見下ろす影があった。
「さあ行くのじゃ、誇り高き魂を持つ英雄。アヒルちゃんミサイル発射なのじゃ」
 ウィゼの放ったアヒル型ミサイルは、あっというまにマを消し去った。物憂げに空をみあげるウィゼ。しかし、軽く目を瞑り頭を振ると、思いついたようにとぼけた声を上げた。
「ふむ、アヒルちゃんミサイルもアンティーク風にするのも悪くないかもしれぬのう」
 途端にまだ残っていたアヒルちゃんミサイルがウィゼをつつく。
「おお、アヒルちゃん怒らないのじゃ。冗談なのじゃ。お主の機能美はあたしがよくわかっておるからのう。大丈夫なのじゃ」
 ウィゼは頭を抱え逃げ回る。かくして螺旋忍軍の脅威は去ったのであった。

●ノスタルジー
「ありがとう、おかげでたすかったわい!」
 職人は、自分を守りきり、さらに庭のヒールまでしてくれたケルベロスたちに、にっこり微笑んだ。
「どういたしまして」
 ハニーのいれたお茶を楽しみながら、ケルベロスたちはアンティーク機械を思い思い眺めている。
「大きなノッポの古時計も、完全に修復したのじゃ」
 動き出した古時計の音を聞きながら、ウィゼは満足そうに髭をなでる。後ろでは景が作ったオルゴール『箒星の歌声』が、どこか懐かしい曲を奏でていた。
「ありがとうございました」
「な~に、こっちこそ、ありがとうじゃのう」
 丁寧にお礼を言うヴィルベルに職人は笑いながら手をひらひらさせた。そして、戦闘後、最後の教えを受けていた緋色とアイヴォリーへと合図を送る。
「おまかせだよ!」
 緋色は粋の良い返事をすると幻灯機『白髪のロム』にガラス板を差し入れ、アイヴォリーも頷くと幻灯機を起動させた。庭にはられた大きなスクリーンに、ボワァと1枚の絵が映し出されていく。
「素敵ですね」
 景の口から想いが零れた。星がちらほら見えてきた空の下でケルベロスたちはノスタルジーな空気にひたされていった。職人と一緒に汗を輝かせながら、笑顔でアンティーク機械を作る自分達の姿を眺めながら――。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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