鎌倉ハロウィンパーティー~小悪魔少女は夢を喰らう

作者:朱乃天

 世間はハロウィンパーティーで華やかなムードに包まれてた。
 しかしその一方で、このお祭りムードを心から喜べない人達もいる。
「はぁ……みんな楽しそうだなあ。私はどうせ一人ぼっちだし、こういうのって何だか寂しいな……」
 ツインテールの少女が浮かない表情で、パーティーの様子を遠目で眺めていた。
 どうやら一緒に参加する友達がいなくて、賑やかな雰囲気が返って彼女の心を閉ざしてしまっているようだ。
 とはいえやはり羨ましくもあり、そうした葛藤が余計に少女の心を悩ませた。
「ハロウィンパーティーに参加したい……ですか。その夢、叶えてあげましょう」
 唐突に、どこからともなく声が聞こえた。少女が横を向くと、そこには赤い頭巾を被った少女がいつの間にか立っていた。
「えっ……。叶えてくれるって、どうやって?」
 いきなり言葉をかけられて驚いたツインテールの少女は、赤い頭巾の少女に聞いてみる。
 しかし赤い頭巾の少女は何も語らず、手に持った鍵を、不意にツインテールの少女の心臓に突き刺した。
 少女の身体は糸が切れたように崩れ落ち、代わりに小悪魔のような姿の全身モザイクの人間が現れる。倒れた少女に怪我はなく、意識は失っているが息はあるようだ。
「さあ。世界で一番楽しいパーティーに参加して、その心の欠損を埋めるのです」
 赤い頭巾の少女――ドリームイーターが告げると同時に、モザイクの小悪魔少女はその場から姿を消した。ハロウィンに混沌をもたらす為に――。

「藤咲・うるる(サニーガール・e00086)さんが調査してくれたのですが、日本各地でドリームイーターが暗躍しているみたいです」
 ハロウィンパーティーの準備が慌ただしい中、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、ケルベロス達に事件を伝える。
「出現しているドリームイーターは、ハロウィンのお祭りに対して劣等感を持っていた人で、ハロウィンパーティーの当日に一斉に動き出すみたいです」
 ハロウィンドリームイーターが現れるのは、世界で最も盛り上がるハロウィンパーティー会場。つまり、鎌倉のハロウィンパーティーの会場だ。
「ですので皆さんには、実際のハロウィンパーティーが開始する直前までに、ハロウィンドリームイーターを倒してほしいのです」
 ねむは続けて、今回戦うドリームイーターの特徴を説明する。
「ドリームイーターは、ゴシックな小悪魔風衣装を着た全身モザイクの人間型です」
 攻撃方法は、ステッキに見立てた鍵で突き刺しながら心を抉ってくる。また、モザイクを飛ばして悪夢を見せたり、モザイクを巨大な口の形に変えて欲望ごと喰らおうとする。
「ハロウィンドリームイーターは、ハロウィンパーティーが始まると同時に現れます」
 その為、ハロウィンパーティーが始まる時間よりも早く、あたかもパーティーが始まったように楽しそうに振るまえば、ハロウィンドリームイーターを誘き出す事が出来る。
「折角、鎌倉の人達の笑顔を取り戻す為に頑張ってるんです。こんな事で妨害されるわけにはいきませんので、皆さんの力でよろしくお願いします!」
 ねむは真剣な眼差しでケルベロス達を見つめながら、ぺこりと頭を下げて懇願する。
「みんなで一緒にハロウィンを楽しみたいからね! 邪魔者はさっさと倒して、パーティーを盛り上げようよ!」
 ねむの話を聞いて、猫宮・ルーチェ(ウェアライダーの降魔拳士・en0012)が、ぐっと拳を握り締めながら気合を入れる。
 人々が復興で喜ぶ姿を想像しながら、ハロウィンパーティーに思いを馳せるのだった。


参加者
シュミラクル・ミラーゲロ(ヴレイビングキャンセラー・e01130)
藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)
塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)
リィ・ディドルディドル(はらぺこディドル・e03674)
七星・さくら(桜花の理・e04235)
ミニュイ・シルヴェイラ(菫青石・e05648)
リリー・シュティーリム(ウェアライダーの刀剣士・e06150)
夕張・綾香(レプリカントの鎧装騎兵・e17030)

■リプレイ


 今から一ヶ月以上前、ここ鎌倉市は鎌倉奪還戦によって世界で一番の被害を受けた。
 そして現在。復興活動によって賑わいを取り戻しつつある街は、ハロウィンパーティーで世界で一番の注目を浴びている。
 パーティーが開催される会場の周辺を、ミニュイ・シルヴェイラ(菫青石・e05648)がキープアウトテープを貼って、一般人が入り込まないように防止していた。
 ハロウィンパーティーを狙って人々を襲おうとするドリームイーターを倒す為、開催するより前にケルベロス達がパーティーを装ってドリームイーターを誘き出そうという作戦だ。
 ちなみにテープを貼ったエリアがカボチャの形になっているのは、彼女のほんの遊び心だったりする。
 黒猫耳に黒とオレンジ基調の魔女に扮したミニュイは、準備を終えるとふわりと空に舞い上がり、クラッカーを鳴らして開幕の合図を告げる。
「ハッピーハロウィン! パーティーの始まりです♪」
 その瞬間、会場は集まったケルベロス達で拍手と歓声に包まれた。様々な仮装をしてきたケルベロス達は、お菓子やジュースを用意してパーティーを楽しんでいた。
「ハッピーハロウィーン! ドリームイーター、上手く誘き寄せられるかな」
 リリー・シュティーリム(ウェアライダーの刀剣士・e06150)はシスターの衣装を身に纏い、会場の飾り付けの続きをテキパキと行っている。
「ふふ……実はこの日の為に張り切って参りましたの」
 魔女のお師匠様として、紺色のミニスカと三角帽子の衣装に身を包んだ藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)が、お菓子を詰めたバスケットを手にして会場を練り歩く。
「ハッピーハロウィーンなのじゃ。飴をやろう」
 こちらも魔女の衣装姿の綾がお菓子を渡そうと声をかけると。
「お菓子ももらえるなら、ありがたく頂戴するかな」
 吸血鬼に仮装した塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)が、紳士的な立ち振る舞いでお菓子を受け取って、自前で用意したカボチャクッキーをお返しに手渡した。
「みんな楽しんでるみたいだね。ジュースを持ってきたから、いっぱい飲んでね」
 キツネ耳を付けた夕張・綾香(レプリカントの鎧装騎兵・e17030)も、つい食べ物の方に集中してしまう。
「今日はみんなの為にお手伝いするから、思いっきり楽しんでね♪」
 猫宮・ルーチェ(ウェアライダーの降魔拳士・en0012)が明るい声で呼びかける。メイド服姿の彼女は、慌ただしく料理をテーブルに運んでいた。
「私はただの通りすがりですよ~」
 こっそりつまみ食いをしようとしていたヒマラヤンはメイド服を着ていたせいか、ルーチェに連れていかれて手伝う羽目になっていた。 
「ボクも手伝うよ!」
 ジャックランタンに仮装したミリムは、手慣れた動作でケーキやパイを並べていく。 
 吸血鬼に扮した苺も、もらったお菓子を食べながら料理運びの補佐をする。
「はぁ~、とっても素敵ですわ……」
 獣耳に興味津々なミニュイは、獣耳仮装者や獣人達が集まっている光景に思わずうっとりと見惚れていた。
「本当は気乗りしないのだけど、作戦上仕方がないの」
 素っ気ない言葉とは裏腹に、そわそわと落ち着かない様子なのは、魔女の仮装で参加しているリィ・ディドルディドル(はらぺこディドル・e03674)。
 一緒に参加している友人達とお揃いのカボチャランプを持ちながら、お菓子の家を作っている最中だ。
「お菓子の家、僕も作る!」
 悪魔の翼と尻尾とツノで少年サキュバスに扮したカルメネールも、お揃いのランプを引っ提げてお菓子の家作りのお手伝い。バスケット一杯の飴を水飴で繋げて、ステンドグラスの窓に仕立てるつもりだ。
 フキの葉っぱの傘を持ったコロポックルの仮装をしているアルネは、肩に下げた鞄からお菓子を取り出して家のパーツを埋めていく。クッキーや板チョコは壁や家具。マシュマロを椅子に見立ててコーディネイトする。
 ふと、リィがすっと手を伸ばし、ここのデザインが今ひとつと注文を付けてお菓子をひょいっとつまみ食いする。そうした彼女の行動も想定内で、お菓子の家作りは和気藹々と進んでいった。
「トリック・オア・トリート! お菓子くれないとイタズラしちゃうわよ?」
 ペンギンの着ぐるみ姿でペタペタと可愛らしく動き回る七星・さくら(桜花の理・e04235)の手には、ビデオカメラが握られている。
 彼女の友人の【特科刑部局】の面々が、パーティーを盛り上げる為に寸劇を行うので、その様子を撮影しようというわけだ。
 間もなくして、会場中に音楽が鳴り響く。音響を担当する次郎が流したのは、どこかニュースっぽい曲だった。
 同時に、狼の着ぐるみを着た帳が現れる。続いて赤い頭巾の少女に扮したミヤビが、マイクを手にして近付いていく。どうやら突撃リポーターという設定らしい。
「突然ですがハロウィンでは何をしますか? ちなみに趣味は? 彼女とかいます?」
 質問攻めにうんざりして、狼は慌てて逃げ出した。後を追うと一軒の家に辿り着き、中にはお婆さん(に扮した狼)がベッドの中で眠っていた。
 しかし構わず質問し続けて、やがて変装が解けて正体が露見してしまう。音楽が一転して重苦しい曲調に変わって、狼を激しく追及するリポーターという構図になっていた。
 そこへ猟師役の数馬が騒ぎを聞きつけて飛び込んできた。現場の状況を確認すると、本気の眼差しで刃を抜こうと身構える。
「ひぃっ! お婆さんは留守で、来客があったので変装して出ただけなんですよぅぅぅ!」
 涙目で無実を訴える狼に、問答無用とばかりに猟師は斬りかかる。
「鬼はトリックオアトリート! 福もトリックオアトリート!」
 唐突に、イルカ着ぐるみの睦葉が猟師にキックをぶちかます。その勢いで出演者全員が巻き込まれ、ドタバタ状態で幕が閉じたのだった。
「あらあら、どうやらいらっしゃったみたいよ?」
 漆黒の西洋甲冑に、首元に分かれ目のようなペイントを施してデュラハンの仮装で臨んだシュミラクル・ミラーゲロ(ヴレイビングキャンセラー・e01130)が、会場付近の物陰に隠れている人影……いや、モザイクに気が付いて注意を促した。


 黒い翼にツノと尻尾と、ゴシックな小悪魔の衣装を纏った全身モザイク人間――ドリームイーターが、少しずつ近寄ってきて会場の中に紛れ込もうとしていた。
 ケルベロス達は敢えて気付かないフリをして、そのままパーティーを続けてドリームイーターを会場内にさり気なく招き入れる。
 パーティーに参加したドリームイーターは、きょろきょろしながら獲物を物色し始める。まず最初に目に留まったのは、リィだった。
 すっかりパーティーを楽しんでいて、脇目も振らずお菓子の家作りに集中している彼女の背後に、モザイクの影がそっと忍び寄る。
 鍵型のステッキを手に握り締め、目の前のドラゴニアンの少女に突き刺そうとした瞬間――家作りに専念していたリィが、振り返る事なく後ろに感じる気配に言葉を投げかける。
「いらっしゃい、小悪魔さん。一緒にパーティーを楽しみたいのなら歓迎よ。でもそうでないなら……少しお仕置きが必要ね」
 いきなりの反応にビクッと身体を震わすドリームイーター。この場は一旦出直そうと後退りしようとするが、いつの間にかケルベロス達が武器を構えて取り囲んでいた。
「ち、ちょっと何なのよ! まさか、それで私をどうしようというつもり!?」
 待ち伏せされていたとは思いもよらず、ドリームイーターはただ狼狽えるばかりだった。
「悲しいけどマナーはあってね、守れなさそうなあなたはお帰りいただくしかないのよ」
 シュミラクルが言うや否や、腰に装着した二丁のレーザーライフルから一斉に光線が発射される。会場中に号砲が轟いて、パーティーの第二幕目が開始された。
 初撃をかろうじて躱したドリームイーターは、そっちがその気なら遠慮はしないと息巻いて、歯向かってくる地獄の番犬達を迎え撃つ。
「折角のパーティーを台無しにしようだなんて、無粋な方ですわ。ふふ……早く倒して仕切り直ししなくては、ですわね」
 戦いにおいても千鶴夜は普段と変わらない笑みを漏らしつつ、天性の射撃技術が繰り出す迅速の早業でマスケット銃の引き金を引き、放たれた弾丸は迫り来るドリームイーターの肩を撃ち抜いた。
「そうそう、パーティーなんだから。あなたも一緒に騒いで楽しみましょう?」
 どうせなら永遠に。そう付け加えてさくらは指輪を嵌めた手を翳すと、空間が渦を巻いて塊が精製されて、時空を凍結させようと冷気を帯びた弾を撃ち込んだ。
「生意気なっ……! だったらみんな纏めて食べてあげるわよ!」
 ドリームイーターがモザイクを巨大な口の形に変化させると、お菓子の家ごとリィを丸飲みして喰らおうと襲いかかった。
「どうやら我慢出来ずに入り込んだようだけど、お菓子はともかく夢は喰わせないよ」
 だがそうはさせじと宗近がいち早く駆け寄って、培ってきた剣技を活かした達人級の一撃でドリームイーターを薙ぎ払う。
「パーティーを楽しみにしている人達の、幸せを奪わせはしない!」
 体勢を崩したドリームイーターに、綾香が桜吹雪舞う幻影で攪乱しながら刃を走らせ斬りつける。立て続けに仕掛けてくるケルベロス達の攻撃を耐え凌いで、ツインテールの小悪魔少女がくるりと身を翻して反撃に転じる。
「こんなお祭りの何が楽しいの……。ハロウィンなんてなくなっちゃえばいいんだ!」
 突き出した鍵型ステッキは小柄なリリーの身体を捕らえ、肉体を斬り裂くと同時に彼女のトラウマを具現化させる。
「ここは……? 師匠、それに……みんな、どこに行っちゃったの!?」
 心に深い傷痕を残した辛い記憶を呼び起こされて、リリーは頭を抱えて苦しみ悶える。
「すぐに助けてあげるわ! これで目を覚まして……!」
 さくらが強く念じると、オーロラの輝き放つ眩い光がリリーを優しく包み込み、邪気を払い除けて彼女を苦痛から解き放つ。
 また、大胆な水着姿で悪魔の仮装と言い張るマイアが桃色の霧を発生させて、快楽の力で仲間の傷を癒していく。
 更にキョンシー姿の瑞咲が、秘伝の書物に記録されし魑魅魍魎を顕現させて、ドリームイーターを抑え込む。
「デウスエクスっていうのはどうしてこうも人の弱みに付け込むのかしら。……意地汚ねェ性格が顔に出るわよ?」
 もっとも、モザイクじゃ表情も分からないわねと、シュミラクルは粗野な言葉交じりで不敵に笑いながら、虚なる力を宿した大鎌を振り下ろす。
「うるさい……! もうみんないなくなっちゃえ!」
 ドリームイーターは必死に抵抗してなりふり構わず攻撃するが、ケルベロス達のペースで進んでいる今の状況では分が悪い。
「あらあら。悪戯好きな子は、たっぷり悪戯のお返しをしちゃいますよ」
 ミニュイが聞き分けのない我が侭な子供を躾けるように、伸ばした鎖でドリームイーターを縛りつけて動きを封じる。
「さて、と……何本当たるかしら?」
 千鶴夜が太腿のホルスターに仕込んだナイフを投擲すると、純銀の刃がドリームイーターを穿ち、斬り咲く『剣』は緋の道を彩った。
「ハロウィン楽しみたいなら一緒に楽しもうよー。でも、みんなの邪魔はさせないよ」
 過去の因縁から解放されたリリーが、この好機を逃すまいと剣を振るう。霊体化した刃はドリームイーターの防御を掻い潜り、華麗にモザイクを斬り裂いた。
「ボクを救ってくれた人との約束を守る為、ボクは戦う!」
 かつて救われたこの命。今度は自分が助けを求める人達を守る番だと綾香は強い決意を胸に秘め、雷を纏わせた刃で渾身の突きを繰り出してドリームイーターを刺し貫いた。
 ここは手を緩めず一気に畳み掛けようと、宗近は瞬時に判断して剣を構えた。身の丈を超すほどの巨大な鉄の塊を高々と頭上に掲げる。
「残念だけど、これで終わらせてもらうよ。この一撃の重さが……全てを証明する!」
 剣を握る右腕に地獄の炎が燃え盛る。自身の全てを込めた最大火力の一振りがドリームイーターに重く圧し掛かり、最後の抵抗も虚しく小悪魔少女は豪快に叩き伏せられた。


 力尽きたドリームイーターの身体が崩れ落ちて地面に倒れると、ポンッと爆ぜたような音と共に小さく煙が巻き上がり、モザイクが砕けてコウモリ型の飾り付けに変化した。
 シュミラクルがそれを拾い上げ、入り口の看板の目立つ位置にペタリと貼り付ける。
「……まぁ、次回からは普通に捻くれないでおいでなさいな。私で良かったら、食べに行くくらいなら付き合うわよ?」
 こうして無事に勝利したケルベロス達は、戦闘によって壊れた会場を直しながら、全員で協力して再度パーティーの準備に取りかかるのだった。
 戦闘で壊れた箇所を、さくらはヒールグラビティで修復していく。幻想的な形に変わる会場は、ハロウィンの雰囲気に違和感なく溶け込んでいた。もしツインテールの少女が会場に来たら一緒に誘ってみようと、桜色の瞳で空を見つめながら考えるのだった。
「みんなお疲れ様! お腹も空いたと思うから、たくさん食べて腹ごしらえしてね♪」
 ルーチェが満面の笑顔で仲間達の労をねぎらった。彼等の活躍によってドリームイーターの脅威が消え去った今、人々は何の憂いもなくパーティーを満喫出来るだろう。
「さあ、ここからは本当のパーティーを楽しみましょう」
 ミニュイは籠に入れたカボチャのラスクを一撮みして、彼女の服と同じ色のリボンを付けたボクスドラゴンのガウェインの口に運んだ。美味しそうに頬張っているその姿に、彼女も和んでにっこり微笑んだ。
「ぴー! シアもおうちつくるー! みんなでつくるのたのしーねー!」
 ミツバチの仮装で無邪気にはしゃいでいたシアが、再開したリィ達のお菓子の家作りに目を輝かせる。
 こっそり作った隠し玉、ハロウィン風の綿飴お化けを屋根に乗せて、絵本の世界から飛び出したようなお菓子の家がついに完成した。最後の仕上げにロウソクを立てて、リィは目配せで合図を送る。
「ハッピーバースデイ、シアさんお誕生日おめでとうございます!」
「えへへ♪ ハッピーバースデイ、シアちゃん。おめでとうございますね」
 リィとお揃いの魔女の仮装をしてきた華とメリノを始め、旅団の仲間達が次々にお祝いをする。カボチャランプを並べてお菓子の家を明るく照らし、土台のパウンドケーキに『Happy Birthday!』と書き添えて、お祝いムードを更に盛り立てる。
「ハッピーバースデイ、シア。ハロウィンのお姫様に、お家のパーツの好きな部分を食べていい権利をあげるわ」
 大切なお友達へのとっておきのサプライズ。特別な一日を思い出に残そうと、誕生日を祝福する幸せな歌声が会場中に響き渡った。
「お師匠さま、一緒に食べ……わあ、ちぃのもおいしそ……! わけっこしたってー!」
 幸せのお菓子を作る魔女見習いに仮装したキアラが、揚げたチキンを小釜に盛って千鶴夜の元にやってきた。そうですね、わけっこしましょうと、魔女のお師匠様は穏やかに微笑み返す。
「わぁ、二人とも仮装が良く似合っていますね」
 普段の見慣れた姿とは異なる衣装だと新鮮に映えると、景臣は感嘆の声をあげる。その彼が仮装しているのは、愛娘が用意した使い魔の黒猫だった。二人が楽しそうに話している姿を眺めていると、無意識のうちに唇が緩む。
「……何ですか、笑みなんて浮かべて。ほら、父さんも食べたら如何です?」
 父親の笑顔に千鶴夜も自然と笑みが零れる。ありふれた他愛もない会話、けれども掛け替えのない時間。
 失った過去を巻き戻す事は出来ないけれど、すぐ側にある小さな幸せと、大切な誰かがいるから現在を生きられる。
 今日という一日はもう二度と巡って来ない。ケルベロス達はそれぞれに、この日の出来事を心の中に留めるのであった。

 こうして本番を迎えるハロウィンパーティーは、鎌倉の人々の心に潤いをもたらして、共に喜びを分かち合いながら、やがて街全体が復興に向けてかつての活気を取り戻すきっかけとなるだろう――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 1
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