ひと夏のお化け屋敷の白の怪

作者:奏音秋里

 愛媛県の歴史文化博物館では、夏になるとお化け屋敷が催される年がある。
 特に、子ども達には大人気となっていた。
「本当に出るのかしら、此処……」
 そんななか、今年はある噂がインターネット上で囁かれている。
 曰く、お化け屋敷にホンモノのお化けが棲みついてしまったのだと。
 今回のテーマである『化け物長屋』は、約300年前の記録をもとにしているらしい。
 長屋に住んでいた一家が何者かに殺されて、犯人は見付からぬまま。
 だから、殺された娘が親の仇を捜して恋しい長屋へやってきたのだと。
「私は仇じゃありません。写真を撮りにきただけです」
 入り口の従業員に、撮影の許可はとった。
 いざ、お化け屋敷へ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 しかし、まわり終えた女性に声をかけたのは、大きな鍵を持った魔女。
 シャッターを切るには一瞬、間に合わなかった。

「ねむ、怖いのあんまり好きじゃないんですー!」
 だからごめんなさいと謝る声に、いつもの元気はない。
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、表情を曇らせた。
「お化けのドリームイーターが生まれたのです! 顔面蒼白の女性の姿で、足がありません! みんな、絶対に倒してください!」
 パンフレットを開いて、柊・乙女(春泥・e03350)が件のお化け屋敷を示す。
 入り口から真っ直ぐエスカレーターを上がって、受付を過ぎたところだ。
 被害者は、博物館の従業員休憩所で保護されているらしい。
「みんなが到着する頃には、博物館の従業員さん達が来場者の避難を始めてくれているのです! ちゃんと身分を明かせば、問題なく入れてくれます!」
 ドリームイーターは、自分を信じていたり噂していたりするヒトに惹かれるのだ。
 一般人が襲われないうちに、皆が注意を引いて誘導しなければならない。
「けど建物のなかでは、展示物を壊してしまう可能性もあります!」
 そのため外の駐車場まで誘い出してほしいのだと、ねむは話す。
 普通車156台、大型バスも8台は止められるほどの、大きな駐車場だ。
 昼間だから、明かりの心配も要らない。
「あとは……」
 出会い頭に、ドリームイーターは自身の存在について問うてくるらしい。
 初撃は、答えられなかったり間違ったりした相手を狙ってくるようだ。
「無事に終わったら、お化け屋敷を楽しんできてもいいかも知れませんね!」
 ねむは遠慮しますけど……と、苦笑いするねむ。
 いろんな意味で、皆が無事に帰ってきてくれるように心から祈った。


参加者
ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
飛鷺沢・司(灰梟・e01758)
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)
七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)

■リプレイ

●壱
 博物館に到着したケルベロス達は、入口で避難誘導をしている者達を捕まえる。
「……怯えるな従業員よ……ワタシはお化けではない、ケルベロスだ」
 声にならない驚愕を読み取るが、此方の表情を変えるでもなく。
 祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)が、静かに告げた。
「我輩達はケルベロスなのパオ! けど、いかにも出そうな雰囲気の博物館なのパオ。我輩『化け物長屋』の話を聴いたことあったから、来るのは気が進まなかったのパオ……ほんとのお化け、出たらどうしようパオ……デウスエクスより怖いかもパオね」
 エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)が、ケルベロスカードを見せる。
 びくびくしながらもなんとか事情を説明して、誘導に最適な道筋を聴き出した。
(「ただの催しとは言え、悪戯に触れれば、霊も怒ったりするんだろうか。写真を撮ったら肩に手が……とか……まあ撮るのはやめておこう」)
 思案しながら、飛鷺沢・司(灰梟・e01758)を先頭にして障害物の有無を確認。
 動かせるモノは動かしてもらって、そうでないモノは注意を共有する。
「大丈夫みてーだな。駐車場にもヒトが残ってねーか確認してくるぜー! でけー声なら任せとけ! センセーにも、よく『もうちょっと小さい声で歌え!』って言われるんだぜ!」
「ダンも、一緒に行くわ」
 七々美・七喜(黒炎の幼狐・e35457)が、黒の狐耳をぴこぴこさせて駆け出した。
 そのあとを、ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)が追いかける。
 お化け屋敷から受付前を通過して、エスカレーターを降りて真っ直ぐ。
 駐車場のなかは勿論、周囲も含めて、逃げ遅れている者はいないかと視線を巡らせる。
「あなたも、はやく逃げて」
 緑の大きな瞳を瞬いて、翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)も避難を促す。
 従業員だって、巻き込むわけにはいかないのだから。
「予め言っておくけど――幽霊とか、怖くないから」
 駐車場への道を塞いで、アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)が呟いた。
 間違って此方へ進路をとらないよう、ヒトの流れを見張っている。
「うぅ、私は怖いのです……へメラちゃん! 離れないでね!」
 ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)が、隣で眉を顰めた。
 抱き締めるテレビウムに、逆にぎゅっとされたり、腕を撫でられたり、励まされる。
「ケルベロスの皆さん、あとはよろしくお願いします」
 斯くして、ケルベロス達の協力もあり、避難は完了した。
 一行は二手に別れて、ドリームイーターの誘き出しへと作戦を移行させる。
「古い建物ってさぁ、なんか出そうでヤだよなぁ……べ、別に怖いわけじゃねーぞ?」
「ここは、オバケが出る、かも。ころされた家族の、ころされた娘。親の仇を探してる」
「哀しい物語……そう、貴女は憎しみに囚われ彷徨う、幽霊」
「幽霊……こわいって、思ったことはないかなあ。だって、視たことないもの」
 七喜、ダンサー、ロゼ、ロビンの4名は、駐車場で噂話をする組だ。
 彷徨うドリームイーターが、ちゃんと包囲網にかかるように。
「ふぅん。それで……へぇ。エレコくん、物知りだね」
 残る4名は、同じく噂話をしながら、お化け屋敷の前から駐車場までを移動する。
 半分くらい歩いたかなぁと、アルケミアが振り向いた場所に、それは在った。
「アナタ達、ワタシのこと、識っているの?」
「300年前の記録を元にしてるというだけで、所詮は造りも、の………結構迫力あるね。お化けのお姉さん、だろう?」
「あなたは昔ころされたお化け、パオね? お願いだからじょうぶつしてほしいのパオ」
「……さぁな、お前の正体などワタシは知らない」
 司とエレコは正しい解答を発するが、イミナだけがはぐらかす。
 瞬間、ドリームイーターの怪火がイミナの身体を包み込んだ。

●弐
 執拗にイミナを狙うドリームイーターを連れて、待機組と合流。
 揃ったところで、陣形を整える。
「本当にいた! 怖いよへメラちゃん! サッと終わらせちゃって、しっかり成仏してもらいましょうねっ」
 全身の装甲から放出するオウガ粒子が、前衛陣の超感覚を覚醒させた。
 ロゼの言葉に、テレビウムは首と凶器を縦に振り下ろす。
「おっと、それ以上近づくなよ――マジでちびるぞ」
 稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブで、ドリームイーターの胸部を貫いた。
 アルケミアは現象が怖いわけではなくて、驚かされることに慣れていないだけなのだが。
「べ、別にオバケとか怖くもなんともねーんだからな! 妖狐がオバケ怖がるとかありえねーし! ホンマツテントーとかそういうヤツだし! 言葉の意味が違う? 知るか! ユーレイの正体見たりデウスエクスってヤツだろ!」
 見栄っ張りだし負けず嫌いだし、友達が平気なのに怖いとか言えるわけない七喜。
 早口に言い捨てて、流星の煌めきと重力を宿すエアシューズで飛び蹴りを繰り出す。
「この子達、結構重いのパオよ」
 趣味で錬成したゴーレム達に命じて、ドリームイーターへと纏わり付かせた。
 身動きがとれないうちに、エレコのテレビウムも凶器で殴りかかる。
「仮にも魔術師だし、霊的エネルギーはなんとなく、わかるんだけど。ぼんやりとしたエネルギー体にしか、見えないのよね。だから、おばけを視たことは、ないかなあ……一度、会ってみたいとは、おもうんだけど」
 開く掌から、ドラゴンの幻影を解き放つロビン。
 吐き出す深紅の炎の包むモノがお化けでないことに、ほんのちょっと溜息を吐く。
「ストーカー、メディックのロゼに祈りを捧げてね」
 前列にいるシャーマンズゴーストの物言わぬ祈りが届いたのを、認識して。
 ダンサーは攻性植物から収穫した黄金の果実を、前列のメンバーへと贈る。
「……蝕影鬼、怨念籠った怪異を重ね掛けるぞ……戒めるように祟る」
 縛霊手で殴りつけると同時に、イミナは網状に霊力を放射した。
 ビハインドも主に従い、ロードコーンに念を籠めて飛ばしまくる。
「然し、男が俺だけという悲劇……彼女と来たかったよ。次回のためにも、本物のお化けにはご退場願おうか」
 古代語を詠唱して放った魔法の光線は、見事ドリームイーターへと命中。
 まるで石にでもなったかのように、司を見詰めたまま動けなくなった。

●参
 プレッシャーや炎に耐えつつ、攻撃を続けるケルベロス達。
「怖いのは苦手なのパオ……でもでも、困ってる人は放っておけないパオ! トピアリウスも一緒に行くのパオ!」
 凶器を握り締めるテレビウムを連れて、エレコはドリームイーターの視界から消える。
 理力を籠めたフェアリーブーツで、星型のオーラを蹴り込んだ。
「きらりきらり夢幻の泡沫。生と死の揺籠、幾億数多の命抱き。はじまりとおわり、過去と未来と現在繋げ咲き誇る時の華ーー導きを」
 ロゼの玲瓏たる絢爛の歌声が、生と死の子守唄を紡ぎ奏でる。
 異郷の言語にて記された魔法陣の周りに光の薔薇が咲き誇れば、破魔の雷が降り注いだ。
「――呑まれてみるか」
 地獄化した記憶に弾けた炎が、司の両手の惨殺ナイフの刀身へと燃え宿る。
 高く翳せば天は夜になり、満月から降る幾千の月光がドリームイーターを撃ち抜いた。
「……逃がしはしない……祟る祟る祟祟祟祟……封ジ、葬レ!」
 呪力を籠めた杭を、ドリームイーターの背に突き立てて穿つイミナ。
 金槌で何度も何度も、尋常でない痛みを与え続ける。
「ようこそ、絶望へ」
 前進してきていたドリームイーターの足が不意に、其処で止まった。
 アルケミアの『手品』が身体を縛りつけ、肌のみに無数の切り傷を残す。
「System:Imitation,Mode:Fox,Start-up――出番だ『妖狐』! 焼き尽くせぇ!」
 手の甲の魔術回路を輝かせて七喜が召還したのは、真紅の炎で模造された巨大な妖狐だ。
 灼熱を身に纏いて正面から突進を喰らわせれば、辺りには焦げた匂いが漂う。
「さようなら」
 いつの間にか死角へとまわりこみ、ロビンは簒奪者の鎌を振り墜とした。
 刹那、冷酷な一撃が容赦なくドリームイーターの首を刎ねる。
 ごつんと落下すると同時に、力の抜けた身体も地面へと崩れ落ちた。
「オバケ屋敷にいるオバケ。怨むは、疲れる。あなたも静かなところで、おやすみなさい」
 弔いの想いを乗せて、詩を歌い、踊るダンサー。
 大好きな音楽でドリームイーターに哀悼の意を示すとともに、仲間達を回復させた。

●肆
 戦いは終わり、博物館にも平和が戻る。
「駐車場はきちんと修理して帰るぜー。片付けしないと、ばーちゃんが鬼になるからな!」
 ヒールグラビティでの修繕は、仲間達にお任せ。
 ごみを拾ったり、落ちた花葉を掃いたりと、七喜は駐車場の美化に努めた。
「七喜ちゃんお疲れパオ! 綺麗になったパオ! 折角だし、博物館を見学して帰るパオ! アルケミアさんも一緒に行くですパオ!」
 エレコの印象は、七喜はちっちゃくて可愛い子、アルケミアは頼りになるお姉さん。
 ふたりの手を引いて、エレコは自動扉をとおった。
「ちょっとだけお化け屋敷覗いて帰るけど、みんなどうする? ダンサーさんは?」
 『狐面』を外したアルケミアは、怖がるような素振りをして皆に誘いの言葉をかける。
 友達のダンサーを始め、幾人かが手を挙げた。
「ダンも行くよ、オバケ屋敷。ダンはオバケなんて怖くないかも」
 頷くダンサーと、後ろにぴたっと着いて身体を震わせるシャーマンズゴースト。
 サーヴァントでもお化けは苦手らしくて、ストーカーする以上の密着度だ。
「へえ、なかの叫び声が外のスピーカーから聴こえるんだな。ほんとに博物館なのこれ……勇者に道を譲ろうか」
 前の客の絶叫に、司は思わず、無表情のままで沈黙してしまう。
 入るという決断を後悔して、回避しようとさり気なく入口を譲った。
「皆さん、行ってらっしゃいです~あれ?! いまなにか、影が……」
 お化け屋敷はあまり得意でないから、皆を送り出すことにしたロゼ。
 司とともに手を振るのだが、視界の端にナニカを視た気がして血の気が引く。
「……案ずるな、ワタシだ……お化け屋敷自体は紛い物の怪異ではあるが、雰囲気は好ましい……デウスエクスとはいえ本物が来たならば更に楽しめそうか……長屋の化け物、もっと色々見せて貰うぞ」
 ロゼの視界に、今度ははっきりと、愛用の人形達を抱くイミナの姿が捉えられた。
 お化けっぽさを目指して、わざと物陰からゆるりと現れたのである。
「ねえ、ホンモノのおばけ視たこと、ある? どんなかんじ? こわい?」
 そんなイミナに、ロビンが興味津々に質問責め。
 お化け屋敷のなかで、あそこにいるとか此処にもいるとか、そんな話で盛り上がる。
 実はロビンがイチバン、お化け屋敷を楽しんでいたのかも知れなかった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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