鎌倉ハロウィンパーティー~コング・グッドバイ

作者:土師三良

●幻夢のビジョン
 鎌倉某所にある安アパートの一室で。
「けっ! 猫も杓子もハロウィン、ハロウィン、ハロウィンと来たもんだ。うぜぇーっつうの。ハロウィンの意味も由来も知らないくせに浮かれてんじゃねえよ。ていうか、俺も知らないけど……知らないけどぉ……知らないけどもぉー! 俺だってハロウィンを満喫してえよぉぉぉぉぉーっ!」
 畳の上で駄々っ子のように手足をじたばたさせているのは、がっしりとした体格の青年。類人猿系のウェアライダーのような顔立ちをしているが、正真正銘の地球人だ。
 人間離れした容貌のせいか、あるいは性格に難があるのか、恋人はいない。それでも、今年のハロウィン・パーティーは楽しみにしていた。恋人はいなくとも、友人はいるからだ。ところが、友人たちは皆、パーティーへの同行を断った。
 曰く『悪い。その日はカノジョと予定があるんだわ』。
「くそぉー! あいつら、モテない同盟の仲間だと思ってたのに抜け駆けしやがって……おりょ?」
 青年は手足をじたばたさせるのをやめた。
 いつの間にか、赤い頭巾を被った少女が彼の顔を覗き込んでいたのだ。
「だ、誰だよ? どこから入ってきた? も、も、もしかして、俺の二次元の嫁が具現化しちゃったとかー!? でも、なんだか思ってたのと違うー!」
 その妄言に耳を貸すことなく、少女は手に持っていた鍵を青年の左胸に突き立てた。
「ハロウィン・パーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう」
 と、少女は言った。だが、青年はそれを聞いていない。鍵を刺されたと同時に意識を失ってしまったからだ。
「世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 少女の横に影のようなものがゆっくりと浮かび上がり、やがて実体となった。一目で作り物と判るチープなゴリラの着ぐるみを纏った大柄な男(女かもしれないが)だ。両目の部分に穿たれた覗き穴から見えるのは……モザイク。
 そう、そのゴリラ男はドリームイーターだった。
 
●ねむ嬢かく語りき
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんがデウスエクスの動きを調査してくれたんです。その結果、ドリームイーターが日本各地で暗躍しているということが判りました」
 ヘリオライダーの笹島・ねむがケルベロスたちに語り始めた。
「で、その暗躍の詳細ですが……ハロウィンに対して鬱屈した想いを抱いている人たちの心からドリームイーターをたくさん生み出して、それを一斉に暴れさせることみたいですね」
 いったい、どこで暴れさせるというのか? そんな疑問をケルベロスたちは抱いた。
 ねむはそれを察して――。
「ドリームイーターが現れるのは、鎌倉のハロウィン・パーティーの会場なのです!」
 ――と、意味もなくビシッと一点を指さした。
「皆さんは開始時間よりも早く会場に行って、あたかもパーティーが始まったかのように振る舞ってください。賑やかに! 楽しそうに! そうすれば、ドリームイーターを誘い出すことができるはずです。でも、あくまでも『振る舞』うだけですからね。任務を忘れて、本気でどんちゃん騒ぎとかしちゃダメですよー」
 いつになく厳しい声で釘を刺すねむであった。
「会場に現れるドリームーイーターのうちの一体は既に予知しました。ゴリラの着ぐるみを身につけたドリームイーターです。見た目はイカついですけど、殴ったりとか蹴ったりとかいうような直接的な攻撃はしないようですね。それと『人恋しい』というか『寂しい』という想いから生まれたせいか、少しでも優しくされるとコロッと騙されちゃうタイプみたいです」
 騙し討ちが有効ということだろう。少しばかり哀れではあるが、放っておくと人に害をなす存在なのだから、同情してばかりもいられない。
 敵の解説を終えると、ねむは最後に付け加えた。
「本気でどんちゃん騒ぎとかしちゃダメ! ……って、言いましたけど、それは任務中の話ですから。ドリームイーターをやっつけた後は思いっきりパーティーを楽しんでくださいね」


参加者
アッシュ・マーベラス(灰素晴・e00951)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
ファティマ・ランペイジ(オフィサーホワイト・e02136)
小森・ルチノ(鳥籠少女・e07624)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・e15276)
ケーシィ・リガルジィ(幼き黒の造形絵師・e15521)

■リプレイ

●Trick or Treat
「本来、ハロウィンというのは悪霊を追い払う行事だったらしいね。だから、ドリームイーターを退治するにはうってつけの晩だともいえる」
 大小様々なジャック・オー・ランタンを会場の壁に飾りながら、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)が語っていた。彼の仮装のテーマはマッド・ドクター。返り血に塗れた白衣が洒落にならないほど似合っている。
「悪霊を追い払うという意味では、君の衣装もうってつけだな」
「ありがとう……じゃなくて、とりっく・おあ・とりーと!」
 ハロウィンの定番のフレーズで応じたのは、神主の仮装をした饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・e15276)。ボクスドラゴンのエンも主人に合わせて、頭に烏帽子を乗せている。
「お菓子をくれー! さもなきゃ、雷だー!」
 雷鳴を響かせるラジカセを手にして、アッシュ・マーベラス(灰素晴・e00951)も菓子を要求していた。雷神の仮装をしている彼はお菓子をもらう側だけではなく、配る側も演じていた。もちろん、配っている菓子は雷おこしだ。
「見て、見てー。このとんがり帽子、耳が通せるようにちゃんと穴を開けてるのにゃー」
「よく出来てますねえ」
 魔女の衣装を自慢しているのはケーシィ・リガルジィ(幼き黒の造形絵師・e15521)。その相手をしているのは、シスターの格好をしたイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)だ。
「それにとても似合ってますよ」
「でしょ! でしょ!」
 鼻高々のケーシィにお菓子を手渡しながら、イリスは微笑を浮かべた。
「敵をおびき寄せるための偽パーティーとはいえ、楽しいですね」
「そうだな。たまにはこういうのも悪くない」
 ブリキの兵士の仮装をしたファティマ・ランペイジ(オフィサーホワイト・e02136)が頷く。
「それにしても――」
 ファティマは、イリスの用意した菓子に目をやった。
「――そのクッキーやマドレーヌはすべて手作りか? たいしたものだ。私の持ってきた菓子はどうしても見劣りするな」
 ファティマが配っているキャンディーは、体に悪そうな(本当に悪いかどうはさておき)派手な色の代物だった。
「でも、ハロウィンにはこういう色合いのものが相応しいような気がしますよ」
「うむ。私もそう思って、このキャンディーを選んだんだ。まあ、観賞用と割り切って、口には入れないほうが無難……と言ってるそばから食べてるのか!?」
「ほいひいー! (美味しい)」
 呆れかえるファティマの視線の先で菓子を口いっぱいに頬張っているのは小森・ルチノ(鳥籠少女・e07624)だ。奇抜さで評価するなら、彼女の仮装は他の誰にも負けないだろう。枕のような扁平な衣装から手足と頭を出した珍妙な姿。いや、『枕のような』ではなく――、
「――これは見たまんま、枕の仮装なのー。ルチノ、枕が大好きだから」
「……」
 斜め上の発想についていけず、言葉を失うファティマたち。
 マッチ売りの少女に扮したグーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)がそこにやってきて、マッチ箱を差し出した。
「マッチを差し上げますから、お菓子をくださいっす」
 菓子とマッチ箱との奇妙な物々交換を済ませると、グーウィはぺこりと頭を下げ、皆に提案した。
「お菓子を配るのも一段落ついたみたいですから、ここいらでダンスでもどうっすか?」
「いいね」
 樹斉が賛意を示し、会場の隅に目をやった。
「お客様も来られたようだし……」
 皆は彼の視線を追った。
 そこにはゴリラの着ぐるみを纏ったドリームイーターがぽつねんと立っていた。

●Delude or Delight
「むはッ! むはっ! むはぁーっ!」
 皆に注視されてることに気付いたのだろう。ゴリラ男は威嚇するように(本人の意思に反して、迫力は微塵もなかったが)吠え猛り、身構えた。
 しかし、彼が攻撃に移るよりも早く、アッシュが歓声を上げた。
「うわー! その着ぐるみ、よく出来てるねー。完成度、高すぎるよ。一瞬、本物のゴリラかと思っちゃった」
「むほほっ?」
 意外な反応に気を削がれ、間の抜けた声を発するゴリラ男。人語に訳するなら、『え? マジで?』といったところか。
「本当にかっこいい仮装ですね」
 と、イリスもアッシュに調子を合わせて、ゴリラ男を手招きした。
「どうです? 貴方も私たちと一緒に踊りませんか?」
「む、むふぅーん……」
 異性にダンスに誘われたことなど一度もないであろう(この世に生まれて間もない存在なのだから当然だが)ゴリラ男は恥ずかしそうに身をくねらせた。心に余裕があれば、可愛いと思えなくもない仕草だ。
「遠慮するな。今夜はハロウィンなんだ。浮世の憂さを忘れて、ともに楽しもうじゃないか」
「そうそう。壁の花ならぬ壁のゴリラのままでいたら、ばっちり決めた衣装がもったいないよ」
 ファティマと樹斉も言葉で背中を押した。
「むっははぁーん!」
 ゴリラ男は嬉しそうに吠えた。完全に警戒心を捨て去ったらしい。手を腰の横にやり、掌を地面と平行にして、スキップにも似た足取りで皆に近付いてくる。心に余裕があったとしても、その動作を可愛いと思うのは難しいかもしれない。
 そして、ゴリラ男がケルベロスたちの輪に加わると、軽快なダンスミュージックが――、
「ごめんなさい!」
 ――始まる代わりにイリスの謝罪の言葉が響いた。彼女の手に握られていた斬霊刀が光を放ち、ゴリラ男を無情に切り裂く。更に翼からも光が放たれ、数十本の刀身と化して襲いかかった。『銀天剣・零の斬(プラタシェロ・ハウラ)』という名のグラビティだ。
「むっほほほほほぉー!?」
 怒声混じりの悲鳴を上げ、ゴリラ男はもんどりうった。
 そこにメイザースが駆け寄って、すかさず追い打ちをかける……かと思いきや、申し訳なさそうな顔をして手を差し出した。
「すまない。悪ふざけが過ぎたようだ」
 優しく微笑みかけるメイザース。もっとも、血に染まった白衣のせいで、その表情は却って怪しく見えるが。
「冗談のつもりだったのだが、君を傷つけてしまったようだね。ほら、手を貸すよ」
「むはーっ」
「……と見せかけて、ブラックスライムだ」
「むっほほほほほぉー!?」
 レゾナンスグリードを食らい、先程と同じ声をあげるゴリラ男。
「ぼくも混ぜてにゃー!」
 と、ケーシィもレゾナンスグリードで攻撃した。
「むっは! むっは! むっひはふぅー!」
 捕食モードに変形してまとわりつてくる二体のブラックスライムを必死の思いで引き剥がして、ゴリラ男は皆との間合いを広げた。
 そして、体を反らして、両腕を大きく振り上げた。己の胸を叩くことで敵にダメージを与えるグラビティ――ドラミング・クラッシュの姿勢だ。
 しかし、攻撃が放たれる前にルチノが叫んだ。
「うわーっ! ゴリラおにーちゃん、かっこいい!」
「むはっ?」
 腕を上げたまま、ゴリラ男は硬直した。
 目を輝かせながら、ルチノが言葉を続ける。
「ねえねえ、かっこいい胸ドラムのキメポーズ、もっとよく見せてー!」
「むほっ……」
 彼女のリクエストに応じて、ゴリラ男は相手が見やすいようにアングルを微妙に変えてみせた。
 もちろん、それは三度目の悲喜劇の前章だった。
「ラインジング・雷神・キィーック!」
「むっほほほほほぉー!?」
 アッシュのスターゲイザーが炸裂し、ゴリラ男はまたもや吹き飛ばされた。テーブルの一つがそれに巻き込まれて倒壊し、上に乗せられていた菓子が盛大に撒き散らされる。
「すまないね、ドリームイーター君。悲しいかな、浮世は弱肉強食なんだよ」
 倒れ伏したゴリラ男に向かって、メイザースが澄まし顔で言ってのけた。
「とはいえ、騙し討ちはこのへんでやめといたほうがいいかな。やりすぎると、逆上して手に負えなくなるかもし……」
「むひむはむひへーっ!」
 メイザースの呟きの後半を咆哮でかき消して、ゴリラ男が立ち上がった。『弱肉』のままでいるつもりはないらしい。
 コントじみた展開が終わりを告げたことを察し、ケルベロスたちは瞬時に意識を切り替えた。
「逆上というレベルにまで達していないとしても、怒っているのは間違いないみたいだね」
 樹斉が御業を召喚して、禁縄禁縛呪をゴリラ男に仕掛けた。仲間との連携を意識して、相手の回避力を低下させようとしているのだ。
「モザイクになっているから判らないけど、あの覗き穴から見える目はきっと血走ってるんだろうなあ」
「うむ」
 と、樹斉の言葉にファティマが頷く。
「目は口ほどに――」
 彼女の右目から『ReTHEL-BLAST(レーテルブラスト)』が発射された。
「――ものを言う!」
「むはーっ!」
 その強烈な光線を食らいながらも、ゴリラ男はドラミング・クラッシュで反撃した。
 しかし、胸と拳から発生した奇怪な音がぶつかった相手はファティマではなく、グーウィだった。ゴリラ男が攻撃を外したのではない。グーウィが身を挺してかばったのだ。
「仲間はあっしが守るっすよ」
 そう力強く宣言する彼女にエンが近寄り、属性インストールで傷を癒した。エンに負けじと他のサーヴァントも奮戦した。ファティマのボクスドラゴンのフィッツジェラルドはボクスブレスを吐き、ケーシィのミミックのぼっくんはガブリングで攻撃し、その二体をルチノのボクスドラゴンのよくぼういち号が守る。
「ぼっくんだけに美味しいところは持っていかせないのにゃ」
 ケーシィが巨大な絵筆を振るい、『視覚的な夢物語(ヴィジュアル・ドリーマ)』を発動させた。
「見せるのにゃ、ぼくの世界!」
 絵筆の先から放たれたのは、剣を携えた獅子の獣人たちのイラスト……いや、正確にはそのイラストを象ったブラックスライムだ。
 活人画ならぬ活スライム画の獣人たちはゴリラ男に猛攻を加えた。だが、幻妖なるグラビティのつるべ打ちはそれで終わりではなかった。
「ほら、貴方の終焉がここに……」
 グーウィが水晶玉を突き出して、普段とは打って変わった厳かな口調で告げた。それは『いくら積んでも変えられない終焉(インエスケーパブルエンド)』。その名に相応しい絶望的な幻影がゴリラ男を打ちのめす。
「むっひょほほほほほほほぉーん!」
 苦悶の咆哮がゴリラ男の口から飛び出した。ただの咆哮ではない。他者のトラウマを呼び覚ます攻撃だ。
「うわっ!? こっち来んな! こっち来んなってば!」
 誰もいない場所に目を向けて、アッシュが手足を振り回した。
「アッシュおにーちゃんがなにを見ているのか知らないけど――」
 そう言いながら、ルチノがアッシュに駆け寄る。
「――そんなものは消えちゃえー!」
 オラトリオヴェールの光がアッシュを包み込み、彼の見ていたものを消し去った。
「いったい、なにを見せられたんだい?」
 メイザースが興味深げに尋ねると、アッシュはげんなりした顔で答えた。
「隣ん家の猫だよぉ。猫は嫌いじゃないけど、あいつだけは苦手なんだ」
「ふむ。まあ、猫全般が嫌いでなくてよかったよ。実は私の相方も猫なんでね」
 メイザースの手の中で、ファミリアロッドが黒猫に変わった。
「さあ、上手にできたら御褒美だ。行っておいで」
 主人に耳元で囁かれると、黒猫は矢のように飛び出した。ファミリアシュートだ。
 満身創痍のゴリラ男がそれを躱せるはずもない。鳩尾にまともに食らい、破損した着ぐるみの破片を撒き散らしながらよろめいた。
「よし、とどめだ!」
 先程のお返しとばかりにアッシュが正拳突きを放つ。
「竜王拳! 激烈突破!」
 拳が命中すると同時にゴリラ男の体から三つのものが放たれた。
 目もくらむ閃光。
 耳をつんざく轟音。
 そして、大量の爆煙。
 閃光が消え、轟音が止み、爆煙が晴れると、そこには巨大なジャック・オー・ランタンが転がっていた。

●Prank or Present
「ドリームイーターの死体の成れの果てっすか。とんだ置き土産っすね」
 グーウィが巨大なジャック・オー・ランタンの傍に寄り、鋸状の口の中にマッチ箱を置いた。ゴリラ男を弔うように。
 その様子を見ていた樹斉が皆に提案した。
「ねえ、このドリームイーターの本体というか被害者のところに行って、パーティーに誘ってあげたらどうかな? その人も本当はハロウィンを楽しみたいだろうしさ」
「そうだな。行ってみるか。パーティーが始まるまで、まだ時間もあることだし」
 と、同意したのはファティマだ。彼女は過去の記憶を失っているため、自分の家族の詳細も行方も知らない。だから、孤独を抱えている者の気持ちが判るのだろう。
「じゃあ、さっそく出発! ……といきたいところだけど、その前にやらなくちゃいけないことがあるね」
 樹斉は会場を見回した。戦闘の余波で壁や床は傷だらけになり、損壊したテーブルの破片や菓子が辺りに散乱している。
 そして、後片付けが始まった。メイザース、グーウィ、イリス、樹斉が会場の破損個所にヒールをかけて回り、他の者は床を掃き清めていく。
「ヒールのグラビティで修復するとなると、完全に元通りってわけにはいかないっすけど――」
 そう言いながら、グーウィが悪戯ぽっく笑う。
「――ちょっとファンタジックというかホラーチックな感じになったほうが、パーティーの参加者に喜んでもらえるっすよね。なにせ、今夜はハロウィンなんだから」
「そう、ハロウィンなのにゃー! 家に帰るまでがハロウィン! 家に帰ってもハロウィン! いっぱいお持ち帰りして、いっぱい食べるのにゃー!」
 ケーシィが皆の間を縫うようにして歩き回り、床にこぼれている菓子を拾い集めて、ぼっくんの中に詰めていく。
 もっとも、すべての菓子を『お持ち帰り』することはできなかった。戦闘の際に踏み潰された菓子、倒れたゴリラ男の下敷きになってしまった菓子、包装されていないので床に落ちた時点で食べられなくなった菓子――それらを見て、ケーシィは溜息をついた。
「イリスさんが作ってくれたお菓子、大半がダメになっちゃったにゃ。残念だにゃあ」
「大丈夫ですよ」
 と、イリスがヒールの手を止めて、声をかけてきた。
「戦闘で滅茶苦茶になってしまうかもしれないと思って、ちゃんと予備のお菓子も用意しておいたんです。ほら、ここに……って、もう食べてるんですか!?」
「ほいひいー! (美味しい)」
 呆れかえるイリスの視線の先で菓子を頬張っているいのは言うまでもなく、ルチノだ。
 口中に詰まった菓子をすべて飲み込むと、ルチノは歓喜の声を上げた。
「ハロウィン、最高! 毎日がハロウィンだったらいいのに!」
 彼女の言葉に釣られて笑顔を浮かべるケルベロスたち。
 その様子を巨大なジャック・オー・ランタンが楽しそうに見つめていた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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