●成果と対価と、
螺旋帝の血族・緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守り切った結果、ケルベロス達は次に螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が出現場所を知り得た。
これにより、螺旋忍軍との決戦を行う事が可能となった――が。
正義のケルベロス忍軍より螺旋忍法帖を奪い、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した『最上忍軍』が、大きな障害になろうとしている。
「螺旋帝の血族・イグニスから新たな命令を受けた最上忍軍は、各勢力に潜入していた螺旋忍軍らを利用し『螺旋忍軍のゲートが現れる地点に戦力を集結』させようとしているようです」
智龍襲来戦の成果と対価を語ったリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、ひとつ、ふたつ、みっつと指折り数えた。
それは螺旋忍軍から『魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見された』『このグラビティ・チェインを得る事ができれば、巨大な功績になる』『この事実を知ったケルベロスの襲撃が予測されている』という偽情報を掴まされ、ゲートが現れる地に集まろうとしている勢力の数。
一つ目は、『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力のダモクレス。
二つ目は、ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子とその私兵団であるエインヘリアル。
最後の三つめは、各勢力が研究していた屍隷兵の中でも戦闘力に長ける者らを集めた軍勢。
「いずれも『魔竜王の遺産は独占が望ましいが、複数の勢力が参戦してくる事が予測されている為、敵に漁夫の利を与えない為の立ち回りが重要である』と説明されているようで。デウスエクス同士は相対さず牽制しあうよう仕向けられていると思われます」
何とも狡猾な立ち回り。
そうしてイグニスとドラゴン勢力は、集めた戦力を『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力』にしようとしているのだ。
これら全ての撃破は、ケルベロスウォーを発動しない限り不可能。されど行軍中を襲撃し、主だった指揮官を討ち取る事は出来る。
「敵勢力を弱体化させる為に、皆さんのお力をお貸し下さい」
――参戦する者らに降りかかるだろう困難は承知の上で、リザベッタはケルベロス達に希う。
地球の未来の為に。
●重ね意味
螺旋忍軍を通じ屍隷兵の情報を得たデウスエクス達は、それぞれ強力な力を有す屍隷兵の研究を行っていたようだ。そしてこれらの屍隷兵の運営には、螺旋忍軍が利用されていたという。
「最上忍軍はこれらの螺旋忍軍を通じ、戦闘力の高い屍隷兵を集め軍団を結成したようです」
率いるのは、最上忍軍の指揮官の一人である『詠み謳う煌然たる朱き社』。
そして率いられるのは、量産型の『量産強化型屍隷兵』と『嘆きのマリア達』を主力に、11体の高スペックの屍隷兵たち。
量産型の撃破はそう難しくないが、戦闘力に優れた11体の強さは通常のデウスエクスに引けを取らない。
「この戦闘力に優れた屍隷兵をイグニスが手に入れてしまえば、屍隷兵研究は飛躍的に進み、より強力な屍隷兵が次々と生み出される恐れがあります」
つまり。
目前に迫る決戦の戦力削減という意味と。
未来に要らぬ禍根を残さぬという意味と。
今回の屍隷兵との戦いには、二つの意味があるとリザベッタは言う。
「屍隷兵の研究はかなり進んで来ているようです。それを加速させない為にも、どうか宜しくお願いします」
参加者 | |
---|---|
エピ・バラード(安全第一・e01793) |
グラム・バーリフェルト(熾竜・e08426) |
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331) |
月代・風花(雲心月性の巫・e18527) |
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167) |
セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288) |
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140) |
鳳・小鳥(オラトリオの螺旋忍者・e35487) |
●告
「あたしはイシコロ……道ばたのイシコロです……」
そそり立つ樹の影で石ころのように身を丸めたエピ・バラード(安全第一・e01793)の独白に、体躯の小ささを活かし少し前のめりになっていた赤と黒の色彩を持つテレビウム――チャンネルが、一瞬だけ振り返る。
けれどその間は僅か。タフガイらしく真っ直ぐ前へ戻された視線に、エピはぐっと息を殺す。
ここから先はもう戦場。纏う防具の特徴を活用しても、存在を隠す事は出来ない。だから、いつも通りハイテンションに行きたい処をぐっと堪え、じぃっと小さくなって『時』を待つ。
そしてその瞬間は、遠からず訪れた。
「――」
凝らした視線の先に見つけた独特のフォルムに、セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)がハンドサインを送れば、潜んでいたケルベロス達が世界に解き放たれる。
「征くぞ」
逡巡の隙なく、赤色の竜翼を広げグラム・バーリフェルト(熾竜・e08426)が飛び出す。
「うん!」
男が巻き起こした風に、慣れた調子で月代・風花(雲心月性の巫・e18527)も乗る。
「私は竜を葬る者なり!」
鱗で覆われた尾で地を叩く神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)が上げた気勢が鬨の声。
さぁ、征こう。
我らは地獄の番犬。人々に剣にして、盾たる戦士。
●意
標的を視界の真ん中に捕らえ、強く大地を踏み締めた雅は竜骨から産み出された巨大槌を振り被る。
――絶対に、当てる。
固めた決意は竜の咆哮となって唸りを上げ、山羊と獅子の脚で進む異形を真横から打つ。
喰らった衝撃に、継ぎ接ぎだらけの毛並がざわりと波打ち、威嚇するよう蛇の尾がチロリと舌を出す。
「あっあっ怖くない! 怖くないですよーっ!」
困惑するかの如く俯く山羊顔に、エピは慌てて駆け寄る――と見せかけ、正面を取った。
「いいんですか? 逃げたらもっと怖いですよ!」
挑発に合わせて禍々しき刃を掲げると、一瞥した獅子の貌が低く唸り。直後、吐かれた紅蓮の炎弾へはチャンネルが我が身を晒す。
サーヴァントの反撃は直ぐ。凶器で殴り返せるだけの余裕がチャンネルにはあった。だが、宿された消えぬ炎の多さにアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は、「ふむ」と少女の面差しに背伸びした得心を示す。
「そんなもの、アラタ達が消し去ってやるんだぞ! なぁ、先生!」
先生と呼ばれたウイングキャットは、どうやら名付けに納得していないのか。アラタの声をスルーはするが、意図は察して清き翼を羽ばたかせる。そして黄金の果実を手にしたアラタは、チャンネルを癒すと同時に最前線に立つ者らへ自浄の加護を与え、凛と言い放った。
「イグニスの企てで地球も終わる――そんなこと、アラタ達が絶対にさせないんだぞ!」
「そうだね」
戦場に高らかに鳴り渡った、かつてダモクレスであった少女の宣誓に、雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)は同意を頷き、導かれた新たな問いに首を傾げる。
「それにしてもイグニスって何考えてるんだろう……? 復活するし、もしかして身体移り変わったりしてるの?」
それはこの場の誰に尋ねても、解の得られぬ問い。無論、利香も真剣に答えを求めているわけではなく。囀る心地で呟き、踊る速度で加速した。
「この剣で……勝利を掴む!」
筋肉に流した魔力の電流で飛躍させた身体能力の侭に、自由奔放なサキュバスの娘は妖しく光る黒刀で合成獣兵01――キマイラを斬り刻む。
――ヴォオオ、ェエ。
上がる呻きは、獅子の口からか、はたまた山羊の喉からか。
初めて見る屍隷兵の姿に、セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)は澄んだ光翼を震わせる。
(「歪んだ、命……」)
黒鎖を自在に繰りつつ見遣る異容は、在るべき魂が悲鳴を上げている様に思え。
「殺すことが救いなどとは思いたくないけれど……尚の事、負けられないわね」
意を強く決したセリアは、同胞の守りを厚くする魔法陣を描き上げた。そして素早く敵の背後をとっていたグラムも、操る黒鎖をキマイラへ差し向ける。
「これが貴様のリードだ。大人しく斃れてもらうぞ」
阻害因子を多く撒くのは、敵のみならずグラムも同じ。
「その通りだよ!」
(「グラムさんが作ってくれた隙……絶対に逃さない!」)
ぎりぎりとキマイラの全身を縛り上げる黒鎖に、声を弾ませ風花もドラゴニックハンマーを振り被った。
「ここでしっかり叩いておかないと」
手強い相手なのは百も承知。けれど、皆や――グラムの存在に支えられる風花は、青い瞳を煌かせ、敵の足を止める砲弾を撃ち放つ。
静寂遠く、無数の剣戟が紀伊山地に響く。
「空は良い……空は」
そして鳳・小鳥(オラトリオの螺旋忍者・e35487)は四枚の翼で舞い、空から戦地へ割り入った。
「成程、此れは間違う事無く人々の脅威」
無に近い貌に戦いの高揚を描き、小鳥は目にしたばかりの合成獣兵の脅威を正しく判じる。
これは、此処で討たねばならぬもの。増やしてはならぬもの。
(「獣と機械とエインヘリアルの狂宴か……ならば、終わらせるのみ」)
かくて地上に舞い降りた自由を愛する女は、ケルベロスチェインでキマイラの四肢を絡めとった。
敵と定めたのは、キマイラのみ。だが、気配に引かれて量産型もまた集う。
「――今っ! 狂い咲きなさい!!」
どろりと溶けたような人型がキマイラの隣に並んだ瞬間、利香は桜吹雪を風に舞い上げ剣と踊る。
鋭く入った剣閃きにアンバランスに長い腕が落ち、それはバランスを崩した。
(「今なら、落とせる?」)
迷いに割く時間も惜しい。どうせ邪魔になるなら末路は同じと、セリアは標的をキマイラから量産型へと移し旋風と成って蹴りかかる。
●達
心の臓に悲する乙女を封ずる異形、頭身の崩れた魔女にも似た怪物。迫り伸びる腕を掻い潜り、雅は凛然とキマイラへのみに得物を振るう。
「そーれ、行きますよ!」
増し行く喧噪に負けじとエピは朗らかに声を上げ、背に小振りな機械の翼を広げた。
「皆様の力になりますっ!」
放たれたのは、黄金に輝く閃光。敵を屠るものではなく、味方を癒し破壊の力を授けるもの。その効果はキマイラを殴打するチャンネルの凶器にすぐさま現れる。
けれどキマイラとて選りすぐりの屍隷兵だ。
――ヴウウオォオ。
一拍後の反撃は山羊角のから迸る電撃となって、ケルベロス陣営の最前列をまとめて痺れさす。
たった一撃。されど幾重にも宿される身の不調。しかし、合成獣兵と相対する者らの顔には余裕が浮かぶ。
「ない物にこんなに釣られちゃって、デウスエクスも結構適当だなぁ……」
重ねられた自浄の加護が澱を清める予感と、螺旋忍軍の口先につられたデウスエクスの滑稽ぶりに、利香は安堵と呆れが綯い交ぜになった息を吐く。
「憐れと言えば、憐れだな……」
利香の言い様にアラタは首肯し、故にこその決意を胸に固める。
(「キマイラは、元は大地に生きていたんだろうな」)
山羊に獅子に蛇。如何にして合成されたかは知りようもないが、姿と同じくかの命がデウスエクスによって歪められてしまったのは事実。
(「動物だった頃の記憶があるのなら、今の合成獣兵としての生は不幸だろうか? それとも、生きていられるならまだ……」)
心芽生えさせ命に興味を持った少女の思考回路は疾く駆け、唯一の解を導き出す。
「どっちでもアラタ達で送ってやろう……キレイハキタナイ―――キタナイハキレイ」
静かに唱えたアラタは紫の薬草を手にし、更に花を砂糖漬けにしたシロップの香りで仲間を癒した。そこに加えられたのは、集中力をコントロールするエッセンス。
足りた回復に隙を見つけた先生がキャットリングを放るのを追い、利香が仕掛けた空絶つ剣閃は、アラタの加護の恩恵に与り鋭さを増してキマイラの蛇尾を斬り捨てる。
寄り来る量産型屍隷兵へは最低限の牽制に留め、ケルベロス達は主目的であるキマイラへ攻撃を集中させていた。
敵の足を止め、自分達の守りと攻めの効果を上げ。
如何なる敵と遭遇しようと十全に対応しうる策は功を奏し、順調にデウスエクスの力を削いでいる。
(「この姿は、幾つもの命が継ぎ接ぎにされている、という事かしら」)
歪な姿にセリアが思うのは、アラタと同じ。
果たして『彼ら』の心は、尊厳は。何処へ往ってしまったのか。
「……貴方に問うても、答えは出ないのでしょうけれど」
ヴァルキュリアの誇りを蒼く輝かすセリアにとり、存在を捻じ曲げられた相手は心に苦い。
だが、行末は変えられぬ。どれほど想おうと、討ち滅ぼすより他にない。
「私達に出来るのはそれだけ」
光の翼で低く翔け、セリアはキマイラの懐へ飛び込む。
「如何に堅い守りであろうと……何れは崩れる。そういうものよ」
着地したのは、獅子面の鼻先。殺さぬ勢いに任せ、セリアはグラビティ・チェインを集束させた拳で敵を打つ。流れ込んだ波動は氷へと変質し、異形の表情を凍て固まらせた。
苦痛を吼える事さえ出来なくなった獅子の顔。蛇の尾は断たれて既に暫し。残された山羊の頭をグラムは一瞥し、風花へ視線を投げる。
「――」
「――」
連理の契りを交わす二人に、言葉は要らない。
厳めしい竜の男の本質を知る少女は、迷わず大槌を構えた。
「当たれば火傷じゃすまないよ!」
先に動いたのはセリアの作った流れに導かれた風花の方。轟く竜の咆哮に、大気が割れて風が巻く。
「その身を焦がす業炎の楔、とくと味わえ!」
そしてグラムは地獄の炎で象った巨大な槍を、風の中心目掛けて投じる。
――Ve、エEえ゛ッ!
風花とグラムのコンビネーションに、山羊が苦痛を啼く。余力が少ないのは、誰の目にも明らかだった。機を逃さず、小鳥は胸元から黒い折り鶴を取り出す。
「空に生き、空で育ったわしにかなうはずもあるまい!」
表情を変えることなく、けれど語調強く断言し、小鳥は彼女だけが持ち得た力で紙の鳥に仮初の命を吹き込む。
「これが、オラトリオの秘術と螺旋の奥義の合わせ技……」
小鳥――否、鳳の手より生まれ羽ばたいた鳥は螺旋の回廊を潜り抜け、山羊の眉間に嘴の剣を突き立てる。貫くダメージは重く鋭く、屍隷兵の命をまた一歩終焉へと近付けた。これぞ、オラトリオであり螺旋忍者である者の秘技、忍法『鵲』。
耐えきれなくなったキマイラの体躯が、地に沈む。援護しようとしてか、ただの本能か、量産型がそこへ群がる。
「させません!」
道を閉ざそうとする数の暴力を、エピとチャンネルが体を張って食い止めた。
「雅様、おまかせしますっ」
喰らったダメージをものともせず、エピは全身にミサイルポッドを現わし敵を牽制すると、命運を雅に託す。
「ああ」
運命を決める一筋の光の路を、雅が真っ直ぐ駆け射抜く。
竜を恨む竜族の女は、何処までも隙なく凛々しい。それは誰をか思う、雅の仮面。しかしそれを貫き、雅は我が身にさる英雄の魂を降ろす。
「我抱きしは空虚。万物流転、時間逆行、時の門よ開け――」
己ではなく、別の誰かが得意だった時空魔術。片手に時神の砂時計を、背後に居空間へ繋がる門を聳えさせ。
「哀れな屍を土に還す――そして民を護ろう」
――、――、……!
雅は合成獣兵01『キマイラ』の継ぎ接ぎの命を、解き還した。
●続
押し寄せる量産型の波濤は止まらない。
「屍隷兵……月喰島以来か。あんな悲しい存在の実験、続けさせる訳にはいかん」
調査隊の救援として冥龍の島を踏んだ雅は、脳裏に過去を過らせ、眼に捉える現実で宵闇の得物で歪な人型を突く。そこへ、
「その通りだ。地に這う異形をこれ以上増やしてはならない」
小鳥は仮初の鳥を放ち、作り物の命へ終焉を齎す。
対してみて、判ったことがある。それは屍隷兵に関する研究が、相応に進んでいるという事。そしてデウスエクス達がそう遠くない未来に屍隷兵を戦力として投入してくるであろう事。
「みんな、こっちだぞ!」
ただの骸と化した屍隷兵を乗り越えた先で、アラタが手招く。先生の爪に怯んだ異形が鑪を踏んだ事で、『外』へと続く道が開いたのだ。
「アラタが前をゆく、着いて来るんだぞ」
言うが早いか、緑の協力を得うるアラタは走り出す。
「え? もう帰るの!?」
叶うならもう少し戦っていたいと、利香は目を丸める。だが皆より頭一つ長身のグラムが、手近な屍隷兵を斬り伏せながら冷静に説く。
「このままではキリがない。何れと言わず、すぐにでも退路が断たれかねん」
男の目には、誰よりも屍隷兵の『数』が観えている。同時に、デウスエクス専門の元傭兵だったグラムには、このまま戦い続けた未来も視えていた。
「つまり、キマイラを倒した今が絶好のタイミングってわけだね」
グラムの判断を誰より信じる風花に迷いはない。
「舞い散れ、氷華!」
豊かな黒髪を躍らせ、風花はグラムが薙いだ敵へ、雲竜の意匠が施された鞘から抜いた霊刀で描く氷の華の如き剣閃でトドメを呉れる。けれど生じたはずの空隙へは、すぐさま新手の影が落ちた。
「成程、これじゃ仕方ないね」
予想以上の逼迫した状況に、利香もくるりと方向転換するとアラタの背を追う。
元より、戦果が欲しいわけではないのだ。ただ来る大戦へ向け、敵の数を減らしておきたかっただけ。無事の帰還と敵の首級の数では、比べるべくもない。
既に片付けた量産型の数は五――否。
「殿はあたしにおまかせですよ! モットーは安全第一! 皆様をきちんとおくり返してみせますとも!」
ケルベロス達を背後から襲おうとした屍隷兵をチャンネルとの連携で伸したエピが、ぴょんぴょんジャンプして手を振るから、総じて数は六。
成し得た最良と言ってよい結果に、チャンネルの背中も満足を語るようにしゃんと伸びている。
「余力を残すに越したことはないからな」
竜翼で空へ翔け、一帯を見渡した雅が言う。
戦場を放浪する医者を名乗る女は肌で感じていた。すぐそこまで迫っている苛烈な戦いの気配を。
「進路、僅かに右へ」
雅同様、好む空へ居を戻した小鳥が行くべき道を示す。
「わかった、助かる! ……?」
受け取った指針通りに足の舵を切ったアラタは、ふと隣を低空飛行で翔けるセリアの憂い顔に気付いた。
「どうかしたのか?」
「――いいえ」
年近い少女の気遣いに、セリアは緩く首を振る。
彼女を捉えていたのは屍隷兵たちの姿。命を弄ばれ、蹂躙された証。
歪められたものは、戻らない。
自分達に出来るのは、やはり倒し滅ぼすことだけ。
「次の戦いも、必ず――」
勝ちましょう。
全てを音にされる事のなかった誓いにも似る決意に、アラタも「そうだな」と瞳に力を込める。
どうか、せめて。
引導を渡した屍隷兵たちの魂が、静かに眠れますように。
祈りは山間に――そしていずれケルベロス達とデウスエクス達がぶつかり合うのであろう地に、そっと染み入った。
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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