螺旋忍軍大戦強襲~伊賀がスクラップ置き場になる日

作者:青葉桂都

●敵戦力を削れ
 螺旋帝の血族である緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守ったことで、螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が次に出現する場所が分かった。
「この情報があれば、螺旋忍軍との決戦を行うことが可能でしょう」
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は静かに語った。
「ですが、正義のケルベロス忍軍から忍法帖を奪取した『最上忍軍』が決戦を行うための大きな障害となっています」
 最上忍軍は螺旋帝の血族であるイグニスから命令を受けている。各勢力に潜入していた忍軍を動かし、ゲートが現れる地点に戦力を終結させようとしているのだ。
 載霊機ドレッドノートの戦い以降潜伏していたダモクレス。
 ザイフリート王子やイグニスの後釜を狙うエインヘリアルの王子候補とその私兵団。
 さらに各勢力が研究していた屍霊兵から戦力の高いものを集めているようだ。
「忍軍は各勢力に従っている者を通じて、『魔竜王の遺産であるグラビティ・チェインの塊が発見された』などといった偽情報を流しているようです」
 塊は独占するのが望ましいが、複数の勢力が介入してくるため、漁夫の利を狙わせないのが何より重要だと吹き込んでおり、デウスエクス同士の戦いは期待できない。
「イグニスとドラゴン勢力は、集めた戦力を『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力』として利用しようとしています」
 ケルベロス・ウォーを発動しない限り集結する軍勢をすべて排除することはできない。
 とはいえ、行軍中の敵を襲撃し、指揮官を撃破することで敵を弱体化させることはできるはずだ。
「皆さんには集結前の敵を叩いていただくようお願いします。危険な任務ですが、どうぞよろしくお願いします」
 ゲートは奈良平野に開くが、ここにいるチームには行軍中の敵のうちダモクレスを狙って欲しいと芹架は言った。
 戦場は伊賀市。市街地だがすでに、住民は避難済みだという。
「ダモクレスは載霊機ドレッドノートでの戦いを生き延びた指揮官型、ディザスター・キング、マザー・アイリス、ジュモー・エレクトリシアンを中心に行軍しています」
 先日の敗戦によりグラビティ・チェインを求めていた彼らは、忍軍からの情報に飛びついたのだろう。
「指揮官型を1体でも倒せたなら戦況はかなり有利になるでしょう」
 軍団の先鋒を勤めるのはキングとその配下のダモクレスたちだ。
 その中には有力なダモクレスたちも加わっている。キング撃破を狙うなら彼らを倒すか援護できないよう足止めした上で、さらに複数のチームで挑む必要があるだろう。
 有力なダモクレスには、メタルガールソルジャーのタイプSとタイプGの2体に、ディザスター・ビショップやダイヤモンド・ハンマー、ゴルドらがいる。
「次に中央に位置するマザーですが、倒すには先にジュモーへの対処が必要になります」
 マザーの周囲で護衛する敵に有力な者はいないものの、ジュモーが直接操作しているため、とりつく隙がないのだ。
 まずはジュモーを倒すか指揮のとれない状態にし、護衛を混乱させた上で電撃戦を仕掛けなければならない。
 それも、陽動を行うチーム、護衛を蹴散らし突破口を開くチーム、マザーへ直接攻撃するチームといった風に役割分担して連携する必要があるだろう。
 問題のジュモーは後衛で指揮をとっている。レイジGGG02、オイチGGG01、マザー・ドゥーサという有力な敵が常に護衛しており、4体を同時に相手取るだけの戦力が必要となる。
 その他にも複数の有力な敵が軍団に加わっている。倒せばケルベロス・ウォーが有利になるだろう。難易度の高い指揮官型を狙うより、彼らを倒して確実に戦力を減らす手もある。
「また、ダモクレスの軍団には最上忍軍の最上・幻斎が加わっています。ただ、所在は不明です」
 見つけ出すのは難しいが、撃破できれば最上忍軍に大きな痛手を与えられるかもしれない。
「螺旋忍軍に騙されて利用されているだけの敵ですが、その戦力が脅威であることは私よりも皆さんがご存知でしょう」
 芹架は最後に言った。
 ケルベロス・ウォーに向けて、ここで敵戦力を確実に削っておきたいところだった。


参加者
狗上・士浪(天狼・e01564)
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ

●動き出すまでの、おそらくわずかな時間
 伊賀を進軍するダモクレスの大軍勢。
 いくつものケルベロスのチームが、強襲をかけるべく彼らに接近していた。
 中央に陣取るマザー・アイリスに向かったチームのうち1つは、後衛であるジュモー・エレクトリシアンのほうをうかがう。
「残念ながら、援護できる距離じゃなさそうだなあ」
 軽い調子でもルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)の落胆した様子はみんなに伝わっていた。
「そうですね。攻撃できるまで距離を詰めては、作戦に支障を来します」
 色付きのレンズ越しにジュモーがいるほうを見ていたベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)が同意する。
 とは言え、悪い話ばかりではない。
 ケルベロスたちが援護射撃できないということは、ジュモーが操作するマザーの護衛たちも援護はできないということだ。
「仕方ありません。今は、仲間を信じるしかないでしょう」
 感情のこもらない、淡々とした声でウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が言った。
 もっとも、声にこめていないだけで、彼が平気でいるわけではないだろう。
 少なくとも、ネット上とはいえ友人であるアト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)は、彼がアトとはジャンルこそ違うまでも音楽を愛する熱い男だと知っている。
(「うまく、セッションができるといいですね」)
 眠たげな目をちらと向け、アトは心の中で呟いた。
 ジュモー班はすでに動き出している。彼らが交戦を開始し、マザーの護衛に隙ができるまでは待機しなければならない。
 実際、時間を測ってみればそれは短い時間に過ぎないのだろう。
 とはいえ、待っているだけの時間はわずかでも長く感じるものだ。
「仙台の時は連中にゃ届かなかったからなぁ。ここいらで、少しでも潰しときてぇモンだ」
 狗上・士浪(天狼・e01564)が、待ちきれないというように、バトルガントレットで覆った拳へもう一方の拳を打ち付ける。
「ジュモーとの戦闘が始まったみたいだ。いつでも仕掛けられるようにしておこう」
 眼鏡型のスコープで様子をうかがっていた螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が仲間たちに声をかける。
 マザーの護衛の動きが鈍ったところでケルベロスたちが動き出す。
「行こう。敵は強大……だけど負けるわけにはいかない」
 オラトリオの調停期に鍛造されたと言われている旧式のガトリングガンを、レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は構えた。
 狙うべき敵は無数の護衛たちの向こうにいる、マザー・アイリスただ1体のみ。
 他のケルベロスたちもすでにそれぞれの得物をダモクレスたちへ向けていた。
 戦闘が始まってしまえば、時間の流れは一気に加速する。
 マザーへと向かうのは3チーム。別の1チームが先行して、護衛たちへ切り込む。
 程なく、彼らはまずマザーのところへと進むための道を開いてくれた。
「道は開いた。ここは押さえる、頼んだぞ!」
 声をかけてきたのは、まるで騎士の鎧兜にも似た装甲に身を包んだ男。
 彼がエフイー・ゼノという名前だということは、こちらのチームに属する者たちも知っている。
 次は自分たち仕掛ける時間だ。そう思った時、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は無意識に胸元に下げた水晶の首飾りへと手をやっていた。
 外して見つめる時間はなかったけれども、触れればその形はすぐ心に浮かぶ。
「精一杯、頑張ります」
 大事な人にもらった首飾りが勇気をくれた気がして、紺はエフイーににそう応じた。

●マザーのもとへ
 エフイーたちのおかげでマザーの護衛はかなり薄くなっていたが、それでも指揮官の直衛はまだ残っている。
 彼らを蹴散らし、マザーへ最後の1チームを到達させるのは自分たちの役目だ。
「こちらが先行します。ついてきてください。来るべき戦いの為、この星の未来の為――必ずや道を切り拓きます」
 ベルノルトは声をかけると同時にスピードを上げた。
 もう1チームを守る傘のごとく、ケルベロスたちは楔形に並ぶ。
「任せろ、絶対にぶっ壊してくっからな!」
 もう一方のチームからも、髭面の男がエフイーたちに大きな声をかけた。
 軍司・雄介の野太い声を背に、ダモクレスの雑兵たちへと飛び込む。
 防衛役であるベルノルトは先陣を切って突っ込んでいった。
 チェスのポーンを思わせる槍兵、三角形のキャタピラを足に持つ円筒、手足の生えたドラム缶に顔のついた円形の飛行物体……その視線がベルノルトに集まる。
 けれど見られるのは好都合。
「何事にも、代償が要ります故」
 封じられた不可視の術は、彼自身を蝕むことで可視となり、見た者へ呪いとなって伝播していくのだ。
 機械の軍団はすでに呪いにかかっていた。
 ジュモーによる操作を失った敵は雑魚に過ぎないが、すべてを片付けている暇はない。
 狙うべき相手は、マザーとの直線上にいる敵のみ。最短距離を突き進むつもりでケルベロスたちは前進する。
 ルアが氷河期の精霊を呼び出して薙ぎ払う。
 激しくギターを弾くウルトレスから弾丸の雨が降り注ぐ。
 レスターもガトリングガンの引き金を引いて弾をばらまき、敵陣を制圧する。
「頑張ったところで、魔竜王の遺産は螺旋忍軍が独占しているのにな」
 攻撃しながら彼は呟いた。
 グラビティを乗せた言葉は、戦闘の喧騒の中でも敵に届いているはずだ。
「これだけの数が騙されているんですね」
 紺はなるべく不自然にならないよう、レスターの言葉に同意する。
 敵に偽情報を流そうとしている2人だが、目に見える反応はなさそうだった。
 そもそも敵の言葉を簡単に信じるほどデウスエクスも愚かではない。
 また、今回の作戦は短期決戦となる。仮に信じたとしても撤退するまでに影響が現れることは期待できないだろう。
「邪魔だ屑鉄……! 道を開けて貰うぞ……っ!」
 前進しながら、範囲攻撃で倒しきれなかった敵の1体をセイヤが飛び蹴りで砕く。
 紺も別の1体に狙いを定めて、夜色の影を生み出す。
「消え去りなさい、あなたの世界は終わりです」
 グレイブを振るうと影は無数の弾丸と化して傷ついた機械兵士へ襲いかかる。
 影に呑まれた敵の近くにいた別の1体を、士浪がオウガメタルの拳で打ち砕いた。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 さらに先にいる敵の反撃がケルベロスたちへと降り注ぐが、アトのハーモニカが回復の調べで仲間たちを支えている。
 とはいえ、エフイーたちのチームのおかげで護衛の数は十分に減っている。
 マザーの巨体までたどりつくのに、それほど長い時間はかからなかったはずだ。

●挟撃!
 敵のもとへとたどりついたケルベロスたちだが、彼らはまだ動きを止めなかった。
「後ろに回り込むよ! みんなついてきて!」
 ルアが呼びかけながら楔形の一角を離脱し、マザーの側面へと移動を始めた。
「ああ、わかってる。行くぜ!」
 士浪が逆の側面へと駆け出した。
 他の者たちも、すでに両側へと移動を始めていた。
 マザーの後方へ回り込むべく、ケルベロスたちはさらに移動していく。
 だが、マザーのほうもむざむざ後ろを取られるのを傍観しているはずはない。
 縦にも横にも大きく、鈍重そうに見えるマザーだったが、後方に回り込んだケルベロスたちに陣形を整える間も与えず振り向いて見せた。
「私の……可愛い可愛い子供たちを傷つけたお前たちに……これ以上、好き勝手させるとでも思ってるの!?」
 その体から、小さな機械の群れが生まれ出でる。
 1つ1つはおそらく手のひらに乗る程度の大きさだが、数えきれないほどの物量がルアを取り囲む。
 レスターはとっさにルアを押し出した。
 代わりに取り囲まれる形になった彼に四方八方から光線が浴びせられる。
 無数の『子供たち』から攻撃を浴びながら、彼はマザーに母性があるのか考えていた。
 彼は母親の顔を知らない。顔も、声も、ぬくもりも。弟と支えあって生きてきた。きっと2度と会うこともないだろう。
(「マザーアイリスの母性愛は本物か? 命に代えても子供を、ダモクレスを守りたいと思っているのか?」)
 心のないダモクレスに、果たして母性は宿っているのか。
 嵐のような攻撃は守りを固めていてもなお倒れかねないほどのダメージを彼に与えた。
(「その母性は狂気だ。倒すしかない」)
 振り向いて反撃してくることくらい、ケルベロスたちはわかっていた。
 レスターの、そして彼のチームの役目は、仲間をマザーへ至らせる礎となること。
「マザーアイリスを生かして帰せば数多くの悲劇が生まれる。ここが貴女の終焉の地。母なる大地に抱かれて眠れ」
 楔形陣形で守っていた雄介たちのチームがマザーに強襲をかける。
 背後からの攻撃がマザーに突き刺さっていく。
 ――だが、挟撃の成功を喜ぶ暇はなかった。
 ベルノルトが刀を構えてレスターの前に飛び込んできた……それを認識するのと同時、炸裂音が耳を打つ。
 マザーの足元を固めている機械から、いつの間にか大量の砲門が突き出ていたのだ。
 かばわれたレスターは別として、前後を囲む前衛がほとんど全員吹き飛ばされた。
 薄笑いを浮かべたまま指揮官型ダモクレスがケルベロスたちを見回す。
「おいたをする子には……お仕置きをしてあげなきゃねえ?」
 戦いはこれからが本番だと、その笑みが雄弁に語っていた。

●倒れ行く仲間と
 マザー・アイリスとの戦いは長く続いた。
 ただ、主に攻撃するのはもう一方のチームで、こちらのチームの役目は周囲の護衛への対処やマザーの攻撃を引き付けることだ。
「俺も当たったことあるけど、地味に痛いんだよね~。今度はアンタに当ててあげるね♪」
 ルアが指に引っ掛けた輪ゴムが飛び、痛そうな音と共にダモクレスたちを痛めつけた。
 士浪は全身にグラビティ・チェインを漲らせて、仲間が弱らせた敵にとびかかる。
「只管に喰らい尽くせ」
 神速の連撃が機械の体を一気にへこませて、爆発させる。
 まだマザーも倒せそうな様子はない。ジュモー班の様子も気になるところだ。援護は結局できなかったが、果たして勝てるのかどうか。
 勝てないとしても、どれだけ指揮を無効化し続けてくれるのか。
 この強大な指揮官型が、螺旋忍軍にあっさり騙されたことも気になるところだ。
(「ありもしねぇ遺産に飛び付くたぁ、マジに気付かねぇのか、あえて気付かねぇ振りでもしてんのか」)
 神速の攻撃をした反動で、肩で息をしながら士浪は敵を見やる。
「……間抜けばかりじゃあなさそうだが」
 呟いて、彼はマザーを見上げる。隙があれば、攻撃を仕掛けられるように。
 護衛やマザーの攻撃を自分たちへと引き付ける。
 それは決して楽なことではなかった。
 特に厳しいのは、護衛に体力を削られたところでマザーの強力な攻撃が来るときだ。
 戦場にはハーモニカのメロディが流れ続けている。アトが吹き鳴らすのは歯車の音をイメージした行進曲。
 ウルトレスはエレキベースをハーモニカに合わせて転調した。バッケンリッカー社のカスタムモデルは戦闘にも耐える堅牢な造りをしている。
 パワーバラードにアレンジした曲が、生きることの罪を肯定する。
 アトと目が合った。
 なにも言わず、ただ彼女は曲をウルトレスと合わせてきた。
 戦場に響くジャムセッションは、しかし、長くは続かなかった。
 ダモクレスの雑兵たちが攻撃を加えてきたかと思うと、マザーが白い髪を振り乱してケルベロスたちを薙ぎ払う。
 幾度目かになる痛烈な範囲攻撃から、ウルトレスはレスターをかばった。
 エレキベースが不協和音を奏で、ウルトレスの体が吹き飛んだ。
「UC……」
「気にしないでください。2人倒れるより、1人のほうがいいでしょう」
 錬度の高い者が守りを固め続けているとはいえ、いつまでも持ちこたえられはしない。
 ゆっくりと倒れこみながらも、ウルトレスはレスターに声をかけた。
 さらに少しして、マザーが生んだ小型ダモクレスの集中砲火がセイヤをかばったベルノルトに直撃する。
「必要とあらば、此の身は血も流れぬ洞の盾となりましょう」
 冷静に、冷徹に。大義を抱えた剣士が静かに膝を突く。
 そして追い詰められているのは、マザーと対峙しているチームだけではなかった。
 アトは大きな音でハーモニカを吹き鳴らした。
「急ぎましょう。ジュモー班がそろそろ持ちません」
 仲間たちの、そしてもう一方のチームの注意を引いて、告げる。
 後衛で戦局を見ていた彼女は、ジュモーと戦っている者たちが追い詰められていると最初に気づいたのだ。
 セイヤは漆黒のオーラを全身にまとった。
「だったらここで決める……! マザー・アイリス……貴様の最後の時だ……!」
 龍の形をした漆黒の手甲に、黒龍のオーラが宿る。
 マザーへと全力で接近した彼は、拳を繰り出すと共にオーラを解放した。
 仲間たちが彼に続く。
「この涙は罪を穿つ、地に堕つ蝶を断つ!」
 レスターがライフルに口づけると、顔の刺青に仕組まれた魔術回路が起動。放つ弾丸がマザーを貫く。
 さらに紺の影の弾丸が、ルアの石化魔法が、士浪の神速の連撃が、そしてアトの演奏が指揮官へとダメージを与えていく。
 それでも巨体は倒れない。
 だが、もう一方のチームも、彼らに続いて激しい攻撃を加え始めた。
 何人もの攻撃がマザーを激しく傷つけ……そして、褐色の肌を持つ男のゾディアックソードが鳴った。
「鬼さんこちら。余所見をした君の……そうさせた俺達の、勝ちだ」
 イェロ・カナンの刃が、深く深くマザーの胸を貫く。
 それがマザー・アイリスの最期となった。

●撤退
 マザーを倒しても、敵はまだまだ多数残っている。
 だが、最初に切り込んだチームが、その後退路を確保してくれていた。
 倒れているベルノルトをセイヤが支える。
「もう1人、誰か頼む! 仲間を……置いていくわけにはいかない」
「UCはでっかいし、身長的には俺かな~?」
 ルアがウルトレスに肩を貸した。
「すみません、よろしく頼みます」
 ベルノルトが頭を下げた。
「大丈夫ですか、UCさん?」
「ええ。ATさんの曲のおかげで、大きな怪我ではなさそうです」
 幸い2人とも重傷ではないようだったが、まだ動ける状態でもない。
「せっかく強敵を倒せたんだ。きっちり無事に帰ろうぜ」
「はい、絶対に無事で帰りましょう」
 士浪の言葉に、紺が首飾りに手をやった。
 帰ったら話したい人を思い浮かべているのだろう。
「後を、宜しく頼む」
 撤退を支援してくれるチームにセイヤが声をかける。
 戦場を離れる前に、レスターが一瞬だけマザーを振り返る。
「プログラミングされた母性でも彼女は確かに母親だった。俺はそう思いたい」
 彼の想いを、否定する者はいない。
 そして、ケルベロスたちは全力で走り出した。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。