氷の巨鳥、夏に現る

作者:白鳥美鳥

●氷の巨鳥、夏に現る
「毎日、暑いっ! 暑いけどっ!」
 山の頂上を目指しながら、今日子は山道を登っていく。背負ったリュックが重たいが、これから先に現れる存在を考えれば、そんな事は気にならない。
「この真夏に、真夏に吹雪を起こす巨大な氷の鳥が現れるなんて! その姿を見たものは氷に覆われて凍え死んでしまう、なんて話もあるけど……やっぱり、太陽の光の中を飛ぶ氷の鳥だなんて素敵じゃない! 未知に危険はつきもの! 絶対にカメラに収めるわよ!!」
 気合を入れ直して、今日子は足を進める。そんな彼女の前に、第五の魔女・アウゲイアスが現れた。アウゲイアスは、持っていた鍵で、今日子の心臓を一突きにする。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 崩れ落ちる今日子。そして、彼女の傍には氷で出来た巨大な鳥が現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、夏に入って毎日暑いけど、元気にしてるかな?」
 そう言いながら、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話を始めた。
「実は、ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)が予知した事件が起きてしまったみたいだ。夏に氷の巨鳥のドリームイーター……何だかちょっと色々思う所があるよね。とにかく、このドリームイーターが事件を起こす前に倒して欲しいんだ。無事に倒す事が出来れば、きっと被害者の人も目を覚ましてくれるんじゃないかな?」
 続いて、デュアルは状況を説明する。
「場所は山の山頂だ。真昼の太陽が高く上がっている時間帯だよ。ドリームイーターは全長2メートル位の鳥の氷像みたいな姿をしている。勿論、本当の鳥みたいに飛ぶし、氷の姿だけあって、周囲には冷気を纏っている。そして、吹雪も巻き起こせるんだ。……温度差が急激に変わる戦いになりそうだから、気を付けてね。それで、このドリームイーターなんだけど、誰かを見つけると『自分は何者?』みたいな問いかけをしてくる。それに正しく対応できなければ殺してしまうんだ。でもね、このドリームイーターは自分の事を信じていたり、噂をしている人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるんだ。だから、これを上手く利用すれば、有利に戦えるんじゃないかな?」
 デュアルの話を聞いていた、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は氷の鳥に思いを馳せる。
「夏の青空を飛ぶ大きな氷の鳥さん……凄く涼しそうで綺麗なの。でも、吹雪を起こすんだったら、夏じゃなくてもとっても危険なの! みんな、力を貸して欲しいの!」


参加者
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
来栖・カノン(夢路・e01328)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
咲宮・春乃(星芒・e22063)
シャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)
レイ・ローレンス(瞬くシンフォギア・e35786)

■リプレイ

●氷の巨鳥、夏に現る
 場所は山頂。太陽が煌めく時間。
「日輪に負けぬ氷の鳥……良いじゃないか。眼福にしても討伐にしても、やり甲斐がある……!」
「氷の鳥ですか~。涼しくて良さそうですけど……いえそれよりも日差しにきらきらと輝いてきっと綺麗でしょうね♪ 楽しみですね♪」
「氷の鳥さんって、きらきらキレイなんだろうね。でも吹雪を起こしちゃうなら、しっかりと退治しないと!」
 リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)とユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)と咲宮・春乃(星芒・e22063)は、まだ見ぬ氷の鳥を思い浮かべ、期待に溢れる。
「ここのところ、ずっと暑いから、何もしないならそのままでもいいかなあって思います、けど……」
 シャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)は、この所の暑さを思うと悪くもないと思うのだけれど、このままでは登山してる人が危ないし、呼び出しちゃった人だって、早く助けてあげなきゃ、そう思う。
 明るい時間なので、登山客も勿論いる。
「こちらケルベロス! 山頂にデウスエクス出現が予想されまーす! すぐ解決するから、少し下った所で他の方々と待っててね!」
「この先はデウスエクスが……来ます……危ないの……」
 フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)、レイ・ローレンス(瞬くシンフォギア・e35786)が声をかけ、それを春乃も手伝う。
 来栖・カノン(夢路・e01328)とシャウラは、空を飛びながら避難を呼びかけていた。空から避難状況を見ていたカノンは、倒れている女性がいる事に気が付く。
「あそこに人が倒れているよう!」
 カノンが指をさした先にいる女性が他のケルベロス達の目にも入る。一番近くにいたリーフが駆け寄った。
「……意識が無い。女性、それにリュックサックと高性能のカメラ……。被害者だろうか」
 春乃とミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)も駆け寄ってきた。
「意識が無いけど……怪我をしているかもしれないから回復しておくね」
「ミーミアもお手伝いするの!」
 彼女を安全な場所に移動させている時、リーフが、ミーミアにそっと耳打ちする。それに、ミーミアがこくりと頷いた。
 日陰になる場所に女性を運んだ後、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)とミーミアがしっかりとキープアウトテープを施す。これで、間違って入ってくる人はいない。
「温度差がスゴイって聞いたし寒冷地パックも準備してきたよ。寒い人いたらカイロ使う?」
「ありがとう!」
 フィーは戦いが始まる前に、用意してきたカイロを希望者に渡す。寒さが苦手で種族特徴も隠しているカノンは、ありがたくカイロを戴いた。
 準備が終わってから、ケルベロス達は噂話に入る事にする。
「むえ、氷の鳥がここら辺に出るって聞いたんだけど、こんなに暑いしちょっとでいいからお目にかかってみたいなあ、ぜひ涼みたいんだよう……」
「氷の鳥かー、キラキラなんだろうなぁ」
 カノンの言葉に、フィーが頷く。
「大概、鳥は太陽や天空や魂、風や炎や雷に近い物だが、雪ではなく氷とは……」
 そう話すリーフは、人の発想力というものに瞠目する思いだ。
 噂話だけでなく、氷の鳥の出現を楽しみにしているケルベロス達。そんな彼らの周囲の気温がいきなり下がった。
「ふふっ、そう、私は雪ではなく氷で出来ていますのよ。吹雪を扱うのは得意ですけれどね」
 綺麗で高く、優しい声。……上品な雰囲気を感じさせる。
 ばさりと大きな羽ばたきの音と共に、2メートル近くの氷像を思わせる鳥が降りてきた。その氷が維持されるに相応しいほど、周囲の気温もぐんと下がっている。余りの寒さに、カノンはふかふかしている羽と尻尾を出して寒さを少しでも和らげようとした。
 とにかく寒いが、敵意を示していないドリームイーター。これから始まるやり取りの前に、すすすっと被害者の今日子が持っていたカメラを持ち出していたミリアが小さい身体を活かしながら、隠れつつもその美しい姿をカメラへと収めていく。少々扱いにくいが、ピントが合っていれば大丈夫な筈! そんな感じである。
 ケルベロス達とドリームイーターの会話は続く。
「わざわざ山頂にお越しいただき誠にありがとうございます。皆様にお会いできて光栄ですわ。……さて、皆様。私は誰だと思われるでしょうか?」
 あくまでも上品に尋ねる氷の鳥。伝わる冷気も凄いが、同時に太陽の日の光を受けてキラキラして美しい。
「真夏に吹雪を起こす巨大な氷の鳥かなあ」
「見た目通りなら氷の鳥さんだよねー」
 カノンの回答に続いて、フィーも答える。目の前にいる氷の鳥のドリームイーターは、想像していたようにキラキラと綺麗だなぁ、そう思った。
「魔法少女サモニング・ローレン」
 ファミリアの白リスを肩に乗せたレイがはっきりとそう宣言し、ドリームイーターだけでなく、周りのケルベロス達もきょとんとした顔をする。
「ま、魔法少女……ですか? ど、どちら様がでしょうか?」
「ウチですの」
 思いもよらない回答だったので、驚きつつ尋ねてくるドリームイーターに、レイはきっぱりと宣言した。
「まあ、貴女は魔法少女なのですね? ふふ、素敵ですわ」
 何だか和やかに話が進んで行っている。
「日輪の影、六花の夢、溶けて消え去る幻……そして獄炎に灼かれる咎人だ!」
 慌ててリーフがドリームイーターに通告する。いや、和やかに進んでも別に良いのだが、怒らせて戦う作戦が狂ってしまうからだ。
 その言葉に、やはり氷の鳥の表情が曇る。
「溶ける訳にはいきませんわ……私の存在が消えてしまいますもの」
 周囲の温度が更に下がる。それは真冬の様に。その変化に、ケルベロス達も構えた。

●氷の鳥型ドリームイーター
 氷の鳥の周囲に吹雪が取り巻く。
「私を狙うか? 好都合だ!」
 リーフに向かって放たれる吹雪を、彼女は何とか受け止めた。その間を縫い、フィーはオウガ粒子をリーフとクレーエに向かって放ち、その神経を研ぎ澄ませる。
 攻撃を仕掛けるクレーエは、氷の鳥に狙いを定めた。氷の鳥を見ていると、綺麗だけれど綺麗なだけだ、そう思う。それは、昔、『顔が綺麗なだけのお人形』であった自らを思い出し、苦い気持ちを抱いてしまう。そんな気持ちを抑えつつ、クレーエは確実に空の霊気を乗せて斬りかかる。その一撃が氷の一部を砕いて、それが光を受けて輝いた。それを綺麗だと思いながらも、春乃は星の輝きによる魔法陣でリーフ達を護っていく。ウイングキャットのみーちゃんも、傷を負っているリーフへと清らかなる風を送っていった。
 カノンは重い蹴りを放つが、そちらは氷の鳥を羽ばたかせて綺麗に避ける。やはり、素早い。ボクスドラゴンのルコはリーフの怪我の治療を施していった。
 リーフもドリームイーターの動きを見ながら、高く跳びあがり蹴りを叩き込もうとするが、こちらもするりとかわされてしまう。連携を取りたい所だが、まずは当たらないと話にならない。流石、大きくても鳥だけはある。
 ユイは、透き通る歌を歌い始める。正確に研ぎ澄まされたその歌声は、確実にドリームイーターへと重い一撃を与えた。
 シャウラはドラゴニックハンマーを変形させる。そして、狙いを定めると氷の鳥に向かって砲弾を撃ち込んだ。ウイングキャットのオライオンもリーフ達へと清らかなる風を送り込んでいく。
「魔法少女サモニング・ローレン、行きますの」
 レイはカードをかざすと、御業を正確に放つと氷の鳥を縛り上げ、ボクスドラゴンのホルスはクレーエへと属性インストールを行った。
 ミーミアはフィーの作戦を確認しつつ、攻撃が当たり難いカノンとフィーにオメガ粒子を放って神経を研ぎ澄まし、シフォンも続けて清らかなる風を送り込んだ。
「中々やりますわね。では、こちらは如何かしら?」
 氷の鳥は翼を羽ばたかす。そこから、氷で出来た鋭い羽根が、攻撃の要であるクレーエに襲い掛かるが、それをリーフが庇った。
「大丈夫か?」
「ありがとう」
 リーフの言葉に、クレーエは頷く。
「リーフさん、クレーエさん、頑張ってね!」
 フィーはオウガ粒子を再び二人に向かって放ち、更に神経を研ぎ澄ませていく。その力を受けて、クレーエはドリームイーターに向かって重い蹴りを叩き込んだ。
「リーフさん、回復するよ!」
 春乃はオーラを放ってリーフをしっかりと回復する。みーちゃんも合せて清らかなる風を送り込んで護りを固めていった。
 カノンは当たり易さを優先して、エクスカリバールを振り回して氷の鳥へと叩きつける。再び氷が周囲に舞い輝いた。その輝きの中、ルコのタックルが叩き込まれる。続けてユイが歌い、鋭く氷の身体を切り刻んで更に輝きが増した。
「合わせるぞ!」
 リーフはその氷の輝きの中に、雷を呼び起こすと鋭く突く。そこに、シャウラの煌めきを伴う蹴りが放たれ、更にレイのカードから御業による炎が燃え上がる。皆が攻撃を繰り広げている間、ミーミアはリーフの力の底上げを図って、シフォンはフィー達の護りを固めていった。
 舞い散る氷は太陽と雷、炎等の輝きを受けて、何とも言えない美しさがケルベロス達を包むように不思議な世界が生れている。
 そして……目の前に立つ氷の鳥は、様々な光に彩られて美しく輝いていた。
「ふふ、不思議なものですね……。これに、私の雪が舞えばどんなに美しいのかと、そんな事さえ思いますよ」
 それは不思議な光景だった。ケルベロス達の攻撃により、様々な光に照らされている氷の鳥は更に吹雪を使って雪を光で彩る。その光景は、とても美しくあり、それに魅せられる。その美しさにユイは特に心惹かれ魅入られてしまって、意識が奪われていった。
「ユイさん、しっかりしてね」
 春乃がユイへと放つものも、きらきらとしている。それは星のもの。その星の光は流星となってユイに降り注ぎ、別の美しさによって彼女に正気を取り戻させた。続き、フィーは禁断の術を使いクレーエの脳を活性化させ、その力を上げていく。
「動きを止め、息を止め、生を止め……休んだらいいよ、オヤスミナサイ」
 クレーエは黒き翼の悪魔を呼びだす。そして、その黒き羽根は氷の鳥を包み込み、動きを止めた。
 カノンは稲妻を呼び寄せると、それを氷の鳥へと突き立てる。続けてルコがブレスを吐き、更にユイが総てを斬りつける斬撃を与えた。
「苦難は続き、重なります。それが、試練というものだから」
 シャウラは大アルカナである『吊られた男』の暗示を氷の鳥に送りつける。そして、それによる苦しみを与え、オライオンはリングを叩きつけた。
「散り逝くが良い……!」
 リーフは自身に重なるように「風鳥座」を招来させると、氷の鳥を、七色の炎の翼で包み込んで巻き上げる。氷の鳥は氷の羽根となり、七色の炎を映しながら美しく輝き消えていった。

●山頂にて
 戦いで壊れた所をヒールで直し、倒れていた今日子の元にも行ってヒールも用いて意識を取り戻して貰った。
 事情を聞いた今日子は、氷の鳥の事について残念そうにしている。そんな彼女を見て、リーフとミーミアは顔を見合わせ微笑んだ。
「ミーミアね、これで、氷の鳥を撮ったの! 綺麗に撮れているかは分からないけど……」
 ミーミアは今日子のカメラを渡す。それに、彼女は顔を綻ばせた。
「ありがとうございます! 助けて戴いたお礼になるか分かりませんが……この写真、現像したらお渡ししますね」
 嬉しそうな今日子の顔を見て、ケルベロス達も優しく微笑んだのだった。

「……わああ! さっきまで緊張してて気づかなかったけれど、こことってもいい眺めなんだよう!」
 氷の鳥がいなくなった山頂から見える景色はとても綺麗で、カノンは尻尾を振ってはしゃぐ。気温も先程まで氷の鳥がいたせいか、過ごしやすくて風も気持ちが良い。
「景色が綺麗……ホルスちゃん、帰りはお空を飛んでいきましょうなの」
 レイはホルスにそう話しかけ、ホルスも頷いている。
「さあ、おやつパーティーしよう! 実はコレを楽しみに頑張ってたんだよね~!」
「じゃ~ん! ミーミア特製、フルーツサンドなの! 紅茶もどうぞなの!」
 春乃の声に、ミーミアがバスケットからフルーツサンドを取り出して広げる。
「あたしも、ホットとコールドのココアとスコーン、色々なジャムを用意してきたんだよ」
 フルーツサンドの隣りに、春乃のスコーンも並ぶ。
「わたしもスコーンを持ってきました。それに、サーヴァントさん達にうす味のものもあります」
「ウチはツナサンドと苺サンドを用意して来ましたの」
「私はマカロンを持ってきました♪」
「僕は林檎のパイだよ」
「ボクはコンビニのお菓子!」
 更にシャウラのスコーン、レイのサンドウィッチ、ユイのマカロン、フィーの林檎のパイ、カノンのお菓子が並ぶ。
「紅茶も良いけど、珈琲もね♪」
「僕はレモネードを持って来たよ」
 リーフはインスタントだが、珈琲一式を用意してきている。クレーエも水でもお湯でもソーダでも割れるようにとレモネードを持って来ていた。お菓子も飲み物も種類が一杯だ。
「後は、これを。お持ち帰りも出来るし」
 クレーエが取り出したのは飴。それは、ウイングキャットやボクスドラゴン、天使やドラゴンの形をしている。
「うわぁ、可愛い!」
「本当、可愛いですの。素敵ですわ、クレーエお兄様」
「オライオンと似ている子もいます、ね」
 春乃とレイが満面の笑みを、シャウラはふわりと笑みを零す。
「じゃあ、景色とおやつを堪能しよ!」
 両手にフルーツサンドを持ったフィーがにっこりと笑う。
 そして、今日子を含め、ケルベロス達の甘くて美味しいお茶会が始まったのだった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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