螺旋忍軍大戦強襲～彷徨う門の攻防

■リプレイ

●少女を求める者達
　紀伊山中。
　奥高野の山々を一望できる伯母子岳から、原生林を抜けた場所。エインヘリアルの第十一王子、マン・ハオウの軍勢を迎え撃つべく、ケルベロス達は伊賀市の近郊に集結していた。
　たった一体だけであっても、極めて高い戦闘力を誇るエインヘリアル。それが大挙して攻めてくるとなれば、真っ向から戦いを挑んだ場合、敗北は必至。だが、それでもケルベロス達には秘策があった。そう、彼らの極めてニッチで危険な思考を逆手に取って、有力な戦士だけを誘い出すための必勝の策が。
「あれ？　こっちでいいんだよね？」
　双眼鏡や無線機、それに地図まで持って、パール・ワールドエンド（界竜・e05027）が仲間とはぐれた新米斥候のふりをしていた。何故か、声が口以外の場所から聞こえた気もするが、細かいことは気にしたら負けだ。
「ん、たぶん問題ないの」
　肩にボクスドラゴンのクルルを乗せて、フォン・エンペリウス（生粋の動物好き・e07703）が頷いた。
　敵中で、敢えて味方から離れて無防備な姿を晒す。どう考えても危険極まりない自殺行為にしか見えなかったが、しかし今回ばかりは話が別だ。
「おや、どうしたのかね、御嬢さん。こんなところで、迷子かな？」
　突然、目の前に颯爽と現れた巨漢の傭兵。顔には精一杯の笑顔を浮かべているが、あまりに場違いな台詞とスマイルは、却って怪しさ全開である。
　フウェフ・ディー。マン・ハオウの直属部隊である『ハオウ私掠団』の一員であり、その身体に刻まれた傷痕が示す通り、歴戦の勇士である……その性格を除いては、だが。
「なんか怪しい人だね。……逃げよう」
「ん、わかったの」
　本能的に色々と危険な何かを察し、パールとフォンは一目散に逃げ出した。相変わらず、パールは口を開いていなかったが、そんなことよりも今は自分の身が大事。
「なるほど、鬼ごっこの途中だったんだね。そういうことなら、私も参加させてもらっちゃうよ♪」
　なにやら色々と勘違いしたフウェフ・ディーが、二人の後を笑いながら追い掛けて来た。どう考えても、変質者が幼女を追い掛けている風にしか見えない光景。いや、実際にその通りなのだが、しかし高潔な戦士としてのエインヘリアルを知っている者達からすれば、お前のプライドはどこへ言ったと突っ込みたくなるわけでして。
「よくやったぞ、フォン！」
　迫り来るフウェフ・ディーの巨大な手が二人の少女の頭を掴もうとした瞬間、ルージュ・ディケイ（朽紅のルージュ・e04993）が間髪入れずに割って入った。
「くっ……！　ここぞというところで、邪魔が入ったか！　もう少しで、神聖なる少女を二人も手に入れることができたというのに！」
　歯噛みし、立ち止まるフウェフ・ディー。台詞と肉体がまったく一致していない辺り、筋金入りの残念なイケメン親父である。
「勇者がロリコンとは呆れるわね……」
　案の定、キーア・フラム（黒炎竜・e27514）に至っては、のっけからドン引き待ったなしである。
「そもそも、何で小さい女の子なんですかね？　……ああ、変態ですか」
「幼女を執拗に狙うとか、とんだ変態ロリコン野郎共です」
　叢雲・紗綾（無邪気な兇弾・e05565）と九尾・桐子（蒼炎の巫女・e33951）も、いつになく冷めた視線を送りながら、死んだ魚のような瞳をしてフウェフ・ディーを罵倒していた。
　そもそも、こういうネタはビルシャナ辺りの専売特許ではなかったのか。いや、エインヘリアルにも色々といるのは解るが、しかしこれは酷い。なまじ、黙っていればイケメン親父で通るのが、余計に性質の悪さを上げている。
（「イリスも姿は敵の好みだからね。狙われないといいんだけど……」）
　ロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）が、相棒のビハインドであるイリスを横目に不安そうな表情を浮かべた。
　敵が求めているのは、あくまで生きた少女のはず。だが、人外の少女が狙われないという保証はどこにもないため、不安な気持ちになるのも解る。
「戦況がどのように傾くかはわかりませんが……。皆で生きて帰りましょうね」
　もう、これ以上は見ているのも頭が痛い。なにやら意味深な台詞を呟いてラインハルト・リッチモンド（紅の餓狼・e00956）が刃を抜いたところで、変態勇者と地獄の番犬との戦いが幕を開けた。

●せいんと・しょうじょ？
　見た目も実力も折り紙つきの勇者なのに、中身は変態ロリコン野郎。そんな残念エインヘリアルのフウェフ・ディーではあったが、しかし戦いになると、やはりというか強かった。
「う～む、惜しい！　実に惜しい！　ここまで多くの女性が集まっていながら、我が主のお眼鏡に適いそうな者が二人程しかいないとは！」
　必要なのは、あくまで穢れ無き心を持った幼い少女だけである。後は、漏れなく邪魔者扱い。問答無用で死ねとばかりに、巨大な剣を振るってケルベロス達へと襲い掛かる。
「いい歳した大人の男が、少女趣味とは情けないね。まともな女性に、相手にされなかったのかな？」
　大剣の一撃に怯むこともなく、ルージュがチェーンソー剣で斬り掛かる。回転する刃が唸りを上げて襲い掛かり、フウェフ・ディーの屈強な肉体を、胸当て諸共に斬り裂いて行く。
　しかし、そこはさすがのエインヘリアル。身体の表面を斬られた程度では、怯む素振りさえ見せはしない。
「ん、どうして少女を特別視しているの？」
　クルルに守りを固めさせながら、フォンが自身の力を溜めつつフウェフ・ディーに尋ねた。瞬間、お目当ての少女から声が掛かったことで、フウェフ・ディーの瞳が煌いた。
「ハッハッハァッ！　決まっているだろう、そんなのは！　少女こそ、純真無垢で穢れ無き高潔なる魂を持った存在！　故に、それは何物にも代え難い生ける神々！　少女の純粋さを以てすれば、畏れるものなど何もな……ぐはっ！？」
「いい加減にしてね。フォンちゃんに、悪影響だよ」
　あまりに酷い少女趣味。その全てを聞くに堪えなかったのか、ロベリアが虹を纏った蹴撃で、フウェフ・ディーの顔面を真横から蹴り抜いた。続けて、こちらに近づくなとばかりに、イリスがその辺に転がっていた岩やら倒木やらを、念力で飛ばして叩き付け。
「滅ぼすわよ……オーガ、キキョウ！」
　こんなやつは、存在そのものが間違っていると、キーアが鋼の拳で敵の顔面を正面から殴り飛ばした。
　巨大な岩も粉々に砕く、硬質化した銀色の一撃。並みのデウスエクスであれば、これだけでもかなりのダメージを受けるはず……だったのだが。
「舐めるなぁっ！　これだけの少女を前にして、ここで諦めてなるものかぁっ！」
　防具をズタズタに裂かれようと、フウェフ・ディーは気合いと根性で起き上がる。その視線が幼き少女達に向けられるのを知って、思わず桐子が呟いた。
「……紗綾さんは。、そろそろその胸ではロリの対象外では？」」
「おっぱいですか？　最近、またおっきくなった気がするです。確かにもう幼女と言える歳じゃないかもです」
　なんだか色々と複雑な気分だと、紗綾が桐子の問いに答える。それを聞いた途端、フウェフ・ディーは両手で頭を抱えると、ガックリと膝を突いて崩れ落ちた。
「ああ、なんということだ！　後半年……否、一年ほど前に出会えていれば、君の肉体が大人の階段を上るのを阻止できたのに！」
　なんというか、これは筋金入りのロリコンだった。
　頼むから、こっちに近づいて来ないでくれ。なにやら貞操の危機を感じ、桐子は静かにリボルバーにて狙いを定め。
「それ以上、近づかないでください……撃ちますよ」
「変態さんには、お仕置きなのです」
　桐子のリボルバーが火を噴けば、紗綾もまた極限まで集中力を高め、敵の肉体を離れた場所から爆破する。攻撃の際に相手を凝視せねばならないことで、色々と我慢を強いられた気もするが、それはそれ。
　シャーマンズゴーストのラビドリーが爪を突き立て、ボクスドラゴンのアルゴルが、ブレス攻撃をお見舞いする。お巡りさん、こっちです。そう言って通報することで終わる相手であれば、とっくにやっているだろう。だが、相手がデウスエクスであれば、完全に倒せるのはケルベロスのみ。故に、あのような変態エインヘリアルは、問答無用で死刑に処すと。
「その首、いただきます！」
　未だショックで崩れ落ちたままのフウェフ・ディーに、ラインハルトが容赦なく真横から斬り掛かった。が、そこは腐ってもエインヘリアルの勇士。即座に気持ちを切り替えて反応すると、強引に身体を捻ってラインハルトの刀と斬り結ぶ。
「貴様……さては、ここにいる少女達で、ハーレムでも作るつもりなのだな？　だが、そうはさせんぞ！」
　凄まじい鍔迫り合いに火花を散らしつつも、フウェフ・ディーの口から発せられる痛々しい勘違い。それでも、少しでも気を抜いたら押し負けそうになってしまう程に、敵の攻撃は強力だ。
「終りの始まり……。在るべき場所へと至る道標。悲劇も絶望も、全てはそのための一片……」
　ならば、まずは厄介な動きから止めてやろうと、パールが詠唱と共に自らの秘められし力を解放した。
　腰から生える、無数の蔦。それで周囲を薙ぎ払うと同時に、蔦から滴る樹液で魂諸共に敵の肉体を侵食する。
　獲物を食らうのであれば、まずは徹底的に弱らせてから。パールにとっては変態であろうとなんであろうと、フウェフ・ディーのような屈強の猛者は、なかなかどうして楽しい狩猟対象でしかないようだった。

●少女葬送歌
　純粋な少女を求める者と、それを護りながら戦う者。個の強さであればフウェフ・ディーの方が上だったが、それでもやはり、最後は数の差が物を言う。
　サーヴァント達も併せれば、ケルベロス達は10名を越える軍団だ。それこそ、ちょっとした小隊を軽く二つほど作れる程のメンバーが集まっているだけに、手数の差もまた顕著であり。
「えぇい、退け！　貴様のような年増女に用はない！」
　散々に顔面を蹴られたフウェフ・ディーが、怒りに任せてロベリアに向かい刃を振るう。だが、対するロベリアも微笑みこそ絶やしてはいなかったが、その奥に静かな怒りを抱いていたのは言うまでもない。
　未だ20歳にもならない女性を捕まえて、よりにもよって、年増女扱いとは何事か！　そちらこそ、自分の外見年齢を考えて物を言え！　そう叫んでやりたい気持ちを押し殺し、ロベリアはイリスに動きを封じさせたところで、両腕の地獄を開放し。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
　無数の刃に変形させたそれを、剣風と同時に叩きつける。舞い散る刃は花の如き優美さを兼ね備えつつ、敵の身体に突き刺さると、急に牙を剥いて回復を阻害する毒と化す。
「逃がさないよ。キミのような存在は、フォンや他の皆にとって危険過ぎる」
　ここまで来れば、もう一押しだ。指先に地獄の炎を灯し、ルージュはその中に自らの最良とする未来を掴む。
「垣間見るは朽ちた未来。ならば、僕はそれに紅引き否定しよう。この手が誰もが望む未来に届くまで！」
　それは、因果律に干渉するリセットの嵐。確率は収束するという言葉を信じるならば、奇跡もまた狙って引き起こすことも可能なのだ。
「ぬぅっ！　ま、まだだ……一人でも多くの少女を連れ帰るまで、私の戦いは終わらないのだ！」
　なんとも情けない台詞を吐きながら、再び立ち上がるフウェフ・ディー。最初と最後だけ取って考えればカッコいいのだが、しかし内に秘めたる邪な願望が剥き出しになっているため、ただひたすらに残念だ。
「それほどまでに、少女がお好きなのですか？　ならば……少女に屠られて逝ければ本望ですよね？」
　もう、これ以上は構ったり反応したりするのも馬鹿らしと、ラインハルトが雷の霊力を帯びた刀を突き立てた。その一撃に敵の身体が痺れたところで、他の者達も一斉攻撃！
「変態は、塵も残さず撃ち抜いてやるのです！」
「ロリコンには過ぎた施しですが、全弾プレゼントです。お釣りはいりません」
　紗綾のライフルと桐子のガトリングガンが火を噴いて、フウェフ・ディーに十字砲火を浴びせて行く。
「ん、これも持って行くといいの」
　ついでに、これはオマケだと言わんばかりに、フォンもまたクルルにブレスで攻撃を重ねさせた。
　次々に起こる爆発、爆発、また爆発。それでも、まだ足りないと、パールが後方から一気に間合いを詰めて、フウェフ・ディーの身体を指先で貫き。
「パールに手出しさせないわよ……幼女趣味っ！」
　反撃の余地さえも与えずに、最後はキーアが特大の炎で焼き尽くす。
「神をも滅ぼす尽きる事のない黒炎……魂の一片すら残さず燃え尽きろっ……！！」
「ぬぉぉぉっ！　ば、馬鹿な！？　これ程までに強く、可憐な少女達を前にして、こんなところで……っ！？」
　零距離から放たれた黒炎に巻かれ、フウェフ・ディーの身体が物言わぬ黒焦げの塊と化して行く。内側と外側、その両面から焼き尽くしたことで、ロリコン英雄は今度こそ倒れて動かなくなった。

●ロリコン幻想
　戦いは終わった。変態紳士ならぬ変態戦士は物言わぬ黒焦げの塊となり、マン・ハオウの部隊の一角は、これで大きな戦力ダウンを余儀なくされたことだろう。
「…………」
　焼け焦げたフウェフ・ディーの身体を、パールが戦籠手で齧るような形で喰らっていた。
　だが、敵を倒したところで油断は禁物。戦いに勝って勝負に負けるような真似は、できることならしたくはない。
「撤退します！　皆さん、退いてください！　殿は僕が務めます！」
　これ以上は、仲間の少女達を危険な目に遭わせるわけにもいかない。
　ラインハルトの言葉を受けて、一斉に後方へと駆け出す少女達。
　今回の相手は、色々な意味で強敵だった。しかし、これはあくまで前哨戦。本当の戦いは、これからだ。
　螺旋忍軍の彷徨えるゲート。変幻自在の散歩する扉を中心とした決戦と、ケルベロス達は否応なしに感じ取りつつ戦場を後にした。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年7月21日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 4／キャラが大事にされていた 1
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