「緋紗雨から、次に螺旋忍軍の彷徨えるゲートが開く場所の情報を得られた」
アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088)はしかし、一つため息をつく。
「だが、螺旋忍軍と決戦を行うには、螺旋帝の血族・イグニス、その命令で亜紗斬を捕縛した最上忍軍がネックになるだろうな」
最上忍軍はイグニスの命により、ダモクレスやエインヘリアルらに偽情報を流したという。曰く、魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見されたと。そしてそれを狙う各勢力を、ケルベロスが襲撃するという情報だ。他の勢力が研究した屍隷兵を含め、複数の勢力が集っている。漁夫の利を与えることにならぬよう、各陣営は牽制し合い、デウスエクス間で戦闘になることはないという。
「そうやって偽情報で集めた戦力を、ゲート防衛に利用する気らしい。螺旋忍軍らしいやり口だな」
集結する各勢力の軍勢を全て撃破するには、ケルベロス・ウォーの発動が不可欠だ。だが移動中の各個撃破であれば、敵勢力の弱体化を図ることができるだろう。
「ダモクレスの主な顔ぶれは……ドレッドノートでやり合った時の残党のようだ」
載霊機ドレッドノートの戦いで敗北したダモクレスは、再建のために大量のグラビティ・チェインを必要としている。それゆえに、この情報を信じたようだ。
「一体でも指揮官型を倒せれば、戦況はかなり良くなるだろうな」
先陣を切るはディザスター・キング。キングを撃破するにはメタルガールソルジャー・タイプS、メタルガールソルジャー・タイプG、ディザスター・ビショップ、ダイヤモンド・ハンマー、ゴルドを援軍に向かわせないよう引きつけたうえで、複数チームがディザスター・キングを攻撃せねばならない。
中央にはマザー・アイリス。周辺のダモクレスはさほど強くはないようだが、ジュモー・エレクトリシアンが直接操作しているがゆえに、突破はまず不可能だ。まずは周辺戦力の指揮を執るジュモーを撃破あるいは指揮が取れない状態に追い込まねばならない。
ジュモー自身は後方にいる。付近にはレイジGGG02、オイチGGG01、マザー・ドゥーサといった護衛がいるため、この三機をも相手にするだけの戦力を確保せねばならない。
「……とまあ、指揮官を倒すのも簡単じゃあない。他にも、星喰いのアグダをはじめ、倒すべき有力な敵は多い」
さらに、ダモクレスには最上忍軍から最上・幻斎が同行しているという。
「最上・幻斎の所在は不明、だが何か作戦を練って見つけ出し、撃破できれば最上忍軍には大打撃になるはずだ」
行軍中の奇襲とはいえ、ケルベロス・ウォーで戦った相手との戦闘は容易ではないだろう。
「だが、ここで敵を少しでも減らせれば後が楽になるはずだ。下手すりゃ敵のただなかに取り残される、危険な任務だが……お前たちならやってくれると信じている」
アレスの手元には、主だったダモクレスの資料。何を選び、どう戦うかはケルベロスたちにゆだねられた。
参加者 | |
---|---|
キース・クレイノア(送り屋・e01393) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854) |
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859) |
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685) |
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) |
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
●番犬疾駆
ロス・オブ・ネームズの一団をすり抜け、ヴォルテックマシンの電撃をかいくぐり、ケルベロス達はダモクレス軍団の突破を図る。
「やはり、ドレッドノートで見た機体が多いようでございますね」
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)は足を止めることなく、周辺の敵を見渡す。前方ではゴルドの白銀の機体が、今まさにケルベロス達に気づいたところだ。四十八人がかりの攻撃は果たせないとはいえ、ほかに有力な敵が視認できないのは幸いと言うべきか、少なくともすぐに横やりを入れられることはなさそうだ。
「とにかく今は、目の前の敵に専念だ」
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)の青い瞳がゴルドを見据えると、ゴルドの青いバイザー型アイも剣呑な輝きを放つ。後方から飛んできたダモクレスの支援砲火に身を低くして、眼前のタイタンキャノンの砲が地を抉った隙を突き駆け抜ける。
重厚な援護射撃、それでもゴルド撃破を最優先とし、あえて雑魚は放置する。おそらくそれが最善の作戦だが、万一があったときのことを思うと、鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)の不安は募る。
「危険な依頼ですし、ケガしないように気を付けてください……」
傍らを駆けるコロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)に伝える声も小さくなる。この偉丈夫が倒れるとは思えない、いや、思いたくない。それでも口にせずにはいられない。
「瑞樹と一緒だから大丈夫さ。俺の背中は任せたよ」
戦場とは思えぬ穏やかな微笑みを返し、コロッサスは再び眼前の敵へ向かう。
「コロッサスさんを心配している人はたくさんいるのですからね……」
私だって、という言葉は、連なった発砲音にかき消された。
「大丈夫、俺が居る!」
高らかに宣言する峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)は、親友にして相棒である月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)と視線を合わせる。その一瞬だけで、伝えたいことは確かに伝わった。宝はうなずくと、白いのと呼ぶナノナノを手元に引き寄せ撫でる。
「頼むな」
白いのは少し嬉しそうに、しかしきゅっと表情を硬くして主人とともに戦闘開始に備える。
「踊らされる者は哀れであるが、ここで止めねば民に飛び火しかねぬ」
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)が思い起こすはドレッドノート攻略戦。万を超える命がかかる戦い。ダモクレスの進軍は、あの戦いの結果でもある。虚報といえども踊らざるを得ない敵にある種の同情を示しつつ、足を止めぬまま、星辰宿る剣を抜く。
「今は目の前の敵を倒し、道が開けるよう最善を尽くそう」
キース・クレイノア(送り屋・e01393)は右腕を押さえていた手を離す。その手のひらの下には鈴が。敵中を駆け抜けるに、居場所を示すのは不利かと思い、鳴らないように握りしめていたものだ。だが、それはもう必要ない。
重装騎士型ダモクレス、ゴルドの威容はもう目の前だ。
●白銀交差
周辺を固めるディザスター・ナイトの間隙を縫い、ロウガはバスターライフルの銃口をゴルドに向ける。砲門に白い冷気が収束、大剣を振りかぶるゴルドにひるむことなく引き金を引いた。
「煌めけ!! 決意を宿した略奪の光!!」
金の眼差しとともにゴルドを射貫く白銀の光。光線はダモクレスの装甲を照らし、弾け、グラビティの氷を付着させていく。
「今だ! 我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ――」
コロッサスのグラビティに呼応し、神剣が呼び出される。清浄な炎に包まれた鞘をためらいなく握り、構え、抜き払う。抜刀と同時の攻撃、その剣閃は払暁の光。故にその技は黎明の剣(レイメイノツルギ) と呼ばれていた。
「よし、コロッサスさんに続け!」
呼応した雅也の二刀が繰り出す達人の一撃。その氷刃は、すでに付着していた氷を楔代わりに装甲を割り、さらに氷を成長させていく。戦闘開始からおおよそ三分、その鋼鉄の鎧にひびが入れば、先の見通しも立つというものだ。
「これならいけるんじゃないか!?」
「雅也」
後ろから聞こえた宝の声。雅也は大きく息をつき、日本刀を構え直した。高揚しすぎた意気を落ち着かせ、次の攻撃に備える。同時に、その横合いから、白いののハートのビームが飛んだ。感情の読めないダモクレスのカメラアイが、やや赤みを帯びたような気がする。入れ違うように、タイタンキャノンの援護射撃が着弾。
「うわっ!」
前衛から上がる悲鳴に、宝は顔をしかめる。当たってはいない、牽制だ。だが続けば回避先が限られてしまう。ならば、それすら陣とすれば良い。
「破魔電撃陣。……単純すぎるか」
宝は九尾扇を掲げると、援護射撃すら破る陣を敷いた。
なおも続く支援砲火の中、一点を穿つダモクレスのそれとは異なる炎が上がる。一直線に駆ける炎の軌跡はキースの足下から生み出されている。瞬時にゴルドに接近すると、右腕の鈴がりんと鳴った。
「やれることはやらせてもらう」
炎をまとった強烈な蹴りが、ゴルドの装甲を赤熱せしめる。やや離れて魚さんは、一見してのんびりと祈りを捧げていた。電撃戦にそぐわぬゆったりとした動作だが、その祈りは確実に前衛の傷を癒やしていく。
ゴルドに近づいたケルベロスを狙って、正確無比な電撃が届く。強烈な光に目を覆うケルベロス達を、ゴルドの剣が横薙ぎにする。
「くそっ……」
地獄の炎を燃え上がらせて、キースは味方をかばうべく前に出た。横に並んだリューディガーとともに、縛霊手とゾディアックソードを駆使して可能な限り衝撃を受け流す。
それでも、大質量から放たれる衝撃はかなりのもの。たまらず地面に倒れ込んだリューディガーは、ゴルドが剣を振り切った隙に立ち上がると、ゾディアックソードを地に突き立てる。
「第十三の星辰の力、守りの陣となれ。戦力は足りずとも……ゴルドだけはここで、必ず撃破する!」
吐いた気炎に呼応するように、地に描かれた蛇遣い座が輝き、守護の力を発揮。加護を破られてはかけ直している状況だが、防御を固めるのもリューディガーの担う役割の一つだ。
援護射撃の止んだ戦場で、小さく地面がはじけ飛ぶ。誰も倒れぬよう、祈るように組んだ手の中、瑞樹は爆破スイッチを押していた。戦場に響く破裂音がケルベロス達を鼓舞する。ここに居るのは敵ばかりではない。背中を預かる味方の存在を、爆発音が知らしめる。
発破された地面を避けて、カルナの攻性植物がゴルドへと這い寄る。重々しい動作で体勢を立て直したゴルドを、蔓が巻き付き拘束する。
「……必ず、止めましょう」
この力は守るため、ダモクレスの暴威から人々を守るために。黒髪から覗くカルナの瞳は強い意志を秘め、ゴルドとの力比べにもつれ込む。その瞬間を見逃すケルベロス達ではなく、マズルフラッシュが瞬く中、果敢にも攻撃を仕掛けていく。
●狙うは一つ
飛び交う光線に焼かれ、銃弾に穿たれ、ケルベロス達の消耗は激しくなっていく。リューディガーはロス・オブ・ネームズの男女の拳を、星辰の剣で受け流す。散る火花は真昼の流星のごとく消えた。
「これでは……」
戦闘を続けることで、ゴルドはその装甲にいくつもの傷を刻み、火花を散らしている。しかしケルベロスとて被害は軽くはない。リューディガーをはじめ、盾役を担う者はいつ倒れてもおかしくはないだろう。
分かっている。次の砲撃がこちらを狙えば、立ってはいられない。リューディガーは振るい続けたゾディアックソードを納め、弓に持ち替える。視界の隅には、姿勢を低くするタイタンキャノン。間に合え、と祈りを込めて、グラビティの矢をキースに放つのと、衝撃は同時だった。
「止めなくては……」
キースは縛霊手を展開し、一帯のダモクレス達に光弾をばらまいた。これでわずかでも怯めばよし。もはや回復は間に合わない。あとはゴルドが倒れるのが先か、ケルベロスが壊滅するのが先か――。
(「恐らく此度の強襲で王を討つは能わぬ」)
コロッサスは光に乗じてゴルドの巨体へ飛びかかる。
「せめて王の盾である貴様を打ち砕き、奈良平野の決戦での勝利への布石とさせてもらう!」
放たれる回し蹴りは体格の大きさも相まって、ゴルドの装甲から覗く機構部分を容赦なく打ち抜き、変形せしめた。ゴルドのバイザーアイが明滅する中、背後をヴォルテックマシンの電流がかすめ、その先にいた魚さんに着弾。最後まで祈り続けたまま、魚さんは消えていった。
ゴルドが剣を振りかぶる。縦に切り下ろすその攻撃は、コロッサスを排除せんとするもの。瑞樹はとっさに、聖王女への祈りを捧げる。
「聖王女様、どうかお力をお貸しください!」
攻撃手たる彼が倒れては。否、心がざわめく理由はそれだけではない。瑞樹の悲痛なまでの願いは聞き届けられ、コロッサスが受けていた傷は癒やされていく。
そして、ついにゴルドの剣が振り下ろされる。コロッサスに劣らぬ大質量の斬撃を、終焉砕きで受け止めた。ありったけの力で抵抗するも、やがて――押し切られてしまう。
「コロッサスさん! このっ……倒れろ!」
雅也は二刀に空の力を乗せて、ゴルドの鎧へ斬りかかる。唐竹割りを繰り出せば、装甲とぶつかり合って火花が散る。衝撃のためか、その巨体の制御が揺らいだ。
戦力が欠け始める中、宝は今立っている中で最も傷の深い雅也に駆け寄り、緊急の魔術治療を施す。
「これで大丈夫なはずだ。……いけるな?」
「当然!」
倒れたケルベロスには目を向けず、ダモクレス達は健在な戦力を排除しようとしているようだ。体勢を立て直すまでの間、敵群の目を引きつけるべく、カルナは黒猫の如く戦場を駆け抜ける。
「さあ、こちらでございます。撃ってきなさい、撃てるものならば」
ゴルドとほかのダモクレスを挟む形で縦横無尽に駆けながら、カルナは影の黒猫を召喚する。
「おいで――」
闇を切り取ったような猫はゴルドの影に飛び込むと、気まぐれにじゃれつきゴルドの動きを鈍くする。それを見届け、カルナは倒れた仲間の元へと走る。
「そろそろ仕舞いにせねば」
ロウガは接近してきたディザスター・ナイトの剣を盾で弾く。ゾディアックソードに宿すは、ロウガのオラトリオとしての力。物質的な冷気ではなく、時空を凍結せしめる力。「時の理、この刃にて封ず!!」
袈裟懸けに切りつけながら、ゴルドを構成する機器を切り裂く。装甲の傷の奥、ショートしていた配線が完全に断たれ、鮮血のように吹き出していた火花さえ発さずに、ゴルドはその動きを止めた。
ゆっくりと地に沈むゴルド。だが、安心できる状況ではない。
「ゴルド、討ち取ったり! さあ撤退を!」
ロウガが叫ぶと同時に、ケルベロス達は撤退に向け動き出した。
●引き潮
倒れたリューディガーをカルナが担ぎ、かろうじて立ち上がったコロッサスには瑞樹が肩を貸す。背後にはダモクレスの一団、ゴルドを討ち取ったとはいえ、即座に統率が乱れることがないのはさすがと言うべきか。ロウガが素早く白の信号弾を上げる。やるべきことは、すべて終わった。
全速力で戦場を離脱しようとするケルベロス達を砲火が追う。どの機体が放ったものか、重い砲弾が傍らの木をへし折った。
「……ッ!」
キースは来るときと同じように、鈴を握りしめる。傷だらけの体から流れた赤い血が、指先から鈴に移る。早く撒かなければ。
雷撃が番犬たちに追いつく。閃光が一帯を支配する。
「ぐっ……」
「ロウガ……!」
衝撃に倒れるロウガに、キースが素早く駆け寄る。まだ、射程内。地獄と化したはずの心が揺らめくのを、キースは感じる。
「案ずるな、大事ない……」
言葉とは裏腹に、苦しげなロウガの様子を見て、殿を務める雅也は足を止め、反転を試みた。
「大丈夫、俺が居る! 全部まとめて任せとけ!」
膝が震えるのは怪我のせいか、恐怖故か。しかし顔は笑みを作る。日本刀を構え、後方に展開しているであろう敵陣に向け、再び駆けようとしたその時。視界の端を白い何かが通り過ぎた。
「……白いの!?」
銀色のリングをひっかけたナノナノが、雅也の前を飛んでいく。少し姿勢がおかしいのは……投げ飛ばされたからだろうか。
その刹那、腕を強く掴まれ、引かれた。
「行くぞ」
宝の目には焦りと、ほんの少しの安堵が浮かんでいた。発砲音が聞こえる。ナノナノがダモクレスを引きつけ、戦っているのだろう。しかしそれも、いつまで持つか。
弾幕が止んだその隙に、ケルベロス達は戦場を離脱していった。
作者:廉内球 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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