ミッション破壊作戦～挑むは邪なる英霊の領域

■リプレイ

●信仰者たちの領域
　ヘリオンは目的地へたどり着こうとしていた。
　天草諸島の強襲型魔空回廊を攻撃するのは、今回が初めてではない。
「先に行ったメンバーの攻撃は成功すれども破壊できなかった」
　最上・白寿（素直になれない・e01779）が呟く。
「今回ので破壊できるかは分からないけど、出来るなら破壊できた方がいいわ。出来なくても後に続ければ」
　狐耳の少女の言葉に、緑の鱗を持つドラゴニアンが笑みを見せた。
「どっちに転ぼうが、まずは叩きつけるだけさ。そうだろう？」
　マサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872）の笑みは一見すると穏やかそうだったが、勘のいい者ならばその後ろに凶暴な性格も隠れているのが分かったかもしれない。
「ま、潰したところでどうせ、隊長とか強いやつは出てこないんだろうけどね」
　日影野・燦（這い寄るコールタール・e32883）は平凡そうな笑みを浮かべていた。
「派遣してるのは駒だけなんだろ。……正直、かなり怒ってるんだよね」
　まるで冗談のように言う彼が本当に怒っていると、わかる者ははたしていただろうか。
「どっちにしろ、敵は殺す。いつも通りだ」
　事も無げに言ったのは赤いコートの男、コール・タール（マホウ使い・e10649）。
「そうですね……隊長だろうと部下だろうと、関係ありません」
　三和・悠仁（憎悪の種・e00349）の言葉はとても静かで、だからこそ彼の抱いている憎悪がはっきりとわかる。
「駒ならなおさらさ。使いっぱしりのあんな奴等に、負けてたまるかよ。例えどれだけの労力をかけようと、絶対に諦めてたまるか」
　コールがさらに言葉を重ねた。
　彼が願うは『不屈』。憧れた英雄像は何事にも屈しない、猛き者だ。そして、再現するは武器ではなく英雄の業。
　言葉と同時に、ヘリオンが天草の上空にたどり着く。
「そろそろ時間のようです」
　覆面の下から風魔・遊鬼（風鎖・e08021）の言葉が投げかけられ、ケルベロスたちはそれぞれに貸与されたグラディウスを手に取った。
「なら行くか。うざったい者どもを追い返すためにな」
　進藤・隆治（黒竜之書・e04573）の言葉に、仲間たちが頷いた。
「出陣だ。皆、天草の地で会おう！」
　愛用のゲシュタルトグレイブの代わりに、クオン・ライアート（緋の巨獣・e24469）はグラディウスを掲げて仲間たちに告げる。
　赤衣のヴァルキュリアは宙へ身を躍らせる。
「ああ、挑ませてもらう！」
　コールが、他の者たちが続き、次々にはるか下に見える魔空回廊へ飛び降りた。

●魂を込めて
　ケルベロスたちは空を切り、地上へと一気に降下していく。
　クオンは敵地へと向けて、まっすぐに小剣を突き出した。
「狂信者の群れ、か。良いだろう、その信仰、真っ向から否定し、叩き伏せてやる！」
　旗のごとく地に向けて剣を掲げる少女の言葉に、わずかに遅れてコールが呼応する。
「何が栄光だ、何が福音だ。奪う以上、そんなものが伴うわけがない。なにより、ここにはお前らが奪えるものは無い」
　それぞれがうちに持つ想いを高めながら、ケルベロスたちはバリアをしっかり見据える。
「我はクオン・ライアート！　貴様らをシェオルの果てへと導く……緋のヴァルキュリアなり！」
「失せろ！　ここは地球の、俺達の場所！　道理から外れた、間違っているてめぇらのいていい場所じゃない！」
　クオンの剣が、コールの剣が、立て続けにバリアへと突き刺さり、巨大な爆発を起こす。
　悠仁は、強い憎しみが宿した視線を向ける。
「信じるものの為に、か。何とも立派で、勇ましくて」
　開いた口から、吐き捨てるような声が漏れる。
「――反吐が出そうだ。貴様等侵略者は、この星で一体何をしてきた？」
　片時も忘れられない光景が脳裏をよぎる。
　デウスエクスに壊滅させられた傭兵団。そして、命なき親友と、親同然だった人の姿。
　いや、それだけでなく今も、デウスエクスは事件を起こし続けている。
「どれだけ綺麗な言葉を並べようが」
　グラディウスを強く握った。
「どれだけ豪儀な信念を持ち出そうが」
　そして、大きく振りかぶる。
「どれだけ純粋な想いを抱いていようが」
　痛いほど強く握っても、彼の心は痛みを感じなかった。
「俺は決して忘れない。貴様等をこの星から根絶するその時まで、その所業を、起こされた悲劇を、犠牲者の無念を」
　叫びと共に小剣を振り下ろす。
「忘れて、なるものか……！！」
　また一度、爆発が起こった。
　ケルベロスたちの攻撃は次々にバリアへと突き刺さる。守り手であるデウスエクスはそれに反応できない。
　もう何度も破壊作戦に参加している者には馴染みの光景。
「天草諸島はかつて戦乱の世の末に安寧を求めキリスト教に傾倒した民達の住んだ島よ。彼らの信仰と貴様らの狂信は全く違うわ！　そして観光地としてもたくさんの人が訪れ産業などに触れて楽しんでるところよ」
　白寿が叫んだ。
「そんな地にこれ以上貴様らみたいなやつらをのさばらせておくものですか！　この地から出て行きなさい！」
　少女に続いて竜派ドラゴニアンの頑丈な体が落下していく。
「そうだ……。お前達が誰に仕えていようと興味が無い。だが、ここは人の地であり過去に信仰のあった場所。お前達のような狂信する小娘のためにある場所ではない」
　隆治の叫びが、彼らを拒絶する。
「だから、ここから出て行け！」
　竜の一撃を激しく叩き込んだその直後に、もう１人の竜が続いた。
「テメェらの大義も忠義も関係ねぇ、力なき人々に武器を向けた段階でオレは絶対に許さない。今日、この場で全て終わらせてやる！」
　マサヨシが獰猛な表情で、間近に迫るバリアを睨みつけている。
「グラディウスよ、オレの力のありったけをくれてやる。だから全てを焼き払ってみせろ！！」
　渾身の力を込めて、彼はグラディウスを叩き込んだ。
　爆炎と雷光は次々に炸裂する。
「簡単に忘れられるなら忘れよう！　忘れられないからの本気！　本気になることのどこが悪い！」
　遊鬼がさらに一撃、グラディウスを炸裂させる。
（「悪いわけがない」）
　燦は思った。
　それが、敵を倒すことに通じるならば。
「狂信的な集団を作っておきながら、隊長と呼ばれておきながら、自分が出張らない奴に戦歴なんて飾らせ続けるものかよ。ここをそんな奴の足がかりになんかさせない」
　彼の怒りは、回廊を守る者たちではなく、そさらにその先にいる者に向けられていた。
「お前が軽視している隊員の命も、これまで攻めたケルベロスの魂も、何より、お前らが当然と思って踏み躙っているここに住んでいた人たちの日常も」
　敵が兵団という以上、まとめる者がいるのが道理だ。偉大なる王だとか、ベル団長だとか彼女たちが呼んでいる相手だろう。
　損耗を意に介さず、延々と部下を送り続けている者がどこかにいる……そのことが、燦を怒らせる。
「決して安くはないってことを教えてやる！！　響け！！」
　８度の光が、８度の炎が、魔空回廊を守るバリアを揺らした。
　――けれども、揺らしただけだった。
　ダメージは与えたが、破壊にはいたらなかったのだ。
　着地したケルベロスたちは急ぎ足で仲間たちと合流していく。
「……届かなかったのね」
「らしいね」
　白寿の言葉に、燦はどこか歪んだ笑顔で答えた。
　彼がここに挑むのははじめてではないらしい。破壊したいという想いは強かったはずだ。
「モブのボクはともかく、みんなの叫びは魂がこもってたと思ったんだけどね」
「なら、モブの分が足りなかったのかもね。……ま、私はあんたの叫びが悪かったようには聞こえなかったけどね」
　ヘリオライダーは最大で１０回の攻撃で魔空回廊は破壊できると言っていた。裏を返せば、それだけかかる場合あるということだ。
　そして、強力な敵が現れる回廊ほど堅く、ラッキーヒットが起きる可能性も低くなるのだ。
「だったら壊れるまで挑み続けるだけさ。そのためにグラディウスは持ち帰らないとな」
　コールの言葉に、集まってきた皆が頷いた。

●撤退戦
　ケルベロスたちは炎の中、移動し始める。
　だが、わずかも進まないうちに、燦が突然煙を薙ぎ払った。
　華麗な動きで隠し持っていた――隠し持てるサイズのパイルバンカーが煙を切り裂き、そして空を切った。
「敵が来たのか？」
「いや。ダメ元だったけど、やっぱりダメか……」
　敵が狂信的で統率が取れているなら、対応までかかる時間は同じ程度になると考え、彼はカウンターを当てられないか試してみたのだ。
　もっとも着地地点や配置で誤差はいくらでも出る。予測しきるのはさすがに無理がある。
「……けど、完全に外れでもなかったみたいだね」
　少し薄くなった煙の向こうから近づいてくる人影に、ケルベロスたちは身構える。
「偉大なる王に逆らう愚かなる者ども！　我が槍の前に果てるがいい！」
　盾と槍を構えたエインヘリアルは、聖なる歌を煙の中に響かせる。
　クオンは彼女といくらか距離を取って、まっすぐ敵を見据えた。
　聞きしに違わぬ狂信的な歌が仲間たちを襲っているが、ひるみはしない。
　突き上げた拳に、彼女は爆破スイッチを握っていた。
「さあ皆行くぞ！　偽りの英雄に今、ケルベロスの『牙』を立てよ！」
　爆炎をさらに彩る、色とりどりの爆発が仲間たちを鼓舞する。
　皆を導く『ヴァルキュリア』として、彼女は強敵に立ち向かう。
　さらに遊鬼がケルベロスチェインを展開して、仲間たちを聖歌の呪縛から解き放つとともに守りを固めた。
　支援を受けた仲間たちが、エインヘリアルへと攻撃を加えていく。
　悠仁の手にしたハンマーが変化して敵に砲撃を叩き込んだ。
　動きが止まったところで、マサヨシの手にした魔剣のごとき剣に炎が宿り、コールが生み出した竜の幻影と共に敵を炎で包みこむ。
「ほらほら！　こっちだ！」
　一歩遅れて前進した隆治が衝撃波をばらまいて兵団員を挑発する。
　白寿は背中と腰につけた鞘から、二振りの刀を抜き放つ。
　腰帯には自分と、それから前衛の仲間たちから預けられた分のグラディウスがぶら下がっている。後衛の彼女のほうが安全というわけだ。
　最低でも目の前の敵を倒さない限りどうやっても撤退はできないが、前衛に出ているよりは多少倒れにくいはずだ。
　後に続く者のためにもグラディウスは必ず持って帰らなければならないのだ。
「さあ、さっさと片付けてあげるわ！　風の刃を受けなさい！」
　一閃した利き手の刀が、風を巻き起こす。
　盾で受け止めるのも間に合わず、エインヘリアルの身に着けた純白の装束を切り裂く。
　けれど、兵団員の１人に過ぎないとはいえ、敵は精鋭だった。
　槍の一閃がケルベロスたちの守りを容易く貫き、邪な聖歌が惑わさんと響く。
　主に狙われているのは、先ほど挑発した隆治。もしも彼１人だったなら、すぐに倒されてしまっていただろう。
　だが、マサヨシが彼をかばって、攻撃を分散させていた。
「どうした、そんなもんかよ！　効かねぇなぁッ！」
　仲間の代わりに槍に鱗を貫かれて、竜は獰猛に笑う。
　遊鬼は無言で２人を回復し続けていた。
　いくつかの癒しの技を使い分け、攻撃から仲間たちを守り続ける２人を支える。
　彼１人では回復量が足りないのは明らかだったが、敵を倒すまで打撃役に攻撃が向かなければそれでいい。
　隆治は鎌やナイフで敵の体力を奪い取っていたものの、それでも足りないはずだ。
　分身の術をマサヨシにかけると、竜の姿がちらつき始める。
　一言も発さず、ただ効率だけを考えて、遊鬼は回復を続けた。
「止まれと言われて止まって見てよ」
　燦の言葉に敵が凍り付き、動きが一瞬だけ完全停止する。いや……停止してから凍り付いたのかもしれない。
　炎と氷に包まれた敵は攻めるたび、避けようとするたびに傷を増していく。
　時折回復の技も交える敵だったがケルベロスたちはそのたびにエインヘリアルを縛る技を諦めずに仕掛ける。
　隆治は『虚』をまとわせた鎌で敵の傷口から生命力を刈り取った。
「ってか、お前達うざったいからさっさと居なくなってくれないかなぁ」
　衝撃波に、虹を纏った蹴りに、挑発されて彼を狙い続けている敵に告げる。
「我輩は帰れなくても問題ないから、お前達が帰れ」
「言われなくても、貴様を返す気などありはしない！」
　福音の槍が、また隆治へと向けられる。
　鎌とナイフで受け止めようとするが、防御などできない速度で槍は彼の胸板を貫いた。
「隆治！」
　とっさにかばおうと動き出していたマサヨシは間に合わなかった。もっとも、間に合っていれば代わりに彼が倒れただけだったろうが。
　体に深く食い込んだ槍。向こうにいる敵の姿が、一瞬だけのはずなのによく見えた。
「問題ないって、言ったよな」
　燃え上がり、氷漬けになり……傷だらけで長くはもたないだろうエインヘリアルの姿を確かめ、隆治は倒れた。
　マサヨシはかばおうとしていた動きを、そのまま攻撃に転化する。
　クオンやコールの攻撃に続いて、集中を極限まで高め身体能力を限界まで引き上げる。
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――我が拳に砕けぬもの無し――我が信念、決して消えること無し――故にこの一撃は極致に至り！」
　蒼炎をまとった拳が、怒りと共に敵を追い、殴り倒す。
「来いよ、狂信者。今のオレは本当にキレてんだ」
　仲間を守り切れなかった。その想いが、より彼の笑みを獰猛にする。
「Tempus edax rerum． ……Si sic， ede！！ 【Abyssus abyssum invocat】！！」
　悠仁が暴走寸前の状態で魔剣を振り下ろして痛打を与えた。
　敵が今度はマサヨシに槍を向ける。その一撃で倒されずに済んだのは、遊鬼がほどこしてくれた分身のおかげだ。
「貴様の槍は見せて貰った」
　クオンが左手を天へ掲げた。
「ならば次は私の番だ。魂を穿ち、冥府へと還す」
　手に現れるのは、白銀に輝く三叉の槍。
「これぞ我が槍“カナンの槍”よ！　この白光に包まれて、シェオルの果てに散るが良い！」
　貫かれ、それでもエインヘリアルはまだ倒れなかった。
　盾を構えて自らを回復しようとしている。
「最後まで福音ってやつにすがるのか。だが、もう遅いぜ」
　コールは手の中に、武骨で頑丈な長弓を構えた。
　鹵獲した技術と知識のすべてで作り上げた、語り継がれる伝説の武器。
　伝承武具・十二の功業は一瞬のうちに九条の光を放つ。そのすべてがエインヘリアルを確実に追い詰め、盾と槍を砕いて彼女を貫いた。
　断末魔の悲鳴が響き終わる間もなく、再びケルベロスたちは動き出す。
　倒れた隆治を悠仁が抱え起こし、倒れる寸前のマサヨシも他の者たちが支える。
　煙が晴れたときには、すでにケルベロスたちは中枢部から十分に離れていた。
　全員が一度振り向いて、まだ消えていない回廊を確かめる。
　いずれ必ず……その思いを胸に、彼らは天草の地を離脱した。

作者：青葉桂都	重傷：進藤・隆治（獄翼持つ黒機竜・e04573）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年7月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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