螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が出現する場所が判明した。
ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)はそう告げ、ケルベロスたちを見渡す。
「この情報があれば、螺旋忍軍との決戦を行うことが可能だ。しかし、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した『最上忍軍』が大きな障害となるだろう」
最上忍軍は螺旋帝の血族・イグニスから新たな命令を受け、各勢力に潜入していた螺旋忍軍達を利用。『ゲートが現れる地点に戦力を集結』させようとしているらしい。
「その勢力とは、ダモクレスからは『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力。エインヘリアルからは、ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団。そして、各勢力が研究していた屍隷兵の中で、戦闘力の高い者達を集めた軍勢だ」
彼らは偽情報を掴まされており、デウスエクス同士では牽制しあうように仕向けられているという。
「イグニスとドラゴン勢は、これらの戦力を『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛』として利用しようとしているのだろうな」
ケルベロスがこれらの戦力を撃破するには、ケルベロスウォーの発動が必要だ。しかし、いま行軍中の軍勢を襲撃し、主たる指揮官を撃破できれば、勢力の弱体化が可能なのだ。
「危険な任務となるが――君たちならできると、私は信じている」
と、ウィズはケルベロスたちを見つめた。
「こちらのヘリオンで向かってもらいたいのは、屍隷兵の軍勢だ」
螺旋忍軍を通じて屍隷兵の情報を得たデウスエクスたちは、それぞれが屍隷兵の研究を行っていた。この屍隷兵を運用するにあたっては、デウスエクスたちは螺旋忍軍を利用。最上忍軍は各勢力の螺旋忍軍を通じ、戦闘力の高い屍隷兵を集めて軍団を結成したらしい。
「この屍隷兵の軍団を率いるのは『詠み謳う煌然たる朱き社』。最上忍軍の指揮官の一人だ」
軍勢自体は、量産型の『量産強化型屍隷兵』と『嘆きのマリア達』を主力にしている。加えて、戦闘力が非常に高い、合成獣兵01『キマイラ』、合成獣兵02『マンティコア』、合成獣兵03『グリフィン』、合成獣04『ピッポグリフ』、コカトリス、ラヴァプラーミアゴーレム、アゲートファング、キュクロプス、汚染戦乙女『ケガレたヴァルキュリア』、人竜ヒルクライデス、トラックダウンといった屍隷兵も集められている。
「量産型はそれほど脅威はないが、戦闘力の高い屍隷兵は通常のデウスエクスに勝るとも劣らない力を持っているようだ。戦闘となった際は、気をつけて欲しい」
また、この戦闘力の高い屍隷兵をイグニスが入手した場合、屍隷兵の研究が飛躍的に進み、より強力な屍隷兵が次々と生み出される可能性もある。
そのような事態を阻止するためにもできる限り有力な屍隷兵を撃破してほしいと、ウィズは説明を終える。
「螺旋忍軍との決戦を少しでも有利に進めるため、ここで少しでも多くの敵戦力を削っておきたいところだ。……頼んだぞ」
そう言って、ウィズは力強くうなずいた。
参加者 | |
---|---|
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464) |
シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123) |
十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601) |
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812) |
スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334) |
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
紅・姫(真紅の剛剣・e36394) |
●行くもの
大台ケ原山の中を、屍隷兵がゆく。それは一体や二体ではなく、まさに「軍勢」といわれるほどの数だ。
ヘリオンから降下したケルベロスたちは、軍勢の中からコカトリスの姿を探していた。
強襲時は、非戦闘時に姿を隠す防具特徴は役に立たない。それぞれが慎重に身を潜め、コカトリスを探す。
同時に、軍勢とは異なる方向を探る者も数名。その目的は、撤退時のルート策定だ。
「宿敵主さんも、コカトリスを倒してきて欲しいとおっしゃっていました」
つぶやくのは、シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)。コカトリス撃破と仲間の生還のために、穏やかではあるが真剣な目で退路を見極める。
また、決めておく退路は一つではなく、二つ。念には念を入れて、だ。
忌まわしき軍勢が進む。目指しているのは、間違いなくゲート出現予定地の『奈良平野』だ。深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は、ボクスドラゴン「紅蓮」とともに軍勢の行く先を見つめる。
「早急に潰してしまいましょう。余計な邪魔が入らないとも言えませんし……それに、イグニスの思い通りにはさせません……必ずここで阻止する」
その言葉に、仲間たちは小さくうなずく。
「……しかし、屍隷兵の研究はかなり進んでいるようだな」
望遠鏡「暁のモノスコープ」でコカトリスを探しながら、シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)が眉根を寄せる。のぞき込んだ望遠鏡の中、屍隷兵は嫌でも映り込む。
「この様子ならば、デウスエクスたちが屍隷兵を戦力として投入するのはそう遠くないだろうな」
死体を利用した忌まわしき兵、その軍勢。おぞましきも哀しい群れ中、シャインは見つけた。三対の羽と足は竜、体は鶏。額には赤い石が埋め込まれている。長い尾は蛇の鱗を持ち、先端には蛇の頭。
「コカトリスがいたぞ。さて……「狩り」といくか」
シャインは望遠鏡を収めて仲間に告げ、仲間とともに一気に駆け寄る。コカトリスの後方についたシャインは、周囲の屍隷兵を数えた。
「コカトリスに加え『量産強化型屍隷兵』と『嘆きのマリア達』がそれぞれ3体ずつ、か」
「相手にとって不足はないな。それに、屍隷兵とは珍しい相手だ。紛いものじゃない強さを見せてもらおうか」
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)が、コカトリスの側面で二本の斬霊刀を抜く。
それにしても、と嫌悪を示すのはスマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)。
「コカトリス……伝説の幻獣にしては悪趣味な外見をしているわね」
「先の為にもここであの鳥?を潰さないと……」
そう言って、紅・姫(真紅の剛剣・e36394)が、羽ばたくコカトリスを見上げた。
「うんうん。それに、悪い忍者の策略には負けられないよね☆」
目が合ったコカトリスを緋色の目で見つめるはイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)。
各々が武器を手にする中、シマツはひとり丁寧にお辞儀をする。
「どうも、コカトリスさん。シマツです」
丁寧な挨拶をして上げた顔には、穏やかな笑顔。
「ではぶっ倒しますね」
●急襲するもの
コカトリスの口から漏れた鶏の鳴き声、続いて尾の蛇が威嚇するように舌を出す。直後、額の石から灰色の光線を放った。スマラグダに向かって一直線に伸びる光を、十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)が受け止める。
「これくらい大したことないのです、だよ」
付与される状態異常は石化。その数は、通常よりも多い。つまり、とスマラグダは冷静に分析する。
「どうやら、コカトリスはジャマーのようね。シマツ、キュアは任せたわよ」
「はい、お任せください」
と、シマツは笑顔でうなずく。
また、『量産強化型屍隷兵』と『嘆きのマリア達』も次々と攻撃を仕掛けてくる。
「長居は無用だな。さっさと片付けて帰るとしようぜ」
コカトリスを睨み、シズクは爆発を起こす。爆風でシズクのポニーテールが大きく揺れると、土煙の向こうで羽ばたくコカトリスが見えた。
「この状態なら、バイオガスを使用する意味はなさそうだな」
言い捨てるのはルティエ。増援がいるのは戦場内。期待する効果は得られないだろうと、ルティエはすぐさま攻撃へと切り替えた。
戦場に響く咆吼は、コカトリスを含む敵中衛に到達する。
攻める主に対し、紅蓮は癒やしを――自身の属性を、千文にインストールする。
コカトリスの背後から肉薄するのは、シャイン。陽光に輝く銀髪が彼女の動きを追い、白銀に煌めくロングドレスのスリットが閃けば、白い脚が露わになる。
「私と共に踊れ!」
舞踏は軽やかに、叩き込んだ攻撃の威力は重く。流麗な所作をもって、華々しい動きを。
「えへへ、それじゃわたしもいくよ――緋の花開く。光の蝶」
イズナの掌から、緋色の蝶が解き放たれる。コカトリスの周囲に蝶が一匹、二匹……。まばたきひとつの間に、コカトリスの視界は蝶で埋め尽くされる。
そこに炸裂するは、千文のアームドフォート「呪装髪”Empress・Fire”」から放たれた砲撃だ。
「ボク達がいる限り、君たちの思い通りにはさせない! だよ」
「クケェエエエ!」
砲撃を受けたコカトリスが、痛みに鳴き声を上げている。
その隙に、シマツは千文へと分身の幻影を纏わせる。
「私もフォローに回るよ。シマツ、紅蓮、一緒に頑張ろうね」
千文の状態異常を解除しようと、姫もオーラを放つ。攻めより守りに集中し、仲間のフォローに全力を。それが、今回の姫の方針だ。
その様子を後衛から眺め、スマラグダは表情を緩ませる。
「……心強いわね」
一呼吸ののち、スマラグダの両耳に灯る炎が揺れる。そうして、スマラグダはひとまず自身へと分身の術を使用した。
●邪魔するもの
コカトリスを庇った嘆きのマリア達が、ルティエの炎弾で蒸発した。
「まずは一体、……っ!?」
ルティエの視線は、すぐにやってきた増援に注がれる。常にこのような状態になるならば、とるべき戦略はひとつだ。
「ここはコカトリスに集中攻撃を仕掛けた方が良さそうだな」
「石化、氷、炎。どれも厄介な攻撃を使ってるくことだしね」
スマラグダが同意し、コカトリスへと弾丸を放つ。地獄の炎で構成されたそれは、コカトリスにいくつもの炎を灯した。
「……本当に、厄介よね」
姫がつぶやき、裂帛の叫びを上げた。コカトリスだけでなく、量産強化型屍隷兵と嘆きのマリア達の攻撃から仲間を庇ったことにより、姫の体は早くも満身創痍であった。
いくつかの炎や氷が消え、わずかながら傷も癒える。それでも、息をつく間もない。
それはもちろん、盾役だけではなく。後方で攻撃に徹するイズナも同じように、必死に攻撃を重ねていた。
「螺旋忍軍のゲートの守りを強くしようとしてるみたいだけど……そんな戦力、わたしたちが削っちゃうんだからね!」
イズナの構えたドラゴニックハンマーから竜砲弾が射出される。コカトリスに砲弾が着弾の轟音がおさまり、スカートについた土を払ってイズナが声を張り上げた。
「コカトリス倒してみんなで帰ろうね!」
山間での戦いは、続く。
ケルベロスたちと同程度、あるいはそれ以上に傷を負ったコカトリス。尾の先でうねる蛇の頭が、凍てつく息を吐き出した。狙いは前衛。さらに、量産強化型屍隷兵と嘆きのマリア達の攻撃も加わる。
「邪魔するんじゃ、ねえよ」
シズクは屍隷兵の攻撃を回避し、二刀で前方を払う。そのまま凍気を放てば、コカトリスを狙った軌跡は螺旋を描く。
「干支占いじゃあ、酉と巳の相性は良いと聞くぜ。見た目はそう思えないけどな」
コカトリスの全身を、そして端々を凍らせる氷を見届け、シズクは不敵な笑みを浮かべた。
「クキエエェア!」
奇妙な叫びを上げるコカトリスに、シャインは再び肉薄する。醜悪な姿を涼やかに笑い、仲間の刻んだ傷を斬り広げた。またもや上がる声を気にせず、シャインは仲間に告げる。
「コカトリスのダメージ蓄積は相当だと思うが――」
「同時に、こちらの傷も相当」
続きを引き受け、ルティエが地獄の炎を叩きつけた。
しかし、コカトリス側には存在しないものが、ルベロスたちにはある。
「その痛み、殺します」
そう、癒やし手の存在だ。にこやかに戦場を舞うシマツが、花弁のオーラを前衛に降り注がせる。
紅蓮もまた、スマラグダへと属性をインストールしては癒やしを与える。
自身の体力を把握した千文は、グラビティで精製したドローンや護符を展開した。
「我、空間の理を知り、陣を描く。陣よ、我が力を依代に真紅の要塞となりて、我を守れ」
ドローンと護符を繋ぐ赤い線が現れ、千文の周囲に防御結界の陣が描かれる。
「まだまだ、倒れるわけにはいかないのです、だよ!」
どれだけ体に傷を刻まれようと、果敢に立ち向かう。後のケルベロス・ウォーのため、ひいては人々のため。
千文は、赤く煌めく目で屍隷兵を睨んだ。
●立ち向かうもの
コカトリスをかばう屍隷兵を時折撃破しながらも、ケルベロスたちはコカトリスへと集中攻撃を仕掛けてゆく。
紅蓮のヒールを受け、シャインはオーラを籠めた蹴りをコカトリスに見舞う。そのまま空中で体勢を整え、続く千文の射線上から退く。
「畳みかけろ!」
「もちろんです、だよ!」
千文は胸部を変形展開し、凝縮したエネルギー光線を解き放つ。光が消えるが早いか、イズナが簒奪者の鎌「デスシックル」をコカトリスへと投げつけた。イズナはコカトリスの反応を確認し、手元に戻った鎌を握り直す。
「かなり攻撃が通りやすくなってきてる気がするね」
「あと一息、だといいのだけれど」
奮戦する仲間の傷を癒し、姫が息を吐く。
「そろそろ、かもしれませんね」
と、シマツもいよいよ攻撃に回る。
「では、斬り裂きますね」
その場に多々ずんだままのシマツが起こしすのは、烈風。コカトリスの蛇部分、その鱗を剥ぐように風が抜けてゆく。
少しでも早く撃破にこぎつけようと、スマラグダはコカトリスを正面に捉える。
「我が劍、万象捻じ曲げる幻妖の刃よ。天光を鎖し、偽りの姿を刻め――玖之祕劍ヘロヤセフ!」
コカトリスの網膜に虚像を刻む、スマラグダの祕劍が九つ目。コカトリスの尾を担う蛇の目が輝いた。炎のブレスがシズクへと迫る。が、一瞬ばかり早く動いた姫が、自身の身体に炎を受ける。
「悪いな、助かった」
「礼には及ばないわ。ドワーフの戦士として、当然のことをしたまでよ」
幼い顔立ちに余裕の笑みを浮かべる、実際にはシズクよりも年上の姫。シズクはうなずき、両手の斬霊刀を構え直す。放った衝撃波は、コカトリスに到達――すると思いきや、またもや屍隷兵が庇い立てる。
舌打ちひとつ、シズクは敵と距離を取る。
ここでケルベロスたちが倒れ、コカトリスを取り逃すようなことがあれば。いや、そうはさせない。そうさせるはずが、ない。
「お前をこの先には行かせない」
ルティエは残像が見えるほどの加速した後、コカトリスを斬り抜ける。
「罪の上に咲き誇れ……焔椿鬼!」
惨殺ナイフ「Roter Stosszahn」を収めながら口にした言葉を起点に、黒と紅の焔がコカトリスを覆う。
これで終わり。圧倒的な破壊力をもって、コカトリスが燃え尽きた。あとに咲いた椿の華は、紅の結晶。
「また会いましょう、あの世でね」
灰となったコカトリスに声をかけ、シャインは背を向ける。
「長居は無用ね、引き上げましょう」
武器を収めたスマラグダの言葉に、ケルベロスたちは同意を示した。
先頭は姫、殿はシャイン。
木々や茂みが作り出す小路を、ケルベロスたちは駆けてゆく。事前に決めた撤退ルートを行きながら、イズナが轟竜砲を放つ。
「邪魔はさせないよ!」
「ええ。コカトリスを倒したんだもの、あとは私たちが帰還すれば……ひとまずの作戦は完了ね」
スマラグダも螺旋の氷を放ち、屍隷兵を牽制する。
やがて抜けた山道で後方を確認すれば、既に追う者はない。
誰一人として欠けることなく、ケルベロスたちは大台ケ原山を後にしたのだった。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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