螺旋忍軍大戦強襲~巨躯なる戦士を討て

作者:洗井落雲

●強襲作戦
「揃ったようだな。では、今回の作戦を説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、作戦に参加するケルベロス達へ向けて、言った。
「先の作戦で、君達は智龍ゲドムガサラから、螺旋帝の血族・緋紗雨を守り切った。その結果、螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が、次に出現する場所が分かった。この情報をもとにすれば、螺旋忍軍との決戦を行うことが可能だ。だが――」
 アーサーは口元に手を当てた。
「ここで一つ問題が残っていてな。正義のケルベロス忍軍から螺旋忍法帖を奪取し、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した『最上忍軍』。彼らは現在、螺旋帝の血族・イグニスからの命を受け、次に彷徨えるゲートが出現する位置に、戦力を集結させようとしているそうだ」
 集められた戦力は、多岐にわたる。『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力であるダモクレス達。ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団からなるエインヘリアル。更に、各勢力が研究していた屍隷兵の中でも、戦闘力の高い者達を集めた軍勢も集められているそうだ。
 彼らはイグニスとドラゴン勢力によって利用されているようで、『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力』として扱われている。
「ケルベロスウォーを発動しない限り、この軍勢を全て撃破する事は不可能だ。だが、今の段階でもできる事はある。移動中の軍勢を襲撃して、指揮官などの強力な敵を撃破し、敵勢力を可能な限り弱体化しておく」
 本番に備え、可能な限り敵の戦力を削いでおく。
 のちにつながる大作戦の難易度にも影響する、重要な作戦と言う事になる。
「危険な任務だが……どうか、君達の力を貸してもらいたい」
 アーサーは一礼した。
「我々は、エインヘリアル『マン・ハオウ』とその私兵集団を狙い、戦うことになる。私兵集団は、マン・ハオウ以下12名の指揮官エインヘリアルと、数百名の兵士エインヘリアルによって構成されている。まともにぶつかれば、指揮官を落とす事は不可能に近い。だが」
 アーサーは少し、気恥ずかしそうな、困ったような……何とも言えない表情で目をそらした。少し、ううむ、と唸ってから、言葉を続ける。
「なんというか……マン・ハオウ以下、有力な指揮官エインヘリアルたちはな、『背の低い美少女』を特別視しているらしくてだな。そういう存在が目の前に現れた場合、兵士たちを待機させて、自分達だけで突撃してくるそうだ」
 アーサーは髭を撫でた。
「あー、君達も私が何を言っているのかよくわからんかもしれんが……私にもよくわからん。だが、まぁ、これはチャンスだ。兵士を相手にしなくていいわけだからな……」
 アーサーは咳払い一つ、少々緩んだ雰囲気を引き締めようと試みる。とは言え、と続けると、
「12体の指揮官エインヘリアルが突っ込んでくるわけだ。当然、無策でどうにかなるものではない」
 そのための作戦をケルベロス達に選んでもらうことになる。
 例えば、指揮官エインヘリアルをあえて無視し、残った兵士たちを倒し、総戦力を減らす、と言った作戦。
 また、エインヘリアルの軍勢に守られている最上忍軍の『最上・幻夢』の撃破を狙うのもありだろう。
 あるいは素直に、指揮官エインヘリアルの撃破を狙うのも良いかもしれない。
「指揮官エインヘリアルだが、確実に撃破するには、『1体につき2チームが連携して戦う』ことが必要、と言った所だ。参考にしてもらいたい」
 アーサーはふむん、と唸った。
「ここで可能な限り敵戦力を削って、後の戦いを有利に運びたい。……だが、今回の作戦は、奇襲作戦だ。作戦終了後は、速やかに離脱しなければ、敵の勢力圏に取り残されることになる。最も大切なのは、君達の命だ。くれぐれも無理はしないでくれ。作戦の成功と、君達の無事を祈っている」
 アーサーはそう言うと、ケルベロス達を送り出した。


参加者
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
アイリス・フィリス(音響兵器・e02148)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)
久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208)
幽川・彗星(朽ち果てるために敵を討つ・e13276)
カロリナ・スター(ドーントレス・e16815)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)

■リプレイ

●第十一王子誘引作戦
 紀伊山地――。
 古来より修験道の修行の地として名高い霊場を擁する山々であるが、今その山々を行くは、厳かな雰囲気とは真逆、粗暴たるエインヘリアルの一団である。
 マン・ハオウに率いられた兵士団は、奈良を目指し、進軍を続けていた。
 ふと、マン・ハオウが手を挙げた。一団の歩みが止まる。
 そこにあったのは、花畑であった。
「――ふぅん?」
 マン・ハオウの口元が、にやりと歪んだ。
 花畑の中心には、4名の少女の姿が見える。
「待て」
 マン・ハオウは告げると、一団より離れ、駆けだした。
 荒々しく花々を踏みにじりながら、少女へと近づく。走りながら、マン・ハオウは、値踏みをするように少女達を見やった。
 いずれも130cm以下の身長、或いは10歳以下の年齢の少女達である。
 いずれも――極上に、美味そうだ。
 マン・ハオウが近づいてきたのを察知してか、少女――ケルベロス、アリスが顔を上げ、微笑んだ。
「綺麗なお花……♪ ――貴方は……?」
「俺様は第十一王子『マン・ハオウ』だ!」
 マン・ハオウが答える。アリスはその言葉に、柔らかく微笑んだ。
「素敵な王子様……私達と遊びませんか?」
「王子さん、足速いね。僕たちと鬼ごっこをしようよ」
 まっすぐと王子を見上げながら、あかり。
「あなたが鬼です。私達は逃げますから――」
 少し強気な微笑みで。アイリス・フィリス(音響兵器・e02148)が言葉を紡ぎ、
「捕まえてみてください?」
 挑発的な笑顔で、久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208)が続けた。
 同時に、少女たちは一斉に立ち上がった。各々、バラバラの方向へと駆け出していく。
「ほう……」
 それを見たマン・ハオウは、あごを撫で、目を輝かせる。
「良いだろう! 下々の戯れを楽しむとするか!」
 マン・ハオウは、背後に控えさせた部下たちへ顔を向けると、
「聞いたか!」
 叫んだ。
「少女たちは、俺様をお誘いだ! これは、第十一王子として叶えてやらんとなぁ!」
 にやにやと笑いながら、山地の木々すら震わさんばかりの大音声で告げる。
 これは自分の獲物だから、部下であるお前達には手を出すな、そう言う意を含ませた言葉である。
 マン・ハオウは舌なめずりすると、地を抉りながら駆け出した。最初の獲物は――。

「うう……大丈夫かなあ……怪我してないといいけど……」
 木々に囲まれながら。
 リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)は不安げに、そわそわとした様子で、呟く。
 心配の種は、マン・ハオウを部隊から孤立させるための囮に志願した大親友、アイリスの身の安全だ。
 ケルベロス達は、マン・ハオウ討伐の為、囮を用いた誘引作戦を実行に移すことにした。これは3チーム合同の作戦である。各チームから囮を募り、マン・ハオウをおびき寄せる。どのチームの囮に食いつくかは未知数であったが、兎に角、食いついた先から、攻撃を仕掛けるしかない。食いついた囮を擁するチームが最前線で攻撃を仕掛け、状況に応じて残りの囮が再度釣りだし、また別チームによる攻撃を行う。
 マン・ハオウは強力な相手である事は確かだ。単チームで事に当たるよりは、連続で攻撃を仕掛けた方が相手の消耗も狙え、此方の被害も抑えられるだろう。
「気持ちは分かります……ですが、少し落ち着きましょう」
 レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)が、リュコスを宥めた。
 言葉にした通り、リュコスが心配する気持ちは、レベッカにもよくわかる。
 何せ相手はエインヘリアルの大物。戦闘を避ける囮であり、かつ護衛としてファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)がついているとはいえ、安全である、等とは決して保障できぬ相手だ。
 と――。
 彼らの周囲を、ガス状の物体が漂い始める。
「……! バイオガスだね!」
 カロリナ・スター(ドーントレス・e16815)が言った。
 バイオガスの効果が発揮されたという事は、彼らの周囲が戦場となった、と言う事を意味する。つまり、どこかのチームが、マン・ハオウと戦闘状態に入った、と言う事だ。
「皆、準備はいいかな?」
 と、カロリナ。
 他のチームの戦闘とは言え、ただ黙ってみているわけにはいかない。
 可能な限り此方からも攻撃し、的確に援護を行わなければ、マン・ハオウを撃退することなど夢のまた夢と言えるだろう。
「ええ、いつでも行動に移れます」
 エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が頷いた。
「では、行くとしましょうか」
 幽川・彗星(朽ち果てるために敵を討つ・e13276)が武器を手にしつつ、言った。
 ケルベロス達は頷くと、現在戦闘中のチームへの援護へと向かうのだった。

●暴風の十二星拳
 アイリスと眞白、ファルゼンは、木々の合間から戦場をうかがう。
 現在、第一攻撃チームは前線を退き、第二のチームが戦闘を行っている。
 もちろん、合間にも全チームの援護が戦場を飛び交う。
 アイリスは、戦場を駆け回り、マン・ハオウの隙をついては攻撃を繰り返す、親友の姿を見つけた。
 もはや囮は、自分達以外に残ってはいない。次は自分達が、マン・ハオウをおびき寄せる番である。現在戦闘中のチームが瓦解しないよう、適切なタイミングで引き付けなければならない。
「……! 2人とも!」
 アイリスが息をのんだ。現在戦闘中のチームの1人が、マン・ハオウの攻撃をまともに受けてしまう様子が見えたのだ。
「ここら辺が限界だな」
 ファルゼンが言った。これ以上待てば、チームに大きな損害が発生するだろう。介入するチャンスは今しかない。
「じゃあ、王子様を釣ってやるか、アイリス」
 眞白の言葉に、アイリスが頷く。
「私は彼らの様子を確認してくる。少し離れるが――」
「大丈夫ですよ」
 アイリスが答えた。眞白も頷く。かくて、3人は一斉に飛び出した。
「王子様、王子様、鬼ごっこはお終い?」
「それとももう、私達を追いかけるのを諦めちゃった?」
 スカートひらり、と翻しつつ、アイリスと眞白がマン・ハオウを挑発する。
「ぬぅ? ふっ……ははは! お前達か! こちらの少女はもはや制したも同然! 次はお前達の番よ!」
 マン・ハオウの注意がこちらに向いたのを確認して、2人は木々の中へと姿を消した。マン・ハオウが笑いながらそれを追いかける。
「……大丈夫か? 後はこちらに任せてほしい」
 ファルゼンは先ほどマン・ハオウの攻撃を受けた男――陣内に声をかける。
「……悪いな。少しの間、頼む」
 陣内が言った。ファルゼンはその場にいたケルベロス達へ向けて頷くと、マン・ハオウ達を追い、駆けだした。

「ああ、なんだアイツ、足速い!」
 眞白が走りながら毒づく。
「大丈夫か? アイリス!」
「大丈夫です……あっ!」
 焦りからか、アイリスが木の根に足をとられ、躓いてしまう。転びこそはしなかったが、その一瞬の隙は、マン・ハオウが距離を詰めるに十分すぎる時間である。
「ふはっ! 捕まえたぞ、少女よ!」
 アイリスに伸ばされる手。しかし――。
「ぬうっ!?」
 その手を受け止めたのは、ファルゼンである。
「一つ、聞きくが」
 淡々としたいつもの口調――しかし、どこかに感情の揺らぎを感じさせる。
「イグニスについてだ。一つと言ったが、訂正しよう。すべてだ。イグニスについて洗いざらい喋れ」
「豪胆よな、地球人よ!」
 マン・ハオウが笑い声をあげた。
「だがそれを貴様に教える事で、俺様に何の得がある!?」
 ファルゼンは、ふうっ、と息を吐いた。
 こいつはおそらく、死んでも喋るまい。
「道理だな。ならいい」
 ファルゼンが引く、そこへ――。
「お前たちも遺産を求めてきたのだな、ならば、死ね!」
 エステルの魔法光線がマン・ハオウへと襲い掛かる。両手を交差させ、それを受ける。次いで、
「ボクのアイリスちゃんに……手を出すなッ!!」
 リュコスの鋭い蹴りが突き刺さる。マン・ハオウはにやりと笑うと、
「いいや、全ての少女は俺様のものだ!」
「いえいえ、そんな馬鹿な事実はありません。アイリスさんと眞白さんは返していただきますよ」
 リュコスが飛びずさる。リュコスの攻撃した丁度その場所を、彗星の刃が切り裂いた。
「貴様らも少女を狙う者か!?」
「一緒にしないでほしいですね。私達は、少女を助ける方の立場です」
 レベッカの弾丸がマン・ハオウを襲う。
「しかし、なんですか。エインヘリアルって、変人しかなれないとか、そう言う決まりでも?」
「主よ、どうかボクの手と指に力をお与えください」
 カロリナが祈りの言葉を唱える。マインドリングより実体化した武器を構え、
「うーん……個人差がある……って思いたいかな」
 レベッカの疑問に答えつつ、凍結弾を射出する。
 先ほどは囮に専念していたため、攻撃を行えなかったアイリス、眞白、ファルゼンも戦列に復帰。ケルベロス一丸となって、総攻撃を開始する。
 元より前チームによる攻撃によりダメージを負っていたマン・ハオウであったが、それでも討伐にはまだ届かない。並のデウスエクスであったら、とっくに消滅していたであろうダメージを受け、なお驚異的な攻撃で以てケルベロス達を圧倒する姿は、流石は第十一王子と言った所だろうか。実際、王子の苛烈な攻撃によりサーヴァントは消滅している。
 だが、ケルベロス達一丸となった攻撃により、徐々に、徐々にではあるが、戦局は傾きつつあったのだ。
「ええい、鬱陶しい! 俺様の邪魔をするな!」
 マン・ハオウが気弾を発射する。その気弾はエステルを狙うが、ファルゼンが前に立ち、それをガード。流石に肩で息をしつつ、ファルゼンは敵を見据える。
「すみません……大丈夫ですか、ファルゼンさん……!」
 エステルが礼を言いつつ、ファルゼンを気遣う。ファルゼンは首を振りつつ、
「ああ、まだ倒れるわけにはいかないからな……」
 しかし、限界は近い。マン・ハオウへのダメージは蓄積していて、後もう一歩と言った所だ。
 だが、今は、その後もう一歩が遠い。
 ――と。
「あら、王子様。鬼ごっこはまだ終わっていませんよ。私のところには、来てくださらないのですか?」
 と、戦場に現れたのは、囮役のアリスである。
「王子さん、僕のところに来てくれるよね?」
 同時に、あかりも現れた。
 ケルベロス達には、アリスがこちらへ目くばせするのが見えた。そして、その意図を理解した。
 再び同時に囮を登場させることで、マン・ハオウの混乱を狙う。
「王子様、私達はまだ捕まっていませんよ?」
 ならば、その作戦に協力するのみ。アイリスもまた、スカートをひらひらさせて、挑発を行う。
「私達の方には来てくれないんですかぁ?」
 眞白もその案に乗った。挑戦的な笑顔で、挑発。
「おおっと、お前たちか! そのように呼ばれては迷うではないか!」
 再びの少女達の挑発に、マン・ハオウは致命的な隙を見せた。
「チャンスです、集中砲火決めちゃって下さい!」
 他チームのケルベロスの声が響く。その合図に、全てのケルベロス達は一斉に動いた。
 戦場に居た、全てのケルベロス達の一斉攻撃が始まる。マン・ハオウに対して、ありとあらゆるグラビティの奔流が叩き込まれていく。
 ファルゼンは気力を引き絞り、冷凍光線を叩き込んだ。
「みなさん、闘いというものは臆した者に負けがおとずれます。だから、ファイトー! です!!」
 叫びと共に、大量のヒールドローンが出現、アイリスの周囲を舞った。それは前列のケルベロス達の援護を開始する。アイリスの奥義、『大地を揺るがす甲弾闘士の鋼鉄の叱咤(ローリングシールドエール)』である。
「今だよ3人とも!」
 アイリスが声をあげた。
「この拳は護るための拳……されど今は、今だけは! お前を倒すための豪鬼の拳!」
 眞白が叫ぶ。その姿が、さながら鬼のごとく変貌を遂げていく。
 雄たけびを上げながら、鬼が驀進する。マン・ハオウへと接近すると、思い切り殴り飛ばした。
「魂の一片まで喰らい尽くしてやる……! ここは狩場。狼の狩場! 獲物はお前だよ!」
 リュコスが叫ぶ。マン・ハオウが吹き飛ばされたその先で、ドーム状に抉れた地面が、マン・ハオウを包み込んだ。次の瞬間、隆起した槍状の地面が、マン・ハオウを串刺しにする。
 同時に――。
「死せる太陽。堕ちる月。燃え上がる海原。凍てつく煉獄。吹き荒ぶ稲光。空を迸る業嵐。これら全て我らが人智の及ばぬ新世界より来る、因果」
 彗星が動いた。マン・ハオウの周囲の空間が歪み、周囲の空間をひしゃげさせた。あまりにも異常な超重力による歪み。
 常人なれば倒れてもおかしくないほどのグラビティの連続攻撃を受け、その巨躯は、未だ倒れない。
「本当は触れるのも厭だが。落ちて行け。夜の中に」
 エステルがマン・ハオウを掴み、飛んだ。ジャンプの頂点に達すると、落下の勢いを乗せた背負い投げを叩き込む。
 派手な土ぼこりを立てて、マン・ハオウが落下した。
 間髪を入れず、レベッカが、カロリナが、追撃を行う。
 全てのケルベロス達の猛攻を受けてなお、マン・ハオウは、立ち上がった。
 しかし、もはや限界を迎えていることは、誰の目にも明らかだった。
 別チームのケルベロスが、手にしたゲシュタルトグレイブを、マン・ハオウの胸へと突き立てた。それがトドメとなった。
「バカな! 俺様は……十二星け……」
 言葉は、最後まで紡がれることはない。
 戦場のバイオガスが、晴れだした。
 それは、ここが戦場ではなくなったことを意味し。
 ケルベロス達が、この激闘を勝ち抜いたことの証であった。

●勝利の凱旋
「アイリスちゃん! 無事でよかったよ!」
 リュコスがアイリスに抱き着く。
 アイリスは困ったような顔をしていたが、思わずしまっていた尻尾を出現させて、ぱたぱたとふってしまっている。
「私にはねぎらいの言葉はなしかい?」
 肩をすくめながら、眞白。
「では僭越ながら、ボクが。無事でよかったよ、眞白君。大役、お疲れ様」
 彗星の言葉に、眞白が笑った。
「他のチームではけが人が出てしまったようですが……」
 エステルが言う。
「ですが、今回の作戦は成功。文句なしの大勝利、と言っても問題ないでしょう」
 レベッカが答えた。
 周囲に、高らかに笛の音が鳴り響く。
 他チームのケルベロスが鳴らした、討伐を意味するホイッスルだ。
「さて、一息……と行きたい所だけど、まだ作戦中だったね」
 ポケットから何かを取り出そうと探っていた手を、カロリナは止めた。勝利の余韻に浸るにはまだ早い。ここは未だ、敵の勢力圏内だ。
「では、速やかに撤退するとしよう」
 ファルゼンの言葉に、ケルベロス達は頷いた。

 かくして、ケルベロス達は、戦場より離脱した。
 エインヘリアル第十一王子、マン・ハオウの撃破。
 その大きな戦果を手土産にして。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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