螺旋忍軍大戦強襲~鍵は、小柄な美少女?

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに見回した。
「飫肥城の攻防戦、お疲れ様でした。『螺旋帝の血族・緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守り切った』皆さんのお陰で……螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が出現する場所が判明しました」
 ゲート出現予定地は『奈良平野』――この情報により、螺旋忍軍との決戦が可能となった。
「ですが、正義のケルベロス忍軍から螺旋忍法帖を奪取し、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した『最上忍軍』が、大きな障害となろうとしています」
 最上忍軍は、螺旋帝の血族・イグニスから新たな命令を受け、各勢力に潜入中の螺旋忍軍を利用。『螺旋忍軍のゲート出現地点に戦力を集結』させようとしている。
「勢力は大まかに3つ。ダモクレスは『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力、エインヘリアルはザイフリート王子やイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団。更に、各勢力が研究していた屍隷兵の中で、戦闘力の高い個体を集めた軍勢も用意されているようです」
 彼らは、螺旋忍軍から様々な偽情報を掴まされている。例えば、『魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見された』、『このグラビティ・チェインを得る事ができれば、巨大な功績になる』、『この事実を知ったケルベロスの襲撃が予測されている』等々。
「更に、『複数の勢力が参戦する為、出し抜かれない立ち回りが重要』と言いくるめられており、デウスエクス同士は互いに牽制し合うように仕向けられています」
 清々しいまでに、「流石は忍者、汚い」を地で行く企みだ。
「イグニスとドラゴン勢力は、この集めた戦力を『ゲートの防衛戦力』として利用しようとしているのでしょう。つまり、本星から戦力を送るまでの時間稼ぎですね」
 これ程までの規模となると、ケルベロスウォーを発動せずして全ての軍勢を撃破する事は不可能だ。
「しかし、軍勢が集結する前に強襲し、主だった指揮官を撃破出来れば……敵勢力の弱体化も可能の筈です」
 粛粛と、タブレット画面の情報を確認する創。
「皆さんは、エインヘリアル軍を担当して戴きます」
 エインヘリアルの第十一王子の座にある『マン・ハオウ』とその私兵集団は、最上忍軍の口車に乗せられて地球にやって来ている。
「私兵団を率いる『ペンプ・オグ』以下、ユナン・ジス、ダウ・ガル、テイル・レイ、ペデル・ケイン、フウェフ・ディー、セイジュ・オー、エイジュ・ラディウス、ナウ・ソーン、デク・サムス、ユネク・シザリス……歴戦のエインヘリアルが、数百名もの軍勢を率いています」
 一軍丸ごとの状態で、有力なエインヘリアルを撃破するのはかなり難しい。だが、彼らの『特殊』な性質を利用する事でチャンスが生まる。
「マン・ハオウを始め、有力なエインヘリアル達は『背の低い美少女』を特別視しています。目に入れば軍勢を待機させ、彼らだけで突撃して来るでしょう」
 青謐のヘリオライダーは淡々と言ってのけた。その実、ハンマーぶん回す一見10歳児な少女を思い浮かべているかもしれないが……沈着な表情は一切変えない。
「とは言え、12体もの歴戦のエインヘリアルが一塊で襲ってくるのですから、決して油断は出来ません」
 首尾よく釣り出せれば、『マン・ハオウ』以下有力なエインヘリアルを撃破するか、或いは、指揮官が出払ったエインヘリアルの軍勢を攻撃して数を減らすか。
「尚、待機を命じられたエインヘリアルの軍勢には、最上忍軍の最上・幻夢もいるようです。最上・幻夢の撃破を狙うのも、良いかもしれませんね」
 大凡、有力私兵団員の戦闘力は高く、確実に撃破したいならば、1体につき2チームが連携して戦うのが望ましい。
「その中で、私兵団の隊長である『ペンプ・オグ』は、少女より『マン・ハオウ』の安全を優先します。襲撃してきたケルベロスが手強いと知れば、『マン・ハオウ』と撤退しようとするでしょう。彼らを狙うならば、お気を付け下さい」
 今回は、進軍する敵を奇襲する作戦となる。作戦終了後、速やかに撤退しなければ、敵の勢力圏に取り残される事になる。
「又、エインヘリアル第十一王子『マン・ハオウ』が、イグニスの配下に加わる事になれば、イグニスの影響力がエインヘリアルにも及ぶようになる危険性もあります。危険の芽は、ここで摘んでおくに越した事はありません」
 エインヘリアルの軍勢は、奈良平野を目指して紀伊山地の和歌山県側、伯母子岳を通過する。山地でのゲリラ戦となるだろう。
「螺旋忍軍との決戦も見えてきました。ここで敵戦力を削れなければ、状況は悪化の一途を辿るでしょう。危険な任務ではありますが……皆さんの健闘を祈ります」


参加者
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)

■リプレイ

●忠僕を狙え!
 紀伊山地西部、伯母子岳――奈良平野を目指して行軍するエインヘリアル第十一王子『マン・ハオウ』とその私兵団を、ケルベロス達は遠巻きに窺う。
 その威容は3mもの巨躯と相まって、如何にもな強面ばかりだが……。
「美少女を狙うとか許せませんわね。このような敵なら、倒すのに躊躇う必要はないですの」
 その実、純情な霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)には到底相容れない集団の模様。サングラスがよく似合うウイングキャットのエクレアも不機嫌そうか。
「囮の基準って、身長130cm以下だっけ?」
 デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)、23歳――一見して幼げな風情だが、生憎と身長は144.7cm。
「いけるかなーと思ったけど、それじゃ仕方ないわねー」
 寧ろ抑圧を厭う故に、趣味をとやかく言う気はないデジルだが、マン・ハオウの狙いが幼女の生き血となれば見過ごせない。
「フリージアの『あどけなさ』に、血化粧は背伸びが過ぎる」
 相変わらず、今にもシャツをはだけん勢いのナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)の脳裏に浮かぶのは、遠き祖国に暮らす歳離れた妹――丁度、10を数える年頃を思えば、連中の所業は許せない。
(「故にボクは今、『守護』のブローディアとして咲き誇ろう」)
 可憐な紫の花を懐に秘めて。その表情は真剣そのものだ。
「今回は隊長の……ペンプ・オグの足止めがメインデスネ。上手くやらないと、足止めを気取られて王子の方に向かっちゃうかもデス」
 常日頃はさて置き、戦闘を目前に怜悧を覗かせるスノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)。私兵団を率いるペンプ・オグは、マン・ハオウの安全を何より優先する。作戦の確認に否やはない。
「じゃあ、ペンプ・オグをマン・ハオウ王子から引き離すように釣り出して……2人は、絶対に一緒にさせないように。頑張ろうね、ルティアーナお姉ちゃん」
 という訳で、囮役は矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)、8歳――身長107.1cm。及び、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)、8歳――身長107.3cm。
 誕生日が数日違いの同い年だろうと、身長差数ミリだろうと、背が高い者は莱恵にとって「お兄ちゃん、お姉ちゃん」だ。
「う、うむ」
(「お姉ちゃん……お姉ちゃんかー。うふ。えへへへ」)
 居丈高に頷くルティアーナだが、珍しくお姉ちゃんと呼ばれてちょっとご満悦。顔がにやけている。
「数で押すにはちょっと人手が足りないかな? けど、そこは工夫とアイディアで勝負だね!」
 快活な笑みを浮かべ、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)は仲間を見回す。
「囮の2人には負担を掛けちゃうけど……フォローしていくからね」
「皆、がんばろうね」
 ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)としても、『仲間を失う』など耐えられない。『今度こそ』守ると、決意している。
 そうして、マン・ハオウと対峙するチームから離れた位置に布陣するケルベロス達。
「ほう……良いだろう! 下々の戯れを楽しむとするか!」
 まずマン・ハオウが囮な美少女達に釣られたのを見計らい、敵軍の左翼から近付く莱恵。ボクスドラゴンのタマを肩車して、隠された森の小路を辿る足取りは軽やかだ。
「ペンプ・オグに一言物申す!」
 大きく深呼吸1つ。小柄に違う大音声が山閑に響く。
「このロリコン野郎が! ちっとツラ貸せや!! ばーか、ばーか」

●ペンプ・オグ
「…………」
 実も蓋もない挑発に、髭を蓄えた強面のエインヘリアルは流石に絶句したようだった。というか、一言じゃないし。
 極め付け、にーっこりと満面の笑みで、莱恵はくるっと身を翻す。
「殿下は兎も角、俺まで知っているとはな……折角のご指名だ。戦勝の前祝は多い方が良かろう」
 流石は歴戦の猛者、立ち直りも早い。あくまでも渋い笑みを浮かべ、『ハオウ私掠団』の長、ペンプ・オグは莱恵をロック・オン! 多分、その背中はルンルンしている。
「お、戻って……って、何を連れてきておるかーっ!?」
「え? ロリコンだけど?」
「偵察だけと言ったじゃろうが。馬鹿者ーっ!!」
 しれっと肩を竦める莱恵に、大声で叫ぶルティアーナ。
「ほぉ。金髪ツンデレ風味も悪くないが、黒髪のじゃロリも中々」
 何処でそんな言葉を覚えたか、ペンプ・オグは更にヤル気になった模様。
「幼子を狙うとは戦士の風下にも置けぬわっ! 見た目通り正々堂々とせんかっ!」
 流石に、仲間と合流前に追い付かれては色々キケン。すぐ全力疾走となった美少女達に戯れにオーラの剣戟を放っては、巨躯が悠然と追い掛ける。
「リエさん、ルティアーナさん! こっち……」
 何か猛然と迫って来る人影に、大きく手を振るスノードロップの表情が引き攣る。
「あちゃー……そんなスカシユリ顔負けに『注目を集め』なくても」
 溜息混じりに頭を振り、ゲシュタルトグレイブを構えるナコトフ。
「……ああもう、しょうがない! やるだけやってみるしかないわ、皆!」
 こうなればやぶれかぶれ! の風情で、デジルは仲間に声を張る――ツンデレ風挑発から年長者の嘆息に至るまで、全てはペンプ・オグを釣り出す為の芝居だ、一応。
「鎧装天使エーデルワイス、行っきまーす!」
 牽制も兼ねて、轟竜砲をぶっ放すジューン。その間に、ちさはメタリックバーストを前衛に掛けた。タマが属性をインストールし、エクレアも清浄の翼を羽ばたかせば、ゼエゼエと肩で息する美少女2人も戦う力が湧いたか。
(「他の戦場の動きも注意ですわね。下手には動けませんの」)
 2人を追い掛けながら、ペンプ・オグの視線が流れた先――木立の向こうに、厳つい巨漢の影が垣間見える。恐らく、マン・ハオウの動向が窺えぬ程離れれば、ペンプ・オグは躊躇なく離脱を図るだろう。
「無体はやめて! こっちは子供がいるのよ!」
「俺はその『お子様』の招待に応えたまでだ。精々、愉しませてくれよ!」
 ミスティアンの言葉に、にやりと唇を歪めるペンプ・オグ。大剣に宿した星座の重力が早速、莱恵のオウガ粒子を消し飛ばす。
(「アイズフォンは……駄目か」)
 敵は歴戦のエインヘリアル。戦いの手を止めて連絡を取る余裕もなければ、敵地で通信機器が使えないのはそろそろ周知されている。特に今回は、遂行時間にして数十分程度の強襲作戦だ。乱戦の最中、わざわざ信号弾を上げる手間に見合う効果もあるかと考えれば……正直、疑わしい。
 ちなみに、ミスティアンはバイオガスの使用も考えていたが……バイオガスの効果は、「戦場『内』の様子を『外』から見え難くする」。内側から外の様子は普通に見える。ミスティアンの狙いと真逆だ。幸い、マン・ハオウの方は既に対峙しているチームのバイオガスに覆われている。完璧とは言えないが、マン・ハオウの様子は窺い難くなっていた。
「まずは、その機動力を奪いマス」
 スノードロップの轟竜砲が山間に轟く。
「何て剛力。皆、気を付けて」
 ペンプ・オグの一撃に怯えた風で、螺旋槍手を繰り出すデジル。その実、内心で愉しげに嘯く。
(「『機械と螺旋の複合鹵獲術、たっぷりその身で味わってね♪」)
 逃げ腰を装い、さり気なく王子より引き離しも狙いたい所だが……下手打てば合流が早まりかねない。ギリギリまで距離の見極めは慎重に。
「星よ、切り裂け! スターショット!」
 ミスティアンが五芒星の光の手裏剣を投げ付ければ、ナコトフのグラビティ・チェインがアイビーを模り蔦を伸ばす。
「花言葉は『不滅』……けしてキミを離しはしないよ」
 前衛をディフェンダーで固め、後方から狙いを付けたスナイパーらがグラビティを浴びせ掛ける。特に理力に抜きん出たスノードロップの火力は後衛からでも大きいが……手応えに思わず眉根を寄せる。
「硬いデスネ……」
「ディフェンダーかのう。厄介な」
 やはり顔を顰め、ルティアーナは防御の体勢を癒し手に変える。囮ながら最も打たれ弱い事も自覚している。一手費やしてでも、後方に下がった行動は意義が有っただろう。

●合流阻止
 私兵団を率いるだけあって、ペンプ・オグは単身でも相当に強い。剛力の斬撃から一転、禍々しい紫のオーラが揺らめくや、孤を描いて小柄に喰らい付く。
「そんな……」
 あくまでも気弱な風情で目を伏せるデジルだが……エインヘリアルの反応は冷ややかだ。
「生憎と俺は鼻が利くんだ。無垢な少女と女狐の違いくらいは分かる」
「……あ、そう」
 半身を残す体勢は、いつでもマン・ハオウの許へ駆け付けるべく。これ以上、ペンプ・オグが油断で深入りする事は無いだろう。一転、不敵に赤茶の双眸を細め、デジルは電光石火の蹴りを繰り出す。行動阻害の厄の発動率は相当に低い。だが、ジャマーが弛まず重ね続ければ。ナコトフも稲妻突きを敢行する。
「この一撃は、テッセン程甘くはないよ」
「バッキバキに砕いてヤリマス!」
 高々と跳躍し、美しい華斧を頭上から叩き付けた。自らの火力で気を引ければと考えるスノードロップだが、ペンプ・オグのお眼鏡に適う美少女が2人もいるのだ。更に1人は前衛に立ち続けている。莱恵を標的から外そうとするならば、それこそ怒りのグラビティが必要だろう。
「これを食べてもうちょっとがんばりましょう、ふぁいとですの!」
 特製の元気の出るお弁当を、莱恵に振舞うちさ。
(「いたいけな少女を、このような酷い目に遭わせるなんて……」)
 元凶の王子に疑問も持たず仕えていられるなんて、ちさには信じられない。
「あなたにとって、マン・ハオウは仕えるに相応しい主ですの?」
「言うに事欠いて呼び捨てとは……不敬にして愚問だな」
 即答だった。少なくとも、ペンプ・オグの忠義に一点の曇りもない。
 ならばこそ、けして合流は許さない。敵は只でさえ巨躯。ツーマンセルを念頭に包囲するケルベロス達。無理に追撃せず、包囲網の保持に注力する。
(「囮役、特に莱恵さんには負担を掛けちゃってるけど……もう少し頑張って!」)
 逸る気持ちを抑え、ジューンが狙いを付けて轟竜砲とスターゲイザー、交互に足止め技を重ねる事で、強力なグラビティもじわじわと巨躯に届き出す。
「氷っちゃいナ!」
「図体ばかりでかい小娘が……っ! 殿下!?」
 スノードロップのドラゴニックハンマーと打ち合いながら、何を感じたか。不意に焦燥を浮かべるペンプ・オグ。
「あら、戦いから逃げますの? 臆病風に吹かれたのかしら」
 フローレスフラワーズで回復しながら、敏感に敵の変化を感じたちさは、咄嗟に煽る言葉を投げる。
「ボクたちを放っておくなら、王子に特攻を掛けるよ。それでも行くつもり?」
「年増がキャンキャン吼えるな、鬱陶しい」
 ジューン(年齢20歳、身長153.6cm)の挑発(+グラインドファイア)をバッサリ切り捨て、身を翻すエインヘリアル。すかさず莱恵が回り込む。
「おじさん、もっとあそぼーよ」
 だが、美少女の無邪気な笑顔(+斉天截拳撃)を前にしても、ペンプ・オグは苛立たしげに睨む。
「そこを、どけぇっ!」
 重い斬撃が奔るも、莱恵は辛うじて耐え切った。すかさず、ルティアーナは九尾扇を打ち振るい、妖しく蠢く幻影に癒しを乗せる。回復に専念するメディックの存在はやはり大きい。
「もういなくなるの? ……さみしい」
 一転、悲しげな莱恵の表情には流石に迷う素振りも見せたが、隙あらば突破しようとペンプ・オグは機を窺っている。
(「王子を喪う事を……何よりも怖れてる?」)
 実際の戦いは、ゲームと違ってリセット出来ない――脳裏を過る言葉に頭を振り、コアブラスターを放つミスティアン。
(「私は、もう繰り返さない」)
 だからこそ、ペンプ・オグの心情も判るようで、複雑な気分だった。
「つれないな。もう少しのんびりしていき給え」
 松葉菊の花弁を散らしながら、絶空斬を放つナコトフ。いっそ妖艶な笑みを浮かべ、デジルもジグザグスラッシュで仲間の攻撃の軌跡を正確になぞっていく。
「死ト希望ヲ象徴する我が花ヨ。その名に刻マレシ呪詛を解放セヨ!」
 スノードロップの花言葉に込められた、死の呪詛が解放される。オラトリオの少女より、真白の花弁と漆黒の羽が降り注ぐ。
「……ぐ、このぉっ!」
「大元帥が御名を借りて、今ここに破邪の劔を顕現せしめん! 汝、人に災いを為すものよ。疾くこの現世より去りて在るべき常世へと赴け!」
 不自然に敵が硬直した隙を逃さず、満を持して三鈷剣を構えるルティアーナ。力の結晶たる破霊の剣閃を――真っ向から受け止めたペンプ・オグの視線が、ふと小柄の頭上を越える。次の瞬間、カッと瞠目した。

●怨讐の慟哭
「殿下!!」
 それは、悲痛なる叫びだった。今しもバイオガスが晴れて姿を見せたエインヘリアルの王子を、ゲシュタルトグレイブが貫いている。仁王立ちのまま、事切れているのは木立の合間からでも見て取れた。
「くぅっ!」
 力任せに押し切られ、ルティアーナの小柄が弾き飛ばされる。山肌を滑り、何度かバウンドした。
「ケルベロス……許さん、許さんぞぉぉぉっ!」
「っ!」
 轟く慟哭。ペンプ・オグの顔を見上げ、ミスティアンは思わず息を呑む。エインヘリアルの両の眼からは紅が流れ落ちていた。正に悪鬼の形相だ。
「君公を弑逆 せし大罪、万死に値する! 貴様ら、安らかに逝けると思うなよ!!」
 大剣の一閃に凍れる気が爆ぜる。咄嗟に莱恵を庇うちさ。足りなければ夢幻英雄界も発動させるつもりで、ジューンは急ぎオラトリオヴェールを編む。
「待ちたまえ!」
「貴方の欲望は、その程度なの?」
 ナコトフが撃った牽制の時空凍結弾を、続くデジルのペトリフィケイションをも気迫で弾き、ペンプ・オグは血の涙を流したまま、後方へ大きく跳び退る。
「斯くなるは、番犬共のグラビティ・チェインを、幼女の血を絞り、殿下の弔いとせん――覚悟せよ、ケルベロス!」
 君主亡き今、ペンプ・オグは血の復讐を誓う。バール、もとい鼓笛隊の指揮杖振り被る「美少女」、ルティアーナも一顧だにしない。巨躯故にストライドも広く、その姿は忽ち山中に失せる。
「何だか、残存戦力を纏めてリベンジしてきそうですわね……そんな事態は、出来れば避けたかったのですけれど」
「サスガに、仕留め切れなかったデスネ」
 エクレアを抱き上げ、心配そうに眉を顰めるちさ。不満げに溜息を吐くスノードロップだが、ペンプ・オグが合流を果たせばマン・ハオウも撤退していた。あくまでも合流阻止に徹した彼らこそ、マン・ハオウ撃破の陰の立役者だろう。
「……ロリコンどもは、まとめてぶっ飛ばすだけだよ」
 剣呑に碧眼を細める莱恵に寄り添うタマは、同意するように鳴き声を上げる――その時、王子撃破を告げる笛の音が、高らかに響き渡った。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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