鎌倉ハロウィンパーティー~いたずらがしたい!

作者:真魚

●いたずらがしたい!
 街はオレンジ色のリボンで飾られ、あちこちの店先には笑い顔の南瓜が並ぶ。
 ハロウィンの準備に浮かれる商店街。そんな景色の中を単語帳手に足早に通り過ぎるのは、一人の小学生だった。
(「ハロウィン、か……」)
 心でつぶやき、ため息一つ。街の雰囲気に反するように、彼女の心は沈んでいる。
 彼女だって、先日までは来たる祭りの日を楽しみにしていたのだ。友達と一緒に仮装して、パーティーに参加しようと話だってしていた。
 しかし、それを母に頼んだところ、猛反対を受けてしまったのだ。
 あなたは、もうすぐ受験でしょう。他の子とは違うのよ、と。
 確かに、最近塾のテストでも成績が伸びていないし、今は勉強に集中すべきなのはわかっている。志望校は彼女が憧れ決めたのだ、それを応援してくれている親にこんな我儘は言えるはずがない。
 けれど、それでも。かわいらしい仮装をして、友達と一緒に普段はしないようないたずらをすることができたらどんなに楽しいか。その夢を捨てきれぬ少女には、周囲の様子は羨ましく写ってしまうのだった。
 もう一度、ため息をついて。しかしこれは仕方のないことだと少女が顔を上げると、そこには赤い頭巾の少女がいた。
「えっ……?」
 現れた姿に思わず声を上げるが、目の前の少女はそれには反応せず――彼女の心臓を、手にした鍵で一突きした。
 それは、あまりに突然で。少女は声を上げることもできず、その場に倒れる。すると赤い少女は小さく微笑み、ゆっくり唇を開いた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、かなえてあげましょう。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 彼女の言葉に呼び起されるよう、少女の横には新たな人影が生まれる。
 全身がモザイクの体に、紫色したふんわりスカートの魔女装束。手にした杖を振るうその姿は、少女が夢見た仮装姿そのもので。
 そうして生まれたモザイクの人物は、吹き抜けた秋風に溶けるよう忽然と姿を消す。その場に残されたのは、意識を失った幼い少女だけだった。
 
●パーティーの前に必要なこと
「トリック・オア・トリート! もうすぐハロウィンですが、その前に事件なのです!」
 おばけ南瓜の杖を振り、無邪気な笑顔を浮かべ。そう一言目を発した笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、集まったケルベロス達へ事件の説明をしていく。
「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)ちゃんが調査してくれたのですが、日本各地でドリームイーターが暗躍してるみたいなんです。出現しているドリームイーターはハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っていた人で、ハロウィンパーティーの当日に一斉に動き出すんです!」
 ハロウィンドリームイーターが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場――すなわち、鎌倉のハロウィンパーティー会場。当日は人もたくさん集まるし、そこへドリームイーターが乱入すれば混乱は免れない。
 だから、実際のハロウィンパーティーが開始する直前までに、ハロウィンドリームイーターを撃破してほしい。ねむはそう語ると、敵を誘い出すための方法をケルベロス達へ伝えていく。
「ハロウィンパーティーの会場のひとつに、小学校があります。校庭をたくさんのジャック・オー・ランタンで飾り付けてて、雰囲気はばっちりです!」
 この会場にハロウィンパーティーが始まる時間より早くに赴き、あたかもパーティーが始まったように楽しそうに振る舞えば、ハロウィンドリームイーターは姿を現すだろう。
「会場の一般人には、あらかじめ避難勧告を出しておきます。パーティー前の時間はみんなしかいませんから、賑やかにしていれば間違いなくドリームイーターはやってきます」
 敵は一体。ハロウィンらしく魔女の仮装をした小さな少女だ。とはいえ、その体は全身モザイクが覆っているので表情を見ることもできないが。
「魔女姿のドリームイーターは、持っている杖から火の玉を飛ばしてきたり、モザイクをおばけ南瓜の形に変えて、その口でみんなを欲望ごと食べちゃおうとしてきたりします。回復手段も持ってますから、気を付けてください!」
 使うグラビティも、ハロウィンらしく。しかしその存在は楽しい祭りに似合わない。
「鎌倉のハロウィンパーティーは、みんなとっても楽しみにしてるはずです! 楽しくお祭りの日を過ごすためにも、ドリームイーターはみんなでやっつけてください!」
 そう言葉を紡いで、ねむはぺこりと頭を下げる。その手の中では、杖の先の南瓜も一緒にぺこんとお辞儀していた。


参加者
蜂屋・楓(ウェアライダーの螺旋忍者・e01082)
ベルモット・ギルロイ(白熊さん・e02932)
相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)
七種・酸塊(七色ファイター・e03205)
永代・久遠(小さな先生・e04240)
スミコ・メンドーサ(地球防衛軍リア充チーム・e09975)
チェイス・イーグレット(ロストナンバー・e10424)
霧生・ナツメ(煙る轍・e11486)

■リプレイ

●Welcome to the party!
 不気味に生暖かい風が吹き抜ける、静かな静かな小学校。
 いつもなら子供達が駆けているその校庭は、今は笑い顔のオレンジ南瓜達にすっかり占拠されていた。
 ぽつり、ぽつり、電池式の灯りをともすジャック・オー・ランタン達は、ひとつひとつ顔が違う。子供達の手作りなのだろう。
 そんな、ニヤニヤ笑いの南瓜に囲まれる中。
「やっほーーー! 祭りじゃ、祭りじゃああ!」
 スミコ・メンドーサ(地球防衛軍リア充チーム・e09975)がグラスを掲げて高らかに声を上げれば、ケルベロス達は笑顔でグラスを重ね合わせて乾杯する。
 広げたテーブル、並べられるは持ち寄りのごちそう。それらを瞳輝かせて眺めた蜂屋・楓(ウェアライダーの螺旋忍者・e01082)は、しかし隅に置かれた酒瓶に首を傾げた。
「玄蔵さん、お酒っすか?」
「いや、ただの水道水だ。気分だよ気分、細けぇ事は気にすんな」
 答えながらも、ぐい飲みグラスを一気にあおって。にやり笑った相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)は、今日は黒スーツにサングラスで決めていた。筋肉質な体とスキンヘッドが相まって、危険なお仕事の人に見えるが――一応、吸血鬼の仮装らしい。
 そう、これはハロウィンパーティー。ケルベロス達は、思い思いの仮装姿で集まっていた。
 七種・酸塊(七色ファイター・e03205)が身に纏うのは、女海賊の衣装。橙の髪をポニーテールにしたその頭の上には、ちょこんと乗った海賊帽子。白いブラウスに黒と赤で彩られたコルセットスカートをはいた彼女は、明るい笑顔でジュースを飲み干す。
「無礼講だぜ、騒ぎやがれ!」
 声と共にグラスを置くと、ちらり視線を送るはパーティー会場の外側。今日のメインである招待客は、まだ訪れないのかと待ち構える顔。
 そんな彼女に焦るなと伝えるように、声をかけたのはチェイス・イーグレット(ロストナンバー・e10424)だ。
「オカシクレル子はイネーガ? ……あれ、違うのか?」
 違う行事とキャラが混ざった。まあいいかと笑んだ彼の仮装は南瓜頭にマント姿の謎の宇宙人。にやり笑った南瓜は、周囲のジャック・オー・ランタンにも負けない楽しげな表情をしている。
 彼が持ち込んだほっこり温かなカボチャスープを仲間達へ供すると、こちらもどうぞと差し出されたのは霧生・ナツメ(煙る轍・e11486)のかぼちゃとキノコのシチューポットパイだ。
「さっくりパイを割るとあったかクリームシチューがとろーりするの」
 彼女の言葉を聞いてさっそくスプーンでパイを割れば、広がる優しい香り。思わずケルベロス達が歓声を上げたから、ナツメはにっこり微笑んだ。もふもふの狐耳と尻尾をつけて、艶やかな着物の袖で口元を隠して。穏やかに笑うその姿は、九尾の狐そのものだ。
「あら、この南瓜プリンも美味しいわね」
 ナツメが口にし思わず声を漏らしたのは、ベルモット・ギルロイ(白熊さん・e02932)の南瓜のプティング。その言葉に頭にボルトを刺した姿の獣人が頭を下げた。つぎはぎメイクも施しフランケンシュタインのように仮装した彼は、女性陣の仮装に目を細めつつも皆の持ち寄った料理のチェックに余念がない。
「ふむ、やっぱこの時期だとパンプキンパイは絶対に欲しいよなぁ」
 呟きながらどれ、と手を伸ばしたのは、甘い香り放つ南瓜ケーキ。口に運べば広がったのは砂糖の塊かと思うほどの甘い甘い味で、ベルモットは慌ててグラスを取りジュースで喉奥へと流し込んだ。
「うまいだろ。ボク行きつけのパティスリーのものなんだ」
 笑顔で語ったスミコは、たくさんの激甘スイーツを広げてみせる。顎が落ちるほど甘いカボチャケーキ、親の仇みたいに甘いカップケーキ――その顔は、お気に入りのものに囲まれて幸せそのものだった。
 おすすめスイーツを持ち込んだのは、永代・久遠(小さな先生・e04240)も同じ。
「じゃーん! ひぃほぉブラザーズWだよー。とーっても美味しいんだからねっ!」
 とんがり帽子を揺らせて、黒ローブの魔女姿の彼女が披露したのは、南瓜のパンケーキとプリンが一つの皿に盛りつけられた、特製スイーツ。ふんわりパンケーキとプリンのまろやかさは合わせて食べると抜群の相性で、これにはパンケーキ好きの楓が飛びついた。
「トリックorトリート! お菓子をくれないと悪戯しちゃいますよー?」
 無邪気な笑みでお菓子を求める久遠には、仲間達が次々とスイーツを差し出す。
 そうして、賑やかに、どこまでも楽しく、一足早いハロウィンパーティーを楽しんでいるところに――夢喰らいの少女は、現れた。
「トリーック・オア・トリートーッ!」
 ケルベロス達の談笑に割って入る、弾むような明るい声。
 校庭へ現れた小さな魔女は軽快なリズムでかかとを鳴らして、そのままケルベロス達の用意したテーブルへと飛び乗って。くるりん、手にした杖を回して見せて、モザイクに覆われた顔で楽しそうに笑った。

●Trick or trick!
 笑い声を校庭に響かせて、少女は杖から炎を生み出す。それは着弾と共に大きく爆ぜて、少女の近くにいたケルベロス達を燃やさんと襲い掛かる。
 しかし、誘い込んだ側である彼らが不意を打たれることはない。
 いち早く反応したスミコは、愛用の『44マグナム・リボルバー』を素早く抜き放ち、照準を定める。
「へはな、へうふへっふふ! ほまへはんはやっふへはうよ!」
 ――食欲の方は、お祭り気分からまだ抜け出せていないようだけれど。ちなみに口の中いっぱいの南瓜ケーキでいまいち決まらなかったが、『出たな、デウスエックス! お前なんかやっつけちゃうよ!』と言っているらしい。
 そうして彼女が接近し、撃ち出したのは挑発の一撃。吸い込まれるように少女の魔女服へ食い込んだ弾丸に、夢喰いはにこり笑ってその顔をスミコへ向ける。
「だめだめだめよ、いたずらするのは私の方!」
 歌うように、跳ねるように、言葉を紡いだ少女は、ふわりふわりと紫色のワンピースを揺らして無邪気な笑い声を上げる。そんな彼女に南瓜頭を振りながら、バスターライフルを構えたのはチェイスだ。
「来てしまったか。仕方ない、相手をするか」
 ゆるり、語る言葉とは裏腹に、射出するエネルギー光弾はまっすぐに敵を撃つ。グラビティを中和するその攻撃に、しかし少女は可笑しそうにキャハハと声を響かせた。
 光線に続けと、地を蹴り駆けるは黒いスーツ。玄蔵はサングラスの奥の瞳で少女の動きを捉えながら跳躍し、テーブルへ飛び乗ると同時に沸き起こる怒りを拳に篭め、その全てを彼女の脳天へと叩きつけた。ピシャーン、と周囲へ響くはまさに落雷の轟音そのもの。その雷鳴さえ呼ぶ一喝はさすがに堪えたか、少女はふらりたたらを踏んで、転げるようにテーブルを降りた。
 そんな少女に隙ありと、低い姿勢を取った酸塊が奔り、懐へ飛び込む。風に踊る三角帽子にも構わずに、踏み込む足を軸足に、ふわりスカートを翻して。
 ハロウィンは楽しいイベントだ、それを台無しにするなんて、許せないから。
「お前が悪さする前にアタシが懲らしめてやるよ!」
 勝気な声と共に、繰り出されるのは高速の蹴り。速度は力となり、少女の胸目がけて思い切りに叩き込まれた。
 しかし、少女は動じない。にいっと口の端を吊り上げた夢喰いは、杖を振り回して軽やかに飛び跳ねた。
「もー! お菓子くれないならいたずらしちゃうぞ!」
 声と共に、二度、三度と杖を縦に振り。すると、彼女の身体から飛び出したモザイクがたちまちお化け南瓜の姿をとった。
 ガチガチガチ。南瓜の口を鳴らして、モザイクが狙うは酸塊の欲望。それは竜人の少女の拳を鈍らせるが、彼女は藍の瞳に好戦的な輝きを増した。
 敵の襲撃に即座に反応した前衛達は、ドリームイーターの少女を取り囲むように素早く位置取りし、彼女の狙いを惹きつけていた。
 それと同時に、逆に敵を惹きつけないよう行動したのは後衛の二人。
 戦闘開始と共に魔女服を脱ぎ捨てた久遠は、夢喰いの死角から『P239』をぴたりと構えて。
「ADExV弾、ロード!」
 カチリ、シリンダーへと装填されたウィルス弾を、掛け声と共に撃ち出す。その弾は少女のみぞおちへと深く深く食い込んで、回復力を削ぎ落としていく。
 思わずその傷をかばうように体を折った少女に、後方より隙を伺っていたナツメが動いた。螺旋の力を操って、夢喰いへ放つは氷結の一撃。
「貫け、氷柱」
 声音も、表情も、ぴりりと厳しく決して笑わない。ドリームイーターがハロウィンを楽しむ人を狙うと言うなら、それは前衛の仲間達であるべきだ。後衛の自分にできることは、敵の標的から自身を外すこと。
 果たして、久遠とナツメの狙い通り、グラビティを受けた少女は彼女らを一瞥したが、すぐに興味なさげに前衛の仲間へ顔を向ける。
 楽しい楽しいハロウィンを、一欠片も残さず奪い取ってしまおうと。少女は賑やかに声を上げ、杖を高々持ち上げいたずらに振り回す。
 そんな彼女へ、警戒を緩めずに。ケルベロス達は仲間達と呼吸を合わせ、再び地を蹴り少女を狙った。

●Happy Halloween!
 単体にしか攻撃できない分威力の大きい攻撃と、戦場のどこにでも届かせることができる範囲攻撃。それらを自在に操りヒールまでするデウスエクスは、一筋縄でいく相手ではない。しかしケルベロス達はそんな彼女の行動を、役割分担でもってうまくコントロールしていた。
 前衛に偏らせたような位置取りはその分少女の単体攻撃の被害を分散させることができたし、スミコと楓は仲間を庇いながら自己回復も行い、盾役として十分な立ち回りを見せていた。仮装をしてこなかったのも、逆に二人に攻撃が集中し回復が追いつかないという事態を避けることに繋がっていただろう。
 決して倒れぬ態勢のケルベロス達を前に、ドリームイーターは少しずつ疲弊していった。ヒールばかり繰り返してもいずれ押し切られるだけ、だから多少無理をしてでも攻撃に転じる場面も増えていく。
 ――しかし、それでも。少女はどこまでも楽しそうに、笑い声を響かせ続ける。まるで、今まさに夢を実現した喜びに溢れるかのように。
(「正直ドリームイーターになった事については同情するが、残念だったとしか言いようが無いな」)
 叶わぬ夢をこんな形で実現させた、歪んだ存在。そんな彼女のはしゃぐ姿にわずかに眉寄せて、ベルモットは駆けた。風切る速度まで乗せて、繰り出されるのは高速演算で導かれた弱点破壊の一撃。それを受けた少女は、はっ、と苦しげな息を漏らしたが。次の瞬間には、再び歪な笑顔を浮かべていた。
 少女は杖を握りしめると、モザイク南瓜を作り出して反撃とばかりベルモットへ放つ。しかし、瞬時に反応し、彼の前へと躍り出た楓にその歯は突き立てられていた。
「こういう命のやりとりじゃないイタズラなら、私もしたいっすけどね!」
 痛みをそのまま受け止めて、振り払うように操られるのはルーンアックス。刻まれたルーンの力を解放し、力いっぱい斧を振るえば夢喰いがキャアと声を上げる。
「無駄ですっ! わたしの手が届く範囲でこれ以上の被害は出させませんっ!」
 凛と張り上げた声と共に、久遠が放ったのは薬剤瓶。放物線を描くそれを自動拳銃で撃ち抜けば、癒しの雨が広がり仲間達の傷を塞いでいく。
 もう、ケルベロス達とドリームイーターの体力差は歴然だ。
 負けを悟った彼女が逃走しないように注意を払いつつ、酸塊は少女へ声をかける。
「目標があるから頑張れることもあるけど、挫けたときの息抜きもなきゃ達成なんてできないぜ?」
 それは、ドリームイーターではなく、彼女の元となった被害者の少女へ向けた言葉。受験を理由に『楽しいこと』から遠ざけられている少女、伝えずにはいられない。
 ナツメもまた、その紫の瞳を穏やかに細め、少女を見つめる。お受験の息抜きすらさせてもらえないのに、我儘は言えないと諦めた彼女。そんな優しい子のことを、応援したくなるから。
「私達相手なら、いくら悪戯しても良いのよ。受け止めてあげる」
 優しく言葉を紡ぎながら、九つの尻尾をふわんと揺らして。少女へと駆けたナツメは、見えぬ斬撃でその体を刻む。
 ハロウィンは、怖い怖いおばけのお祭り。いたずらと、ちょっとの恐怖と、それが生むドキドキはきっと彼女の求めるものだから。
 矢継ぎ早に叩き込まれるグラビティに、少女は悔しそうにツインテールを振り回す。
「ああもう! 怖い目に遇うのはお菓子くれない人じゃなくちゃ……」
「うるせぇ! 黙ってろ!」
 唐突に、彼女の言葉を封じるように響く声はベルモットのもの。叩き込まれた拳は彼女の不満も願いも全て無視して、無理やりにでも解決するだけの力を持っている。
 一足早いハロウィンパーティーは、もう終わり。
 その一撃がとどめとなり、夢喰いの少女はぐらあり体を大きくのけぞらせ――しかしやっぱり最後は、にやり笑って明るい声を響かせた。
「ハッピー! ハロウィン!!」
 瞬間、少女を中心に白い煙が巻き起こった。

●Endless party!
 煙が晴れれば、そこにドリームイーターの姿はなく――代わりに残されたのは、まるで塔のように積み上げられたジャック・オー・ランタンだった。
「驚いた……死体がお化け南瓜に変化するとはな」
 頭の南瓜を外しながらチェイスが漏らした言葉に、ケルベロス達は戦いが終わったことを理解する。
 そうして、互いの健闘を称え合った後。
「せっかくだし片付けて帰りたいな。ダメかな?」
 酸塊の控えめな提案に、反対する者などいなかった。
 元より会場の破損をヒールで修復しようと考えていたベルモット、玄蔵、久遠の三人はあちこちにヒールをかけて回り、これから始まるパーティーにふさわしい場所へと戦場跡を変えていく。
 そう、誘き寄せのパーティーは終わったが、ケルベロスハロウィンはこれからなのだ。思えば片付けにも力が入るし、食べきれなかったお菓子達はこの後仲間達と食べればいい。
「被害者にも、ステキなハロウィンが訪れますように」
 願いを唇に、ナツメが見上げるはジャック・オー・ランタンのタワー。そのてっぺんのお化け南瓜は、彼女の言葉に笑みを深くしたように見えた。

作者:真魚 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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