螺旋忍軍大戦強襲~先礫投げ打つ

作者:雨屋鳥


「緋紗雨よりいくつか情報が齎されました」
 次、彷徨えるゲートの開く地点が判明した、とダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)は言う。
 それは緋紗雨をドラゴンの軍勢から守り抜いた事で知りえた情報。感謝を告げるとともに、さらなる状況の変化を彼は示した。
「魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見された」
 ダンドは言う。
「この偽の情報を遣い、イグニスが最上忍軍を通して、複数の勢力を煽動しています」
 ドレッドノートの戦いに残ったダモクレス、王子の座を狙うエインヘリアル。それらが研究していた屍隷兵。
 その勢力を動かし、かつ、漁夫の利を警戒させて互いを牽制しあうように仕向けている。という。
 次なるゲートの場所が判明した今、その侵攻を阻止するために決戦への準備を整える必要があるが、それをイグニスとドラゴンが警戒している。
「戦力をゲートから招き入れる為の防衛として、その勢力をあてがうつもりだと予想されます」
 規模は、大規模な戦闘が必至。ケルベロスウォーの発動は避けられない。それでも、全てを撃破することは難しい。
 だが、ケルベロスは武器を、有利を得ている。ゲートの場所、そして勢力が集結。その情報だ。
 それを得た事で、動く事が出来る。今からであれば、侵攻中の勢力の指揮官を叩くことで弱体化を図ることが出来るだろう。
 先んじて礫を放ち、水面を揺らす。
「そして、皆様に担当していただくのは、伊賀市近郊を通るダモクレスです」
 ドレッドノートの戦いの後、姿をくらませていたダモクレス達。ディザスター・キング、マザー・アイリス、ジュモー・エレクトリシアン、といった指揮官型のダモクレスに加え、彼らを守る護衛、有力な敵が多数存在している。
 また、その軍勢のどこかに最上忍軍、最上・幻斎が紛れているという。
「彼の居場所は、不明です。恐らく見つけ出すことは困難ではありますが、もし索敵、発見し、撃破が適えば、最上忍軍へ多大な影響を及ぼすことが出来るでしょう」
 ダンドは、続ける。
「今回は敵の撃破、そして撤退までを含めた作戦です」
 進軍中の敵中に奇襲を仕掛ける。期を逃せば、包囲され帰還は難しくなる。
 案を提示する一人として、不相応な言葉かもしれませんが、と彼は言いきる。
「皆様自身を第一に、可能な限りでの撃破をお願いします」


参加者
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
狼森・朔夜(迷い狗・e06190)
鷹野・慶(業障・e08354)
八尋・豊水(忍を以て忍を狩る・e28305)
エルガー・シュルト(クルースニク・e30126)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ


 機械の軍勢が進む。
 伊賀市近郊、住民は全て避難し、がらんどうとなった止まった街をダモクレスの群れがその進路を奈良平野へと向けている。
「魔王竜の嘘で釣るなんて、最上幻斎も小賢しい真似をするわね」
「わたしなら最上幻斎を目の前に正座させて小一時間、問い詰めますねー」
 八尋・豊水(忍を以て忍を狩る・e28305)が隠密気流を纏い、放つ言葉に遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)がうふふ、と挑発するように笑いを零した。
 物陰に隠れる様に、その周囲には仲間が散っている。
 同様に隠密気流を纏う鷹野・慶(業障・e08354)の視線の先には、青い衣をまとった人形のようなダモクレス。
 ジュモー・エレクトリシアン。レプリカント化装置を作り出したダモクレス。
「そ――」
 そろそろか、と奇襲の為に準備をしていた彼の耳朶を遠くで散発する戦闘の音が打った。
「な……」
 計画とは違う状況にラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が僅かに声を上げた。
「奇襲は失敗、ですか」
「行くぞ」
 冷静な分析に首肯した狼森・朔夜(迷い狗・e06190)が短く、告げる。
 戦闘音にダモクレスの警戒が高まるのを肌に感じ、僅かに遠方へと注意を向けたジュモー・エレクトリシアンへとキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が突貫した。
「そぉりゃっ!」
 裂帛の声と共に、炎を纏わせた蹴りをジュモー・エレクトリシアンへと叩き込む。
 烈火が上り、衝撃音が爆ぜる。炎は機械の体を舐めて辺りを照らした。
「なるほど」
 キソラの上げた狼煙に、近くにいた他のケルベロス達もそれぞれに戦闘を始めたようだ。すでに混戦の様相を呈する空の下。ジュモー・エレクトリシアンは炎を振り払いながら静かに言った。
 だが、次ぐ言葉を紡ぐその前に火炎に隠れる様に動いた慶がパイルバンカーの駆動音を響かせ、側部から接近していた。
「……気付いたってもう遅い。逃がしゃしねえよ」
 空気すら固める様な冷気が螺旋を描く杭が打ち出され、ジュモー・エレクトリシアンは自らの左腕を突き出しそれを盾とした。
 澄んだ破壊音と共に、重い弾の着弾する鈍い音が響き渡った。エルガー・シュルト(クルースニク・e30126)のトンファー型のドラゴニックハンマーの砲弾が放たれていた。
 そして間髪入れずに、妖精の加護に導かれる矢がそこへと叩き込まれ、ずれた眼鏡を直そうともしないその頭蓋へと叩き込まれるその寸前で、五指が掴み握りつぶした。
「ああ、キツくなるな」
 朔夜は、自らの攻撃に容易く対処したジュモー・エレクトリシアンを睨む。
「ラーヴァ、頼む」
「承知しました」
 視線をジュモー・エレクトリシアンから逸らす事無く要求した朔夜に即応するラーヴァは、オウガメタルの粒子を彼女たちに纏わせる。
「あなたの作ったレプリカント化装置、他にも装着されている方はいらっしゃるのでしょうか?」
 周囲に鞠緒のウイングキャット、ヴェクサシオンの散らす羽を舞わせ、地面に星の加護を導く守護陣を描いて鞠緒は問う。
 それに返るのは冷たくも、どこか熱を帯びた視線だった。
「あれは、素晴らしい欠陥を持っています」
 だが返る言葉は鞠緒の問いへの明確な答えではなかった。だが、その端々に見える作品への愛情を豊水は感じ取った。
「……それを使った潜入計画、本当に効果があるのかしら?」
 挑発、と同時に引き絞った弓から矢を打ち放つ。その矢がジュモー・エレクトリシアンへと到達する秒にも満たない時間で、その背に着いたアームが的確に動いた。
 攻撃にひしゃげた左腕は瞬く間に再生し、青い光を零す機構を新たに作り出して発した閃光が豊水の攻撃を打ち払った。
「貴女が思うよりも地球が魂を引き付ける力は強いのよ。それこそ、本当のレプリカントになってるかもね?」
「ええ、そうですね」
 そして、彼女はその挑発に同意を示した。
「八尋!」
 不意にエルガーがその名を叫んだ。直後、彼へと巨大な蛇の咢が襲い掛かる。
「させっかぁ!」とその毒牙へと身を躍らせる影。尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)が機械の蛇を腕部に装着したボウガンから矢を射出し、打ち上げた。
「あれは例え装着者自身ですら自らを誤認し、レプリカント化してしまう事もあります」
「ハッ! 本末転倒ってやつじゃねえか」
「発展には欠陥は欠かせないでしょう?」
 笑う広喜に、さも当然というようにジュモー・エレクトリシアンは返す。それに反応する暇は無く、逸らした蛇とは別の咢が広喜の体へと噛みついた。
「エルガー! こっちは任せろ!」
 口の中へと地獄の矢を放ち、口を開かせた彼は叫ぶ。
 蛇の主は、巨大な頭部を持つダモクレス。マザー・デューサ。量産型ダモクレス、DDDシリーズを作り出す巨大ダモクレスの残骸。
「オレも手伝うぜ」
 うねる髪の蛇を足蹴に、その正面へとキソラが躍り出た。
「――ようく、聞きな」
 弾ける紫電は、中空を引き千切るような怪音を纏いマザー・デューサを包み込む。
 その攻撃にマザー・デューサが意識を彼に向けた。
「量産型の親玉だってよ、尾方」
「ああ、壊し甲斐がありそうだぜ」
 不気味なダモクレスを眼前に、二人は明朗な笑みを浮かべて拳を打った。


 ジュモー・エレクトリシアンの放ったドローンの攻撃に身を穿たれながらも、ラーヴァは頭部のバケツを激しく燃やしながら重厚な弓を構え、眩む輝きを放つ矢を連射した。
 白く灼けた矢は、オウガメタルが齎した銀の粒子にその速度を増してジュモー・エレクトリシアンに一つ、二つ、五つと突き立ち、衝撃と共に視界を覆う光を放つ。
「眩いでしょう?」
 自らの胸に突き刺さった矢を掴むジュモー・エレクトリシアンにラーヴァが腕を広げ、言葉を投げる。
 ジュモー・エレクトリシアンに悠長に矢の処理をさせる隙を与えるつもりはケルベロス達にはない。慶のウイングキャット、ユキがその腕に爪を立てて、慶が竜の幻影を打ち込む。
 エルガーは砲弾をドローンの攻撃で逸らしたジュモー・エレクトリシアンを観察する。
「……弱点を仄めかす事はしない、か」
 被弾時の動きから、不得手とする攻撃を見定めようとするも、どの攻撃にも沈着に対処し、底を見せない。
 苦く舌を巻くエルガー達に、毒の礫が降り注いだ。マザー・デューサの攻撃に豊水のビハインド、李々がその影にエルガーを隠す様に出現し、その攻撃を肩代わりする。
「……」
 思考を続けながらもエルガーは凍結の光線を放射する。氷結の光槍は過たずジュモー・エレクトリシアンの脚部へと到達し、新たな傷を植え付けるが、それを気にした様子もなく工具を強烈な速度で四肢の関節を貫くように正確無比に投擲する。
 朔夜がその攻撃を潜り抜け、拳の凝縮させたオーラを空を殴りつける様に腕を振るい発射させる。
 工具が貫いた広喜やキソラ達に鞠緒は再び、ヴェクサシオンの加護を与え回復させていく。
「他に集中する暇はありませんね、ヴェクさん」
 自ら鼓舞するように、冗談めかした口調で呟く。他の班への連絡を行う余裕はない。隠し置いた機材も、故意には不意にか、ジュモー・エレクトリシアンの攻撃の余波に大半が破壊され、行えない。
 時折、使用するヒールの妨害を行おうにも、こちらの被害が無視できない。
 現状は優勢か劣勢か、と問えば、辛うじて優勢と言えるだろうが、ここで治癒の手を緩めると、簡単に優劣が入れ替わる事は想像に難くない。
 何よりも、マザー・デューサを引き受ける二人の被害が大きい。キソラに九尾扇を振るい、幻による力の増幅を行う。少しずつ、しかし確実に攻撃は通っている。だが、それはこちらにも言える事であった。
 キソラがマインドリング扱いヒールを行うが、それでも蓄積するダメージに、治癒の手は足りなくなっていく。敵の天秤は、重みを増していく。
 ラーヴァはそれに崩れ落ちた。
 周囲に作り出した固定砲台から放たれた迸る青いレーザーが、ラーヴァの鎧の胴を焼き切って、その体から力を奪い取っていく。
「邪魔者、として見てもらえていた、……という事ですかね」
 焼け付く痛みに、意識を保ちながら軽口を吐き出す。表情の見えない頭部の奥にはそれでも笑みが張り付いているのだろう。
 腕を地面につき立ち上がろうと力を込めた瞬間に、ラーヴァは重厚な金属音を響かせその体を地に転がした。
「……させるかっ」
 追撃を行う様に腕を上げたジュモー・エレクトリシアンを阻むように豊水が声を上げた。開いた掌、その先に禍々しい紫のひび割れを生じさせた彼は、その指先から数条の糸を吐きだし、その機械の腕を絡み取る。
 その隙に、広喜がラーヴァを自らが庇いきれる距離へと退避させる。
 糸を伝って禍々しい気がジュモー・エレクトリシアンへと浸食を始めるが、それがその体に植えつけられる前に、ドローンがその糸に攻撃をしかけ主人を開放した。
「くそ……っ」
 とキソラが攻撃に間に合わなかった事を悔いながら、振るわれた蛇の咢を他へ攻撃を逸らさぬように敢えて受け止める。
「いい加減、倒れやがれっ!」
 慶がジュモー・エレクトリシアンへとパイルバンカーの一撃を叩き込んだ。だが、その攻撃も致命とはとても言えない。
 慶は苦々し気に舌を打った。
「……っ」
「いまいち決め手に欠ける、か」
 マザー・デューサに注意を向けたままジュモー・エレクトリシアンへと視線を飛ばし、広喜が零す。まだ残る僅かな優勢も心もとないものでしかなかった。
「だとしても、食らいついてやるさ」
 返すのは朔夜だ。地獄を腕に滾らせ、大地を蹴った。
 彼女の攻撃が、ジュモー・エレクトリシアンに届く前に、不意に流星の蹴りが叩き込まれた。


「共闘させていただきます」
 蹴りを放ち、そう言ったのは緑の髪をゆらすレプリカントの女性だった。
「助かるっ」
 朔夜は地獄を燃え上がらせる腕を振るい、灼熱の刃を放つ。飛燕のような鋭さを体現したその炎はジュモー・エレクトリシアンの体を切り裂いた。
「Demander……ジュモーお母さま」
 もう一人、ボクスドラゴンを連れたダモクレスの女性が、何かの決意を秘めたような瞳で足を踏み出した。
 攻撃が行き交う中、母と慕う相手との再会。それに喜ぶ彼女の表情は、誰でもないジュモー・エレクトリシアンの返答によって凍り付いた。
 激しい戦闘の中でも、悲痛な問いかけは続いていた。
 戦力不足を見て取った男性が加勢しても戦況が大きく動く事は無い。
「ただの他人です」
 その声に母を慕う少女は愕然と動きを止め、無慈悲な青い光線が貫いた。少女は倒れる事は無かったが、それを見たエルガーは心中に渦巻く名も知らぬ感情に胸を掴んだ。
「やべえ、かもしれねえぞ」
「……そうだな」
 あと数分、立っていられる展望を見いだせない、とキソラが言うと、広喜が同意を示した。
 みれば、朔夜が嫌悪を露わに、ジュモー・エレクトリシアンへと攻撃を仕掛けている。二人ほどではないにしても、彼女も損耗が激しい。
 ジュモー・エレクトリシアンだけでなく、マザー・ドゥーサも未だ倒れる事はない。
 少女を見放したダモクレスへと多少の差はあれど怒りを抱えた彼らには、疲労も相まってかどこか冷静さを失いかけているようにすら思える。
 それを冷静に見て取った慶ですら、彼らに感化されている事を自覚していた。
「退きましょう、時間は十分稼げたはずです」
 と、少女を気遣うダモクレスの女性が声を発した。それを断るほどの冷静さを失ってはいなかった。
 自らの消耗は、否応にも脳に本能的な回答を示していた。
 予め決めていた撤退条件を満たしてはいないが、あと数分もしないうちにその状態へと到達することは確実。
 加えてここは敵陣の真ん中。十数分の戦闘のうちに、混乱していた敵が集まってきていることが周囲を見ればわかる。
 広喜がラーヴァを背負うと、各々に離脱を開始した。
「二人に負担をかけて、それでも倒しきれないなんて……」
「それでも、マザー・アイリスの護衛を指揮する暇は与えませんでしたよ」
 豊水の口惜しいという台詞に、鞠緒が告げる。
 あの攻防の中で、他の護衛を操作する素振りは無くなっていた。マザー・アイリスへの攻撃は成功しているはずだ。
 鞠緒の言葉に豊水は、苦みの中に達成感を覚えて退避に渋る足を奮い立たせた。
 だが、その退避すら、満足にできない状態に、陥っている事を数秒をおいて彼らは思い知る。
 集まったダモクレスの軍勢は壁となり、彼らを逃さんと包囲陣を敷き始めていたのだ。
「……」
 見えぬ脱出口に考えあぐねても、ただ包囲陣が完成していくだけ。
 誰もが、特攻による確率の低い賭けへと命を乗せようとした時、咆哮が響き渡った。
 ダモクレスの只中に、禍々しいドラゴンが降り立っていた。
 否、降り立ったのではなく、出現したのだ、と気付くのに一秒すら必要なかった。誰かが力を暴走させたのだ。周囲の注意を引くように咆哮を上げ、ジュモー・エレクトリシアンやマザー・ドゥーサ達護衛がいる方へと飛ぶドラゴン。
 その動きは、そのチームだけでなく、近くにいた仲間全てを助けるための行動だと、瞬時に理解する。
「――っ」
 ダモクレスの群中に身を投げた彼を助けに行くことは出来ない。満身創痍の中、赴けば足手まといにしかならない。
 ダモクレス達の意識は、いまだ散漫としている。
 彼が作り出したこの機会を無駄にするわけにはいかない。奮われる暴圧の轟音に背を押されるように彼らは、戦場から離脱していった。
 振り返れば、ダモクレスの軍勢が追ってきてはいなかった。ただ、暴れるドラゴンに一斉攻撃が放たれていた。撤退が少し遅れていたら、もう少し戦闘を続けていれば、あの只中に未だいたのだろう。
 彼らは、悔しさを胸中に刻み込み、それを目に焼き付けていた。

作者:雨屋鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。