●権謀術策
次に『彷徨えるゲート』が出現する位置が判明した、とザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はケルベロス達に告げた。
「出現予定地は『奈良平野』。これを知ることが出来たのは、智龍から緋紗雨を守り切った皆の奮闘があったからこそだ。螺旋忍軍との決戦に向けて動き出すことも可能だろう。だが……」
いい報せばかりでは無い。
五稜郭でケルべロスから忍法帖を奪取した最上忍軍もまた、ゲート防衛のために動き出したのだ。
「最上忍軍の策で、ダモクレス、エインヘリアル、屍隷兵……複数の勢力が奈良平野に集結しようとしている」
ただし、ダモクレス――『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党、及び、エインヘリアル――ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団が、最上忍軍……ひいてはイグニスやドラゴン勢力と繋がっていると言う訳ではないらしい。
「螺旋忍軍は複数の組織に潜入し他のデウスエクスに仕えるのを常とする。では、そんな彼らが謀略を持って虚報を流せばどうなるか、だ」
曰く、『魔竜王の遺産である強大なグラビティ・チェインの塊が発見された』
曰く、『このグラビティ・チェインを得る事ができれば、巨大な功績になる』
曰く、『この事実を知ったケルベロスの襲撃が予測されている』
……そんな偽の情報を螺旋忍軍は各勢力に流した。
その上で、デウスエクス同士では戦端を開かずに牽制しあうように仕向けたのだと言う。
「『魔竜王の遺産は独占が望ましいが、複数の勢力が参戦してくる事が予測されている為、敵に漁夫の利を与えない為の立ち回りが重要である』……とな。そうして集まった勢力を、そのままゲートの防衛戦力に充てようという魂胆だろう。彼等は言わば謀略に巻き込まれた部外者だが、同時に、打倒すべき敵である事もまた確かだ。無論、あちらにとってこちらもな」
ケルベロスウォーを発動しない限り、集結する軍勢を全て撃破する事は不可能だ。
が、行軍中の軍勢を襲撃して、主だった指揮官を撃破する事ができれば、敵勢力を弱体化させる事は出来よう。
イグニスの目論見通りに事が進めば、ドラゴン勢力が万全の状態で地球に到達する可能性は大だ。
それだけは何としてでも阻止しなければならない。
●引き継がれる研究成果
「お前達に抑えてもらいたいのは紀伊山地・三重県側の大台ケ原山を通って進軍して来る屍隷兵の軍団だ。山地でのゲリラ戦になるだろうな」
冥龍ハーデスの死後、螺旋忍軍が屍隷兵のノウハウを手に入れて、さらにそこから情報が拡散・伝播し、様々な勢力がそれぞれ強力な力を持つ屍隷兵の研究を行っていたのだと王子は語る。
「その屍隷兵の運用に、各勢力は自らに仕える螺旋忍軍を利用していた。今回、最上忍軍はその伝手を辿り、屍隷兵を集めて軍団を結成したという訳だ」
この軍団を率いるのは、最上忍軍の指揮官の一人である『詠み謳う煌然たる朱き社』
軍団は量産型である『量産強化型屍隷兵』と『嘆きのマリア達』を主力としつつ、戦闘力が非常に高い個体で構成されている。
量産型の個体はそれほどの脅威では無いが、戦闘力の高い個体は通常のデウスエクスに勝るとも劣らない力をもっている。
「主力の量産型を蹴散らして、強力な個体或いは指揮官を撃破して欲しい……焦る必要は無いが、出来得る限り素早く仕留めた方が良いだろう。長居をすれば、撤退が出来ない状況に陥ってしまうことは十分に考えられる」
高い戦闘力を個体をイグニスが手に入れた場合、屍隷兵の研究が飛躍的に進み、より強力な屍隷兵を次々と生み出されてしまう可能性は高い。
……逆の見方をすれば、各勢力の研究成果を十把一絡げでご破算にする好機でもある。
「屍隷兵……最早珍しい存在でも無くなってしまったな。全く、冥龍ハーデスは厄介なモノを遺してくれた……!」
参加者 | |
---|---|
ルーク・アルカード(白麗・e04248) |
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339) |
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791) |
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214) |
ミリム・ウィアテスト(トルーパー・e07815) |
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676) |
筐・恭志郎(白鞘・e19690) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
●炎の雫
焦げた樹木。炭化した葉。焼かれた大地。
滴り落ちたマグマの跡は点々と、深い緑の、そのさらに奥へ誘うように続く。
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)がサーマルスキャナーで雫の先を覗き込むと、そこに在ったのは十前後、大小の熱源。
屍隷兵達は補足したが、これ以上近づけばこちらの存在を気取られる。螺旋隠れや隠密気流が役に立つのはあくまで非戦闘時のみ。
奇襲をしかける為には、もう一工夫必要だった。
(「屍隷兵か……命というものを軽視しているように思えてならないな。少々傲慢かもしれないが、在るべき場所へ還すこととしよう」)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)がトランシーバーの電源を入れると、敵が妨害電波を流しているのか、トランシーバーはざらついたノイズを吐き出し始める。
これでは通信や情報交換など出来たものではないが、音が出るなら問題無い。
ビーツーは音量を引き上げたトランシーバーを木々の隙間に隠すと、即座にその場から離れる。
後は自動的に、妨害電波(ノイズ)が彼らの達の気を引いてくれる。
和希同様、サーマルスキャナーで屍隷兵の様子をつぶさに観察していた筐・恭志郎(白鞘・e19690)は、機を見てミリム・ウィアテスト(トルーパー・e07815)へハンドサインを送る。
敵の見た目は中々に迫力があるが、気押されっぱなしではない。耳をぴんと、軽く頬を叩いて気合を入れたミリムが念じると、鬱蒼とした緑は二つに割れ路が開いた。
路の先に見えるのは、屍隷兵達の無防備な背。
先陣を切ったのはヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)の弾丸だ。
彼の乱射は木の葉の雨を潜り抜け、全弾が標的――ラヴァプラーミアゴーレムを含む敵前列に命中し彼らの足取りを鈍らせる。
銃撃を受けたゴーレムが身を震わせると、彼の体を血液の如く循環するマグマが周囲に飛散した。
炎の雫が再び緑を焼く寸前、香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)の召喚した吹雪の精霊が敵前衛を周辺の小路ごと凍結し、熱を失った雫は黒く凝固し風に遊ばれる。
続けて、久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)が尾で吹雪もろとも前衛を大きく薙ぐ。
尾撃の余波で細かく砕けた氷晶が戦場を舞い、ルーク・アルカード(白麗・e04248)に注いだそれが、木漏れ日を受けると彼の毛並みは一瞬、プリズムのように閃いて、直後。
大咆哮が山野を揺るがした。
奇襲を受けたゴーレムは、悠然とした動作でケルベロス達を自らの視界に納める。
彼の体をめぐるマグマが更に脈動し、鎧の如く全身を覆っている黒色の岩石がぐつぐつと煮立つ。
そして、轟音と共に彼が全身から射出したのは灼熱の火山弾だ。
木々を薙ぎ、葉を消し、大地を抉る火山弾が後衛を襲う。
その攻撃は奇襲の返礼ともとれた。
●雲霞
地を這う強化型屍隷兵の魔手が、征夫の死角より突如として現れたのは、彼が嘆きのマリアの拳を回避した直後の事だった。
避けられない。征夫が負傷を覚悟した刹那、しかし恭志郎が割って入り、征夫が受けるはずだった攻撃を肩代わる。
恭志郎の体を痛覚が刺激するが、彼は歯を食いしばり、悲鳴一つ上げずにこらえ切る。
「屍隷兵……少なくとも、今此処にいる数の犠牲者がいるって事、なんですよね……」
だが。強化型屍隷兵を退けた恭志郎はどこか覇気なくそう零す。
――もしもあの時ハクロウキを逃さなければ……。
あの日以後、恭志郎は屍隷兵の犠牲を食い止めるべく情報収集していた。今回の依頼に参加した動機もそれだ。
在りし日の後悔が、心の奥底で、澱となって沈殿している。
「恭さん……」
恭志郎の盟友である征夫には、彼の心中が痛いほど理解できる。
だからこそ、その後悔を少しでも軽くできないかと思う。
その為に今、征夫が出来る事とはただ一つ。
「恭さん、ここは一つ、大暴れと行きましょう」
征夫の持つ妖刀亀斬り。その抜身の刃が煌いた。
「諦めなければ、どんな悲劇も終わらせることが出来るはずです。だから今は……背中、預けました」
妖刀の剣閃が弧月を描き、断ち切られた嘆きのマリアが地に沈む。
「そうですね。なら、全員……守り切ってみせます。それが俺の本分ですから」
決意を新たに、恭志郎は星形のオーラを至近距離から強化型屍隷兵に蹴り込むと、量産型は吹き飛んで、霧散する。
「ごめんね、用があるんはそっちのデカいやつなんよ……大人しくしてて?」
雪斗がバスターライフルから放った大口径の光弾は、後衛に位置する強化型屍隷兵を正確に捉え、貫き、消滅させる。
嘆きのマリア達。強化型屍隷兵。量産型ゆえか、どちらもそこそこの強さでしか無いのは有難くもあるが、どうにも……簡単すぎる気がすると雪斗は思う。
直感に過ぎないが、取り越し苦労だとしても、警戒を怠るべきではないだろう。
ライフルから放たれた白い闇に紛れ、ルークのブラックスライムが嘆きのマリアの巨体を吞み込んで、消化しているその最中――本来なら隙とも呼べないほんの一瞬の間隙をつき、ゴーレムは黒岩石の巨拳を開きルークを捕まえる。
このまま焼き尽くすつもりか、そう心構えていたルークを襲ったのは、熱や炎とは正反対の、芯から凍えるような極寒の冷気。
(「こいつ、俺の体から『熱』を奪って……!」)
足掻き、もがいて、地に叩き付けられたルークが吐き出した息は真っ白で、ビーツーが彼の体に触れると、触れたこちらまで一緒に凍てつくのではないか、と思う程に凍えていた。
「成程。熱を奪う。転じて氷結。しかし――望まぬ物は、洗い流さねばな」
言いながら、ビーツ―がルークの体に纏わせた電流は、彼の免疫細胞を活性化させ、傷を治癒する。
そして治療を終えた電流は、ルークを蝕んでいた冷気すらも巻き込んで体の端から地へと抜ける。
同時、ビーツ―の相棒、ボクスが身振りで警戒を促してくる。
ボクスに従い、ビーツ―が敵陣に目を戻せば、地面が一際大きく盛り上がったと思うと、そこからぞろぞろと量産型達が湧き出でて、陣を整え、欠員が補充され、敵戦力はあっけなくに戻る。
「さっき感じた妙な違和感の正体はこれやったんやね……」
雪斗は腑に落ちたと呟いた。
「この物量……切りがない。イグニスの件を抜きにしても、各勢力が屍隷兵を本格的に前線へ投入してくるのは、そう遠くない話かもしれないな」
ビーツーが敵軍勢を観察した所見を述べる。
「研究が進むと脅威な上にアレの材料にされる命も増えるってか……全く、笑えねェ話だよ……!」
ヒスイは改造銃『ミタマシロ』をくるくると数度スピンさせる。
屍隷兵も元は地球に住む命だった。
それらが理不尽に使われている事実に、強い憤りを覚える。
義憤や私憤ではない。この憤りはこの星に住まう人として、当たり前の情動だ。
「もう戻らない……ならせめてここで一体でも多く眠らせてやりたいところだが……」
量産型を倒したところで、即座に補充されるのは目に見えている。
だとすればやはり、多少の妨害が入っても、ゴーレムに攻撃を集中させるより他ないだろう。
ヒスイが構えたミタマシロの弾倉に、実体弾は装填されていない。
撃鉄が空であるはずの弾倉を叩くと、そこから発射されたのは敵に食らいつくオーラの弾丸。
気弾は実体弾ではありえない軌跡を描きゴーレムを撃ち抜いて、そのダメージからか、ゴーレムの巨体は俄かに揺らぐ。
その一部始終を見ていた和希の双眸に滲むのは狂気。
内に潜むそれは囁く。奴を壊せ。奴の力を奪えと。
和希は声のままに白色のバスターライフル・アナイアレイターのトリガーに指を掛け、一拍おいて目を瞑る。
次に瞼を開けた時、青の瞳は正気を宿し、冷静な思考と言う名の観測手が、彼の狙撃を盤石なものにする。
アナイアレイターから発射された光線は、今度はゴーレムから熱を奪い、一瞬、ゴーレムの体は薄黒く変色した。
「月喰島で初めて見た時と比べ随分禍々しくなったもんだね……」
ミリムは冥龍の負の遺産で屍隷兵にされた人々を哀れむ。
数もそうだが、ラヴァプラーミアゴーレムを見るに、いかに単一で強大な力を持たせるか、と言う方向の研究も進んでいるのだろう。
ミリムのヒールドローンが前衛に警護フォーメーションを構築している最中、彼女は何としてでも――それこそ暴走してでも止めてやろうとそう誓った。
●爆裂
全身から吹き出る汗が止まらない。まるで噴火口のすぐ淵に立たされている気分だ。
ゴーレムが発する熱は陽炎を呼び、周囲の景色は歪みに歪んで酷くあやふや。
量産型の姿すら目視では曖昧で、さて、何体いただろうか。
「征君、大丈夫ですか?」
恭志郎は視界にかかる汗を拭い、相棒たる征夫に声をかける。
すぐそこに居ると姿は認識できるが、熱と陽炎のせいで仔細までは解らない。
「ええ、何とか。私も対外熱くなりやすい性分ですが、物理的にこうも熱いと……」
「参ってしまう?」
「いえ。逆に意地でも乗り越えてやろうと闘志が湧きますね」
「成程……それは征君らしい」
熱気の中にあって、恭志郎は柔和に笑むと、全身に纏っていた淡く白いバトルオーラ・燐花を掌に収束させる。
征夫もまた妖刀に雷を走らせ、陽炎に歪むゴーレムを見据える。
呼吸を整えた二人は同時に駆け出し、神速と音速の二連撃はゴーレムの胴にめり込む。
ゴーレムが二つの攻撃を認識出来たのは拳と刀の接触より数舜後の事だろう。
何より熱を欲するゴーレムが、声にならない呻きを上げて再びルークへ黒掌を伸ばす。
巨大な黒掌は先ほどと同じようにルークを捕らえ閉じ込めて、否。
ゴーレムは掌を開く。絡めとったはずの白麗は、しかし影も形も見当たらず、
「借りは――」
ゴーレムの背後。熱を孕む空気の幕すら真二つに切り裂いて、ルークはマグマと岩石の塊に鋭利な刃を通す。
「返す!」
装甲の役目を果たしていた岩石が破れ、ついに血液(マグマ)は止めどなく零れだし、大地の焼ける匂いがした。
(「……これから先、こんな敵が増えていくんだろうな」)
ルークは苦々しく思う。材料が材料だ。戦っていい気分はしない。
だが……敵として出会えば戦うより外に無いのだろう。
熱を奪えぬならば壊してしまおうと、ゴーレムは血液滴る赤掌を、形振り構わずミリムに向ける。
そうはさせぬと雪斗がミリムを庇い強かゴーレムの血を浴びる。
「絶対に、誰も倒れさせへんよ!」
幾たび炎に曝されようと、柊の花は懸命に、決して燃え尽きない。
「レブナント……ここできっちり倒さんと、イグニスの手に渡って、より強い個体が次々生み出されてまうんやね……」
陽炎に、季節外れの六花が舞った。
六花は嵐を引き連れ、吹雪と化し、ゴーレムの視界を遮りって、酷寒の領域を作り出し、身体機能を麻痺させる。
これを使うたびに思い出すのは、あの、雪降る夜。
「そっちの思い通りにはさせへんよ!」
ゴーレムは唸る。吹雪に負けじと灼熱し、満身創痍で、それでも三度此方に手を伸ばす。
「ミリムちゃん!」
吹雪が引いて、陽炎も消えた。後は任せたと雪斗はミリムに幕引きを託し、ミリムはハンマーの柄をぎゅう、と強く握りしめた。
屍隷兵の技術を手前勝手に広めた螺旋忍軍の暗躍を思うと、沸々と怒りがこみ上げてくる。
「そんな計画なんて!」
ミリムは専用のハンマーを大きく振りかぶり、
「この一発でぶっ壊してやるのだ!」
最大級に力を込めた破鎧の一撃を、ラヴァプラーミアゴーレムの胴体めがけて思い切り叩き込んだ。
熱を欲したゴーレムの動きが止まる。
その瞬間、ミリムはふと思う。
もし、ラヴァプラーミアゴーレムに、一欠片……芥子粒ほどの、人としての理性が残っていたとしたならば。
彼は、自分の存在を焼き尽くすに足りる熱量をこそ欲していたのかもしれない、と。
刹那。ゴーレムは爆ぜ、飛び散って、石になり、広大な大台ケ原山の大地と混ざって、もう……区別がつかなくなった。
●撤退
ミリムが目鼻耳を凝らし残敵の位置を探ると、およそ不味い状況になっていると気づく。
明らかに敵の数が増え続けている。数に任せてこちらを押し潰すつもりだろうか。
幸い、目的は達したのだ。これ以上ここに留まる理由はない。
「悪いが、ちょいと通して貰うぜ。素直に道を譲る気は……無いよなァ、やっぱり」
ヒスイは両掌で二丁の拳銃をスピンさせ、退路を塞ぐ敵をにらむ。
スピンの終わった二つの銃口は、狙いを定めぴたりと止まり、
「……落ちな」
放たれた全身全霊の弾丸は碧い光を放ち、標的を狩る鳥の如く、大自然を羽ばたいて、強化型屍隷兵の命を獲った。
ヒスイは確保した退路に森の小路を拓き、皆を先導する。
「死にさえしなけりゃこっちの勝ちって奴だ。少しばかり悔しいが、お前たちの相手はまた今度だな」
ヒスイの作った路を走る、量産型からの撤退戦。
何が有効に働くかわからない。なら全部試せばいい。ケルベロス達は発煙筒を焚き、試しに征夫はドライアイスをばらまいてみるが、反応らしい反応はない。
CO2ならば野生の動物も発している。人を襲う決定打では無いのだろう。
殿を務める和希の姿を追いかけるのは、一体の嘆きのマリア。先の戦闘で所々損傷している様子ではあるが、中々に素早く、一気に跳躍して距離を詰め、そのまま和希を殴りぬこうと拳を振るう。
が、寸前ボクスが盾になり、白橙色の炎を纏ってマリアに体当たる。
ビーツーはボクスを見て頷くと、和希へエレキブーストを流し込み、戦闘能力を向上させる。
助けて、と巨人の胸部に埋め込まれている女は発した。
これは……わざわざそういう機能を持たされているのだろう。
女の叫びは、救済を求める声はきっと本心だが、結局、どう足掻いても女を助ける手段はなく……。
「……救われないな」
ビーツはそう毒づいた。
「ダモクレスといい、螺旋忍軍といい……全く、忌々しい……」
和希自身も、彼女らの末路に憐みの情はある。
だが、壊すしかないのなら……容赦はしない。
和希がもう一丁バスターライフル・ブラックバードから強烈な魔法光波を放つと、その弾道の先には多数の魔法陣が展開する。異形の魔法陣を透過する度に魔法光波は拡散し、圧縮され、加速し、追尾の呪詛を与えられ――最後には多数の圧縮誘導弾へと形を変じ殺到して、助けを乞うマリアに破壊と言う名の安息を齎した。
……これ以上、屍隷兵が追ってくる気配はない。
何とか逃げ切れたのだろう。
もし、退路の確保を怠り、深追いする作戦を取っていた場合、重傷者か、最悪暴走者を出していたかもしれない。
和希は自分が仕留めた遺骸を一瞥すると、踵を返し、路を駆け抜け仲間の背を追った。
休んでいる暇はない。決戦の刻は間近に迫っているのだから。
作者:長谷部兼光 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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