ミッション破壊作戦～破壊をもたらす妖精

■リプレイ

●作戦に当たって……
　ケルベロス達は現地に向かうヘリオン内で、それぞれの一時を過ごす。
　東名阪・綿菓子（五蘊盛苦・e00417）は現地の周辺地図をスマートフォンで確認していたが、他のメンバーは今回挑む敵について語り合っていた。
「ミッション破壊作戦の経験もこれで５回目か」
　首に愛用のマフラーを巻く神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）はすでに、２度ミッション破壊を成し遂げている。
　今回は、難度が高いとされる場所。破壊されれば彼の中での記録更新とのこと。
「加えて、相手のあのいけ好かねぇシャイターン。力も入るってもんだ」
　ただ、機会の限られた作戦。初めて臨む者も珍しくはない。
「初めてのミッション破壊作戦だが……、頑張るしかないよな」
　背中ほどまで伸びた銀髪を後頭部で纏めた神城・瑞樹（廻る辰星・e01250）。彼は少しでも後進が楽になれば、とやや楽観的な態度だが。
「どこまでできるかは分かりませんが、出来る限りやってみせます」
　中世的な顔立ちの黛・朔太郎（盈月・e32035）はやや緊張気味だ。
「……どうか、少しだけ勇気を下さい」
　朔太郎は仕込み傘につけた武器飾りを見つめ、握り締めていた。
「うーん、なんという世紀末感」
　ある意味で、デウスエクスとケルベロスが交戦するこの時代は狭間といえるかもしれないが。今回の現場の様子に、鏡・流（不与不還・e05595）は眉を顰めて唸ってしまう。
「心の弱ぇ奴らばかり狙ってんのが気に入らねぇ」
　シャイターンの選定は失敗が多い印象を、煉が抱く。不良を集めるモヒー族も、似たような理由なのだろう。
「狙われてるのは丁度俺と同じ位か、ちょっと後輩位でしょうかね……」
　長い前髪で目元が見えず、無表情な御子神・宵一（御先稲荷・e02829）は学生時代、学期途中で不登校になって辞めた子の存在を思い返す。学校に居場所のなかった彼らは、今どうしているだろうか。
「シャイターンに集められた不良さん……。きっと、力に飢えている子もいるんだろうな」
　そう語るのは、煉の姉、頭の鈴飾りが特徴的な、神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）だ。
　鈴は昔、どうしてケルベロスになれないとかと泣いていたことがあるからこそ、その気持ちが理解できると言う。
「でも、それじゃだめなんです。絶対に……」
　鈴の言葉に、弟が頷く。不良達が自分らケルベロスの姿を見て、もう一度頑張ろうと思ってくれれば……。
「死ななきゃ戻れんだ。元の生活によ！」
　彼は自らの胸の内を、魔空回廊にもぶつけるつもりだ。
「今はアウトローでも、きっと立ち直ってくれる時は来るはずさ！」
　しかしながら、この瞬間にも、シャイターンによる新たな被害者が出ているかもしれないと、ミライ・トリカラード（朝焼けの猟犬・e00193）は憂う。
「大人になった時にあんなことやったな、って程度でいいんだよ、不良時代って。……多分な」
　高校生の瑞樹がそんな憶測を語ると、ヘリオンが現場上空に到着したアナウンスが流れる。
「強襲型魔空回廊、絶対に破壊しようね！」
　ミライは大声で仲間達に呼びかけ、一足先にヘリオンから降下していったのだった。

●魂の叫び
　福岡県福岡市。
　この地にある魔空回廊へ、８人のケルベロスが上空から襲いかかる。
「若者の、未来を奪うモヒカンに、今日を生きる資格なし！」
　ボーイッシュなミライが真っ先に降下していく。
　法に縛られぬデウスエクスを狩ることこそ、地獄の番犬。そして、手にするグラディウスこそ、その罪に突き立てる牙だ。
「福岡の人達がどれだけ苦しんできたか、その身をもって思い知れ！」
　ミライは握りしめたグラディウスを大きく振り上げて。
「炎と略奪の妖精、シャイターン！　じ、ご、く、に――落ちろおおおおおっ！！」
　彼女の刃は現場を包むバリアを打ち砕き、中の魔空回廊へと突き刺さる。
　すると、眩い光が辺りを包む。この場にいるモヒー族がどよめき、慌てふためき始めた。
　だが、ケルベロスはなおも襲い来る。次は瑞樹の番だ。
「不良ってのは若気の至りであり、大人になった時に黒歴史になる程度でいいんだよ」
　命を奪う行いなどはやり過ぎている。まして、地球に住む生命でもないのに、好き勝手など。
「そういう訳で、とっととこの地を返してもらおうか」
　瑞樹が突き刺し、さらなる閃光がこの場を覆う。
　続き、グラディウスを事前に身体へと固定させた流も続く。
「ゲートとか、はた迷惑なのは潰しますかねー」
　拳には拳の返礼がザラなシャイターンに、流は何故対話しないのかと問う。
「会話のキャッチボールしようぜ。話したと思ったら、会話のナックルボールとかやめろよなぁ！？」
　流の突き出す刃によって、魔空回廊からは爆炎が起こり始めた。
　次の瞬間、同時に仕掛けたのは、宵一と朔太郎だ。
「狙われているのは、自分の居場所を見つけられていない若者達ですか……」
　意思に反して殺されて永久に人類全ての敵として戦いを強要されるより、苦労が多くとも自分の意思で居場所を見つけて生を全うする方が望ましい。宵一はそう己の感情を吐露する。
「だから絶対に、この回廊は破壊せねば」
　静かに、宵一は刃を構える。
「若者達は、決してデウスエクスの手駒になる為に生まれてきたのではありません」
　朔太郎は女形歌舞伎役者らしく、艶やかに言葉をかけて行く。シャイターンに若者の未来をいくつも好き勝手にされ、黙ってなどいないと。
「ケルベロスだけでなく、地球に住む者全てを敵に回しても尚市民を脅かし続けるというなら、私達は容赦しない！」
　そうして、弥太郎もグラディウスを振り上げて。
「後進の為にも、貴様らの侵入経路は破壊させて貰う！」
「汚物は消毒、悪しきシャイターンは殲滅です！」
　２つの刃が魔空回廊深くに突き刺さり、爆炎と共に濃いスモークが噴き出す。
　なおも続くは、神白姉弟だ。
「デウスエクスに集められた不良さん……」
　彼らを更正させるのは、ケルベロスの仕事ではない。
　されど、鈴はもう一度、彼らにやり直すチャンスを与えたいと考える。エインヘリアルにされてしまえば、２度と友人や家族の下に戻れなくなるのだ。
「シャイターン……。人の弱さに……力の無さにつけこむ、卑怯者！」
　そして、隣にいる弟、煉。
「シャイターン！　確かに人は弱えぇ」
　命欲しさに、他人を見捨てる人間だって少なくはない。
　だが……。
「それが醜くて素晴らしいとか言って、命を刈り取るてめぇらの言い分は気に食わねぇ」
　人は弱いからこそ、より良く生きたいと願う。
「返してもらうぜ。未来を、希望を求める若者達の心をなっ！」
　声を荒げた煉は、姉の鈴と共にグラディウスを真下へと振り下ろす。
「その野望……地獄の番犬が打ち砕く！」
「てめぇらの穢れた炎なんざ、俺の地獄が喰らい尽くすっ！」
　まるで２本の牙のように、刃が魔空回廊へと食らいつく。
　魔空回廊に走り始めるヒビ。それが少しずつ、亀裂と呼べるくらいに大きくなって。
「そもそも、不良グループとやらがそんなに存在するのが可笑しな話じゃあないの」
　あと一息というところで、綿菓子がこの場のシャイターンへとクールに語りかける。
　――どうして、少年少女が非行に走るようになったと思う？
　――初めから、悪の種を持って生まれた人間が本当にいるかしら？
　彼らにも彼らなりの理由があるはず。綿菓子自身だって、お天道様に胸を張れるような生き方はしてはいない。
「……かすみがうらの時もそう！」
　シャイターンの思惑など知らないが、綿菓子は彼らを救う理由がある。
「魔空回廊がシャイターンの下らない企みの為の根城だっていうなら、この場から綺麗サッパリ消え失せてもらうわ！！」
　徐々に声を大きくし、綿菓子は八重歯を見せながら絶叫する。
「この両椀と、込めた想いでもって……粉々にブッとばす！！」
　叫ぶ綿菓子は力の限り、グラディウスの刃を振り下ろす。
　再び起こる閃光と爆炎。魔空回廊全体に大きな亀裂が走り、煙が噴き出す。
　そして、ガラスが砕けたような音を立て、魔空回廊はボロボロと崩壊していったのだった。

●シャイターン、ヤングモヒー
「よし！」
「…………」
「やりましたね」
　着地するケルベロス達は、魔空回廊の破壊に歓喜の声を上げる。
　だが、安堵は出来ない。モヒー族が態勢を整えて群がってくる前に、この場を離脱せねばならないのだ。
　宵一はグラディウスを肩掛け袋に収納して体に固定する。ミライ瑞樹、朔太郎は腰に差していると……。
「やってくれたな、ケルベロス！」
　煙の中から現われたタールの翼を持つモヒー族。上半身を露出し、パンクスタイルにモヒカンといった見た目のヤングモヒーは、魔空回廊の破壊に青筋を立てている。
「前衛的すぎるモヒー族すげー」
　対して流は冷静に、世紀末系な敵の姿を見つめる。これは世に解き放ったらいけない系統の存在だ。もっとも、シャイターンの地点で論外なのだが。
「……もう、コギトエルゴスムに引きこもってろよ」
　傍迷惑な相手に流が嘆息すると、朔太郎が小さく首を降る。
「お前達のような悪党に似合いの結末は唯一つ。断末魔と共に爆発四散です！」
「地球の平和を守る為、天から地獄の番犬がやって来たよ！　さあ、神伐執行の時間だ！」
「うるせえぇぇっ！」
　仲間に合わせてミライもまた戦闘態勢を取ると、ヤングモヒーは肩のスパイクを突き出して特攻して来る。
　宵一が仲間を庇って受ける中、鈴のボクスドラゴン、リューちゃんことリュガが自らの属性を注入して回復に当たり、鈴は九尾扇を手にして、自らへと幻影を纏わせる。彼女はそのまま仲間の回復サポートへと当たり始めた。
「生者必滅！！」
　身の丈ほどもある先割れの蛮刀を出現させた綿菓子は、両手で握ったその柄を思いっきり振りぬき、ヤングモヒーに一刀を浴びせていく。
「雪華を具して参れ」
　戦闘となり、苦痛を表に出さぬようにと無表情かつ寡黙となる宵一は、召喚した純白の狐の姿をした雪の精を斬霊刀「若宮」に宿らせ、切り裂いた敵の斬撃痕を凍りつかせた。
　瑞樹は次なる敵の攻撃に備えつつ、御業でヤングモヒーを鷲掴みにして拘束していく。その隙を突いて、躍り込んだ煉が音速の拳を敵の腹へと叩きつける。
　さらに、ミライが日本刀で相手の首を狙って切りかかり、朔太郎もまた緩やかに弧を描いて追い討ちをかけた。
　ヤングモヒーの動きを見ていた流。敵の攻撃は単体攻撃のみで広域を薙ぎ払われることはない。
　そう感じた彼は仲間の間隙を見て高く飛びあがり、流星の蹴りを敵へと見舞う。
「ヒャッハアァァァッ！！」
　その時、狂気の叫び声を上げたヤングモヒー。荒ぶる敵の一撃を直接受けた瑞樹は、仲間の支援の力が打ち消されるのを感じる。
「……酷い声。聞くに堪えません」
　朔太郎は悪態付きながらも、氷結の螺旋を発する。
　女形歌舞伎役者である彼の戦いぶりに、綿菓子は見惚れてしまって。
「素晴らしいカブキよ、さくたろーさん！　わたがしも相棒の琵琶を持ってくればよかったわ」
「ありがとうございます」
　綿菓子へと、朔太郎は大きく頭を垂れた。
　それにヤングモヒーはあからさまに不快な表情を向けたが、綿菓子は至って涼しい顔でその顔面に重力を宿して蹴りを食らわせていく。
　さらに、攻撃の合間を見た流も刀を振るい、敵の肘や膝を狙って腱を裂き、ヤングモヒーの動きを止めようとする。
　魔空回廊破壊で勢いづくケルベロスに、ヤングモヒーの怒りは心頭だ。
「まだだ、まだ終わらんぞおおっ！」
　部下がまだ錯乱していることに苛立ちながらも、敵は背中から生えるタールの翼を広げて態勢を整え直す。
　狐の耳で物音を聞き分けつつ、身構えていた宵一。じっと敵を観察していた彼は敵の耐性を砕くべく、音速の拳で殴りかかる。
　敵の態勢が崩れたのを見たが、見切り対策もあって瑞樹もまた逆方向から大きくオーラを纏わせた拳を振りぬき、ヤングモヒーを吹き飛ばす。
　グラづく敵の姿に、ミライは勝機を見出して。
「ヘルズゲート、アンロック！　コール・トリカラード！」
　彼女は地獄の炎で魔法陣を描き、赤、黄、青の炎を纏う３本の鎖を呼び出す。それらは絡み合うようにして、ヤングモヒーをしつこく追い込み、魔法陣の中へと引きずり込もうとする。
「そんな見た目されたら、コッチを試したくなるのよね。指先ひとつで、ってヤツよ」
　綿菓子は正面から、狂骨の手で敵の額を突く。多少、体を硬直させたヤングモヒーだが、それでもまだ活動を止めず。
　そこで、それまで回復に当たっていた鈴がチェーンソー剣を取り出し、敵の体をズタズタに切り裂く。
「後は頼んだよ、レンちゃん。お父さんの奥義……やっちゃえ！」
　姉の呼びかけに、煉は右腕に蒼き狼と貸した烈火の闘気を纏わせて。
「これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ！」
　蒼き炎を迸らせながらヤングモヒーへと疾走した彼は、その右腕で正拳突きを行う。
「クソがああああああああぁぁぁぁぁっ！！」
　蒼き炎がヤングモヒーを包み、その全身を燃やし、食らいつくす。
　やがて、咆哮を上げたシャイターンの声はもちろん、その存在も完全になくなってしまったのだった。

●大きな一歩
　魔空回廊は完全破壊、そして、シャイターン、ヤングモヒーも撃破に成功した。
　ただ、喜ぶのは後だ。ぼやぼやしていると、態勢を整えたモヒー族がキリなく駆けつけてきてしまう。
「不良さん、早くこの場を離れてください」
「早く元の生活に戻ってくれよ！」
　鈴、煉姉弟が不良達に呼びかけてから、この場を離脱していく。
　その際、事前に綿菓子が確認していた脱出経路を辿り、メンバーはこの場を離れる。
　宵一は障害物などを懸念していたが、思ったよりはスムーズに離脱することが出来た。

　シャイターンの拠点を１つ潰したケルベロス達。
　その侵攻が止まったわけではないが、一行は大きな前進を感じながら帰路に着いたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年7月19日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 8
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