ひつじの肉こそ至高!

作者:狐路ユッカ

●ひつじのおにくはよいおにく
「ジンギスカンは……美味しい!」
 人里離れた廃屋で、ビルシャナはガスコンロにカセットボンベをセットすると、その上にジンギスカン鍋を乗せて高らかに宣言した。
「おおおおう!」
「ジンギスカン最高!!」
「タレでも、塩でも、ジンギスカンは……最高ッ!」
 ビルシャナは熱したジンギスカン鍋の上にラム肉を並べていく。
「うおおおおおおっ!」
 信者が生唾を飲み込んだ。独特の羊の肉の香りが辺りを包み込む。
「そして、この鍋の所に溜まった油で野菜を炒め、うどんを……炒めるッ!」
「神かよ」
「最高」
「これぞ至高の食品」
 信者達は口々に言い、ジンギスカン鍋に向かって手を合わせた。
「ラム肉を臭いという輩等理解できん。この世の食肉は全て羊であるべきだ……」
 ジンギスカン鍋を背に背負ったビルシャナは、恍惚とした表情でそう告げるのであった。

●にくおいしい
「ジンギスカンねぇ、美味しいけどねぇ」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は、また変なのが出たと深いため息をついた。
「ジンギスカン」
 ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は繰り返して、一つ頷いた。そういえば、日本に来てからジンギスカンはまだ食べていない。
「うん。ジンギスカンを愛するあまり、ジンギスカン以外のお肉を認めないし羊の肉を臭いっていう人を絶対に許さないビルシャナが現れたんだ。……まあ、食の多様性を守るという事で」
 ひとつよろしくね、と祈里は頭を下げる。
「信者の数は8名。みんなジンギスカンが大好きで、他のお肉は無くていいってさえ思っている過激派だよ。あと、ジンギスカンを否定することを言うとめちゃくちゃ怒るよ」
「ジンギスカンを愛することと、他を排除することを一緒にしてはなりませんね。……行きましょう」
 ナズナはすっと立ち上がる。このままでは、ビルシャナが信者を増やして他のお肉を撲滅しにやってくる。
「うん。頼んだよ。……あ、ビルシャナ達が使ってるジンギスカン鍋、撃破後に使わせてもらってジンパなんかも良いね」
 さらっと凄い事を言って、祈里はケルベロス達を見送るのであった。


参加者
シルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)

■リプレイ


 ビルシャナが肉を焼く廃屋に乗り込んだケルベロスたちに、信者及びビルシャナはざわつき敵意をむき出しにした視線を向けた。チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)は歩み出て説得を試みる。
「羊はふわふわしてかわいいし、食べるよりも愛でるといいんだよーっ。食べるのは牛さんとか豚さんとかでオナシャス!!」
 チェザご本人も羊であるからにして、ここでラム肉を食べると共食いになってしまう。なんとなく鶏肉もお勧めしたいところだったが、ビルシャナがいるので控えてあげたあたり彼女のやさしさである。
「うるさい! この食材がぁ!」
 なのに、そんな彼女の優しさを踏みにじるようにビルシャナは遮るのだ。そこで、白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)は叫ぶ。
「私は止めませんよ。どんどんジンギスカンを食べようじゃありませんか!」
「お、おおっ!?」
「てっきり我らの邪魔をするものとばかり」
 なんだ入信希望者かと笑顔で歩み寄ってくるビルシャナに、佐楡葉はにこりと笑った。そして。
「あれれ?」
 チェザをひょいと抱き上げるとどこからか取り出した巨大なまな板の上に乗せる。
「その一歩としてとりあえずそこの羊を解体してください」
 そして、包丁をまな板に突き刺すと信者たちへと差し出した。
「あわ」
 チェザはまな板の上から逃れようとちたちた暴れているが、佐楡葉が阻むので逃げられない。まあ、まさか佐楡葉も本気で彼女を解体しようなどとは思ってはいるまいが。
「え、ちょ」
「なにむごいごとを……」
 信者がざわつき、ドン引きしている。
「まさか出来ないとは言いませんね?」
「いや、できねーよ!」
 うら若き乙女(ラム肉)を解体するなど、狂気の沙汰と言わんばかりに信者は首を左右に振った。
「羊だけが食肉となる世界になったら一家に一匹羊を飼って自前で捌く未来が訪れるかも知れませんよ?」
 まあ、この子はウェアライダーですが。本当の羊を丸々一頭、解体することなど一般人には困難だ。
「は?」
「片や需要のなくなった牛や豚たちは無闇に処分され――羊の飼育ノウハウが無い業者さんは時代に付いていけず廃業し一家離散」
「えっ」
「そういう未来に対して責任取る覚悟はあるんですよね???」
 ずい、と詰め寄る佐楡葉に信者の一人はヒッと息を飲み込んで逃げ出していった。反論するすきを与えない見事な勢いだった。
「あぁ……チェザ、こんなに美味しそうに焼かれ……あれ、チェザ無事じゃないの」
 駆け付けた宝生・千穂はジンギスカン鍋の上のラム肉とまな板の上からひょいと降りるチェザとを見比べ、そして焦げそうになっている肉に箸を伸ばす。もったいないもんね。
「なんなのだ! そのような戯言に心惑わされてはならぬ!」
 ビルシャナはばっと翼を広げて、そして新たな肉を開封する。
「ちょっとお邪魔するよー」
 颯爽と持参したクーラーボックスを開けたのはアマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)だ。その横には保温ジャーに入れた料理を並べ、バーベキューセットまでご丁寧に設置する。
「ん?」
 戸惑うビルシャナにずびしぃっと指を突き付け、アマルガムは問うた。
「羊肉は……うまい! そうだね?」
「いかにも」
 即答するビルシャナにアマルガムは頷く。
「でもね、だからこそジンギスカンだけにしとくのは勿体無い!」
「そうであるな、ラムチョップやラムステーキ、煮込みも捨てがたい。が、至高はジンギスカンよ」
 ビルシャナは嬉しそうにうなずく。
「そして他の肉の美味しさを知らないのも同様だっ」
 バッ、とアマルガムが開いたランチジャー、そして鮮やかな速度で網に置かれていく豚肉牛肉お野菜たち。
「貴様!」
 ビルシャナはラム肉以外を調理しだしたことに怒りを露わにした。
「羊肉のシチュー、ソテー、炒め物、絶品だ!」
「おう!」
 それはわかる。信者の一部はうなずいている。しめしめ。
「でも牛肉のシチュー、豚肉のソテー、鳥肉の炒め物だって美味しいんだよっ!」
 それを振る舞った流れで、勢いに任せてついでにほかの肉も勧めるという算段だ。
「何よりっ、串焼きはっ、どれもっ、サイキョーにっ、おいしいっ!!!」
 お、新しい教義が生まれたぞ。
「た、確かに! これうまい!」
 陥落。信者の一人はおいしそうに豚串をほおばっているではないか。ぎろり。にらみつけるビルシャナの視線に固まった信者を、グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)が外へと誘導した。その時だ。何かかぐわしい香りが……。


 じううう。
 扉を開けた先では、ケルベロスたちによる焼肉大会が行われていた。
「あ、頂いてます」
 しれっと言い放ち、ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は鶏肉を食べながら視線だけビルシャナへ向ける。
「ぐっ、貴様ら!?」
 ラム肉以外を食べるなど、と言いながら大股で近づいてくるビルシャナと信者たち。
「分かります、分かりますよー。ラム肉のこの美味しさ……ちょっとしたクセがまたたまらないんですよね」
 肉をほおばりながら、アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)はそう言った。ビルシャナはきょとんと目を丸くする。
「あ、ごめんなさい。ちょっとタレとってもらえますか?」
「お、おう」
 ジンギスカンのタレを手渡すビルシャナ。アイカはラム肉の次に、豚肉へ手を伸ばした。
「あっ、邪道な」
 言いかけた信者を制し、アイカは首を横に振る。
「確かにラム肉が美味しいのはその通りだと思いますが、全てのお肉がラムというのは勿体ないと思いませんか? すき焼きや串焼き、ステーキなんかも全部ラム肉でと言うのでしょうか?」
「ぐ」
「他のお肉があるからこそ、ジンギスカンを食べたときの美味しさをより感じられるのです!!」
 ぴしゃあん。信者に衝撃が走った。
「そ、そうか……! 他を知ることでラムの良さが際立つ!」
 新たな悟りを開いた信者は豚肉へ箸を伸ばす。
「むぎいいいい!」
 ビルシャナは癇癪を起している。
「皆様視野を広く持たねばなりませんであります! 世の中には美味しいものが、たくさんあるのであります! お肉もしかり!!!」
 ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)は朗々とプレゼンを始めた。
「豚肉のおいしさ、鶏肉のぷりぷりとした歯ごたえ……食べたい、牛肉の風格のある味わい!」
 じうう、と鉄板、網の上で肉が焼けていく。グレイシアは極上の牛肉を網でさっと炙ると、見せつけるように皿へと運んだ。
「羊の肉が悪いとはいわないけど……色んな肉を食べて、その味を知ってるからこそ羊のより良さってものを語れると思うんだよねぇ。一つのものだけに執着して視野が狭いと損するよぉ」
 分厚い極上ヒレステーキを思わせる牛肉を口へ運ぶと、ある信者の視線を痛いほど感じる。
「いる?」
「い、いらん」
「そぉ。じゃオレが食べるねぇ。正直人に食べさせるのって勿体ない位良い肉だからねぇ」
 ぱく、ともう一切れ。ろくに噛んでいないのに次の言葉を話せるということは、その牛肉が柔らかく上質なものであるということ。
「んんん」
 信者は歯噛みしている。
「もちろんラム肉も美味しいであります、ですがそれに固執するのはあまりにも、もったいないであります!!」
 ルソラは、グレイシアが食べている牛肉に目を遣り、一切れいただいてもいいでありますか? と問うた。もちろん、とグレイシアは笑顔でルソラの紙皿に牛肉をとってやる。
「いただきます!」
 ゆっくりと見せつけるように牛肉を口に運び、そしておいしそうに咀嚼する。
「おいしいであります!」
 大変おいしそうに召し上がるもんで、信者はついに泣き出してしまった。
「う、うぐ」
「強がって……ほら」
 グレイシアに差し出された牛肉を、ついに一口。
「美味いぃい!」
「ぐああ! 裏切者めぇえ!」
 かくして、一人信者はビルシャナから離反する。畳みかけるように瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)が分厚い牛肉を残された信者の目の前に突き出す。
「口の中で溶ける一見して高級だと分かるこの肉を見るといい。美味いぞ、本当の本当に美味しいぞ……!」
「ふ、ふえ」
 いいんだな? 俺が食っていいんだな? その視線に信者はたまらず小さな声で懇願する。
「く、くだしゃい……」
 うん、と頷いた灰が牛肉を渡してやると、信者は泣きながら牛肉をほおばった。
「うめえ! うめえよお!」
「やっぱり高い肉は美味いんだな。羊ばかり食べるより美味しい肉を沢山食べるのも健康に良いと思うぜ」
 うんうん、と頷く灰、信者はすっかりこちらの鉄板へ移っている。
「我々はここに! 羊以外は食べません!」
 残った信者3人がラム肉を掲げて叫ぶ。ビルシャナは満足そうにうなずいた。が。そこでシルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)が口を開いた。
「だいたいっすよ、みんなが牛や豚といった他のお肉を食べるのをやめて羊しか食べなくなったらどうなると思うっすか」
「えっ」
「羊が足りなくなって羊の肉は高級品になるっすよ。そうなれば気軽に食べれるものじゃなくなるっすよ、それでもいいんっすか」
 一人の信者の顔がさぁっと青ざめる。
「そ、それは」
「おい待て、それなら増やせばいいだけのこと」
 ビルシャナの言葉を、シルフィリアスが遮る。
「羊を増やそうにも羊を育てるのに適した土地がどれだけあると思ってるんすか」
「うっ」
 少し考え込んで、信者の男は悟ったような顔を見せた。
「そうだな、価格高騰はやばいよな。控えるようにするよ」
 そして、くるりと踵を返すのであった。
「えっ、えー!? 消費拡大したらもっと供給も……ねぇってば!」
 ビルシャナは慌てている。が、すぐに気を取り直し、震える指先をこちらへ向けた。
「もう……許さん! 行け、羊の徒たちよ!」
 といっても、もう二人しか残っていないのだが。二名の男が、ケルベロスめがけ突撃してくるのであった。


「っと!」
 灰と尾神・秋津彦が信者の前に躍り出て、手加減攻撃を叩き込む。文字通りワンパンで信者はその場に沈んだ。
「肉の匂いに釣られて来ましたか?」
 佐楡葉は駆けつけてくれた仲間たちに笑いかけ、そしてビルシャナに向き直る。そして、手のひらから燃え盛るドラゴンの幻影を放ち、焼き捨てる。
「うご! 焼き鳥になるだろうがぁ!」
 大きく振りかぶって、ビルシャナはミニチュア鍋を勢いよく投げつけてくる。そこへアマルガムと梟男爵が滑り込むように割り込み、彼女を庇った。
「なかなかあっつく焼けた鍋だね……!」
「ラム肉パーティーの会場はここですか?」
 颯爽と現れたのはサングラスをかけてシャツの前を大胆にはだけさせ、腕まくりをした玉榮・陣内だ。ちゃっかり信者たちが使っていたコンロでラムのフレンチラックを焼いていたのだった。
「ん? なんだ貴様は」
 ビルシャナは非常にラム臭い彼に少しの油断を見せる。と、陣内は塩を高い位置からファッサァ、とやろうとして失敗し自分でひっかぶってしまった。
「……」
「うう、格好良い……例え胸元が塩まみれでも」
 同行した新条・あかりはそんな彼のカッコよさ(?)に身もだえている。作ったソースを横へ置いて、彼の胸元を拭いながらそう呟いた。
「美味しそう……」
 ぽつり。ビルシャナは零す。今だとばかりに、あかりは手から炎を放ち、ビルシャナを焼き鳥にしてさしあげた。
「んぎゃ!」
 ナズナが弓を放つ。
「焼き鳥なら串に刺さなければですね」
「ぴぎ!」
 続くようにして、愛らしくポーズを決めてからシルフィリアスが杖を振った。ほとばしる雷がビルシャナを打つ。もんどりうって倒れたビルシャナは悔し気に何か唱え始めた。
「ラム肉至高、他肉排除……」
 仲間を守るべく前に出た灰は不快なその声に眉を顰める。
「あの癖のある味わいは理解できない……っ」
 教義にも反対だがそれ以上に念仏がガッチリ効いている。そんな彼と前衛の仲間を鼓舞するように、夜朱が清浄の翼で羽ばたいた。
「がんばれ♪ がんばれ♪」
 チェザも愛らしい羊さんを召喚し、ふわふわもこもこと彼を癒していく。ルソラは珍妙な念仏を唱えるビルシャナの顔面めがけて螺旋氷縛波を放った。
「ラムにk……ぶごっ」
 続けて、シシィがボクスタックルで突撃。ふわもことはいえ当たると痛いぞ。
「ルソラも頑張るでありますよ!」
 ふんっ、と元気よく告げたルソラのツインテールが揺れる。ビルシャナはきつと彼女を睨みつけると、念仏を邪魔された怒りを露わに立ち上がった。
「風よ、私の声が聞こえますか」
 次の攻撃が及ぶ前にと、アイカは前衛に立つ仲間を優しい風で包み込む。
「これ以上の邪魔立ては許さぬ……!」
 ビルシャナの指先から閃光が迸った。臭い。大変に羊臭い。おいしそうといえばおいしそうだが、臭い。ナズナが口元を覆ってしゃがみこんだ。
「おかしいですね、新鮮でおいしいラム肉は臭くないのですが」
 アイカがうなずく。
「クセはあれこそ、臭くはないですよね」
 連れているぽんずもむっと鼻の頭にしわを寄せている。猫は鼻が利く。ビルシャナも己の閃光のにおいがあまり美味しくなさそうという感想に折れたのか(力尽きただけかもしれない)やがて腕を下した。そこを狙い、グレイシアが近づく。
「じゃあ、冷凍しちゃおうかぁ」
 にやり、と黒い笑みを浮かべ、空気を凍らせる。無数の氷の針が、ビルシャナへと突き刺さった。
「ひぎっ」
「これでとどめっす! グリューエンシュトラール!」
 シルフィリアスが魔力を集めたロッドを振るう。光を纏った強大な光に押しつぶされるように、ビルシャナは消えてゆくのであった。残されるは、ラムのかほりと鍋と網。


 グレイシアは崩れかけていた箇所へヒールをかけ、クーラーボックスへ視線を向ける。
「まだお肉残ってる?」
 もちろん、と灰とアマルガムが頷いた。
「肉はまだあるからな。どんどん食おうぜ」
「お肉ぱーちー!」
 チェザもラム肉以外は食べられる、と張り切っている。
「お肉パーティーと聞いて罷りこしましたぞ! でもチェザ殿、今日は食材ではないのですか……?」
 秋津彦のそんな問いにチェザは首を横に振った。そして、彼が持ってきたジビエに視線を向ける。
「イッヌのジビエ、熊とか猪は初めて食べるなぁん」
 焼いてみよう、と網へ。ちらと視線を佐楡葉へ移した。わかっているとばかりに佐楡葉はトングを手に取る。
「焼くのは任せてください、慣れてますから。な、らっむ」
「実家直送の旬のお野菜、いっぱい持ってきたからたべてたべて!」
 千穂が野菜を網へ並べていく。
「チキンを持ってきたよ。別にビルシャナは関係ないから安心しておくれ」
 ティユ・キューブも仲間を助けるべく戦闘に参加していたが、持ってきた肉はちゃんと市販品だ。チェザが共食いする事態を避けるべく、新鮮な鶏肉を掲げた。
「皮もジンギスカンダレを借りてパリパリに焼こう」
「わーい!」
「ジャンジャン食べてねぇ」
 駆けつけてくれた仲間たちにも、とグレイシアは最高級の牛肉を振舞った。どこからか、信者も戻ってきてその様子をじっと見ている。
「みんなも一緒にどうっすかー」
 シルフィリアスが元信者たちにも声をかけてやった。肉が余ったら持ち帰ることになる。どうせなら新鮮なうちに皆で食べきってしまうのがいいだろう。
「癖があるけど美味しいっすよねー」
「食いしん坊の子たちが多いですし、食べるより焼く方が忙しいですね」
 苦笑しつつ、佐楡葉がトングで肉をひっくり返す。焼けた先からなくなっていく肉。
「尾神くんは野菜もバランスよく食べるんですよ」
「もちろんちゃんとお野菜も頂きますぞ! 肉汁を吸って良い感じですな」
 皿にこんもりと盛られた野菜も、ぺろりと平らげてしまう。
「しあわせだねえ」
 アマルガムはもぎゅもぎゅと肉を頬張り、目じりを下げた。
「ほら、口元拭きな」
 ティユに指摘され、秋津彦は慌てて口元を拭い赤面する。
「ナズナも肉を食ってるか?」
 灰に問われ、皿にラム肉を一枚もらってナズナはありがとうございます、と笑った。うんうんと灰が頷く。
「なんでも食べて体力付けた方がいいぜ。夏は特に、暑さで体力削られてくしな」
 涼しい土地で育ってきたナズナに日本の夏は確かに暑い。そうですね、と首肯し、ナズナはおかわりを口に運んだ。切り分けられた肉にがっつくぽんずを抱き上げると、アイカは笑いながらタレべたべたになったぽんずの口元を拭いてやる。だいぶ肉が減ってきたほうの鍋に、チェザがうどんとジンギスカンのタレを投入した。
「ジンギスカンのタレと合わさったうどんも、とても良いものなんだよー♪」
「〆のうどんは食べたことないのでありますよ! おいしそうでありますね!」
 ルソラはうどんが煮えるのが待ち遠しいとばかりに鍋をのぞき込む。アイカとぽんずも白米を頬張りながらうどん待ちだ。
「美味しいジンギスカン出す店知ってるから今度一緒にデートしない?」
 鼻歌まじりにアマルガムはナズナへそう笑いかけた。
「お外でのジンギスカンも良いですが、皆さんでお店で食べるのもいいですね」
 すっかりジンギスカンもお気に入りになったようだ。
 日本にはまだまだおいしいものがたくさんある。そう確信したのであった。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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