螺旋忍軍大戦強襲～鋼兵戦力削減作戦

■リプレイ

●ダモクレス残党軍
「ほんと、螺旋忍軍も面倒な事を……。こういった策略を練るのが上手いと言うか……」
　螺旋忍軍の巧妙さに感心しつつも、敵の数の多さに面倒だという感慨を抱く凪沢・悠李（想いと共に消えた泡沫の夢・e01425）は溜息を零す。
　行動を起こしたダモクレスの戦力削減のために、ケルベロス達は有力なダモクレスを強襲するべく物影に隠れ伏して待ち構えていた。
「ダモクレスの戦力、ここで出来る限り削いでおかないと……。次の戦争のために」
　指揮官機や強力なダモクレスが健在とあっては、今後の動向が危惧される。それを憂慮するレーン・レーン（蒼鱗水龍・e02990）は、気合いも十分に敵戦力の撃破を狙っている。
（「す、すごい敵の量です……。怯んではいられませんけれど、緊張します……」）
　レーンとは逆に、行軍するダモクレス残党軍を目にしたスズナ・スエヒロ（ぎんいろきつねみこ・e09079）は、圧倒されそうになる自分を律するよう努める。冷静になろうと、傍らのサーヴァントであるミミックのサイに触れると、その慣れ親しんだ感触が心を落ち着かせてくれた。
　そんなスズナの心境を読み取ってか、シェイ・ルゥ（虚空を彷徨う拳・e01447）は、まるで洗い物が溜まっているのが面倒とでもいうような声音で囁いた。
「中々キツイ状況だけど、他の勢力を削れる良い機会だと思う事にしようか」
　彼我の戦力差を考えれば、今回の作戦は危険極まりないものだ。けれど、シェイの気負いのない声を聞くと、不思議とどうにかなるという気がしてくる。
「標的が現れたな、行くとするか」
　伏した状態から腰を浮かせ、陸上選手の行うクラウチングスタートのような姿勢を取るティーシャ・マグノリア（殲滅の末妹・e05827）が見据えるのは、１体の特徴的なダモクレスであった。
「……英霊機タロマティア。今日ここで、決着を付けますわ」
　自身と因縁のある強敵の姿を認めたシーリン・マルヤマ（夢見た阿呆の忘れ形見・e07575）の瞳には、強い決意が宿っている。
　華々しい鬨の声を上げるような古来の戦場とは異なり、奇襲を掛けるケルベロス達は静かに、かつ迅速に敵へと駆け出した。
「強敵が相手だと、ワクワクするな！　シーリン、友達として全力で手を貸すぜ！」
　ケルベロス達が敵の間近まで迫る頃には、敵もその存在に気付き身構えている。その隙の無さから敵の実力は相当なものであると感じた百丸・千助（刃己合研・e05330）は、激戦の予感に破顔しながら二振りの愛刀を抜き放つ。
「それじゃ、やっちゃいましょうか。てきとーに」
　気の抜ける口調とは相反して、板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）は野生の狼のように俊敏な動きで敵ダモクレスに接敵する。
　そうして、戦端は開かれた。

●英霊機タロマティア
　ケルベロス達が撃破を狙う強力な敵ダモクレスは、シーリンにとっては複雑な心境を抱かずにはいられない存在だ。けれど、その感情は戦いには邪魔になる。
　そういった意味では、仲間の存在はとても大きかったと言えるだろう。
「シーリンさん、肩の力を抜いていこう。適度な緊張とリラックスが、実力を発揮する秘訣だね」
　言いながら掌からドラゴンの幻影を放つシェイの所作は、真剣さに欠けるものの不真面目ということもない。強いて表現するならば煙草に火を付けるような自然な動作であり、それ故に過不足なく実力を発揮できている。
「面倒な分、せめて楽しませて欲しいな♪　さて、派手に行かせて貰おうかな……！」
　卓越した技量からなる一撃を繰り出す悠李もまた、精神状態が高揚し戦いそのものを楽しんでいるため、余計な精神的負荷を持ち合わせてはいない。
「来てしまいましたよ。完成されたいい女であるえにかさんが、ダモクレス達の野望を打ち砕きに」
　なんとも戦場には場違いな暢気な口上を述べたえにかだが、その直後に鳥の鳴き声に似た不気味な叫び声を上げた。その声は敵に恐怖心を抱かせ攻撃の手を鈍らせるものだ。
　攻めるばかりではなく、前衛のケルベロス達の足元にケルベロスチェインによる守護の魔法陣が描かれ、守りが強化される。
「あなたの力に、なれますように！」
　まだ少しだけ怯えを抱いてはいるものの、それ以上に仲間の力になろうという思いがスズナを奮い立たせていた。サイがエクトプラズムで武器を作り攻撃する姿は、本人の精神的な積極性の顕れにも見える。
「俺とガジガジも、仲間のみんなも力を貸すぜ。だから、シーリンが１人で抱え込む必要はないからな」
　シーリンにそう告げながら、千助は空中に跳び上がり流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放った。ミミックのガジガジには、敵を惑わせる偽物の財宝をばらまかせている。
　それと同時に、シーリンも敵へと間合いを詰めていた。千助の飛び蹴りが直撃するのとほぼ同時に、機械化された豪腕による殴打が炸裂する。
「とても頼もしいですわ、千助くん。それにシェイさんも、皆さんも。負ける気がしませんわね」
　いつも以上に身体の動きが良く感じられる。シーリンにとって心の寂寞を埋めてくれる存在に恵まれたことは、何よりの幸運だったのだろう。
　十全な力量を発揮し敵に挑むケルベロス達。このまま勢いに任せて敵を圧し潰すことも可能だ。
　敵が英霊機タロマティア１体であったなら。
「……非常にまずいな。正直、勝ち筋が見えない」
　撃ち放った竜砲弾は庇われ、狙った標的に命中しなかった。ティーシャは半ば予測した結果を前に苦々しく呟いた。
「ケルベロス共か。現れる可能性は十分考慮していたが、思いの外に身の程を知らぬらしい。その程度の数で我を討とうなどとはな。殲滅せよ！」
　ケルベロス達を一頻り睨め付けたタロマティアの視線が最後に辿り着いた先は、シーリンであった。配下のダモクレスに号令を下しながらも、瞳に映る憎悪は強く膨れ上がっていくかのようだ。
　敵はタロマティアと同じく前衛と思しき立ち位置にブラックエクリプスが４体と、後方にチャリオットメイデンが１体。
　先ほどのティーシャの攻撃は後方のチャリオットメイデンを味方支援担当と想定し、早期に潰しておくことを狙ったのだが阻まれてしまった。
　ケルベロスの高い意気とは反して、戦況は厳しいものであった。
「敵が１体でも複数でも、撃破するのみです。同じレプリフォースの仲間のシーリン様の宿敵、気合い入れて倒しますわよ！」
　闇い凍気とでも表現するべきオーラを放つレーン。敵は恐怖を呼び起こされ戦術としては不適切と知りながらも、レーンを攻撃する衝動に駆られてしまうだろう。
「我は不完全な欠陥品などではない。それを証明してやろう」
　タロマティアの背の光翼が一瞬膨れ上がり、エネルギーの弾丸が前衛のケルベロス達へと射出された。脅威的な威力の光弾だが、前衛陣の人数の多さによってその威力が軽減していたため深刻な痛手には至っていない。
　次いで、ブラックエクリプス達の攻撃が繰り出される。
　仲間を庇うシェイとレーンの衣服が裂け、血飛沫が散る。２体のミミックもまた、敵の攻撃を受け表面が砕けていく。
　互いに一歩も退かないケルベロスとダモクレスの戦い。仮に現時点での優勢が覆ることなく戦闘が進んだなら、勝利するのはダモクレス側だろう。

●苦戦
　ケルベロス達の作戦は、タロマティアが単独でいるという前提に成り立っているものであった。敵が複数であることを想定していたのは、レーンの防衛指針だけだ。
　だからと言って勝ち目が一切無いという事ではないけれど、予め対策を講じているのと土壇場での即興では大きな違いがあるのもまた事実。
「どうした、口だけか番犬ども！」
　タロマティアの大振りな腕部そのものを武器とした音速を超える殴打が繰り出される。
　シーリンを目掛けた一撃であったが、寸前でシェイが割って入った。
「キミとシーリンさんの関係は知らないけどね。でも、シーリンさんが怪我すると心配する人がいるからさ。邪魔させてもらうよ」
　庇われ事無きを得たシーリンは、すぐさま殴打での反撃を見舞った。
「姉さん。ワタクシは、死んでなんてあげませんわ。絶対に」
　似たような攻撃を行うシーリンとタロマティアだが、互いの環境は大きく異なる。一方は友や仲間に囲まれ、一方は信の置ける者もおらず孤独に憎悪を募らせている。
　シーリンにとっては、タロマティアはダモクレスであった頃の姉と呼べる存在であった。だが、タロマティアは自身を欠陥品に貶めた妹を憎悪しており、レプリカントとなってシーリンであると見分けが付かなくなった今でも己よりも完成度の高い存在として同様の憎悪を抱いている。
（「姉妹の情か……。今は考えても仕方ない、この戦いに勝つことだけを考えるべきだ」）
　自身の境遇を少しだけ思い起こさせられたティーシャだが、すぐに戦闘へと思考を集中させた。
　どうにか厄介な敵後衛のチャリオットメイデンを撃破したいのだが、攻撃が届くのはティーシャ以外にはシェイとえにかだけだ。どちらも攻撃威力を重視した役割を担っておらず、ブラックエクリプスの２体が味方を庇うために有効打を与え辛い。
「一気に纏めて傷を癒します！　……しかし、当たり前ですけれど、厄介な敵ですね……！」
　美しく舞い踊り癒しの花びらのオーラで味方前衛陣を治癒するスズナによって、ケルベロス達の戦線が維持される。
　この戦いは双方が同じような戦法で膠着している。そうなれば、この戦闘で最も突出した戦闘能力を有するタロマティアの存在があまりにも大きい。
「タロ助って言うと、うちのわんこみたいな名前でかわいいですね！」
　杖から雷を放ちながら、そんな発言をするえにか。タロマティアへの挑発のようだが、そもそも耳に入ってすらいない。えにかがタロマティアの憎悪の対象であれば、また違っただろうけれど。
「よっと、残念でしたッ！　残念、外れだよ♪」
　悠李を狙って２体のブラックエクリプスが攻撃を仕掛けるが、１体はえにかの雷によって身体が痺れ攻撃行動が失敗に終わった。さらにもう１体は、ここまでの悠李の攻撃の影響で攻撃精度が落ちており、持ち前の軽やかな動きで回避した。
「あはっ、甘いんだよ……♪」
　攻撃を外し隙を見せたブラックエクリプスの負傷箇所を、空の霊力を帯びた黒く輝く刃と白銀に煌めく刃が、正確に斬り広げる。
　この一撃によって、ようやく敵の１体が倒れた。
「良い調子ですわ。苦しい時こそ、それを乗り越えれば好機を得られるというもの。皆さん、ここが正念場ですわよ！」
　仲間達を激励しつつも、レーンは豪快に鉄塊剣を目の前のブラックエクリプスの脳天に叩き落とす。
　勢いに乗りたいケルベロス達だが、敵もそれを許す程に甘くはない。
　一進一退の攻防が続き、ケルベロス達に少しずつ焦りが見え始めていた。
「まったくしぶといヤツだったぜ。でも、まだまだ気が抜けないな。本当に楽しませてくれる連中だぜ」
　千助の愛刀はその切れ味を遺憾なく発揮し、ブラックエクリプスの１体を斬り捨てた。
　けれど、安堵する余裕は未だない。

●決着、そして……
　ケルベロス達は回復も重視する防衛担当と、スズナの治癒支援によって戦線を維持してきた。しかし、タロマティアの光弾によって遂にその均衡が崩された。
「わたしは、まだ……戦えます……」
　ケルベロス達の生命線であったスズナだが、本人の意志に反してそれ以上の戦闘継続は不可能であった。
　２体のミミックも既に消失しておりもう後がない状況だが、ダモクレス側も４体のブラックエクリプスは全滅している。
「ようやく仕留められたか。残りはあの出来損ないだけだ、一気に畳み掛けるぞ」
　アームドフォートの一斉発射で遂にチャリオットメイデンを撃破したティーシャは、仲間達に発破をかけた。
　だが、１対７となった状況でもタロマティアを討つのは容易ではない。ケルベロス達の猛攻にも一歩も退かず、むしろケルベロス達が倒されかねない程だ。
「そろそろ倒れて欲しいな。僕達は、君と違って暇じゃないんだよね♪」
　口調こそ変わらないものの、悠李はもう何度も浴びせた斬撃に倒れないタロマティアに苛立ちを感じずにはいられなかった。
　このままでは、敵の増援に囲まれてしまう。そうなれば、全滅は必至だ。
「……潮時かも知れないね。百丸さん、シーリンさんが撤退を拒んだら、キミが無理にでも連れて逃げるんだ。任せていいね？」
　時間が経過し過ぎた。シェイは撤退を実行に移すべきだと判断し、タロマティアとの決着に固執しそうなシーリンを千助に任せようと打診した。
「あんまり気が進まないけどな……。ま、仕方ないか」
　千助もその申し出に同意した。この状況では、止むを得ない。
　だが、その判断は少し遅かった。まだ敵の援軍がこの戦いに到着してはいないが、この場は包囲されようとしている。突破はまず間に合わない。
　このままでは。
「仕方ないですね。おねーさんが一肌脱ぎますから、みんな頑張ってくださいね。てきとーに」
　この苦境を脱する唯一の手段を、えにかは選択した。あまりにものんびりとした口調であったため、その意味を即座に理解できる者はいなかった。
　えにかの身体が絵の具のように溶け崩れ、やがて影絵のような『何か』がそこに残された。シルエットだけはえにかの輪郭を残しているが、それがえにかの形に空間を切り取ったかのようで不気味であった。
　かつてえにかであったそれは、自身と繋がっている砂時計のシルエットをくるりと裏返す。すると、不可解な力が及び、タロマティアの身体が経年劣化のように崩れ始めた。
「何だこれは？　何なのだ！？」
　己を蝕む力が理解できず、タロマティアは狼狽していた。勝利すら見えていた戦況が、一瞬で覆されたのでは無理もない。
「せめて！」
　自身の死を悟ったタロマティアは、シーリンを道連れにしようと全身全霊を振り絞った。
「往生際が悪いですわね。いい女は、引き際も弁えているものですわ」
　だが、その拳はレーンによって阻まれた。
「我は……かん……せ、い」
　そして、シーリンの拳によって頭部を砕かれたタロマティアは、完全にその活動を停止したのだった。最期の瞬間まで、劣等感と嫉みを抱いたまま。
「欠陥品だって、胸張って生きていいのよ、馬鹿！」
　この結末を導いた己の拳を握り締めながら、シーリンはこうなるしかなかったのかと悲しみに暮れる。
　けれど、立ち尽くしている余裕はない。
　えにかであったものが、ケルベロス達を促すように手を振った。そして、そのまま何処かへと立ち去って行った。その先から、戦闘の轟音が鳴り響いて来る。
　包囲網が崩れた今しか脱出は不可能だ。ケルベロス達は互いに肩を貸し合い、撤退するのだった。
　標的の撃破には成功したものの、全員での無事の帰還は、果たせぬまま……。

作者：流水清風	重傷：なし 死亡：なし 暴走：板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）
種類： 公開：2017年7月21日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 8
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