螺旋忍軍大戦強襲~ダモクレス襲撃戦

作者:のずみりん

「朗報だ、ケルベロス。螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』の出現場所が判明した」
 次にゲートが開く場所は奈良平野。それが判明したのは、螺旋帝の血族・緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守り切った大きな収穫だ。
 よくやってくれた、ありがとう……とリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は笑顔を漏らすが、それを引き締めなおす。
「この情報があれば、螺旋忍軍との決戦を行う事が可能だが……その前に大きな障害がある。先の戦いで螺旋忍法帖を奪取し、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した螺旋忍軍『最上忍軍』だ」
 最上忍軍は螺旋帝の血族・イグニスからの命を受け、各デウスエクス勢力に潜入している螺旋忍軍達を利用、螺旋忍軍のゲートが現れる地点に戦力を集中させようとしているらしい。
「情報から推測するに『魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見された』『この事実を知ったケルベロスの襲撃が予測されている』……と、いった話を流したのだろうな」
 後は複数勢力で取り合いになるだろうこと、迂闊に仕掛けると的に漁夫の利を与えることになる……といった情報で戦端を開かず牽制し合うように誘導すれば、立派な防衛線のできあがりだ。
 イグニスとドラゴン勢力はゲートから戦力を送り込むまで、存分に戦力として彼らを利用できる。
「エインヘリアルからはザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子と配下の私兵、ダモクレスは『載霊機ドレッドノートの戦い』の残存勢力、それに各勢力が研究していた屍隷兵……この防衛線の撃滅はケルベロスウォーを発動しない限り不可能だ」
 だが……と、デウスエクス勢力を列挙した地図上へ、リリエは分断線を一本書き入れる。
「デウスエクス集結まで、まだ猶予がある。行軍中の軍勢を襲撃してデウスエクスの指揮官を撃破できれば、勢力を弱体化させることもできるはずだ」
 もちろん、危険な任務だ。だがやるしかない。リリエはゲート出現地点から北東を示す。
「迎撃地点は三重県、伊賀。私たちの担当はダモクレス……『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党だ」
 三重県伊賀市。奇しくもそこは忍者所縁の地の一つだった。
「ダモクレスの軍団には最上忍軍の最上・幻斎が同行しているらしい。組織の再建に大量のグラビティ・チェインを必要としていたダモクレス残党として、最上の情報は渡りに船だったのだろうな」
 幻斎を倒せれば最上忍軍にも大きな打撃を与えられるだろうが、居場所もわからない彼を倒すには周到な作戦が必要だろう。
 それでなくともダモクレス勢力には『載霊機ドレッドノートの戦い』を生き残った指揮官型ダモクレスが多く布陣している。
「マザー・アイリス、ジュモー・エレクトリシアン、ディザスター・キング……三体いずれかでも倒せれば状況はかなり好転するはずだ」
 ダモクレス達の布陣はマザー・アイリスを中央に、ディザスター・キングが先鋒、ジュモー・エレクトリシアンが後衛を固めている。
 指揮官型ダモクレスたちは複数チームで当たらなければ勝てない強さを持ち、更に自分以外にも有力なダモクレスを多く率いている。
「まずディザスター・キングだが、二種のメタルガールソルジャー、ディザスター・ビショップ、ダイヤモンド・ハンマー、ゴルドの強力な先鋒部隊を率いている。撃破するには配下が援護できないように引き付けつつ、複数のチームをディザスター・キングにぶつける必要があるだろう」
 中央のマザー・アイリスは有力な敵こそいないが、多数のダモクレスが取り囲んでおり、更にそれを後衛のジュモー・エレクトリシアンが指揮しており取りつく隙がない。
「……つまり、マザー・アイリスを倒すにはジュモー・エレクトリシアンを攻略する必要がある。撃破或いは指揮が取れない程に追い込み、護衛のダモクレスを混乱させた隙に電撃的に叩くしかないだろうな」
 そしてそのジュモー・エレクトリシアンも、一筋縄ではいかない。
「ジュモー・エレクトリシアンは常にレイジGGG02、オイチGGG01、マザー・ドゥーサといった護衛と共に行動している。攻略には彼女とを守る3体の有力なダモクレスと同時に戦えるだけの戦力が必要だろう」
 また護衛以外でも多数の有力ダモクレスが勢力には参加している。ダモクレスの戦力を削るには、指揮官型以外にそれらを狙い撃破していくのも一つの手だろう。
「ただ注意してくれ。今回の作戦は、進軍する敵を強襲して撤退する奇襲作戦だ。作戦終了後は素早く撤退しなければ敵の勢力圏に取り残されることになる」
 指揮官型ダモクレスの能力はどれも厄介だ。ここで討ち取りたいところだが深入りには気を付けて欲しいと念を押す。
「重ねてになるが、これは危険を伴う作戦だ。だが、皆の力は信じている……無事に帰還して欲しい」
 頼むぞ、ケルベロス。リリエは作戦の説明をそう締めた。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・e03898)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
祝部・桜(玉依姫・e26894)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)

■リプレイ

●厄災の王
「やれやれ、予想外の大駒を引き当てたようだね」
 早々に『再起の号砲』を打ち上げた豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)は、呟いて息を吐いた。
『数が多すぎる。四十八砲は無謀だ』
 作戦は第一歩から修正を強いられた。
 秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)たち有志の偵察は、敵の数があまりに多く、強大な事を示していた。
 火力優勢の法則……正面きっての打ち合いでは数に劣る側が圧倒的に不利となる、というものがある。
 これを劣勢側が覆すのは先制から反撃までに、優勢側の火力大半を殲滅することだが……射程は互角、火力も耐久力も分があるのはダモクレスの側では無理難題。
『ベータ戦術回路……推奨、撤退。攻勢最適解、浸透強襲』
 マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)に組み込まれた、かつての強敵のシステムが警告する。 撤退はない。ここで退けば、次はより苦しくなる。
「状況は最悪。まぁ、今更クーリングオフは受けてくれないだろう……ね」
「望むところ、重騎士の本分は守りに有り!」
 既に数度受けた鎧の御業を砕かれながら、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)は不退転を叫ぶ。
「Mk-44……腐っても重装型か」
 打ち砕いた剣を引き戻す敵は『ディザスター・キング』、二十人を相手取れる四腕五剣の指揮官型ダモクレスに対し、ケルベロスたちはわずか八人で戦い続けている。
「敗北は必然なれど……必ずや任務、果たしましょう」
「これぞ本懐、劣勢の護りは遠祖よりの誉れというもの!」
 ヌンチャク……彼の出自にはフレイルというべきか。連接棍へと変化したカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)の如意棒が放たれた剣を絡め取り、祝部・桜(玉依姫・e26894)は逸らされた斬撃をすんでで捌く。
 身をかわす少女と攻めるダモクレス。その僅かな間をミミック『ボハテル』が食らいついて引き延ばす。
「奇縁に同意しますよ。闇裂くは光条、刻めや刻め!」
 追撃へ踏み込むディザスター・キングをロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・e03898)のマインドソードが切り裂いた。
 彼の生まれし雪の大陸国も守りの死闘多き地。カジミェシュの祖国とも縁深く、そのしぶとさは同じく折り紙つきだ。
「彼方、癒しを!」
「了解! ブレイブスター! アクションモジュールフィフティーン!」
 カジミェシュの掛け声に彼方は『AC 015:『ヒヤクオチミズ』』を選択、詠唱。拡散する癒しの霧が、ディザスター・キングの剣が放つ摩擦炎を鎮火する。
「テロス・クロノス!」
 そして霧の消える一瞬、次の瞬間に弾幕。
 アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)が静止した時の世界で放った『テロス・クロノス・ゼロバースト』零距離一斉射がディザスター・キングに襲い掛かったのだ。
「キング、停止した時は捉える事はできません……例え貴方でもっ!」
 斉射、爆発。避難が終わっているゆえ可能な全力の破壊は、ロジオンが目を細めるほど。
「捉える必要などない」
 しかし。
「我が名はディザスター・キング。厄災の王。知れ、定命のものども」
 人に厄災を止めることはできない。厄災は人を恐れない。
 爆風を切り裂く指揮官型ダモクレスに、目立つ傷は一つもなかった。

●決死の攻防戦
「そんな……!」
 アーニャの驚愕を待たず、ダモクレスの四腕が滑らかに伸びる。
 左副腕が身を引く彼女を跳ね飛ばし、右副腕はカジミェシュと盾同士に相討ち、連打。
「パワーが上がっていく……ッ!」
 一撃で崩し、二撃で弾く。三撃目には必殺の刃。
「TACTICS DECISION……COVER」
「ベータ回路か? ……真価には届かぬようだが」
 庇い立ったマークの『重力装甲』が大剣を受けるのに、ディザスター・キングは背中の剣を抜いた。大剣と組み合い、生まれる合体剣。
「GRAVITY FIELD……DOWN……」
 圧力が一気に増し、不可視の盾が切り裂かれた。
「そちらも破剣か……厄介だね!」
 マークが両断される寸前、姶玖亜は『セレスティアル・ベル』を抜き撃ちディザスター・キングを連打する。それに刻まれた鐘のような音と共に、合体剣が弾けとぶ。まさに間一髪。
「CONDITION YELLOW……THANKS」
「これが、指揮官型ダモクレスの……!」
 修理ドローンを放つ彼方は、その惨状に息をのむ。胴体を袈裟切りに裂かれ、防盾『HW-13S』は完全に破壊されている。グラビティの守りがあってなお、これか。
 破壊の視線は後衛へと向けられた。彼方のウイングキャット『ビャッコ』の放つキャットリングがあっけなく跳ね返され、刃が迫る。
「やられ……っ」
「飲まれてはいけません、秋空さん。人に厄災は止められなくても、受け流す知恵は、負けません」
 少年の震える心をロジオンの声が呼び戻す。お世辞にも勇壮とはいいがたい調子、それは彼自身を鼓舞するものでもあったのかもしれない。
「宿る血の滾り、破れや破れ!」
 詠唱に獣化した獅子の腕が乱舞する四腕をかいくぐり、関節へと喰らいつく。今まさに庇った桜を引き裂かんとするダモクレスの剣を止め、その勢いを殺そうと咆える。
「よくいった。存分に抗うがいい」
 目論見は半分まで至り、半分は届かない。堂々たる宣言と共にディザスター・キングの剣は拳を押しのけた。マインドシールドを突き破り、肉体へと到達し……。
「ならば加勢する! 飛べよ我が腕! Raging Fistぉぉぉぉぉ!」
「感謝します……ノラ……!」
 ウイングキャット『ノラ』の清浄の翼が起こす風、跳ね飛ばされたジョルディが咄嗟放った空飛ぶ鉄拳、全てを助けに、鮮血に口を染めながらも桜は剣を引き抜いた。

●奇跡、起こらず
「厳しい、ですね……」
 惨状に彼方は呟く。実際、ケルベロスたちはよく耐えていた。本来であれば二十人以上が集中して勝ちの目がようやく見える強敵へ、三分の一程度の戦力で戦い続けているのだ。
 傷のない者はおらず、誰もがいつ倒れてもおかしくない惨状が、少年の胸を締め付ける。
「それでも絶対に……! 皆で生きて帰るんだ!」
 何度目かと張り直すマインドシールドにも限界を超えたケルベロスたちを癒すことはできない。それでも気力だけでも、彼方は声をあげて立ち向かう。
「非論理的だが、その爆発力は過去より重々承知している。地球人、ケルベロス」
 嘲笑うでなく、戸惑う出なく、ディザスター・キングはただ暴力で応じた。懸架された四本の長剣が矢弾のように放たれる。
「お前たちの同胞は我が配下が抑えた。もはや勝ちはない」
「そううまくはいかない、か……世話ないね。カウボーイが狩られる側じゃ」
 姶玖亜はぼやきながら速射を続ける。だが防げないだろう。
 ディザスター・キングの戦い方はわかりやすく、傲慢なほどに正攻法だ。四剣で蹂躙し、必殺の大剣。反撃がくれば受けながら下がり、身を立て直す。
 ただ、その全てを圧倒的な基礎スペックが支えている。
「攻撃が……貫けない……!」
 アーニャが連射するフォートレスキャノンも大盾に弾かれる。無慈悲な刃が艶やかな肢体を貫通し、背へと突き抜けて、投げ捨てられる。
「CONDITION RED……DANGER……DANGER」
 後衛へと割り込んだマークの身体へ剣が突き立つ。三本、四本……火花を上げ、重厚なボディが倒れていく。
「マーク! アーニャ……この!」
 早々に癒しを使い切り、それでも速射と熾炎業炎砲で掃射する姶玖亜。わずかにディザスター・キングの勢いは削がれるが、それも必然の死をわずかに伸ばすのがせいぜい。
「お兄さま……私たちの手は……届いて……ッ」
 ボハテルのを一蹴し、カジミェシュを狙う大剣へ咄嗟、身を挺して受けた桜から鮮血が飛ぶ。桜のく薄紅色のオーラを切り裂く一閃。生還を誓う『Grimm・coat』が血に染まる。
「さくッ……ボハテルッ!」
 去る事なき厄災は仲間を呼ぶことさえさせず、蹂躙する。身を挺しカジミェシュを逃すボハテル、それでも止まらぬディザスター・キングの踏み込みが彼を跳ねのけ、白貂の外套を血で染める。
「それでも……我が嘴、貴様を破断するまでは!」
「ならば、砕けるがいい」
 不退転を叫ぶジョルディの叫びをかき消し、振るわれる大剣。『Raven Shroud【Mk-91.Re】』の頭部装甲が砕ける。
 かつて奪われた顔に代わる地獄が、血のように吹き上がり揺らめいた。

●不死鳥は諦めない
「もはやこれまで……カジミェシュさん」
「……承知……後詰は任された」
 戦場を見渡すロジオンの呼びかけに、カジミェシュは迷わず答えて踏み出した。選択肢はない、飛び出さなければ彼方たちメディックが食らいつかれてしまう。
 劣勢は既に自分たちだけではない。アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)たちビショップに向かった仲間たちも壊滅寸前、影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)たちの班もメタルガールソルジャー・タイプGを攻めあぐねている。
「この場は限界だ、撤退を!」
「そう許すと思ったか!」
 迫る四剣と大剣の連撃に、カジミェシュは砕けた盾を迷わず投げた。致命的な一打だけを見極め『Sloj 【朧紅月】』で受け流す。
「まだ命には届かんぞ! 夕陽を翔ける白鷲よ、いま一度の加護を我が身に!」
 打ち上げる余裕もなく、叩きつけるように放たれた信号弾が黄色の輝きを放つ。だが、この距離なら十分のはずだ。後はこの、祖国に誓う不撓不屈の心がどれだけ持ってくれるかだが……。
「カジミェシュさんも、早く!」
「すまん……だが」
 彼方の『轟竜砲』が目くらましにはなったバイオガスを拡散、撤退する仲間たちを援護する。だがそれあってなお、カジミェシュはディザスター・キングより離れられずにいた。
「道を開きました。こちらへ、早く!」
 森に道を開いたロジオンは、自身もアーニャたち傷ついた仲間を背負い呼ぶ。だが手が、圧倒的に手が足りない。
 退路の先にもダモクレス。そして背後にはディザスター・キングの猛攻。カジミェシュが倒れた時が、自分たちの最後の時。
 その絶体絶命で、待たせたなと声が聞こえた。
「背中は俺たちがあずかる」
 すまんな、とあらわれたディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)の悔しさがにじむ声。だがロジオンたちにそれは希望の声だった。
「いえ……十分、助かりましたよ」
 ジョルディたちを任せ、ロジオンはディザスター・キングへと再び向き直る。
「食いちぎんぞオラァ!」
 苛立ちを力に変えた伏見・万(万獣の檻・e02075)のケルベロス・チェインが敵を止め、道を開いてくれる。
「感謝するよ! ……問題は!」
 ガンナースタイルのホルスターに銃を納め、マークを引っ張る姶玖亜の前にはディザスター・キング。カジミェシュはよく耐えた。
 ただ、傷ついた一人のケルベロスが持ち堪えきるには敵はあまりに強大に過ぎた。
「私も覚悟の決め時かね……」
 圧力に声が漏れる。まだ動ける自分なら、一人か、二人逃す時間くらいは。
「いけません……」
 遮った声は予想外の方向からだった。
「桜……ちょっと……!?」
「イカン……それは……!」
 姶玖亜、それに戦闘システムを強制停止させられたマークの戸惑いの声が重なった。
 その覚悟はマークにもあった。ただタイミングを明確に定めていた彼女の方が幾分か早かった。
「約束、申し訳ありません」
 桜の薄紅色の闘気が闇へと染まり、黒炎と化す。白百合の花を揺らめかせ、幽鬼のように少女は駆ける。
「状況分析……暴走……その力は危険だ」
「ありがとう。そうでなくては困りますから」
 大剣を跳ねのける黒炎の障壁。謡う『鬼哭啾啾』がディザスター・キングを揺るがす。
「桜さん……桜さーん!?」
 彼方の叫びをも飲み込む黒炎。小さな輝きを残し、少女の姿は消えていった。

「……生きて帰る事が一番大事ですよ」
 敗走する一行のなか、暴走した仲間たちの背に生明・穣(月草之青・e00256)がぽつりとつぶやく。
 わかってはいる、わかってはいても……カジミェシュはただ、目前の樹へと拳を叩きつけた。
「戦いはこの一戦で終わりではありません……進みましょう。我ら祖国の英霊たちに倣って」
 ロジオンは言う。国は違えど、それで通じた。
 彼の騎士の母国は、四度にわたり潰えた。ロジオンの祖国も、王が消えうせるほどの危機に都度都度さらされてきた。
 それでも人々は生き延び、希望を繋ぎ、最後には勝利を手にしてきた。彼らだけではないだろう。恐らくここにいる全員……人類にさえもそれはあてはまる話。
「我らは決して滅びはしない……」
「……キミの国の歌だったね、それは」
 引用した一説に姶玖亜は短く言う。
 過去の歴史のように、敗北はなるべくしての敗北だった。いや、三班全員が捨て身でディザスター・キングに向かえばあるいは……だがそれをすれば、今ここに立っているケルベロスは更に少なく、二度と帰らぬ身となっていた可能性すらある。
「ビショップは倒せた。配下たちも、少なからず……」
「そうさ。そしてボクらはまだ生きている。最後まで立ち続ければ、ボクらの勝ちだ」
 自分を納得させるような彼方の声を、姶玖亜は頷いて肯定してやる。
 そうだ。戦える限り、まだ負けではない。
「必ず持ち帰るぞ、勝利を」
 叩きつけた拳のなか、カジミェシュは手にした『Sztylet』を強く握りしめた。

作者:のずみりん 重傷:ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466) アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895) マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) 
死亡:なし
暴走:祝部・桜(玉依姫・e26894) 
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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