螺旋忍軍大戦強襲~対決! エインヘリアル軍団!!

作者:飛翔優

●エインヘリアルの軍勢を強襲せよ!
 足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、メンバーが揃った事を確認した上で説明を開始した。
「螺旋忍軍の彷徨えるゲートの次の出現場所が判明しました。これは、螺旋帝の血族・緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守り切った成果になりますね!」
 しかし、大きな障害がある。
 最上忍軍が螺旋帝の血族・イグニスから新たな命令を受け、ゲート周辺に戦力を集結させようとしているのだ。
「載霊機ドレッドノートの戦いの残党勢力。ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団。更に、各勢力が研究していた屍隷兵から戦闘力の高い者たちを集めた軍勢も用意しているみたいです」
 彼らは魔王竜の遺産である強大なグラビティ・チェインの塊が発見されたとの情報や、得た際の功績、そしてケルベロスの襲撃といった偽情報を掴まされている様子。更に、遺産は独占が望ましく、その争いの際に敵に漁夫の利を与えぬことが重要とも説明されており、互いに仕掛けることなく牽制し合うよう仕向けられている。
「恐らく、イグニスたちは彼らをゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力として利用しようとしているのでしょう」
 ケルベロスウォーを発動しない限り、全ての軍勢を撃破することは不可能。しかし、今のうちに主だった指揮官を撃破しておけば敵勢力を弱体化することができるはず。
「ですので、危険な任務となりますが、力を貸して欲しいんです。そして……」
 セリカは集まった者たちを見回し、続けていく。
「皆さんには、エインヘリアルの軍勢に対して強襲をしかけてきて欲しいんです」
 エインヘリアルの第十一王子であるマン・ハオウと、その私兵集団。
 私兵団を率いるペンプ・オグ以下、ユナン・ジス、ダウ・ガル、テイル・レイ、ペデル・ケイン、フウェフ・ディー、セイジュ・オー、エイジュ・ラディウス、ナウ・ソーン、デク・サムス、ユネク・シザリスといった歴戦のエインヘリアルが、数百名の軍勢を率いているようだ。
「この状態で、有力なエインヘリアルを撃破するのはかなり難しいかもしれません。ですので、このエインヘリアルたちの特殊な性質を利用します」
 マン・ハオウ以下有力なエインヘリアルたちは背の低い美少女を特別視しており、そういった存在が目の前に現れれば自分たちだけで突撃してくる。
 と言っても、相手は十二体の有力なエインヘリアル。それが固まってやって来るのだから、決して侮ることはできない。
 そのため、釣りだしたマン・ハオウ以下有力なエインヘリアルを撃破するか、指揮官が出払ったエインヘリアルの軍勢を攻撃して数を減らすといった作戦が有効となる。
 もっとも、残されたエインヘリアルの軍勢の中には、最上忍軍の最上・幻夢の姿もある様子。そのため、幻夢の撃破を狙っていくのもよいかもしれない。
 一方、私兵団の隊長であるペンプ・オグは、少女よりもマン・ハオウの安全を優先する。そのため、襲撃してきたケルベロスが手強いと知れば、軍勢への撤退を進言するだろう。
 また、その他の私兵団員は各個撃破が可能な様子。しかし、その戦闘力は高く、確実に撃破するのならば一体に対して二チームほどが連携を取りつつ戦うといった形になるだろう。
「以上で説明を終了します」
「決戦を前にした強襲作戦。激しい戦いになるかと思います。ですのでどうか、全力での戦いをお願いします」
 望む未来を勝ち取るためにも……!


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
封理・八雲(レプリカントのミュージックファイター・e00549)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
阿南・つむぎ(食欲の春夏秋冬・e05146)
塰宮・希月(篝火を奏でて・e14957)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
島・笠元二(悪役勉強中・e26410)

■リプレイ

●奇妙な奇妙な追いかけっこ
 森に紛れ、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)は観察する。
 奈良平野を目指し伊勢産地和歌山県側の伯母子岳を進軍しているエインヘリアルの軍勢、第十一王子マン・ハオウ率いるハオウ私掠団。
 肉体派のマン・ハオウを中心に、皆、質は違えど精悍な肉体を持つエインヘリアルの男たち。もしも穢れなき幼い少女を求めているという性質がなかったなら、違う感想を抱く余地もあっただろうか。
「……」
 エルネスタは肩をすくめると共に思考を打ち消し、一人ひとりに視線を送っていく。
 不意に、頬に傷を持ち身の丈ほどもある巨大な直剣を担いでいる男と目が合った。
「……きづかれた、かな」
 即座に立ち上がり、男に向けてあっかんべー。
 すると、男は周囲にいる者たちに何かを話した後、落ち着いた足取りで歩み寄ってきた。
 拳をギュッと握りながら、エルネスタは踵を返す。
 追いつかれる事のないように、けれど引き離す事のないように、見失われてしまう事のないように……一定の距離を保ちながら、その男だけを森の中へと導いた。
 知ってか知らずか、男が歩調を速める様子はない。それはまるで、突然始まったこの追いかけっこを楽しんでいるかのようで……。

 マン・ハオウ私掠団の進路から遠く離れた森の中。ブラウンカラーな毛並みを腐葉土の色彩に紛れさせながら、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)は左右に視線を走らせていく。
「まだかなー、大丈夫かな―」
 ボクスドラゴンのレーヴァテインと共に巨木の枝に腰掛けている封理・八雲(レプリカントのミュージックファイター・e00549)は、エルネスタがやって来るだろう方角に心配げな眼差しを送っていた。
「よーし! 頑張っちゃうのね―!」
 一方、低木の下に身を隠している阿南・つむぎ(食欲の春夏秋冬・e05146)は笑顔を浮かべたまま気合を高めていた。
 エルネスタが釣り出して来てくれるはずのエインヘリアルとの戦いに備え、ケルベロスたちは各々の形で時間を過ごしている。擬態も念入りに施されており、早々見破られることはないだろう。
 ジュリアスはマン・ハオウ私掠団のいるだろう方角へと視線を戻し、手元の道具をギュッと握りしめる。
 呼吸を最小限にとどめ、視覚と聴覚に意識を集中させていく。
 聞こえてくるのは風の音、木々のざわめき蝉の声。少しずつ、少しずつ遠ざかり、代わりに伝わるのは己の心音、深く鋭い命の息吹。
 木漏れ日をちらつかせるほどに揺らめく枝葉の向こう側、小さな影が近づいてくる様が見えて……。
「……」
 影がエルネスタであると断定し、ジュリアスは身構える。
 彼女が目の前を通り過ぎた時、後を追いかけてきたエインヘリアルの姿も見えた。
 ケルベロスたちが生み出した包囲網の中心を少し過ぎたあたりでエルネスタが立ち止まり、背中に両手を回して振り向いていく。
「うわさできいたよ。おにーさんたちロリコンなんだってね」
「……おや?」
 質の違う二人の笑顔が交錯した時、虚空を一筋の稲妻が貫いた。
「っ……」
 稲妻を導きし平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)のゲシュタルトグレイブの穂先はエインヘリアルの左胸を捉えるも、硬くしなやかな胸当てに阻まれ切っ先は内鎧にさえも届かない。
 間髪入れずに轟音を伴う砲弾が無防備な背中を打ち据えたけど、エインヘリアルがその場から動く様子はない。
「おーほっほっほ! さすがエインヘリアル王子の私兵ね! 私の一撃を受けて揺るがないなんて、大したものよ!」
 砲手たる島・笠元二(悪役勉強中・e26410)は高笑いと共に、地面からドラゴニックハンマーの石突きを引っこ抜いた。
 エインヘリアルの反応を待たずにケルベロスたちが攻撃を重ねていく中、エルネスタも懐へと潜り込みハンドミシンを持つ右腕を振りかぶる。
「あ、でもロリータってちゅーがくせいくらいだから、おにーさんはアリコンかな?」
 突き出した拳は腹部を捉えるも、内鎧に編み込まれていた鎖に阻まれ内部まで浸透させた手応えはない。
「どっちにしてもヘンタイさんだね、おにーさん」
 反撃に備えエルネスタが後退する中、エインヘリアルは一瞬だけ背後に視線を送った。
 退路を塞ぐかのように、ジュリアスがガスをばら撒きながら瞳に鋭い光を宿している。
「ま、ここまでやっても倒せないと意味無いのですけどね」
 深い息を吐き出すとともに、エインヘリアルは瞳を覆って笑い始めた。
「いやはや、なにかあるとは思ったが……まさか、こんな大歓迎を受けるとはな。やってくれるぜ、嬢ちゃん」
「強がりにしか聞こえないねー」
 つむぎが正面に着地しつつ、肩を並べて戦う者たちに紙の兵士を散布する。
 手の隙間から見える強い眼光を宿した瞳を見つめながら無邪気な笑顔を浮かべていく。
「もう、戦いは始まってるよ。それとも、さっきの攻撃が致命傷だったのかなー?」
「まさか!」
 エインヘリアルは眼から手を話し、直剣を両手で握りしめた。
「惚れた女相手なら、罠にかかってやるのも男ってもんよ! マン・ハオウ私掠団が一人、デク・サムス 。惚れた女を求め、いざ、勝負!」
「っ!」
 言葉を終えると共に前触れもなく振り下ろされた剣を、つむぎは肉球で受け止めていく。
 衝撃を殺しきれず体を沈ませていると、勇猛なる歌声が聞こえてきた。
「……ありがとう」
「いえ」
 担い手たる綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)は声に言葉に力を込め、デクと直接戦う者たちに守りの加護を与えていく。
 痛みが消え抗う力も生まれたか、つむぎは立ち上がる勢いのまま巨大な剣を弾き返していた。

●惚れた腫れたに酔いしれて
「おーほっほっほ! 残念だけど、ここにおびき寄せられた時点で貴方の敗北は決まったわ! それを、私が教えてあげる、覚悟しなさい!」
 笠元二がブラックスライムを槍に変え、デクの背中めがけて放り投げた。
「おらぁ!」
 半円を描くかのように地面を切り裂きながらデクは振り向き、力任せの横薙ぎでブラックスライムの槍を粉砕。
「かかったわね!」
「っ!」
 散りゆく粒子は一瞬だけ動きを止めた後、剣を手元に引き戻そうとしているデクの体へと殺到していく。
 対応しきれぬと感じたか、デクは剣を戻し切る間際で動きを止め――。
「そっちも油断大敵だぜ、姐さんよ!」
 ――強引に地面へと突き刺した。
 すかさず八雲が間合いの内側へと入り込む。
 直剣の腹を夜空代わりに数多の星々が瞬いたから。
「乙女座、なのね」
 鎖を振り回し盾とする中、星々は可愛らしく幼い乙女の姿を浮かび上がらせる。
 元気な笑顔と共に、凍てつく冷気を弾けさせてきた。
 鎖に冷気を伝わせ、仲間たちへの攻撃もいくつか受け止めていく八雲。その体が凍てつき白んでいくさまを見つめた後、鼓太郎は治療役を担う塰宮・希月(篝火を奏でて・e14957)とレーヴァテインに視線を向けていく。
 希月はこくりと頷いた。
「……お願いするの、です」
「わかりました」
 うなずき返し、鼓太郎は正面へと向き直る。
 希月の歌声が戦場を満たし、レーヴァテインの力が八雲に宿り始めた氷を溶かしていく中、鼓太郎もまた生きる事を肯定するメッセージを軽やかなるメロディに乗せていく。
 ――皆様を守り通す、その御役目を果たすまでです。禍事罪穢、悉く祓い尽くさん。
 誓いを果たすため。
 誰ひとりとして倒れさせないため。
 デクを倒す、その時まで。
 滞りなく前衛陣の治療が行われていく中、希月のビハインド・冬四郎が間合いの内側へと踏み込んだ。
 振り下ろされていく冬四郎の得物に呼応してデクが剣を引き抜いた時、和が背中側へと回り込んだ。
 硬質な音が響いた瞬間、炎の右足を無防備な背中に叩き込む。
 相変わらず揺るがぬデクの体が赤き炎に抱かれていく中、和は自分に……見た目と声の高さだけなら少女にも見える自分に多くの注意を割かぬ様を、質の違う視線を送ることのない様子を心のなかに巡らせ安堵の息を吐き出した。
 不安が完全になくなった時、冬四郎とタイミングを合わせて飛び退いていく。
 一方のデクは剣を構えながら、ぐるりと周囲を見回していく様子を見せていく。
「あんたらも中々やるな。けど、恋は障害が多いほうが燃える……ってねぇ!」
 剣の巨大さなどものともせぬ俊敏さでデクは大地を強く蹴る。
 呼応するかのように飛び込んだ鼓太郎が、柄頭に大粒の蒼玉がはめ込まれているダマスカス鋼製の新月刀が収められていた鞘を掲げ受け止めた。
 衝撃を殺しきれなかったがゆえか姿勢を崩し横へと逃れた。
 代わりに地面が打ち砕かれていくさまを横目に捕らえつつ、笠元二はライトニングロッドを突き付けた。
「もらったわ! おーほっほっほ!」
 虚空を駆ける雷が地面から剣を引き抜こうとしているデクの脇腹に突き刺さる。
 内鎧が焼け焦げた時、和が再び背後へと回り込んだ。
「偉いこと言ってたわりに、随分と隙だらけじゃん」
 胸当てを避ける形でナイフを振るい縦横無尽に切り裂けば、内鎧の布地に隠されていた鎖帷子が露わとなる。
 炎は勢いを増した。
 デクの笑みに若干の陰りが生まれ始めていく。
 そんな様を立ち上がりながら観察していた鼓太郎は、誓いの祝詞より生まれし光の玉で己を包み込みながら静かな息を吐く。
 順調に重ねていた呪縛が今、増幅した。
 ケルベロスの側にも癒やしきれない傷は残るけれど、積み重なるスピードはデクへ与えているダメージよりも遅いはずだ。
 懸念の一つは、デクが逃亡する可能性。
 しかし……。
(「さて、逃げ道を潰していても変な逃げ方をする可能性もありますからね、まだ予断を許しはしませんよ」)
 デクの退路はジュリアスが塞ぎ続けている。
 マン・ハオウ私掠団のもとへと戻るためには大回りしなければならず、その道を選ばれる可能性は低いと思われた。
「……」
 その場を動かず風刃を放つジュリアスを信じ、鼓太郎は仲間たちを守りながら支えていく。誰ひとりとして倒れさせないこと、それこそが討伐への近道であると信じて……。

 力任せに振り下ろされた一斬を、八雲は鎖に滑らせ受け流す。
 慣性などないかのごとき強引な動きで斜め下から切り上げてきた。
 振り向きざまに鎖を振るい打ち払えば、呼吸を紡ぐ間もなく再び剣を振り下ろしてくる。
「っ!」
 硬質な音が響くたび、八雲は自分の体から様々な加護が消えていくのを感じていた。それでも直撃だけは許さず打ち合い続け、デクの剣が地面を砕いたタイミングで後ろへ飛ぶ。
 全身が悲鳴を上げているのを感じる中、追撃は許さぬとばかりにつむぎがデクとの間に割り込んでくれた。
「今のうちに治療を受けるのよー」
「うん、わかったの」
 つむぎがデクと打ち合っていくさまを見つめながら、八雲は希月らからの治療を受けていく。
 オーラを注ぎ込みながら、癒やすことのできないダメージを把握しながら、希月は静かに瞳を伏せた。
 治療は順調、攻撃も問題なくデクを追い詰めている。優位は変わらぬはずなのに大きな不安がよぎるのは、決して自分が怯えているだけではない。
 デクはまだ、加護を砕く斬撃と乙女座の冷気しか見せていない。
 恐らく、最低でももう一種の力を持ち合わせているはずだ。
「……」
 もしもそれが戦況を覆すものだとしたら。最高のタイミングで披露するために、敢えて温存しているのだとしたら……。
「……」
 この戦いへ赴くにあたり、色々と恐怖は抱いていた。でも、戦うと決めたからここまで頑張ってきた。
「……?」
 気づかぬ内に震えていたのだろう。デクに弾かれたばかりの冬四郎が、優しく肩を叩いてきた。
 希月は頷き返し、深い息を吐いていく。
 より一層の力をオーラに込めて、八雲の治療を進めていく。
 同様に八雲の治療を行っていた鼓太郎が視線を向けてきた。
「俺もきっと、同じ懸念を抱いています。だから、もしもの時が訪れても大丈夫なように、全力で支えていきましょう」
「……はい」
 力強く頷くと共に治療を終え、希月は八雲を前線へと送り返した。
 デクと打ち合っていたつむぎが飛び退り、額の汗を拭いながら距離を取る。
 再び最前線に戻ってきた八雲はデクと見つめ合い、剣が横に構えられたタイミングで鎖を放った。
 横薙ぎに弾かれるも手首を返して振り下ろす。
 強引に腕を戻したデクは地面を削りながら剣を――。
「そろそろ終わらせましょう」
 ――振り上げんとした体が固まり、鎖に縛られた。
 鎖帷子すらも突き破る、ジュリアスの風刃に背中を切り裂かれて。
「っ……」
 デクが頬に汗を伝わせる。
 エルネスタは距離を詰めた。
「みたまさんおねがい!」
 至近距離からハンドミシンを突きつける。
 御霊を乗せた針が内鎧を貫いた。
 くぐもった悲鳴が響く中、和は胸当てにナイフを突き立てる。
「これで……」
 皮を破り、布を貫き、切っ先を鎖帷子へと当てていく。
 更に強く押し込めば肉体へといたり、力と全体重を刃に乗せて……。
「……」
 鎧ごと斜めに切り裂き、大きな血しぶきを上げさせた。
 視界を染める赤を拭いながら、和はデクを睨みつけていく。
 瞳を震わせながら、デクは薄く笑う。
 反撃に備え希月は身構え――。
「安心しな、姉ちゃん。もう、何もない」
 ――ゆっくりとデクは倒れていく。
「いや、あるんだが……そいつは、仲間たちを鼓舞するはずだった星座の加護だけ。それももう、意味はない。この戦い、あんたらの勝利だ」

●吉報を届けに
 ――最期が惚れた女の手の中じゃねぇのが心残りだが、まあいい。良い戦いだった、それだけでも、満足だ。
 満足げな笑みを浮かべたまま、デクは滅びた。
 気を張り続けていた希月は安堵の息を吐くと共によろめき、冬四郎に支えられていく。
「あ……ありがとう、兄様。皆様もお疲れ様、です、何とかなりました、ね」
「ええ、お疲れ様です。ここまでうまくいくとは思いませんでしたよ」
 ジュリアスが頷くと共に、仲間たちへと視線を走らせた。
 紙兵による治療を始めていた八雲が、マン・ハオウ私掠団がいるだろう方角を眺めていく。
「さて、戦況はどうかしらねー」
「おーほっほっほ! デクに勝てた私達の仲間たちですもの、どんな敵でも負けるはずないわ!」
 笠元二もまた、高笑いと共に周囲の様子をうかがった。
 少しずつ戦いの音色は収まっている。
 勝敗は分からないが、少なくとも、戦いそのものは終結へと向かっているのだろう。
 また、彼らも万全ではない。仮に元気な敵と遭遇した場合、万が一もあり得る。
 これからの戦いに余裕を残しておく必要もあるから、彼らは撤退を選択した。
 胸に宿すは、勝利の二文字。
 吉報を届けることもまた、戦いへの貢献となるだろう!

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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