牛さん大暴走!

作者:白鳥美鳥

●牛さん大暴走!
「この辺りの草原にいるってお話なんだよね」
 小学生の彼方は、双眼鏡を使って、目の前に広がる草原で目的の物を探し始める。
「七夕って織姫と彦星が出会う日なんだけど、彦星が飼っている牛さんもお仕事がお休みになるんだよね。それで、彦星がいない間に抜け出した牛さんがこの辺りを自由に走ってるって! 彦星が飼ってる牛だもん、絶対見たいよ! 普通の牛さんより大きいんじゃないかな! だって、お星さまに住んでるんだもんね!」
 そう言ってから、彼方は草原に少しある木々の方に駆け寄った。
「でも、そんな大きい牛さんに見つかって怒ったりしちゃったら……僕なんてひとたまりも無いよね。怒らせない様に、遠くから探そうっと」
 そんな彼方の前に第五の魔女・アウゲイアスが現れると、彼の心臓を持っている鍵で一突きにした。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 気を失って倒れる彼方の隣りから、淡い光を放った大きな牛が現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「つい先日は、七夕だったよね?」
 そう言ってから、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話を始めた。
「不思議な事に強い『興味』を持って、実際に自分で調べようとしている子がドリームイーターに襲われて、『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったみたいなんだ。『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまったみたいなんだけど、その奪われた『興味』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしているんだ。だから、みんなには被害が出る前に、このドリームイーターを倒して欲しい。無事にドリームイーターを倒す事が出来れば、『興味』を奪われてしまった少年も目を覚ましてくれると思うよ」
 続いて、デュアルは状況についての説明を始める。
「場所は見渡しの良い、朝方の草原。木々も少し生えてはいるみたいだけど、草原がメインで、人は余り居ないと思う。でも、念のために注意を払っておくと良いかなって思うよ。そして、ドリームイーターなんだけど、普通の牛より一回り位大きいかな。普通の牛自体、結構大きいから、それより大きいって迫力あるっていうか……怖いよね。後、淡く光っているみたいだ。それで、このドリームイーターは人間に『自分は何者?』みたいな質問をしてくるんだけど、正しく答えられなかったら相手を殺してしまうんだ。だけど、自分の事を信じていたり、噂をしている人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるから、それを上手く利用すれば有利に戦えるんじゃないかな?」
 最後にデュアルは皆に励ましの言葉を贈る。
「今回のドリームイーターは、彦星の飼っている牛っていう『興味』から生まれたもの。子供じゃなくても、興味がある人っていると思う。可愛らしい『興味』が、恐ろしいものになってしまわない様に、みんなには頑張って欲しい。応援しているからね!」


参加者
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)
伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)

■リプレイ

●牛さん大暴走!
 そこは広い草原だった。ここなら、自由に何でも走り回れる、そんな雰囲気を感じさせる場所。朝日が綺麗で空気も澄み、草には水が滴っている。
「しっかし、ガキの想像力っつーものにはオドロくしかねーぜ」
「折角の可愛らしい興味と好奇心を、こんな形で具現化させるのはいただけないね」
 デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)は、肩をすくませる。その言葉に、天喰・雨生(雨渡り・e36450)も同意した。
 ここに現れるというドリームイーターは、彦星の元で働いている牛。それが休暇を楽しみに来たそうだ。それはそれで子供の想像力に感嘆する訳なのだけれど、それがドリームイーターとなって暴れるとなれば話は別である。
 見渡す限りの草原。これならば、誰かがいても直ぐに分かる。上手くいけば、彼方を見つける事も出来るかもしれない。
「ぁー、こんな朝っぱらからご苦労なこって……」
 一方、欠伸しながら眠そうな顔をしているのは、伽藍堂・いなせ(不機嫌な騎士・e35000)。まあ、仕事をしていれば目は覚めるだろうし、終われば二度寝をすれば良い。そんな事を思ったりしている。
 萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)達は、人がいないか手分けして確認をしていく。
 危ない戦いになりそうなので、彼方を見つけておきたいと思うマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は、その翼を使って空から探す。見つけたいのは小学生の男の子。少々、見つけにくかったが、双眼鏡を持った少年を見つけ出す事が出来た。
「一応、ヒールしたけど、目を覚ます気配はないなあ。安全な場所に連れて行きたいけど、どの辺りが良いかな?」
「相手が牛だから、噂話をする場所からなるべく遠ざけて……でも、私達がまた行方が分からなくなっちゃったら困るから、どこか目印になりそうなものがあると良いかな?」
 ルカ・フルミネ(レプリカントの刀剣士・e29392)は、周囲を見回す。草原で何か目印になるもの……どこかに何かの植物が群集していると分かり易い。
「あ、あの辺りに……小さなお花が……」
 相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)は、小さな白い花が咲いている所を見つける。メイド見習いの彼女は、花を生ける機会もあるので目につきやすかったのだ。
「では、私が連れていこう。皆は呼び寄せを頼む。ドリームイーターが現れる前には合流しよう」
 楼芳は彼方を抱え上げると、愛が見つけた場所に連れて行く。それを見送ってから、残りのケルベロス達は離れた所で噂話をする事にした。
「タナバタっていうとオリヒメとヒコボシが主人公だけど、ヒコボシの牛に注目するって面白いね」
 そう話を始めるのはマヒナ。
「タナバタの日は牛さんもお休みで羽を伸ばしてる……何だかありそうな気がするよ」
 マヒナの言葉に、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)と愛は頷く。
「牛も、お休みが、欲しかったんだね……」
「はふ……こんなに広い草原なら、牛さんも伸び伸びと、過ごしているんで、しょうね」
 何となく、牛が自由を謳歌している、そんなイメージが浮かんだ。
 そんな事を話していると、大きな影が三人を覆った。朝の影なので、本来の姿以上に大きな大きな影。
「うん、僕、畑を耕したり、荷物を運んだり……普段、お仕事を一生懸命頑張っているんだよ」
 何だか少し疲れた声で言うのは、大きな影の持ち主……淡く光っていて綺麗だが、とても大きい。星で働いているせいなのかは分からないが、とてもとても大きい。
(「え、えと、それにしても、牛さんって、こんなに大きいもの、だったのでしょうか……?」)
 淡く光る大きな牛を見上げながら、愛はそう思う。
「でか……」
 雨生は思わず声に出してしまった。身長が低い事がコンプレックスの彼にとって、その大きさは、ちょっと腹が立つ。八つ当たりも良い所だと分かってはいるのだけれど。
「だからね、休暇を取って自由を満喫しているんだ。……さて、僕は一体、何者だと思う?」
 少年の興味から生まれたからだろうか、大きい身体に似合わない可愛い少年の様な声だ。
「……彦星の、牛?」
「ヒコボシが飼ってる牛さん。星に住んでるだけあって光ってキレイだね」
「彦星の飼牛だろ?」
 無月、マヒナ、いなせの答えに嬉しそうな顔をする大きな牛。勿論、皆からは、その顔がはっきりとは分からないだが、放つ光と雰囲気が喜んでいる感じがするのだ。
「えへへ、ありがとう。じゃあ、僕、遊んでくるね!」
「残念ながら、そうはいかねえんだなあ」
「え?」
 帰ろうとする大きな牛に、デフェールが声をかける。それに驚いた大きな牛のドリームイーターの前には、臨戦態勢に入ったケルベロス達がいた。

●大きな牛型ドリームイーター
 牛のドリームイーターの隙を突き、先制攻撃を加えるのは楼芳。構えたルーンアックスを煌めくルーンと共にドリームイーターに向かって思いっきり振り下ろす。そして、その攻撃地点を狙って、愛は変形させたドラゴニックハンマーから砲弾を打ち放った。
 攻撃を受けたドリームイーターは驚いた様子だったが、直ぐに全身から怒っているオーラを放つ。
「とりあえずこの暴走暴れ馬……じゃなかった暴れ牛をどーにかしねぇとな! 無月も同じ守り役だけど、女の子に無理はさせたくねぇから頼ってくれよ!」
「……うん、ありがとう。あなたも、無理、しないで……」
 デフェールの言葉に、無月は頷く。同じ仲間を守る者同士、重い一撃を持っている相手という事もあり、大事な役回りだ。特にお互いの状態を確認する必要がある。
「……僕、『馬』じゃないもん! 『牛』だもん!!」
 デフェールの言葉が聞こえていたらしく、『牛のドリームイーター』はとても怒っている。頭を下げると、そのままデフェールに向かって突進してきた。
「だぁあっ……クソぉ! 闘牛みてぇに突進しやがって! オレぁ闘牛士が使ってる布じゃねぇぞ!」
 早速、攻撃の対象になったディフェールは、突進攻撃をなんとか受け止め、そう悪態をつく。だが、受け止めたとはいえ、相手は巨大な牛の突撃、ダメージはとても大きい。まずは、自らを回復し、無月もそれを手伝った。
 いなせはバスターライフルを構えると、ドリームイーターに向かってエネルギー光線を撃ち放つ。そして、いなせのウイングキャット、ビタはデフェールの回復へと向かった。
 マヒナは対デウスエクス用のウイルスをドリームイーターへと撃ち放ち、その間に、シャーマンズゴーストのアロアロもデフェールの回復の祈りを捧げた。
「ひゃー! こっわ。気分は闘牛士かな、っと!」
 ルカはヌンチャク型に変えた如意棒を使って、一撃を与える。それに重ねて、雨生も自らを赤黒く輝かせながら、同じ如意棒捌きによる攻撃を加えた。
 ドリームイーターは、息を吸い込む。その身体に纏っている淡い輝きが不思議な程美しく、まるで星を思わせる美しさに、星が好きな無月の心は吸い込まれていってしまった。
「おい、目ぇ覚ませって!」
 直ぐにデフェールが、オーラを放って彼女の意識を取り戻させる。その様子を確認してから、楼芳は次の攻撃の構えに入った。彼の攻撃は、凍結の光線。それは、ドリームイーターの放つ淡い光を受けて凍てつく光はより美しく襲い掛かった。更に、愛の煌めきを伴う重い蹴りが叩き込まれる。その光も美しく重なっていく。
 その間に、無月は自らの傷をオーラによって癒し、更に、いなせが無月達へとドローンを展開し、守りを固めていった。
「無月、頑張って!」
 マヒナは無月へ施術を行い、傷を癒す。ビタ、アロアロもデフェールと無月へと協力して回復へと励んでいた。
 ルカはオウガメタルを纏わせた、鋼鉄の一撃をドリームイーターへと叩き込む。
 雨生は、打ち出の小槌に似たドラゴニックハンマーを叩きつけるが、その攻撃は動きを読まれていたのか、巨体を下げてかわされてしまった。
「大きくても当たらない時は当たらない、か」
 悔しいが、別の策を講じる必要がありそうだ。
 ドリームイーターの方は、下がった姿勢で目を閉じる。どうやら瞑想しているようで、今まで受けて来ていたものが少しずつ回復していっているようだ。
「だが、受けてきた傷は深い。動かないとなれば、寧ろチャンスだろう」
 今は一気に倒す事は難しい。そう判断して楼芳は予定を切り替え、バスターライフルを用いてエネルギー光線をドリームイーターへと撃ち放った。
「わ、わたしだって、やればできるんですからっ!」
 愛は光の矢を召還する。ただ、召還呪文は不完全の為、光の矢は真っ直ぐに飛んではいってくれない。それでも、無事にドリームイーターを貫いた。
 デフェール、無月も今回は攻撃に移る。デフェールはドリームイーターへと高速の弾丸を叩き込んだ。
「受けきれる……?」
 無月は自らの槍、夜天鎗アザヤに氷の霊力を宿らせる。そして、ドリームイーターへと全身を使っての振るい、手首を返した振るいを混ぜ合わせて攻撃を加えた。
 いなせはケルベロスチェインを使い、魔法陣を描いて楼芳達の守りを更に高めていく。マヒナは、まだ傷が癒えていないデフェールや無月に聖なる光により癒し、ビタとアロアロもそれを手伝った。
「大きいってことは、良い的だよ? そぉれ、シビれろっ!」
 ルカは指先に内蔵されている兵装から、強い電撃を放つ。
「血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
 雨生は、一族に伝わる『雨呪』の一つ、第壱帖丗肆之節・塵核をドリームイーターへと掌底で撃ち込んだ。
「……いやだ、まだ帰りたくない……!!」
 まるで子供のような事を言う、牛のドリームイーター。それは、遊び足りない子供の様な素振りだった。
 再び頭を下げてくる。そして、凄い勢いで突進してくる牛のドリームイーターをデフェールが再び喰らいついて、受け止めた。
「ったく! イテェんだよ! このデカブツがぁああ!」
 やはりダメージは大きいらしく、デフェールは自ら、そして無月が彼へとオーラによって傷を癒した。
「もう迷いはしない。ここからが本当の私の道だ」
 楼芳は腕を増大・硬化させると、その大きな腕を使ってドリームイーターを叩き潰す。その強い攻撃にドリームイーターは淡い光の粒に変わって、空へ向かって舞い上がる。その様子は星へと還っていく様だった。
「……ごめんね。休憩時間は、終わりだよ。あなたは、お仕事に、戻らないと」
 無月はそう言い、他のケルベロスもそれを見送ったのだった。

●早朝の草原で
 彼方の元に皆で赴く。彼は気を失っていたが、ヒールをしてあげる事で意識が回復した。
「ヒコボシの牛さんは星に帰ったみたいだよ」
「そうなの? ……会いたかったな」
 マヒナの言葉に彼方は寂しそうだったが、納得してくれたようだった。
 愛はピクニックシートを広げる。そこにはサンドウィッチやお茶等が並んでいた。
「朝ごはん、まだな方も、よろしければサンドイッチ、いかがでしょうか? 彼方くんも、どうですか?」
「いいの!?」
 愛の誘いに彼方が笑顔になる。
「わ~、美味しそう! ご馳走になるね」
「ありがとう、嬉しいよ」
 ルカも雨生も嬉しそうな顔だ。
 そして、彼方を加えての朝ごはん兼、お茶会が楽しく始まる。
「夏とは言え、この時間はまだ涼しくていいよね」
 雨生は早朝の気持ちのいい風を受けながら、景色とサンドウィッチを楽しむ。
「俺は後で二度寝でもしようかね」
「折角だから、草原に寝っ転がって、空を見るね。空は、好きだから」
「オレは軽く飛んでみようか」
「ワタシも! アロアロはどうする?」
 いなせ、無月、デフェール、マヒナは食後の話も交えて。
 気持ちの良い空気の綺麗な空。しばらく、この気持ち良くて素敵な時間に身を委ねよう。こんな時間も素敵だと思うから――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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