ミッション破壊作戦~竜はいまどこを飛ぶか

作者:土師三良

●イマジネイターかく語りき
「グラディウスが使用可能となりましたので、ミッション破壊作戦に参加してくださるかたを募集したいと思います」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちに新人ヘリオライダーのイマジネイター・リコレクションが告げた。
 その顔を淡い光が下方から照らしている。光の発生源は、両手で握られた長さ七十センチほどの小剣。
 対強襲型魔空回廊兵器のグラディウスだ。
「初めてミッション破壊に挑むかたや詳細を忘れているかたもおられるかもしれませんので、改めて説明させていただきます」
 イマジネイターはグラディウスを顔の前に掲げた。
「ミッション破壊作戦に用いるのは、この対強襲型魔空回廊兵器グラディウス。通常の武器としては使えませんが、日本各地にあるミッション地域の強襲型魔空回廊を破壊することができるんです」
 強襲型魔空回廊の周囲は半径三十メートルほどのドーム型のバリアに包まれている。そのバリアにグラディウスを接触させることで、強襲型魔空回廊にダメージを与えることができるのだ。一度の攻撃で破壊できるとは限らないが、ダメージは着実に累積していく。何度も繰り返していけば、いつか必ず破壊できるだろう。
「作戦は至ってシンプルです。ステップ1、僕のヘリオンでミッション地域に高高度から侵入。ステップ2、皆さんがグラディウスを持って降下し、バリアを攻撃。ステップ3、ミッション地域から脱出。以上です」
 ステップ1はイマジネイターに任せるしかない。ケルベロスにとって重要なのはステップ2とステップ3だ。
「ステップ2におけるグラディウスの使用法もシンプルです。強い意志を込めて『魂の叫び』とともにグラディウスをバリアにぶつける――ただ、それだけです。念のために言っておきますが、『魂の叫び』というのは比喩的な表現ですよ。実際に叫ぶ必要はありませんし、発声する必要さえありません。なによりも重要なのは意志の力。その地を解放したいという願いであり、その地のデウスエクスを倒したいという思いです」
 意思の強弱にかかわらず、グラディウスに充填されているグラビティ・チェインは一度の攻撃ですべて解放される。その際に激しい雷光と爆炎が発生するが、所持者を守る障壁も同時に発生するので、ケルベロスがダメージを受けることはない。
「ステップ3で皆さんを追撃してくる敵は一体だけだと予想されます。グラディウスの雷光と爆炎によって、敵の大半は混乱に陥っているはずですから。とはいえ、混乱状態がいつまでも続くことはないでしょう。敵が態勢を整える前に追撃者を倒し、速やかに撤退してください。また、撤退戦の際にはグラディウスを奪われないように注意してください。しかしながら――」
 イマジネイターはグラディウスを下ろすと、赤い瞳でケルベロスたちの顔を見回した。
「――皆さんが絶対に持って帰ってこなくてはいけないのはグラディウスでもなければ、華々しい戦果でもなく、御自身の命です。それを決して忘れないでください」


参加者
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)
ドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)
ザハク・ダハーカ(スカーレッド・e36065)

■リプレイ

●星を打ち……
「彼奴が地球に降り立った時に備え、少しでも勝機を高めるため、影の増援はここで封じてみせよう」
 竜派ドラゴニアンの竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)がハイパーステルス・モードのヘリオンから飛び出した。
「そう、これは宣戦布告だ。この魔空回廊より影を送り、地球を狙う――」
 突風を全身に受けながら、一刀は『彼奴』の名を口にした。
「――星砕龍帝スターブレイカーへの!」
 他のケルベロスたちも次々と降下を始めた。
 光の編み模様で彩られた黒い絨毯――清須市の夜景が眼下に広がる。もっとも、その絨毯には大きな穴が開いていた。編み模様を絶つ形で自らの輪郭を浮かび上がらせている円形の穴。かつては照明が煌々と輝いていた場所。
 ドワーフゆえに夜目がきくドゥマ・ゲヘナ(獄卒・e33669)は認識することができた。闇色の穴にあるものを。高架上のプラットホームを。
 そう、尾張星の宮駅を。
「生と死のサイクルから外れて永遠に生きる。それは生きていないのと同じことだ」
 不死者であるデウスエクスへの怒りを高め、ドゥマはグラディウスを構えた。
「生きていない者が生者を襲うなど……恥を知れ!」
 彼を駆り立てているのは怒りばかりではない。自分の故郷の解放を望みながらもこの地の強襲型魔空回廊の破壊を選んだ仲間――オラトリオの岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)への想いもある。
 その真幸が呟いた。
「ここもまた誰かの故郷……」
 呟きはすぐに叫びに変わった。
「ドラゴンだろうがなんだろうが、関係ねえ! 今夜、ここを、必ず、解放する! 二度目はねえーっ!」
「そう、二度目はない」
 と、レプリカントのリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)が言った。
「『尾張』は『終わり』に通じる。おまえたちがでかい顔してのさばっていられるのも、今日で終わり。そして、終わりは始まり。おまえらドラゴンどもへの大逆襲の始まりだ!」
 リティたちの声に反応するかのように、眼下の闇色の穴の中でなにかが蠢いた。
 強襲型魔空回廊の守り手であるスターブレイカーの影法師だ。
 闇に目が慣れてきたこと、距離が縮まっていること、影法師の黒が周囲の闇の黒とは微妙に異なること――それらの要因によって、ドワーフ以外の面々も影法師を捉えることができた。
「人間の生活圏のド真ん中に出てきやがって……」
 狼の人型ウェアライダーの上里・もも(遍く照らせ・e08616)がグラディウスを握りしめ、影法師を睨みつける。
「民間人の恐怖だの拒絶だの憎悪だのを直接的、継続的に集めてるのは、ドラゴンのなかでおまえが一番かもな。でも、おまえが影で浸透してくるなら――」
「――俺たちが光になる!」
 と、後を引き取ったのは村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)だ。その手にあるグラディウスが輝きを増していく。
「未来を与える光に!」
「我が身、我が心、この一刀とともに在り!」
 竜派ドラゴニアンのヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)も叫んだ。弱きを助けて強きを挫く種族の矜持を抱いて。戦いを求めて止まぬ狂戦士の闘志を燃やして。
「砕けろ、回廊! 俺が望むすべてのために!」
 一際大きな声であったにもかかわらず、後半部は誰にも(当のヴァジュラにも)聞こえなかった。
 より大きな音が響いたからだ。
 八本の光剣を突き刺された魔空回廊が爆発音という名の悲鳴をあげたのである。

 グラディウスのバリアに守られた状態でケルベロスたちは着地した。
 周囲は炎と煙と闇の三色で斑になり、魔空回廊の『悲鳴』の残響がまだ漂っている。
 その地獄絵図のような光景を見回しながら、一刀が誰にともなく訊いた。
「手応えはあったが……破壊できたのかのう?」
「さてな」
 と、一刀と同じく竜派ドラゴニアンのザハク・ダハーカ(スカーレッド・e36065)が肩をすくめた。
「まあ、成功にしたにせよ、失敗したにせよ――」
 炎の空隙にある闇の一角をザハクは見据えた。
 他の者たちの視線もそちらに向かう。
「――奴を倒さねば、帰ることはできない。それだけは確かだ」
 闇が動いた。見えないハサミに切り取られて剥がされたかのように。
 ハサミが走った後に生まれたのはドラゴンのシルエット。
 そのシルエットに向かって、降下時にも発した魂の叫びをザハクはぶつけた。
「さあ、貴様の魂を喰わせろ!」
 シルエットが……いや、スターブレイカーの影法師が大きく身をのけぞらせて咆哮した。
「GAAAHH!」
 夜空を打ち砕かんばかりに激しく。

●星を砕き……
 もちろん、夜空は打ち砕かれなかったが、代わりに無数の微細な石片がシャワーのように降り注いだ。
 スターブレイカーの影法師が流星雨を召喚したのである。
 標的となったのは前衛陣。もっとも、チームの全員が斬撃耐性の防具を纏っていたので、ダメージは半減している(影法師が有している攻撃グラビティはすべて斬撃系だった)。いや、半減どころか、無傷の者もいた。オルトロスのスサノオとボクスドラゴンのチビが盾となったのだ。
「よくやったぞ」
 と、スサノオたちに声をかけた後、ももが演奏を始めた。曲目は『やせ我慢上等(デスデスマーチ)』。反骨精神を讃えるその歌は前衛陣の傷を癒し、異常耐性を付与し、流星雨がもたらしたパラライズをキュアした(メディックのポジション効果によるものだ)。
「竜敵ケルベロスが一人、竜峨一刀、まかりとおる!」
 ももの奏でるメロディを背中で聴きながら、一刀が翼を広げて跳躍した。四半秒の間を置いて、柚月が地を蹴り、ザハクも飛ぶ。
 そして、流星雨のお返しとばかりに続けざまにスターゲイザーを打ち込んだ。
 漆黒の体に三人分のエアシューズの焼き印がつけられた。三角形を描く形に。
 その三角の中心部に弾痕が穿たれた。皆の攻撃にタイミングを合わせて、真幸が時空凍結弾を発射したのだ。
「GRRRRR!」
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了」
 苛立ちの声をあげる影法師を無表情に凝視して、リティがデータを素早く解析した。
「最新パッチ、配信します」
 円盤型のレドームが搭載された単門の強行偵察型アームドフォートから『スカウトドローン』の群れが飛び出し、前衛陣にデータを伝達して命中率を上昇させていく。
 ほぼ同時にドゥマもヒールドローンを放っていた。
「グラディウスをぶつける時に『俺が望むすべてのため』と言ったのだが、聞こえていたか?」
 二種のドローン恩恵を受けたヴァジュラが影法師に問いかけた。鉄塊剣の『暴風龍ルドラ』に地獄の炎を纏わせながら。
「俺が望むものとは、誰かを守ることだけではないぞ。誰かと戦うことも含まれている。さあ、ともに――」
 鉄塊の竜が漆黒の竜が食らいつき、ブレイズクラッシュの炎が単色の体に紅蓮を加えた。
「――楽しもうではないか!」
「BAWWWW!」
 影法師は悲鳴をあげ、怯える子犬のように身を伏せた……と、思いきや、それはフェイントだったらしい。伏せられた体が矢のような勢いで水平に飛んだ。
 真正面から頭突きを受けて、ヴァジュラが吹き飛ぶ。
 だが、吹き飛ばしたほうの影法師も無傷では済まなかった。ライドキャリバーのラハブがデットヒートドライブで横腹に突っ込んだのだ。
 影法師の体を焼く炎が燃え広がった。しかし、当然のことながら、真幸の時空凍結弾で生じた氷が溶け消えるわけではない。それどころか、ヴァジュラとラハブの攻撃を受けた際に、その氷は更なるダメージをもたらしていた。
「おいおい、どうした? 影とはいえ、貴様もドラゴンの端くれだろうが。この程度で――」
 ザハクが影法師に突進し、攻撃を加えた。『赤傷竜の暴魂(スカーレッド・タイラント)』なるグラビティを用いたため、赤い肌(鱗)に文様が浮かび、虫のように蠢いている。
「――終わってくれるなよ!」
 ザハクの双眸には狂喜の色が滲んでいた。ヴァジュラと同様、この戦いを楽しんでいるのだ。
 その様子をあいかわらず無表情に見やりながら、リティが『スカウトドローン』の第二陣を放出した。今度の対象は後衛だ。
「死があるからこその生……」
 ドローンたちからデータを受け取ったドゥマが持論を呟きながら、十字架を模るかのように両腕を横に伸ばした。
「おまえを生かしてやろう。死を与えることで!」
 怒号とともに回転し、影法師の懐に飛び込む。スピニングドワーフだ。
 更に一刀が日本刀を介しての降魔真拳で生命力を吸収し、ヴァジュラが竜爪撃を見舞う。
 そのヴァジュラにももが気力溜めを施し、頭突きを受けた際に生じた石化の状態異常をキュアした。
 もう一人、ヒールのグラビティを使った者がいる。
 爆破スイッチを手にした柚月だ。
「ここには守るべき希望がある! ドラゴンの侵略に耐え、今日という日を必死に生き、より良い明日を信じる人々の希望がな!」
 ブレイブマインの爆発音に柚月の叫びが重なる。
「だから、今度は俺たちが報いる番だ! 人々の希望を守り切るまで、何度だっておまえたちに刃を向けてやる!」
「水を差すようでナンだが、何度も向ける必要はないぞ」
 ブレイブマインで攻撃力の上昇した真幸がエクスカリバールを影法師に突き立て、鱗をこそぎ落とすかのように(影ゆえに鱗はなかったが)バリケードクラッシュで黒い表皮を削った。
「最初に言ったろうが。『二度目はねえ』ってな」
「ああ……そうだな。確かに二度目はない」
 柚月は静かに頷いた。
 グウラディスがもたらした閃光と爆炎のスモークが薄れ始め、感じ取ることができたのだ。
 いや、正確には、感じ取れないということに気付いたのだ。
 そして、他の者たちも気付いた。
 魔空回廊の大きな重圧が感じ取れないことに。
 遅まきながら、ももが宣言した。
「破壊成功!」

●星を越えて……
 その後の戦いで影法師はヒールを用いて時間稼ぎを図ったが、勢いづいたケルベロスを止めることはできなかった。
 そもそも、八竜や宝玉封魂竜たちとの戦いを経験したケルベロスからすれば、影法師は強敵というわけではない。所詮、影に過ぎないのだから。
 だからといって、手もなく討ち取れる雑魚というわけでもない。影に過ぎないにもかかわらず。
 ゆえに歴戦のケルベロスたちも脅威を覚えずにはいられなかった。
 影法師の本体であるスターブレイカーに対して。
 もっとも、脅威と恐怖は違う。まだ見ぬスターブレイカーを恐れる者など、ここには一人もいなかった。
「いずれ、引きずり降ろす!」
 ザハクが降魔真拳を打ち込み、影法師の残り少ない生命力をドレインした。
「貴様の本体を!」
「そう、引きずり降ろす。今夜の戦いはその布石だ」
 ヴァジュラが体を大きく捻った。水平に構えられた『暴風龍ルドラ』の巨大な刃が地獄の炎を噴き上げる。
「覚えておくがいい! 俺はヴァジュラ! ヴァジュラ・ヴリトラハン! いつの日か、貴様を討ち取る者だ!」
 目の前の影法師ではなく、どこかで聞いているかもしれない本体に向かって名乗りながら、ヴァジュラは後方に捻っていた上半身を猛烈な勢いで振り戻した。
 竜の咆哮を思わせる唸りをあげて『暴風龍ルドラ』が影法師の左の腹に叩き込まれる。『暴風龍焔鎧嵐武(タイラント・イグニクス)』なるグラビティ。
 そして、地獄の炎が残した弧の軌跡の中を青白い直線がくぐり抜けた。またもやタイミングを合わせて、真幸が時空凍結弾を撃ち込んだのだ。
「EEYAAA!」
 苦しげに鳴きながらも、影法師は何度目かの流星雨を召喚した。標的は後衛に陣取る四人と一体。しかし、そのうちの一人であるももはスサノオに庇われた。
「えらいぞー」
 と、スサノオの頭を軽く叩くもも。
 スサノオは嬉しそうな顔も誇らしげな素振りも見せることなく、神器の剣で影法師に斬りかかる。
 同じく無表情で攻撃を仕掛けたのはドゥマ。チビの属性インストールに癒されながら、ドラゴニックハンマーを振り下ろし、アイスエイジインパクトを炸裂させた。
 影法師の体の一部がまた凍りつき、そして、すぐに凍結範囲が広がった。
 柚月のチェーンソー斬りのジグザグ効果によって。
「おまえが絶望をもたらす影ならば――」
「――私たちは太陽! 照らしつくしてやるぜ!」
 降下時とは逆にももが柚月の後を引き取り、スターゲイザーを見舞った。
 すぐさま離脱した彼女と入れ替わるようにして肉薄したのは一刀。手にした日本刀はグラディウスのように光り輝いている。煩悩を断ち切るという迦楼羅炎が刀身に宿っているのだ。
「我が名は一刀、人を守り、神を断つ一刀なり。影よ、主に告げろ。この地球に――」
 ヴァジュラと同じように名乗りを上げながら、一刀は『迦楼羅舞い(カルラマイ)』で影法師を攻め立てた。その名が示すように舞うような動きで何度も斬りつける技だ。
「――そっ首狙う一刀ありと!」
「GYAAAA!」
 幾条もの傷をつけられ、影法師は身をよじった。でたらめに振り回された長い首が高架にぶつかり、側面に埋め込まれていた六つの文字――『尾』『張』『星』『の』『宮』『駅』のうちの一つが落ちる。
 その一字を踏みつけた拍子に影法師は完全に体勢を崩し、無様に転倒した。
 立ち上がる暇は与えられなかった。
「おまえの影絵遊びも、今日で終わり」
 無機質な声でリティがそう呟くと、寡黙な女主人に代わって感情を爆発させるかのように強行偵察型アームドフォートの砲門が火を噴いた。何度も。何度も。何度も。
 砲弾を食らう度に影法師の色が薄れ、輪郭が滲んでいく。
 そして、最後の一発が命中して爆発した瞬間、影法師は完全に消え去った。
 後に残されたのは、高架の側面から剥がれ落ちた駅名の一字のみ。
『星』だ。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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