●幼馴染は変態新郎?
教会に響く鐘の音。気が付くと、木島・愛梨(きじま・あいり)は大人の身体に成長し、花嫁衣装に身を包んで赤いカーペットの上を歩いていた。
「えっ……? あれ、もしかして、桜井君?」
目の前にタキシード姿のクラスメイトの背中を見つけ、愛梨の胸が高鳴った。
背丈こそ青年のものになっていたが、自分には解る。あれは小学校に入学した時から、ずっと憧れていた桜井君だ。まさか、自分は彼のお嫁さんになれたのか。思わず彼の名前を呼びながら、喜び勇んで駆け出した愛梨だった……のだが。
「やあ、待っていたよ、愛梨ちゃん。さあ、僕の胸に飛び込んでおいで!」
「……っ!? い、いやぁぁぁっ!!」
絶叫と共に、愛梨は涙を浮かべて足を止めた。それもそのはず。目の前の桜井君は、正面だけが素っ裸! タキシードで覆われているのは背中だけで、正面はそれを留めるための紐しかなかったのだから。
「へ、変態ぃぃぃぃ……って、あれ?」
思わず逃げ出そうとした瞬間、愛梨はベッドの上で目が覚めた。
「はぁ……はぁ……。ゆ、夢……だったの……?」
憧れの桜井君が変態ではなかったことに、安堵の溜息を吐いて起き上がる愛梨。だが、次の瞬間、どっと気が抜けた彼女の心臓を、背中から巨大な鍵が貫通した。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
第三の魔女ケリュネイア。半人半獣の少女が呟いた傍らには、愛梨の夢に現れた、半分だけのタキシードを着たイケメンのドリームイーターが立っていた。
●そして悪夢は現実に
「うぅ……。花嫁衣裳とか結婚式は女の子の夢なのに、こんな悪夢はあんまりです……」
その日、ケルベロス達の前に現れた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、怒りと嫌悪の入り混じった、なんとも微妙な表情で、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「びっくりする夢を見た子どもがドリームイーターに襲われて、その『驚き』から新しいドリームイーターが生まれるという事件が起きました。皆さんには、その新しく生まれたドリームイーターを退治して欲しいんですけど……」
問題なのは、そのドリームイーターの格好である。なんでも、ねむの話によると、敵は背面だけ立派なタキシードに覆われているものの、正面は紛うことなき素っ裸なのだとか。
その様は、正にタキシードの版の逆裸エプロン。ちなみに、敵はかなりのイケメンらしいが、モザイク化している場所は股間である。なんというか、この時点で既に色々と、存在そのものが間違っていた。
「襲われちゃったの女の子は、木島・愛梨さんというお名前です。新しく生まれたドリームイーターは、愛梨さんの家の近くを歩き回っているみたいです」
敵は誰かを驚かせたくて仕方ないらしく、付近を歩いていれば、遭遇するのは難しくない。何も知らない者からすれば不審者が徘徊しているようにしか見えないため、面倒なことになる前に、さっさと倒してしまった方が賢明だ。
「敵のドリームイータは1体だけで、他に配下はいません。戦いになると……そ、その……モ、モザイクを飛ばして攻撃して来たり、モザイクで……の、飲み込もうとして来たりするので、気を付けてください……」
モザイクの場所が場所だけに、ねむの歯切れが悪くなった。なお、敵は自分の姿を見て驚かなかった相手を優先的に狙うようなので、この性質を利用して、戦闘を有利に運べるかもしれない。
「うへぇ……。いくらカッコいい顔の敵でも、中身が変態なのとは戦いたくないなぁ……」
大きな溜息を吐きながら、立ち上がったのは成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)。だが、敵がデウスエクスである以上、その企みを阻止するのはケルベロスの務め。
女の子の純粋な夢を守るため、是非とも力を貸して欲しい。そう、ねむから頼まれると、どうにも断ることができないのであった。
参加者 | |
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赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729) |
イリュジオン・フリュイデファンデ(堕落へ誘う蛇・e19541) |
エンジュ・グリオイース(醒天を駆けし刃翼・e21923) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
シャルフィン・レヴェルス(モノフォビア・e27856) |
比良坂・陸也(化け狸・e28489) |
青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474) |
●ブチ壊しの悪夢
人々が寝静まった時分、灯りを片手に住宅街を歩く影。ドリームイーター出現の報を受けて出動したケルベロス達だったが、その足取りはどこか重い。
「やぁ、こう、変態相手だしなぁ……。相手したくねぇなぁ……」
大きな溜息を吐きながら、比良坂・陸也(化け狸・e28489)が項垂れている。
人々を守り、女の子の夢も守る。それがケルベロスの務めだと解ってはいるが、しかし生理的にどうしても無理なものは存在する。
「うん……。すっごく解るよ……その気持ち……」
傍らで頷く成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)。既に何度目か解らない変態討伐の出動に、もはや返す言葉もないようだった。
月明かりの下、それ以上は誰も口を開く者がいない。皆、言葉にせずとも解っているのだ。今回の敵が、どれだけヤバい存在なのかということを。
だが、そんな中でただ一人、エンジュ・グリオイース(醒天を駆けし刃翼・e21923)だけは、何故か決意を込めたような瞳をしたまま、率先して先頭を歩いていた。
「御嬢様の身に何かあれば、皆様心配しますから」
どうやら、主人の赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)を心配してのことのようである。そんな彼女の決意に惹かれてか、はたまた単に人影を見つけたからだろうか。
「ハーッハッハッハァッ! 見つけたよ、僕のプリンセス達!」
突然、曲り角の影から、後ろだけタキシードに身を包んだ変態紳士が現れた。
「なっ……!? なんなんですかこれ!? 驚きで済むんですか……? せ、せめて逆なら……いや、それもよくないですけど」
後ろだけ隠して前は丸出し。股間モザイクがキラリと光る変態を前に、いちごは完全にドン比きした様子でエンジュの後ろに身を隠した。
「あらあら、まぁまぁ……。半裸といいますか、ほぼ全裸といいますか……。いくらイケメンな殿方でも、その……あの」
あまりに酷い格好に、イリュジオン・フリュイデファンデ(堕落へ誘う蛇・e19541)は完全に反応に困った様子で固まっている。まあ、そりゃそうだろう。いきなり正面だけ素っ裸な変態が現れ、『これを見てどう思う?』などと問われたところで、冷静にまともな答えを返せる者の方が少ない。
「半裸タキシードか……。以前流行った童貞を殺すセーターのように、大きく背中を見せるどころか、大胆にも前を全部見せているのは、これからの季節、『くーるびず』というのも取り入れているからか……。ふむ、中々斬新なアイデアだな」
いや、一人だけいた。こんな状況でも冷静に相手の存在を分析し、まともに受け止めようとする、シャルフィン・レヴェルス(モノフォビア・e27856)という青年が。
「いやいや、いくら大事な部分にモザイクかかってるからっていってもさぁ? どこかの懐かし漫画を思い出すよ!?」
「アンナちゃんも、これはさすがに驚きっていうかドン引きですよ……。っていうか、半裸は半裸でも、上下とか左右じゃなくて裏表で二等分はどうなんですか!!」
もっとも、マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)や青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474)を始めとした面々は、やはりというかドン引きしていた。
そういえば、昔のギャグ漫画にも、こんなキャラクターが出てきたような気がする。だが、それでも彼は前の方を隠していたはずだ。尻が丸出しなのは百歩譲ってギャグで済むかもしれないが、しかし前の方を丸出しにするのはない。あんまりだ。
「あこがれの人が自分の近くでタキシード着てるって、女の子にとっては最高の夢ですよねー。……なのに、なのに! なんでそんな変態仕様にしちゃうんですかっ!? 絶対に認めるわけないでしょう!!」
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)に至っては、敵の姿を前にして早々にブチ切れていた。だが、それでも目の前の変態紳士は何ら気にしていないのか、彼女達に向かって両手を広げながら、無駄に爽やかな微笑みを浮かべて言った。
「おやおや、つれないなぁ。それじゃあ……今から僕が、うんとビックリするようなことしちゃうけど……いいよね、お姫様達?」
うん、殺そう。問答無用で、徹底的に潰してしまおう。
誰も口には出さなかったが、それでもケルベロス達は拳を握り締め、言葉にできない怒りの全てを目の前のドリームイーターへとぶつける決意を固めた。
●ザ・股間クラッシャー!
「ハ~ッハッハァッ! さあ、御嬢さん達! 僕の愛を、存分に受け取ってくれたまえ!」
ドン引きする女性陣達を余所に、両手を広げながら股間を強調して迫ってくるドリームイータ。要するに、『俺の胸に飛び込んで来い!』的な何かなのだろうが、しかしこれはのっけからキモい。キモ過ぎる!
「御嬢様、お下がりくだ……っ!?」
いちごを庇おうを前に出た瞬間、股間から発射されたモザイクが顔面に付着して、エンジュは思わず言葉を切った。
「……流石にこういう事されると困るわね。迅速に対処して少女を助けましょう」
ハンカチで顔を吹きつつ、エンジュの瞳が冷酷な暗殺者のそれに変わる。
こいつだけは、色々な意味で許せない。女性の夢、尊厳、そして男性への憧れの全てを台無しにする忌むべき存在。デウスエクスであろうとなかろうと、存在そのものが抹消されてしかるべきレベルだ。
「アリカさんは、エンジュさんのフォローをお願いします」
エンジュの顔面に付着したモザイクを取り払うべく、いちごが相棒のボクスドラゴン、アリカへと指示を出す。その間に、自分は敵の動きを封じるべくブラックスライムで仕掛けたが……攻撃を食らったドリームイーターは、何故か恍惚とした表情を浮かべ、いちごの方へ荒い吐息と悩ましげな視線を向けて来た。
「あはは……捕まってしまったみたいだね。ハァ……ハァ……遠慮しないで、今度は君が僕をハグしてくれてもいいんだよ……」
うげっ! 戻しそうだ!
半裸なだけでも酷いのに、スライムに包まれた身体で口説き文句を述べてくるとか、いったい誰得なプロポーズか!?
「これは酷いね……。早く倒せるよう、僕は僕の仕事をしよう……」
ウイングキャットのネコキャットに清浄なる風を送らせつつ、マサムネは躊躇うことなく爆破スイッチへと指を掛ける。本当は一刻も早く敵を爆破してやりたかったのだが、しかしまずは味方の心を鼓舞しなければ、見ているだけで精神を削られてしまいそうだ。
瞬間、仲間達の背後で巻き起こるカラフルな爆発。その勢いに押され、他の面々も一斉に目の前の変態へと攻撃を仕掛けた。
「全国の女の子とタキシードに謝ってくださいっ! ……許しはしませんけど」
未だスライムの呪縛に悶えている変態へ、環の強烈な蹴りが炸裂する。その一撃は寸分狂わず、モザイクに包まれた敵の股間を直撃し。
「……ッ!? ぁ……ぁぅ」
さすがにこれは効いたのか、ドリームイーターも身体を『くの字』に曲げて崩れ落ちた。
「絶対に、一回は蹴っ飛ばすって決めてたんですよねー。そうじゃなきゃ、こっちの気がすみません」
いや、どこをだよ。まあ、それでも気持ちは解らないでもないが。確かに、こんな変態を前にしたら、急所を蹴り上げて抹殺してやりたくもなる。
「変態が怯みました! 今ですよ!」
このチャンスを逃してはならないと、杏奈が竜砲弾で変態の尻に追加の一撃をお見舞いする。轟音と共に炸裂する砲弾の一撃に、今度は尻を押さえて跳び上がる変態新郎。が、しかし、それを待っていたかのように、ウイングキャットのにゃーたさんが投げ付けたリングが、再び股間を直撃し。
「はぅぁぁぁぁっ!? ゆ、指輪の交換をする場所は、そこじゃなぁぁぁぃっ!!」
夜の道を、悶絶しながら転げまわる変態が一匹。だが、同情する者は誰もいない。むしろ、自業自得だと言わんばかりに、冷ややかな視線を誰もが向け。
「そんなみっともねぇもん晒してるんなら、つめてーのによえーだろ。最初にこんがり焼いて、すぐ焼いてやんぜ」
陸也の繰り出した蹴撃が炎を生み、それが敵の股間に燃え移った。
「熱っ! や、やめるんだ、君達! こんな過激なキャンドルサービス、僕は頼んだ覚えがないぞ!」
焼ける股間を押さえながら、ドリームイーターは早くも涙目になりながら叫んでいた。しかし、あくまで『新郎』の立場を崩そうとしない変態を前に、ケルベロス達が冷徹な態度を変えることはなく。
「ああ……何でしょう、モザイクで隠されていますが、なお……恥ずかしくなりますわね。イヴ、遠慮なく切り裂いて良いわ」
どうせなら、その貧相な物を容赦なく斬り落としてしまえ。そう言って、イリュジオンは相棒のビハインド、イヴと共に仕掛ける。如意棒の一撃で敵の股間を突いたところで、イヴが容赦なく背中から尻に掛けて斬り掛かる。
「ぐはっ!? ……お、お姉さん、なかなか凄いね。前後からの同時攻めなんて、やっぱり大人の女性は激しい攻め方を知っているね♪」
もっとも、攻撃されながらも敵が気色悪い言葉とスマイルを向けて来たため、一気に精神を削られたような気がしたが、それはそれ。
「この一撃を受けてみろ」
いい加減、黙ってくれないと気持ちが萎える。シャルフィンの放った渾身の一撃。それは再び敵の股間を直撃し、色々と大事な物を木っ端微塵に打ち砕き。
「御嬢様に、下品な物を見せた報いを受けていただきます」
ビハインドの『ビャクヤ』が心霊現象によって動きを止めたところで、エンジュが護符を投げ付ければ、そこから生まれるのはメイド服風の甲冑を纏った槍騎兵達。一矢乱れぬ動きで突撃するメイド隊が、次々に敵の背中へ、尻へ、凍れる槍を突き刺した。
「うぅ、気持ち悪いなぁ……。み、皆、頑張って~!!」
そんな中、理奈だけは後ろで踊りを踊って仲間達を鼓舞しつつ、なるべく正面を見ないように頑張っていた。
「くっ……君達、よくも僕の大切な場所を、こうまで攻撃してくれたね……」
股間と尻を押さえつつ、変態新郎がゆっくりと立ち上がる。
敵は未だ健在だ。こんな悪夢を一刻も早く終わらせるため、ケルベロス達は油断なく距離を取りつつも、次なる敵の行動に備えて身構えた。
●良い子は見たらいけません!
月夜の下、妖しく舞い踊るタキシード。それだけ聞けば、どこぞの怪盗か仮面の助っ人イケメンを思い起こさせるフレーズだが、しかし現実は残酷だ。
「うぅ……き、君達……どうしても、僕の愛を受け止めてくれないんだね」
胸元を苦しげに押さえつつ、ドリームイーターが悲しそうな視線を向けて来る。だが、股間にモザイクの全面素っ裸な姿で言われても、まったく萌えないしときめかない。
「君達の気持ちは、良く解った……。それなら……もう、僕の方から奪いに行くしかなさそうだね!」
そう言って敵が両腕を広げた瞬間、股間モザイクが一気に肥大化して襲い掛かって来た。
「えぇっ!? そ、そんな、いきなり困りま……あぁっ!?」
哀れ、一瞬の隙を突かれ、イリュジオンがモザイクに飲み込まれてしまった。これは拙い。股間に飲み込まれてからのプロポーズとか、もう色々な意味で最低の極み! 調子に乗ったドリームイーターが、恍惚とした表情を浮かべているのがヤバ過ぎる!
「お嬢様、見てはいけません」
咄嗟にエンジュがいちごの視界を手で覆い、目の前の光景をシャットアウト。ついでに、未だモザイクに捕らわれたままのイリュジオンの身体を、桃色の霧で包んで隠す。
「……っ! ああ……酷い目に遭いました。あまり強引に女性に迫るのは、いくらイケメンの殿方でも品性に欠けますわよ」
モザイクから解放されたイリュジオンが、静かな怒りを湛えながら敵に冷笑を浮かべて言った。正直、今回の敵は品性以外にも色々と欠けているところがありそうな気がするのだが、それはそれ。
「これ以上、お嬢様に下品な物を見せるわけには行きませんね……ビャクヤ!」
「イヴ、あなたもお手伝いなさい」
完全にブチ切れたエンジュとイリュジオンの命を受け、敵の動きを封じる二体のビハインド。イリュジオン自身も一気に間合いを詰め、敵のキモい動きを捌きながら如意棒を叩き込み。
「露出狂なドリームイーターさんは、ここでセーバイしてさしあげましょー!」
にゃーたさんが爪を剥き出しにして襲い掛かったのに合わせ、杏奈が漆黒の魔弾を放つ。それは吸い込まれるようにして敵の股間に命中し、再び敵が身体を曲げて崩れ落ち。
「急所を狙われる怖さを、もっと知るといいよ」
「ふむ……ならば、俺は後ろから攻撃させてもらおう」
マサムネの放った漆黒の魔弾が敵の股間に命中すれば、シャルフィンの射った矢がタキシードを貫き、敵の尻へと突き刺さる。おまけにネコキャットの投げたリングまで命中し、前も後ろもボロボロに。
「くはっ!? な、なんて強烈な攻撃なんだ! それも、こんなに同時になんて……これじゃ、重婚罪ってやつじゃないか!?」
股間と尻の両方を押さえつつ、苦しそうな吐息と共に、変態が的外れな台詞を吐き出した。
もう、ここはさっさと倒してしまおう。なんというか、相手の斜め上な反応に付き合うのも、いい加減に疲れてきたので。
「これで頭でも冷やしてください!」
「続けて行きますよ! アリカさんは、私に着いてきて下さい!」
何の躊躇いもなく環がハンマーで敵の後頭部をカチ割れば、いちごの蹴りとアリカの体当たりが立て続けに同じ場所に炸裂する。それでも、辛うじて堪えた変態新朗だったが、そこは陸也がさせなかった。
「鍵の妖精は恋をした。それは王への叛逆の物語。これはただその残滓」
詩編を媒介に、呼び出されるは邪視の力を持った鍵の妖精。金銀、二つの瞳に睨まれたら最後、その対象には死、あるのみ。
「あぅっ!? ま、まさか……この、僕の方が、ハートを射抜かれてしまうなんてね……」
胸元を掴むよういして押さえ、そのまま後ろに倒れて行く変態が一人。その身体がモザイク諸共に消えてしまう瞬間、陸也は酷くどうでもよいものを見るような視線を送り、尊厳を破壊するような一言を呟いた。
「……ちっさ」
●ウェディング・ドリーム
戦いは終わり、変態ドリームイーターは、月夜の街にて人知れず消滅した。
これで、とりあえずは一安心。驚きを奪われてしまった少女も、直に目を覚ますことだろう。
「終わりましたね。お嬢様、お怪我はありませんか?」
「うん……。私は大丈夫、だけど……」
エンジュの問いに、いちごが他の仲間達を横目にしつつ言葉を濁す。正直なところ、実際にあの変態と対峙した当事者からすれば、当分は甘ったるい言葉を吐くイケメンを見る度に悪夢を見そうな気がしてならない。
「うぇぇ……気持ち悪い敵だった……」
「いくらイケメンの殿方でも、許されることと、そうでないことがありますわよね……」
幾度となく変態と対峙して来たはずの理奈も、今回ばかりは精神を大幅に削られたようだ。イリュジオンにしても、いくらイケメンに迫られたとはいえ、変態のデウスエクス相手では複雑な気持ちになるわけで。
「これ、大丈夫なのか? 変なトラウマは、さすがになぁ……」
今後の戦いに支障を来たすのではないかと、陸也は少々不安顔だ。もっとも、中には変態相手の戦いであっても、何ら気にしない者達もいるわけで。
「なんでシャルフィンこの任務に誘ったの? ねぇねぇ、なんで!?」
「マサムネを誘ったのは、今後の参考になるかと思ったからなんだが……参考になりそうにないな。それとも着るか?」
「着ない! 着ないってばシャルフィン!」
まあ、じゃれ合っている二人に関しては、そっとしておくことにしましょう。
「う~ん……。後は木島さんが目を覚ましたときに、桜井君のことを嫌いになってなければいいんですけどねー」
最後に、杏奈が悪夢を見た少女のことを気にかける素振りを見せたところで、環は軽く微笑んで空を仰いだ。
(「大丈夫。あなたのあこがれの人は、かっこよくタキシードを着てくれますよ」)
今宵のことは、きっと何かの間違いだ。この先、何年後になるかは解らないが、現実の桜井君は、きっと素敵なタキシードを着て待っていてくれることだろうと。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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